第18話 この世は総じて妄想劇
―――そうだねぇ、君は確かに間違っちゃあいない。
女は面倒くさいと世間は言うけど、男もどうして、かなり面倒くさい生き物だ。
野心とプライドの奴隷だよ。
そしてまた困ったことに、女はそんな男のことが決して嫌いなわけじゃない。
勝負に負けてへらへら笑っているボンクラや、そもそも勝負の場に立とうとさえしない根性無しを見下してさえいるはずだ。
ああ、それでいいんだよ。
だってそんな奴らは男じゃなければ人でもない。
きっとママのお腹に金玉忘れてきちゃった奇形児なんだよ、人間未満だ。
もしも彼が、君にあこがれるだけの存在だったら幸せだったか?
大活躍する君の後ろで、黄色い声の応援してりゃあ世の中上手く回ったのか?
女子供を前線に立たせ、クソ役立たずのくせにスケベ心だけは一丁前のクズが主人公を張っていいのか?
女はそんな奴のハーレム要因になるのが望みなのかい?
違うだろう?
僕は人の夢が生んだ物語だ。
だからよく知っているよ。
そういう奇形児も、今増え続けているってことを。
喜べよ、遠からず君のような女にも需要が生まれる世の中になる。
だから我慢しなくていいんだ!
そのハイスペック、思う存分に揮えばいい。
堕落させろよ、無限に奇形児どもを生み出せばいいッ!
はははっ。
無論、そんな楽園は私がもっとも嫌うものなのだがね。
君もそうだろう?
奇形が増えていく歪みに耐えられないんだろう?
君と私の理念は同じさ。
ここで一つ提案がある。
世界そのものを転生させる計画だ。
そのためにも、君にはU2部隊の一員として頑張ってもらいたい。
誰もが勇気を振り絞れる素晴らしい世界を、我々で一から作り上げていこうじゃないか。
ふふ、うふふふ、あはははははははははははははは―――――!
―――第18話 この世は総じて妄想劇
〜少女視点〜
このまま進めば、私は死ぬ。
それを予感しながら、相応の覚悟を決めた私が見た光景は、半分予想通りで、半分想定外の状況だった。
フリー「———。」
倒れ込んで、ピクリとも動かないリーダー。
夥しい出血量である。
ふぁ「・・・・・。」
その近くで、呆然と立ち尽くしているふぁっきゅーちゃん。
ここに来た私を見て、なんともいえない表情を浮かべている。
No.10セイキン「兄〜;;」
No.0■■■■「例の少女・・・か。」
泣き崩れている男を介抱している覆面の人間。
No.11 Kent「げっ、あの時のお嬢ちゃんじゃねぇかよ。」
真中あぁあ「あっ、また足元に瓦礫あるから気おつけてぷり!」
一度戦った黒穴使いと、どこかで見たメイド。
フリーれいか、ふぁっきゅーれいか、セイキン、■■■■、真中あぁあ、Kent。
計6人。
―――そして。
ボス「こうして顔を合わせるのは初めてぽよね(*´ω`*) まさか自分と会話するハメになるとは、さて、どうしたものぽよか・・・(*´ω`*)」
その存在を、私はどうしても無視できなかった。
初対面にもかかわらず、他の状況を無視してでも。
その最後の1人に、尋常ならざる気配に。
人とは思えないそれに、私は言葉を投げかけていた。
「お前が、全ての元凶なの・。・?」
ボス「全てと言うと、どれを指しているのか分からんぽよが、U2部隊を率いている最高位の存在は間違いなく私だけぽよ(*´ω`*)」
悪びれもなく、自らが黒幕だと明かした謎の男。
タキシード服に身を包んだそいつは、遥か高みの玉座からゆっくりと降りてくる。
ボス「ようこそ、お前も私と同じく資格を持つ者・・・歓迎するぽよ(*´ω`*)」
含みを持たせた言葉を何気なく語るだけで、ただそれだけで震えが止まらなくなる。
この男が、他と隔絶していることの証明だろう。
力の総量はどれほどなのか、今の私には分からない。
しかし、兼ね備えた精神の方向性が、他の誰よりも上回る危険性を告げている。
「歓迎・。・?」
なるほど、これは敵わない。
人間ではなく、もはや魔人ともいえる存在感。
故に、負けてはならない、怯んではいけないッ!
「この場に漂う負のエネルギーを還元するのだ・。・!」
私の両足へと、黒焔を顕現させる。
向かう先は一箇所しかない。
リーダーが倒れている位置へと、烈風の速さで移動する。
No.10セイキン「なっ!? その力はまさかっ!」
No.0■■■■「これは・・・面白い存在になりましたね。」
ちっ、こいつら。
舐められているのか、数で勝っていることからの余裕か、はたまた戦う気が無いのか。
「リーダー・。・!」
フリーさんの傍まで移動し終えた私を、周囲の者はどこか遠巻きに眺めている。
まるで彼らにとって、興味深い実験結果が発表されるのを待っているかのように。
「ふぁっきゅーちゃん・。・! 再会の挨拶は後にして、今はリーダーを直してやってほしいなの・。・!」
彼女の『戻す異能』ならば、リーダーを救うことができる。
深刻な身体欠損を負っており、何か処置をしなければこのまま息絶えていくだろう。
フリー「—————。」
意識を完全に喪失するのが数分早いか遅いかの違いで、辛うじて今は保っている。
異能を無力化できる力を持ったリーダーが、ここまでやられるなんてッ!
ふぁ「ええ。今、回復させるとこだったわ。」
背後から、聞き慣れた優しい声。
その手が、リーダーの身体に触れる瞬間。
「黒焔!・。・!」
私はふぁっきゅーれいかの手を弾き返し、ありったけの黒焔を彼女に浴びせてやった。
ふぁ「くッ!」
ボス「・・・(*´ω`*)」
私はリーダーの身体を抱え、そのままふぁっきゅーれいかから距離を取る。
真中あぁあ「?!」
No.11 Kent「・・・確かあいつら、味方同士じゃなかったか?」
真中あぁあとKentは困惑している。
それもそうだろう。
私が今したことは、奇行を通り越した蛮行に近い。
仲間にいきなり攻撃するなど、狂った所業である。
だか勿論、私は狂っていない。
確信があったから実行したのだ。
「リーダーの身体は・・・よかった、何の時間逆行も起きてないなの・。・」
あのままいけば、間違いなくリーダーは殺されていた。
回復させると見せかけて・・・私ごと始末されていたかもしれない。
そして、こうでもしないと、彼女はベールを脱いでくれないと思ったから。
今まで貰ってきた恩を仇で返す。
罪悪感は不思議と湧いてこない。
―――さぁ、雌雄を決する時だ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「そうかぁ。あのクサレ忍者、何かしたわね・・・。」
声色が、変わった。
「・。・!」
その恐ろしさに屈さないという勇気を糧に、なんとか戦闘態勢を取る私。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「いきなりビックリするじゃない。しっかりしてよね。敵はむこうよ?」
身体にこびりつく黒焔を、面倒くさそうに消すふぁっきゅーれいか。
彼女の身体には、火傷痕などの外傷が一切見当たらない。
・・・時間逆行の異能。
おそらく、黒焔をゼロの状態に戻したのだ。
存在しない時間軸まで戻した、故に黒焔は消失したということか。
「いや、私の敵はふぁっきゅーちゃん、お前達なのだ・。・」
三文芝居に付き合う気は毛頭ない。
こうしている間にも、倒れ伏しているリーダーの命が危ないのだから。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・へぇ。」
彼女は破顔し、そのまま口端を歪めて低く嗤った。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・ほんと、今回の物語は反吐がでる。」
私にその背を向けたまま、誰に語ることなく、ふぁっきゅーれいかは冷笑を浮かべて独りごちる。
そのまま彼女は、玉座の方へ歩き出した。
例のボスと呼ばれた男の元へと、迷いなく一直線に進んでいく。
ボス「・・・ここいらで明かすのも一興ぽよね(*´ω`*) U2部隊各員、集合するぽよ(*´ω`*)!」
「・。・!」
彼女だけではない。
No.10セイキン「———了解。」
No.0■■■■「主の命ならば、なんなりと。」
真中あぁあ「かしこまっ!」
No.11Kent「(このメイド、変わり身の早さが馴染んでやがる・・・。)」
私とリーダー以外の全員が、ボスの側まで集結していく。
つまり全員が―――敵なのだ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「私も茶番は好きじゃないから。ええ、あなたの想像通りよ。私は敵。U2部隊のナンバーワン、『ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ』よ。初めましてかしら。」
面白がるように、馬鹿にするように、特別隠すことなく、なんの躊躇いもなく。
―――私に本性を見せてくれた。
No.11 Kent「おま、お前がっ、はっ、えっ?!」
一度、彼女と肉弾戦をしたKent。
その心情は、心穏やかな物ではないだろう。
No.11 Kent「ボス!!本当なんですかい!?」
ボス「敵を騙すには味方からぽよ(*´ω`*)」
Kentの顔から、大量の汗が滴り落ちる。
気持ちはまぁ、分からないでもない。
自分の組織のトップと言える存在に、知らなかったとはいえ勝負を挑んでしまっているのだから。
だが何よりも不思議なのは、私の命を奪うという様子が誰からも窺えないのだ。
私という存在に、関心そのものが存在しないかのように。
・・・ならばこれはチャンスだ。
殺すにも値しないのだと思われているうちに、ここで一泡吹かせてやる。
―――私の辿りついた真実を見せてやる。
「思えば、あの戦闘の時も違和感はあったなの・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「違和感?」
思い出せ、あの戦闘を。
Kentと北上双葉、二人を相手取っていた時を。
ふぁっきゅーちゃんが救援に来てくれた時だ。
「ふぁっきゅーちゃんが救援に駆けつけてくれた後、私は北上双葉に向けて黒焔を放ったなの・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・。」
「過去最高の威力で、北上双葉を燃やし尽くせたのだ・。・ でも結局、彼女が具現化した水鉄砲で、黒焔は鎮火されたなの・。・」
No.11 Kent「・・・その死闘に居合わせた俺が言うのもなんだけどよ。もしかして、北上双葉は知ってたのか!? 初めからこいつが味方だって?」
No.0■■■■「彼女の極秘任務を知る者はボスただ一人。・・・私ですら知らされていなかった事実だ。」
ん、気になる発言が出てきたがそれは後回しだ。
「北上双葉が知っていようが、そこは関係ないのだ・。・ 違和感を感じたのは、その時のふぁっきゅーちゃんが言った言葉なの・。・」
今これから、一つの大きな答えが出る。
その予感を感じつつ、私はそれを口にした。
「ふぁっきゅーちゃんはあの時、『あのアニメの子、まだ生きてたの!?』って発言したのだ・。・」
No.11 Kent「・・・そりゃ別に、おかしくもなんともなくないか? 自然に演じた故に出てきた台詞だろ?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・で、それが何よ。」
「それとは別に、ふぁっきゅーちゃんから教わっていたルールがあるなの・。・ あれは私がまだ、隠れ家に到着する前の出来事、ふぁっきゅーちゃんが話してくれたのだ・。・ 『この異世界で死んだ人間は、その遺体が黄金に輝いて別人となる。それがこの異世界のルール。』確かにそう聞いた―――」
途端だった。
慢心していたわけではない。
「え・。・」
私が言葉を切り終えた瞬間だった。
秒も掛からなかった。
そう、秒も掛からなかったのだ。
ボス「 (^ω)^ (^ω)^ (^ω)^ (^ω)^ (^ω)^ 」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
世界が塗り替わった。
超怒涛の極殺気が、例の男から溢れ出す。
これは、怒り!?
「なっ、何なのだ・。・?! 私の身体が動かないなの・。・! 恐怖、いや何か別の力のような―――」
直接殺気を向けられていないというのに。
まるで神そのものに跪く所作のように、自然と私の身体は膝から崩れ落ちていた。
ボス「・・・やらかしたな(^ω)^」
その殺気が向けられていたのは私ではない。
ふぁっきゅーちゃんだ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「私は言葉にしていないわ。」
この圧倒的圧力を目の当たりにして、それでも彼女は怯まない。
No.10セイキン「言葉にしていない? それはあなた嘘松でしょう! 現にこうして、この少女は最大のタブーに触れようとしている訳ですけれども!」
私以外が、この圧力を物ともせずに動いている。
あれ、これって非常にヤバい状況なんじゃ?
そもそも、ここまで場が荒れるとは・・・あいつらの取り乱しようは規模が違う。
逆に言えば、私の指摘はそれだけ深い所に切り込んだということか?
敵の暗部ともいえる、暴かれたくない急所にだ。
ボス「・・・いや、嘘はついていないぽよね(*´ω`*)」
またもや世界が変容する。
激昂していた男が、急に態度を変えていた。
言葉使いだけではなく、薄気味悪いニヤケ顔に戻っている。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「恐らく透視されたのよ。この子には透視したという実感がない。だからこそ、私が発言したと勘違いしたんだわ。」
「透視・。・?」
透視って、それは確かひまれいかの異能だろう。
私には、そんな力など使えない。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あじれいかの『威嚇赫瞳』も、この子は昨日の時点でモノにしていた。全れいかのオリジナルなのだから、そこに矛盾はないわ。無自覚で思考透視を発現していたのね。」
ボス「なるほど・・・防げない事故、と主張するぽよね(*´ω`*) まぁ、良いぽよ(*´ω`*) 今回は大目に見るぽよ(*´ω`*)v」
―――待て。
ちょっと待て。
聞き捨てならない単語が流れたぞ、何だそれは。
私が全れいかのオリジナル???
No.0■■■■「となると、誰が少女を部屋から出したのか。結局はここになる。いったい誰の仕業なのか。」
ボス「おかげで、大分計画にズレが生じたぽよぉ・・・(*´ω`*)」
私は立ち上がる。
そうだ、まだ私の追求は終わっていない。
「随分と焦っていたようなのだ・。・ 見ていて滑稽だったなの・。・!」
私に視線が集中する。
「この世界で死ぬと、遺体は黄金の粒子と化して消滅するのだ・。・それを知っていた筈のふぁっきゅーちゃんが、あの場面で『まだ死んでなかったの』は明らかに不自然なのだ・。・普通だったら、『気をつけて、あの輝きが出てこないという事は、まだ生きている証拠よ。』みたいなことを言うと思うのだ・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・言う訳ないでしょ。私の思考が透視されるなんて、夢にも思ってなかったからね。」
「さっきから透視透視って、私の異能は黒焔じゃないなの・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・・。」
そこは、だんまりか。
納得いかないが、どうやら私はふぁっきゅーちゃんの思考を透視していたらしい。
知られてはいけない『異世界のルール』を、私は裏技とも言える方法で知ってしまったからこそ、彼らはあそこまで揉めたのだ。
「じゃあ、あのルールは・・・黄金の粒子云々も嘘だったなの・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「別に嘘じゃないわよ。でもまぁ、私のことを怪しいと感じたのは、北上双葉戦の時ということね?」
「いや、まだあるのだ・。・! 模擬戦前、ふぁっきゅーちゃんの部屋にふじれいかさんが来た時の密談の気配・。・! 私が闇に飲み込まれた時に、その対処をしたのが田中みこさんとふぁっきゅーちゃん、どっちもU2部隊だったこと・。・! 日常演舞との戦いで、開園空間に嵌らないように私を密かに手助けしていた事・。・! 前線組について、私に嘘の情報を教えていた事・。・!」
言葉が止まらなくなっていた。
今まで吐き出せなかった想いを、ここにきてようやく解放できるのだ。
彼女の支配は解かれ、真に私を縛るものはもう何もない。
「そして今、ふぁっきゅーちゃんたちU2部隊は、私たちの隠れ家を滅茶苦茶に蹂躙したのだ・。・! いったい何なのだ・。・? お前たちU2部隊の目的はッ・。・!? 人を殺す目的はッ・。・!? どうしてこんな酷いことが出来るのだ・。・!?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あーはいはい。質問は一度にまとめたほうがいいわよ?」
「なっ・。・!?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あなたの質問に答える前に、まず私の質問に答えてもらうわ。」
「・・・いったいなんなのだ・。・!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「私があなたに聞きたいことは一つよ。貴女が正気を取り戻している。私にはそこが不思議でしょうがないの。そうやって疑問を投げかけることが出来る貴女の姿が、どれほど異常な事態なのかわかってる?」
―――やはり、そこは言及してくるか。
でも当然だろう。
彼女らにとって、今の私の存在そのものが計算外なのだから。
「私がおかしくなっていた事は知ってたのだ・。・」
そう、これまでの私は何処か変だった。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「へぇ、それも気付いてたんだ。本当に賢い子ね。」
ふぁっきゅーれいかが、片手を頭上の上まで掲げる。
ちょいちょいと、その手は私を手招きした。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「賢い子には、いい子いい子のご褒美よ。さぁ、こっちに来なさい。」
私は思わず失笑する。
ああ本当に―――私はこれまで何一つ疑いもせず愚かなことを。
「そうやって、私の身体に触れて異能を発動していたなのね・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「———正解よ。」
最初の違和感は、ふぁっきゅーれいかと初めて出会った時だった。
その頃の私はまだ警戒心を保てていた。
罠かもしれないと、疑うことが出来ていた。
だが、その警戒心は彼女に触れられることでゼロに戻されていた。
ふぁっきゅーれいかの『戻す異能』によって。
時折、彼女は幾度も私に触れ続けていた。
触れて、異能を発動していたのだ。
その度に、私の中の警戒心や懐疑心をゼロに戻していた。
―――いわば洗脳に近い。
いい人だから、きっと好きになれるはず、そうに違いない、といった具合に。
私は彼女についていくのが正しいのだと、妙に浮かれていた事を覚えている。
そのまま彼女に導かれ、話を聞かされ、あとは生きて現実に帰るだけだ、なんてノリになっていた。
自分で探ろうという発想も持たずに。
いや、警戒心だけで済む話ではない。
よく考えてみてほしい。
普通、初めて訪れる基地のリーダーにいきなり殴りかかる者がいるだろうか?
普通、新参の私がデスマッチにも似た模擬戦を了承するだろうか?
敵かどうかもまだ判断が難しい集団と、よくもまぁ疑いもせずに戦えたものだ。
普通ならば、何かしら疑心が生まれるはずだろう。
「思い返してみると、本当に私は、自分の意思で行動してなかったんだなぁって思うのだ・。・」
おそらく、私は道徳心や躊躇といった心や知性すらも、ゼロの状態に戻されていたのだ。
後に残るのは、恐怖も不信も抱かない操り人形。
少しでも元に戻りそうならば、また心をゼロに戻していくだけでいい。
それこそが、ふぁっきゅーれいかが少女に行ってきた行為の正体。
ただ心を制御していくだけで、少女の行動そのものを操ってきた。
―――彼女にとって、都合のいいシナリオまで私を誘導してきたのだ。
「ふぁっきゅーちゃんの言いたいことは分かるなの・。・ そんな私がどうやって正気に戻って真実を掴めたか、不思議でしょうがないなのね・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「大体は想像がつくけどね。・・・あれ、でも田中みこだとやっぱ無理か。私の異能は多次元空間で行われているから―――」
「ふぁっきゅーちゃんが、何を言っているのか分からないなの・。・;」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「私も分からないわ。ねぇ、どうして? いつ正気に戻れたの?」
いつ正気に戻れたか。
思い当たるフシは一つしか無いわけで。
「田中みこさんに連れてこられたあの場所・・・あの黒い煙を吸収した時だと思うなの・。・」
当時は何も思わなかったが、よくよく思い返してみると兆候はあった。
私はあの時、一種の既知感を覚えていた。
それは異世界で目覚めた時のそれと同じだった。
新たな世界に足を踏み入れた感覚。
これまで自分の立っていた場所に異なる世界が現れ、通用していた筈の全てが過去のものへと変容していく感じ。
喩えるならば、私の中の何かが上書きをされたのだ。
そしてそれこそが、あの場における田中みこの目的だったのではないか。
黒い煙を生み出していた謎の人影と邂逅することは叶わなかったが、その黒い煙だけでも恩恵は得られたのだ。
広大な煙の中央に倒れ伏す謎の人物———いったいあれは誰だったのだろう。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・・ああ、納得したわ。田中みこめ、そういうことか。」
「えっ・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「私と会う前に彼と出会っていた、そんな偶然もあるのかしらね。」
ふぁっきゅーれいかと出会う前だと?
確かに一人いたが・・・棒切れを振り回して襲い掛かってきた人物だっけ。
その男が、何か関係があるというのか?
それともさらにその前に―――。
・・・。
私と会う前に、だって?
「ふぁっきゅーちゃんの異能って、人を記憶喪失にすることもできるなの・。・?」
突然降りてきた天啓を、私は震えながら言葉に出していた。
気づいてしまうと止められない。
ああそうだ。
どうしてふぁっきゅーれいかは、一人で無限回路にいたんだ?
キリトさんが言っていたじゃないか。
無限回路を進むときは、フォーマンセルが基本だと。
前線組に向かう任務の時も、私とキリトさんと4410さん、そして田中みこの四人だった。
―――ならどうして、ふぁっきゅーれいかは一人だったんだ?
「ふぁっきゅーちゃんが、私を記憶喪失にしたなの・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・はっ。いいわねあなた。記憶を封印されてもなお、その聡明さは健在か。」
「質問に答えるのだ、ふぁっきゅーちゃん・。・」
もしも、彼女が私の記憶をゼロの状態に戻し、あの部屋に閉じ込めた張本人だったなら?
先程、あいつらは言っていた。
誰が少女を部屋から出したのか、と。
計画にズレが生じたと。
つまり、私があの部屋を出たのは、彼らにとって想定外の事態だったということになる。
そして、私を連れ戻すためにふぁっきゅーちゃんが派遣されたのだとしたら?
だから彼女は一人で迷宮にいたのだ。
彷徨う私と合流する為に。
ん?
いや、おかしい。
ふぁっきゅーちゃんは、あの部屋ではなく隠れ家に連行した。
それはどういうことだ?
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・あなたの想像通りよ。U2部隊全員に指令が言い渡された。脱出したあなたを探し出して連れ帰る、または処分せよってね。」
「・。・!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「そして私は、偶然にもあなたと合流。・・・でも、そこにいたのは普通の少女。あなたが本当にターゲットなのか、疑心暗鬼になるくらいには困惑したわ。」
ふぁっきゅーれいかは拳を握りしめる。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「だけど、あなたの戦闘レベルはかなりの練度を誇っていた。それだけで、疑う余地はできてしまった。」
自分の犯した過ちを、悔い改めるように。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「迷った末に、私はあなたを保護をすることに決めたの。危険因子かどうか、判断がつくまでね。要するに、即時決断が出来なかったのよ。」
「ふぁっきゅーちゃん、それは―――」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「だって、どこからどう見てもそこら辺の人間と変わらなかったのよ? 闇に飲み込まれて自我を失った化物ではなく。」
化物だと?
「私が目覚めた時は、黒焔の力なんて欠片も感じ取れなかったのだ・。・!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「それが最初のイレギュラーよ。誰かがあなたの闇を抑え込み、身体に自由を与えて部屋を脱出させた。」
「待つのだ・。・ 私は、もともと化物だったなの・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「我ながら笑えるわよ。確証を得たのは模擬戦時での出来事。あなたが闇に飲み込まれて暴走した時。そこで初めて、私はあなたがターゲットだと気づいたの。同じスパイとして潜入していた田中みこも、あの時ばかりはビビったんじゃないかしら。いてはいけない存在が、よもや隠れ家内にいるなんて思わないだろうしね。」
「はぐらかさないでなの・。・ 私はいったいどういう存在だったのだ・。・?」
そもそもの話、閉じ込めておく必要があるとはどういうことなのか?
それほどまでに、私という存在は危険なのか?
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あなたが誰かなんて、フリーれいかが最初に言っていたじゃない。」
「フリーれいか・。・?」
倒れ込んでいるリーダーを見る。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「違うわ、彼じゃない。こっちが本物のフリーれいかよ。」
ボス「————( ˘ω ˘ *)」
No.11Kent「(寝ちまってるよ・・・。)」
なん・・・だと?
言っている意味が分からない。
「U2部隊のボスが、本物のフリーれいか・。・!? もっとマシなギャグは無かったのかなのだ・。・!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「そこで倒れ込んでいる男の本当の名前はね、あじれいかなのよ。何故かフリーれいかの名前を騙り、隠れ家のリーダーとしてれいか達を率いていた。」
「あじれいか・・・それがリーダーの本当の名前・。・?!」
No.11Kent「あの赫の瞳・・・何物も寄せ付けない眼光。金髪。れいか界隈を知る者にとっては有名な話だな。恐れをなして逃げたしたくなる眼光が、まさかあんな強力な魔眼になるとはなぁ。奇妙な夢を見る奴もいたものだぜ。」
リーダーが・・・敵勢力のボスと同じ名前を騙っていたというのか?
いったいそこには、どんな思惑があったというのか。
これはどうしても、リーダーを救い出して聞き出さなければいけないだろう。
No.10セイキン「まあ、そこはどうでもいいでわけでして!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「思い出したんじゃないかしら? ボスが何と言ってあなたを歓迎したのかを。」
「それは―――」
もちろん覚えている。
だけどその言葉は、容易に信じられるものでは無いからこそスルーしてきた。
『こうして顔を合わせるのは初めてぽよね(*´ω`*) まさか自分と会話するハメになるとは、さて、どうしたものぽよか・・・(*´ω`*)』
確かに、こう言ったのだ。
「私は―――フリーれいかなの・。・?」
つまりは、そういうことになる。
ボス「厳密に言うと違う( ˘ω ˘ *) ・・・まったく、二人で長話するから眠くなってきた( ˘ω ˘ *)」
No.11Kent「(いや、寝てるだろこれ・・・。)」
またもや、あいつの気配が変わっている。
気配と同時に世界が塗り替わった感触があり、これで三つの『世界』が顕在したことになる。
その変化は、あまりにもフリーダムだった。
しかし。
そんなことなど、どうでもよくなるくらいの衝撃が、次の瞬間、私を襲った。
あいつはさり気なく、それでいて堂々と。
―――私の正体を明かしたのだ。
ボス「私はフリーれいかの中の躁状態、お前はフリーれいかの鬱状態( ˘ω ˘ *) 『双極性障害(躁うつ病)』という、フリーれいかに宿っていた病状( ˘ω ˘ *) 元々、私たちは二つで一つの存在だった( ˘ω ˘ *)」
「————は・。・?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あなたの正体よ。フリーれいかの中に巣くってた鬱霊。それがあなたなの。」
なんだ・・・それは・・・?
鬱霊って、私はそんなあやふやな存在なのか?
フリー(躁)「ふぁっきゅー、この子の記憶を元に戻してやれ( ˘ω ˘ *)」
―――!?
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・いいの? この子、壊れるわよ?」
フリー(躁)「その方が手っ取り早い( ˘ω ˘ *)」
「よ、余計なお世話なのだ・。・!」
そう言いながらも、動揺を消すことができない。
「私の黒焔、負のエネルギーを力に変える異能・・・これは負の感情をイメージさせる『鬱霊』だからこそ、発現した異能だったてことなの・。・?」
記憶の修正など必要ないと言わんばかりに、私は必死に言葉を並べていく。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「そういうことになるんじゃない? でもまさか、鬱の闇を攻撃型の異能にまで発展させてしまうなんてね。鬱に飲み込まれて、自我を持たない人形にされて、あの部屋に閉じ込められていただけの存在だったのに。」
先程、あの覆面男が言っていた。
『面白い存在になりましたね・・・』と。
奴らにとって、私という存在はいる筈が無い存在なのだ。
――—誰かが私の闇を抑え込み、身体に自由を与えて部屋を脱出させた。
―――鬱霊という存在ではなく、新しい生を与えて。
―――家でテレビゲームしていた、という偽りの記憶を与えてまで。
私はフリーれいかの鬱霊と同時に、この異世界で生まれた全く新しい人間でもあるのだ。
しかしそれでも、私の原点が鬱霊であることに変わりはないだろう。
事実私は、模擬戦時に『抑え込まれた筈の鬱霊』に飲み込まれてしまった。
その時は、ふぁっきゅーれいかと田中みこが二人掛かりで抑えてくれたようだが。
いや、もう一人、抑えるのを協力してくれた人がいた。
「分からないことがあるなの・。・ フリ、いや、あじれいかさんのことなのだ・。・」
フリー(躁)「私達と同じ名前を騙っていた男か( ˘ω ˘ *) 正直彼のことはよく分からない( ˘ω ˘ *)」
あじれいか、隠れ家のリーダー。
謎が解けていくごとに分からなくなってくる。
名前を騙ってまで、一体何がしたかったのだろうか。
「それに・・・私が『全れいかのオリジナル』と呼ばれているのはどういうことなのだ・。・?」
あじれいかの『威嚇赫瞳』と、ひまれいかの『思考透視』だったか。
何故か、私にも扱えた異能。
理由は私が『全れいかのオリジナルだから』だと、彼らははっきりと言っていた。
フリー(躁)「簡単だよ( ˘ω ˘ *) どれも君が生み出したれいか達だ( ˘ω ˘ *)」
―――えっ?
生み出した・・・?
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「おかしいとは思わなかったの? 今まで会ってきた有名れいか配信者たちが、あんなにも人格が変わっていることに。人間関係も滅茶苦茶で、たちの悪い二次創作みたいでしょ。ただのゴミ集団が、異能を使って英雄気取り。見ていて腹が立つわ。ふぁっきゅーって感じね。」
No.11Kent「俺らU2部隊と、とある数人を除いては、だけどな。俺らは本物の人間だぜ。それ以外はみんな『造り物』ってわけさ。」
真中あぁあ「えっ? えっ?」
ボス「それこそが、鬱霊の本領ともいえる力( ˘ω ˘ *)」
情報整理できていない私を無視し、こいつらは言葉を紡いでいく。
そしてそのまま、最低最悪の真実を言ってのけたのだ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「答えは単純よ。あなたの妄想、いや夢とも言えるのかしら。」
ボス「君が見てきたほとんどの人間は、君が作り出した妄想だ( ˘ω ˘ *) 実際には存在しない、架空の人物なんだよ( ˘ω ˘ *)」
真中あぁあ「えっ!? えっ!?」
No.11Kent「・・・とはいっても、肉体と精神を与えられている以上は、人間とそう変わらないんだけどな。この小学生メイドみたいに、別個がそれぞれ意思を確立している。かといって、それはオリジナルでもない。そういう妄想を糧にして、お嬢ちゃんが作りだした人間なのさ。」
「そんな・・・話、信じないのだ・。・」
だってそれじゃあ、隠れ家で会っていた市民たちや名前持ちの皆も。
リーダー、ふじれいかさん、スカイれいかさん、ひまれいかさんに4410さんも!
あの会議に出ていた50人越えのれいか達も!
―――彼らには帰る場所など何処にもない。
あんなにも、現実に帰りたいと願っていた彼らが・・・私が生み出した妄想!?
No.0■■■■「正確には、世界が生み出した妄想だ。」
えっ?
「————世界・。・?」
フリー(躁)「鬱の君には、負のエネルギーを操れる力がある( ˘ω ˘ *) それは時に、世界に蔓延る負のエネルギーすらも、操って使役することも可能( ˘ω ˘ *)」
そこまで言われてハッとする。
まさか、いや、それこそが―――。
「私は、世界が夢見た妄想通りに、様々なキャラクターを具現化していたなの・。・?」
フリー(躁)「その通り( ˘ω ˘ *) 人は誰しも夢を見る( ˘ω ˘ *)」
束の間の寂しさと、現実のつまらなさを妄想で埋め、逃避するために。
れいかのリスナー達において、それが一番楽しい遊びであったから。
どうして現代に生まれてしまったのかと、彼らはふと思うのだ。
フィクションの御伽噺のように、英雄譚に出てくるヒーローのように。
そこで生きる者に惹かれ、出来ることならば自分も特別な力が欲しい、異世界転生がしたいと彼らは揃って心酔し、夢を見る。
それは目の前に無いものを強請っているだけの、子供の我儘に過ぎない。
しかし、彼らはどうしても夢見てしまうのだ。
その夢が叶えば、どれほどの幸せが己を支配するのだろうと。
その堕落した負の心情を、フリーれいかの『躁うつ病』が感知した。
「そういう、カラクリなの・。・? 世界に滞在する負の妄想を、私がどうにかこうにか操って、様々な異能を持つ人間たちを生み出したってことなの・。・?」
私が、全れいかのオリジナルと表現されているのも、つまりは私が彼らの創造主だからということになる。
であるからこそ、私には彼らの異能が使えたのだ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「異能持ちだけではないわ。あなたは数千にも及ぶ市民たちの生みの親でもある。ここに来るまでに見なかったかしら? 彼らの死骸なんて残ってなかったでしょ? どこかしらで、黄金の粒子が照らし出される描写が存在したはず。」
No.0■■■■「と言っても我らU2部隊と、『現実世界の失われし記憶』を持つものは例外だ。我々がここで死んだところで、黄金の粒子は噴き出てくるまい。」
「・・・死んだあと、黄金の粒子が出てくるキャラは―—―全て私の妄想体だったということなのね・。・」
なんてこった・・・。
事ここに至って、嘘をつくとは思えない。
鬱霊である私が、世界中の妄想や夢を元に、望まれた通りに『異能持ち』を作り上げていく。
人を増やしていき、隠れ家という国を創り、いたずらに壊していく。
それって、そんなの、世界を創造する神そのものじゃないか―――!
フリー(躁)「この異世界は、私と君、二人で作り上げた世界なんだよ( ˘ω ˘ *)」
「・。・!?」
フリー(躁)「人材方面が鬱の君、シナリオが躁の私( ˘ω ˘ *) 地形の方は特に拘ることも無かったから、適当に無限迷宮にした( ˘ω ˘ *)」
「シナリオ・。・?」
フリー(躁)「これまで繰り広げられてきたバトルは全て、私がセッティングしてきた( ˘ω ˘ *) 対戦カード、対戦場所、世界のどこかで夢見た妄想を私が叶えてやっていただけのこと( ˘ω ˘ *)」
No.11Kent「俺と北上双葉でお嬢ちゃんと戦ったあのバトルも、誰かがそういうバトルを見たいと夢見た結果、実現したバトルなんだぜぇ? この異世界はそういう風に出来ているのさ。」
「行われてきたバトルが・・・全て人類が望んできた故に起きていた出来事・・・もう訳が分からないのだ・。・;」
とにかく整理しよう。
フリーれいかの中に巣くう鬱霊と躁霊、合わせて『躁うつ病』。
それこそが、自我を持ち異世界を作った元凶。
『躁うつ病』の能力は、人類が夢見る妄想劇を軸に、異世界を作り上げる能力。
これまでに出会ってきた人物は、言わば人類の妄想から生まれたもの。
繰り広げられてきたバトルは、これも言わば人類の妄想から生まれたもの。
鬱霊である私が人物を、躁霊であるあいつがバトルを担当。
世界中で誰もが夢見ていた、現実逃避ともいえる負のエネルギー利用し、異世界を一から創り上げたのだ。
私にそんなことをした記憶が一切無いのは、ふぁっきゅーれいかの時間逆行で記憶をゼロに戻されていたと。
う~ん・・・。
世界のあらましについては、未だ解けていない謎もあるが理解はできた。
しかし、いったいなぜそんなことをしたのか―――動機が全く分からない。
「お前たちは何がしたいのだ?・。・? こんな異世界を作って、面白おかしく殺しあって、最終目的が全然分からないのだ!・。・!」
フリー(躁)「それをおまえが言うのか(^ω)^」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
世界が塗り替わる。
あいつの雰囲気もガラリと変わるが、怯むわけにはいかない。
「っ、戦争が好きなの・。・? 争いを求めているなの・。・? 敵味方で血を流すことをッ、おまえの存在を引き金に、どれだけの命が散ったと思っているのだ・。・!」
妄想体だろうが関係ない、彼らには全員に命があった人間だ。
数多くの人命が失われてもなお、成し遂げたい計画があるというのか?
そう問いかけた質問に、そいつは堂々と返した。
フリー(躁)「勘違いをするな、俺は戦争が好きなわけではない(^ω)^」
「なっ、どの口が言うのだ・。・!」
フリー(躁)「差別、貧困、虐げられる弱者・・・一言で言えば不幸(^ω)^ それらを俺は憎んでいる(^ω)^」
「・。・!?」
フリー(躁)「だが同時に、こうも思う(^ω)^ そうした理不尽があるからこそ、人は強く美しくなれる(^ω)^ 友のため、家族のため、身を捨ててでも許せぬ悪に立ち向かう心。恐怖に屈さず立つ信念(^ω)^ つまりは勇気だ、覚悟だよ(^ω)^」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・。」
フリー(躁)「例えば、そうだな・・・『女性参政権』というものがあるだろう(^ω)^ お前はこれをどう思う(^ω)^?」
「それは・・・っていきなり何なのだ・。・?!」
フリー(躁)「答えろ(^ω)^ 鬱霊とて、言葉の意味ぐらいは知ってるはずだ(^ω)^」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド。
くそっ。
女性参政権・・・私にとって答えは無論、肯定だった。
「素晴らしい試みだと思うなの・。・ 女性にも人権が認められたのだ・。・ 否定する材料は何処にもないなの・。・」
フリー(躁)「同感だ(^ω)^ 女も同じく人間である(^ω)^ 生きとし生ける権利がある(^ω)^ 愛した男を己で選び、子を産み育てる自由はもちろん、男のように社会で戦う自由もある(^ω)^ 参政権とはそれが公に認められた第一歩だ(^ω)^」
何百年前の日本では、女は常に男と家の所有物だった。
いわば、人として格下であるという扱いを受けてきた歴史も実際にあった。
やがてその男尊女卑は、憲法で保障されたことを皮切りに、過去のものへと変わっていったのだが―――。
フリー(躁)「もう一つ問おう(^ω)^ わざわざそんな法案が生まれたのは、いったいどうしてだと思う(^ω)^? 単に女が強くなったからか(^ω)^? 国際化の流れを受けた(^ω)^? それだけの理由ではあるまい(^ω)^」
―――物事の根底には、綺麗事で塗装された愉悦がある。
それが何か言ってみろと、にこやかな視線が訴えかけてきた。
分からないわけじゃない。
あまり認めたくない概念だが、つまりこういうことか?
「・・・社会的弱者に手を伸ばすことを、高潔だと思うからなの・。・?」
フリー(躁)「そうだ(^ω)^ 弱きものへと施す、それは端的にいって快感であり、だからこそ全世界で流行した概念だ(^ω)^ 未開の土人に文化を授けてやるのと同じだよ(^ω)^ 傲慢で、かつ癖になる(^ω)^」
ゲームの攻略法を知らない人に、攻略法を教えてやるといったものだろう。
確かに、人にはそういった習性が存在するのかもしれない。
フリー(躁)「無論、それだけがすべての理由ではないだろうが・・・左巻きの思想が富裕層から生まれやすいのは、決して無関係ではあるまい(^ω)^? 世界全体が豊かになれば、先進国はこぞってそういう
真中あぁあ「左巻きってなぁに?」
No.11Kent「・・・小学生は知らなくていいことだ。」
フリー(躁)「よって、それは時と共に少しずつ加速していった(^ω)^ 女に権利を、非人に賠償を・・・ならば次は、未成年や異民族に特権を、か(^ω)^? 聖者になるのがそれほどまでに恋しいかよ(^ω)^ 今の時代ではより顕著な問題だ(^ω)^」
「それは――――」
フリー(躁)「分かるはずだ(^ω)^ 人権、訴訟、見当違いの愛護精神。人を襲う熊を尊重せよと主張する部外者(^ω)^ イルカや鯨を、まるで人間と同等の価値があると見なす自称愛の戦士たち(^ω)^ 畜生を人と同列に扱い、悪党の裁きにさえ見当違いの不平不満が噴出してはいないだろうか(^ω)^ 被害者に対して、加害者を許せと強制する偽善者は声だけ大きくなっていないか(^ω)^? まとめてアホ、脳に蛆が湧いている(^ω)^」
No.10セイキン「・・・・・。」
フリー(躁)「心当たりがあるだろう、厚かましくなっていく人間の姿を(^ω)^ そして、その醜さにだ(^ω)^ 己は生きる権利がある、社会や法に守られている、高度文明化された庇護の中、覚悟なく糞を口から垂れ流す愚図の群れ(^ω)^ 安全圏の中だけで威勢よく、考慮もせず、ただ図々しい形ばかりの講釈を垂れる人畜ども(^ω)^ 認められるものではない(^ω)^」
No.0■■■■「・・・。」
フリー(躁)「いいか、相手を扱き下ろすなと言っているわけではない(^ω)^ ただ他者を貶すというのなら、その人物と直接向き合い、その目を見ながら罵倒を浴びせるだけの覚悟・・・それを持てと言っている(^ω)^ 名前すら書かれていない手紙や電報越しの言葉などに、何の力が宿るというのだッ(^ω)^? 目の前には異なる思考回路を備えた他者がいる(^ω)^ 殴られるかもしれんし、社会的に制裁されるかもしれん(^ω)^ しかし、それを肝に銘じて行動するのが、相手に対する礼儀だろうが(^ω)^」
静かに、だが熱を伴って語るこいつの言葉が、王の間を静かに揺らした。
そして驚くことに私は心から―――そう心の底からこいつの言葉に共感していた。
過激な切り口ではあるものの偽りなく、こいつの言っていることをその通りだと感じているし、納得できる。
それは当たり前で大切なことだ。
要は現代の人々に対する覚悟と責任の提唱だ。
安全圏で吼える無責任な発信や、恥を知らない掌返し。
どうせ何も起きないだろうと高を括っているが故の図々しさが、許せないと言っている。
匿名性、権利、自由平等と・・・事があるたび口にされるあらゆる保障と守りの数々。
それは今や過剰であり、今の時代を見れば過保護すぎるのだと苦言を呈していた。
二十一世紀の人間として、耳が痛いとさえ思う。
確かにそれは、昔の時代にはなかったはずの概念だ。
間違ったことをすれば見知らぬ相手からだって当たり前に叱られるし、今より危険が多かったぶん、自己責任という面はそれこそ多岐に渡っていたはず。
安全がもたらす腐敗。
それを時代の推移による劣化と呼ぶなら、否定することは出来ない・・・。
そして逆説的に、見えてくるものがあった。
そうか、こいつは・・・。
フリー(躁)「だからこそ分かる(^ω)^ お前は今、決死の覚悟で俺の前に立っている(^ω)^ その気概と勇気は素晴らしい(^ω)^」
私のように、覚悟を抱いて、勇気を武器に、自分と相対する人間を愛おしいと感じているんだ。
フリー(躁)「だが(^ω)^!」
そこで一際大きく言葉が紡がれる。
こいつの視線は尊いものを眺めるように、熱く雄々しく滾っていた。
フリー(躁)「その勇気という輝きを発揮できたのは『異能の力』があったからだ(^ω)^ 数々の戦いと試練が、お前を鍛え上げた(^ω)^ 俺の眼前に至るまで、その美しさを練磨した(^ω)^」
「・。・!」
フリー(躁)「そして、逆にこうは思わんか(^ω)^? 帰りたがっている日常とやら、安穏とした日々のいったい何処にその強さは生かされる(^ω)^? 強さを決意を輝きを、充分に発揮できる機会はあるのか(^ω)^? いいや、なかったはずだ(^ω)^」
異能―――。
確かに、これまで戦う意思を持てたのは、そういった摩訶不思議な夢が原因でもあるだろう。
いわば勇気の根源とも言える要素であり否定できない。
フリー(躁)「だから―――俺は魔王として君臨したい(^ω)^」
「・。・!?」
さらりと告げられたその言葉に、またしても私は呆けてしまう。
フリー(躁)「俺に抗い、立ち向かおうとする
「おまえは―――」
いよいよもって絶句する。
こいつは人の命を蔑ろになどしてはいなかった。
むしろ多大な期待をかけているんだ・・・それこそ常軌を逸するほどに。
フリーれいか自体は、地獄を望む者ではない。
こいつが求めているのはあくまで人の世、現実の
それこそ尊くあるべきなのだと、私達『躁うつ病』は願い焦がれ、至った果てにこうなった。
フリー(躁)「だからこそ、俺は現実世界そのものを異世界に転生させることに決めた(^ω)^」
「はぁ・。・?!」
その意図を読み取って、今度こそ眩暈を起こした。
こいつはなんていうことを考えるんだ!?
「人類すべてを、私たちのような『異能持ち』に変える気なの・。・!?」
そうだ、と肯定した姿に揺るぎない気概を感じる。
確かに、異世界を作った張本人ならば、手法はどうあれやってのけるだろう。
こいつは本気だ、どうしようもなく狂っている。
そんなことを行えばいったいどうなるか、正気の沙汰とは思えないし想像したくもない。
世界征服の方が、まだ可愛げがあるだろう。
理性的で話が通じるだけに、どうしてもその本質に気圧される。
こいつは邪悪でもなければ屑でもないが、自由すぎる大馬鹿者だ。
人間愛に狂っていて、手の付けようがない。
フリー(躁)「俺は人の勇気を死なせたくはない(^ω)^ そして想いを貫くためには、常に相応しい舞台が必要だ。試練、難敵、立ちふさがる壁、それを与えようというのだよ(^ω)^ 異世界ならば、肉体的な優劣も差は無くなる(^ω)^ 重病人であったとしても、描いた決意と異能によっては、誰もが等しく勇者になれる(^ω)^ それで俺に立ち向かうのもよし、異なる道を選ぶもよしだ(^ω)^ そうして世界中に神と魔王を増量させる(^ω)^」
「・。・」
真中あぁあ「ちょっとお腹が痛くなってきた・・・トイレ行っていいぷり?」
No.11Kent「我慢しろ。」
―――こいつの言っていることが、仮に実現したならどうなる?
国は、社会は、いいや極論、地球は滅ばずにいられるのか?
今まで体験してきた数々の異能、それが際限なく現実世界を犯していく。
そうなれば、秩序など数年だって保つ筈がない、既存文明は崩壊するだろう。
破滅の荒野が広がる中、残るのは心身とともに雄々しい者だけ。
こいつの言う勇者とやらしか生存できないし、それにしたって安全保障は何処にも誰にも存在しない。
そう、当のフリーれいか本人にさえも。
確実に何かが起こり続ける世界なのだ。
全世界で超人乱神が入り乱れ、覇者と覇者が競う世の到来である。
すなわち―――
フリー(躁)「それこそが、輝く者が相応しい光を掴み取れる新たな世界(^ω)^ 俺の目的である(^ω)^!」
「・・・だからこその、U2部隊や私が生み出した人材達なのね・。・」
フリー(躁)「そうだ(^ω)^ 人類に揺さぶりをかけるために選出した人材、つまるところ兵器だよ(^ω)^ U2部隊とは、俺と関わりの強い者共を集めた精鋭だ(^ω)^」
U2部隊の『U2』、正しい読み方は『うーつー』、つまり鬱。
なるほど、名前に偽りなし。
魔王を守る忠実な下僕という訳か。
No.0■■■■「実際に、現実世界への侵食は僅かだが始まっている。U2部隊のNo,4が、その役割を担っている。」
No.10セイキン「いわばこの異世界は、計画のシミュレートをするために生み出された実験施設だったわけですけれども! 成果は上場、こうして殺し合いの事前演習も堪能できました!」
戦慄するには充分だった。
つまり、奴の最終目的は―――今のような殺し合いを、全世界規模で果てしなく繰り返すことなのだ。
こいつが満足するまで。
それが美しいから、勇気、覚悟、ふざけるなッ!
自然と拳が固く握りしめられた。
今、はっきりと理解したよ。
フリーれいかの中の躁・・・おまえは倒さなければならない人間だ。
私が同じ媒体の鬱霊だからでも、使命感だからでもない。
同じ一人の人間として、私はその悪夢を否定したい。
「勇気を持つ人間を増やしたいから、世界を破滅に向かわせたい・・・お前のやろうとしてることは意味が無いのだ・。・! 今を生きる人にだって、勇気と呼べるものは存在するなの・。・!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「怒った? でもちょっとよく考えてみて。勇気、勇気と言うけれど、私たちの二十一世紀でどんな勇気を見せられるというの? 当たり前に毎日三色食べられて、ごく普通に学校に行って、それ相応に頑張って社会的地位を得ようとするのがそんなに偉い? みんなやってることじゃないの。」
「ふぁっきゅーちゃん・・・何が言いたいのだ・。・」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「好きな人が出来て、好きになってもらうために頑張って、結ばれても気持ちを維持させるためにまた頑張って、結婚して子供が出来たら、やっぱりまたまた子育てに頑張って・・・うん、努力してるね。だから何? あなたのいう勇気って、つまりそういうことのための努力でしょう? そういうことを上手く回すための強さでしょう? そんなに凄いかな、分からないわ。」
今の時代が閉塞的で、情報過多だから相対的で。
夢もロマンもたいしてないから、希望も小さい。
だから、生きてて甲斐のないお先真っ暗。
これはこれでとても過酷な、人類史上稀に見る暗黒期である―――。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「だからそこで頑張っている私らは凄いぞ。下剋上の戦国時代や、未開な原始時代にだって生き辛さでは負けてないんだ。・・・なーんて、もしかすると思ってる?」
「———。」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「まさか、ねぇ。いくらなんでも、そんなことは、ねえ?」
ふぁっきゅーれいかは微笑する。
彼女が何を言いたいのかは理解できるが、それはあまりにシニカルすぎる喩えではないのか。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「答えて。本当に現代先進国の生活が、何百年も昔に比べて遜色ないほど大変だと思ってるの?」
畳み掛けられるように問われる。
ともあれ、これに答えなければ話は進まないらしい。
「・・・それはもちろん、思わないなの・。・」
いくらなんでも、人権の概念さえなかった時代のほうが生きやすかったなんて思わない。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「そうよね。考えるまでもないことよね。まともな想像力があったら誰でも分かるわ、当たり前。」
No.11Kent「・・・けっ。」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「たまーに見るけどね、そういうこと言ってる人。だけどそんな人たちも、きっと本音のところじゃ分かってるのよ。それが証拠に、じゃあお前、明日からアフリカだの中東だのアマゾンだのに引っ越せよ、て言われたら嫌がるもんね。なんやかんや理屈はつけるだろうけど、結局のところ捨てられないだけの癖にね。つまらないって散々言ってた、文明的な諸々が。そこで得た夢やロマンや
「・・・お前たちが選ぶ人間や時代意外に、勇気も強さも語る資格は無いとでも言うなの・。・?」
いや、問わなくてもわかる。
こいつらU2部隊も―――本気で世界を転生させるつもりなのだ。
生き死にの極限状態でなければ勇気も強さも語れない、そんな極論を掲げているあいつに全面協力する気でいるのだ。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「まぁこれは例の一つよ。そんなに気を悪くしないでね。」
「ふぁっきゅーちゃん、分かってるなの・。・? あいつの望むとおりに世界を破滅させることが、本当にふぁっきゅーちゃんがやりたいことなの・。・!?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・私達U2部隊はね、全員がやり直したいと願ったからこそ、この異世界に、ボスに召喚されたのよ。あなたの妄想存在としてではなく。」
No.11Kent「皆が皆、同じ理由じゃないけどな。俺だって、現代社会をリセットしてでも渇望がある。お嬢ちゃんが会ってきた北上双葉や、日常演舞のオッサンだって、全てを承知で滅びに手を貸している。」
No.0■■■■「それほどまでに、世界は腐っているということだ。お前が思っているよりも根深く、夢見る奇形が増えていく現代はもう取り返しがつかない。」
「お前らに聞いてないのだ・。・! ふぁっきゅーちゃん・。・! そんなにやり直したいことって、一体何なのだ・。・!?」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「———顔出しした事実の消去。」
「は・。・?」
ふっ、と彼女は自傷気味に笑う。
―――そこからの変貌は速かった。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「あなたには分からないわよね。私がどれだけの苦悩を背負ってきたか。一時の感情で決断した流れが、後に取り返しがつかなくなることもある。私はその苦悩を根本から変えたいの。メタボ三十代糖尿病パチカス次郎ハゲデブだけの未来が無いオッサン体形をッ! 顔出しする前の栄光をッ! 私は取り戻したいだけなのよッ! 世界を混沌に染め上げてでもッ!! 糞、糞、クソどもめッ!! 許さないわよ、あいつらっ、人のことを深海魚だの好き放題言いやがってッ! いつか目に物を見せてやりたいとずっと願ってた! そうよ・・・私は本家が引退してから唯一無二のNo.1、れいか界のNo.1なの! あんな顔を全世界に晒した醜態、あってはならないのよッ! 今の私の姿がッ、このスリムな女性の体形こそがれいかッ! 夢見たJD! 私こそがッ、誰にも負けないNo1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤなのッ!! ああぁあああぁああああぁあああぁああッッ!!」
「ふぁ、ふぁっきゅーちゃん――――」
この時の私は、いったいどんな顔をしていたのだろうか。
説得など可能なのか、目の前の滑稽な姿に対してどう接するべきなのか。
今まで優しく接してくれていた姿とは、何もかもが正反対。
同時に、私の元へと集まってくる負の感情エネルギー。
彼女の、黒歴史ともいえる背景が流れ込んでくる。
このとき初めて、ふぁっきゅーれいかという個人の負を知ることができたのだ。
狂人なんて生易しい、呪いの言葉を撒き散らすその姿は、人間という枠すら超えた悪魔の思念で、魂だった。
それほどまでに憎いのか。
それほどまでに許せないのか。
何にせよ、ふぁっきゅーれいかから伝わってくる怒りは桁外れなものだった。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「はぁ・・・はぁ・・・これでいい加減分かったでしょ? 世界を犠牲にしてでも、私達には叶えたい夢があるの。」
フリー(躁)「さあ、そろそろ語りも終焉といこう(^ω)^ 俺達は全てを明かしたぞ(^ω)^ 覚悟をもって本懐を晒した(^ω)^」
立ち尽くす私に行儀のよい微笑を向けながら、あいつは玉座に座り込む。
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「元々のあなたは鬱霊として、闇を撒き散らすだけの化物だった。異世界を作り出すという大役を担ったあなたは、そのままあの部屋に監禁するしかない存在だった。」
No.10セイキン「でもそれが今では、何故か当たり前のように、普通の一般人として存在できている!」
No.0■■■■「自らの鬱だけではなく、周りの負エネルギーを操れるその力。本当に素晴らしい。用なしの化物から見違えましたよ。」
No.11Kent「計画にお嬢ちゃんはもう必要ねぇ、はずだった。・・・けどせっかく力を得たんだ。ここまで手の内を晒したんだぜ。俺らと協力する気はねぇか、お嬢ちゃん?」
U2部隊の四人が、私を取り囲むように移動していく。
真中あぁあは、フリー(躁)に付かず離れずぴっとりと立ち尽くしている。
「私をッ、好きに出来るとは思わないことなのだ!・。・!」
お前らの計画などに、私が賛同するはずないだろう!
緊張と弛緩が融合した空気を吹き飛ばすかのように、私は周りに向かって吼えていた。
今にも殴りかからんばかりの剣幕で戦闘態勢を取る。
Kentの黒穴はともかく・・・それ以外のメンツは難敵揃いで、どんな戦法をとってくるか想像できない。
短期決戦を視野に入れ、ありったけの黒焔を噴出してやろうかと思い立った所だった。
スノーれいか「ご無事ですか!? ・・・こ、この状況はっ!?」
増援だ―――そう思いかけた時だった。
ぐさりっ。
フリー(躁)「(^ω)^!? ————き、さまッ(^ω)^!」
真中あぁあ「背中が隙だらけだったもので・・・つい。」
「・。・!?」
No.11Kent「あ、あのメイド! どこからそんな短剣を!!?」
玉座ごと貫いた一突き。
よもや真中あぁあが、敵のボスを奇襲するという前代未聞の事態が起きていた。
真中あぁあ「私があなたのメイドになると本気で思ってたぷりぃ? 私の主は特殊保護部隊隊長、スノーれいか様ただ一人ぷり!」
彼女は高らかに宣言し、軽やかな体捌きでスノーれいかの傍まで降り立つ。
真中あぁあ「私は特殊保護部隊の一員、真中あぁあぷり! スノーれいか様を裏切ることだけは絶対にありえないぷりぃ!」
No.11Kent「(・・・いや、あんたさっきまでノリノリで寝返ってたじゃん!)」
「(裏切ったはずじゃなかったなの・。・?;)」
スノーれいか「(姿が見えないと思ったら・・・やはりというか何というか。
後でお仕置きですね。)」
ともあれ、僥倖には違いない。
あれほど威圧感を放っていたフリー(躁)は、自らの胸を抑えて蹲っている。
No.0■■■■「ボス!! お怪我はありませんかッ!!」
覆面男が、玉座の傍まで辿りつく。
―――すると、またもや世界が塗り替えられた。
フリー(躁)「憤怒の相がダメージを負ったぽよ(*´ω`*) でも安心するぽよ(*´ω`*) 私にはまだ六つの相があるし、受けたダメージも数刻経てば回復するぽよ(*´ω`*)v」
何事も無かったかのように、奴の傷は回復していた。
フリー(躁)「妄想体の身で怖いぽよ(*´ω`*) 外見が好みだから生かしておいてやろうと思ったのに、この私に向けて刃を振るうとは・・・恐ろしくてメイドにできないぽよぉ(*´ω`*)」
じろりと、その眼は真中あぁあを捉えていた。
それと同時に、両手を天高く掲げている。
―――なにかするつもりだッ!
真中あぁあ「あ、あわわわわわわ;;;」
「あの男がU2部隊のボスなのだ・。・! スノーれいかさん、乱戦の準備をするなの・。・!」
スノーれいか「りょ、了解よっ!」
フリー(躁)「こいつの異能は響きだけならお気に入りぽよ(*´ω`*) 戦闘開始の合図みたいで、実に悪くないぽよ(*´ω`*)」
そしてそれは―――発動した。
フリー(躁)「
力の奔流が駆け抜ける。
馬鹿なっ、それは日常演舞の異能ッ―――!!
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「何を驚いた顔してるの。扱えて当然じゃない。異能の全てを使用できるのは、何もあなただけの専売特許じゃないのよ? あなたとボスは同じなのだから。」
「ッ―――スノーれいかさん、真中あぁあさん、何処に消えたのだ・。・!? お、お前、二人をどうしたのだ・。・!?」
二人だけが、忽然と姿を消していた。
あの開園空間とやらの異能の正体は、結局のところ全貌が掴めていない。
現状から判断する限り、どこか別の舞台へと隔離されたということなのか?
フリー(躁)「彼女らは彼女らで、特別な対戦相手を用意したぽよぉ(*´ω`*) 世界が望んでいる通りの結末を与えるために、誰にも邪魔は入らせないぽよ(*´ω`*)」
これこそが、フリー(躁)の真価とも言える力の正体である。
対戦環境を問答無用で整えてしまう、いわば世界を自由に用意する能力。
どれだけ達成困難な条件だろうと関係ない。
彼はどんな手を使ってでも、その妄想劇を形にしてしまう。
フリー(躁)「あのスノーれいかという原作は、かなり嫌われているようだぽよねぇ(*´ω`*) となると、この対戦相手ならばぴったり役目を果たしてくれるはずぽよ(*´ω`*) 因縁もあったようだし、何より本人が望んでいたことぽよ(*´ω`*) こっちの彼は・・・再登場がそんなに望まれていないぽよね(*´ω`*) まぁ私もオタさくは嫌いぽよ(*´ω`*) 彼を再配置する機会は、もう一生無いぽよ(*´ω`*)」
「さ、さっきから何をブツブツと言っているのだ・。・! 二人は無事なのかどうか聞いているのだ・。・!」
No.10Kent「他人の心配ばかりしてていいんでしょうかねぇ!」
私に立ちふさがる、一人の男。
フリー(躁)「Kentは鬱霊との相性が特に悪いぽよ(*´ω`*) となると、番号順で次はこうなるわけだぽよ(*´ω`*) ・・・おっと、これもまた何処かの誰かが夢見た対戦カードみたいぽよね(*´ω`*) ちょうどいいぽよぉ(*´ω`*)」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「ボスの命令ならまぁ、仕方ないわね。」
No.0■■■■「成る程、金魚の糞同士が争い合う訳か。No.1に洗脳されてきた少女と、私の後を追うだけしか能が無い弟。これは面白い・・・。」
ふぁっきゅーれいかと覆面男が、壁際の方へと遠ざかっていく。
この状況、私がこの男と戦う以外に道は無いということか?
「くっ・。・!」
No.10セイキン「否定はしませんよぉ! 私はそれでのし上がって来ましたからねぇ! 私はU2部隊No.10、どうもセイキンです! どうやら私たちは、タイマンを繰り広げなければならない訳ですけれども!」
セイキンもまた、戦闘態勢を取る。
・・・No.10か。
確か北上双葉はNo.9で、あそこのKentはNo.11だった。
かつて二対一で戦った彼らよりも、実力が上なのか下なのかまだ分からない。
だけど―――上等だよ。
「長々とお喋りするよりは・・・身体を動かす方がやりやすいなの・。・! セイキンだろうが何だろうが、超えてみせるのだ・。・!」
No.10セイキン「私も参りますよぉ! これまで積み上げてきた努力の結晶、貴女如きに止められるとは思わないことですねぇ!」
No.1ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・はっ、努力の結晶ね・・・。馬鹿らしい。」
フリー(躁)「ふっふっふ、双方の勇気と覚悟・・・見せてもらうぽよぉ(*´ω`*)」
私は身体に黒焔を展開させ、来たる死闘に備えるのだった―――。
―――開園空間
スノーれいか「ここは王の間と地形が同一の、いわゆる別空間でしょうか?」
真中あぁあ「な、なんだか嫌な予感がするぷりぃ・・・。」
その時だ。
大地が、小刻みの揺れを刻んだのは。
スノーれいか「・・・え?」
最初は小さく、小さく、けれど徐々に、着実に。
秒刻みで肥大化していく、戦慄を呼び覚ます地の鼓動。
真中あぁあ「な、なんなのこの揺れはっ! す、スノーれいか様!」
スノーれいか「私から離れないで下さい、真中あぁあさん。複数の気配・・・どうやら何者かに囲まれているようです。」
真中あぁあ「か、かしこまる~;」
―――そして彼女らは対面する。
世界が夢見る妄想劇が、どれほど凶悪で残酷な物なのか。
この世の邪悪とも呼べるその好奇心を、彼女らは身をもって味わうことになる。
少女 vs U2部隊No.10セイキン
スノーれいか&真中あぁあ vs ??????
二つの戦いの火蓋が、今、切られようとしていた―――。
つづく。
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