第13話 田中みこの思惑


知識を得たい。

原因を解明したい。

即ち探求心。


物事を探求すればするほど、私の中の恐怖は和らいでいく。

知らずにいることが怖いのだ。

耐えきれない。


最初は恐怖に抗うためだった。

未知という存在に機敏だった。

不安の種を、隅々まで消しておきたかった。


得た知識を披露した。

周囲に褒め称えられた。

いつしか、得意げになっていった。


私は変わった。

無知の住人から、知的蹂躙者へと。

されど大きな謎が残る。


人の心は、私でさえ掴めない。

多種多様な仮面の奥を、自ら曝け出すことは誰もしない。

それを知ることは不可能なのだ。


ならむしろ、わからなくていい。

不可能な事象に構うほど、こちらも暇ではない。

そう思っていた。




―――私に、『思考透視』の異能が発現するまでは。








~ひまれいか視点~



なんて、語りたくもなってくるだろう。

平静を保てる訳がない。


リオれいか「ひまれいかじゃん。ちぃーす。こんな朝早く宮殿に来て、いったいどうしたんすか?」


そこにいたのはリオれいかと、


ひまれいか「会議が始まる前に、リーダーと話をしておきたくてな。」


勿論これは嘘。

本命に会うための詭弁。

だがそれも、もう意味が無くなってしまった。


ひまれいか「君たちこそ、二人そろって珍しい。特に、君が居ることに驚きだ。」



―――宮殿内一階エントランス



リオれいか「あー確かに、貴重だよね!この子は滅多に顔見せないし~!」



―――第13話 田中みこの思惑



田中みこ「・・・。(ペコリ)」



田中みこが、そこにいた。


ひまれいか(・・・流石の存在感だな。)


私でさえ、これほどの距離まで近づいたのは初めてだ。

田中みこは、いわば影の護衛。

どこまでも影に徹する忍者、故に普段は姿を見せない。


まさしく僥倖。

気軽に会える人物ではない。

何にせよ、移動の手間が省けたのは喜ばしい。


リオれいか「やっぱり、早起きは三文の徳だね!最近はこうして、訓練帰りに有名人と会えちゃうんだから!」


くだらん。

お前の話はどうでもいい。

今は一刻も早く、田中みこの真意を暴く必要がある。

敵の本拠地にいた田中みこと、この田中みこは同一人物なのか。

田中みこは、敵のスパイなのか。

私が、北上双葉の思考透視をしたことは、まだ誰にも話していない。

そもそも、私が『思考透視』の異能を扱えることすら、誰にも話していないのだ。


―――話すわけがない。


対象に言葉を投げかけ、その対象が言葉で返す。

それだけの条件で、対象の思考が永久的に透視できる。

条件を満たせば、何百人であろうと並列的に透視できる。

そんな無敵の異能、むしろ明かすことが愚かだろう。


私が言うのもアレだが、

戦闘向きではないにしろ、情報戦においては負けることが無いだろう。

私という程度の存在に、これほど強力無比な異能が発現したこと自体、実は納得がいっていない。

現実世界での振る舞いが、はたして功を奏したのかは知らないが。

せっかくならば存分に活用してやろうと、今では割り切っている。



リオれいか「どうしたんですか~?ひまれいかさん?お腹でも痛いのかな?」


むっ。

気付かぬうちに、また自分の世界に浸ってしまっていたか。


ひまれいか「寝不足でな。昨日の出来事が、脳内に焼き付いて離れんのだよ。」


リオれいか「相変わらず、言葉が難しいよ~!」


やるべきことは一つ。

田中みこに『思考透視』を仕掛ける。

極々自然に、こちらから質問を投げかけ、田中みこがで答えればいい。

それだけで『思考透視』は発動する。


ひまれいか「リオれいか、昨日の戦いは覚えているのか?」


リオれいか「昨日は大変だったよ!あ、ひまれいかも騒ぎのこと知ってるんだ?」


一つだけ懸念なのは、田中みこが・・・はたして喋るのか、だ。

昨日の模擬試合中に、ふぁっきゅーれいかが言っていた。

田中みこは、喋ろうと思えば喋れる。

しかし、事実かどうかは不確かな情報だ。

この辺りはノープランだが・・・。


ひまれいか「昨日はたまたまリーダーの元に居合わせてな。お前と同じく、機械兵と戦っていた。聞いたところによると、二人は宮殿の外で戦っていたのだろう?その時の様子を知っておきたい。何しろ私は情報屋だからな。少しの時間だけでいい。」


さりげなくだ。

『うん。』の一言だけでいい。

田中みこから、その一言だけを絞り出せれば・・・。


リオれいか「・・・まぁ~私はいいけど、みこちゃんはどうだろうな・・・。」


ひまれいか「田中みこ。昨日の戦いのことだ。教えてくれるか?」


田中みこ「・・・。(コクッ)」


仕草ではだめだ。

何としても、一言を・・・。


ひまれいか「・・・田中みこ、できれば声に出してもらえると助かるのだが。」


田中みこ「ひまれいかも夜はシコシコするかもしれないって考えると興奮する。」


ひまれいか「・・・・・・は?」


あれ。

喋ったぞ。

随分あっさりと思考透視の条件が・・・でも・・・ん???


リオれいか「あー。これは前線組しか知らないよね。みこちゃんはね、。」


ひまれいか「・・・なんだと?」


リオれいか「みこちゃん。ひまれいかに言っちゃっていいかな?」


田中みこ「ウキュー(,,‘。‘,,)ノθ゙゙ ヴイィィィィン」


うきゅ・・・何だって?

リオれいかの手のひらに、指をなぞって・・・文字を書いているのか?


リオれいか「ありがと。みこちゃんにはね、一種の呪いがかかっているの。とんでもない強さと引き換えに、言葉を失ったんだよ。なんだって。喋ろうとすると、んだ。」


ひまれいか「・・・・ほぉぉおお。」


・・・。

ありえない。


ひまれいか「田中みこ。本当なのか?」


田中みこ「ぽこちんかゆかゆ。」


リオれいか「もぉーっ。みこちゃん、さっきから下品だよぉw」



馬鹿なッッ!!!!

そんな事が・・・まかり通るのかッ!!?



田中みこ「タマフェラ名人さん、キンタマがふやけるからそこまでにしてくれよ。」


ひまれいか「・・・。」


なんか始まったぞ。


田中みこ「可愛いこと聞いてくれるなぁ好きになっちゃうよ。当たり前だろバカちんが。社会常識も教え込む必要ありだな。嘘じゃないよオジサン嘘つけないんだよ家訓で。見てコレ全部さくらちゃんが興奮した証拠だよ。潜在的なドMだね。」


ひまれいか「・・・。」


田中みこ「おいスクワットが下手だな。一度に五回くらいア〇メしてお美しいよ♥

ケツ震わすな淫乱女。いつもは高慢ちきだがこうやって組み敷かれるとすぐトロ顔発情。根っからのマゾメスめ。」


ひまれいか「・・・。」


田中みこ「安心して♥身を任せて♥僕はオマ〇コシェイプアップ運動一級の資格を持っているんだ。何回目のア〇メだよイきすぎにも限度有り。しかしそのスタミナ誉れ高い。」


ひまれいか「・・・。」


田中みこ「搦めとられた娘は仏陀ピ〇トンで即臨終間違いなし―――」


ひまれいか「長いわぁあああああああっっっっ!!!いつまで一人で喋っとんねんッ!!お前は私か?!私より喋ってるじゃないか!?よくもまあ、意味分かんねぇことを長ったらしくブツブツと・・・!」


リオれいか「うわっ!落ち着いてひまれいか!みこちゃんは悪くないよ!無理に喋ろうとすると、こうなっちゃうんだよ!」


はぁ・・・はぁ・・・。

おめぇも見てないで止めろや!

冗談じゃないッ!


私は・・・会話が成り立たない人種が、この世で一番嫌いなんだ・・・!


・・・ああ、そうか。

そういうことか。



条件の達成を、私は心の奥底で認めていないのか。

つまりこうだ。

田中みこが放つを、私が、永遠に田中みこの思考透視は不可能ということ。


・・・無理だ。

他の馬鹿共には出来るだろうが、私には出来ない。


だってそうだろう?

こちらの質問に、支離滅裂な返しをする奴とは関わりたくはないはずだ。

勝手に発狂する奴、脳への障害を持つ奴と言った方が分かり易いだろうか?

私には耐えがたい。

会話が通じない奴は、昔から抵抗があった。


・・・ひひ。

私の異能にも、穴はあるということか。


田中みこ「ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!」


今度はなんだよ・・・。


リオれいか「みこみこぜみだね。私これ好きだなぁ。」


一生やってろ。

今、リオれいかの思考透視を始めたが、田中みこは普段からこうらしい。

前線メンバーは誰もが周知している。

呪いのことも、暗黙の了解という訳だ。


田中みこ「ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!」


呪いか。

本人は赤面しているし、自分の意志で喋れないというのは事実なのか・・・?


田中みこ「ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!ミコーッ!!」


ひまれいか「・・・お前の名前は?二文字で答えろ。」


田中みこ「Warten auf die Auferstehung von Aji Reika-Sama」



何て?


・・・いや・・・ちょっと待て。



こいつ、



リオれいか「あれ?ひまれいかったら、また難しい顔してる。そりゃそうだよね。私も最初は慣れなかったけど、今では面白いと思っている自分がいるんだ~。」


やめろ。

私を巻き込むな。

面白いなど、誰が言うものか。


ひまれいか「田中みこの事情はよく分かった。いきなりで悪いが、失礼させてもらう。安心しろ。呪いについては口外しない。」


リオれいか「あっ、あれ?私からは何も聞いてこなかったけど・・・まぁいいや!じゃーねーひまれいか!」


ふん。

リオれいかについては、とっくに思考透視を済ませている。

彼女は敵の一味ではない。

それよりも・・・頭が痛くなる難題だ。



私の異能が、敵にバレている可能性の提示。



U2部隊のNo.4に、私の思考盗撮は解除された。

そのことを、あのNo.4とやらが上に報告しない筈が無い。

・・・No.4は鎖で繋がれて動けないから、報告したのは北上双葉か?

紆余曲折あって、異能の内容が田中みこにも知れ渡った・・・?

おまけに、その異能使いが私であることを看破された?


・・・いいぞ。

どんどん発想していけ。

最悪のケースを想定するんだ。


もしも、田中みこに全てがバレているならば。

先ほどの茶番も、まるで意味が無い。

何があろうと、口を滑らせてはくれないだろう。


だがそれならば、他にやりようもあるというもの。

そこに謎がある限り、私の探求心は止まらんよ。


・・・次の計画は既に練り終えている。


姫れいかの『姫様命令』と、あいつの異能があれば・・・試す価値はありそうだ。

少なくとも、決行は会議後になりそうだが。

くそっ・・・時間が惜しい。


何しろ、全てバレているなら―――


戦闘となると、田中みこと私では勝負にならない。

瞬殺される。

隠れ家内だろうと関係ない。

寝ている間に私を暗殺、死体の処理・・・田中みこなら十分可能だろう。

証拠も残さずに達成できる技量を持っている。


ひまれいか「・・・今更死ぬのは怖くない。」


・・・ひひ。

最悪の中の最悪パターンだが、十分あり得ることだ。

そうなる前に、布石は万全に打っておく。

待ってろ田中みこ。

今日中に、お前の真意を暴いてやるッ・・・!












この後、ひまれいかと田中みこが、顔を合わせることは無かった。


それどころか。


ひまれいかはこの9時間後――――












~少女視点~



フリー「・・・異世界だからこそ、しがらみは捨てるべきだ。」



―――宮殿内王の間。



私は今、王の間の会議に参加させてもらっている。

いや、参加というよりは見学かもしれない。


緊張して声が出せないんだ!

想像していた会議と全然違う!



どの人も、格好が奇抜で・・・全員が『名前持ち』なのか!?

50人はいるぞ!?

これ、みんな・・・現実世界から召喚された『れいか生主』なのか!?

隠れ家には、まだまだ知らない顔が多いということか!?

・・・名前を覚える気が失せてくるッ!


10.0円「消費税ッ!!市場の発展には必要不可欠でありますッ!!」


ふじれいか「だからといって、いきなり10%は上げすぎだッ!!」


ちなみに、今は『市場における消費税制度の必要性』を議題にしている。

なんだかよく分からないけど、とりあえず黙って傍観していよう・・・。


10.0円「何を言うでありますかッ!!消費税とは即ち、将来への投資ッ!!で、あるならば!蓄えておくべきですッ!!将来の為にッ!!」


ひまれいか「消費税というのは、国の借金を帳消しにするための緊急的措置だ。如何せん、措置にすら届いていないのが現状だが。ところでここは異世界だ。現実とは違う。国の借金など存在しない。つまりわざわざ、消費税制度など作る必要が無いのだよ。おわかりか?・・・そもそも税の使い道が何か、知らんだろお前。それっぽい御託を並べやがって。そういえば、前にも悪戯に物価を引き上げていたな。お前は、ただ利益が欲しいだけ。市場界のトップに成り上がる気満々だ。自分のことしか考えていない。市場の発展だと?一端の店主である金の亡者が、よくもそこまで大口を叩けたな。時間の無駄だ。一人でも賛同すると思ったか?値上げや消費税制度など、ここでは誰も必要としていない。」


10.0円「・・・ぁ・・・ああぁっ!」


場が静まり返る。

ある者は憧れの眼差しを、ある者はつまらなそうに悪態をつく。


フリー「・・・あー。俺の言いたいこと、全部言ってくれたな。まぁそういうわけだ。消費税制度の導入は却下ッ!!この議題は終わりだッ!!!」


10.0円「うああああぁああっ!!こなくそぉぉぉおおおおおおおおっっ!!」


丸眼鏡の坊主さん・・・肩を落として机に突っ伏して・・・俯いちゃったよ。

なんだかよく分からないけど、相当悔しかったのかな。


緑一色「っぱ・・・ひまさんよ!・・・キエエエエエエエエエエエエッ!!!!」


全身緑の化物が、脈絡なく奇声を発する。

・・・会議って、こんな騒がしいものだったっけ?


フリー「んじゃあ次の議題は・・・ああ、今ので最後か。」


スカイれいか「お疲れ様です。今日も滞りなく、一段落ですね。」


そう、驚くべきはフリーれいかの手腕である。

会議の行進速度が、恐ろしく速いのだ。

大人数の中、私だったら混乱して何も出来ないだろう。

一人一人の個性が強すぎる。

テキパキと難題を片付ける姿は、まさしくリーダーと呼ぶに相応しい。

・・・三分の一くらい、ひまれいかさんが議題を終わらせてるけど。


レキモン「終わった?・・・俺は俺の家に戻るぜ。・・・眠いんだ。」


脱力系男子みたいな人が、会議から出ていこうとする。

それを見たリーダーが、口を開く。


フリー「いや・・・まだ特別議題が残っている。すまないが、着席してくれ。」


レキモン「・・・何それ。・・・俺、眠いんだけど。」


「・。・!」


場が凍った気がした。

雰囲気が一変した。


咎められたその男は、鋭い眼光を放っていた。

リーダーの赫の瞳と、負けず劣らずの・・・威圧の眼光。


キリト「・・・レキモン、座っておけ。これからの議題は、俺たちレジスタンスの・・・存亡の危機に繋がる話だ。」


フリー「座ってくれ。レキモンにも聞いてもらいたい。」


レキモン「・・・・・・・・・・。」


レキモンと呼ばれた男は、それでも睨みを抑えることは無かった。

一歩も動かぬまま、リーダーを注視している。

リーダーもまた、それ以上言葉を挟むことなく、レキモンを睨み返す。


なんだこの男は。

何かこう、導火線に火が付く寸前の状態のような・・・。

正体不明の危うさが感じられる。


レキモン「・・・わかったよ。めんどくさいなぁ。」


猫背のまま、引き返す。

そして大人しく、着席するレキモン。


レトさん(本物)「ははっ頼むぜぇ?こんなとこで暴発したら、洒落にすらならねぇからな。」


一人の男性が、にやけながら口を開く。

私でもわかる挑発。


レキモン「・・・何?・・・喧嘩売ってるの・・・?」


ゆのみ「よしなさい。リーダーの発言前よ。」


リーダーは一幕おいてから、それぞれの顔を見合わせる。

私と目が合う。


覚悟はいいか?

そう、目が語りかけていた。


「・。・v」


余裕のピースをかましてやった。

覚悟ならもう済ませている。


私自身、乗り超えなければならないこと。

自分が誰なのか、向き合うためにも必要なこと。




そしてそれは・・・始まった。




フリー「昨日・・・この隠れ家において、敵との戦闘が発生した。」








リーダーと、当時のメンバーは語りだす。

U2部隊の訪問に、浴びせられた言葉の数々。

いつか来る再戦、私が元凶である可能性・・・諸々すべてを。


ひとしきり説明が終わった後、それぞれが揃って表情を歪めていた。



レトさん(本物)「マジかよ・・・。昨日の会議は休みで、俺らは敵の気配すら感じなかったぞ?・・・本当に起きた出来事だってのか?」


レキモン「だから・・・それがU2部隊の、異能の仕業ってことでしょ。」


レトさん(本物)「負けたのか?・・・あんたら前線組が揃っておいてか?」


キリト「完膚なきまでにな。実質の完全敗北だ。」


ひげれいか「フリーれいかの赫の瞳も、効かなかったなんて・・・信じられないでちゅわぁ!」


ゆのみ「U2部隊・・・そこまでの規模なのね。」


キリトが敗れたという事実に、場は驚きを隠せない。


フリー「4410、記録デバイスを映し出してくれ。」


4410「はい。・・・皆さん。これが敵対勢力、その幹部であるU2部隊の姿です。」


4410の、機械で出来たゴツい手のひらが開かれる。

そこから光が放出されたかと思うと、目の前にはホログラムが映し出されていた。


4410「ズームします。左から順に、No.3の日常演舞、No.9の北上双葉、No.11のKentです。どれも凶悪な異能を保持しているのは、さきほどの説明でお分かりだと思います。特にNo.3は、未だ実力の底を見せてはいません。」


誰もが、そのNo.3と呼ばれた男の姿を視る。

映像越しであろうと、滲み出る混沌は伝わるのだろう。

畏縮する者が殆どだ。


4410「世界を再誕させるための秘密結社・・・私たちを殺そうとした真意は不明です。」


レキモン「・・・ふーん。こいつが日常演舞・・・。」


リオれいか「分かったことも、分からないことも増えたよね。信憑性についてはちょっと疑問だけど。」


ふぁ「信用しづらいのは同感よ。ただ、石ころを騙す必要どこにあるって感じだったわね。」


ひげれいか「目に浮かぶようでちゅね・・・くそッッッ!!!!」


深く刻まれた痛みの記憶は、思い返すだけで過去の傷を疼かせる。

だがいつまでも、消えた相手を気にしていても始まらない。

それも事実。


ベリィれいか「U2部隊とは何なんだ?そいつらの最終目的は?」


ひまれいか「それを解明するのはこれからだ。」


スカイれいか「いったい何の目的で・・・。」


レトさん(本物)「世界を再誕させるのが使命だとか、アホなこと言ってたみてぇだがよ。それが本音だって保障はどこにある?」


ふじれいか「だが・・・事実だとしたら?こいつらは、世界の仕組みを知っていることになる。」


ざわ・・・ざわ・・・。

ざわ・・ざわ・・。



「どうして私たちは、この異世界に召喚されたなの・。・?」



数人が、私を一瞥する。

値踏みするように。


喧騒が止まる。

視線が刺さる。

思い切って発言してみたけど、こ、この静寂は結構くる・・・!


レトさん(本物)「・・・ああ。一番でけぇその謎が、結局ひとつも明かされてねぇ。」


口を開いたのは、先ほど挑発行為を行っていた男性。

頭にシルクハットを被り、顔に半分仮面を付けて・・・見た感じマジシャンのような外見だ。


気を遣われたのだと、私は直ぐに理解できた。

さっきの態度からして、乱暴なイメージだったので意外である。


ゆのみ「・・・あなたが、例の少女ね。」


湯のみを片手に、お淑やかな女性が話しかけてくる。


思考が止まりかける。

よくよく考えてみれば、これほどの初対面を前にして話すのは・・・初めての経験!


ふぁ「・・・自信を持ちなさい。最初の一歩を踏み出せたのだから。同じように、いつも通りでいいのよ?」


私の席の隣、ふぁっきゅーちゃんが小声で囁いてくる。

震えていた私の手を、優しく握ってくれていた。


・・・いつもありがとう。


「初めましてなのだ・。・!お話に出てきた少女が私なのだ・。・!二日前から、隠れ家の世話になってるなの・。・記憶喪失故に、自分の名前も思い出せないから、私のことは好きに呼んでくれて構わないのだ・。・!」


元気よく、声を張る。

黙っていては始まらない。


隠れ家が襲撃されたことは、私の所為なのかもしれない事。

いずれ追及される事。


威勢よく振る舞っていけ。

何を言われようと、覚悟はできてる。


「私はこの世界について何も知らない初心者なの・。・!出来ることなら、私に色々と教えてくれると―――」


レキモン「・・・ねぇ。」


短い一言ながらも、周囲にはっきりと刺さる声量。


レキモン「君は誰の許しを得て・・・発言しているの?」




一瞬だった。




ドォォオォオオォオオオオォン!!!




王の間が揺れた。

人が跳んできた。


私は・・・その人影を、黒焔を纏った両手で受け止めていた。

反応できたのは、ほぼマグレに近い。

視認できたのはギリギリだった。


ふじれいか「ふっ・・・。流石は、俺が認めた女だ。」


レトさん(本物)「ひゅぅ・・・!やるねぇ!」


そいつは私に目掛けて、攻撃を仕掛けてきたのだ。

人を殺すことに特化した、裂傷を与える為だけの

咄嗟に真正面から受け止めた。

戯れではなく、殺す気の突進だったことに寒気がする。


レキモン「・・・・・・。」


「いきなりの・・・ご挨拶なのだ・。・」


一向に力を緩めてくれない・・・ッ!

・・・確かレキモンと呼ばれてたっけ。

なんなんだこの人・・・!


ひげれいか「またあの問題児でちゅか・・・!」


ゆのみ「・・・あれが黒焔というわけね。」


場が混乱を極める。

だが次の瞬間、私とレキモンを取り囲むように、が現れたのだ。


「・。・!?・・・今度は誰なのだ・。・!」


気配を・・・この人たちも只者じゃない・・・!


ベリィれいか「王の間特殊保護部隊か・・・!」


リオれいか「・・・全員集合している姿を見るのは、かなりのレアケースだね。」


王の間特殊保護部隊・・・?

街を回っていた時に聞いた名前だ。

確か、罪人を取り締まる教育係・・・だったっけ。


みかんれいか「王の間特殊保護部隊・・・暴動の鎮圧を開始する。」


高身長で凛々しい声のメイドだ。

頭にみかんが乗っているのは・・・ツッコむべきなのだろうか。


真中あぁあ「止めないと~私たちが矯正しちゃいますよ~!」


可愛らしいアイドル風のメイド服だ。

マイクを持っているが、歌でも歌う気なのか?


べるれいか「りんごんりんごーん!!」


低身長ながらも、両手に馬鹿でかい鈴をつけているメイドだ。

あれに殴られたら痛そうだ。


悲哀れいか「ふふふふっ。私の監視は辛いわよぅ・・・。」


片手に包丁を構えているメイドだ。

漂ってくる負のオーラが半端じゃない。


姫れいか「あのあのっ!・・・お手を放してくださいっ!」


姫れいかさんだ。

顔を合わせるのは、あの戦争以来になる。

あの時のこと、うまく立ち直れたのかな・・・。


そして。


最後の一人は、レキモンの喉元に錫杖しゃくじょうを突き付けていた。

おそらく、この人は特殊保護部隊とやらのトップなのだろう。

雰囲気が強者そのものであり、他のメイドよりも動きが桁違いだ。

・・・この人が一番強い。


スノーれいか「レモキン様・・・。これ以上の不敬、どうかお止めください。」


銀髪の髪の下、絶世の美貌がそこにいた。

雪原の如き純白の肌は、喧騒の中にあっても穢れ一つなく輝いている。

しかし、発した言葉からは柔さなど微塵もない。

結晶化した吹雪を思わせる瞳も同様、周りの景色を凍らせていく。

いや、比喩ではない。


レキモン「・・・無駄なことしないでくれる?」


安心しきっていた私は、まだまだ甘かったと言えるだろう。



レキモン「?」



スノーれいか「・・・っ!」


レキモンから膨大な殺気を感じ取る。

口調は静かであったものの、そこから伝わる破壊の気配は・・・超獣めいた迫力。

外見からは想像がつかない。

レキモンの余波に触れただけで、地鳴りに似た鳴動が起こる。


数で言えば、私も含めて七対一だぞ!?

だというのに、このレキモンという男・・・!

余計に力が強くなったような・・・!

奴の言うことはハッタリじゃない。

これは・・・ヤバい。

だ、駄目だッ・・・これ以上は私が・・・力押しされるッ・・・!



ふぁ「レキモン・・・手を放しなさい。・・・わかるわよね?」



レキモン「・・・・。」


怒りが有頂天に達していた者がいた。


隣に座っていたふぁっきゅーれいか。

着席していながらも、そのオーラには誰もが戦慄した。

レキモンと並ぶ覇気・・・いや、それ以上・・・?


ふぁ「手を・・・放しなさい。」


おそらく、これは最終通告。

従わなければ、ここからは血が流れる。

誰もが、その瞬間を覚悟した。


レキモン「・・・めんどくさ。」


レキモンはつまらなそうに、少女の顔を見る。

ふぁっきゅーれいかには目もくれずに。


レキモン「・・・強いね。」


「・・・お褒めに預かり光栄なのだ・。・」


押し付けられていた力が弱まる。

放たれていた殺気が消え失せる。


レキモン「俺、弱い奴に興味ないから。・・・君は合格。」


レキモンはその場で立ち上がり、猫背のまま自分の席へ向かおうとする。

囲んでいたメイド達は、それを止めようとしなかった。


スノーれいか「・・・主よ。特殊保護部隊、総員・・・撤収します。」


フリー「ああ、構わん。また騒がしくなったら頼む。」


真中あぁあ「かしこまっ!」


事態の終結を見届け、音もなくその場から消え去る六人のメイド。

漂っていた冷気すらも、その場に残さず一瞬で。


しばらくの静寂・・・口を開いたのはリーダーだった。


フリー「さて・・・わかったと思うが、。会議の参加資格として、これ以上の証明はないだろう。」


・・・!


フリー「こいつは異世界に召喚されて日が浅い。知らないことも沢山ある。不必要な発言もあるだろうが、しばらくは許容してもらいたい。」


周りの視線が刺さる。

私は思わず、正面に向かって一礼をしていた。

感情が顔に出ていたのを、見られたくなかったのだ。


レトさん(本物)「ははっ・・・!レキモンよ、うまくダシにされたなっ!」


レキモン「・・・・。」


フリー「んじゃ座れチビ。・・・あーそういうわけで、この隠れ家の現状は――」


またいつもの喧騒、会議の空気に戻る。

私は着席し、ほっと息を撫でおろした。


ふぁ「腫れてるわね・・・。今、回復させるわ。」


「ありがとうなのだ・。・」


ふぁっきゅーちゃんに助けられたのは・・・もう何度目だろう。

これほどの借り、いつか恩返しがしたい。


ゆうれいか「災難だったね~。」


ふぁっきゅーちゃんの反対側である、私の隣に座っていたゆうれいかさん。

マイペースすぎる。

私が襲われてたとこを、顔色変えずに眺めてたのは・・・あるいみ強者なのかも。


ゆうれいか「フリーちゃんも、相変わらず優しかったね~。~。」


「えっと・・・それって前に言ってた、大暴れした時期のことなの・。・?」


会議の中、小声で密談する。

この話は確か、ゆうれいかさんの店に寄った時に聞いた話だ。


ゆうれいか「フリーちゃんはね~、ああ見えて仲間想いなんだよね~。自分より他人を大切にしちゃうとこがあるんだよ~。」


「そ、そうなの・。・?」


ふぁ「彼がリーダーであるが故の逸話よ。」


傷の治療を終えたふぁっきゅーちゃんが、会話に加わる。


ふぁ「この隠れ家が誕生した頃の話よ・・・時期だけは前に話したわね。」


「二か月前と聞いたなの・。・」


ふぁ「ええ。その時の初期メンバーはたったの八人。リーダーであるフリーれいかが、先頭を切って隠れ家を結成した。私とゆうれいかも、その内の一人よ。そこから次第に強大化して、今の私たち・・・『レジスタンス』がいるのよ。」


ええっ!?

ふぁっきゅーちゃんもそうだけど、ゆうれいかさんってそんな古参だったの!?

・・・ってそうか。

隠れ家の創設者って言ってたっけ。

あの土壁を作ったように、建物とか建てていったのかな。


ゆうれいか「国づくりも、一からとなると大変だったよね~。」


ふぁ「簡単じゃなかったわ。人が増えるたびに、問題も山積みだった。」


その苦労は、私でも大体は想像がつく。

今ここにいる、50人ほどの個性が強い人たち。

彼らをまとめるのは・・・容易では無かった筈だ。


ふぁ「リーダーがいたからよ。彼のリーダーシップともいえる指導者の素質。類稀なる力量と統率力。彼しかリーダーは務まらなかった。」


「・・・すごい人なの・。・」


ゆうれいか「でもね~。統制が取れ始めた頃にね~。その努力の結晶を、僕が滅茶苦茶にしちゃったんだよ~。死傷者も出ちゃったしさ~。」


「え・。・?」


いきなりでびっくりした。

死傷者・・・?


ゆうれいか「特殊保護部隊全員のおかげで、こうして改心できたけどね~。」


その時のことを思い出したのだろうか、声が震えている。


ふぁ「一か月前の話よ。今のゆうれいかを見てると、想像できないでしょう。」


「・・・色々あったなのね・。・」


ゆうれいか「僕は、んだよ~。だけど、あの時のフリーちゃんは・・・僕は嬉しかったな~。」


「フリーれいかさんが、庇ってくれたということなの・。・?」


ふぁ「あまり知られていないことだけどね。ゆうれいかは―――」



フリー「今度はこちらから攻め入るべきだ!!」



その一言で、私たちの意識は会議に引き戻される。

いつの間にか、会議の空気はヒートアップしていた。


ふじれいか「リーダー、まさか・・・。」


フリー「ああ。『敵対勢力』に、これ以上好き勝手にはさせない。今度はこっちから仕掛けよう。」


スカイれいか「西地区への進軍ですね!」


フリー「十分な戦力を蓄え、育んできた。・・・そろそろ、この異世界に終止符を打つために、我々『レジスタンス』は行動を開始する。」


レキモン「・・・・俺は戦えればそれでいいよ。」


ひまれいか「ぐ、具体的にどのような計画を・・・!?」


その様子を、茫然とした顔で見ていた私たち。

ふぁっきゅーちゃんが、頭を抱えている。


ふぁ「あの馬鹿リーダー・・・!またノリで決めちゃって・・・!」


ゆうれいか「前線組と協力するのかな~。」


「『レジスタンス』に、『敵対勢力』・・・相関図がはっきりしないなの・。・」


とりあえず、私は疑問になっていたことを尋ねる。

組織名が多すぎて、流れについていけない。


ふぁ「この異世界には、今のところ、わ。」


「こ、国家・。・!?地上は何もない廊下でいっぱいなのに、ほんとにそんなのがあるなの・。・?」


ふぁ「私たちが住んでいるここが、一種の証明よ。リーダーはこの隠れ家を『れいかファミリー』と名付けたけど、今では『レジスタンス』で通っちゃってるわね。どっちで呼んでも、ここの人たちには伝わるわ。」


どっちだよ。

そういえば、『れいかファミリー』は、ふぁっきゅーちゃんから聞いてたっけ。

それ以来、聞くことが無かったから忘れていた。


ふぁ「二つ目の国家・・・『前線組』。この隠れ家とは、随分距離が離れているわ。キリトがそこの出身ね。メンバー全員が、伝説クラスの強さを持つ精鋭よ。私も偶に立ち寄るけど、基地の規模はここと同じくらいかしら。」


ゆうれいか「前線組はね~、敵対勢力の実態を調査するために、前線で色んな活動をしているんだよ~。」


「その敵対勢力ってのも、国家なの・。・?」


ふぁ「ええ。三つ目の国家、私たちは『敵対勢力』と呼んできた。長らく尻尾を見せなかった勢力よ。私たちを殺すことを目的としている。そして、『敵対勢力』の幹部が・・・例のU2部隊なのよ。昨日、そのU2部隊であるNo.5、安眠が言っていたことだけどね。」


「U2部隊・・・私たちを殺す集団・。・」


思い出す。

隠れ家に来る前に戦った、あの男たちのことだ。

あの男たちは、敵対勢力の下っ端ということなのだろう。


「最後の国家は何なのだ・。・?」


ふぁ「謎に包まれた組織よ。異世界に召喚されたれいか達でありながら、私たちの争いに一切干渉しない集団。名は『みんと軍団』。れいかの伝統を重んじるメンバーで構成されていると聞くわ。」


ゆうれいか「僕たちのように、騒がしい場所ではないらしいね~。静かに暮らしてるって話を、僕は度々聞くなぁ~。」


「そんなのもいるなのね・。・」


あれ、でも・・・。


「だとしたら、私たちを異世界に召喚したのは誰なのだ・。・?」


ふぁ「敵対勢力説が無難かしら。世界の成り立ちについて、U2部隊は思わせぶりに言っていたしね。」


頭の中で整理する。

大体は理解できた。


フリー「決まりだッ!!」


激しい論争が終わったようだ。

や、やばい・・・全然聞いてなかった!


フリー「これより、レジスタンスは進軍する。それに先駆け、皆には地上の調査を頼みたい。何しろ、敵には隠れ家の場所がバレてるからな。早急に、次の潜伏場所を決める必要がある。それと同時に、敵対勢力への戦争準備だ。前線組の協力も要請しておきたい。・・・皆、これは我々レジスタンスの未来を掴むための戦いだ。輝かしい未来を胸に、任務に励んでくれッ!!」


おおおおおおおおおぉおおおおおおおおっ!!!!

フリーれいか!フリーれいか!フリーれいか!フリーれいか!



場が阿鼻叫喚の中、私は思いがけないチャンスに興奮する。



前線組への協力申請・・・これだ!









―――宮殿王の間入り口。



会議が終了してから、私は王の間入り口で座っていた。

静かな場所だったので、その人の存在はすぐに分かった。


いちご「なんだ、あの時のロリか。」


壁にもつれかかって、片足重心で呟く男性。


「・・・いちごさん、昨日ぶりなのだ・。・」


いちごだった。


姫れいかとの一件、あれからどうなったのだろうか。

当たり前のことだが、私はあの一件を許せていない。


いちご「まだ怒ってるのか?ふっ。」


前髪を調整しながら、含み笑いをするいちご。

会議にいたのだろうか。

あまり覚えていない。


いちご「また会うとはな。へへっ、??」


「・。・?」


・・・様子がおかしい。

それにこの男、今までの覇気が消えているのだ。

確かもっと、攻撃的な性格だったはず・・・。

なんだこの・・・達観したような振る舞いは。


いちご「そんな目するなよ。・・・俺は考えを改めたんだ。」


咄嗟に思い付いたのは、王の間特殊保護部隊に矯正された可能性だ。

だがそれはすぐに、思い違いであったと理解する。


いちご「分かっちまったんだよ。。お前らのやる事成す事が、後々の俺様に利益として帰ってくる・・・!」


「な・・・なにを言ってるのだ・。・」


まったく理というものがない。

大言壮語というより、それは妄言に近い気がした。


いちご「お前も覚えとけ。。何がどうなろうと、俺の手のひらから出られる奴はいねぇ!これはすでに確定事項だぁ!あひゃ、あひゃーはははっつははひゃははあひゃっ!!!」


ふぁ「何してるのよ。」


王の間から、ぞろぞろと人が出てくる。

上位メンバーだけの作戦会議が終わったのだ。

私はそれが終わるまで、ここで待っていただけのこと。


姫れいか「お待たせ、いちごちゃん。」


いちご「おう。別に待ってねぇよ。」


彼の方も、私と同じだったらしい。


「いちごちゃん・・・さっきの話だけど、どういうことなのだ・。・?」


いちご「あー?難しく考えなくていいぜぇ?。あひゃひゃひゃ。」


姫れいか「いちごちゃん!お口チャックですっ!!」


ビシィィィィッ。

全身硬直するいちご。


ふぁ「苦労しそうね・・・。そいつ、何か吹っ切れたようじゃない。」


姫れいか「以前よりは、私の言う事にも忠実なんですけどっ、何か・・・自分を保てなくなっているような感じなのですっ。」


そうこうしているうちに、人の奔流が消えていく。


ベリィれいか「とりあえず俺は、地上の要救助者を探しに行く。ベリィ組とも作戦会議をしなければ。」


ゆのみ「私は家で修行ね・・・。」


階段を下りていく人々。

レキモンと、あのマジシャンも見えた。

次第に喧騒が遠のいていく。

いちごと姫れいかも、私たちに短い挨拶をして去っていった。


やがて、その場に残ったのは私とふぁっきゅーちゃんだけとなった。


ふぁ「私たちも帰りましょう。・・・ええっ!?」


私は、王の間の扉を開けていた。

中の人物に、私の昨日の決意を示すために。










フリー「・・・会議は終わったが、何の用だチビ。」


そこには、いつかの面会と同じ。

フリーれいかさんと、両脇にふじれいかさん、スカイれいかさんがいた。

後ろから、慌てた様子でふぁっきゅーちゃんも入ってくる。


「私を・・・前線組の連絡メンバーに加えてほしいのだ!・。・!」


ふぁ「・・・!!」


ふじれいか「ほう。」


フリーれいか「自分が言った言葉の意味、分かってるのか?・・・外はガチの戦場だ。チビの想定をはるかに超えた激戦区だぜ?」


「それは、肯定と受け取っていいなの・。・?」


ふぁ「だめよっ・・・!」


ふぁっきゅーちゃんが一際大きい声を放つ。


ふぁ「リーダー!さっきはこの子を、レジスタンス内で厳重に守り通す!そう話をつけたじゃない!U2部隊のNo.3が言っていた!この子がいたから、隠れ家は滅ぼされずに済んだ!」


フリー「ああ、そうだな。・・・だが、。」


フリーれいかが玉座から立ち上がる。


フリー「実はな、俺もチビと同じ考えだ。・・・チビがここで言い出さなければ、俺は何もしなかったがな。」


スカイれいか「ここに来たときは、笑いそうになったよ!まさか、リーダーの言ってた通りの展開になるなんてね!」


「・・・何がなんだかなのだ・。・」


フリー「気になるんだろ?・・・あの男に言われた言葉が。」


「・。・!」


図星をつかれた。

まさに、その通りである。


・・・このまま何もせずに過ごすのは、私の性分じゃない。

私は、私が誰なのか知りたいのだ。

そのためには、戦地に赴いてでも手掛かりを掴みたい。

行動しなければ始まらないのだ。


フリー「ふぁっきゅーれいか。」


ふぁ「・・・はい。」


フリー「これはレジスタンスと敵対勢力の読み合いだ。・・・敢えて、俺はチビを外に出す。おそらく、チビはいずれ戦争の鍵になるだろう。今のうちから経験を積ませておく。」


ふぁ「・・・・。」


フリー「このチビに旅をさせろ。・・・分かっているとは思うが、今のお前は過保護すぎる。そろそろ距離を置くのもいいんじゃないか?」


ふぁ「・・・っ。」


「・・・ふぁっきゅーちゃん・。・」


これも、少しは想定していた事。

ふぁっきゅーちゃんとは、

彼女には彼女の任務もある。


ふぁ「・・・ええ。分かったわ。私は、本人の意思を尊重させる。」


二日という短い期間だったけど。

ずっと一緒に過ごしてきた思い出は・・・今でも鮮明に思い出せた。


ふぁ「・・・昨日のバルコニーであなたを見た時、何かを決意してたのは伝わってきたわ。」


・・・あ。


「・・・あの時の事、見られてたなのね・。・」


全然気づかなかった・・・。


ふぁ「あなた、もう一人で大丈夫?」


「・。・!」


唐突すぎる言葉だった。

覚悟を確かめるための質問。

そっけない感じが、逆に心にくる。

もしかしたら、という思いもあったが・・・どうやらそれは叶わなそうだ。


だけど。


私はそれを・・・受け止められるだけの成長を遂げていた。


「大丈夫なのだ・。・いままで色々と、ありがとうなのだ!・。・!」


だから前を向け。

はっきりと、こちらの覚悟を示すんだ。

お世話になった分だけ、ありったけの感謝を込めて。


ふぁ「・・・・死んだら承知しないわよ?」


ふぁっきゅーちゃんの瞳から、涙が零れ落ちていた。

恥ずかしそうに、手で涙を拭っている。


「・・・任せとけなのだ・。・v」


泣きそうになった。

根性の別れでもあるまいに。

だけど私は決意した。

これが私の選択だ。


フリー「ふん。じゃあチビ、お前に任務を言い渡す。前線組への連絡メンバーは、隠れ家入り口前、10時集合ということになっている。他のメンバーには、もしかしたらお前が来るかもしれないことを、密かに伝えておいた。」


ふぁ「10時って・・・もう5分もないじゃない!」


「こ、こうしちゃいられないのだ・。・!」


フリー「手ぶらで大丈夫だ。入り口前で、大体の補給は出来る。」


そんなことを言われても、焦るものは焦る。

すぐに王の間の扉に手をかけ、出発の言葉を口にする。


「行ってくるのだ!・。・!」


ふじれいか「無事を祈るぞ。記憶喪失の子よ。」


スカイれいか「気楽にいきなよ~。」


フリー「いい報告を期待しているぞ。」


ふぁ「無茶だけはしないでね!・・・気をつけてねっ!!」


ふぁっきゅーちゃんの言葉が、胸に浸透する。

絶対に帰ってくる。

そう決意し、王の間を後にした。

向かう先は、隠れ家の入り口前・・・!












この後、少女とふぁっきゅーれいかが、顔を合わせることは無かった。


それは運命であり、必然である。


少女にとっての

闇を従えただけの、第一試練とは違う。

並大抵の努力では決して、乗り越えることは出来ない。


9

少女にとっての地獄は近い。












「な、何とか間に合ったのだ・。・;」



―――隠れ家入り口補給小屋。



見覚えのある面々が、そこにいた。


キリト「来たか。」


4410「私は来ると分かっていましたよ。・・・センサーが反応していました。」


田中みこ「・・・。(コクッ)」


・・・なんという豪華な面子だろう。

これは負ける気がしない。


「・・・あれ、でもこれ、たったの四人だけなの・。・?」


もっと・・・大所帯を期待していた。

いや、これだけでも十分すぎるほどの戦力なのだが。


キリト「俺が要請したんだ。少人数の方が、俺はやりやすい。」


キリトがこちらに何かを放り投げる。

持ち物袋だった。

中にはぎっしりと、冒険に役立ちそうなアイテムで溢れている。


キリト「時間が惜しい。ミーティングを開始するぜ。地上に出たら、俺が先頭を走る。その後ろに4410、続いて少女、最後尾が田中みこだ。」


4410「了解です。」


田中みこ「・・・。(敬礼)」


「わ、わかったのだ・。・」


急に始まった。

よし・・・気持ちを切り替えよう。


キリト「基本はフォーマンセルだが・・・今回は俺が、前線組への通路を確保する。お前たちは俺の動きについてこなくていい。通路の掃除は俺一人で十分だ。」


すごいこと言い出してるぞ。


キリト「4410、お前の地図アプリなら、迷うことは無い筈だ。」


4410「ええ。前線組までのルートは記憶しています。迷うことはありません。」


キリト「合言葉も決めておこう。・・・田中みこはいつものでいい。」


田中みこ「・・・。(コクッ)」


「・。・」


何だろう。

無性に気になるので、尋ねてみることにする。


「田中みこさんって、その・・・喋った所を見たことが無いなの・。・」


キリト「気のせいだろ。」


4410「いやいや、何かあってからでは遅いですし、私からお教えしますね。田中みこさんは、発声は出来るのですが、言葉を選ぶことが出来ません。無理に喋ろうとすると、本人の意思とは無関係な言葉が発せられるのです。」


「・・・本心とは逆のことを言葉にしちゃうなの・。・?」


キリト「田中みこ、一言でいい。一言だぜ?少女に聞かせてやってくれ。」


田中みこ「黙れやオラァァ!!誰や今みこに『お前もう飽きた』言うた奴はぁ!?お前ら飽きた飽きた言うてるけどもやなぁ・・こん中でホンマにずっといつものアレうっとる奴がおるんかコラァ!? ええか?教えといたるわ 田中みこっちゅうんはなぁ・・田中みこっちゅうんはなぁ・・!」


・・・うお。

初めて聞く声だけど・・・うおお。


キリト「こういうわけだ。支離滅裂なことしか言えない呪いらしい。」


4410「作戦には、特に支障はありませんけどね。」


キリト「こんなだが、実力は俺と並ぶ。・・・田中みこが、俺たちの誰かの肩を二回タップしたら、異変が起きた合図だ。それだけ覚えていれば問題ない。」


みこ「うちもきりっちのポカポカお肉あるから暖房いらないもーん!ぎゅー♡


キリト「・・・そろそろ出発するぜ。質問は受け付けない。準備はいいか?」


4410「準備できています。」


田中みこ「・・・。(コクッ)」


「え、あっ、OKなのだ・。・!」


彼らにとっては日常茶飯事なのだろうが、私はしばらくの間、田中みこさんのギャップを思い出し、その度に悶えるのであった・・・。







――――地上。



キリト「先行するッ!!」


そう言い残し、あっという間にキリトの姿は見えなくなった。

ミーティング通りだが、いざ目にするとツッコミ所満載だ。

一緒に行動する方が、私は最適だと思うんだけど。


4410「流石のソロプレイですね。私たちも行きましょう。ついてきてください。」


4410さんと私、そして田中みこさんの三人で走り出す。

私にとっては、二日ぶりの外。

広大な廊下が並ぶ、迷宮の中の迷宮。


4410「徐々にスピードを上げます。辛くなったら言ってください。」


「了解なのだ・。・!」


この、何度も同じような曲がり角を曲がる感触。

久しく忘れていた、一人で彷徨っていた頃の記憶。

もしあの時、ふぁっきゅーちゃんと出会っていなかったらと思うと・・・。

いけない、任務中だ。

今はとにかく、隊列から離れないように集中だ。




~1時間後~




4410「・・・!・・・キリトさんが敵と遭遇!・・・殲滅したようですね。」


はっや。

もうこれで何度目だろう。

こうして安全な道を作ってくれるのはありがたいけど、なんだかモヤモヤする。


「4410さんのレーダーって、どこまでの距離が範囲なの・。・?」


4410「私のレーダーですか・・・?如何せん、説明が難しいですね。私のモビルスーツから半径———」


とんとん。


「・。・!」


肩をタップされた。

気付くと、田中みこさんが走りを止めていたのだ。


「4410さん、田中みこさんからの合図なのだ・。・!」


4410「確かに・・・動きを止めて、どうしたのでしょう。」


私と4410さんは、田中みこさんの元に駆け寄る。

すると、田中みこさんは、進路とは違う道を走り出したのだ。

こちらに手招きをしながら。


4410「えっ・・・!?田中みこさん、どうしたんですか!?」


「追いかけるのだ・。・!」


4410「・・・っ。仕方ありません。キリトさんには悪いですが、後を追ってみましょう。」






三分ほど走っただろうか。

田中みこは、そこに何をすることなく立ち止まっていた。


4410「どうしたのですか、田中みこさん!?・・・こ、これはっ?!」


「黒い煙なのだ・。・!」


そこには、廊下を埋め尽くすほどの、が充満していた。




田中みこ「4410。この先の廊下をサーチしてみて。」




4410「え・・・?」


「た、田中みこさん・・・普通に喋ってるのだ・。・」


田中みこ「いいから。サーチしてみて。」


有無を言わせぬ迫力。

4410さんは、渋々とレーダーを起動する。


4410「・・・・・。これは・・・煙の中心に、誰かが横たわっている!?」


田中みこ「少女ちゃん。この煙、黒焔ならどう?」


「・。・!」


身体が動く。

助けなければと思った。


だがそれと同時に、嫌な予感がした。


「・・・還元できたのだ・。・!」


私の拳に、黒焔が纏わりつく。

いつもと同じ感触だ。


田中みこ「うん。それじゃあこっち。倒れてる人の元まで連れてって。」


4410「待って下さい。」


私の不安は的中していた。

・・・4410さんが、武装解除していたのだ。


4410「これは明らかに異常事態です。初めて見る。・・・私たちだけで進むのは危険です。せめてキリトさんを呼びましょう。」


田中みこ「だめ。」


金属が軋む音がした。

いつしか聞いたような音。

私がそれに気づいたのは、既に鞘から抜かれていた後だった。


それほど自然に、


4410「なっ・・・?!田中みこさん・・・やっぱりっ・・・!」


田中みこ「やっぱり?」


4410「になりましたね・・!・・・あなたは離れていてください。」


「わ、分かったのだ・。・」


いや、全然分かっていない。

何なのこれは?

何が起こっているの・・・?


4410「田中みこさん・・・考え直してください。今ならまだ間に合います。・・・キリトさんを待ちましょう。それから、この煙地帯の調査を―――」


田中みこ「だめなんだよ、それじゃあだめなんだ。」


華麗に、だけど流暢に、田中みこさんは太刀を構える。

・・・模擬試合で見せた殺気を、余裕で超えていた。


田中みこ「力づくで、少女ちゃん連れてくから。」


その宣言が、決め手だった。

私は、4410さんの方へと素早く移動する。


4410「・・・残念です。4410、これより・・・田中みこの確保を始めます。」


この二人は、今から戦おうとしているのだ。

田中みこさん・・・いったいどうして?


4410「もっとです。もっと離れていてください。・・・死にますよ?」


初めて感じる4410さんの威圧。

私は言われた通りにその場を離れながら、密かに戦闘の準備をする。


4410「・・・必要ありません。ここは私に任せてもらえませんか?」


「・・・了解なのだ・。・」


見抜かれてしまった。

そこまで言うなら仕方がない。

本当に危なくなったら、私も戦闘に加わろう。


田中みこ「一人で私に勝つつもり?」


4410「ええ。私では役不足でしょうか?」


田中みこ「うん。4410じゃあ、私は止められないよ。」


4410「。」


4410さんの身体、モビルスーツから熱風が噴出する。

激しい機械音が、廊下全体に響き渡る。


4410「隠れ家内では・・・私の全力が出せなくて困っていたのですよ。いつも模擬戦では、力を抑える必要がありましたからね。。」


浮いていた。

よく見ると、足元と翼部分が、点火されたような色合いに変化していた。

しかも、変化はそれだけに留まらない。

変形と言った方がいいだろうか。

銃器に鎖に・・・どんどん武装が増えていく!


「す、すごいのだ・。・;」


ロボットの知識はそれなりにあった。

これは本物だ。

フィクションで散々見た造形。

これから起こる戦闘は・・・・おそらくこれまでの比じゃない・・・!



4410「さて・・・やりましょうか。」



背中のビームサーベルを取り出し、片手には見たことが無い大型の銃。

全身兵器の完全形態―――名は、4410。


相対するは、武の至境―――田中みこ。

ゆっくりと、両手で太刀を構える姿は・・・それだけで見る者を圧倒させる。


田中みこ「いいね。あながち嘘じゃなさそう。」







4410 VS 田中みこ。


少女が見守る中、密かに死闘が始まるのだった。




つづく。




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