第17話 全滅へのカウントダウン 後編


一つ、現代の話をしよう。

私が体験した一例として、君たちにも聴いてほしい。

今の現代が如何なるものか、これからの戦いに向けて必須のことだと思うからな。



まずはそう、講道館というものがある。



柔道の、ほらあれだよ。

嘉納治五郎が興したあれだ。

曰く、近代体育の父、五輪大会へも参加した偉人。


『殺人術を競技の枠に落とし込むことで、争いによる陰惨さを純粋な心身練磨の教えに変えた男。』


その理念を貫くためには、生半可な覚悟では成せなかったのだと想像に難くない。

勇気ある決断だし、茨の道だ。


講道館・・・。

最近では財団化したらしく、もはや一種の商売と化しているらしいな。

もちろん、それをもって全てが悪いとまで私は言わない。


が、しかしだ。

どれほど初志が高潔であろうとも、時間によって歪みは必ず出てくる。


嘉納治五郎は、新時代にふさわしい光の武を生もうとしたのか。

あるいは、いずれ消えゆく伝統を可能な限り保護しようと努めたのか。

私は武人じゃないからわからんが。


前置きが長くなってしまったな。

これから私が語るのは、まぁいわゆるそういう部類の話だ。

例えとして、講道館を挙げるのが最も適しているだろうと思える



その夜、私は、東京の歓楽街にいた。

眠らぬ街を歩いていたとき目にしたものだ。



ふとな、怒声が傍らで弾けたんだよ。

見れば肩がぶつかっただのなんだのと、通行人を捕まえて威勢良く吠えている若者がいた。


それだけなら、まぁよくある光景と言えるだろう。

吹っかけた若者が、痛々しい服装であるというツッコミどころはあったが。

ギャングスターにでもなりたいのかと思ったね。

問題はそこじゃない。


私が疑問を覚えたのは、


身長差、体重差、身体の厚み、四股の太さ。

このままいざ殴り合いになった場合、若者が勝てそうな要素は微塵もない。

にも関わらず、その若者の威勢は増すばかりだ。


私は立ち止まり、野次馬の如く離れた場所から理屈を思考した。


若さとはそうしたものだ?

一理ある。


武器を忍ばせているのでは?

そうかもしれない。


だが私は、それでも違和感を拭えない。


やはりというか、なんというかだ。

その若者には、何か欠けているものがあるように思えた。

やる気というか、本気というか、大層な剣幕で吼えているのに必殺してやろうという意思が見えない。

むしろ遊んでいるような印象さえ覚える。


ひひ。

なんとも奇妙な話だろう?

仮に若者がじゃれているだけだとしても、吹っかけられた相手にとってそんなことは関係ない。

言ったように、両者の単純戦力は後者が一目瞭然で勝っているのだ。

その丸太のような腕で軽く払えば、小うるさい若者は手もなく吹っ飛ぶ。

そうした力関係の二人なのに。


これでは、若者にとって割の合わなすぎる遊びだろう。

ではそれを勘案した上で、度胸試しをしているのかと言えばこれも違う。

なぜなら、まったく危機感というものが見えないのだから。


まるで、こいつは自分に手出しできないとハナから知っているかのように。

そして事実、絡まれている男は無礼な若者を実力で排除することが出来ずにいる。

顔面を紅潮させ、拳を震わせ、間違いなく怒っているだろうに殴れない。

・・・実に、奇々怪々な二人だったよ。



だから私は、



なに?

異世界じゃないのに、どうしてお前は異能が使えるのかって?


ああこの力はな、その異世界から送られてきたんだよ。

No.4と呼ばれた少年のおかげだな。

おそらく狙ってやったわけではなく、いわば偶発的な事故なのだろう。


どうやら、彼は彼方あちら此方こちらの壁を越えて、異能を転送出来るらしい。

それだけではなく、異能の内容も一回りパワーアップして送られてくる。

U2部隊に言わせれば、これが転生計画の賜物だとか。

『思考透視』を行う為の面倒な条件もあったみたいだが、もはやそれは関係ない。

私はただ、その眼で対象を観察するだけでいい。



話が逸れてしまった。

喧嘩を吹っかける若者と、吹っかけられた強体格の男だったな。

結果、見えた答えに私は心底愕然としたね。

先に言った講道館、その歪みがこうした形で出ていたのさ。


絡まれている男は、興行として格闘を衆目の前で行い、糧を得ている立場だった。

相撲取りでも講道館の人間でもなかったが、まぁ今の時代には珍しくない。

そうした団体が無数にあり、男はその一つに属している者だった。


そして彼らは、いわゆる素人に手が出せない。

生業として武を振るっている身だからこそ、鍛えた五体は凶器と認識されている。

社会的に、そうした枠に嵌められた存在だ。


よって、その武を使うことが許されるのは闘場リングの上のみ。

そこで同等に鍛えた者と戦う時のみ。


適切な場所、適切な相手。

これを違えれば彼は職を失い、生き場を失う。

だから、本来ならば容易くひねることが出来る雑魚の一人も殺せない。


無念だよなぁ、理不尽だよなぁ。

そもそもこれは本末転倒ではないだろうか。

男がこれまで、鍛えに鍛えあげたのは何のためだ?

不当な侮辱や悪意を打破して、勝利するためではないだろうか。


・・・単に強さと言っても色々あるが、その中から肉体的なものを選んだのなら論ずるまでもない。

我慢して血圧を上げるよりは、敵を殺すことに重きを置く価値観の持ち主だからこそ、五体を凶器に改造したのだ。

少なくとも、この男はそういう人種と言ってよかった。

ひどい矛盾を抱えた生き物であるのだが、実際そこまで珍しくはない。


そう。

何もおかしくはない。


現代社会において、


そして、そこに付け込む卑怯者の存在も。

いいや、単に卑怯なだけならまだ分かるが、喧嘩を吹っ掛けた若者は恥すら知らぬ屑だった。


若者は、これを武勇伝であるかの如く自慢し、誇っていたのだ。

俺は格闘家に喧嘩を売り、頭を下げさせてやったぜと。

相手が先の事情により手が出せないのを知った上で、自分が何か偉業でも成したかのように吹き上がっていたのだ。


ひひ。

繰り返すが、この時代においては決して珍しくない出来事。


誰もが、


何もおかしくはない。

だが少なくとも、私は違った。

眩暈がしたね。


実際に目にするのは初めてだった。

奇形が蔓延る無法地帯と化していた現実を、ようやく認識出来たのだ。


何なんだこの時代は、どうしたことだ。

暴力を禁忌とし、整備法を成し平和を敷く。

理性を重んじ、殺伐とした弱肉強食を排斥する。

それは疑いなく素晴らしいことだろう。


しかし、その果てにあるのがこれか?

自分は守られ、殴られず奪われず殺されず、生きていく権利を持っているのだからと、なんの覚悟もなく思い上がったゲェジを湧かせるこの時代。


何もこの若者に限った話ではない。

我慢できた男の精神力を褒めるべき?

違うな。

そうした腑抜け腰が、屑を増長させる結果になっているのだから同罪と言えるだろう。


無論、これは極端な一例だ。

この出来事に眉をひそめる人間は多数いて、例の若者も裏では馬鹿にされていただろう。

だが、それだけに事態は深い。


己もまた、大差ない醜さを普段発揮しているということに、ほとんどの者が気づかないのだ。


気づいていても、目を逸らすのだ。


殴り返される覚悟もなしに人を殴る。

端的に言えばそういうことで、もっと言えば別に殺されはしないだろうと勝手に高を括っている。


特に、世界に無関心の日本では。

平和で、平和で、銃も刀も持たないから。



どんどん



取り返しがつかなくなるまで。



SNSで勝手に議論吹っ掛けて勝利宣言するバカ。

平和だからこそ、世界崩壊を望む自称愛の戦士。

自らの誇りと尊厳を汚され、動画公開晒し上げ。

恥知らず相手に我慢しなければならない世の中。


実に素晴らしい日々・・・なのだろうかなぁ。


とまぁ、話はこれでだいたい終わりだ。

私が体験した歪み。

お前らは笑うか、怒ったか?


ひひ。

もちろんこの現代社会において、野蛮な行為に走ることがどれだけリスキーかは知っている。

先に言った諸々もあくまで理屈の話だし、恥知らず相手に殴る訳にもいかない。

実際に行動へ移す奴は、ある種の人格破綻者だ。

私はそれを賛美するつもりはない。

人には超えてはならない一線がある。

その線を踏み越える覚悟が、私には無かっただけのこと。



―――あの子以外はな。

たった一人、誇らしい勇気を兼ね備えた子が存在した。



あの子は誰よりも、奇形を増長させる歪みに機敏だった。

どうしても許せなかったのさ。

だからこそ、世の中を変えるためにあの子は行動した。



そしてその理念の元に、



予兆はあった。

奇形が増えていくのを見て見ぬふりした結果。


現実は、変わってしまった。

あの子は本当に世界を変えてしまった。

アポカリプスによって。


え?

何が変わったのかって?

・・・空を見れば一目瞭然さ。



ほら、遠くでは雲を衝く大巨人が、神話の白竜と争っている。

どちらもかつて、奇形だった人間だ。



空を飛んでいる方は、覚醒粉室パウダードラゴンと呼ばれていたかな。

目と耳が付いておらず、身体中から薬物を垂れ流す畜生さ。


あっちの元気よく飛び跳ねている怪獣は、確かキング割れッスズ。

どう見ても裸の人間だが、正真正銘三つ首の神霊だ。


他にも天使だのUFOだの、数えるとキリがない。

こういう化け物どもは、アポカリプスが起きた日から増え続けている。

正しくカオスだが、普通の一般人には知覚すらできないのだ。





異世界共々、出来の悪い『ナイトメア』。

無責任な事だよ全く。


夢の侵食。

勿論、これが終着点ではない。

日が経つにすれ、世界の滅びは進行している。

アポカリプスが起きてしまった以上、それは既に決定事項だ。

無論、そうならないために我々待機組は準備を進めているのだが。


だから、さぁ。

今も見えるぞ。

君たちが鍵だ。


私の語りが届いているのかは知らないが。

早く夢から醒めろ。

転生して帰ってこい。



思考透視の異能は継ぎ足してやる。

出来るのはそれくらいだ。



同じ名前を語る以上、無様を晒すことは許さん。

精々、オタさくなどに負けてくれるなよ?



本当の舞台は、あくまで此方側なんだからな。







―――第17話 全滅へのカウントダウン 後編








―――宮殿内 地下



ひまれいか「どういうことだッ、これだけ探して何故見つからないッ!?」


レキモン「・・・想像以上に面倒くさい状況なのはわかるよ。」


未だ U2部隊と奮闘する二人。

無論この瞬間にも、生死ギリギリの攻防が続いている。


No.8オタさく「なんだなんだぁ? 下手くそかよ、さっきからどこ狙ってやがるッ! 雑魚敵がよぉ、無駄ムーブかましてんじゃねぇ!」


オタさくの異能は、怒りによる限定空間リセット能力———『最短再始さいたんさいし

それを破るため、ひまれいかは二つの策を行使していた。


一つは、オタさくとBUNZINを引き離すこと。

つまり戦力分断。

地下の壁を壊し、地上への通路を増やす。

結果、最高戦力と合流できたら万々歳だ。


もう一つは、地下サーバールームに稼働待機している4410との合流。

オタさくのリセットは、機械の身体である4410なら効かないのではないかという仮説である。


しかし、策はどちらも失敗に終わっていた。


ひまれいか「これだけ破壊して外への出口を作っても、増援が来る様子が無いのは何故だッ!」





現状、ひまれいかとレキモンだけではオタさく達を倒せない。


倒せるのだが、オタさくによって死をリセットされるのだ。

死だけではなく、記憶すらもリセットされる。

リセット前の記憶を引き継げるのは、術者であるオタさくのみ。

ひまれいかは思考透視によって、リセットがあったことを認識できる。


オタさくの異能は驚異であれど、本人の戦闘能力はさほど高くはない。

何度リセットされたところで、思考透視できるひまれいかさえいれば対処可能な相手なのだ。



ひまれいか「・・・最後の頼みの綱だった4410も消失した。サーバールームはここのはずだろう? 何なんだこれは、ここにきてまた未知の異能か?」



ならば今すぐに地下を脱出して、外にいる味方と合流したいところだがそうもいかない。


No.6 BUNZIN「獰猛だからブンジンどぉーもー! 何でも食べちゃうから獰猛でもブフゥー! 獰猛でぇーす!!」


それが、No.6 BUNZINの存在である。

この狂犬は、現状レキモンの異能でしか倒せない。

そもそも、BUNZINの早さに対抗出来るのはレキモンぐらいのもので。


そんな存在を、

ひまれいか達は、それを即座に理解していた。

一度、狂犬を外に放てば破壊の連鎖が増えるだけ。

ここで止めなくてはならない。


レキモン「リセットの効果範囲は? BUNZINを瞬殺した後、俺がオタさくを鷲掴んで外へ連れて行く。リセットが起こる前にね。実質、BUNZINの死をリセットされなければ、それで俺たちの勝ちなんだから。」


ひまれいか「。リセットは既に数回起こっている。オタさくのリセット能力は刹那の一瞬だ。ああそうだ、前の私たちはBUNZINとオタさくを引き剥がせずに失敗したんだよッ!」


苛立ちながら、ひまれいかは続ける。


ひまれいか「そして、オタさくはその時の記憶を引き継いでいる。同じ手は通用しない。こちらの狙いがバレてしまった以上、もう二度とッ、奴はBUNZINの側を離れないッ!」


レキモン「確かにオタさくって奴、見た感じ・・・というか常時キレてるよね。何をしても逆鱗に触れそう。最悪の場合、俺が攻撃に転じた瞬間にリセットが来そうなくらいかも。」


ひまれいか「そこは私なりの別作戦があったのだが。ひひ、奴らも攻めあぐねているのさ。レキモンの一撃必殺は、1日一回の回数限定技だ。それを悟られないように攻めてはいるが、バレるのも時間の問題だろうな。無論、避けられたらその時点で私たちの負けだ。」


レキモン「分かってるよ。外したらそこで、俺たちの勝ちの目は無くなる。慎重に行きたい。でもこのままだと、BUNZINの超音波で体力尽きるよ。」


ひまれいか「ひひ・・・。そこなんだよ、あの中年狂犬が厄介すぎるんだ。私も、戦闘能力に長けていればな済む話なんだがな。こうしてレキモンにしがみつくだけで精一杯の身だ。腕が痺れてきたぞ・・・。」


つまり勝つためには、オタさくのリセット範囲外にまでBUNZINを引き離す必要がある。

個別撃破する戦法だ。


そのために、どうしても増援は不可欠。

それも相当な手練れを必要とするが、現状誰も来ないのが現実だ。


ひまれいか「フリーもふぁっきゅーも何故来ないッ。あいつらならリセットも関係ない。即封じれるのだがッ・・・。」


レキモン「・・・あ。ねぇ、これってさ。あれと似てない? そっくりじゃん。」


ひまれいか「あれだと?」


激しい攻防を繰り返しながら、レキモンは至って冷静に口を開く。

瞬間、ひまれいかに電撃走る。


ひまれいか「・・・いやまさか?!」


ひまれいかの予感は的中していた。

そう。


何故増援が来ないのか。


ひまれいかは、この違和感に覚えがあったのだ。



ひまれいか「というのか?! だとしたらお互い干渉も出来ない? あの野郎め、ふざけたことをしてくれるじゃないかッ! ああ間違いない。そいつだくそっ、非常にまずい状況だ・・・!」



その違和感の正体は即ち、第三者の介入に他ならない。












―――宮殿入り口前



~少女視点~



No.3日常演舞「まさか貴女が来るとは。残念ながら、宮殿内は立ち入り禁止です。」


「日常、演舞ッ・。・!」


陰湿さが滲み出る混沌の気配。

見間違うはずがない。







奇怪なアンバランスさを秘めた偉丈夫。

ただそこにいるだけで、周りの世界へ破滅を促す不協和音に満ちている。

まるで壊れたまま完成した存在だから、見る者に自分もそうあることが自然なのだと勘違いさせるような―――。





隠れ家が襲われている理由、彼がここに居るということはすなわちそういうこと。

問答などもはや無用。

戦闘の火蓋を切るには充分、いや既に戦闘は始まっていたようだ。


スノーれいか「駄目、やめて離れてッ!」


会議での出来事は覚えている。

あの人は確か、特殊保護部隊で一番強い人だった筈だ。

それなのに―――。


「か、加勢するのだ・。・!」


劣勢だというのは一目瞭然だった。

途端。



No.3日常演舞「  演  舞  開  園えんぶかいえん  」



新たな参戦者の前に、癌細胞の結晶体である男は異能を再発動させる。

何かが通り抜けたような感覚。

突撃しそうになる気持ちを抑え、少女は口を開く。


「あの時の異能なの・。・?! ・・・でも私の黒焔ならっ、無効化できるなの・。・! へっちゃらなのだ・。・!」


この時、少女は思い出していた。

初めて日常演舞と対峙した日を、そこで起きた不可思議な現象も。


思い出すことによって、一つの感情が生まれてしまっていた。


故に少女は、弱気な発言を生んでしまう。

それが良くなかったのだ。



No.3日常演舞「、僕を。」



「———ぇ、ぁ・。・」



―――瞬間、意識が紫色に瞬いた。



「ぎッ、あ―――、がああああああああああぁぁぁァァッ!」



激痛。

何故。


その概念さえ分からなくなるほどの痛み、痛み、狂乱。

自意識が万華鏡のように分解しかける。

声の限りに絶叫しても、まったく気休めになりなどしない。



No.3日常演舞「・・・おや? おかしい、あの時は嵌らなかったというのに。」



いいや、これは悲鳴がどうこうなんて次元じゃなかった。

声をあげることは勿論、心の中で転げまわることさえ出来ないほど、内から爆発する激痛の嵐が凄まじすぎる。



No.3日常演舞「・・・まあどのみち関係ありませんね。ここで終わっておきなさい。ボスの計画は邪魔させません。」



頭が倍以上に腫れあがり、眼球が飛び出て頭蓋骨が縦からメキメキと裂けそうだ。

脳はドロドロに溶け崩れ、溶岩さながらに膨張しながら沸騰している。



心臓が異常な速度で鼓動を続ける。

圧に耐え切れない血管が弾け飛んでいく。

肺はあるのか、胃は動くのか、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、大腸、そして十二指腸、何一つとして無事なものが存在しない。

腹の中で猛毒のダイナマイトが絶えず連続で炸裂している。



「ぁぁぁァァ、ァ――――あああああアアア!!」



しかも、同じ種類の苦しみは一つとしてない。

目の粗いおろし金にかけられているような。

硫酸で溶かされているような。

五寸釘で貫かれ、獣に食われて、極寒の吹雪に見舞われたような寒気、砂漠を彷徨うような渇きと灼熱、ヘドロを一気飲みしたかのような嘔吐感、全身の皮を剥ぎ取りたくなってくるほど痒い、痒いッ、蟲が皮の中を這い回っているッ。


ペースト状になった筋肉を突き破って皮膚が裂かれた。

蛆が際限なく迸る。

眼球から。

耳から鼻から口から膣から肛門から―――。

腐敗臭を放ちながら、それらはぼとりぼとりと零れ落ちる。



スノーれいか「気をッ、どうか保って、ッ―――呑まれないでッ!!」


「・・・ぃ、——ァ。」



搾り出した私の声とは対照的に、おそらく同じ痛みに晒されているだろう彼女の声は冷静だった。

信じられない。

この苦しみを体感しながら、どうしてそんなに・・・精神力とか我慢とか、そんなレベルの話じゃないッ。

無理だこんなの、速攻で心が折れるッ!


まてよ。

まてまてまさか。

これがそうなのか?





あの時は私がこれを無効化した。

でも今は―――私が攻撃されて・・・だとしたら一生このまま?

嫌・・・いやだッ!



「ォォ、おおおおぉおおおおッ!・。・!」



動くだけで、血管を腐らせながら破裂して意識を断線しにかかる。

拳を振る気力は何とか保てたとしても、握った拳がそれだけでぐちゃぐちゃに砕ける。


・・・駄目だ、黒焔が出ない。

痛い、痛い、痛い。



No.3日常演舞「もしかしたらと思ったのですがね。あなたも結局は同じで、僕を見下している。」



これこそが、日常演舞が垂れ流す異能———その正体である。

身体を奪う病と不調、二重でかかる枷。







決して関わってはいけない人物。

近づけば全てを壊される。



―――U2部隊No.3『演舞開園』

曰く、人は彼を日常演舞と呼ぶ。



No.3日常演舞「・・・そんな状態で僕と戦う気ですか?」


少女は意識を奮闘させ、日常演舞との初戦闘時の事を思い出す。


以前は何事もなく戦えたのに何故今は?

それどころか、日常演舞があの時放った言葉からして、私にはこの痛みが効いていなかったという印象だった。


―――ああ分かってる。


以前と違って、


以前の私にはあって、今の私には欠けているもの。

こうして考えてみれば考えてみるほどに。


あの時の私は何処か変だった。


ずっと考えていたことがある。

キリトさんと隠れ家に帰る途中、ずっと考えていた一つの仮説。

そして、先ほどのふじれいかが放った言葉で、それは確信に変わった。

そして今、確信がより強固となった。




パリンッ!!



その時だった。

何か、得体のしれない音を聞いた。



No.3日常演舞「ッ!? 僕の開園空間に侵入を、誰です!」


何かが割れ響いた。

それと同時に、変質の風が吹き抜けた。

先ほどまで猛威を振るっていた病の痛みが、残らず潮のように引いていく。


「なっ、――――・。・!?」


正直、限界寸前だった苦痛よりも、それが唐突に消えたことによる落差の方が私の感覚を混乱させた。


穢れはもはや、身体に一欠片も残っていなかった。

まさか幻術?!


「何が起こったのだ・。・?!」


言いかけて少女は気づく。

一直線に、日常演舞の間合いに超高速で飛来する女性が一人。


悲哀れいか「はぁぁぁぁぁあああああっ!!」


そして、ここに展開されるのは魔境の如き速さを帯びた肉弾戦だった。

突如として現れた悲哀れいかの蹴りを、日常演舞は躱しながら同様に蹴りで応戦する。


レトさん(本物)「こっちだ二人ともッ! 俺が宮殿側にも穴を開けるッ!」


今このときも、悲哀れいかと日常演舞の乱舞は続いている。

その隙間を潜り抜けて、こちらに向かってくる男が一人。


スノーれいか「レトさん!?」


衝撃に息を飲む暇もあらばこそ、座っている暇など存在しない。

少女とスノーれいかは、自分が優先して成すべきことを即座に理解していた。


レトさん(本物)「宮殿の入り口ッ、やはりここもか――――『他愛ない実現奇術リーディングマジック』!」


宮殿の入り口前に辿りつく少女達。

どうやらこの男は、あの痛みが蔓延る空間そのものを破壊できるようだ。



レトさん(本物)「腎臓一つだ・・・相殺しろおおおおおぉおおおおおッ!!」



何もなかった空間に、亀裂がピシリと生まれていく。

瞬間、花火のように爆発した。

襲い来る赤光に、視界の全てが埋め尽くされる。


そこにはぽっかりと、小さい穴が開いていた。


レトさん(本物)「今だッ、入れ!!」


「えっ・。・!? そっちはどうするのだ・。・!?」


レトさん(本物)「ここは俺と悲哀れいかさんだけでいい。今も見ただろ? あの日常演舞は俺たちが必ず倒す!」


少女は、足止めされている日常演舞の方を見る。


悲哀れいか「隊長! そして記憶喪失の子! 早く進んでくださいッ!」


技量という面において、この悲哀れいかという女性は圧倒的に卓越していた。

戦闘者として完成度を競うのならば、私とは天と地の差があるのが分かる。


レトさん(本物)「それにな、お前は宮殿に入った方がいい。そして真実を見極めるんだ。その方がお前の為になる。」


「それは―――」


この男は、私が知らない真実を知っているのだろうか?

そう考えたのも一瞬。


「わかったのだ・。・ 私はこのまま進むなの・。・!」


迷うことはない。

私の目的は最初から、宮殿の中にいる彼女に会うことなのだから。


スノーれいか「任せましたよ。レトさんに悲哀さん!」


どうやら、スノーれいかさんも宮殿の中に用事があるようだ。

私と同じく、宮殿内に侵入する。

同時に背後から、一切の音が聞こえなくなる。

振り向かなくても分かる。

最早、戻る道は別たれたのだ。












―――宮殿入り口前



託された二人は、全力でそれに応えようとしていた。


悲哀れいか「遅いよレトさん! 私一人に戦わせるつもりっ?」


レトさん(本物)「そう言うな悲哀れいかさん! これでも頼りにしてるんだよ!」


No.3日常演舞「ぐっ・・・貴方達、やってくれましたね。あの少女を―――」



悲哀れいか「———『鮮血涙雨ブラッディーレイニー』」



一切の流れを無視した、悲哀れいかの異能発動。

辺りには、夥しいほどの豪雨が展開される。


レトさん(本物)「ナイスだ悲哀れいかさん。俺の失った臓器も、これで幾らか換えになるッ。」


悲哀れいか「私、もう実力を隠すことはやめる。ある男の人が教えてくれたから。仲間を守る為なら、女だとしても全力で前線に立つ! もう二度と、女だからって理由で縮こまったりしない!」


赤黒い雨に濡れながら、その目はやる気に満ち溢れていた。


レトさん(本物)「誰が教えてくれたのかは知らんがその意気だ! 荒野行動の時みたいに、本物の実力を見せてやれ!」


悲哀れいか「れ、れれれれレトさん!? なんでそれ知ってるの?!」



No.3日常演舞「演舞開演えんぶかいえん演舞開演えんぶかいえん———— 演 舞 開 演えんぶかいえん 」



場から笑みが消える。

張り巡らされた空間が、外界と内外の壁をいとも容易く分断する。



No.3日常演舞「この雨は固有空間ですね。故に僕の開演でも崩せない。効果は恐らく血属性に連なる物。そしてそこの彼は、僕の開演空間を一部ですが消すことが出来る。己の何かを犠牲にすることで発動する相殺術。・・・違いますか?」



二人の異能が、日常演舞によって看破される。



No.3日常演舞「(荒野行動・・・。この二人はあのキリトとかいう男と同じだ。何故か、現実世界での失われし記憶を保持している。文字通りのイレギュラー。逃すわけにはいかないですね。)」



よってここに、対戦カードは作られる。


No.3日常演舞「三重に開演をさせました。三重ですよ? 僕がレビューした中では、未だ前例がありません。その価値に値するかどうか確かめさせて頂きます。」


この三重開演は、通常の開演より範囲が狭い。

宮殿内までは効果は及ばないものの、レトさんと悲哀れいかを閉じ込めるには充分な範囲であった。


レトさん(本物)「どうやらお前も本気らしいな。・・・俺たちは生き残る。何があってもだ。大体、こんなオタク服野郎に負けたとなっちゃ、後代への恥だ。」


No.3日常演舞「・・・いいでしょう、貴方達の土俵に乗ってあげます。後悔しないことですね。格の違いを教えてあげましょう。」



―――三人、それぞれが臨戦態勢に入る。



悲哀れいか「その、もう私たちに勝ったみたいな言い草はなんなのかな。言っておくけど、全然負ける気はないからね。」


レトさん(本物)「同感だな。日常演舞ッ! お前は現実で、何かで勝ったことがあるのかよッ? 」


No.3日常演舞「・・・なるほど。第一開園を突破するだけはあるようですね。邪念を一切持たずに煽り発言の連発とは。いいでしょう、歓迎しますよお二方。。」











―――宮殿内 エントランス



〜少女視点〜


スノーれいか「これは・・・。」


宮殿に入った私たちが見た景色は、破壊痕だらけのエントランスであった。


「この気配・・・上にも下からも邪悪な気配がするのだ・。・!」


スノーれいか「私は地下へ行きます。斃さなければならない気配を感じたので。」


「なら私は、上の階にいる人物と合流するのだ・。・!」


スノーれいか「ええ。このまま二手に別れましょう。」


別れ際、少女はスノーれいかの容姿を盗み見る。

正しくそれは絶世の美女。

戦いとは無縁に見える、絶対階級の令嬢にしか見えない。


だからこそ、納得出来なかった。

キリトさんもそうだった。

摩訶不思議な現象を引き起こす異能に対して、どうしてそこまで立ち向かっていける?


先ほどの痛みによる恐怖は、忘れようと思っても忘れられない。


勿論、私も最初は勇気を持っていた。

数々の模擬戦や、U2部隊を二人相手取ったりもした。



けど、



思いが溢れるように、少女は質問していた。



「スノーれいかさんの思う強い人っていうのはどんなものなのだ・。・?」



突然の質問に対しても、スノーれいかは訝しむことなく立ち止まる。


スノーれいか「迷っているのですね。」


母性の塊のような佇まいで、されど鮮烈な存在感を放ちながら、しばらくの思案。

そして彼女は口を開く。



スノーれいか「自分こそが最強だと、微塵も揺るがず信じる心の持ち主です。そのために、どれだけ敵を作ろうが躊躇しない。」



断言される。

そしてスノーれいかは最後に一言、誰に聞こえることなく呟いた。


スノーれいか「認めたくないですが、私はそういう老兵を一人知っています・・・。」











―――隠れ家 繁華街



風を巻いて銀光が走る。

刃と刃が交錯する。

弾ける剣戟の調べが閃き合い、乱れ咲きながら空間を彩る様はさながら花吹雪のようだった。


火花が散り、血飛沫が飛ぶ。


二人は踊る、戦っている。


今この戦場だけは、瞬く異彩の息吹に満ちる。

穢れや澱みは存在しない。

すなわち一言。


もえれいか「かっけぇ・・・。」



―――ただただ、その乱舞は綺麗綺麗しい。



感嘆さえ漏らしながら、もえれいかは動けずにいた。

とんでもない勝負に立ち会えたのだと細胞が歓喜し、片時も目が離せない。

しかし当事者にとっては、そんな思いを抱く余裕など欠片も無かった。


少なくともそう、片方にとってはまさにそう。


キリト「———くっ。」



既に、



そして、



何度も繰り返したから慣れるということなどまったくない。

それが、闘争一般的に言える心理。

仮に殺し合いをひたすら愛好する自殺志願者がこの場に立っても、抱く思いは同じだろう。



―――それほどまでに、安眠ちゃんが叩きつけてくる"死"はでかい。


No.5安眠「んふっふふっふっっふ、キリトくぅぅぅぅううぅうぅううん!!?!」



質も密度の桁違いの殺気。

いいや、これこそ本当の死という概念が持つ重さなのかもしれない。


生物は死なない限り死を知れない。

生きているうちは当たり前に死の本質を理解できない。

何度死線を潜り、どんな哲学を修めようと、結局のところ分かったような気になるだけ。


No.5安眠「やっぱりキリト君は強いやぁああっ! ここまで私と拮抗できるなんて初めてだよ凄い! 嬉しいよぉキリト君、うふふっふふふっ!」


陳腐でベタな賞賛にも、何か言い返す余裕を持てるはずがない。


今、キリトが対峙しているのは正真正銘の死神なのだ。



それこそが。


―――U2部隊 No.5

闇ある者は光ある者を経験とするDarkness Shining Experience』。

略して『DSE』、安眠ちゃんなのである。



並の者なら、下手に会話をするだけで命を失うことすら有り得るだろう。

この、喩えようもない暗闇の深淵に引きずり込まれるような感覚。

それを前に、現状生きているキリトは確かに褒められて然るべきだった。


No.5安眠「臆病な子ほど、死から逃れるのが上手いよねっ! 死にたくないと誰より思っているから回避が上手いっ、ふふっ! 自覚あるぅうう? キリト君んんん! キリト君も一種の死神なんだよぉ? 周りに死をばら撒いて、一人だけで切り抜けるっ!」


瞬間、無拍子で放たれた二刀の一突きがキリトの眉間に飛来した。

それを紙一重、首だけの回避で躱し踏み込む。


キリト「てめぇは―――褒めてるのか貶してるのかどっちなんだよッ!」


そして返しの袈裟斬り一閃。

タイミング的には必殺を疑うべくもなかったが、これで決まるとはキリトも思っていない。

そんな簡単に片がつくなら、とっくにこの戦いは終わっている。


踏み込んだキリトを上回る速度で、安眠ちゃんが退いていた。

それによって斬撃を躱すのみならず、二刀の持ち手が逆手に変わっている。


すなわち、一度吹き抜けた刺突が、首狩り鎌と化して戻ってきたのだ。


うなじに迫る断頭の気配を総毛立ちながら感じたキリトは、身体ごと投げだすように前方へ転倒した。

その挙動は言うまでもなく隙だらけ。

頭上を走り抜けた死風が再びその軌道を変えて、地に伏すキリトを串刺しにするべく迫りくる。


だが、ここでもキリトは死に対応した。

むしろ読んでいたのかもしれない。

倒れ込んだ勢いのまま前転して、再び地に足をつけたキリトは蛙飛びに跳ね上がった。

背中を切り裂かれたが、命にまでは届いていない。


キリト「づゥ、ああァッ―――!」


安眠ちゃんの胸元へ、渾身でぶつかる頭突きに近い体当たり。

不格好だが、こうする以外に切り抜ける手は無かったのだ。

結果、この攻防を制したのはキリトだった。

胸を打撃された安眠ちゃんは後方へ飛び、微かに呻きながら距離を開ける。

表情は、死を堪えたキリトへの微笑のまま変わらない。


No.5安眠「嫌だなぁ、褒めているつもりだよキリト君!」


胸元をいやらしくさする安眠ちゃん。

荒れた呼吸で肩を上下させているキリトとは対照的に、今にも発情しそうな顔つきで優雅に佇んでいる。


No.5安眠「キリト君なら、私のことはよく知っているはずだと思うけどぉ?」


キリト「・・・変態野郎が。俺への殺意しか頭にないストーカーだろ?」


局所的には一本取ったキリトだが、全体としては甚だ劣勢。

これ以上の不利を増やすわけにはいかない。


キリト「昨日の泥仕合を思い出すぜ。だけど、今のこれはそこまでじゃない。俺があんたに勝てばいい。簡単なことだ。」


No.5安眠「へぇぇぇえええっ、簡単??」


キリト「ああ、難しくない。」


返答に虚勢はない。

安眠ちゃんという女に対して、いくら許容不明な対抗心を持っているからといっても、キリトは自惚れと無縁である。

根拠があるのだ。

そして、あるからこそ今も死に呑まれていない。

真相はただ一つ。


安眠ちゃんは、言ってしまえば単純なのだ。

今はテンションがぶっ壊れるほど笑ってはいるが、


だから攻勢にもそれが反映されている。

要は、すべての攻め技が正しく殺し技なのだ。

フェイント、フェイク、布石、そうしたものがまったくない。


誘ったり、騙したり、削ったり、封じたり。

それらは重要な駆け引きで、戦いに必須のものだろう。

百度打ち合って、百度の死を感じるというのは通常あり得ることじゃない。


途轍もない純度の死と殺意を纏った、

それが現状、安眠ちゃんの戦い方で、つまり大砲の乱れ撃ちだ。

脅威は無論のこと凄まじく、僅かな停滞を見せただけで即座に潰されてしまうだろう。

しかし、だからこそ対処できる。

読めるし、返せるし、勝つことも不可能じゃない。


だから見えるのだ。

明かされていく。



安眠ちゃんが有する力量のほど、





キリト「ずっと不思議だったぜ。自分で言うのもなんだが俺は最強だ。だからこそ、この俺を凌駕するお前には疑問しかなかった。速度を超越する俺と対等、いやそれ以上。最初は俺と似たような異能だと思ったが、それも何か違ぇんだよな。」


No.5安眠「うふふっふふふっ! キリト君のなんちげ! キリト君のなんちげ頂きましたぁ!」


キリト「・・・昨日の戦いで、日常演舞が口を滑らしていた。『現実世界で数多の男性を使いこなしてきただけはある。僕の開演空間までも使いこなすとは。』ってな。使いこなす、それがお前の異能だ。」


No.5安眠「・・・うふふっ。」



キリト「安眠、お前は強くない。。」



得手も不得手も、僅かな差すら見当たらない。

鏡合わせのような素質、熟練度。



No.5安眠「そりゃそうだよ! 使! ! うふふふっ!」



語られる言葉を前に、キリトは一言。


キリト「潔し。」


つまり、安眠ちゃんの実力は対戦相手によって変わるということ。

人を使いこなす為には、より上の立場にならなければいけない。

よって、この異能を打ち破る為にはどうするか。


キリト「今から俺は・・・それを乗り越える。」


度重なる会話によって、二人の体力は幾ばくか回復していた。


ここに再び、死神と死神の乱舞が始まろうとしている。


No.5安眠「じゃあ見せてもらおうかっ! 私をどう克服したのかねっ!!」


楽しげに破顔しながら、再び一歩踏み込む安眠ちゃん。

キリトも無言でそれに応じる。

両者の間合いが触れた瞬間、号砲の如く大音響が炸裂した。



―――乱舞が見えない。



上段斬り、旋回斬り、水平斬りの三種融合。

極度の出力と制度で練り上げられた剣技と剣技が激突し、空間震すら伴いながら放射状に拡散していく。

吹き荒れる剣戟の暴風は、広大な商店街跡においても逃げ場を失う。


もえれいか「まじかっ!?」


いとも容易く許容量を突破された証として、戦場の崩壊が始まっていた。

瓦礫は握りつぶされたかのようにひしゃげていき、陥没する壁面が液状化しながら崩れていく。

もはや大地震の直下に等しい。

超自然災害をも連想させてしまうほど、二人の乱舞は桁外れたものだった。


厳密に言うと、破壊を成しているのはほぼ安眠ちゃん単独の暴威だったが、それを逸らしながら戦闘しているキリトの立ち回りも尋常ではない。


すべてが決め技、殺し技。

それが死神だと分かっているからどうにかなる―――という次元を超越した所業だろう。


もえれいか「そうだ、ゆうれいかとヴィっさんを助けないとっ・・・。」


うねり飛びながら上下する地面は、もはや足場と呼べるものではない。

もえれいかは、這いながら戦線離脱を試みる。

だがキリトは未だに両の足で立っている。

平地と何ら変わらぬ体捌きで、死神の鎌に拮抗している。



―――ならば、体捌きを封じるには?



キリト「壁だと・・・ッ?!」


幾度の回避を経た先に、知らずキリトは袋小路に追いつめられていた。

二刀を振るうにしろ躱すにしろ、相応の空間が必要なのは言うまでもない。

そのスペースが、安眠ちゃんの空間把握能力によって削られてしまった。


No.5安眠「動きが乱れたよキリト君!」


よって、それは明確な隙となる。

繰り出された一閃を反射で受け止めようとしてしまい、威力を逃がし損なったキリトは片腕の骨が砕ける音を聞いていた。


キリト「~~~———!」


不覚、失態以外の何物でもない。

死なずにはすんだものの、代わりに左腕を殺された。



―――だがそこで、劣勢にならないのがキリトなのだ。



今はただ、明鏡止水の如くあれ。

そう決心した瞬間に、キリトの顔から表情が消える。



No.5安眠「あ、っ―――」


その一閃が及ぼした効果は激烈だった。

悲鳴に近い叫び声。

同時に安眠ちゃんが、弾かれたように飛び退った。

傷の深さ大きさが原因ではなく、それはごく単純な痛みによって。


壁際に追いつめられた側が負け?

否、この場合は追いつめられた側が殺りやすい。


No.5安眠「ガァアッ、ぐぅ―――!」


斬り飛ばしたのだ。

狙いすました一閃で、安眠ちゃんの足指一本を。

無論、そこでは終わらないのが乱舞。


キリト「鈍すぎなんだよ。」


続く返しの一振りで、今度は左耳を削ぎ落とす。

再びあがる安眠ちゃんの悲鳴。

開いた口に刃が入り、次は奥歯を抉り飛ばした。


No.5安眠「ぎッ、がああァッ!」


だが、そこで守るよりも攻めに転じた安眠ちゃんの度胸は凄まじい。

常人なら七転八倒の激痛を無視し、全力で応戦する。

しかし、踏み込みの瞬間に足の親指を切断されて重心が乱れ、隙が出来たところに右手の小指を飛ばされる。


No.5安眠「う―――、ふふっ! いいよキリト君! 私に血を流させるなんて!」


そこから先は文字通りの五分刻み。

指や耳など、単純な質量の面で見るなら総体に比べて些細なものだ。

失ったところで死に直結する器官ではない。


だが、総じてそこは"痛い"のだ。

物理的な意味でもそうだし、精神的にも多大な衝撃を受けてしまうのは避けられない。

どれだけ頑強な巌だろうと、振るう刃は乱れる。

普通ならば。



―――ここで戦っているのは双方が死神なのだ。



No.5安眠「ァア、だああぁっ!!」


迫り来る暴風の一撃をするりと躱してのけた安眠ちゃんは、その勢いのままキリトの左肩を穿ち抜いていた。

骨が粉砕した箇所に、刺突の駄目押しである。

障害となっていた袋小路の壁面は、その一撃によって彼方へと消し飛んでいた。


キリト「—————。」



―――双方が死神だからこそ、半端な決着は許されない。



受けたダメージをむしろ寿ぐかのように、キリトの圧力は高まっていく。


No.5安眠「んふふっ、まだまだ終わらせないからねキリト君んんんッ!!」


それに比例して、安眠ちゃんの攻撃の密度も強度も跳ね上がったが、その全てをキリトは躱した。


当たらない。

悉くが空を切るのだ。

そして頻度は少ないながらも、時に放たれるカウンターが再度安眠ちゃんを切り裂いた。


No.5安眠「やっぱりキリト君だよっ、キリト君キリト君! 私に安眠を与えてくれる唯一の人っ!!」


切り刻まれながら乱舞する安眠ちゃんの声に対し、キリトは一切答えない。

そもそも聞いていなかった。

今のキリトはそうした枠の外にある。


No.5安眠「私と同じで、結末を得られないっ!」


どこまでも高まっていく嵐の中で、安眠ちゃんは話し続ける。

掛け替えのない友人と何かを共有するかのように。


No.5安眠「私と同じ土俵だよ! キリト君が私を嫌うのって、そういうことでしょぉ!? だから私も大好きだよキリト君! だからほら!」


不敵な微笑を常に浮かべている表情は、どこかデスマスクのようにも見えて。


No.5安眠「やっぱりこんなときってさァッ!!」


やはり取り合わないまま攻め込んできたキリトの一太刀が、安眠ちゃんの胸に迫る。


それに対し、安眠ちゃんは防御も回避もしないまま無造作に踏み込んで―――



No.5安眠「どういう選択ノリが相応しいのかって、分かってるよキリト君んんん!」



振り下ろされた弩級の一撃は、条理を完全に無視したものであった。

故に、捌き切れなかったキリトは血煙をあげつつ吹き飛んだ。


No.5安眠「———ぐぅ、あはははっ! やべぇよ、やっちまったああああッ! うふふっっふふっっ! これで私も、片腕が使えなくなったよキリト君んんん!!」


このとき、重大な損傷を被ったのは安眠ちゃんも同じだった。

右腕から大量の血飛沫が吹き上がっている。

これで共に、片腕をもがれたに等しい状況。


身体の損傷具合で言えば、これで互角。



―――着々と、両者に死が近づいている。



キリト「・・・。」


雑念を切り捨て、明鏡止水の最中にいたキリトは立ち上がる。

ゆっくり構えを取り直してから、右足を挫いていることに気づく。

言わば、偶発的なミスによる緊急事態。

いや、そもそもだ。


安眠ちゃんの決め技をモロに喰らって、生きていることからしておかしいのだ。

そして、そうなった理由は単純明快。


当の安眠ちゃんが、に帰結する。


刃筋は乱れ、軌道は揺らぎ、狙いも何も定めていない力任せの出鱈目な一撃。

言わば突拍子もない不格好なものだったからこそ、キリトは喰らってしまったのだ。

だが同様に、不格好だったからこそ命を取るまでには至っていない。



それは馬鹿馬鹿しい子供の喧嘩に近いもので、



No.5安眠「決闘ってさぁぁあ! こういうものをいうんでしょお! 感情の爆発、譲れぬ思い、意地と信念、誇りを懸けたこれが決闘! 違うかなキリト君っ!」



キリト「そうだな。そうだろうな、安眠。」



その眼は、未だに焦点が合っていない。

つまり、依然としてキリトは無我の境地にいる。

にも関わらず、会話を成立させている。



キリト「いちいち言い方が大仰なんだよ。あまり格好つけた表現で語るのはやめろ。馬鹿みたいだぜ、恥ずかしくなる。」



No.5安眠「嫌だなぁ、でしょぉ?! 常に恰好つけながら仲間の為に戦う王道キャラクター! 人に見られたら、赤面して逃げ出したくなっちゃうような台詞と同時にソードスキル! 恥ずかしい人だよねキリト君んんん!!」



キリト「———そうだな。」



に、安眠ちゃんは気付かない。



キリト「殺し合いはな・・・茶番な喧嘩だ。格好つけてやるものじゃない。」



徐々に変化していたのだ。


血も涙もない―――その先の領域へと。



キリト「。」



No.5安眠「え―――ッ??!」



ドォォオオオォオオォオオオオオォン!!!



刹那の一瞬だった。

戦場は、瞬く間に碧の暴虐に飲み込まれる。

安眠ちゃんはガードが間に合わず、二刀は弾き飛ばされ宙を舞う。



もえれいか「おいおい・・・マジかよきっさん。ここ、私たちの街だろ・・・?」



完全なる破壊、滅却。

最早、繁華街の面影はどこにもない。

残るのはただただ、空しく光る碧の焔のみ。


それを眺めながら、もえれいかは自分の身体を抱きしめる。

自らの震えを止めるために。



それと同時に―――発砲音。



キリトの後方から、



セオリー無視にはセオリー無視である。

案の定、焔を避けていた安眠ちゃんの右腕には、小型の拳銃が握られていた。


無論、その拳銃も二刀と同じく常識的な範疇の武器ではない。

北上双葉が生み出した二次元武器のため、連射力は機関銃を遥か凌駕した域にある。

しかも弾丸の一発一発には強力な毒薬が乗せられているため、剣で捌こうとすれば毒薬が飛び散って対象者の身体を蝕んでいく。


―――それは安眠ちゃんにとって、最終兵器と言っていい代物であった。


無造作に放たれる弾丸の数々は、碧い焔と同化して視認が難しい。

ならば、キリトはここであえなく死の河を渡る?


否―――。



キリト「そうだよな。キリトは銃を使うこともあった。確かにそれもキリトだ。」



なんとキリトは、振り向き様にその弾丸を受け止めた。





ハナから盾にする予備動作に入っていたキリト。

つまり、スターバーストストリームを避けられることも、安眠ちゃんが二刀を失った時にすぐ拳銃を使用してくることも、銃弾に仕掛けが施されているだろうということも、全て読んでいたのだ。


思考の超越。


片腕だけでは、銃弾を弾き返すことは叶わないと踏んだ上での行動なのだろうが、だとしてもこれはあまりに冷徹、もはや悪辣とさえ言える戦術だろう。

ゆのみの血に濡れながら、キリトの表情は鉄のように動かない。


No.5安眠「———ッッ!」


だが、盾を使用しているということはだ。

キリトの片腕は既に死んでおり、もう片方の腕で盾を掴んでいる。

刀を手放してまで、ということはだ。


No.5安眠「アホでしょぉおオオッ! キリト君んんん!!」



―――剣を持たない今、キリトは異能が使えない!



ならばお互い、剣を奪われたぐらいで何も変わる筈がない。

弾切れとなった切り札を、地面に勢いよく投げ捨てる安眠ちゃん。

それとほぼ同時に、魔境の速度と化してキリトとの距離を詰める。



No.5安眠「私の、勝ちだよぉおお!!」



唸りをあげて打ち下ろされる鉄槌が、キリトの顔面目掛けて叩き込まれる。

放たれた拳の生んだ衝撃波に、キリトは危うく吹き飛ばされ掛かった。

食らえば終わりの重爆撃。



だがその瞬間、安眠ちゃんは確かに聞いた。



キリト「そうだな。最後は肉弾戦になるのもキリトだ。だけど俺はキリトじゃない。もうキリトじゃないんだよ安眠。。」



No.5安眠「——————。」



その言葉を告げられた時、僅かに安眠ちゃんの拳がブレた。

そしてキリトは、生じた刹那の狂いを見逃さない。



No.5安眠「がッ、はあァ―――!?」



懐に入り込むようにして拳を潜り、そのまま相手の勢いを逆利用しながら背負い投げを見舞っていた。

安眠ちゃんにしてみれば、己が持つ規格外のパワーをそっくり跳ね返されたに等しい。


爆撃もかくやという大轟音を響かせて、受け身も取れず床と激突した死神は、大の字になったまま完全に活動を停止していた。


キリト「ッ、は・・・、づ、はぁ・・・。」


そしてキリトは立ち上がる。

勝敗の結果は、両者の構図を見れば一目瞭然。


もえれいか「勝った・・・?」


極上の死闘を見届けたもえれいかは、キリトの傍へと走る。


もえれいか「きっさん・・・酷い怪我だ。あーしじゃ痛み止めにしかならないだろうけど、せめてもの処置に・・・。」


異能を発動しようとするもえれいかを、キリトは無視して拳を振り上げる。

その行為が意味するものは一つ。


もえれいか「ちょ、ちょ待てよ! 殺すのか?!」


完全なる止めを、安眠ちゃんへ刺す為の行為に他ならない。


キリト「それが俺の、戦いだ。」


もえれいか「確かに、こいつらのせいで人が大勢死んだのは事実! だけど、そのっ、ほら、いい勝負だったんだしさ・・・。」


No.5安眠「やられたよっ・・・ふふ、流石にこれは、動けそうも、ないっ。認めるよキリト君・・・私の負けだね、この場はだけど。」


冷徹な顔で見下ろしてくるキリトに目を向け、そのままにやりと意地悪く微笑む安眠ちゃん。


キリト「この場は・・・? 言ったろ安眠。続きはもうない。ここで終わる。」



No.12あっちゃん「。」



翔・。・太「キリトッ! やめるんだ!」


キリト達の前に、突如として現れたU2部隊のあっちゃん。

そこにはレジスタンスメンバーであるひげれいか、べるれいか、翔・。・太もいた。


キリト「誰だ?」


もえれいか「おいそこの裸エプロン、もしかして敵じゃないのか?!」


ひげれいか「待ってほしいでちゅ! この人はでちゅ!」


キリトは振り上げていた拳を引っ込める。

安眠ちゃんへの視線はずらさず、キリトは口を開く。


キリト「その味方が、どうして俺を止める?」


No.12あっちゃん「このまま殺人者になろうとしている貴方を見過ごせなかっただけよ。キリトってのは、そこまで墜ちた屑だったかしら?」


異世界であれど、人として決して破ってはならない一線。

それが、人を殺すということ。



フィクションの中のキリトでさえ、



思い返してみれば、キリトがキリトでなくなる前兆はあった。

ゆのみを盾にした時も、スターバーストストリームを躊躇せず放った時もそう。

中でも顕著だったのが、安眠ちゃんの指や耳を斬り飛ばした時である。


殺すためではなく、痛みだけを与えるその行為は拷問と言っていい。


確かに理屈としては通っていて、極めて有効な策だろう。

しかし、こんな真似を平然と、人間に対して出来る者がそうそう存在するのだろうか。


間違ってもそれは、キリトというキャラクターの戦法ではない。


キリト「・・・知ってるか? 人として、一度抱いた殺意ってのは殺すまで消えないんだよ。」





彼がキリトを超えると発言した意味。

キリトから、別の何かへ変わるということ。


人を殺すことに躊躇も嫌悪感も抱かない壊れた存在。

そうなる道を選んだことが、皮肉にも彼の勝利に繋がってしまったのだ。


キリト「お前が敵じゃないとしても関係ない。俺の手はもうとっくに人殺しの手なんだぜ。だから邪魔をするな。俺がここで終わらせる。」


No.12あっちゃん「いいえ。もう殺す気はないって自分でも分かっているんでしょう? 私の話術はね、一種のヒーリング効果を持つのよ。こうして会話しているだけでも、あなたの心は綺麗に治っていく。現実世界の方では私、いろんなリスナーの相談を受けてたんだから。」


キリト「・・・俺はもう、既にたくさんの人間を殺してきた。今日だけでも、何人殺してきたかわからねぇ。そんな俺に何を―――」



No.12あっちゃん「気づいているんでしょう? 。今まで貴方が殺してきた人形とは違う。だけど今殺そうとしているのは本物の人間なのよ?」



キリト「・・・・っ!」



田中みこの言葉が、キリトの頭に蘇る。



『キリトとU2部隊は違う方法で異世界にやって来た存在で、それ以外は違う。』



ひげれいか「聞いてくれでちゅ! この人が教えてくれた真実は信用できるでちゅ!」


翔・。・太「ややこしくなるからお前はっ、黙っとけって。」


もえれいか「・・・どうすんだよこれ。とりあえず応急手当は終わったけどさ。」


キリトと安眠ちゃん、双方の処置を終えたもえれいか。

安眠ちゃんにはもう戦う気力がなく、その場の成り行きに身を任せていた。

キリトもまた、その場から動かずにいる。


No.12あっちゃん「さぁ。冷静になった頭でよく考えなさい。そして思い出すの。あなたが戦う動機は? 血欲に汚れた殺人者になることじゃないでしょう?」


しばらくの沈黙が、場を支配する。


そしてキリトは――――



キリト「・・・そうだ。俺の目的はただ一つ。この世界を生み出した元凶を倒すこと。刃を振るう相手は・・・安眠じゃない。」



No.5安眠「――――!」


キリト「俺は・・・どうすればいい。」


もえれいか「きっさん・・・!」


キリトの瞳に、先程までは失せていた現実の光が戻っていた。

その輝きが、言っている。



キリト「本当の敵は、誰なんだ?」



No.12あっちゃん「―――宮殿よ。最上階の王の間に行けば、あなたの知りたかった真実が全て分かるわ。黒幕もそこにいる。本物の"悪"がね。」



キリトは立ち上がる。

己の二刀を拾い上げ、鞘に納めながら彼は笑った。


キリト「誰だか知らねぇが助かった。・・・もう少しで俺は、人として終わるとこだったぜ。ってか、誰なんだお前?」


もえれいか「いや本当にそうだよ! マジで誰なんだ?! 急に現れてッ、あーしにはもう訳がわかんねぇよ!」


べるれいか「りんごーん。全部説明するから落ち着きなよー。」


騒ぎ出す彼女達とは対照的に、あっちゃんは裸エプロン姿のまま、いたって真面目そうに口を開く。



No.12あっちゃん「私はU2部隊ナンバー最下位にして、。」



キリトとあっちゃんの視線が交差する。


事実、あっちゃんは最初から、争う気など毛頭無い。



全ては『真実』に抗う勢力を増やすため。

彼女は決起を企てようと、密かに暗躍していたのだ。



キリト「・・・信用しよう。例え裏切ったとしても、ここにはべるれいかがいるしな。・・・俺はこのまま宮殿へ向かう。お前の言う、黒幕とやらを確かめにいくぜ。言っておくが一人でいい。」


No.12あっちゃん「ふん! こっちも心配しなくていいわよ。もう誰も殺させやしない。・・・ほらそこの戯れてる餓鬼ども! まだ負傷者が転がっているじゃないの! 処置を手伝いなさい!」


キリト「・・・この場は頼むぜ。」


べるれいか「りんごーん! 任せといてー!」


No.12あっちゃん「あら? もう行くのね? 話ぐらいは聞いておいたら?」


キリト「いや、真実は俺の手で掴んでみせるさ。」


キリトはこの戦争を終わらせる為、今一度、集中力を研ぎ澄ます。

その後ろ姿を見ながら、安眠ちゃんは口を開いた。


No.5安眠「・・・ほらキリト君。二度あることは三度あるじゃない。今回も勝負が着かなかった、うふふっ・・・。」


キリトの口から溜息が漏れる。


キリト「安眠、お前はまだ俺を殺したいか?」


物静かな、だが確かな熱を帯びた口調でキリトは尋ねる。


No.5安眠「一方的な蹂躙は楽しいんだけどね。・・・キリトと同じ強さになってみて分かったよ。死闘って、こんなに気分が悪くなるものなんだね? うふふっ・・・。もう当分は戦いたくないかな。」


切傷だらけの顔を伏せながら、安眠ちゃんは涙を零していた。


No.12あっちゃん「・・・そうよ。争いからは何も生まれない。誰がなんと言おうと、それは無益なのよ。」


キリト「お互い、正気に戻ったようで何よりさ。そう、こんな悲惨な戦いを繰り返すのは俺だけでいい。全部この手で、終わらせてきてやるよ。」


No.5安眠「・・・キリト君、死なないでね。次はちゃんとした試合形式で戦いたいな・・・。キリト君ともっと遊びたいの。うふふっ、ふふふっふふっふふ。だから無事に帰ってきて・・・。」


キリト「・・・考えとく。」


そしてキリトは風と化す。


負傷は多数あれど、伝説の名は健在である。

目的地への到達まで数秒もかからないだろう。


キリト「真実か。何が待ち受けているのか、見ものだな――――。」













―――宮殿内 地下



スノーれいか「水晶の陣ッ!!」


冷気を帯びた一閃が、突如として戦場に現れる。

タイミングとしてはかなり際どかったが、敵の意表を挫くには充分だった。


No.6 BUNZIN「ブフゥーーー??!」


No.8オタさく「誰だぁ!?」


レキモン「あいつッ!」


ひまれいか「いや、これはいいッ!」


ひまれいかは即座に、新たな方針を組み立てていた。

今こそ、勝利の方程式はここにあり。


ひまれいか「スノー! 四つん這いの男をッ―――。」


No.6 BUNZIN「・・・雪じゃなくて、スノーじゃなくて、土嚢どのうー! 酢の物が食べたいっスノー!」


テテーン!


言いかけてから、レキモンとスノーれいかは左右に散った。

作戦会議などを許してくれるほど、敵も甘くないのだ。

BUNZINの超音波を、共に回避しながら立ち回る。


スノーれいか「あなたは・・・私が必ず祓います!」


地下へと飛び降りたスノーれいかは、すぐさまBUNZINの前に躍り出る。

状況を模索するより、ただ状況に対応した上での行動。


ひまれいか「(ぃよしッ! 好都合だ!)」


そしてそれこそが、ひまれいか達が求めていた理想的な展開そのものだった。

現れた増援が、厄除け属性を持つスノーれいかならば尚更である。


No.6 BUNZIN「キャァッきゃきゃきゃッ!!」


黒い流星と化したスピードで、スノーれいかもろとも暗闇に消えていく。

地下深くの通路まで吹き飛ばされてしまったのか、その姿を確認できない。


ひまれいか「しまったっ、スノーれいかああああああああああああああぁッ!」


実にこの時、ひまれいかは女優と化していた。


オタさくに、ほんの些細なストレスをも生み出さない為に。

劣勢という状況に見せかける為に。


オタさくとBUNZINを分断出来た事実をボヤかす為に。


ひまれいかは、精一杯の擬態を演じる――――!




スノーれいか「くっ・・・。」



スノーれいかは生きていた。

視認できないはずの超獣の突進を、なんと真正面から受け止めていた。

理由は単純明快で、既に異能を発動していたのだ。

それは不可視の一線、乱れ吹雪による檻籠。





彼女の異能は、人外相手だからこそ、効力を発揮するのだ。


No.6 BUNZIN「獰猛ォォォッ! 獰猛ォォォォッ! アァーーきゃっきゃっきゃっ!」


涎を撒き散らしながら、その捕食者はさらに力で突破しようと試みる。


スノーれいか「あなたは・・・。」


対するスノーれいかは、驚くことに逆の感情に支配されていた。


なんだこの超獣は。


そして、なんだこの人間は、と。



スノーれいか「私には分かります。だからこそ、。」



慈しむ視線を向けながら、スノーれいかは目の前の超獣に向けて手を伸ばす。


本来、レジスタンスの特殊保護部隊という役割は、罪人の更生が主なのだ。



故に彼女はここでも、職務を捨てない。



無論、BUNZINはもう人ではない。

人間であることを完全に捨てた空前絶後のモンスター。

狂った賛歌と呪詛を動力にして、破壊を続けるだけの真なる超獣。



だからこそ―――





外道の所業。

許してはならない悪行。

BUNZINは被害者なのではないかと、スノーれいかは悟ったのだ。


スノーれいか「あなたも元は人間だった筈です。私には分かる、だからこそ人間に戻したい。」


No.6 BUNZIN「・・・・・・。」


そんな言葉をかけられたのは、きっと初めてなのだろう。

BUNZINは動かない。

攻撃をしかけることさえ忘れて、自らに伸ばされた手を眺めている。


スノーれいか「そこに改善の意思があるなら、他の誰が何を言っても、私はあなたを肯定しましょう。社会復帰ができるよう全力で支援します。いえ、そうさせてほしいのです。」


沈黙を経て、BUNZINは唇を開いた。


No.6 BUNZIN「・・・ドォオオォオオオモオオオッ!! 獰猛だから何でも食べちゃう、ブンジンでぇぇぇぇエエっす!!!」


その眼孔は、スノーれいかのことを等価の命と見ていない。

犬歯を剥き出し、烈火の意思を圧力と共に放ち始める。


スノーれいか「・・・そう、ですか。」


それを見て、ようやく悟ったのだ。


すべては手遅れだったのだと。


悲しさと悔しさ、そこに怒りを宿して、彼女は錫杖の切っ先を構える。


BUNZINという存在に対し、複雑な想いを感じずにはいられない。

彼が生み出された背景が想像できてしまう。


もしも、その想像が当たっているのならば、更生の余地など端からどこにもなかったのだ。



スノーれいか「送ってあげましょう。願わくば、次は人として―――。」



BUNZINという超獣に向けて再び、



見かけ通りの人外。

先に顕れた黒龍と同じく、人から外れた超獣。


歌いながら敵を食い殺す?

―――そんなのは、単なる適応不全だ。


人間で構成された世の中・・・すなわち社会というものを乱すことにだけ長けている。

環境に馴染めない不適合者。

人の命という重さを、無感で刈り取ってしまえる狂気の才能。


そんなものは絶対に許されない。


殺人を容易にこなせる殺人鬼かいぶつなんて、漫画や小説で充分なのだ。


だからこそ、人には必要なのである。

他者を尊び、対等な人間として敬意を払う知性が。


規範という自然界には存在しないルールを深く重んじるからこそ、


このBUNZINには、社会規範を守ろうという気概が無い。

それは当然、罪なのだ。


生まれには同情するし、救いがないのも本当のことだろう。

だが、手を取ろうとする意思すら無いのは、もはや決定的に手遅れである。


ならばこそ、下手な同情はもう抱かない。



これより先、立ち入るな。

人でないなら消えるがいい。

人性を捨て、理性を捨て、悪辣な人喰いへと堕天した存在よ。



スノーれいか「―――『境界礼ボーダーマナー』水晶の陣。」



そして静かに告げられる異能の輝き。



No.6 BUNZIN「ォオオ、ォ―――――――?!」



異形の生命体が、完膚なきまでに捻じ切られていく。


攻撃、防御、回避、どの動作を取ろうとも、不可思議な軋みによって折り曲げられていく。

それを感知するかのように。

どんな些細な挙動にも、損傷が発生して付きまとう。



スノーれいか「。」



まさしくそれは―――見えない境界線。



No.6 BUNZIN「ギャゥゥッ、ギャァ?! ア、ギャィィイイッ!」



たとえ見えなくても、人には破ってはならない法がある。

超えてはならない一線がある。

憲法、法律、倫理観に習慣、暗黙の了解だってそうだろう。

定められた決まりを突破しようとする傲慢な輩には、刑罰が下されるのが世の定め。


力があれば何をしてもいいというのが弱肉強食。

それが自然界。

守るべき最低限の線を互いが共有し、尊重しあう心。

それが法治社会。

自分が社会に生きる一員であり、その自覚と意識を持つこと。

その弛まぬ意思が肝心であり、未来を作るべきなのだ。


だからスノーれいかは、空へと見えない線を引く。

何度も何度も、提示していく。



―――人はこちらで、獣はあちら。



―――生きる場が違うなら、それに応じて相応しく。



―――超獣は人界へ来るんじゃない。



野を駆けながら自由気ままに生きるがいい。

それを人界は邪魔しない。


けれどそれでも、なお厚かましく餌を求めて侵攻するなら。

人の世を我欲に任せて乱しにかかるというのなら、是非もなし。



スノーれいか「獰猛を自称するのなら、森の奥にでも過ごしてなさいっ!!」



同時に虚空へ走った無尽の水晶が、超獣を消滅の檻へと叩き落とす。


目視できない境界線は、今ここに完成する。



・・・しかし、それでもBUNZINは超獣だった。



狂乱しながら絶叫して突撃する。

全身から噴水のように発泡スチロールを吹き出しているものの、それすら見えていないのか。

怪物としてのプライドなのか。



スノーれいか「潔く、人の世界から消えなさい―――ッ!」



次の瞬間、放たれた一閃がBUNZINを完全に消し去った。



細胞の一欠片、発泡スチロール、毛髪の一本すら残さず・・・そう完璧に完全に。

後には何も残らない。


水晶による世界の漂白。

一方的な消去の技であり、無慈悲かつ圧倒的な完全消滅。


人を捨てた超獣だけに通用する、再生と防御を無視した断罪の鎌なのだ。


スノーれいか「はぁ・・・ふぅ、くッ―――。」


荒い息をつきながら、錫杖を支えにして膝をつくスノーれいか。

今ここに、勝敗は決する。



―――U2部隊No.6 BUNZIN 完全消滅



スノーれいか「安らかに眠ってください・・・。」






ここで時は、少しだけ巻き戻る。

もう片方の戦況も、佳境に入ろうとしていた。



レキモン「こっちだオタさく! ――――『帝獣ワンサイドゲーム』!」



放たれる一撃必殺。

しかし、それはあろうことか―――。


No.8オタさく「ッ!? っは、はははッ! 外したなッ、その技をッ!!」



レキモンは、



No.8オタさく「ははははッ、チェックメイトだぁッ!!」


そうとは知らず、不用心にもレキモンへ攻撃を仕掛けるオタさく。

勝ち確の高揚感に包まれたものは、視野が唐突に狭くなる。


宮殿内の開演空間が解除されたことによる変化。


ひまれいか「(お膳立てはここまでだ・・・。)」


無かったはずの者が出現していることに、彼は最後まで気づくことは無かった。



4410「―――凍結バレット射出。」



ロボットの腕部から兵装が起動した。



ピシィィィィィィィィイイイッッ!!



瞬時の冷凍。

オタさくは、何が起こったのかを理解する前に氷漬けにされる。


ひまれいか「打ち合わせもなしに・・・どこまで有能なんだよこいつめ。」


4410「仲間の為に最適解を出しただけですよ。。この手順に間違いはありませんね?」


レキモン「そうだね。充分な距離まで穴を開けれた筈だよ。リセットの効果範囲外まで突き放せればいい。」


平たく言えば、それは隔離。

リセットを起こす対象ごと、深く離れた底の底へと隔離する。

それこそが、ひまれいか達が狙っていた策だったのだ。



4410「現状を整理させてください。今は―――レキモンさん危ないッ!!」



ひまれいか「?」


レキモン「え?」



―――隠れ潜んでいたのは、4410だけではなかった。



レキモン「ッ?!」



―――その暗殺者は、ずっと機会を伺っていたのだ。



No.2田中みこ「レモキンシネッ!w」



―――――忍者襲来。



レキモン「ぐァッ、ぁあアアッ?!?」



忍者の一太刀によって、



4410「田中みこおおおおおおぉぉおおおぉぉおおおッ!!!」



凍結バレットを、忍者に対して乱発射する4410。

倒れこむレキモン。

棒立ちのひまれいか。


ひまれいか「!? オタさくがッ!!」


オタさくの身体が、光り輝きながら震え出す。

ひまれいかは本能で悟った。



それは空間リセットが始まる合図。



ひまれいか「(動けるのは・・・私だけかッ?!)」



まったくもって想定外の事態。

全霊を絞った直後のスノーれいかは動けず、4410は田中みこを抑えに行き、レキモンは腕を切断された痛みで動けない。


オタさくのリセット能力発動に対し、あらゆる対処が間に合わない。


ひまれいか「(悩むなッ! 今ここでリセットを止めなければ、皆の記憶がリセットされる・・・そんな不確定事項が蔓延る周回は懲り懲りだッ!)」


リセットが起これば、レキモンの腕は治るかもしれないと思いかけたのも束の間だった。

ひまれいかは、オタさくを深層に落とそうとする。


ひまれいか「(誰も動けない今、これは私の役目・・・えっ??)」



再び、ひまれいかの思考が止まる。



レキモン「ひまれいかああああああッッ!!」



オタさくを落とすつもりが、同時に降下を始めていたひまれいか。



4410「ッ?!」


田中みこは最初から、分身を使っていた。

4410が驚くのも無理はない。



もう一人の田中みこが、ひまれいかを穴底につき落としていたのだ。



No.2田中みこ「散々かき回してくれたお礼。じゃあね。ひまれいか。」



ひまれいかとオタさくは、猛スピードで底に落ちていく。



No.2田中みこ「レベル62―――土遁どとん岩宿崩いわやどくずし。」



分身が解かれ、新たな術が展開される。

開いていたはずの深層が、一分の隙間もなく閉ざされる。



ひまれいか「―――。」



壁と壁に潰される二人。

ひまれいかは、意識が朦朧とする中で、空間が響く音を聞く。



―――オタさくのリセット発動。



4410「この反応、次元屈折、いや次元回帰?! どういうことです? 二人の生死反応が絶えず切り替わっている!?」


No.2田中みこ「助けようとしても無理だよ。今みこ達がいるこの場所が、リセットの効果範囲外ギリギリの位置だから。」


太刀を鞘に納め、もうここには用がないとでも言うように、田中みこは立ち去ろうとする。


レキモン「田中みこ・・・君、喋れたんだね。俺の腕を斬っておいてッ、なんの、説明も無しかな・・・?」


4410「田中みこ、 U2部隊ナンバー2である貴女をッ、あの時止めることが出来ていればッ!」


レキモンの断面を止血しながら、4410は田中みこを睨みつける。


No.2田中みこ「オタさくを倒すには、があったから。だから、地の底に閉じ込めるっていうひまれいかの計画は、みこにとっても利用できた。リセットしても動けない状況。窒息死とリセットを繰り返す玩具。オタさくがどこまで我慢強いか見ものだね。」


レキモン「ふざけるなよ、そこにはひまれいかもいるんだぞッ!」


4410「貴女はU2部隊ではないのですかッ?! 普通ならオタさくを助けようとする筈ッ!」



No.2田中みこ「。むしろ好都合なんだよね。あっ、リセットの波が止まったね。オタさく、諦めて死を選んだみたい。あんだけ強気だったのに根性なしだね。」



4410「なっ?!」



No.2田中みこ「みこのやりたい事は終わったかなぁ。脅威だったひまれいかと、独り善がりのオタさくも殺せた。レキモンも、腕が無くちゃ異能は使えない。4410は・・・まぁ、何時でも勝てるみこ。」



4410は反論できない。

生まれたてのモビルスーツは、所謂万全の状態ではないからだ。

ひまれいかを助けるための武装も、田中みこを止めるための武装も、まだ備えることが出来ない状態なのである。



No.2田中みこ「みこは王の間に行く。他のU2部隊も集結する。まだ戦う覚悟があるなら来てみれば? 盗み聞きしてるスノーれいかもね。」


スノーれいか「・・・ッ。」


その言葉を最後に、田中みこは煙と化す。



レキモン「ひまれいか・・・クソッ!!」



後には、呆然と立ち尽くす三人が残るのだった―――。











〜ひまれいか視点〜



やれやれ。

どうやら、これ以上リセットしたところで、詰みだという状況を察したらしいな。

空間の震えが止まったぞ。

いよいよもって、年貢の納め時というわけだ。


ひひ。

まさか最後が、あれほど嫌悪にしていたキチガイおたさくと心中だとは。

最後まで上手くいかないな私は。


死か。

意外にも抵抗は無いな。

もう戦わずに済むという安堵感か?


まぁ、分かってはいるんだけどな。



・・・まだ生き返れる可能性が残っていることは。



それが分かっているからこそ、オタさくは早々に死を選んだわけだ。



それが―――この異世界の真実。



収穫とは、よく言ったものだな。


北上双葉を思考透視した時、私はその真実を知った。

それを最後まで、誰にも言えなかったことが悔やまれる。

いや、言わなかったことが正解なのかもしれない。



だってこれは―――。



駄目だ。

酸素が尽きてきた。



ひひ。



としては、もう少し活躍したかったのだがな。



・・・・・・。



・・・。





ひまれいかの死体が、黄金の輝きを放ちながら溶けていく。

後に残るのは、オタさくの死体のみ。

ひまれいかだったその光は、そのまま闇に沈んでいくのだった―――。





―――ひまれいか 絶命

―――U2部隊No.8オタさく 絶命













―――宮殿 王の間への道



~少女視点~



気分はかつてないほど最悪だった。

生存本能が先ほどから絶えず全神経を絶叫させている。

ただ純粋に恐ろしい。


ひたすらに強大。


この先に待ち構えている者の発する念は、他の誰よりも違う整然さを感じる。



おそらく敵わない―――このまま行けば、



どう足掻いても勝機は絶無。

逃げろ逃げろと、階段を上るたびに訴えかけてくる。



「私は・・・ふぁっきゅーちゃんに会いたいのだ・。・」



その気配も感じるからこそ、今も逃走だけは絶対しない、してはならない。

対する敵が、遥か格上であることは百も承知だ。

しかし、覚悟はとうに済んでいる。


「扉まで着いたなの・。・」


ここまで近づけば、扉越しから気配の数も見えてくる。

ふぁっきゅーちゃんとフリーさんと・・・敵が二人。


臆さず、退くな。


今これから、一つの大きな答えが出る。



それを予感しながら、私はその扉を開ける―――。



「・。・!?」



目に入ってきたのは、半分想定内、半分予想外の光景。


No.0■■■■「・・・。」


No.10セイキン「兄~;;」


一番目立っていたのは、血塗れで倒れているフリーさん。

かなりの出血量で、ピクリとも動く様子が無い。



だが、そんなことはどうでもよかった。

そんな場合ではなかった。

他のものなど、一切目に入らない。



「・。・」



その女性から目が離せない。

服装は同じだが、私は一瞬、それが誰だか分からなかった。



No.1 ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・・。」



「ふぁ、ふぁっきゅーちゃんなの・。・?」



彼女の手は、赤黒く染まっていた。

それどころか、纏っている雰囲気が何か―――



ボス「どうやら、役者は揃いつつあるぽよね(*´ω`*)」



玉座の近くから、どこかで見た黒い穴が出現する。

中から出てきたのは三人。



No.11 Kent「なんだよセイキン! また兄に泣きついてるってぇのかぁ?」



真中あぁあ「あっ、そこの足元、段差があるので気をつけてくださいね!」



ボス「おっと・・・気配りができるいいメイドさんぽよ(*´ω`*)」



どこかで見たメイドと、一度戦った黒穴使いと・・・。



No.0■■■■「おお、フリーれいか様。お早い合流で。」



ボス「うむ、そちらも首尾は上場のようだぽよね(*´ω`*)」



No.1 ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「・・・真中あぁあ、また随分と滑稽ね。元主への忠誠は何処に行ったのかしら。」



真中あぁあ「な、なんのことかなぷりぃ? 私の主はボスだけだぷり!」



ボス「いい子だぽよ(*´ω`*)」



No.1 ᶠᶸᶜᵏᵧₒᵤ「語尾間違えてるわよ・・・。」




そのタキシード姿の、ボスと呼ばれた人物を見て私は―――――。




ボス「こうして顔を合わせるのは初めてぽよね(*´ω`*) まさかするハメになるとは、さて、どうしたものぽよか・・・(*´ω`*)」




―――陰と陽が交差する。




現在時刻 19:00

答え合わせは近い―――。



つづく。

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