第16話 全滅へのカウントダウン 中編



―――無限回路 西地区



~少女視点~



キリト「さっきから様子が変だぜ。」


キリトさんのスピードに、私は必死に追いつこうと足を動かしていた最中のこと。

胸に手を当てて俯いていただけなのに、気取られてしまった。


キリト「うたうだ考えるのもいいが、これまで以上に気を引き締めていけ。田中みこの言葉を信じるならば、隠れ家は今ごろ死地と化しているはずだ。」


「キリトさんに訊きたい事があるなの・。・」


キリト「何だ?」


「この異世界に召喚されて、恐怖とかは無いなの・。・?」


キリト「え?」



”家でネット見てた分際の俺らが、この異世界に適応できるか否か”


かつて、いちごちゃんに言われた言葉だ。



「キリトさんはいつも、迷いがないというか即決というか・・・どうしてそんなに強くいられるんだろうって思ったのだ・。・」


キリト「・・・・。」


キリトさんは、いわゆる寡黙な老兵だ。

言葉足らずな面もあるが、あらゆる面で頼りになる。

今だって無口なまま・・・ってあれ、会話止まってるけど大丈夫かな。


「あのえと、いい機会だから訊いてみただけなの・。・ 気が進まないなら――」


キリト「俺は、そんな出来た人間じゃねぇよ・・・。」


一瞬だけ目を伏せるキリトさん。

だがそれも束の間だった。


キリト「誰だって最初は怖いさ。人は未知に遭遇したとき、少なからず硬直する。異能なんてのはその最たる例だ。咄嗟の判断が出来なくなる。誰もが恐怖する。この異世界に来た以上、それは避けて通れない道なんだぜ。」


「キリトさんにも、そんな過去があったって事なのね・。・」


キリト「お前も経験を積んで学んでいけ。そしていずれは、俺のように強くなることだな。」


「善処するなの・。・;」



やっぱりだ。

こうして、訊いてみれば訊いてみるほどに。





田中みこの捨て台詞とは別の疑問。

欠けているもの、いや異物があって、歯車が淀みなく回転しない。


キリト「・・・お前がそんな事を訊いてくるとは、何か気づいた事があるのか?」


流石だ。

こういうところで感づいてくれるのは助かる。


「度々で申し訳ないけど、もう一つ質問なのだ・。・ 私とキリトさんが、始めて出会った時のことを覚えてるなの・。・?」


それは最早、懐かしい記憶。

私が、この異世界で目覚めた日のこと。


キリト「隠れ家に来る前のことか。敵に襲われてるところを、俺が助けたんだったな。確かその後に、安眠との初戦闘・・・待て、今更それがなんだってんだ?」


「私を襲ったあの人・・・キリトさんに斬られた後、身体が別人になったことは覚えているなの・。・?」


キリト「ああ、あれか。」


頭をぽりぽりと掻くキリト。


キリト「今にして思えば・・・あの兵士どもは、北上双葉が作り出した二次元存在だったのかもな。会議で聞いた異能の特徴と一致する。」


「えっ・。・?」


キリト「BO4って知ってるか? 現実世界の戦争ゲームだ。そのスコアストリークの中に、ストライクチームっていう特殊部隊を呼び寄せるがある。」


・・・ブラックオプスは知ってたけど、その独自の答えに辿りつけることが凄い。

思考速度を超越できるキリトさんだからこそ、導き出せた結論なのだろう。


だが、それでもだ。


「じゃあ、黄金の粒子はどう説明をつけるのだ・。・?」


キリト「黄金の粒子?」


「あの敵がキリトさんに斬られた後、身体が綺麗に輝き出して別人の姿に変わった現象のことなのだ・。・ キリトさんも、『元の姿に戻っただけだが』って言ってたと思うけど、忘れちゃったなの・。・?」



キリト「俺が言ったのか? 。」



「え・。・;?」


思わず変な声が出てしまう。

二日前の事だし、記憶に新しい筈なんだけど。


キリト「ああでも、別人の姿に変わったのは覚えてるぜ。最初はその謎が分からなかったが、今なら分かる。」


思い出したかのように、キリトはそれを口にする。


キリト「ストライクチームを倒した時って、そのんだよ。あまり知られていないバグだけどな。姿が変わったってのはつまりそういうことさ。」


「あの黄金の粒子は、人間が死んだ時に出てくるんじゃなかったなの・。・?!」


キリト「おいおい、ちょっと落ち着け。あれは二次元存在で人間じゃない。」


私たちの足が止まる。

いつの間にか、私の額から嫌な汗が垂れ落ちていた。


「キリトさん聞いてなの・。・ この異世界に召喚された私達が、仮に死んだとするのだ・。・ そしたら、死んだ私達の身体が黄金に輝いて・・・その輝きが収まって、死体は別人のように変わる。それがこの異世界のルールだったはずなの・。・!」


キリト「何だそれ。俺もいろんな奴の死を見てきたが、そんな現象など見たことがない。死んだら死んだで、死体はそのままだぜ。」


「えっ・。・!?」


今度こそ、私は得体の知れない恐怖に捕らわれる。

嫌な予感が当たってしまっていた。


キリト「それはお前の妄想話か、それとも誰かが言っていたのか?」


「・・・誰かに聞いたと思うなの・。・」


なんだ?

頭が割れる。

思い出そうとしているのに思い出せない。


まただ!

なんでそこだけ思い出せない!?


思い出せ。

私が初めてキリトさんと出会った時・・・。



!?



・・・視点て何だよ。

私は何を、何を言ってるんだ?

説明不可能なことを・・・頭がおかしくなったか?


キリト「そういや、よくよく考えてみると奇妙な点が一つあったな。あいつら、揃いも揃って異能を使っていたんだ。投擲系の異能だったかな。ということは、二次元存在が異能を発現したことになる。・・・まぁあいつらは俺が殺したわけだし、今更考えるのもな。」


「キリトさん、もう一つだけ聞いておきたいなの・。・」


謎が増えてきて埒があかない。

取り敢えず、最後にこれだけは聞いておきたい。

ずっと引っかかっていた違和感を。


「キリトさんが助けてくれたあの時って、私とキリトさん以外に、もう一人味方がいたような気がするなの・。・」


キリト「いや?。」


ずっと一緒にいた筈の、優しかったあの人。

私はその人に、隠れ家まで連れてきてもらった。

それは確かにいた。


なのに、思い出せない。

記憶を空っぽの状態にかのように。





「隠れ家に急ぐなの・。・」


キリト「俺のセリフだ。もう質問はないな? 遅れた分、全力で飛ばしていくぜ。」


「お、お手柔らかに頼むなの・。・;」


分からないことだらけだが、これ以上悩むのは時間の無駄かもしれない。

全ては隠れ家に辿りついてから。

何が待ち受けていようと、私は前に進むしかない。











―――午後5時


―――隠れ家 宮殿内 二階



No.10セイキン「おやおやぁ? どうやら待ち構えられてたみたいですよ兄貴?」


王の間に続く大階段。

U2部隊を阻むように、その二人は立っていた。


フリー「やってくれたなU2部隊。昨日の今日だぜ? 気が早すぎるってもんだ。」


ふぁ「・・・。」


隠れ家のリーダーであるフリーれいかと、伝説クラスの精鋭ふぁっきゅーれいか。

二人の戦闘力は、当然ながら高い。

レジスタンスにおいても屈指の実力者と言えるだろう。


No.10セイキン「日常演舞から聞いてますよぉ! 二人はとるに足らない雑魚だったと!」


フリー「じゃあお前らはどうなんだ? 日常演舞より強いのか?」


フリーれいかは赫の瞳を発動しようとする。

だがそれを、ふぁっきゅーれいかが制した。


フリー「どうした? 俺はもう動けるぜ。お前の異能のおかげで、俺は怪我をする前の状態に戻れたからな。」



ふぁ「は、私でさえ反吐がでる結末だわ。」



会話の流れを無視するかのように、つまらなそうに独白を吐き捨てるふぁっきゅーれいか。


ふぁ「さぁほら、やりましょう。私なら二対一でも構わないけど?」


拳を構えるふぁっきゅーれいかを見て、セイキンはここぞとばかりに前に出る。


No.10セイキン「下がっていてください兄貴! ここは私が瞬殺して終わらせますよ! 兄貴の手を煩わせる訳にはいかないですからね!」



ふぁ「はっ、馬鹿馬鹿しい。。」



フリー「・・・ふぁっきゅーれいか? さっきから何を言ってるんだ?」


No.0■■■■「・・・なるほど。」


No.10セイキン「初対面ですけど、どうして私のナンバーを知っているのでしょうかね? まっ、雑魚相手に問答するのは、時間の無駄なわけですけれども!」


ふぁ「最初に謝っておくわ。これから私がすることは、ただの憂さ晴らしよ。」


ふぁっきゅーれいかの目は死んでいた。

まるで全てに絶望しているかのように。

淡々と、目の前の脅威に対して疾走する。


No.10セイキン「ん~。随分、自己主張が激しい人ですね! 私ほどじゃ無いですけれども!」


負けじと、自慢のコレクションいのうを披露するセイキン。

そんな二人を、フリーれいかは緊張の眼差しで見つめる。


ふぁ「いくわよ。」


そのまま、セイキンとふぁっきゅーれいかの戦いが始まった。







―――第16話 全滅へのカウントダウン 中編








『レジスタンス vs U2部隊』


またの名を、『れいか界隈 vs U2を守る様々な配信者達』



一見魅力的にも見えるこのカードは、思いのほか消化試合の要素が強い。


何故なら、れいか界隈において、回復役が軒並み機能していないからだ。


回復役を担える異能を持つレジスタンスメンバーは、以下の三名のみ。

みかんれいか、ゆのみ、ふぁっきゅーれいかだ。

前者の二名は既に絶命しているため、必然的に回復役は一人だけになる。


だがその一人、ふぁっきゅーれいかは宮殿内部にてU2部隊と


そこには、異世界最強クラスの存在。

U2部隊のトップナンバー、No.0も在籍している。

フリーれいかもいるとはいえ、実力差は明白といっていい。



ひまれいか「レキモンの腕は・・・治る見込みはなさそうだな。」



で、あるならばだ。

各地で奮闘するれいか達は、完璧な治療を受けることが出来ない。

一度、傷を受けてしまえばそれまでなのだ。

仮にここで生き残ったとしても、次戦までに傷が癒やせなければそれこそ本末転倒だろう。



No.8オタさく「イライラゲージが溜まってきたぜぇ・・・ははっ、いい感じだぁ!」



繰り返しになるが、 U2部隊はそれぞれが化物級の強さを誇る達人である。

レジスタンスが勝つためには、何としても回復役を死守しなければならなかった。



No.6 BUNZIN「あぎゃ、アァーキャキャアァー!」



つまりこれらの勝負、回復役が大きく欠けた時点で、レジスタンスの敗北は既に決定している。

その結果が最初から決まっていて、あとは遅いか早いかの違いなのだ。



レキモン「大丈夫だよ。俺にはちょうどいいハンデさ。」



だがしかし、そんな化物レベルの存在に拮抗できる者も、レジスタンスには確かに存在する―――。








―――隠れ家 宮殿内 地下



ひまれいか「嫌な感覚が肌に刺さる。生理的な嫌悪感だ。死と隣り合わせの修羅場に、私がこうして立ち合おうとはな・・・。」


No.6 BUNZIN「エヘ、えへへっへへはきゃへハ!」


BUNZINは、そんな感想など露知らずと明け透けな笑みを浮かべている。

友好的なものでは断じてない。

それはこれから蹂躙するぞという、肉食獣が見せるサインだ。


No.8オタさく「さぁ用意はいいか? 殲滅RTAの始まりだぜ。」


指をポキポキと鳴らすオタさく。

彼は武器など使わない。

拳と脚を用いた、近接型のインファイターなのである。


レキモン「くるよ。俺の背中に掴まって、ひまれいか。」


当然の如く、レキモンにしがみつくひまれいか。

戦闘能力が皆無であるため、選択肢は常識的に考えて一択しかないのだ。


No.6 BUNZIN「どぉーもぉお! なんでも食べちゃうBUNZINデェェェェス!」


黒い流星が、突如として消える。

すぐには標的へ突撃せず、四方八方へと高速で移動を繰り返す。


レキモン「中々速いね。だけど追えない速度じゃない。」


ひまれいか「・・・私が相手するのはキチガイばっかりか。」


ボロボロの歯並びに、血走った眼球。

その眼光の軌跡を目で追うことで、レキモンはBUNZINの動きをギリギリ視認できていた。


No.8 オタさく「確かこういう地下で戦うのは初めてだったが、いいぞ理に適った動きだ。」


這うように突き進む場所はしかも、床に限定されてはいない。

BUNZINは、壁や天井へと螺旋の軌道で疾走する。

その姿はやはり人間ではない。

まるで多関節の蜘蛛であり、それでいて駆け跳ねる肉食獣なのだ。


ひまれいか「・・・吐き気を催す醜悪さだな。」


レキモン「警戒されてるね。闇雲に突っ込んでこない。」


端的に言って、異形の動き。

とてもまともな生命体では、こんな動きは真似できない。


No.6 BUNZIN「きゃきゃきゃきゃきゃ、きゃァァァッきゃっきゃっきゃっ!」


その動きのなんておぞましいことだろうか。

三次元的な軌道で縦横無尽に這いずりまわり、上下左右も関係なく、爆発したかのように跳躍と疾走を繰り返すがそれだけではない。


いたるところから歌、歌、歌が―――


No.6 BUNZIN「どぉーおーもーおー、BUNZINでぇっすぅー! どうーもぉーだからー、何でも食べちゃーう♪」


ひまれいか「・・・いかに強力な攻撃だろうと、当たらなければ意味が無い。レキモンならば、あの突進を容易く躱せる。アドバンテージはそこにある。」



―――その認識を甘いと砕いたのは、真正面からの暴風だった。



No.6 BUNZIN「ブフゥゥゥーゥ!!!」


BUNZINの口から発泡スチロールが噴出され・・・否、そこではない。


ひまれいか「ぐっ?!———超音波、か!?」


全方位に叩き込まれた叫び声は、風圧と衝撃の鉄槌と化していた。


―――超音波。

体表から浸透して内臓器官を揺さぶる原理は、震災と同一の理屈で身体を破壊する。

防御など、不可能に等しい。


オタさく「ナイスだ! やっぱり使わねぇ手はねぇよなぁ! この戦法がッ!」


No.6 BUNZIN「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃキャァァァァ、ぎゃぎゃぎゃはァ――!」


ここで初めて、オタさくが攻撃に打って出る。

続けてBUNZINも床から壁へ、天井へ。

上下左右に、重力を無視した動きで跳ねまわりながら、極悪な殺気を撒き散らしてそれは一気に迫りかかる。


獣じみた雄たけびを轟かせ、そして僅か一瞬の間に―――



レキモン「———。」



爪の残像が舞った。

レキモンの姿が消えていた。


No.8オタさく「———ッ??! ガァァァァァッ! お、おおぉッ・・・!」


No.6 BUNZIN「———————。」



オタさくとBUNZINの胸部を深々と、その鋭利な劣爪で抉ったのだ。


レキモン「見込み違いだったね。」


それだけではない。

オタさくたちの遥か後方、そこにあったはずの鉄壁が木っ端、いや塵芥とすら認識せずに圧し潰されていた。


レキモンの定めた直線に入った物は、なんであろうと問答無用で抉られる。

戦闘開始前に、レキモンがU2部隊を小物と表現したのは決して自惚れではない。



事実、



レキモンの異能は、賢しく嵌めたり、何かの概念をひっくり返すようなものは何もない。

ただ力。

火力と速力、総じて暴力。


ひまれいか「・・・初見殺しには初見殺しだが、レキモン・・・凄いな。」


レキモン「攻撃するとさ、基本、防御が疎かになるんだよ。俺はそこを狙っただけ。」


ひまれいかにとって、これは嬉しい誤算であった。

レキモンの一撃・・・信じられないことに、それはBUNZINを数倍上回る破壊力を宿していたのだ。


ひまれいか「だがレキモン、その両腕は大丈夫なのか?」


レキモン「安いもんだよ。特にあのBUNZINという人外は、長期戦になればなるほど不利だったと思ったから。無傷で勝てる相手じゃない。」


肩まで発泡スチロールになったレキモンは、薄く笑う。


BUNZINは先の一撃で、

逆にそこまでしなければ、BUNZINという狂犬は斃せないということなのだろう。

もう、あの獰猛モンスターは欠片ほども存在しない。


ひまれいか「残りはこいつだな。」


No.8オタさく「あ~~切れちまいそうだぜ、。」


流石と言っていいのか、オタさくだけは格が違った。

知能のない狂犬と違い、致命傷をギリギリで避けていたのだ。


レキモン「そいつも出血多量で死ぬね。両足が無かったらもう動けないでしょ。」


No.8オタさく「・・・慎重すぎたぜ。そちらの魔法使いコスチュームは飾りかぁ? 魔法系の異能を使ってくるかと思えば、最後まで・・・何も無ぇとはよ。」


ひまれいか「生憎だったな。私にそんな力はない。そしてオタさくといったな、答えろ。U2部隊としてお前は何がしたかったんだ?」


ぶかぶかの帽子を押さえながら、オタさくに指をさすひまれいか。


No.8オタさく「・・・そうか、お前は真実戦闘タイプじゃなかったのか。いい情報をありがとうよ。」


ひまれいか「・・・?」


言葉に言葉で返す。

『思考透視』の条件は達成され、オタさくの思考がひまれいかの頭脳に流れ込む。



―――そして、その意図をひまれいかは理解する。



ひまれいか「馬鹿なッ、止せぇッッ!!」



それは突如として、殿



No.8オタさく「ゲームの雑魚敵ってのはな・・・逃げちゃ駄目なんだよ。俺の攻撃が避けられると、それだけでストレスが溜まってしょうがねぇ。雑魚敵は殺られる役目なんだから、大人しく殺られろや。余計な動きはしなくていい。俺が主人公で、お前らは雑魚敵。その線引きだけは間違えてんじゃねぇよ・・・。」





―――――――。

――――。

――。



No.6 BUNZIN「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃキャァァァァ、ぎゃぎゃぎゃはァ――!」



レキモン「人を殺すときは、もっとスマートに殺す。。」



右手の爪を輝かせながら、レキモンは超獣の如しオーラを身に纏い本気と化す。

それに応じるように、U2部隊のBUNZINも迎撃態勢を取る。

対してひまれいかは、その場で茫然と立ち尽くしていた。



No.8オタさく「(戻れたか。・・・ああ~スッキリしたぜ。とにかくあのレキモンの攻撃だけは要注意だな。また下半身が消し飛ぶのはごめんだ。)」



オタさくの異能『最短再始ショートリスタート

彼はストレスが溜まれば溜まるほど、そのストレスを空間崩壊波動として解き放つことが出来る。

まるでゲーム機の電源を切ってしまうかのように。

ゲームのRTAのように。

デスルーラするかの如く。

気に入らない状況を、その場の怒りで全て消し飛ばしてしまう。

つまり、効果は単純明快。


―――である。


オタさくの致命傷は消え、BUNZINも元通りに復活し、レキモンの片腕も発泡スチロールになる前へとリセットされる。


だがこれは、時間が巻き戻っている訳では決してない。

リセットされる部分は、あくまでオタさく周辺の人物のみであって、宮殿の外まではリセットの効果が及んでいない。


つまり、時間は今も逆巻くことなく流れている。

だがしかし、オタさくと対峙する者はそれに気づくことはない。

なぜなら彼らは、記憶をリセットされてしまうからだ。



そのまま悠遊と、の経験を活かしながら最短ルートを模索する。

それがオタさくの戦法なのだ。




ひまれいか「(―――――リセットだと!!?)」



だが、一人だけ例外がいた。

オタさくと思考透視を通じて繋がっていたひまれいかである。


ひまれいか「(既に私たちは一度勝っていただと!? 荒唐無稽な話だが、!? 何故私の異能がリセットされていないのかがわからんが、とにかくこれは僥倖? 理解が追いつかないッ、私にとってはこれが一戦目だぞ!?)」


レキモン「くるよ。俺の背中に掴まって、ひまれいか。」


ひまれいか「待てレキモン。既に敵の術中だ。いや、実際に体験したわけではないんだが・・・このままいくと私たちは負ける、かもしれない。」


持ち前の頭脳で、ひまれいかは即座に敵の異能の正体を整理する。


レキモン「・・・!? それって予知? ひまれいかの異能?」


ひまれいか「それより見ろレキモン。あいつらの後ろの壁、あれはお前の破壊痕じゃあないのか? あいつらは一度経験しているんだよ。一度は私たちが勝った、だがそれを結末ごと初期化されたんだッ。」


レキモン「確かに、あれは俺の『帝獣ワンサイドゲーム』が抉った跡だね。え、どういうこと? あれって一日一回が限度の大技なんだけど。俺まだ何もしてないよね?」


No.8オタさく「いいかNo.6、すぐにとどめは刺すな。奴らは他にも切り札があるかもしれないからな。じわじわと追い詰めていくんだ。俺とも極力離れて、同直線上に入らないようにするんだぞ。」


No.6 BUNZIN「ブフゥゥゥーゥ!!!」


言われた通りに、破壊の演奏を撒き散らすBUNZIN。

一回目の戦法とは打って変わって、いきなりの絶叫砲撃である。


レキモン「———ッ、超音波だッ!」


ひまれいか「(やはり、レキモン対策されているッ・・・!)」


狂った輪唱と共に、弾かれ、砕かれ、翻弄される。


ひまれいか「(何とか動きを捉えて、相討ちの要領で攻撃を叩き込めばあるいは。

いや、そんなものは焼け石に水だ。BUNZINの誇る超再生は、あらゆる損傷を発泡スチロールで打ち消してしまう。決めるなら、さっき?・・・の時のように一撃で倒す他ないッ!)」


No.8オタさく「あまり追いつめるなよ? とどめは俺だからな♪」


ひまれいか「(いや、そもそもオタさくのリセット能力が一番ヤバい。思考透視で確認した感じ、あれはストレスが原因のようだから、怒らせたりしたら一発アウト・・・? もし、死んだ後もリセットできるとしたら奴は不死身・・・くそっ、じっくり考えたい処だが、今は状況が特殊すぎるッ!)」


No.6 BUNZIN「ブフゥゥゥーゥ!! ってこれ発泡スチロールやないかーい! ブフゥーゥ!! ブフゥーゥゥウウウッ!!」


吐き出される発泡スチロールを、超音波を喰らいながらなんとか避けていく二人。

そしてひまれいかは、ここでようやく当たり前の事実を自覚する。



ひまれいか「(・・・厄介すぎるだろこいつらッ!)」



オタさくのリセットも脅威だが、BUNZINも中々どうして曲者である。

その異能・・・強さのカラクリが朧気ながら見えてくる。


常軌を脱した突進を武器に、あらゆる障害を粉砕し。

距離を取ろうとしても、錯乱効果の付いた吼えを浴びせてくる。

遠近どちらもカバーした二種類の攻撃手段に、何度でも再生する無限の発泡スチロール。

しかもBUNZINの身体に触れた万物は、問答無用で発泡スチロールにされるから、攻めようにも攻めきれない。

おまけに躊躇も容赦もない、とびきりの人喰いモンスター。


ひまれいか「(・・・恐ろしいことに完璧だ。良い所取りしすぎだろ。)」


レキモン「どうするの、ひまれいかッ? ここで守っていても埒が明かない。」


ひまれいか「もう少し耐えてくれッ、今ここで攻めたとしても意味がないッ!」


何故なら、またリセットされるから。

現状、レキモンの『帝獣ワンサイドゲーム』でしか、オタさくとBUNZINを倒せない。

まさしく、レジスタンス側においての絶対的切札。

増援を待つという手もあるが、


No.8オタさく「何だよまだ死なねぇのかぁ? イライラしてきたぜおい・・・。」


ひまれいか「(・・・おいおいおいおいッ! 冗談じゃないぞッ!)」


つまり、勝つためには『オタさくのストレスゲージを零の状態に保ちながら、レキモンの一撃をBUNZINもろとも叩き込んで即死させる。』という条件が必須となる。


ひまれいか「(アホか・・・奴は勝てないというだけでイライラするんだぞ。リセットの瞬間など一瞬だ。くそっ、この盤面をどう突破すれば―――)」


ひまれいかの思考が止まる。

思わず、ひまれいかから笑みが零れた。


唯一無二の解決法に辿りついたからだ。



―――



―――



ひまれいか「(私の異能は戦闘向きじゃないだと? 全然違う、浅はかだぞ私よ。理屈でいうと、リセットの弱点は確かにある!)」


レキモン「策は浮かんだ、ひまれいか?」


ひまれいか「レキモン、今から私の言う通りに破壊しろ。頭脳戦・・・大いに結構だ。私におあつらえ向きじゃないかッ!」










―――隠れ家 闘技場方面



No.7めんちゃん「おあつらえ向きのバトルフィールドだね! 闘技場の観客たちも喜んでいるみたい><!」


観客のいない闘技場にて、悠遊と佇むU2部隊―――No.7 めんちゃん。

戦闘開始から既に半刻は過ぎており、レジスタンス側は苦戦を強いられていた。


悲哀れいか「はぁ、はぁ。どういうこと? いくら攻撃してもキリが無い。」


しぇいぱー君「倒しても生き返るフィールド・・・そういう異能っぽい・_・」


リオれいか「・・・なんか厄介そうですね。」


レトさん(本物)「焦るな。つかず離れずの攻撃を維持するんだ。」


先程から何度も何度も、めんちゃんは攻撃されて倒れている。

だが次の瞬間には、何事もなく起き上がるのだ。


リオれいか「なんだかこれって、私たちが虐めているみたい・・・。」


レトさん(本物)「背格好に惑わされるな。曲がりなりにもU2部隊を名乗ったんだ。安心するのは速すぎるぞリオれいか。」



No.7めんちゃん「・・・ふぅ! ようやくラッキーセブンが降りてきたよ!」



面妖な光を帯びた瞳が、疲れ切った標的たちを見据える。



No.7めんちゃん「見えてきたよ! あなたたちの><!」



こちらの攻撃が当たらないまま、何か嫌な形で勝負が終わろうとしている。

その予感を感じ取ったレトさん(本物)は、しぇいぱー君に向けて叫びだす。


レトさん(本物)「しぇいぱー! もういいやれッ! お前の異能を使えッ!」


そのまま、自分の耳を塞ぐレトさん(本物)と悲哀れいか。

異能の巻き添えをくらうのは確実だが、もうそれしかないのだ。


しぇいぱー君「・_;」


レトさん(本物)「おいどうしたしぇいぱー!? 早くお前の異能・・・を―――」


しぇいぱー君「・=・(カタカタ…。)」


悲哀れいか「ちょっと、これって?!」


しぇいぱー君が震えだすのも無理はない。

透明になるかの如く、お腹から下の部分が消え始めていたのだから。


リオれいか「ど、どういうこと?」


しぇいぱー君「誇り高きれいか民に物申・・・うわぁああ死にたくない・_;!」


恐怖に押し潰され、ようやく絶叫できたところでもう遅い。

そのまましぇいぱー君の姿は、影も形もなくなってしまった。

文字通り、その場から消滅したのだ。


レトさん(本物)「しぇいぱー! 馬鹿な・・・こんなの誰がどう見たって―――」



No.7めんちゃん「! もう永遠に出れないよ><!」



レトさん(本物)「———っ!?」


No.7めんちゃん「みんなはさ、本を閉じた後に現実に戻った瞬間、どうしようもなく寂しくなったことってない? 物語のヒーローに憧れたりしなかった?」


彼らはその問いに、何も返せない。

一秒後には、自分たちの身体も消滅してしまうのではないかと。

恐怖で言葉が絞り出せないのだ。


No.7めんちゃん「どうして自分はここにいるんだ、どうしてヒーローの所に行けないのかって・・・自分の境遇に絶望しなかった?」


一歩、また一歩とこちらに距離を詰めてくる中学生。


悲哀れいか「しぇいぱー君は・・・どうなったの?」


No.7めんちゃん「彼の願望世界はえーと、無限メス・・・イキ? う~ん? めんちゃんにはよく分からない><!」


レトさん(本物)「まさか、話に聞いていた日常演舞の異能と同じパターンか?」


いきなり人が消えるなど、最早それは反則技に等しい。

何か複雑な条件が混ざり合っている・・・という、全貌が掴めないこの感じ。


No.7めんちゃん「No.3さんのこと? けど、私は偽物。虚実世界を作るだけだよ><」


再び、めんちゃんの瞳が卑しく輝きだす。


レトさん(本物)と悲哀の身体は、


リオれいか「二人まで!? そんなッ!」


悲哀れいか「足の感覚が無いわ。攻撃は既に始まっていたというの?」


レトさん(本物)「これがU2部隊ってか。・・・キリトも敗れるわけだなこりゃ。」


リオれいか「ちょっ、そんな潔くならないでっ!」


No.7めんちゃん「みたいだからね~! 二人そろって、同じ世界に招待するよ><!」



めんちゃんの異能『天翔ける柩パンドラ

魔眼の一種。

効果を一言で表すなら、能力である。


例えばだが、めんちゃんを殴るつもりで攻撃を仕掛けたとする。

しかしそれは、『攻撃をしたい』という願望が生まれた事と同義だ。

その瞬間、めんちゃんの魔眼によって捕らわれることになる。

夢と現実の区別がつかなくなるのだ。


攻撃を仕掛けた側は、

故に、めんちゃんは攻撃を攻撃として認識せず、全て無効化してしまうのだ。


勝負ごとにおいて、強く成功を求めるのは論ずるまでもなく当たり前である。

過酷な戦いであればあるほど、そうした気持ちを武器にしないと結果を出すのは不可能だろう。


だが、めんちゃんに対してはその思いこそが、逆転現象を引き起こす。

前提として勝利を目指さなくてはならないのに、勝ちを欲しすぎると魔眼の虜となってしまう。


レトさん(本物)達の攻撃は、めんちゃんに届いていた。

だがそれは、めんちゃんが見せる妄想の中の話。

実際には、何もない空間を攻撃していただけにすぎない。


勝ちたいという気持ちと同時に・・・現実は甘くないと、そんなに上手くいく筈が無いと、等しく思い続けていれば突破可能ではある。


だが、めんちゃんの魔眼『天翔ける柩パンドラ』はそこまで甘くはない。

それこそが、第二の能力である消滅現象に繋がってくる。


手順は簡略に分けて三つ。

1、めんちゃんの魔眼は、相手の一番の願望を盗み見る事が出来る。

2、めんちゃんが許可した願望に限り、その願望が叶う世界が創られる。

3、そして、相手をその世界へと強制的に閉じ込める。




No.7めんちゃん「本を閉じた後は寂しい。物語に想いを馳せて、ふと我に返れば広がっているのは現実という名の荒野・・・そんなのは嫌だよね?」



異世界転生など、現代人が最も触れやすいテーマだろう。

大好きなファンも多いはずだ。

だが時に、その物語を創作と割り切れない者も続出している。


フィクションに憧れ、自分も異世界転生をしてみたいと―――

そう願いながら、平気な顔で自殺する若者が増えているのをご存じだろうか。

彼らは本気で信じているのだ。

こことは違う、別の宇宙へ旅立てるのだと。



No.7めんちゃん「私なら叶えてあげられる。それぞれの理想郷を創ってあげる。」



その願望を、めんちゃんは優しく検証するのだ。

魔眼の中で、様々な宇宙を創り出す。

異世界を一から創り上げ、対象を強制的に閉じ込めてしまう。


リオれいか「レトさん! 悲哀れいかさん! みんなどこにいったの?!」


いよいよもって、闘技場には二人しかいなくなってしまう。


No.7めんちゃん「後はあなたの願望だけだね><! ってあれ?」


リオれいか「さっきからがんぼうがんぼうって・・・何を言ってるのかさっぱりだよっ! 言葉の意味を教えてよっ!」


No.7めんちゃん「・・・願望が見えない。あれあれ、この人の知能レベル、どうなってるの?! 普通は望みの一つや二つあるよね?!」



・・・『天翔ける柩パンドラ』は、真正の馬鹿には効かないのである。



No.7めんちゃん「嘘でしょ・・・? 私の異能、アホの子には効かないの?」


リオれいか「みんなを返してもらうんだから! もう謝っても許さないんだからねぇーっ!」


火を吹きながら、リオれいかは角娘としての本領を発揮するのだった。











―――妄想世界



〜二人の視点〜



レトさん(本物)「ここは、結婚式場か? また古風なスーツだな。この大きいのはなんだケーキか? また随分と分かり易いな、俺の願望は。」


悲哀れいか「・・・私たちの武器は消えてしまったようね。異能は出せるみたいだけど。ウェディングドレスなんて、私なんかじゃ絶対に着れないと思っていたのに。こんなの・・・。」


俺たちの格好もそうだが、それよりも式場が豪勢すぎる。

どこまでも続くレッドカーペットに、これまた長すぎるテーブルの上に添えられた料理たち。

トドメとばかりに、俺たちの目の前には巨大なケーキが設置されていた。


レトさん(本物)「幸か不幸か、あの子供の異能が創る妄想世界は、色んなが外れるらしい。・・・悲哀のことが気にかかるわけだな。俺たちは、現実世界でもそうだったんだから。」


悲哀れいか「私たちがさっきまでいた異世界は、何らかの支配が絡んでいた? うん、私もすっかり思い出してる。」


二つの記憶がこんがらがってしまっている。


どうやら俺たちは、


その終着点が、妄想で出来た世界への幽閉だとはな。






悲哀れいか「・・・やっぱりこれって、私たちはを止めきれなかったのかな。」


・・・まぁ、異世界が作られたのがその証拠だって、私たちは分かってる。


今はとにかく、この世界からの早急な脱出が第一だけど、これはもう無理そうだ。

私たちがこの世界で自殺したとしても、脱出できる望みは無い。


だってそれはもう、

純白のドレスについた血は、すっかり綺麗に元通り。

凶器の包丁も、気づかれずに戻しておいた。


そもそも、私たちは死んでいるのか生きているのか。

現実世界での戦いを思い出す。


・・・あの子との関係も、私にとっては手遅れで。


私たちは負けた。

それはもう、どうしようもない事実。


悲哀れいか「ねぇ・・・私はレトさんのことが好き」


レトさん(本物)「・・・は?」


その言葉に、俺はひどく怒りを覚えた。


悲哀れいか「レトさんの方はどうなの? 私、やっぱり面倒くさいかな。」


ああそうだ、こいつはこういうやつなんだ。

現実世界で起きた、アポカリプスの時だってそう。

あの子と共闘した時だってそうだ。

他のものには目が向かず、全て自己完結という停滞に陥ってすぐ諦める。


あの時の性格が戻ったんだから、悲哀がどうなるかなんて目に見えていたさ。


だから―――


レトさん(本物)「今の悲哀には答えられないな。」


俺がやらなければならないのはなんだ。

現実世界での過ちを、俺は今こそ清算したい。





悲哀れいか「・・・どうして?」


レトさん(本物)「だっておまえ、俺を信じてないだろう。」


その眼に映る人間は俺じゃない。

俺は、お前が思っているほど柔な男じゃないんだよ。


悲哀れいか「そんなことない、ずっと信じているもの。レトさんは強いんだって。」


俺は、返答に対して傷ついている悲哀の目を見つめながら、ゆっくりと近づいていく。


悲哀れいか「ごめん・・・また私のことだから、きっと知らないうちに変なことしちゃってたんだよね? 謝るから、どうか信じて。何も嘘なんて言ってない。私は本当にレトさんのことが―――」


レトさん(本物)「だから、そういうことじゃないんだ。」


今も続く勘違いに対し、首を振りながら代わりに一言。



レトさん(本物)「俺と戦え。」



言い放ち、ケーキ包丁を取り、見せつけるように構えをとった。


悲哀れいか「え?」


もはや正すことが出来るのは、言葉という生温い手段じゃない。


重度の精神的外傷は今も血を流す裂傷で、故にどれだけ言っても改善しない。

そこから逃げてきたことを臆病だと言わないし、気概が無いと責める資格は他人である俺にはない。

だがそれを言い訳に、こいつの歪みを放置しておくこと、それこそ俺には耐えがたい。


レトさん(本物)「構えないならこちらから行くぞ。」


そして、躊躇なく振り下ろした一撃を前に、こいつは―――


悲哀れいか「・・・ッ!?」


当然、それを受け止める。

真っ向から、咄嗟に苦もなく、軽々と。

一瞬の早業で、もう一本のケーキ包丁を掴み取り、なおかつ防御まで漕ぎつけた体捌きは見事。


レトさん(本物)「・・・。」


こうして全力を見せているという姿勢さえ、どうしようもなく鼻につく。

やっぱりお前、現実世界のあの時、やろうと思えば動けたんじゃないか・・・ッ。


悲哀れいか「な、なんで・・・。」


レトさん(本物)「それを分からせるためにだよ。」


自覚しろって、お前こんなものじゃないだろう?

へっぴり腰で、精一杯だという演出なんかするなよ。


現実世界のあの時もそう。

全てを背負ったあの子は、お前を信じていたんだぞ。


俺もそう信じているのに、自分自身である悲哀れいかだけが頑なに目を逸らし続けている。


レトさん(本物)「悲哀、本気を出せ。おまえを見て、信じている人間がいなくならなければ力を出せないといつまで言うんだ。孤独になって、涙して、発狂しないと八つ当たりさえ出来ないのか? 俺が役者として不足しているから、全力を出すと壊れてしまいそうだとでも?」


もうあの時とは状況が違う。

だけどいいか、よく聞け。


レトさん(本物)「男を、俺を、いつまでも甘く見るんじゃないッ!」


叫びながら怒涛の攻撃に打って出るそれを、悲哀れいかは紙一重でいなし続ける。

まさに防戦一方・・・な訳もない、ああなんて白々しい。


そして同時に頷ける。

混乱して真っ当な精神状態では決してないのに、手を抜かず攻めている俺からまだ一撃も喰らっていない。

ずば抜けた才能、そしてそれに見合わない傷だらけの小さな心。


悲哀れいかは、最高峰の実力を持っている。


だというのに。

鋭く刃を振るいながら、今も童女のように泣いている。


悲哀れいか「そんなこと、一度だって思ってないッ!」


だから捻りもなく否定して泣き叫ぶ。




―――


悲哀れいか「レトさんは男の子だもの。あなたの方が強くて、凄くて、かっこよくて、それは当たり前じゃない。だから訳が分からない。何に怒っているのか教えて。お願い、やめてッ、戦うなんて出来ないからッ!」


レトさん(本物)「・・・。」


悲哀れいか「だって―――私は女だから、男の人より弱いもの。」





男の人が強さにかける思いは狂気だから。

女の私ではどうしたって、その飢餓の深さを分かってあげることが出来ないから。


文明が進み、社会が成熟したあの現実世界。

法や人権意識が常識的に定着した世界。

他者と面を向かって罵倒しても、殴られるということにさえ思い至らぬ奇形が溢れる時代。

私たちはそこにいた。


堕落。

紛れもない魂の劣化。

暴力が縁遠い世界になれば、男の男らしさなど紙細工にも劣る。

男の程度などそんなものだと、彼らは放り出す。


戦わねばならないという性の重圧を投げ捨てて、ただ安穏と愛でればいい。

女々しく弱体化する奇形の自分を正当化し、母乳の中毒になりながらどこまでも墜ちていく。


幻想であるが故に、愛でる対象として女にでも背負わせたらいい。


悲哀れいか「強い女なんて、本当はこの世のどこにもいやしないのよ。」


だからそう言わなければならない。

現代世界では、私のような女にも需要が生まれる世の中になっていた。

そういうアニメや、そういう創作。

中性的なホストやアイドルが求められる風潮になり、相手が自分より優れていれば躊躇なく女に向かい尻を振る恥知らずが増えていた。

女が戦い、女が強く、女が導き、女が女が強いから・・・と。

男はそれに不満を覚えず、屈辱にさえ震えて喜ぶどうしようもないマゾと化すのだ。


いやだいやだ。

そんな奇形を自分は生み出したくはない。

だから―――


悲哀れいか「私は弱い、弱いから、変なことを言わないで・・・。」


せめて男の気概を有する人の前では、それを見せてはいけないの。


悲哀れいか「女に戦いで負けて、平気でいられる男の人なんていないじゃない。だからレトさんには敵わない。」


勝ってしまうかもしれない可能性だって絶対に見せてはいけないんだ。



悲哀れいか「それにそもそも、同じ土俵に立たれることすら嫌がるくせに。」



女性参政権? フェミニスト?

迷惑でしょ? 邪魔でしょう?

女は黙って洗濯でもして、政治の場になど関わるなって心の底では思っているくせに。

そしてそんな男の人を、これが男の意地なんだって私は認めてるんだから。


悲哀れいか「無茶苦茶なこと言わないで。どうして、レトさんが怒っているの。」


あなたは男、強い人。

だからそのお株を奪いたいとは思わない。

だから自分は前に出ない、間違ってないと思っているのに―――



レトさん(本物)「?」



彼はそれを否定する。

自分は男であるという自負を持っているんだこの人は。

雄々しい瞳が私の雌性をこれでもかと疼かせる。

間違っているのはお前の方だと、強い視線で射抜くのだ。


レトさん(本物)「ああ、確かに面白くはないさ。女は面倒くさいと世間は言うけど、男もどうして、かなり面倒くさい生き物だ。野心とプライドの奴隷だからな。」


『それはお前の主観だろ』、『それは古い考えだろ』、なんて言うのは簡単だ。


男女感に囚われた仲間を救うには、真正面から想いをぶつけるしかないんだよ。


なぜならそれこそが。


『世界への無関心』に続く、二つ目の因子点。

ネカマが多い『れいか界隈』であるからこそ。



『男と女』

このキーワードもまさに、



―――現実世界での失敗はもう二度と起こさない。



ああそうさ、お前の言ってることは断じて間違っていない。


俺たち男は、女性に戦いを任せることをひどく不格好に感じてしまう。

まして自分より強いとなれば、男は心穏やかじゃいられないのさ。


レトさん(本物)「男女平等。能力、才能、効率効率・・・自分はその力を持っていないから。そういう風に生まれてないからと男は言う。性別など関係ないと平等を口にして、強い女を矢面に立たせようとする奴。そのことを恥とも何とも思わない世の風潮。そこには俺も腹立たしいものを感じているよ、恐怖さえ覚えている。」





レトさん(本物)「強くなければ男じゃない。いいや、仮に弱かろうとも、大事なのはそこに恥を覚えるか否か。気概の有無、覚悟ってやつだ。・・・ああ、実に小賢しい。確立や方法論を唱える男にいったい何が成せるという。重要なのはまずそれを譲れないという憤り。」


異世界転生しないとヒーローになれないだって?

そんなボンクラ意見など、俺は間違っても認めない。


レトさん(本物)「これを当然という男は語るまでもなく屑だろう。そんな奴らはもう男じゃない。男に生まれた資格が無い。」


悲哀れいか「・・・・。」


ええ、私もそう思う。

女性に守られることを恥じとも何とも思わない男性。

自分では何も成せず、女性の隅に隠れて担ぐ男性など・・・私は何も感じない。

エゴで、マゾで、欺瞞しかない男性に、恋心を抱くなんてありえない。

私はそんな奇形を生み出したくないだけなの。


悲哀れいか「そうでしょう! なら―――」


レトさん(本物)「けれどッ!!」


烈火の如く、怒号と鉄が叩きつけられる。

そのまま、彼は燃え盛る炎のように―――


レトさん(本物)「だからって、俺は女性おまえに手加減しろと頼んだ覚えは一度もないッ! 分かれよ悲哀。女に知らず手を抜かれて、それを喜ぶ男もまたこの世のどこにもいないんだよッ!」


俺は攻めの手を止めることなく、自分の正直な意見を紡ぎだす。


レトさん(本物)「そして、追い抜かれるのが怖いからって女性の可能性を摘むような奴は、男以前に人間としての資格が無い。俺も人、お前も人、だからこそ対等、基本だろう!」


悲哀れいか「・・・・・何よ、それ。」


今、レトさんは何を言ったか自分で分かっているのだろうか?

女より強くないと狂う、でも女が弱く見せるのも屈辱だって?

それは、そんな―――



悲哀れいか「そんなの、どうしたらいいのよ馬鹿ァッ!!」



対処が出来ずに感情が爆発する。

がむしゃらに押し返しながら刃を振るって泣き叫んだ。

もう何も分からないッ!


悲哀れいか「私は生まれつきこうだもん! ええごめんなさい、弱く生まれることが出来なくてッ! それが間違いだって痛感して、我慢して、ずっと閉じ込めてきたんだから・・・なのに今度はそれもやめろ? 腹が立つから、嫌だって・・・軽く言わないでよ、じゃあどうすればいいっていうの! 死ねって? 消えろ? じゃあそうしてよ、レトさんがやればいいんだ! ・・・私、頑張ったのに。もう、嫌だ。・・・嫌だよぉ・・・。」


レトさん(本物)「悲哀。」


そこで静かな言葉が割り込んだ。

ふっと、彼は初めて自嘲するように微笑んで。


レトさん(本物)「男ってのはな―――。見栄とプライドを女の前で張り続けることを背負って生まれた、馬鹿で苦しい生き物なんだ。」


だから、そんな気を遣わなくてもいいと、彼は恥ずかしそうにそう告げた。


レトさん(本物)「仮にお前の才能が、おれの十倍あったとしよう。それで負けてしまったとしよう。で、それがいったい? だからなんだ。どうしておまえが遠慮しなければならないという、見当違いの話になる。この場合、男と女の正しい関係はそんな手抜きや加減の問題じゃない。女に負けないよう、。違うか?」


悲哀れいか「————。」


分からない。

違うのか、そうでないのか。

自分はそれが分かるほど頭が全然よくないし、後ろ向きだからすぐ肯定することも出来ずにいる。


けれど彼は、こんな笑ってしまうほど強引なやせ我慢の根性論を、本気で信じているようだった。

これが男の矜持なんだと、胸を張って口にしている。


レトさん(本物)「そして、お前はもう一つ間違えている。強さにかける男の想いは『狂気』じゃなくて『誇り』なんだ。女を守ることでヒーローになれる特権こそ、男に生まれた醍醐味じゃないか。それは不幸なんかじゃないんだよ。たとえどれほど病弱であったとしても、その資格を持って生まれたことは何物にも勝る喜びなんだ。」


戦わなねばならないという性の重圧。

苦しいはずの宿命は、男だけが得ることのできる喜びである。

これは、そう決してこれだけは、女に譲ってはならない線だから。


彼女の為に。

仲間の為に。

誓いの為に。

未来の為に。


その波乱と苦難を一手に引き受けようとする覚悟。

それを背負って生まれたことを、あろうことか―――ああ、この人は。

この人は―――。


レトさん(本物)「だから当然、たまには無茶もするけれどそこはちょっと許してくれよな。見えないところで馬鹿みたいに努力もするし、格好もつける。その代わりに困っていたら絶対に駆けつけるとも。見返りなんて求めない。だってこれは当たり前のことだから。」


異世界転生なんて、そんなものはいらなかった。


レトさん(本物)「ズタボロになって血反吐ぶちまけることになったとしても、全身が跡形もなくぶっ壊されても・・・あげく君たち女に助けられる事態になっても、恨むだなんて狭量なことはするものか。鍛え方の足りない自分が悪いんだ。そうやってやせ我慢をしながら色んな荷物を背負い込んで、男は強くなるんだよ。」


だってそれこそが、当たり前なのだから。


レトさん(本物)「悲哀、辛いときは幾らだって頼れ。どんな困難が相手でも、俺は命をかけて守り抜く。まぁ、ほら・・・言われた通り男は基本、馬鹿なんだよ。女の子に笑顔を見せられただけで、身体を張るには充分な理由なんだ。」


そこで一度、はにかみながら肩をすくめて。



レトさん(本物)「無理難題をふっかけて男を辛くさせるのが、女の特権ってやつだろう?」



太陽のような輝きが私のに、小さな亀裂を刻んだのだ。



レトさん(本物)「つまりは悲哀、男の格好つけるべき場所を奪うな。見せるべき舞台を変な小理屈で荒らさないでくれ。その意地を摘むような奴は女以前に人じゃない。人と人は対等だ、そうだろう?」


同じ人間だから容赦もしないし遠慮もしない。

互いに全てを見せ合って、それでいながら相手のことを認める気持ち。


・・・ならば私はどうなの。

それに相応しくあれただろうか。

考えても答えは出ず。


悲哀れいか「・・・・っ。」


もう一度、自分は向き合わなければならないのを自覚した。


ようやく自覚できたのだ。


レトさん(本物)「まあ、諸々まとめてそういうわけで。」


格好つけるように、彼はケーキ包丁を構える。


レトさん(本物)「そもそも俺がお前に負ける場面が思いつかん。だから来いよ。どんな本気でも引いたりしないし、受け止めるさ。それとも何だ?」


そして、私の心をこじ開けてくるのだ。



レトさん(本物)「本気を出したら、?」



悲哀れいか「レトさん・・・。」


一瞬だけ、現実世界の記憶が重なった。

いいや、今、自分はここにいる。



―――やり直しはここからになる。



レトさん(本物)「男を舐めるんじゃないぞ、悲哀———ッ!!」


そして、放たれた攻撃は紛れもなく最強の一撃だった。


これを受ければ自分は死ぬ、しかし意識はそれを二の次だと感じている。


悲哀れいか「私は・・・。」


頭の中で、彼の伝えてくれた言葉がずっと響き渡っていた。

結局はそういうことなのだろう。

あの時、現実世界でアポカリプスを引き起こしてしまったのは、自分が強いからでもあの子が弱かったからでもない。

全ての原因は、あの子を同じ対等の人間として見ていなかったことになる。

すなわち私の傲慢さが、あの結末まで導いてしまったんだ。

つまり信じていなかった。

なんて馬鹿、救えない。





その祈りが通じたのか、今ここに当時と全く同じ状況が生まれている。


熱く気持ちをぶつけてくれる男の人が現れた。

じゃあ自分はどうするべきか?

考えたのはほんの刹那。


悲哀れいか「そうだね。」


決まっている、今度はもう間違えない―――!


レトさん(本物)「―――!」


瞬間、驚くほどのしなやかさで悲哀れいかはその一撃を回避した。

必殺の攻撃は、そのまま巨大なケーキを一刀両断する。


悲哀れいか「受け止めてッ、レトさん!!」


そして、放たれた攻撃は紛れもなく最強の一閃だった。

悲哀れいかの全霊を、何より有り余る想いをこめて―――。


レトさん(本物)「―――!?」


まさに目と鼻の先、皮膚に届く寸前で俺は極上の絶技を受け止めた。

・・・今のは正直かなりヤバかった、というかえげつなさすぎるだろ!


悲哀れいか「ご、ごめん。ちょっと力いれすぎちゃって・・・大丈夫、だった?」


レトさん(本物)「何がだ? まったくぬるい。見て分からないか、余裕だろ。」


アピール代わりに腕をぐるぐる回す俺。

ほらみろ、なんてことないこんなもの。

痺れているのなど気のせい、まだまだ甘い、今回は俺の勝ちだ。


レトさん(本物)「ていうか、この程度で自惚れていたのかお前。ちょっと自意識過剰すぎるだろう。」


悲哀れいか「・・・むぅ。あーあー、そう来るんだこの場面で。レトさん、足腰ぷるぷるしてるじゃない。意地っ張りだよねぇ、これだから男の子はさ。」


レトさん(本物)「言ってろ、つまりこれが勲章なんだよ。あれほど説いてやったんだから、いい加減にそこを分かっとけ。」


悲哀れいか「・・・。」


レトさん(本物)「・・・。」


悲哀れいか「・・・ぷっ。」


レトさん(本物)「・・・ふふ。」


レトさん(本物)・悲哀れいか「あはははは、はははははっ」


言いたいことは言いきったし、悲哀から感じていた影や澱みはもう感じない。

ああやっと、現実世界の過ちから戻れたんだ。

異世界に召喚され、はたまた敵の異能で妄想世界に閉じ込められ、全てが終わってしまった今だからこそ、俺はこうして伝えることができた。



アポカリプスの時とは違って、今の俺たちはここがスタートラインなんだ。



悲哀れいか「はぁ、本気で殺されるかと思ったんだから。」


レトさん「もう大丈夫だな?」


悲哀れいか「うん、ありがとう。やっと男心が分かった気がする。自分が見つけなければいけなかった一番大切な心もね。」


あの時、私は目の前で戦っているあの子のことを信じてあげることができなかった。

ううん、それはもう私だけの問題じゃない。

あの子は誰からも理解されなくて、誰とも繋がらずにすれ違って、勝手に私たちは決めつけて―――


今度こそ、間違えない。


異世界が生まれてしまった贖罪の為に。

輝かしい未来を取り戻すために。

全てはあの子の為に。





レトさん(本物)「しかし、大分派手にかき回したと思ったんだが。どうやらこの式場、壊した箇所から復元されているようだな。切ったケーキはそのまんまなのが笑えないか?」


悲哀れいか「そもそも、私たちの今の状態ってすごく希少だよね。。でも私たちはここにいる。この世界にいる間だけ、現実世界の記憶を思い出せてる。ということは、やっぱりあの異世界にいた私たちは・・・。」


レトさん(本物)「今は脱出が先だ・・・ってやっぱりこれ、相当強力な封印だ。異世界の枷を外せるくらいだから、生半可なものじゃないぞ。」


式場の外は、これ見よがしに殺風景な景色が広がっている。

空も草木も、本物にしか見えない。

向こうに見える山岳も、行こうと思えば行けるのか?

この妄想世界、まさかどこまでも広がっているんじゃないだろうな?


悲哀れいか「嘘、あれ私の両親・・・。ちょっと待って、いつの間にか周りに人がいっぱいいる!」


レトさん(本物)「俺の両親もいるぞ。・・・仮に俺たちが、この世界で暴れたとしよう。さっきのようにな。だがおそらく、そんな事などお構いなしに世界は回り続けるんだろう。そのうち俺たちが、ここを現実世界と錯覚するほど腐っていくまで・・・修正され続けるんだろう。」


式場で暴れた事実は、そのまま無かったことにされていく。

俺たちが幸せになるために、違和感の全てが修正されていくんだ。


悲哀れいか「・・・このまま、仲良く過ごしていくしかないのかな。」


ああそれもいいかもな。

何不自由なく、このまま妄想の世界に浸って結婚生活を謳歌する。

目を背けて、偽りの幸せを掴み取るのもいいかもしれない。

だけどな、そんな弱音にあえて俺は―――。



レトさん(本物)「悲哀、さっきの答えだが―――俺もお前が好きだ。」



悲哀れいか「・・・・え、ええっ!?」


レトさん(本物)「驚くなよ、返事がまだだっただろう? 気に病まなくていい。男として、待たせちゃいけない部分だからな。」


悲哀れいか「えっと・・・状況の確認がまだっ、その! 済んでないしっ!」


レトさん(本物)「そんなに恐縮されると、俺の居心地が悪くなるぞ・・・。」


やはり、願望が成就されたからといって、この世界から脱出は出来ないわけだ。

言っておくが、この想いは誠心誠意の本心だ。

だからこそ、こんな妄想世界が生まれたんだろうが・・・まあいい。



―――俺の狙いはそこじゃないからな。



レトさん(本物)「、悲哀。」


悲哀れいか「えっ!? ・・・あっ、うん。その、当てはあるの?」


消える前に、自分の気持ちを伝えることが出来た。

だが待っていろ悲哀。

俺は必ず、またこの関係まで築き上げる。



レトさん(本物)「たとえ何年かかったとしても、俺はまた悲哀を好きになる。」



・・・ごめんな、悲哀。

これでも計算はしているんだ。

最適解は、もうこれしかないと思ったんだ。



レトさん(本物)「———『他愛ない実現奇術リーディングマジック』」



悲哀れいか「・・・っ!? 待って何をする気なのっ!」



表情から俺の心情まで察したらしい。

お前は真実頼れるやつだよ、悲哀。


ああ、実際いまこのときだって、叫びたいくらい嫌なんだ。

本当に本当に誰にも渡したくない。

それでも、しかし捧げよう。


―――俺の宝物を。


悲哀れいか「きゃああぁぁっ!!」


周囲一帯を巻き込むように飛んでいく嵐は、私も良く知るレトさんの異能。

今までに見た誰のどんなものよりも巨大な規模だった。



瞬間、視界全てが白光に包まれるほどの衝撃波が走る。



敵の掌たるこの妄想世界に今、間違いなく―――



微かなひずみが生じる音を、私は確かに聴いていたんだ。














―――隠れ家 闘技場方面



No.7めんちゃん「あああぁああ痛い痛い痛いッ、眼球が割れちゃうぅッ!!」


レトさん(本物)の功績は称賛されるべきもので、だからこそめんちゃんにとっては異常事態に他ならなかった。


No.7めんちゃん「何でッ!? 抑えきれないッ!! こんなのありえないッ!」


リオれいか「み、みんなっ!? 何処から出てきたの!?」


天翔ける柩パンドラ』とは、双方合意の上に発動する絶対ルールなのだ。


願望を叶えたい、ならば叶えてやる。

と、お互いに合意は為されている。

本来、一度嵌った状態からその決まりを破ることなど出来はしない。

気合いや奇跡や覚醒だと、そういう次元で覆せるものではないのだ。


故に破るなら、まったく外部の第三者からの助力が入るか、神話型レベルの異能で打ち破るかの二つに一つ。


そのうち、前者はあり得ない。

であれば、答えは見えている。


No.7めんちゃん「ば・・・ばけものっ・・・!」


レトさん(本物)「化物に化物呼ばわりされるのは・・・思いのほか何にも感じねぇなぁ。」


しぇいぱー君「――――――。」


悲哀れいか「戻ってきた・・・私たちの記憶もそのままにッ!?」



―――妄想世界からの脱出、成功である。



No.7めんちゃん「絶対戻ってこれないはずなのに、ひぐっ、ふえええん;;」


めんちゃんは、完全な無防備を晒したまま崩れ落ち・・・。


No.7めんちゃん「ううっ、ふえええぇえええぇええぇえん;;;」


失禁しながら、その場に泣き崩れてしまう。


しぇいぱー君「・・・びええええええっ;_; あんな世界はもうこりごりでやんすぅう;_;!」


大人一人も、その号泣の輪へと加わった。


レトさん(本物)「あーあー、みっともないぞ泣くんじゃない、どうすりゃいいんだこれ。ちょっとリオれいか! ! 手伝ってくれ!」


リオれいか「えっ、うん! ・・・U2部隊確保じゃああああッ!!」


悲哀れいか「・・・・まさか。」


それぞれが行動を起こす中、悲哀れいかだけは動けずにいた。

レトさん(本物)が一体何をしたのか、朧気ながら察してしまったからだ。



レトさんの異能『他愛ない実現奇術リーディングマジック

それは、万物を生贄にすることで、タネも仕掛けもない奇跡を起こせる異能。

代償の代わりに、それに見合う結果を実現する相殺の業である。


レトさん(本物)は、妄想世界を脱出するために、それ相応の代償を支払ったのだ。

絶対に手放したくないものを捧げることで、時に神話型のレベルへと昇格する。


悲哀れいか「(勝手すぎるよ、こんなの一人で決めないでよっ・・・。)」


真実、一切の不純も邪念もなく、差し出したくない光。

それこそが。



―――『悲哀を好きだという心』である。



愛情、記憶、これから育めたはずの未来そのものを。

レトさん(本物)は、等価交換の贄に差し出したのだ。

それは死ぬことよりも辛い事。

自分の命よりも守りたいもの。

世界と引き換えにしても譲れないもの。


神話級の封印術を持つめんちゃん程度では防ぎきれるはずもない。

その想いは、妄想空間の破壊をも可能にするほど強大で―――。


レトさん(本物)「何ボケっとしてるんだ? そういや、現実世界のアポカリプスの時に顔を見たな。俺はレトさんだ。って、今は自己紹介する暇もないか。」


悲哀れいか「・・・私は悲哀よ。あなた、格好つけすぎってよく言われるんじゃない? 無茶なところは現実世界の時と変わってないみたいだけど。」


レトさん(本物)「なのに随分なご挨拶だな。それより、悲哀さんも記憶は取り戻したんだな?」


身体の奥から溢れてくる悲しさをグッと堪え、悲哀れいかは言葉を紡ぐ。

冷静に思考しながら、今は戦の最中であって一刻の猶予が無いのだと、自分にきつく言い聞かせる。


悲哀れいか「ええ、。それを思い出せた。」




私たちにとっての本番、それは



リオれいか「ロープでぐるぐる巻きにしちゃうよー! その魔眼はタオルで塞いでっと!」


No.7めんちゃん「んー! んっー!(何よこれーっ><!)」


思い出せたというこの奇跡を、決して無駄にしてはいけない。

伝えなければならないんだ。

そのためにも。


悲哀れいか「でもまずは、隠れ家の皆を守らないと―――」



ドシィィイイィイイイィィイィイイィン!!!



そこで一際、激しい振動と揺れが全体を襲う。

何事かと、頭上を見上げる悲哀れいか達。



そこには―――



レトさん(本物)「・・・嬉しくなってくるな。俺たちが現実世界で頑張ったことは、何一つ無駄では無かったんだ。あいつはこれからも、一人の人間として強くなる。」




―――












―――隠れ家 上空



~少女視点~


まず目に入ってきたのは、認めたくない光景。

家が、人が、レジスタンスが、余すことなく蹂躙されている。


次いで、隠れ家中に散らばる淀んだ気配。

落下の空気に触れるたび、何が起こっていたのかを知覚していく。

その中で、一際目立つ巨神の存在。


「ふじれいかぁああああぁあああああぁあぁあぁぁあああっ!・。・!」


隠れ家入り口の梯子から、少女は攻撃を繰り出さんと烈風と化す!


誰が敵かなんて、そんなものは一目瞭然だった。

巨神の手には、握りつぶされたスカイれいかの姿があったからだ。


ふじれいか「・・・ァァアアアァアアアアァアアアッ!!!」


負けじとふじれいかは、究極十全、剛の拳を落下中の少女に飛来させる。


自分が許せない。

宮殿はバラバラ、繁華街も最早廃墟だ。

私のせいなのか?

私がいたから、隠れ家は襲われずに済んだと日常演舞は言っていた。

だったら、私が外に出たせいで?


・・・というか、それよりも何よりもお前だよッ!!


「ふざけてんじゃねぇぞぉッ、ふじれいかぁああぁあぁあぁああッ!・。・!」


少女とふじれいか、再びの激突。

まさしく、あの模擬戦の焼き直し。

だが一つだけ、当時とは異なるものがある。


巨体の大きさは模擬戦と変わらず、少なく見積もっても40メートル。

感覚が麻痺してしまうほどのスケール感に、しかし少女は怯まない。


「隠れ家に溢れる負のオーラを・・・還元するッ・。・!」


ありったけの黒焔を展開し、少女は想いを拳に乗せる。

急所を狙うなど野暮なことはせず、そのまま顔面に向けて激突し―――


ふじれいか「―――ッ、ガアアァアァアァァァァッ!!」


轟音と衝撃。

少女のあまりにも馬鹿げた破壊力を有した拳は、巨神目掛けて順当に命中する。


「ブッ倒れろぉぉぉおおおぉおおッ!・。・!」


―――のみならず、その巨体ごと地面へと倒れ墜ちた。












―――隠れ家 繁華街



No.5安眠「んふふふっ! 安眠が欲しいんだろって、こんなんで私が眠る訳ないじゃ~ん! アニソン聞きながら寝たことなんてないし私!」


もえれいか「し、失敗したぁ。素直に洋楽コーナーでも流した方が・・・勝機はあったかも・・・。」


その場でぴくりとも動かないゆうれいか。

眠るように、壁に寄りかかっているヴィオラ。

そして、今の今まで持ち堪えていたもえれいかも、体力の限界が近づいてこようとしていた。


もえれいか「化物すぎっしょ。あーしと違ってタフネスすぎ・・・。」


まどろみの誘いに抗うことなく、目を閉じて倒れようとするもえれいか。


もえれいか「・・・!?」


だがそこに、もえれいかの身体を支える男が一人。


No.5安眠「・・・・ふふっ、待ってたよ。」


黒い衣、二刀流。

その姿は老兵なれど、決して侮る事なかれ。

ここに君臨しは、レジスタンス側においても伝説レベルの存在。




キリト「―――――よぉ。」



・・・キリト参戦。



彼らは間に合ったのだ。

隠れ家まで極上の速度を維持し、取り返しがつかなくなる前に帰還できたのだ。


もえれいか「き、きっさん・・・。」


キリト「よく頑張った。あとはそこでゆっくり見てろ。」


抱えていたもえれいかを降ろすキリト。

そのまま、キリトは二刀流を鞘から抜いて外気に晒す。


キリト「安眠、お前はその名の通り、安眠が欲しいんじゃない。クルーズ聴いても満足しないお前に、俺は引導を渡してやる。お前の欲しいものが、ようやく分かりかけてきたからな。」


それは何度も何度も、過去数度に渡って繰り返されてきた。

恥ずかしげもなく、それでいて真摯に、キリトは真正面から答えを口に出す。



キリト「、だろ?」



No.5安眠「・・・ふふっ。」


余計な感情は必要ない。

幾度となく戦ってきた双方の間に、そんなものは無粋なだけ。


ただ、戦う。

この二人はそういう宿命なのだ。


もえれいか「きっさん・・・あいつの異能は、男じゃ駄目なんだ。私たちでこのザマなのに、男のあんたが行っても使だけだッ!」


キリト「いや、俺はもうあいつの異能を克服しつつある。安心しろ、絶対に死なねえさ。」


No.5安眠「・・・私は、殺されるならキリト君しかいないなぁって思ったよ。」


キリト「薄気味悪いことを言うなよ、まだ始まってすらいねぇぞ。」


No.5安眠「ふふっ、それもそうだね。思えば私達って、不思議な縁じゃない?」


キリト「もう三度目か・・・嫌な思い出だぜ。どれも結局、最後まで決着はつかなかった。」


No.5安眠「二度あることは三度あるかもよ・・・?」


キリト「いや・・・。」


うっすらと微笑しながら、彼は自らに残っていた甘さを完全に斬り捨てる。



キリト「安眠。。」



一片も迷わず、そう言い放った。


キリト「どんな事情があるにせよ、隠れ家をここまで滅茶苦茶にしたお前らU2部隊を、俺はどうしても許すことが出来ない。」


No.5安眠「・・・それじゃ、ここで白黒つけようか。今度は最後まできっちりと、ね?」


自然すぎるほどに、双方は滑らかな動きで二刀流を構える。



ドシィィイイィイイイィィイィイイィン!!!



ふじれいかの落下による振動が、例外なくキリト達たちを襲う。

視界を覆う粉塵が巻き起こる。

しかし、その程度では止まらない。


これより先何があろうとも、戦いの決着が付くまで止まることはない。


キリト「決着をつけよう。いくぞ、安眠———!」










―――隠れ家 西地区



~少女視点~


スカイれいか「ったく、とんだ目覚ましだったわ。感謝しなさいよ? 私が『四つの風』を展開していなかったら、まとめて落下死してたかもしれないのよ?」


「ご、ごめんなのだ・。・; 私、なんかまた強気な性格になっちゃったみたいなの・。・;」


どうやら私たちは、勢いのまま地面に不時着してしまったようだ。

戦闘中に熱くなるクセ、私はもう個性だと割り切っている。


ふじれいか「ははは、見事だ記憶喪失の少女よ。さっきの一撃、効いたぞ。」


そこに横たわるは、巨神化が解けた一人の人間。

土砂が舞い散る音に包まれながら、私はふじれいかの容態をまじまじと見つめる。

毛細血管が破裂したのか、その目と口からは血が溢れていた。


「ふじれいか・・・私は後悔してないなの・。・」


悲しみも何も感じない。

やったことは殺人みたいなものなのに、自然と心は動かない。



―――だって私は、そのように調整されたのだと思うから。



ふじれいか「ああそれでいい。。」


「・・・もう謎かけは懲り懲りなのだ・。・ 後は直接、宮殿に向かって答え合わせをしに行くなの・。・」


ふじれいか「ふっ、そうか。決意は充分のようだな。」


スカイれいか「ぜんっぜん話の流れが見えないわけだけど? まぁ後で説明してもらうとして・・・宮殿に行くのね? 私も行きたいけど、身体が動かないわ。これじゃあリーダーの護衛失格ね・・・。」


「安心してなの・。・ 軽くケリをつけてくるのだ・。・v」


ピースサインを出す私。

それを見たふじれいかは、血反吐を吐きだしながら笑いだす。



ふじれいか「嬉しいよ。こんなにも逞しく成長するなんて、な・・・。」



そして、最後っ屁の台詞を餞別とばかりに、ふじれいかは私に言い放ったのだ。



ふじれいか「どうか、ッ。」



「———ぁ・。・!」



その言葉を聞いた瞬間。


私の欠落していた記憶が、欠けていた歯車が合わさるように。

謎の答えが、見えたような気がした。












―――宮殿内 二階



ふぁ「それがあんたの奪ってきた輝きってわけ? ご愁傷様ね。」


フリー「ふぁっきゅーれいか・・・? その力は一体・・・?」


王の間入り口での戦闘が開始し、一時間と三十分。

場はすっかり終盤とはいえ、状況は更なる混乱を極めていた。


No.10セイキン「な・・・何なんだよ! どうして効かないんだッ!? これも、これも、これもこれもッ!」


喝采も熱湯も銃弾も、ふぁっきゅーれいかは等しく無効化する。


ふぁ「なんて情けないのかしら。他人から毟り取った異能を自分の物だという風に、疑問も感じず見せびらかす。この恥知らずが。」



―――彼女の本気が、U2部隊の一人を叩きのめす異常事態。



ふぁ「オリジナリティが欠片もない。人のふんどしで相撲を取ってるだけじゃないの。」


No.10セイキン「だ、黙れ黙れ黙れッッ!! それでミリオン再生取れてんだからいいでしょう!? 何も問題はナッシングなわけで―――」


ふぁ「思えばあなた、ようつべ時代もそうだったわね。その感性、私は根本から理解できないわ。オリジナリティ云々よりも、。賞賛されるべきは、あくまでそれを練磨してきた人たちでしょ?」


ただ道具。

自分のもの。

セイキンというのは、真実そうであった。

おまえらは俺の為に生まれたのだから俺が使って何が悪いと、破綻者の思考回路で完結している。


ふぁ「何て我儘、中身が零ねあなた。ようつべが無くなったら、後には虚無しか残らないんじゃないの?」


No.10セイキン「黙れよッ、女のくせに生意気言いやがってッ! 私はお前たちと違うッ!」


セイキンの身体から、うどん型の帯が飛び出し薙ぎ払うが、真正面から容易く殴り返されてしまう。


ふぁ「はっ! 男だ女だ? ・・・今更くだらない。本当に救えないわよ。」


止めの真拳を打ち込まんと、ふぁっきゅーれいかは力を集約させる。

それを見たセイキンは、怯えながら両手で自分の顔を覆い―――


No.0■■■■「・・・お前の言葉も概ね正しい。だがもう、その辺で終わりにしておけ。」


覆面を被ったもう一人のU2部隊が、ゆらりと戦場に割って入る。


ふぁ「・・・弟ぐらい、ちゃんとしつけなさいよ。」


ふぁっきゅーれいかは、寸前で拳を止める他ない。

代わりに嫌味たらしく、煽りの言葉を口にする。


No.0■■■■「忘れるな。。次は無いぞ。」


ふぁ「・・・ふん。」


闘志を沈静化させるふぁっきゅーれいか。


ふぁ「悪かったわね。憂さ晴らしは終わりよNo.10。」


No.10セイキン「・・・あ、兄~;(ガクガクブルブル)」


フリー「おい? なんで敵とべらべら話してんだ。どうして拳を止めるッ?!」


レジスタンスのリーダーであるフリーれいかだけが、今の状況に酷く混乱していた。


ふぁっきゅーれいかの唐突な力の解放。

セイキンを圧倒する実力。

敵と会話し、あまつさえその拳を止めるなど完全に理解不能。


ふぁ「悪いわねフリーれいか、いいえリーダー。」


くるりと、ふぁっきゅーれいかはフリーれいかに対して拳を向ける。



ふぁ「。だけど感謝しているわ。。」



粋がるように、くるくると回るふぁっきゅーれいか。

回りながらも、その標的をロックオンする。



ふぁ「目押し時間ジャッジタイム。」



―――瞬間、一陣の風が吹く。

視界から消えたその人影は、油断しきっていた人物へと。



フリー「が、はッ・・・!」



夥しい血の量が、宮殿内を満たしていく。

金髪は朱く濡れ、険しかったはずの眼光は力なく垂れ落ちる。


フリー「お前なんで・・・っ、最初から敵だったの・・・か・・・?」


ふぁ「ごめんね。あなたの魔眼に粘られると、後々面倒になるのよ。」


宮殿の崩壊から助けた筈の相手を、あろうことかふぁっきゅーれいかは。



ふぁ「だからここで死になさい。リーダー、いいえ、。」



その胸部に、手刀を突き出していた・・・。











―――宮殿内 入り口付近



烈風の速度で、少女は宮殿へと辿り着く。

門の前で戦う二人の人影が、少女の肉眼でもはっきり捉えていた。


スノーれいか「あなたは確か・・・記憶喪失の! 危険よ、離れていてッ!」


そこには、レジスタンスの特殊保護部隊リーダー、スノーれいかの姿があった。


そしてもう一人。

返り血で汚れ切ったオタク服に身を包む、U2部隊のナンバー3。

信じられないという表情を見せながら、彼は少女と再び対面する。



No.3日常演舞「・・・おやおや。まさか貴女が来るとは。残念ですが、この宮殿は通行止めです。」



「日常、演舞ッ・。・!」





・・・現在、午後6時40分。


少女にとっての、第二分岐点。


地獄は近い―――。



つづく。




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