第14話 破壊と裏切りの輪舞


プラモデルが好きだった。

完成品までのプロセス、造形の観察。

人並み以上の知識と経験を得て、それなりに恍惚とした。


だけど、そこまでだった。

私は、その先の領域に踏み込むことはなかった。


ある日突然、プラモデルに触れなくなった。

どうでもよくなってしまった。



日常生活において、プロ意識を大切にする人間。


何をするにおいても、完璧でいたい人間。


世の中に、そんな人がどれだけいるのだろう。



趣味は所詮、自由の浪費。

全力で打ち込むには、それなりの代償を必要とする。


私は、最初からプラモデル一筋だった訳じゃない。

きっかけは忘れた。

他人がやっている所を見て、私もやってみたいと思ったのか。

店に置いてあったケースのかっこよさに、感極まったのか。

・・・覚えていない。

つまりはその程度。


何故私が、プラモデルを好きになったのか。

その根幹部分が、私には無かった。

人に褒められる為でもない。

友達に見せあう訳でもない。

プロ職人になろうとも思っていない。

なんの理由もなく、その趣味を続けていく。


ある日突然、気づいた。

分かってしまった途端・・・熱が冷めた。


趣味とはそういうもの。

幼い頃からの積み重ね。

好きになった理由は、曖昧でいい。


違う。

少なくとも、私にとっては一大事だった。

今までの当たり前が、当たり前で無くなった感覚。

常人には分かるはずもない。

その時の私が、どれほど打ちのめされたことか。


プラモデルに触れなくなった。

何故私は、こんなものに情熱を?

考えれば考えるほどに、分からなくなっていく泥沼。


途中で気付けたのは、幸運かもしれない。

今の世の中には、物事に全力で取り組める人が、一体どれほどいるのだろう。

趣味を一生分楽しめる人。

趣味を死ぬまで楽しめる人。



私は途中で折れた。

モチベーションが途絶えた。


代わりに、私以外の誰かが、プラモデルを人一倍楽しむのだ。

私以外の誰かが達成したなら、もうそれでいい。

私はもう、頑張る必要が無い。


そこからはもう、ただ落ちていくのみ。

モチベーションが保てなくなった人間の末路。

興味の消失。

自信の欠落。

感情の喪失。

それが私だった。


好きでもない事に、無駄な時間を費やす愚かさ。

どれだけ頑張ろうと、上には上がいる。

卓越した先人たちがいる。

なら、私はいらないじゃないか。

もうパーツが出揃ってるなら、上を目指す意味が・・・無いじゃないか。


やる事なす事全てが、どうでもよくなった。

熱が冷めた。

この世界がどうでもよくなった。







そんな時だった。

この異世界に召喚されたのは。




私の身体は、全身機械のプラモデルに変わっていた。

見知らぬ世界に立っていた。




はっきり言おう。

滅茶苦茶興奮した。

人間ですらなくなったというのに、私は歓喜していた。

それだけじゃない。

レジスタンスの一員になった時の事は、今でも鮮明に思い出せる。

姿形は違えど、そこにはあの先輩方がいた。

れいか生主だけの隠れ家。

戦いに明け暮れる日々。


刺激的で、絶望的で、必死に生きていく生活。

仲間達はいつも全力。

自堕落な心は、いつのまにか消えていた。


私は大分変われたと思う。

死と隣り合わせの世界だというのに、この異世界転生に対して感謝すらしている。

冷え切った心を、変えてくれた。

様々な感情を思い出せた。

仲間意識が強くなった。


仲間と共に、目標の達成を目指していく。

これの何と素晴らしいことか。

目標があるだけで、人はこんなにも変わるのだ。

色んな人と交流し、影響を与え合って、今の私がいる。


青臭いだろうが、つまりはこういう事だ。

自分を、そして仲間を脅かす脅威に対して、一切の躊躇をしない。

全身全霊で立ち向かい、耐え抜いて生きていく。



今の私は燃えている。

この身に宿った心は、二度と冷え切ることはない。











~少女視点~




私にとって、初めての外任務。

前線組への合流を目指していた筈だった。



―――地上 無限迷宮西地区



急な進路変更。

謎の黒煙。

田中みこの裏切り。

4410の武装解除。

二人の、戦いの火蓋が切られようとしていた。



―――第14話 破壊と裏切りの輪舞



辺りの空気が熱を帯び始め、4410の身体から、途方もない量の蒸気が噴出される。


4410「さあ、行きますよ。」


変形を終えたが、壮大な駆動音を撒き散らす。

右手にビームサーベル、左手に巨大な銃。

一際目立つのが、背中にある3本のスラスターである。


「確かあれは、サイコ・ザクのパーツなの・。・」


あれほどのサイズ、間違いない。

確か、操縦士のを切断しないと操縦できない・・・みたいな設定だっけ。


「だけど・・・これは・・・どう解釈したらいいなの・。・;」


ロボットというには、余りにも

パーツの一つ一つが、異なるロボットの物だと分かる。

色の統一感が無い。

関節部が見えないほどの物量。

生えているパイプの数が、数えきれない。

両足はもう、元の3倍は太くなっている。

肩にも腰にも・・・見れば見るほど異質。

なのだ。


・・・なんでもかんでも・・・つけすぎじゃないか?

あの大型スラスターでも厳しい気がする。

合計重量なんて想像したくもない。


「こ・・・これ、本当に大丈夫なの・。・;?」


自信満々にタイマンを張ったわりには・・・この悪手。

動きが鈍くなるに決まっている。

少なくとも、少女の目にはそう見えた。






~4410視点~



・・・と、思っているのでしょうね。


4410「冷却完了。行動シーケンスに異常はなし。」


そういえば、前にも同じことがありました。

少女と初めて出会ったとき、パーツの一つを言い当てられましたね。

プラモデルは、一般的にマイナーな代物です。

しかし彼女は、二度続けて正確に、私のパーツを言い当てました。

最初は私と同じ、そっち系のオタクだと思っていましたが・・・。





いけません、集中しましょう。

私の方は準備万全です。


・・・彼女の方は動きませんね。



田中みこ「・・・・。」






~少女視点~



息が詰まりそうだ。

4410の威圧感もそうだが・・・田中みこも尋常じゃない。

あの破壊兵器の数々に、表情を一切変えることなく、華麗に太刀を構えている。


「田中みこさん・・・いったいどうしてなのだ・。・」


私は呟くことしかできない。

これから起こる戦いを、見守ることしかできないのだ。


4410「・・・力づくで少女を連れていくと言った割には、随分大人しいですね。」


今にも突撃しそうな勢いで、4410は言葉を発す。

それに対し田中みこ、一歩も動くことなく口を開く。


田中みこ「うん。。4410もやればできるじゃん。」


4410「お褒めに預かり、光栄です。」


田中みこ「うん。すごいすごい。」


4410「来ないなら・・・こっちから行かせてもらいます!!」



ボォオオオォオオォオォオオオッ!!!



引き絞られた矢の如く、4410の身体が


「・。・!?!!?」


田中みこ「・・・シッ!」



スパァアアァアアァアアァン!!!



「う、うわぁああああぁああああぁあっ!!・。・!!」


衝撃によって、少女は数百メートルほど吹き飛ばされる。

かなり離れていたというのに、余波だけでこの威力。


眼で追えない。

しかし、田中みこと激突したことは分かる。

此の世の物とは思えない衝突音がしたからだ。


「は・・・早すぎ・・・凄いのだ・。・;」


全くもって意味が分からない。

何だ今のジェット噴射は。

あの巨体が、まるでマッハの速度を?

隠れ家で見た戦闘スタイルと、まるで違う。

いや・・・まさか。


「あれが4410さんの異能なの・。・?」


そう思う他ない。

少女は、二人がいた方向に走り出す。

衝突音がしてから、二人の動きに変化はない。


4410「来ないでください!」


怒号が飛ぶ。

少女も、その姿を確認できた。



田中みこ「—————。」



田中みこは・・・無傷であった。

腕を突き出し、4410の巨大なビームサーベルを、その細い太刀で受け止めている。

二人は微動だにせず、それどころか笑っていたのだ。


4410「来ましたね。貴方が持つ、こうして体験するのは初めてです。」


田中みこ「分かってて突撃したの?・・・言ったでしょ、4410じゃみこには勝てないよ。」


少女は息を切らしながら、吹き飛ばされる前の位置に辿り着く。

見物人のつもりが、こちらも命がけだ。

まさかとは思うが、今みたいな攻防がこれからも続くのか?

過去のどの戦いよりも、規模の限度を超えている。


―――近代兵器のガチ威力。

ふじれいかの巨神化とは、比べ物にならない。

あんなものを見て、平然でいろというのが無理な話だ。


「いや・・・違うなの・。・」


落ち着け。

ビビったのは事実だけど、私はこれに慣れていかなければいけない。

模擬戦ではなく、本物の戦いというやつを。

ならばこれは、いい体験だ。

見物人だからこそ、学べることも多いはず・・・!






〜4410視点〜



少女は無事のようですね。

無茶をさせてすみません。

・・・次は空中戦と洒落込んでみましょうか。

少しは衝撃も緩和されるでしょう。


田中みこ「楽しそうだね4410。笑ってるみたい。」


4410「ええ。こんな形ですが、伝説クラスとの決戦です。心が踊りますよ。」


田中みこ「そういえば、どうしてみこの技を知ってるの?誰にも話した事無いのに。」


4410「・・・知っていますよ。貴女はいつも、使事を。誰にも聞こえない程の小声ですが、私はロボットですからね。聴き取ることは造作もありません。」


そう言いながら、4410は力を入れる。

田中みこは、目の前の超重量に押され、次第に少しずつ後退していく。


田中みこ「知ってたんだ。みこが喋れること。」


4410「誰にも言っていませんよ。何か事情がおありだと、思っていましたからね。」


スラスターから怒涛の熱風が吹き荒れ、地面に亀裂が走り始める。

大地が軋んでいるようだ。


4410「重力軽減。発動のタイミングは見事でした。どうやらこれは・・・かなりの速度で減っていますね。」


田中みこ「じゃあどうして4410は、。私の術、効いてないの?今だって。」


地面が揺れる。

押し合いは今もなお、続いていた。

双方の力比べは、人のそれを遥かに超えている。


4410「田中みこ―――貴女は、。レベルに応じて、使える技が変わりますね?・・・私が確認している限り、レベル1は韋駄天、レベル2は分身。全ての技を言い当ててあげましょうか?」


田中みこ「・・・・。」


4410「そして今は、レベル6の重力軽減。接近する者を問答無用で軽くする。そうすることで、突進の威力を緩和した・・・正解ですね?」


物理学の基本であるが、破壊力を決める要因は主に二つ。

重力と速度だ。

空気抵抗や摩擦といった細かな要素を抜きにすれば、この二つで全てが決まる。


・・・とてつもない暴論だが、質量を高めてから神速で殴れば、理屈は必要ない。

少女の黒焔も似たようなもので、それこそ衝撃力の基本である。


だが田中みこには、

破壊力の消去。

速度の減少。

まさしく凶悪無比な術。


しかし。

しかしだ。


4410の巨大な重量感は、微塵も消えている様子が無い。

地面にはとうとう、大きな裂け目が出来始めていた。

体重はむしろ、のだ。


4410「私は余り詳しくないのですが・・・今どきの忍者は、こんな奇想天外な術も使うのですね。」


田中みこ「軽くならない。・・・チート?」


4410「まあ、そういうものと捉えて頂いて結構ですよ。」


瞬間、田中みこが動いた。

押さえつけていた4410の身体から太刀を離す。

勿論、その動きを見逃すはずがない。


4410「そこです!」


ようやく掴んだ隙。

ビームサーベルの切先が、田中みこを襲う・・・だが。



田中みこ「レベル3—————紫電一閃」



4410の一撃を、紙一重で避ける田中みこ。

まるでそれが条件であるかのように。

次の瞬間、雷鳴にも似た爆音が弾け飛んだ。





~少女視点~



「あれって・・・私との模擬戦で見せた技なのだ・。・!」


敢えて限界まで、引き付けてから回避する。

その回避直後に放たれる、神速のカウンター。

私の片耳を切り落としたあの技だ。


あれは、


「4410さん・。・!大丈夫なのだ・。・!?」


実際に体験した技なだけに、不安が募る。

速度の問題ではない、あれは必ず当たる技なのだ。


・・・機械兵を一刀両断したキリトを思い出す。

田中みこは、キリトと同じく『伝説クラス』の戦士。

いかに4410といえども、タダでは済まないかもしれない。


って・・・あれ?


「太刀が・・・折れてるなの・。・!」


田中みこが持つ太刀は、その刀身が綺麗に無くなっていた。

確かに4410を斬っていた。

そこまでは私にも見えた。


田中みこ「・・・・。」


鍔だけとなった太刀を握りしめ、田中みこは4410を見据える。

その表情は、状況と反して落ち着いていた。


4410「何をしているのです?早くレベル5にチェンジして、太刀を直した方がいいのでは?」



田中みこ「・・・レベル5—————惑視の太刀」



折れた筈の刀身が、瞬きの合間に復活する。


「————・。・?!」


4410「こうしてみると、不便なものですね。使。レベルチェンジの際には、必ず詠唱する必要もありますしね。」


田中みこ「私のことばっかり。4410の異能はなんなの。」


4410「敵に戦法を晒す醜態は見せませんよ。」


田中みこ「少しぐらい、教えてくれたっていいのに。・・・ずるいね4410は。」


4410「・・・ずるい、ですか・・・。」


初めて見せる、田中みこの寂しそうな表情。

無論、4410は微塵も油断をしていない。


4410「そこまで流暢に喋れるのなら、どうして最初からそうしなかったのです?・・・何故、今なのでしょう。どうしてここで、本性を明かしたのですか・・・。あの黒煙の先に、何があるというのです?」


田中みこ「言えないんだよ。みこは少女ちゃんを連れて、に会わないと行けないの。4410はただ邪魔なだけ。」


黒煙の方向を向きながら、そう口を開く田中みこ。


4410の頭脳が、フルスロットルで回り出す。

切り札とも呼べる一手を、ここで晒していいものか。

思考に思考を重ね、4410はそれを口にした。



4410「田中みこ。貴女はU2部隊の組員・・・そうですね?」



田中みこ「・・・!」


「えっ・。・!?」


4410「・・・心拍センサーが揺れました。そうであってほしくは・・・なかったのですが・・・。」


田中みこ「イレギュラーって怖い。重なりすぎだよ。私もバレたくなかった。」


4410「・・・その様子ですと、バラした犯人を理解しているようですね?」


田中みこ「うん。みこ、一生の不覚。」


少女は、頭が真っ白になる。

裏の事情を知らない少女にとって、これほどの衝撃はない。


無口だけど、人当たりは良い。

戦闘の達人で、仕草が可愛いイメージ。

模擬戦で見せた立姿に、少女は尊敬の念すら抱いていた。


それが・・・隠れ家を滅茶苦茶に荒らした勢力と・・・同じ・・・?


「どういう・・・ことなのだ・。・」


会話の流れからして、何かがあったのは間違いない。

だけどそれが、少女には分からない。


田中みこ「けどいいの。喋っちゃって。」


4410「・・・投降して、頂けませんか?」


田中みこ「4410は優しすぎる。仲間想いも、そこまでくると笑えない。」


4410「?」





~4410視点~



4410「軽く見られては困ります。私は誰よりも――――重い。」


仲間想いで何が悪いのです?

私は最初に言ったはず、貴女を必ず捕獲して連れ戻すと。


4410「出し惜しみは無しです。ブーストキャリア点火!!」



ドォォオオオォオオォオオオオオォ!!!



見慣れた地形が・・・砂の城を崩したかのように掻き消える。

田中みこは空中へ回避したが、即座に4410も後を追う。


「ちょ、嘘・・・・うわぁああああぁああああぁ!!!・。;!!!」


壁という壁は、大気ごと爆砕しながら暴風と化す。

衝撃は些かも衰えず、直接的な大震が少女を襲う。


少女は確信する。

この一撃で・・・勝負が決まる。


天が引き裂ける音とともに、砂塵の嵐が舞う。

その中央で、4410と田中みこが空中を浮遊する。

スラスターからは、異常なほどの光が放出されていた。



4410「私は私の為に、皆さんの力になってあげたいのです。」



レジスタンスには、まだまだ問題が山積みです。

少しの綻びで、崩れ去ってしまう危うさを持っている。


だからこそ私は、

仲間を守れる存在になりたい。

強く、重く、決して譲ってなるものかという男の矜持。



4410「私は、誰よりも重くなくてはなりません。」



・・・常に、自らの重みというものを背負ってきた。

自分より大切な誰か、なんて言葉を信じていないし嫌っている。

何故なら自分自身とは、この世で最も身近な唯一だから。


つまらない男に何ができる?

軽い想いで、何ができる?


自分を信じられないものに何か事が成せるほど、この世の中は甘くない。

まずは己を深く受け止めて、自己を愛し誇りを持つ。

だから、他者と真摯に向き合えると信じている。


それは決して、独りよがりの独尊ではない。

異世界に来る前の、軽い私とは違う。


むしろその逆、にこそ、自分に自信を持つということ。

仲間からの信頼は本物であり、それに見合う男たらんと努力する。

だから雄々しく強くなれる。

成長できるし並び立てる。


浅い男を信じた馬鹿にしてなるものか。


私を受け入れてくれたあの人たちは、見る目があったのだと証明してやる。

そのためにも。


私は負けない。

私は重い。

地球よりも、ずっとずっと――――誰よりも。


私は、いや俺はッ!

この誇りはッ!



4410「俺は、俺にとって、この世の何より重いんだよぉおおおおおおぉおおッ!!!」



今ここに、条件は達成される。


4410の異能は、のだ。


全身全霊、超質量の神速砲弾と化す4410。



田中みこ「レベル6—————重力軽減」



想いを乗せた一撃を、真っ向から受け止める田中みこ。

二人の剣が交差する。

途端、視界は真っ白に埋め尽くされた。






~少女視点~



どうにか無事に着地できた。

空中で激突したはずの、二人の姿が見えない。


「と、とんでもないのだ・。・;」


これが4410の全力なのか。

隠れ家では本気を出せないと言っていたが、この光景を目の当たりにすれば納得だった。


あの壮大な大廊下が、最早原形をとどめていない。

断層が割れたのだろうか、歩こうとするだけで地面が揺らぐ。

大地震という言葉では片づけられない有様。

目を背けたくなるほどの惨状。


辺りを観察していた少女は、やがてその人影に気づく。


「田中みこさんなのだ・。・!」


壁面があった筈の場所に、田中みこが座り込んでいた。

片腕を押さえて、空中の一点を見つめている。


その方向には、4410の姿が。


4410「終わりにしましょう、田中みこ。」


周りの砂塵を吹き飛ばし、地面に着陸する4410。


4410「田中みこのスキャン完了・・・右腕が折れているようですね。それでは、戦闘続行など不可能なのでは?」


田中みこは、あの威力を真正面から受け止めた。

・・・重力軽減って言ってたっけ。

そういう術を使った、ということは分かる。

でなければ、生身の人間にロボットの突進を止められる筈がない。


だがしかし、完全には防ぎ切れなかったのだ。

折れた腕では、太刀の威力も半減だろう。

確かにこれは・・・終わりが近い。


4410「もう一度言います。武器を納めて投降してくださ――――」



田中みこ「そういうことか。みこ、やっと分かった。」



4410「・・・何ですか?」



田中みこ「やっぱりみこは名探偵。真実はいつもひとつ。」



ゆらりと、立ち上がる田中みこ。



田中みこ「ロボットはみこ、詳しくないけど。太刀が折れたのは、絶対に太刀が通らない装甲を、生み出していたからだったんだね。」



何だ?

一体何の話を?



田中みこ「一体、どれほどの代償を犠牲にしたのかな。・・・みこ、4410を舐めてたよ。最近のロボットは芸が達者だね。すごいすごい。」



最初の対峙で見せた顔と変わらない。

人を小馬鹿にしたような、余裕綽々といった表情は何も変わっていない。



田中みこ「4410の重量が減らなかったのも、同時に重量を増やしていたから。ううん、みこの重力軽減より多く増加してた。。」



もし、4410が人間の姿だったならば。

その額から、冷や汗が流れ落ちていただろう。


何しろ、その田中みこの言葉は、全て的を得ていたのだから。



田中みこ「でも、そんなに重いとおデブになって動けない。だから今度は、。」



そう言いながら。

田中みこは、いつもと変わらない表情で。

淡々と。



田中みこ「さてと、どうしてみようかな。」



4410に向かって、その太刀を構えたのだ。

それは紛う事なき、戦闘続行の明確な意思表明。


4410「貴女は・・・それでも・・・まだ私に、勝てる気でいるのですか?」


田中みこ「うん。みこには、やらなきゃいけないことがあるの。それをやるだけ。」


4410「だからっ・・・その何かを、話してくださいッ!!」


熱風が響き渡る。

再度、4410のエンジンが点火されたのだ。


4410「貴女の異能は全て把握しています。韋駄天、分身、紫電一閃、壁走り、惑視の太刀、重力軽減、帳の束縛、桜花の刺突・・・故に『忍者』。どれも私なら対処可能ですよ!?貴女も、身に染みて理解したはずです!貴女は私の装甲を斬ることが出来ないッ!」



田中みこ「レベル2――――分身」



決死の想いも虚しく、戦闘は続行される。

目の前の光景は、まさに桜の花びらが舞っているかのよう。

無論それは、花びらではなく人間。

その数、実に400体。

多勢に無勢どころではないが、それを卑怯と断じる者など誰もいない。


4410「この・・・分からず屋がああぁああぁああッ!!」


ビームサーベルとは違う、もう片手に装着された超巨大な銃。

さらに、肩からは特大の砲台が現れ、膝からはマシンガンが躍り出た。

さらに更に、身体中の穴という穴が開いて、そこから凶悪な銃口達が覗き出る。


4410「ロックオン完了!・・・ファイアアアアァアアアァァアアァアアアッッ!!!」


息をもつかせぬ獅子奮迅。

際限なく膨れ上がる分身の軍勢を、嵐の如く迎撃する。


「・。・」


次元が違う。

あまりにも常識を破壊する光景に、一歩も動くことが出来ない。

少女の感想は、まさにそれであった。


4410「分身の増量を確認ッ!こちらも弾幕を強化しますッ!・・・うおおおおぉおおおぉおおッ!!」


狙いは恐ろしいまでに正確を極め、すべてが個々の標的へと飛来する。

轟く銃火に、撃ち落とされる。


田中みこ「・・・・。」


量を覆す質を前にして、田中みこが選んだのは。


更なる量での圧殺。


・・・じゃない!?


「えっ・。・?」



これは、4410と田中みこのタイマン勝負。



愚かにも、そう決め込んでいた少女。

故に反応が遅れる。



分身ではなく、それが本体だった。



「・・・っ、黒焔・。・!」



忍者とは、即ち―――暗殺者。


一斉射撃に応戦して見せたのは、一種のブラフでしかなかった。

まともな勝負をするはずがない。

ただ狩り、殺す。

それが忍者の本質。


目指すべきは効率的な勝利、故にどのような騙しも危険も顧みない。



田中みこ「レベル7――――帳の束縛」



迫る田中みこを前にして、中途半端な姿勢を取る少女。

あまりの速さに、防御が追いつかないッ!



バチィッ・・・!



田中みこ「!・・・?!・・・っ。」



少女を中心に、円形状の波模様が浮かび上がる。

青白い光が、渦のように揺らめいていた。


「・。・?・・・これは何なのだ・。・!」


攻撃した側である田中みこが、どういう理屈か謎のダメージを負っていた。


4410「だから言ったでしょう。貴女の異能は通用しないと。」


後ろから4410が歩いてくる。

周りにいた分身は全て殲滅したようで。

その銃口達をこちらに向けられると・・・冗談抜きで肝が冷える。


田中みこは患部を揉み解しながら、その痛みの正体を瞬時に看破する。


田中みこ「・・・反射装甲のバリア?」


4410「見た目に反して、生半可なものではなかったでしょう?」


バリア!?

この薄っぺらい膜が、田中みこの攻撃を止めたのか?


「い、いつの間に、全然気づかなかったのだ・。・」


4410「戦闘が始まったタイミングで、すぐにバリアを張らせて頂きました。如何なる攻撃も、如何なる異能も通しません。バリアを破るには、私を倒すしかありませんよ?」


・・・その割には、結構酷い目に遭ったような。

いや違う。

敵を騙すには、まずは味方からということか。

破壊の衝撃で、私は為すがままに空中を吹っ飛んでいた。

確かにあれでは、無防備な餌だと錯覚するだろう。

ちょっと釈然としないけど!


4410「加えてこのバリアは、田中みこだけを通さず、絶対に目視出来ない、食らった衝撃を跳ね返す、というエンチャント付きです。そういう機能にしました。」


聞こえはいいが、冷静に考えると滅茶苦茶だ。

最早、何でもありではないか。


「それって、なんかもうファンタジーの域なのだ・。・;」


4410「ええ。いわゆる、オーバーテクノロジーです。現実には存在しない技術ですが、私ならば生み出せるのですよ。」





4410の異能『過剰なまでの超過技術オーバーテクノロジー

身体がロボットである、4410ならではの異能。

失われた技術、一般的な科学技術。

現在の技術水準を遥かに超えた技術に、推測や憶測以外には存在しない技術。

―――それら総じて、再現可能。


この異能の効果は以下のようになる。


、自らの身体を改造することが出来る。

プラモデルのパーツを、自由自在に組み換えるが如く。

無限に改造を施すことで、千差万別のテクノロジーを実践可能。

『ある代償』に見合うだけもあり、一線を凌駕する異能だとも言えるだろう。





4410「あなたは私に勝てないと、そう悟った。だから少女を狙った。違いますか?」


銃口を田中みこに向けながら、挑発する4410。


4410「重ねて言います。私の計算によると、そちらの勝率は0%です。田中みこさん、往生際が悪いのは関心しませんよ?」







――――4410の敗因は二つ。




一つは、喋りすぎたこと。


田中みこの狙い通り。

勝ち確の高揚感は、誰であろうと浮かれてしまう。

その心の揺らぎを、田中みこは誘い出していた。



もう一つは、田中みこを追い詰めてしまったこと。


4410の、本気の実力。

それは予想外にも、田中みこを脅かすことになった。


4410と戦わずして、少女を拉致する。

それが叶わなくなってしまった。


故に田中みこは、



田中みこ「・・・ふぅ。」



不敵に、そして豪胆な笑みを浮かべ、田中みこは静かに息を吸い込む。

軽い瞑目、そして開眼。



田中みこ「———。」



短い一言。

何かの解号を告げる文言と同時に・・・。



田中みこ「@鬱病患者フリーれいか親衛隊隊長———田中みこ。」



田中みこの衣装が、全く違う風貌へとチェンジする。


4410は読み違えた。

よもやここから逆転されるとは、微塵も思っていなかったのだから。



田中みこ「レベル3—————森羅万象」



緑色の輝光が、渦巻きはじめる。

田中みこの傷口が、巻き戻し映像を見るかのように塞がっていく。


「え・・・腕が・・・治っているのだ・。・」


レベル3は、『紫電一閃』ではなかったのか?

森羅万象?

そんな技、今まで一度も・・・。


田中みこ「みこの腕、完治。」


元通りになった腕を、軽く回す田中みこ。

流石の少女も、これが未曾有の事態だということを理解する。



田中みこ「———。」



4410の脳裏に、日常演舞との闘いがよぎる。

このふざけた事態は、まさにそのタイプの・・・。



田中みこ「@中国5億年の歴史、拳技の集大成———功夫カンフー最高師範田中みこ。」



今度はチャイナドレス姿へと、田中みこはチェンジする。

瞬間、4410が動いた。



4410「何もさせませんッ!!」



田中みこ「レベル7—————華夷かいの舞」



澄んだ空気が蔽い広がる。

田中みこの中心に、奇妙な澱みが漂い始めた。

いうなればそれは、気のようなオーラに近い。


4410「かい・・・華夷・・・・。」


突進しながら、辞書アプリを脳内で暴読する4410。


お忘れだろうか。

田中みこは『伝説クラス』の使い手なのだ。

刹那の余所見が、命取りとなる。



を、4410には知る由もなかった。



田中みこ「レベル2—————八極拳」



4410の身体を、小さい腕が貫通する。

のみならず、その巨体を優々と吹き飛ばす。


4410「?!・・・拳属性の完全防御は・・・付与した筈・・・なのにッ!」



田中みこ「———お邪魔します。」



吹っ飛んだ4410よりも、速いスピードで回り込む田中みこ。

4410の余裕は消え、錯乱する一歩手前。



田中みこ「@れいか界隈5億段位、神の一手———女流棋士田中みこ。」



チャイナドレスから、煌びやかな和服へと変貌する。



田中みこ「レベル13—————天元」



4410の機体中心部が、黒く変色する。


4410「メインセンサー修復率62%・・・!対異能の障壁再起動・・・!」



ボゴォッ!!



黒塗りの部分が、瞬時に2mほどの大穴へと

手順や理屈は一切不明。

空いた穴からは廃液が漏れ出し、千切れたパイプから電流が迸る。


4410「!??!・・・がぁあッ!!」


「4410さん!・。・!」


まただッ!

これで何度目だ?!

田中みこの動きが、ガラリと変貌したッ!!



田中みこ「———お邪魔します。」



猛攻は止まらない。

彼女の本気の前には、何をすることも許されない。



田中みこ「@大仏様お釈迦様田中みこ様、輝き照らせ———千手観音田中みこ。」



まるでコマ写しの映画みたいに、瞬きの時間で田中みこは戦い方を切り替える。


一撃離脱、一撃必殺、電光石火、変幻自在。

手技、足技、柔術、剛術、奇術、あらゆる攻撃を多種多様に重ねているのだ。

しかもその動きがどれも、例外なくッ、達人の域に達している・・・!


4410「おお・・・おおぉぉおおおぉおおッ・・・!!」


スラスターは粉々にされ、4410はその場から動けなくなる。


これが仮に、五つか六つの変身ならば、4410は問題なく対策を取れた。

だがこれは、あまりにも手数が多く、変化が速すぎる。

何と言っても、初見殺しが多彩すぎて、対策など取れる筈がない。



田中みこ「お邪魔します。」



つまり、一つのスタイルを対策したところで意味がないのだ。

なぜならその対策は、一瞬の変身によって無駄と化す!



田中みこ「@†闇夜に舞い降りし暗黒†———田中みこは夜も輝く。」



いつもなら、詠唱の稚拙さにクスリと笑えたかもしれない。

洒落ですんだかもしれない。


4410は既に・・・満身創痍の酷い姿。

この蹂躙は、いつまで続くのか。



4410「ここで忍者・・・?!」



田中みこ「レベル—————影縫い」



八つの術どころではない。

田中みこはその力を、4410に始めて披露する。


4410「影縫い・・・予測、連続閃光弾、射出ッ・・・!」


激しい光を生み出すことで影を無くし、どうにかこうにか術を解く4410。

彼は仲間を守るため、決して諦めることはない。

その想いが燃えている限り、彼は動き続けるだろう。


だがそれが、どうしたというのか。

屈服しない、それがどうしたというのか。

もうそれは、戦いとはまるで呼べない別物。

反撃も予測も対策も、田中みこには等しく無意味。



田中みこ「レベル18—————月夜の乱風」



閃光弾の効果も空しく、周りの景色が暗転する。

信じられないことに、頭上には巨大な月が映し出されていた。



田中みこ「レベル39—————さく



何事かと意識した頃にはもう遅い。


「そんな・・・4410さん・。・!!」


景色が戻る。

少女も4410も、何が起こったのか理解するまで、そう時間は掛からなかった。


4410「!?!・・・・底がっ・・・見えない・・・・。」



4410のその身体は、あろうことか12



4410「・・・・記憶領域・・・送信完了・・・・少女さん・・逃げ―――」



ドォォオオオォオオォオオオオオォン!!!!



機体の残骸が、音をたてて崩れ落ちる。

そして爆発。

4410だったものが周囲にぶちまけられ、辺りは瓦礫と炎に囲まれる。

あまりにもあっけない幕切れに、少女はへたりと膝をついた。



「ああぁ、ぁあああぁあっ!・。;!」



一瞬の出来事が故に、少女の思考が止まる。

何故こんなことに?


いや、そんな場合じゃない。

もうこの場所には、二人しか・・・。

順当に考えて、次は私の番だ。


揺らいではいけない。

覚悟はとうに決めたのだ。

今更この程度で、泣き崩れるほど、柔じゃない・・・。


「・・・ここまで、することなかったなの・。;!」


割り切ろうにも割り切れない。

私たちは、ついさっきまで前線組に向かう仲間だった筈では?


そんな想いを抱く少女に、田中みこが優しく語りかける。



田中みこ「4410は死んでないよ。」



太刀を鞘に納める音で、少女は覚醒する。

呼吸を整えて、己の力を引き出すことに集中する。


「何を根拠に・・・田中みこさんは、一体何がしたいのだ・。・!」


信じられない。

田中みこは途中まで、完全に手を抜いていたのだ。

未知の能力によるオンパレード。

あんな光景・・・私じゃ勝てるかどうか・・・っ。



田中みこ「身構えなくていいよ。もう間に合わないし。」



その唐突な発言によって、少なからずも闘志が沈静する。


「どういう———」


言いかけて、少女も気付く。

遥か後方に、一人の人影。


黒の衣、二刀流。

それはまさしく、前線組へと先行していた男。


「キリトさん・。・?!」


瞬きの合間に、少女の隣へ飛んできた。

相変わらず、瞬間移動にしか見えない。


キリト「なんだこの有様は・・・!」


待て、どうするこの状況。

ここで何が起こっていたのか、真実を話すべきなのか?

如何せん、田中みこの動向が読めないのだから、早くに越した事はない。

一刻も早く、伝えるべきだ。


「キリトさん、4410さんが―――」



田中みこ「4410はよく粘ったよ。キリトが来るまで持ちこたえた。強かったよ4410は。みこ、びっくり。」



「・。・?!」


あっさりと。

田中みこは告白する。


キリト「田中みこ・・・お前、喋れて・・・いや、お前が言ったことは・・・?」


田中みこ「キリトも薄々気づいてるんでしょ。もう賽は投げられたんだよ。」


キリト「・・・おい。冗談だろ。お前が?・・・お前なのか!?」


声を荒げるキリト。

何か様子が変だ。

怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような、そんな瞳をしている。



田中みこ「?」



キリト「—————!」



空気が変わる。

伝説クラスの殺気が対峙するだけで、寿命が削られる錯覚、生きた心地がしない。



田中みこ「みこの役割は、残念だけどお終い。」



あれだけ確執していた黒煙から、距離を取る田中みこ。

もうこの場所には、用が無いとでも言うように。

堂々にも、少女たちに背を向ける田中みこ。


キリト「お前・・・何なんだ?・・・何を知ってるんだッ!!」


気迫の問答に、田中みこはつまらなそうに口を開く。



田中みこ「みこはね、U2部隊 No.2『無極むきょく』・・・そう呼ばれてたりする。」



明かされる正体。

U2部隊のNo.2。

そのランクは、あの日常演舞と安眠ちゃんよりも・・・上の数字。

もしも、数字順に強いのだとしたら・・・。



キリト「なっ―――!?」



驚愕するキリトと少女をよそに―――。



田中みこ「レベル1—————韋駄天」



少女の身体が浮き上がる。


ん??

違う。

キリトさんに・・・抱きかかえられているんだ!


えっ、いや、何で!?

何で急に、お姫様抱っこ!?


キリト「口閉じてろッ!」


「あっ・。・!」


少女もようやく理解する。

キリトは今、次元を超えた速度で風となっていた。


何故?

理由は一目瞭然。



田中みこ「キリト、とんでもなく速いね。」


そう呟きながら、速度を倍にする田中みこ。


「ちょ、ちょっと、キリトさん聞いてなのだ・。・!あの場所には、まだ4410さんが―――」


キリト「あれはもう鉄くずだ。敵対勢力に回収されたとしても、特に問題はない。それに、4410のことなら心配ないさ。あいつは、隠れ家と直接繋がっている。だからこその前線メンバーだ。とっくにバックアップは済んでんだろ。」


「えっ・・・よく分からないけど、4410さんは生きてるなの・。・?」


キリト「あいつは死なねぇ。隠れ家さえ無事なら、4410は何度でも蘇る。」


私を掴む力が、一層強くなる。

いつものキリトらしくもない。

少女にも、その焦りが手に取るようにわかった。


「前線組に・・・何か事件が起こったなの・。・?」


キリト「・・・ああ。とびきり酷い事件だ。。」


「居なかった・。・!?・・・それって、人が消えたってことなの・。・!?」


そう喋る合間にも、キリトは速度を緩めない。


キリト「壊滅って訳じゃねぇ・・・俺が来た時、まだ街には生活の名残があった。消えたのは最近だな。」


少女は思い出す。

キリトは前線組の出身。

であるならば、その心情は想像に難くない。


キリト「そんなときに、あの忍者だ。これはもう、。いや、既に動き出した後なのかもしれねぇ。俺としたことが、ミスを二度もッ。お前には、謝っても謝り切れねぇ・・・!」


「私は大丈夫なのだ・。・!ここまでやられておいて、私も田中みこさんを問い詰めたいのだ・。・!」


街の人間が、一斉に消える異常事態。

到底信じられないが、キリトがそういうなら信じるほかない。

だがまず、それよりも。


キリト「ああ、絶対に逃がさねぇ!・・・あいつはおそらく、裏の全てを知っているッ!!」


田中みこ「・・・・。」


目の前を走る田中みこに、追いつかなくてはならない。


キリト「戦闘の準備をしておけ。あの野郎、どこに向かっているのか、俺にも予想がつかない。あるいは時間稼ぎか。何が待っていようと、足手まといにはなるなよ!」


「了解なのだっ・。・!」


4410さんの想いを、無駄にしないためにも。

ここで田中みこを逃がしてしまえば、おそらくそれが最後となるだろう。

私とキリトさんだけで、裏の真相を暴かなくてはいけないのだ。













同時刻。



~ふじれいか視点~



―――隠れ家 宮殿外



ふじれいか「こちらも、田中みこの分身消失を確認した。・・・便利な合図だ。では、始めさせてもらう。」


連絡器のスイッチを切るふじれいか。


ふじれいか「あの少女は・・・無事に外へと脱出したか。」


いつかの会話を思い出す。

それは、ふぁっきゅーれいかの部屋での出来事。

少女への告げ口。



『このあとの会議な、とてもひどいことが起こる。来るならそれ相応の準備をしてから来るといい。』



俺としても、やれることはやった。


ふじれいか「まあ、関係ないんだろうけどな・・・。」


計画の進行が早まった以上、もう後戻りできない。


さあ、始めよう。

偽物の世界に終焉を。

最初から計画されていた役割を、俺は今こそ全うしよう。



ふじれいか「—————変革巨大神話。」



異能が発動する。

ふじれいかは巨神となり、宮殿を見下ろせる高さまでに到達する。


宮殿の外で巨神化するのは初めてだ。

否応なりにも、注目を集めてしまう。


ふじれいか「今は午後三時か。・・・いつもなら、俺は今も・・・。」


目の前の破壊対象に向けて、大木のような腕を持ち上げる。


ふじれいか「・・・ありがとう。リーダー。」


そのまま、巨大化した腕を―――。



ドシイィイイイィイイィイィイィイイン!!!!



宮殿目掛けて、振り下ろした・・・。







―――隠れ家 繁華街大通り


レトさん(本物)「?!・・・ふじれいか、何やってんだよお前はぁぁああッ!!!」





―――隠れ家 繁華街民家


スノーれいか「宮殿方面に異常発生!・・・あなた達、起きなさいっ!主と市民を守るのよ・・・!」





―――隠れ家 繁華街鍛冶屋


ひまれいか「この衝撃は・・・!?」


ゆうれいか「ひまれいかさん~。大変だよ、宮殿が~!」





―――隠れ家 闘技場内部


レキモン「何の音・・・・。」





―――隠れ家 中央エントランス


ベリィれいか「すぐにベリィ組を招集だ・・・嫌な予感しかしねぇ!」


ふぁ「リーダーは・・・まさかまだ宮殿に・・・!?」









隠れ家にいる市民たちに、緊張が走る。

破壊されて崩れ落ちる宮殿と、裏切り行為を働いた巨神の姿を、誰もが見た。

舞台は騒然となり、阿鼻叫喚の嵐が響き渡る。


そんな中、隠れ家の最高戦力『レジスタンス』のメンバー達は動き出す。

どう考えても、これはただ事ではない。

それぞれが状況確認へと勤しむ中、既に事態は水面下で進行していた。











―――同時刻


―――隠れ家 上空 



巨神ふじれいかよりも、さらに上空。

天井近くに、邪悪な門が生み出される。


No.8オタサク「ふじれいかって奴、宮殿を崩すのが遅すぎだぜ。あと少し遅れてたら、気分がシラケちまうとこだった。」


No.11Kent「まさか昨日の今日で、ここに戻って来るたぁな・・・。」


No.9北上双葉「フリーれいかさん・・・・。ううん、集中しなくちゃ。」



眼下の景色を眺めながら、その怪物たちは口を開く。



No.7めんちゃん「あの子たちさ、全部殺していいの?」


No.3日常演舞「全部は駄目です。。」


No.10セイキン「No.1とNo.4は無理でも、No.2は間に合ってほしかったな。一大イベントなのに勿体ねぇよ~。やっと退屈も終わるってのにさぁ!」



その突然すぎる来訪は、後に最低最悪の悲劇として語られることになる。



No.5安眠「キリト君はどこかなぁあぁあぁああっ???ふふっふふふっ!!」


No.12あっちゃん「つまみ食いはダメよ安眠ちゃん。私にも調理させなさい。」


No.0■■■■「ボス・・・命令を。」



彼らは待っているのだ。

何を?

言うまでもない。



ボス「U2部隊総員、これより転生計画第一段階を決行するぽよ(*´ω`*)!」



この男こそ、化け物達を束ねる王。

待ち焦がれた号令に、U2部隊はいよいよ動き出す。



U2部隊総員「応ッ!!!!」



前回のリハーサルとは、最早格が違うメンツの数々。

彼らによる、最初で最後の侵略戦争。



―――間もなく、その幕が開かれようとしていた。




つづく。




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