第19話 SEIKIN × BUNZIN


僕らは、新たな物語を自覚する。


これから、別のバトルを視ることになるのだろうと理解していた。

己が夢の中心にあるのだという、漠然とした実感がある。

それは、周囲の状況から察せられることだった。


そう、周囲。

僕らの周りに瞬いている幾つもの星々。

その一つ一つが、今夜同じく夢を見ている人たちの意識なんだというのが分かっていた。


物語の進行と比例する形で、その光を増していく星の数々。

ある種の期待と不安に包まれているのは容易に分かった。

なぜなら、僕も同じだから。


この夢を見たいという気持ちと、見てはいけないんじゃないかという気持ちが、等しく心の中でせめぎあっている。


だが、しかし僕を含め、観客というのは貪欲だ。

だからこそ見たいと願う、想像する。


仮に、もしも、たとえば、それとも、僕なら俺なら私なら―――

見たい、見せろ、いいや、やめろ、夢が壊れる。

見たいけど見たくない、だけど指の隙間から覗いてしまうのを止められない。



こうして僕らは、妄想に耽りながら夢を見るのだ―――。




テテーン!




敵だ、敵か、何かが来た。

餌だ、餌か、肉があるかな、食べられるかも。

お腹がペコペコペコリーヌと鳴っているから、飢えを早く満たさなければ。

さぁ、狩りを始めよう!


テテーン!


獲物だ! 獲物だ! 獲物のにおいだ!

柔い肉を喰い尽くそう、溢れる血を飲み干そう、腸や目玉も残さない。

誰もここから逃がさない♪

そう、狩るのはわたし♪ 獲物はおまえら♪

狩りだ! 狩りだ! 狩りの時間だぁ♪



テテーン!




―――ははっ!


因果? 理屈? 人格? 善悪?

好きなように妄想すべ。

どうする? どうなる? 死ぬか? 生きるか?

いいや、殺してしまおうか?

俺らが求める物語、より面白く劇的なものとして演出するには、悲劇も必須のスパイスだろう。


だから、なあ、おまえちょっと踊ってくれよ。

どんな声で鳴くのか見たい。


その決定権は作者おれらにある。

お前が死のうが泣き喚こうが、こっちは知ったことじゃないんだよ。


しょせんは玩具、人形、夢物語。

娯楽だよ、楽しませてくれ、得意だろう?

オリジナルに感じた不満と疑問を、解消するためにもしもイフが知りたい。



俺たちの多くが―――それを夢見て願っているのだと理解しろ。



相応しい舞台と演者。

それが揃ってこその物語。

どれだけ無茶な理屈であろうと強引に、絶対に。



フリー(躁)「任せるぽよぉ(*´ω`*) お前ら奇形児が望んだ妄想劇を、私が自由フリーに再現してやるぽよぉ(*´ω`*)v」




それが―――作者おれらの特権というものなのだから。




フリー(躁)「  演  舞えんぶ ┗┐<(*´ω`*)>┌┛ 開  園かいえん  」












―――第19話 SEIKIN × BUNZIN 










―――開園空間『第二開園領域内』



スノーれいか「ここは、王の間・・・?」


真中あぁあ「なんだか嫌な予感がするよ・・・。」



二人が飛ばされた座標は、馴染み深い宮殿内の王の間だった。

しかし明らかに空気が違う。



―――



これから起こることに期待して、その結末を見せてくれと胸を高鳴らせている視線。

妄想という念が槍のように、四方八方からスノーれいか達へと、その矛先が向けられていた。



真中あぁあ「な、なるほどぉ。まあこれも、人気者の定めかなぁ~。一応、私を選んだ目の高さは褒めてあげるよ~。これからのライブを、せいぜいよだれを垂らしながら見てみてね~。」



状況の危険さを無視するように、真中あぁあはあえて軽口を放った。

それに喝采、罵声、ありとあらゆる感想が返信されてくるのを二人は体感する。



スノーれいか「ここはそういう空間ですか。演舞開園の二段階目・・・なんて悪趣味な。あなた方のお気に召すような落ちがつくと思わないことですね。」



そのすべてに涼しい顔で応じながらも、本音のところでスノーれいかは深く怒っていた。

激昂寸前とさえ言っていい。

赤の他人に命を握られるという理不尽さに、めまいを覚えるほど腹が立っている。



スノーれいか「私はあなた方のオモチャではありません。一個の人格で、心があり、自負も拘りも持っています。自分の人生を描いています。それを勝手に、単なる好奇心や思い込みで歪めようとするとは笑止千万。」



―――妄想体が偉そうに語ってんじゃねぇ!



スノーれいか「(・・・妄想体?)」


真中あぁあ「ライブのテーマはずばり! この私、真中あぁあ! 私をしっかり見てくれる人たちだけ、対等に会話してあげるっ!」


スノーれいか「(この子・・・本当にブレないわね。)」


再び沸騰するギャラリーの反応に、二人は気丈な態度を崩さない。

観客の思い通りにならないという宣誓だ。

舞台の中心で、主役を担う立場の一角ではあるだろうが、いわゆる操り人形とは違うのだ。


駒の如く配置を弄られたりはするけれど、そこで何を思いどう動くかの決定権は演者にある。

例え、世界中に望まれた妄想であっても、その矜持を手放してはいけない。



その時だ―――大地が、小刻みの揺れを刻んだのは。



スノーれいか「え・・・?」


最初は小さく、小さく・・・けれど徐々に、着実に。

秒刻みで肥大化していく、戦慄を呼び覚ます地の鼓動。


そこに凝縮する無数の想いが、願われた夢の形を徐々に顕象させていく。


スノーれいか「まさか―――。」





スノーれいか「嘘でしょう・・・? どうして、こんなっ!?」


真中あぁあ「ほえ?」



願い虚しく、そのまさか。



を、いまさら見間違えるはずもなく。



No.6 BUNZIN「ぎゃァァぎゃっぎゃっぎゃっぎゃァァァ―――!!」



そして、激震と共に実像が紡ぎあがる。


BUNZIN、再来―――。



手始めとばかりに王の間を粉砕し、微塵の衰えもなく破壊の嵐を振りまいた。

初対面の真中あぁあと、対戦済みのスノーれいかは揃って戦慄する。



No.6 BUNZIN「どぉーもー! ちょっと進化した獰猛BUNZIN、完全復活でぇーす!! あーッきゃっきゃっきゃっ!!」



深紅に染まった戦装束。

滴り落ちるよだれ。

地獄の太陽めいた禍々しさの眼光。

抜け落ちた前歯に、サラサラの短髪。

そこまでは以前と同じだったが、どう見ても変貌している箇所が二つあった。



一つは、



そしてもう一つは、



ここに顕れるは、そういう強化を望まれて生み直された悪夢。

全身に血管を浮き上がらせた人型モンスター。

かつてBUNZINと呼ばれていた、極めて直線的な脅威としての形だった。



No.6 BUNZIN「オオオォォォォォォオオオォォオ!!! ドォォーモオオ!!!」



魔獣の咆哮めいた雄叫びが迸る。

それだけで吹き飛ばされそうになる破壊の圧力は凄まじく、彼を中心に蜘蛛の巣状の亀裂が刻まれた。


真中あぁあ「お、およよよよよ;; なんかすげー奴きちゃったよぉぉぉ;;」


そこから察せられる事実は単純明快。

『このBUNZIN』に求められた役割に、何ら変化球的なものはないということ。


ただ強く、ひたすら無尽に大暴れしろ。

理性などぶっ飛ばし、乙女共を暴虐するお前が見てみたい。

そういった意思の塊が、この戦場を取り囲んでいる。


スノーれいか「くっ―――そういうことですかっ!」


故に、これは由々しき事態であった。

災禍の存在と対峙する二人が危険だからというだけの意味ではない。



スノーれいか「? 気楽に言ってくれますねっ。」



それは、ギャラリーの目線から言えばリターンマッチなのだ。

わざわざそんなものが求められたのは、結末に疑問があったか、不満があったか、もしくは単に名勝負の再現を望むという思考なのか。


―――きっと全てが正解なのだろう。


どれだけの人間がこれを願ったのかは不明だが、総意として夢のベクトルがバイオレンスにあるのは間違いなかった。

その意味するところを、夢見る観客たちは自覚していない。

他人事で、嘘っぱちで、娯楽の一部として楽しんでいるだけなのだから。



―――こうして演舞は開園する。

第二幕としての能力を存分に発揮して。



スノーれいか「仔細は分かりませんが、見世物になる気はありません。早々に片づけさせて頂きます。」


銀髪の妖精が宙を舞う。


No.6 BUNZIN「スノー・・・酢の物が食べたいっスノー!!」


テテーン!


信者たちの夢を乗せ、BUNZINも自らの役を果たすべく動き始める。

さぁ見るがいい、これがお前たちの願った結果だ。

喰い殺してやるぞ。



そう願われ、妄想され、



No.6 BUNZIN「スノー、まさか勝てると思ってはいないだろうな。生憎と、誰もそんなことは望んでないぞ。ぶふぅーー!」



BUNZINの口から、発泡スチロールが噴射される。

触れれば終わりの極悪兵器。

スノーれいかには見覚えのある技だったが、別の衝撃でそれどころではなかった。



スノーれいか「なっ!? !? ————くっ! 真中あぁあさん、避けて下さいっ!」



BUNZINの言葉使いが、人間のソレになっていたのだ。



真中あぁあ「おおっと! 発泡スチロール?? だから何だぷり! アイドルにはアンチの十人百人千人万人、騒いでいるからといってそれがどうした! 神アイドルはそんなことで凹まないっ! そうっ! 神アイドルはこの私、真中あぁあ!」


流石の小学生神アイドルと言うべきなのか、軽やかなステップで発泡スチロールを避けていく真中あぁあ。


スノーれいか「ま、真中あぁあさん・・・。」


場違いな喝破を返す真中あぁあを見て、スノーれいかは冷静さを取り戻す。

頬が緩みかけたが、すぐに表情を引き締めた。

今回ばかりは、彼女の変なテンションに救われた形となる。


スノーれいか「(彼は人間に戻ったということでしょうか? いえ、そう考えるのは危険ですね。しっかりしましょう。私は一度、彼を地獄に送った。こんな再会は、彼の方も望んでいないはず。)」


揺らいだ決意を再結合させ、スノーれいかは再び武器を構える。


スノーれいか「確かに私は願いました。『もう一度会う時は人間として』、そう願ったのは事実です。それがこの舞台を生み出した原因となるのなら、やることは一つ。今度こそあなたを斃します。真中あぁあさんという、可愛い部下を守るためにも。そしてBUNZINさん。華やかに散ったあなたの名誉を守るためにも。特殊保護部隊、総隊長。スノーれいか・・・参ります。」


真中あぁあ「か、かたじけねぇスノーれいか様ぁ;; お、おらぁ嬉しくて涙が出るべぇよぉぉ;; ・・・そういうことだから覚悟するぷりよ! 特殊保護部隊の中で、一番かわいい神アイドルにしてメイドコーデ! 真中あぁあが相手になってあげる! 握手券を賭けて勝負だよっブサメンちゃん!」



不屈の闘志を叫びに乗せて、今こそ開戦の火蓋が切られた。



No.6 BUNZIN「———ぁは♬」



しかし、彼女らはまだ分かっていない。














―――宮殿内 王の間



~少女視点~



No.10セイキン「ッッ!!!」



開口一番、告げられた意味の分からない言葉が開戦の火蓋を切った。

私の全身に悪寒が走り抜け、次の瞬間には勢いよくその場を駆け出していく。



No.10セイキン「それっとぉ! ―――『伸縮麺UDON』!!」



飛び出してきたうどん柄の帯を避けながら、側面の壁に着地する。

そこから次へ、また次へと、猛攻に怯まず敵への最短ルートを進んでいく。



「・・・な、この溢れてくる負のエネルギーはなんなのだ・。・!?」


少女は驚きを隠せない。





No.10セイキン「あはははっ、見えますかぁ? やっぱり鬱霊には見えちゃいますかぁ!?」


景色から浮き彫りになっている白のスーツとは逆に、闇よりも暗い凶兆がセイキンの身体から滲み出ていた。

一言で言えば、邪悪。

直視するだけで頭がおかしくなりそうになる。


「見えたのだ・。・; この気配には覚えがあるなの・。・!」


負のエネルギーを吸収し、己の力に還元する力を持つ少女だからこそ。

セイキンに殺された負の怨念が。

彼に異能を奪われた人物たちの背景が。


セイキンの異能―――その正体に見当がついた。


「お前、隠れ家の人たちを大勢殺したなのね・。・!? 今、お前が使っている異能は、その人達を殺して奪い取った力なのだ・。・!」


No.10セイキン「その通り、私の集積した道具どもなわけでして!」


こいつは―――想像以上に最低で、とてつもなく凶悪な人間だ。

少女はその認識が確だと断じていく。




セイキンの異能『才気奪略ライフシーフ

現実世界で、他人の誇りを奪い続けた故に発現した異能。


その名の通り、


発動条件は、手を対象に触れるだけ。

物理的なものに限らず、対象が積み重ねてきた努力や才能、下手をすれば心や人生さえ抉り獲得することが可能。

何かを奪われた人物は、程度の差によって老化現象が引き起こる。


この異能の恐ろしいところは、奪える数に制限は無いということ。

どれだけ他人の異能を盗もうが、許容量なんてものは存在しない。

いくらでも、他人の誇りを奪いにいけるのだ。


即ち、他人の強さを奪うという、能力としては単純なもの。

それだけに脅威度は凄まじい。


かつてセイキンは、様々なパクり企画でその本性を現していた。

ただ道具、自分のもの。

お前らは俺の為に生まれたのだから俺が使って何が悪いと、破綻者の思考回路で完結している。

そんな盗品王に相応しい力として顕象したのが、この異能なのだろう。





No.10セイキン「私にとってお前は道具に過ぎないわけですけれども! 黒焔が欲しい、奪いたいッ、私が使って楽しみたいッ! あぁ~楽しみですねぇえッ!! また私に出来ることが一つ増えてしまう!」


吐き気を催すおぞましさは、今もより強く眼光を尖らせている。


「くっ・。・!」


腹立たしくて、同時にとても悲しくなる。

殺された人たちの無念を黒焔に還元していく度に、やるせない気持ちになる。


「仇は取るなの・。・ こんな、借り物の力に頼ってる情けない奴に負けないのだ・。・!」


一秒の内に最低七度、多くて二十のうどん攻撃。

放たれる暴力を撃墜しながら、その威力に怯むことなく次の打撃へと繋ぐ。

少女の連撃と、セイキンの猛攻は拮抗していた。


No.10セイキン「情けないですと? あの女にも似たようなことを言われましたねぇ!」


セイキンが恨めしそうに、しかし上機嫌でふぁっきゅーれいかを盗み見る。



『己を己たらしめているオリジナルが欠片もない。人のふんどしで相撲を取ってるだけね。』


『オリジナリティ云々よりも、他人が磨き抜いてきたものに敬意を持たないというのが信じられない。賞賛されるべきは、あくまでそれを練磨してきた人たちでしょ?』


『何て我儘、中身が零ねあなた。ようつべが無くなったら、後には虚無しか残らないんじゃないの?』


No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・ふん。事実でしょうに。」


「・・・ふぁっきゅーちゃんらしい、切れ味のある言葉なのだ・。・」


セイキンに感じた印象は私も全く同じ、こいつは駄目だというのに尽きる。

壊滅的に終わっている人間性は、きっと一度や二度死んだくらいじゃ直らないほど病み狂っているものだ。


No.10セイキン「くだらないですねぇ! お前らの方こそ、全くオリジナリティのない言い草なわけですけれども! 私の動画を見る人間は皆、そういった反応をする。健常者のお前らからすれば、どうも私は異端として見られているらしいですがッ! だからこそお前らは取りも直さず!」


目の前の男からは、反省の色も更生の余地も全く見えないのだから。


No.10セイキン「それは希少種に対する生物の本能! 未知の製品、未知の体験、未知のエンターテイメント! それらを解析し、理屈を理解して安息を得ようとお前らは目論む! 人類というのはですね、未知を駆逐することで霊長類の王となった! 何もおかしなことではないわけでして!」


「それで人を殺して奪い取るのは平常だと・・・ふざけるのも大概にするのだ・。・!」


No.10セイキン「理解できないでしょう? 知りたくてたまらないでしょう? そして私は知っている! だからこそ、教えてやるんだよ私の動画でッ! 私が仕入れた道具共で、お前らに披露してやるのさぁあああッ!!」



言い放ち、己を讃えるように両手を広げて、



「うどんが・・・部屋中を覆いつくしているなの・。・!?」


どうやら、他のU2部隊はこの事態を予測し、全員避難していたようだ。

私とセイキンの二人だけが、そのうどん結界に囲まれていく。


滑稽な人形を眺めるように、傲慢不遜で変わらぬ顔を向けながら、セイキンは朗々と言葉を紡ぎ始める。



No.10セイキン「―――『伸縮麺UDON』! !」



室内は瞬く間に、うどんの領域へと塗り替えられる。

隙間なく覆われた帯はセイキンの手足も同様であり、文字通り少女の挙動は彼の掌に握られている。


「うどんと真面目に戦う状況を考えることになるとは思わなかったのだ・。・;」


見た目に反して、これはかなり凶悪だ。

意外にもと言うのは、前使用者に対して非礼に当たるだろう。




ひこちゃんの異能『伸縮麺UDON


セイキンがひこちゃんを殺して奪い取った異能。

その能力は、身体からうどん柄の帯を創形出来るという一点のみ。

厄介なのは、その帯の質である。


第一に射程の長さ。

直線距離にして13km以上伸びるそれは、

広大な王の間を一瞬にして包み込むその伸縮速度は、決して舐めてはいけない。

救いはさほど複雑な動きをしないことだが、全てに目や耳が付いていると言っていい。

そんなものを常に八方へ張り巡らせた制圧力に対し、隙を見つけることは不可能。


そして第二の強み。

帯という特性上、物理的に粉砕できる物でもない。

重さは粉うどんの如く、薄紙同然で、風に舞ってひらひらと浮遊している。

故に打撃は言うまでもなく、斬撃で切り払うことも不可能。

何故なら、薄いと同時に脆くもなく、高度な靭性を有しているからだ。


うどんが好きで好きでたまらないひこちゃんだからこそ、発現した異能と言える。




No.10セイキン「この道具は本来、こうして利用するのが正しいのです! どうです? 私の方がオリジナルより上手く扱えているでしょう?!」



「上等なのだァッ!・。・!」


少女はすぐさま、黒焔を身体全体から放出させる。

地下に穴を開けて退避する手もあったが、そんな時間は存在しない。

秒という速さで、13kmにも及ぶ超質量のうどんが少女を縛り上げんと脈動する。


「う、うぬあああぁあああぁあああぁあッ!・。・!」


やはり、13kmという数字は伊達ではない。

完全延焼が間に合わず、速攻でうどんに捕獲された私はそれでもなお火力を緩めない。

火力と同時に、帯を引き千切らんとする。


No.10セイキン「おぉーっ! 中々危険なことをしますねぇ! 確かにその瞬間なら、外圧に内圧で対抗できる! いいですねぇその気迫! それも欲しくなってきましたよぉ!」


「うぬぎぎぎぎぎぎぎ!・。・!」


言うなればこれは力勝負、しかし自信があった。

元々、黒焔の放出技なんてもの・・・全然制御できない博打技なのだ。

これだけ至近距離に対象がいれば、私の黒焔に負ける要素は見当たらないッ!


「これが最大熱量なのだぁあああああぁああぁあぁあぁッ!・。・!」


その闇は、触れるものを最後まで燃やし尽くす。

気がつくと、見覚えのある景色に戻っていた。

感じ取れていた負のエネルギーが、満足そうに消えていくのを感じる。



―――完全に、完璧に、うどん結界を燃やし尽くすことに成功したのだ。



「うどんの人・・・安らかに眠るのだ・。・」


言いながら、周囲の状況を精査する余裕は忘れない。


彼は未だ、そこにいた。



No.10セイキン「やっぱりこの道具、見た目通りで雑魚かったですねぇ! うどん型の布団動画と同じくらいには活躍してほしかったくらいですがっ!」



―――セイキンの手には、馬鹿でかいが握られていた。



No.10セイキン「———『命中衛星ゲットサテライト』」



飛来したその弾丸は、完全に想定の埒外と思われた。


は必殺の死角を満たしている。


「なっ・。・!? 今、確かに後ろから弾が―――」


銃声に反射する形で、横に飛び去っていたことが幸運だった。

虚を衝かれたのは否めなかったが、このまま撃ち取られる訳にはいかない。


「また別の異能・・・なんだか田中みこさんを思い出すのだ・。・!」


全身を投げ出すように転がって回避し、私は王の間全体を駆け巡る。

とにかく立ち止まっていてはいけなかった。


No.10セイキン「いいですよぉ~! 逃げ回って逃げ回って踊ってください! 分かってますか? 私はまだ一度もこの場を動いていないわけでして!」


瞬間、まさしく四方八方から弾丸が出現した。


―――それは、たった一人の射手による十字砲火。




どんぺいの異能『命中衛星ゲットサテライト


セイキンがどんぺいを殺して奪い取った異能。

その効力は、自転車ほどの大きさをもつ魔導ライフルを具現化するというもの。

使用する際、術者はその場を動けない。



この狙撃に対して、射線や遮蔽物という概念は通用しない。

好きな場所に弾丸を顕現させ、なおかつ遮蔽物をすり抜けてしまう。

その気になれば、天井から壁越しで垂直に撃ち抜く真似も可能。


芋スナを殲滅したいと、どんぺいが強く願った故に生まれた異能と言える。




銃口はこちらに向いていないというのに、常に、一方的に捕捉されている。

それに加えて弾幕の展開に容赦がない。

長引けば長引くほど、何かの拍子に被弾してしまう事も大いに有り得るというわけだ。


「私の拳で銃弾を跳ね返すことは・・・いや、現実味が無いなの・。・;」


かつてキリトさんから聞いていた武勇伝を思い出していき、銃相手への応戦パターンを思案していく。

頭と共に体も動かさなければ、速攻で蜂の巣の運命になることも忘れてはいけない。


そしておそらく―――



も、忘れてはいけない。



彼に殺された負の魂―――それは一つや二つどころでは無いのだから。













―――開園空間『第二開園領域内』



No.6 BUNZIN「オオオォォォ――――!!!」



振り下ろされた爪の一撃は、超威力の破壊となって無人の宮殿を震撼させる。


開園の舞台となった王の間は既に凄惨たる有様で、そこでの不利を悟ったスノーれいか達は戦場を一階エントランスに移していた。

その選択はまったく意味のないものであったとしても。



No.6 BUNZIN「学ばないなぁスノー。屋内では俺のほうが一枚上手だ。」


こいつは疾い―――何処であろうと関係なく、百獣の王の如く。



スノーれいか「開けた場所ではトップスピードが手に負えないですねっ。真中あぁあさん、速さで勝とうと思ってはいけません、敵は遥かに上手ですっ!」


真中あぁあ「ありゃま~。私も速さには自信あったんだけどなぁ。縦横無尽の蜘蛛みたいで、三次元的な動きに予測がつかないよ~。これはもうね、参りました!w」


諦めモードに入った真中あぁあを担ぎながら、スノーれいかは必死に超獣の猛攻を避けていく。



No.6 BUNZIN「アアアアアアああははははははははは―――!!」


―――今のBUNZINは、



けたたましい超音波の轟咆で、音速の破壊が撒き散らされる。

顔が三つのケルベロスなのだから、威力も三倍。

間合いの概念は消滅し、瞬き一つのミスであっても、即座に首が飛んでしまう高密度の死が二人を襲う。



No.6 BUNZIN「どうしたどうした? 貴様、。何を初見のように狼狽えている。まさか忘れてしまったわけじゃあるまい。皆が退屈しているぞ。過去と同じ事を繰り返して、誰が満足するというのだ馬鹿め。」


スノーれいか「うッ・・・言われずともっ!」


迫る鉤爪を凍らせ抉り飛ばす一閃。

スノーれいかは錫杖を振るい、結晶の檻を構築していく。


No.6 BUNZIN「がッ、ぐぅゥゥ―――」


真中あぁあ「腕を切り落とされたのにっ、駄目だ隊長! 瞬時に再生しちゃう!」



スノーれいか「知っています。———『境界礼ボーダーマナー』!」



初戦の時と同じく、不可視の檻がBUNZINを縛り、閉じ込める。



―――獣はあちらで、人界はこちら。

―――獣は人界に来るんじゃない。



法を強制する論理の具現。

野蛮で獰猛な超獣に、乱交など許さない。


No.6 BUNZIN「ふふ、はははは! いいぞ貴様ッ、ようやくらしくなってきた!」


力任せにの強引さで、血飛沫と共に四肢を千切られながらも。

その魔獣は檻を突破せんと暴走する。



スノーれいか「終わりです―――水晶の陣!」



No.6 BUNZIN「ッ??! ガぁアッ!!? ———グッ、オオオォォッ。」



ここに、線引きは完了する。

嵌れば必殺。

効く効かないの話ではなく、これで終わりなのだ。

いくらBUNZINが超常的な進化を得ようと、境界の線引きだけは覆せない。


真中あぁあ「・・・やった?」


No.6 BUNZIN「ォォォ・・・―――。」


脱出不可能、防御不可能な断罪刃。

人外の者は、この刃を前に消滅するのみ。



スノーれいか「・・・終わりましたね。二度言うのもおかしな話ですが、安らかに眠ってください・・・。」



BUNZINの完全消滅を見届ける彼女たち。

ともあれこれで、開園空間とやは解除されるはず・・・。




―――そのはずだったが。




No.6 BUNZIN「おい。」



ひどく、ひどく興ざめしたような声を漏らして。



No.6 BUNZIN「馬鹿かお前は。己がどういう生き物かすら忘れたのかよ。」



ガラスのように砕ける檻の欠片を纏いながら、スノーれいかのすぐ眼前にまで迫っていた。


スノーれいか「———そんなっ?!」


無効? 失敗? どういうことだ?

必殺の一撃がこうまで外してしまう理由がそもそも分からない。



No.6 BUNZIN「つまらん。つまらん。。ああ、もういいぞお前、目障りだ消えろ。」



困惑に呆けるスノーれいかを侮蔑するように、死の鉤爪が落ちてくる。

それは首ごと頭を潰し、如何なる夢をもってしても再生不可能な致命の損傷を与えるものだ。

何故なら、まったく迷いがない。

慣れでも、感情による弾みでもなく、ごく当たり前に命を摘むという行為!


スノーれいか「———ッッ!!」


死線に凝縮された刹那の中、まだ戦いは終わっていないのだと理解して―――。



理解したけど。

ああそれは。

いいえどうして本当に?



真中あぁあ「スノーれいか様ぁ!!」



部下の咆哮に意識が覚醒する。

されど、回避が間に合うはずもなく―――。




No.6 BUNZIN「!?」



その時だった。



キリト「———スノーれいかッ!」



空間が割れる音と、老兵のイケボが響き渡る。

聞き覚えがある仲間の声に、彼女らはよもや聞き逃すはずがない。


―――キリト、颯爽と参戦。



No.6 BUNZIN「ガァッ?!」


結果はまさに間一髪。

鋼の爪が触れる寸前、キリトの二刀が腕ごとそれを斬り飛ばす。


スノーれいか「きゃあっ―――!」


それとほぼ同時に、舞台を楽しんでいた筈の観客たちから、物凄い質量のパッシングを受信する彼女たち。


『なんでそこでキリトが来んだよ!』『お前は前々回で活躍しただろうが、でしゃばって来るんじゃねぇ!』『男はいらねぇんだよ、女映せよ女をぉ!!』


真中あぁあ「あ、頭が割れそうぷりぃ~;;」


怒涛の意思エネルギーに翻弄されるスノーれいかと真中あぁあ。



しかしそれ以外の人物―――キリトとBUNZINだけが、敵だけを見ていた。



No.6 BUNZIN「ぐおおォォ、邪魔をするな貴様ァァァァァァッ!!」


キリト「やらせないッ!!」


そこから先は、事態を一変させる剣と獣の乱舞だった。



スノーれいかと戦っていたときはどこか遊んでいる感のあったBUNZINだが、ここではギアが三段階は上がっている。

速さも、力も、異形をフルに使った挙動、紛れもなく本気になったのが一目で分かる。


キリト「ストーカーの次は阿修羅が相手かよッ、とんだ働き者だぜ俺は!」


しかし、キリトはその全てに喰らいつく。

破壊の嵐に頭から飛び込んで、しかし揉み潰されずに流れを読んで切り抜ける。


真中あぁあ「ど、どういうこと・・・流石の神アイドルにも訳が分からないよ! どうしてキリトがここで来るの!?」


スノーれいか「まさか、外から開園空間に単騎侵入したとでも言うのですか!?」


しなやかに、それでいて滑らかな体捌き。

安眠ちゃんとの戦闘で、キリトが受けた傷はもちろん完治していない。

つまり大幅なハンデを負っていたキリトだったが、BUNZINの猛攻は彼女と比べ、振りが雑で大味すぎた。

故に超級の怪力を逆用し、鮮やかなカウンターで再び腕を斬り飛ばす。


キリト「やっぱあいつあんみんが変なだけだったんだな・・・遅いッ!」


そして当然であるかのように、そこで気を抜くことなどない。


No.6 BUNZIN「ド、ドォォォモォォォオオオオオオ!! ブフゥゥ――!!」


放たれた物理破壊をもたらす轟哮に、キリトは逆らわず身を潜らせる。


キリト「全方位音波の壁か――!」


本質的に音波であるということから、これは防ぐ躱すといった手段で切り抜けられる類ではないと、瞬間の迷いもなく見抜いていた。


No.6 BUNZIN「!!?」



神懸かった域の精妙さで、キリトは調



キリト「ふっ―――!」


そこから間合いを詰め、放たれた刺突は時間さえ止まったかのようだった。


No.6 BUNZIN「ぁッ。」


キリト「チェックメイト。」


眉間を貫かれたBUNZINは、呆けたように目を丸くする。



だが次の刹那には、



スノーれいか「手!?」


真中あぁあ「でっか!!」





キリト「くっ―――!?」


流石にキリトて予想外。

しかしにも関わらず、キリトは咄嗟の回避で直撃を避けている。



―――対峙する二人の勝負は、魔境と言って差し支えない領域に突入していた。



キリト「七本目の腕かよッ?」


一見すればキリトが優勢と言えるのだろうが、事態はそれほど甘くない。

今の攻防で、相当な損傷を負ったはずのBUNZINは、すでに完全な復元を遂げているからだ。


キリト「・・・斬っても無駄ってことか。恐るべし、規格外の耐久力と回復力。それに未だ全貌が見えない危険な技も持っている・・・。」


キリトはそれでも余裕を崩さない。

目の前のケルベロスに対し、キリトは思考を超越させて突破法を模索する。



回転し続ける三つ首の背後には、



まるでBUNZINを守るように。



喩えるなら群れ、軍勢、



この超獣は今もなお、進化し続けているのだ。



キリト「立てるか? 見る限り無事のようだが、間に合ってよかったよ。」


いつの間にか横に立ち、彼女たちに手を差し伸ばしているキリト。


スノーれいか「こんなにも傷ついた身体であなたは・・・。いいえ、まずはお礼ですね。お久しぶりです、キリトさん。そして本当に助かりました。」


真中あぁあ「おっはーキリト君! これからライブが始まるけど、キリト君も一緒にライブするー? するするー! りょうか~い! それじゃあ準備の方を始めちゃうけど、それはそれとしてキリト君はここにどうやって来たのー?」


彼女らは、最強の助っ人が来てくれた事実に驚きを隠せない。

それとは裏腹に周りの喧騒は止む気配が無く、舞台全体に拒絶の念が流れ込んできている。


キリト「宮殿入り口に謎の結界が張ってあったからな。そいつを斬って中に入ったら、何故かこの場所に出たというわけだ。・・・てか、さっきからうるせぇなこれ! 誰がお呼びじゃないって? どういう場所なんだ、騒がしすぎるぞテレパシーか!?」


スノーれいか「さ、さぁ。彼らはもっと別の場所にいるといいますか・・・。」


説明がめんどくさそうだったので、敢えて演舞開園の説明を省くスノーれいか。



No.6 BUNZIN「貴様その二刀、なるほど。創造主様とは別の理で作られた異能か。実に驚嘆だ。まさか、創造主様の空間へ強引に入り込むとは。」



死を孕む超獣が、饒舌さながら獲物達を見据える。

戦場は、宮殿の中から外へと移っていた。

度重なる破壊によって、完全に倒壊した宮殿から弾けだされるように。


スノーれいか「キリトさん。ここはいわば仮想空間です。元居た場所に戻るには、この超獣、U2部隊No.6 BUNZINを斃さなければいけないでしょう。」


キリト「BUNZINって・・・いよいよもって、あいつの関係者だな。いいぜ、俺も加勢する! 相手がケルベロスなら、こっちも三人がかりで攻めるぞッ!」


真中あぁあ「かしこまっ!」


No.6 BUNZIN「オオオオオオオォオォオオオォォォォ!!!」


広がる破壊の輪に対し、三人は即座に散らばった。

同じ場所に留まる愚行は犯さない。

スノーれいかは檻の展開、キリトは前線への突撃、真中あぁあはマイクを片手に飛び跳ねて。



真中あぁあ「トモチケBUNZIN! ―――『中央分離帯プリパラオールアイドルパーフェクトステージ』!」



ただ、その場の勢いとノリだけで、真中あぁあは異能を発動する。

仲間から見てすれば独断が過ぎる行為だが、タイミングとしては理に適っていた。



真中あぁあ「みんなー! 今日は来てくれてどうもありがとー! ゲストはスノーれいか様とキリト君! 三人でワンちゃんを逆レイプしちゃいまーす!」


軽口めいた調子も、決して状況を舐めているからではない。

誤解されやすいが、彼女は誰よりも努力家で優しい性格を持つ、一人の小学生にしてトップアイドルである。

豪胆な立ち振る舞いに見えて、実は計算尽くしの行動。



つまり彼女もまた―――死線を極めた強者なのだ。




真中あぁあの異能『中央分離帯プリパラオールアイドルパーフェクトステージ


術者が記憶している名前を元に『トモチケ』を具現化し、それを使用することで発動する異能。

トモチケに描かれた人物のいる場所へと、術者は強制的にワープする。


ワープ先での効果は以下の通り。

戦闘要素を往復の方向別に分離させ、その中央部にステージを生み出す事が可能。

そのステージに入った者は、マイクを片手に一曲歌うことを許可される。

歌の内容によって、ステージの装飾と人物の衣装が変化するのだ。

歌っている間のみ、ライブの衣装に合わせた様々なを発射できる。


なお、ステージの中盤には『メイキングドラマ』という特殊アクションが発動する。

術者本人にも想定外のライブ魔法が起きやすく、うまく活用すれば一発逆転のチャンスとなりえる。

ライブ魔法がどのような理屈で生み出されるのかは、真中あぁあ本人にすら分かっていない。




真中あぁあ「ちゃんちゃんちゃんちゃん、ちゃんちゃんちゃんちゃん、じゃーん、じゃじゃーん、じゃじゃんじゃんじゃんじゃん、じゃーん、じゃじゃーん、じゃじゃんじゃんじゃんじゃん、じゃーん、張り手っ! かき分けて行くネヴァギヴァ! やり手っ! オシャレならば負けなぁいわぁ! ピカソォ! 色はココローと芸術のくぉとばァー!」



きっと彼女は、どこまでも大真面目かつ誠心込めてこの場に立っているのだろうが、どうしてもふざけているようにしか思えない。

そのまま真中あぁあは、血沸き肉踊る系統の歌を丸ごと一曲、アカペラで歌い始めた。



真中あぁあ「でぇんでんでぇんでんでんでん、でぇんでんでぇんでんでんでん、でぇんでんでぇんでんでんでん、でぇんでんでぇんでんでんでん―――」



そのまま歌と共に、次々と魔法攻撃の放出を続けていく真中あぁあ。



キリト「特殊保護部隊・・・スノーれいかめ、いい教育をしているじゃないか! あのアイドル、見た目に反していい仕事してるぜッ!」



要所で入る真中あぁあの魔法攻撃が、BUNZINの意識を散らすという面において非常に重きを成していた。

彼女は崩れた宮殿の間を縫うように移動しながら、己の位置を悟らせないよう絶妙な援護を続けているのだ。


キリト「はぁっ―――!」


スノーれいか「今度こそ!」


そして、援護と言うならキリトの存在も欠かせない。

同じく前線に立つスノーれいかも同様だ。


技量面で卓越している二人は常に左右、前後、上下と挟み込むような連携を繰り返し、BUNZINを確実に削っていく。

中でも、キリトの乱舞は別格とも呼べる破壊力であり、直撃すればBUNZINといえども危険な大砲なのだ。

その存在感が、BUNZINの攻めの手を緩ましている、いわゆる牽制だ。



スノーれいか「———いける! 『境界礼ボーダーマナー』!」



しかし、キリトがいくら斬り結ぼうとそれだけでは意味が無い。

BUNZINの超再生を破るには今一度、彼女が中核を成すしかないのだ。


キリト「俺のことは気にするな! どんどん檻を生成していけッ!」


戦域を限定するように囲んでいく水晶の檻は、無論仲間にとっても危険だが、そこを気遣う様子は皆無だった。

事実、キリトはスノーれいかが繰り出す不可視の檻を、驚異的な危機察知能力で全て避けているのだから。



No.6 BUNZIN「忌々しい、小うるさいぞ虫どもがッ! オオオォォッ!」


キリト「ッ! 来るぞッ、退避だ―――!」



キリトは再び、攻めの手を守りに変えるしかない。

BUNZINは時折、今のように面妖な攻撃を仕掛けてくる。

まるで見えない隕石を落とすような、大威力の圧壊撃。


その頻度が、徐々にだが上がっていく。



No.6 BUNZIN「どぉーもー♪ BUNZINでぇっすー♪ どぉーもーだからー何でも食べちゃーう♪ さぁ君臨せよ! これが夢見る世界の総意なのだ! はははははははははははッ!!」



そして、

朧に垣間見えるシルエットは、人の輪郭を帯びているが巨大すぎる。

全長数十メートルはあるだろう。



真中あぁあ「ぷり!? あっちもいい感じのソングナイトフィーバー! 負けていられないっ! じゃんじゃんじゃんじゃん―――」



キリト「本日二度目だっ、もってくれ俺の腕ッ! スターバーストストリーム!!!」



ドォォオオォォオオオォォオオオォオォオン!!!



BUNZINの謎めいた巨腕連続攻撃を、キリトが破壊の活劇で薙ぎ払う。

これ以上は巨腕を顕象させてはいけないという意思のもと、スノーれいかの檻を狭めていくように折り重なっていく完璧な連携。


一撃で、そう一撃で決することが出来るように。

獣の自由を剥奪し、檻に封じ込めてその総体を凝縮させ―――



なおも殺戮を諦めず、人としての一線をBUNZINが超えようとする刹那こそ。



スノーれいか「今っ! ―――水晶の陣!」



真に絶対なる裁きのギロチンとして機能する。

人界の掟に礼を払うか払わないか。

超えてはならない決まりを破って、非礼を貫くならば是非もなし。



No.6 BUNZIN「オ、オオオオオオォオォオオオォォォォ!!!」



化物に対する断固必殺の消滅刃―――先の失敗とは違い、今度は完全に嵌ってBUNZINを大瀑布さながらに押し流す。


後には何も残らない。


激流と化し、人の世からその存在を排除する。





―――そう、するはずだったが。




No.6 BUNZIN「ふはっ♪」




水晶の輝きが消え去った後、BUNZINは変わらずその場にあった。

消滅どころか、毛ほどの傷も負っていない。



No.6 BUNZIN「ふは、ははは、はははははははははは―――!!」



そして轟く狂笑に、スノーれいかは―――いいや他の二人も声を失い絶句する。


スノーれいか「どうして・・・!」


決まったはずだ。

決まったはずなのだ。

この上なく完璧に、一分のミスもなく異能を発動した。

それは本人のみならず、キリトと真中あぁあも認めていること。


不発ではない。

では何故、どうしてBUNZINは生きている?

こんな事態は理屈上、絶対有り得ないことだというのに。



No.6 BUNZIN「言っただろう、!!」



同時、天から墜落し、地から湧きあがる無数の喝采をスノーれいか達は聞いていた。

その全てが言っている。


スノーれいか「そんなにも、私を嫌っているのですか・・・ッ。」



真中あぁあ「じゃんじゃんじゃーん、じゃんじゃん―――」


何をしようが一切無視。


キリト「何だよそれ・・・。」



ただ、



結果、引き起こされる事態の善悪すらも関係ない。


BUNZINの背後からは、桁外れに深い深淵の視線達が注がれている。

悪夢とは、人の願望が顕れるとはこういうことなのだ。

未だ衝撃が抜けぬスノーれいか達に向けて、BUNZINは淡々と話し始めた。



No.6 BUNZIN「スノーれいか。お前はこの夢を度し難いと思っているな。善悪、正誤、好悪の何たるかを勝手に妄想する。それは愚かだと。ああ、。そして一方、彼らは思う。責任? 賛同? お前の理論など聞く道理はない。より楽しく、より華々しく、より美しくを求めることが彼らの自由。ああ、。」



ずしんと、見えぬ巨体を揺すりながらBUNZINが一歩前に出た。


No.6 BUNZIN「彼らの不満が消えぬのはそういうことだ。俺は俺が望まれるまま、貴様らに絶望を叩き込む。ドォォォモォォォオオオオオオ、ブンジンデェェェエエェエッス!!!!」


最後にがらりと気配が戻り、渾身の域で放たれたBUNZINの轟哮。



キリト「———ッ??!」


―――キリトがいともたやすく、木っ端微塵に吹き飛ばされた。



それが意味する結果は、一つしか無い。

威力が急激に、今までとは明らかに変わっているのだ。

それが瞬きの後には十倍。

二十、三十、四十、五十倍―――



No.6 BUNZIN「———5億倍だ。」



荒唐無稽な数字が告げられた瞬間に、戯画的なまでの破壊力が顕現した。


キリト「がッ、ぐおおおォォッ―――!!?」


横殴りに放たれた巨腕の一撃は、光速で飛来する星の塊に等しかった。


スノーれいか「キリトさんっ!!」


発生した衝撃は、キリトの処理能力を優々と超えていた。

即死を防いだだけでも瞠目に値する手並みと言えるが、木っ端のように吹き飛ぶ彼には何の慰めにもならないだろう。



キリト「(複数の視線、いや空間そのものか! そいつらの妄想が顕現する舞台! スノーれいかの概念攻撃が効かなかったのも、! 理屈も関係ない、まるで子供の夢だ。テンプレキッズに相応しい、それでいて邪悪な夢だ!)」



スノーれいかの異能『境界礼ボーダーマナー』は、観客にとってすでに種が割れている。


じゃあそれをBUNZINに効かなくしましたと、ただそう願われただけ。

それこそが、演舞開園の第二開園能力。



キリト「(ったく、そんなのアリかよ・・・。スノーれいかや俺も嫌われてんなぁ。いや、この場合は面白がられてるのか? マズいぜこりゃあ・・・。)」



遥か彼方の壁際に激突した音を、キリトはその背中で感じ取っていた。

言うまでもなくそれは致命傷。


No.6 BUNZIN「おぞましいだろう? 強いだろう? これが私だ、覚えておけ!」


自らの姿を誇っているのか、見てほしいのか。

超獣の顕象、これこそが真なるBUNZIN。

その殺意が、ここまでもっとも彼の神経を逆撫した者へと向けられる。


スノーれいか「くっ!」


No.6 BUNZIN「潰れておくか? 売女。」


巨腕に凄まじい力が漲る。

地響きにも似た震動は必殺を前にした強張りであり、解放の爆発に向けて高まる獣気は超新星爆発の瞬間を思わせた。



No.6 BUNZIN「以前、貴様は私に手を差し伸ばした。更生、救いたいと戯言を述べていたな。どうだ? まだその心意気があるか? ・・・そうだな。もしも同じ台詞を、今の状況下でも吼えることが出来たならば、貴様の命だけは助けてやる。」



もちろん、BUNZINにはそんなつもりなど毛頭なく、スノーれいかもそれを承知の上で悠然と、そして凛然と喝破した。



スノーれいか「この舞台は私を殺す・・・というより、挫折と無力感を味わわせる事が観客の目的なのだと推察できます。あなたの提案を受けたが最後、容易く潰されるのが目に見えていますよ。」



その事実を理解しながら、スノーれいかはまだ折れていなかった。



意地とプライドと、その他諸々がだいぶ混じってはいるだろうが、気丈な立ち振る舞いは崩していない。

法の番人としての責任感。

それが、今のスノーれいかを立たせている。



No.6 BUNZIN「抜かせッ、終わりだァッ!」



そして今、歴代最大の出力で巨人の鉄槌が落とされた。


真中あぁあ「うぉぅ!? こりゃあぶないぷり~!」


狙いはスノーれいか一点だが、巨大すぎる拳撃ゆえに当たり判定も当然でかい。

巻き込まれては御免とばかりに、真中あぁあは一目散の退避を決めた。

仲間を庇ってやろうという気概が全く見えない。


スノーれいか「・・・。」


スノーれいかもまた、そんなことはまったく気にしていなかった。

迫る巨腕に怖じもせず、ただ不動のまま対峙している。


キリト「スノー、れい・・・かぁ!!」


大量の血飛沫を撒き散らしながら、キリトは盾にならんと立ち上がろうとする。

そう、立ち上がろうとしたのだが、それどまり。

5億倍の鉄槌をモロに喰らって―――立てるわけがないのだ。



ついに、その拳が令嬢を叩き潰さんとした刹那―――



No.6 BUNZIN「あ? まさかッ、あの餓鬼ッ!!」



巨腕が大幅に逸れていた。


BUNZINは、による仕業だと直ぐに看破する。



真中あぁあ「———ったく、気づくのはえぇよ!」



すべてを傲然と見下ろしながら、そこに真中あぁあが現れていた。


スノーれいか「まったく、あなたはいつもそうやって・・・ですが正解でしたね。私では最早勝てません。ですがそれ以外なら、観客にとって初見の技ならどうでしょう?」


真中あぁあ「油断しちゃだめぷりよ~? 私のトモチケでスノーれいか様の元へとワープ、そこから一瞬でライブステージを創り出す! そこは不可侵のスターライトステージ! 歌が終わるまであらゆる攻撃を届かせないぷり! でぇん♪」



発動に条件が存在しないということは、裏を返せば誰にでも通じることを意味している。

故に、真中あぁあの支配力は絶大だったが、実はそれだけで終わらない。



No.6 BUNZIN「・・・ならすぐに、それをも凌駕する力をッ―――! おいどうした、なぜ俺の強化を妄想しないッ?! お前らッまさか! あの餓鬼に乗り変えたとでも言うのか!?」



キリト「・・・あー。周りからの応援と言い、俺にも何となく伝わってくるぜ。観客ってのは大抵、弱い奴が強い奴を倒す物語が好きだからな。・・・まぁこの場合はロリコンが多いだけなのかもしれねぇが。」



―――アイドルの魔力は、超獣にさえ通用する。



絶望の状況下の中、真中あぁあ一人だけが強烈なまでに、のだ。

それがいい意味で彼らの視線を、観客の心を揺らしていた。



真中あぁあ「ああーっ! 『いいね!』が沢山溢れかえってるー! 百、二百、すっごーい! こんなにも応援してくれて嬉しい! みんなのおかげで私、次のステージに進めるよー!」


キリト「(・・・どこにもそんな物は見当たらないぜ?)」


スノーれいか「そうです。今だけはあなたが主役です。私の異能が効かない以上、頼りにしていますよ真中あぁあさん。」


真中あぁあ「かしこまっ! それじゃあミュージックぅぅ、スタートォォォ!!」



そう、彼女はノリを理解する女なのだ。



ノリしかないとも表現できるが、ともかくこの舞台の何たるかを知った以上は、夢見る観客たちの要望を決して無為に扱わない。

彼らが望むもの、見たがるもの。

楽しませるというならば、真中あぁあという神アイドルにも十八番の領域である。



真中あぁあ「私はまだ子供! まだ学生だから、社会のステージにすら上がっていない! 四回戦ガールズどころかプロテスト前の練習生だよ! 勇気の強さも測れない! だけど、いつか来る戦いのためにライブの練習は欠かさないんだ!」



忘れがちだが、彼女は『あの場に居合わせ、世界の真実を知った者』なのだ。

意味不明な言動は不変のまま、されど決意の総量は跳ね上がっていた。



真中あぁあ「人の勇気・・・そう勇気! メイキングドラマ! 私のこの手が真っ赤に燃えるぅぅ! 勝利を掴めと轟き叫ぶぅぅ! ばぁぁぁくねつぅ! ゴッドォ! フィンガァァァァァ!!」



キリト「(―――それ違うアニメ!)」



こちらも歴代最高―――絶対規模のライブ魔法が叩き込まれる。

比較にならない破壊をBUNZINに与え、巨腕はもとより、未だ見えない陽炎部分も連鎖爆発の如き効果を及ぼしていく。



No.6 BUNZIN「だからどうしたァッ!!」



BUNZINもまた、信者の力を上乗せして自己強化していく。

彼が有する馬力のほどは人の規格を超越しており、如何に相性が悪かろうとも容易く劣勢に落ちたりしない。



No.6 BUNZIN「―――ォォォオオオオオオオオッ!!! ドォォォモォォォオオオオオオ、ブンジンデェェェエエェエッス!!!!」



しかし、それがよくなかった。



彼は、のだ。

その暴走は、言わば強化の代償。

勝負は唐突に、終わりを告げることになる。


キリト「力と力の衝突、空間が壊れるぞ!!」


スノーれいか「ッ??! いけませんッ、離れて―――」


凄まじいまでの重質量を備えた、紅蓮の戦意に滾る声。

耳元で雷鳴でも連続しているかのようで。



怒りと狂乱に塗れた咆哮が、












―――宮殿内 王の間



~少女視点~



それは瞬間の突風めいて、対処どころか反応することすら出来なかった。


「づッ、うおおおッ・。・?!」


いきなり粉砕された衝撃で私とセイキンは吹き飛ばされ、地面を転がりながらも顔をあげたその刹那―――



No.10セイキン「あ、あ”あ”あ”あぁあぁあァアあああッ!!」



揺らぐ超獣のシルエットを、私は目撃した。


それが雄叫びをあげながら、



フリー(躁)「・・・脳筋ぽよねぇ(*´ω`*) ちょっと予想外ぽよ(*´ω`*)」


No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あらら。犬コロが随分強く戻ってきちゃって。いいのNo.0? あなたの弟、発泡スチロールにされちゃうけど。」


No.0■■■■「・・・たまにはいいだろう。あいつもあいつで、少しにて頭を冷やした方がいい。」


No.10セイキン「そ、そんなッ、まだ私は本気を出してい―――」



そして察する。

もはや手遅れだと。

最初の衝撃からここまで十秒も経たないうちに、セイキンの意識が消えていくのを感じていた。


キリト「馬鹿な・・・。」


スノーれいか「戻ってきたのですか・・・。しかしこれはっ。」


真中あぁあ「あれ?! あっちは確か敵サイドの人ぷり!?」



理解が追いつきそうにない。

戦場と戦場が交差したということか?

消えていた筈の彼女らが、さらにはキリトさんまでも唐突に一体何故?


キリト「記憶喪失の少女・・・お前も無事だったか。」


お互い無事を確認でき、安堵に胸を撫で下ろす―――否、撫で下ろせる訳がない。

一体全体、何が起きた?



「セイキン・・・くそ、お前ッ、いきなり現れて誰なのだッ・。・!?」



そいつは、目が覚めたといわんばかりに大欠伸を決めて項垂れた。



U2部隊No.10セイキン―――No.6 BUNZINに喰われて絶命。



No.6 BUNZIN「ああこれはNo.10か。状況は理解した。殺してから言うのも申し訳ないが、お前には死んでもらう。理由は必要あるまい。これは戦争だからな、ずっと手を出せなかった男が丸裸となった好機・・・見逃すはずがない。」



三頭の異形、それでいて鋭利な口調。

超獣の域すら超えた神階へと、BUNZINは生まれ変わっていた。

セイキンの持っていた不遜さを受け継いだ形として。



No.6 BUNZIN「―――主よ。此度の戯れ、俺は俺で勝手に行動させて頂いた。高い知能を喰らえば狂戦士状態も戻る。」



フリー(躁)「賭けはそっちの勝ちということで、約束通り筋は通したぽよ(*´ω`*) セイキンについてはご愁傷様という他ないぽよが、これもルーレットが定めた物語の結末ぽよ(*´ω`*)」



No.11Kent「め、滅茶苦茶だぜ。あの演舞開園を逆利用して・・・狂犬が戻って来ちまったのかぁ?」


そこまで言われて、スノーれいかはハッとする。



スノーれいか「さっきの戦いは―――あなたを復活させるための劇でしかなかった・・・?」



No.6 BUNZIN「無論。俺は超獣から神獣へと進化した。・・・演舞が閉演した以上、俺にはもう戦う利点が無い。これ以上ないくらいまでにパワーアップ出来た。中でもそこの女子二人よ。なかなかに面白い・・・実に見上げた根性だった。そこの剣士も捨てがたい。手数だけならば圧倒的だった。万全の状態でなかったのは惜しいが・・・それでもだ。共に踊る喜びというのも、案外病み付きになるものだな。実に悪くない。」



さっきまで殺意の対象だった者たちに、BUNZINは本気の賞賛を送っていた。

彼女らの強度に対する純粋な賛美、敬意すら払っている。


真中あぁあ「だ、だめだぁ。私の力が衰えていくのを感じるぷり・・・。観客の心をもう感じ取れないぷり・・・。」


スノーれいか「演舞の効力が切れた・・・ということは私の異能も効くようにっ!?」


錫杖を構え、今再び異能を発動しようとするが―――


キリト「待てっ、冷静になれ。相手の力量を甘く見るなッ。 あのBUNZINという男、本領の一欠片ほども発揮していないッ!」


倒れ込んでいてもなお、顔を上げているキリトに止められる。

スノーれいかもまた、言われる前に気づく。



回転し続ける三頭の背後、ゆらゆらと陽炎のように見透かす力の集合体。

キリト達を追いつめた謎の巨腕攻撃は、未だに全貌が見せることなく漂い続けている。



No.6 BUNZIN「・・・ははは。これは近いうちにナンバー変更も有り得るかもな。俺の異能は進化を遂げすぎたようだ。」



No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「図に乗りすぎよNo.6。あなたはまだ私どころかNo.5すら超えられないわ。。」



No.6BUNZIN「・・・流石はNo.1殿、戦闘の一部始終を巻き戻して拝見したか。」



キリト「・・・言ってくれるじゃねぇかふぁっきゅー。少女の推理通りだった訳かよこの裏切り者がッ。」



No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「はっ、名前から連想しなさいよ。『ふぁっきゅーれいか』って名前は、どう聴いてもれいかに攻撃的な名前じゃない? ねぇ? ―――。どうやら記憶はまだ取り戻せていないみたいね。」



フリー(躁)「人口異能の出所・・・彼らともまた対決が近いぽよねぇ(*´ω`*)」



キリト「・・・。」


「み、みんな・。・! 玉座の方を見るのだッ!・。・!」



パチパチパチ・・・。



No.3日常演舞「———おめでとうございます、BUNZIN殿。演舞閉演を力技だけで成し遂げてしまうとは。」



ようやく状況を掴めかけたそのときに、少女達の耳を打ったのは背後からの拍手だった。



No.6 BUNZIN「おお、No.3殿。そちらの第二開園、協力まことに感謝する。お陰様で悲願の一部を達成できた。」



つい先ほどまでフリー(躁)が腰を下ろしていた玉座の左右に、新たな座が出現して新たな者らが存在している。

向かって右側に腰を下ろし、今も惜しみない拍手をしているのは、歪な造形をした顔面凶器―――日常演舞。



No.2田中みこ「ブンジンさん見違えたね、すごいすごい。」



スノーれいか「・・・まさか、田中みこさんなのですか!?」


キリト「あいつッ・・・!」


向かって左側に腰を下ろしたその女性は、誰もが知る忍者の女性―――田中みこ。



No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「集ってきたわね。」



No.0■■■■「宴もたけなわということだ。」



No.6 BUNZIN「ふむ・・・。まだまだ蕾だが、中々にそそられる。ともあれ既に狩り尽くした様子。これで幕ということですかな? 我が主よ。」



フリー(躁)「うむ(*´ω`*) 転生計画第一段階、は完了ぽよ(*´ω`*) 四名の収穫お疲れぽよぉ(*´ω`*) 総員、これ以上の収穫は禁じるぽよ(*´ω`*)!」



されど膨れ上がる弩級のオーラに、身構えてしまうのを止められない。

こんな化物どもを前にして、平常心を保つことなど不可能だ。


キリト「・・・落ち着けよ。むやみに攻めようとするな。流石に俺でもキツい。今は生き延びて、情報を集めることに専念しろ。」


「そ、そんなことを言ったって―――」


恐怖、焦燥、嫌悪、忌避―――。

心臓に悪いどころではない。

息も満足に出来ないほど、胸が締め上げられている。



日常演舞がここにいるということは―――レトさんと悲哀さんはどうなったッ!?



真中あぁあ「もしかしてのもしかしてだけど、私たちのこと見逃してくれるぷりぃ?」


悪びれもなく言い放つ彼女に、しかしフリー(躁)は淡々と言葉を返す。



フリー(躁)「君たちの勇気に免じて、しばらく猶予をあげるぽよ。計画の最終段階にもう一度―――いや、ぽよね(*´ω`*) No.11、各U2部隊に黒腔ガルカンタを展開させるぽよ(*´ω`*)」



No.11Kent「ボス・・・いいんですかい?」


フリー(躁)「・・・所詮、実験で生まれ落ちた存在ぽよ(*´ω`*)」


もったいねぇと呟きながら、Kentは異能を発動させる。


No.2田中みこ「No.5、No.7、No.8、No.10、No.12にワープゲートは必要ないよ。全員脱落したから。」


No.11Kent「っておいマジかよ!? 二ヵ国目で随分と減ったなぁ!?」



彼らは揃って踵を返す。

戦意を欠片も見せることなく、私達を置いてここから去ろうとしている。

それは拍子抜けな反面、意図がまるで読めないものだった。

まさか本当に、見逃すとでも言うのだろうか?



No.3日常演舞「前線組よりは質も高いということでしょう。ですが、もう充分堪能させて頂きました。収穫は成功です。人類を滅ぼすにはうってつけの兵隊をね。」


No.0■■■■「ニコニコの一勢力を視察する身としては、甚だ窮屈であった。底辺の創作達よ、忘却の狭間にて世界の転生を見届けるのだ。」


No.2田中みこ「顛末はずっと陰で見てたけど、やっぱりまだまだだね少女ちゃん。カウントはゼロになって終了。・・・リーダーもお疲れ。みこは楽しかった。」


No.6 BUNZIN「勘だが、そこの老兵剣士とは近々会えそうだ。その時は充分に死合おうぞ。」


No.11Kent「今回の戦いで、夢見る向こうの住人はんだろうなぁ。現実世界の転生も、そう遠くないってか。」



一人、また一人と、捨て台詞を残して消えていく。

散々隠れ家を掻き回した連中が、何の償いもせずに帰っていく。



「ふぁっきゅーちゃん・。・! 一体どこに向かう気なのだ・。・!」



どこか情けない声色で、私はその名を呼ぶ。

彼女はその声に対し振り向いてくれたが、その瞳に私は映っていなかった。



No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「ボスの命令通り、。あなた達とはもうおしまい。私たちの手段を止めたいのなら止めてごらんなさいよ。どうせ無理だろうけどね。じゃあ。もう二度と会わないことを心から願っているわ。」



最後の餞別とばかりに決別の言葉を紡ぎ、彼女は去っていった。



フリー(躁)「交渉は順当に、理解した上で決裂ぽよ(*´ω`*) 覚えておくぽよ(*´ω`*) ―――決着は今ではない(^ω)^ 別の領域にてお前を待つ(^ω)^ 言っただろう、俺はお前に期待しているのだよ(^ω)^」



指摘した勇気と決死の覚悟、今の私には奴の美感に沿っているからと、彼の瞳が言っていた。

ここで潰すにはあまりに惜しいと?


困惑する私たちを愛でるように見下ろしながら、フリー(躁)は加えて一つ付け足した。



フリー(躁)「誰が見ても公平には程遠い(^ω)^ これでは密度が違いすぎる(^ω)^ お前の勇気と主張を疑うわけでは断じてない。それに、本当は分かっているのだろう(^ω)^? 今のままでは決して勝てんよ(^ω)^」



―――私たちはまだ対等ではない。


なぜならずっと、私はこの夢に―――



フリー(躁)「まずは匹敵するだけの密度を得ろ(^ω)^ その上で―――目指すものが同じなら、再び俺に挑むがいい(^ω)^ お前の強さを信じているぞ、もう一人の私よ(^ω)^」



「・・・分かったなの・。・ その時、必ず私はおまえを討つのだ・。・!」


確かにそうだ、ここで決着をつけるべきではない。



―――相応しい局面は、いずれ必ず訪れる。



キリト「ふん。待っていろ。俺もこの夢を突破した時こそ、本当の勝負だ。」



フリー(躁)「―――ハハッ、ハハハハハ(*'ω'*) うん、待ってるよキリト。君ともまた、別の遊戯盤で待ち望んでるから(*'ω'*)!」



その瞬間、去っていくフリー(躁)の影がを放っていた。



奴が言っていた

とびきりの夢界兵器は現実世界への進行を、今か今かと待ち焦がれているようだった。


あれが解き放たれたならば、現実世界は炎と死に染まるだろう。

人々が思い描くあらゆる夢が形となり、その異能と共に世界を覆って塗り替えていく。



「・・・待ってろなのだ・。・」



去っていった背を見送り、それを止めなければならないと決意が湧き上がっていったのだった―――。













ほぼ同時刻


―――隠れ家 宮殿内 二階バルコニー付近



いちご「くそっ、くそっ、そういうことかよッ! 俺の異能は俺にしかっ、くそっ・・・くそおっ。」


倒壊したバルコニーの死角。

かつて、日常演舞と対峙していた時の壮言さはもうどこにもない。

その眼差しは涙に濡れ、瓦礫に埋もれた人物を前にへたり込むのみ。



いちご「誰も頼んでねぇだろうがよ。いや、この結果こそが俺が望んでいたことか。ピーチクパーチク、いつも俺の傍を離れなかった監視役を殺すことがっ? おまけに身を隠せて一石二鳥かよっ。くそぉっ。」



No.11北上双葉「ふたばんわ~。そんなに嘆いてどうしたのかな?」



、彼女は姿を現していた。



No.9北上双葉「何か悩み事? お姉さんに相談してみない? 力になってあげたいな~。」



いちご「何だよ・・・ゆるふわロリ。構ってられねぇんだよ、どっか消えろよ。」



No.9北上双葉「むっ。私はU2部隊のNo.9、北上双葉だよ。ゆるふわ~。」



軽やかな足音を響かせて、北上双葉は降臨する。

柔らかい物腰に棘めいたものは一切なく、いちごの攻撃的な諸々を吸い込むような佇まいを見せている。


いちご「またU2部隊・・・そう来たかよ。面白れぇじゃねぇか。」


名乗りを前に疑問を抱く余地などなく、いちごはそれが真実であると即座に察して失笑する。

今、自分にこそ最大の本命が立ちはだかっているのだと、思い知らされたが故に。



いちご「なぁ聞いてくれよ。俺はいままでずっと勘違いをしてきたんだ。俺の異能が全知全能だと勘違いして、このザマだ。」



言いながら、いちごは一点を見つめている。



姫れいか「――――。」



そこには、瓦礫に潰された姫れいかの姿があった。



いちご「よくよく思い返してみれば、模擬戦と機械兵の時もそうだったんだよ。。」



No.9北上双葉「ん、因果律制御の異能なのかな? あのNo.3と対峙して生きてるのは、ズバリそういうことなんだね。彼女が助けに入ってくれたんだ~。」


いちご「・・・ちっ、全てお見通しかよ。」


勢いよく彼は立ち上がり、前髪を弄りながら北上双葉の目の前まで歩いていく。



いちご「?」



No.9北上双葉「あははっ。まあそうなんだけどね~。いいの? お仲間さんのこと裏切ることになるよ?」



いちご「ゆるふわロリがこのタイミングで現れた―――それすらも、俺がのしあがるための伏線だ。だから悩む必要なんかねぇ。それが俺にとっての、一番最適ルートだと決定づけられているからだ。俺が何もしなくても、俺にとって都合のいいルートに運命が導いてくれる。それが俺の異能、人生の勝者。覚えておけよゆるふわロリ、最後に笑うのはこの俺だ。」



黒縁眼鏡の奥が歪む。

事実、いちごは笑っている。

喪失感に苛まれながらも絶望とは無縁であり、北上双葉に怒りも憎しみも興味も抱いていない。


何がどうなろうと、最終的に己が勝つという奇怪な自負。

あるのはただ、己が上だという常軌を逸した独尊だけ。



北上双葉に誘導されているという真実を、彼は最後まで履き違えていた。



No.9北上双葉「あはっ♪ 気に入ったよ~。いちごちゃんなら、空いたU2部隊の席にだって座れちゃうかも。」


いちご「はっ。過程なんざ興味ねぇ。俺は勝手に辿りつくぜ。お前らのトップへとな。」



―――彼は気づいていなかった。



いちごは敗北者の人生であると同時に、彼は



いちごは、真正の敗北者ではないことに。



その誇りが今あっけなく、最低の売国奴へと成り下がって崩壊していく。

口だけは達者だが、仲間を捨てて自分だけが助かる道をことに変わりはない。



姫れいか「(待って―――いちご、ちゃんっ!)」



瓦礫の中、意識を取り戻していた姫れいかが見た光景は絶望であった。


北上双葉の後を、ひよこのように付いていくいちご。

彼がこちらに戻ってくることは無いのだと、容易に想像が付いてしまう。


姫れいか「(声が――出ないっ、私の『姫様命令』っ、こんなときに―――)」


崩れ行く意識の中、姫れいかが最後に見た光景は。



No.9北上双葉「・・・ふふっ。」



北上双葉が、姫れいかを見ながら笑っていた。

彼女は最初から、姫れいかが生きていることに気づいていたのだ―――。



いちご「・・・この黒い穴、知ってるぜ。お前ら専用のワープゲートだな?」



No.9北上双葉「しっかり付いてきてね! 私たちのベース基地『ふわっと小学校』に!」



こうしてまた一人、U2部隊は収穫を成功させていく・・・。














―――宮殿内 王の間



~少女視点~



もえれいか「リーダー!!」


キリト「ッ、目を覚ましたが・・・これはもう―――」


あじれいか「・・・そうか。あいつらは去ったん、だな。ゴホッゴホッ!!」


燃える宮殿内。

倒壊寸前の王の間。

U2部隊が撤収してから、およそ十分が経過していた。


「リーダー・。・! しっかりするのだ・。・!」


スノーれいか「死なせませんっ、生きてください主様!」


レモキン「傷の直りが逆行し続けているッ・・・ふぁっきゅーれいかめッ!」


真中あぁあ「フリーちゃんしっかりしてー!」


ヴィオラ「死なないでっ! フリーれいかさん!」


その名前を聞きながら、あじれいかはフッと口元を歪める。



あじれいか「・・・どうよ。これが、俺が築きあげてきた国―――ああ、嬉しかった。無念だった。情けないなりに頑張って・・・俺はもう、消えるんだなぁ。」



ゆうれいか「・・・ごめんねリーダー。レジスタンスの創設時代は大丈夫。それは墓まで持っていくよ。」


4410「あなたの秘密には気づいていました。ですが私は尊重した。あなたの生き様を。」


ゆうれいかと4410だけが、リーダーの元に駆け寄らずに立ち尽くしている。


「・・・ゆうれいかさん、4410さん・。・」


まさか二人は知っていたのか?

リーダーの正体が、フリーれいかではなくあじれいかだと。



あじれいか「記憶喪失の少女・・・まだそこにいるか?」



「・。・! ここにいるなの・。・!」



リーダー直々のお呼びに、周りの仲間たちも空気を読んで押し黙る。


あじれいか「俺はもう死ぬ・・・。俺の遺体は黄金の粒子となり、どこにも残ることは無いだろう。その前に話しておきたい。」



「・。・?! リーダー、この世界の秘密、知ってたなの・。・!?」


キリト「世界の秘密?」



あじれいか「それなんだよ。―――妄想体の生みの親であるお前に、聞いてほしいんだ。」



キリト「待て、何を言っている―――」


ゆうれいか「少しだけ。彼に喋らせてやってほしいんだよ~。」


問い詰めようとするキリトを、ゆうれいかが止めに入る。

それが彼の役割とでも言うように。


スノーれいか「ゆうれいかさん・・・あなたも何か知っているのですね?」


4410「・・・ひまれいかから託されていた真実もある。並列して語っていきましょう。私達の真実を。」


ヴィオラ「4410さんまで・・・何を、話しているの? なんの、ことなの?」


困惑する彼ら。

ああそうだ。

様々な犠牲を払い、また一つ事実が判明したんだ。



キリトさんを除いて全員が、私が造った妄想存在だったことを。



真中あぁあ「いいよリーダー。大丈夫、私らは強いよ。あの真実を知ってもへっちゃらさ! 人は勇気があれば乗り越えられるっ!」


スノーれいか「・・・真中あぁあさん、今回ばかりは黙っておいてください。」



・・・真実を知っているという罪悪感が感じ取れないメイドは置いといて。


私が、異世界の創造を担った一人であることを。

そして何故、あじれいかさんとゆうれいかさんと4410さんも、姿が見えないひまれいかさんとふじれいかさんも、世界の秘密を知っているかのような口ぶりだったのか。



「・・・リーダー、話してくれなのだ・。・ ちょうど、頭の中を整理したいと思っていたなの・。・」



あじれいか「ああ。順を追って詫びる―――お前が捕らわれていた部屋からだ。」




そして彼らは語り始める。

この物語が生まれ落ちた、『原点』とも言えるべき贖罪を―――。




つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る