第11話 二転三転の挨拶代わり

死にたくなければ戦うしかない。


・・・そんな理由で戦う人たちを、私は軽蔑する。


戦う理由って、そうじゃないだろう。


確かに、自分が何者かわからない内に、死ぬのはいやだ。

だけどいつかは、誰にだって死は訪れる。

要は、それまでに何を成すかなのだ。


ある一つの結果に到達するまでの過程を、人は物語や人生と呼ぶ。

様々な出会いと別れがあり、事件があり、選択があり、そして未来の可能性の中を進み、一つの結果という『死』へ到達する。

この世界というのは―――運命というのは、そういう風にできている。


運命は変わらないから運命なんだ。

どんなに理不尽でも。


・・・。


でも、私はそうは思わない。


運命とは、


私が―――変えてやる。


私がどう生きるか。

記憶喪失の私が、何と向き合っていくか。

本能でも血脈でもなく、この心で決めていく。


これから私の前に続くのは紛れもない、私の道なのだ。









宮殿内二階、客室内――。



少女の額から、汗が垂れ落ちる。

少女は今まで、複数の『名前持ち』とをしてきた。

しかし、これから始まるのは純粋な殺し合い。

今までの相手とはまるで違う、破格にして別格の存在感。


――U2部隊、その幹部メンバー。


No.9の北上双葉。


No.11のKent。


二人はまさしく、これまでとは一線を画す強者。


Kent「悪く思うなよお嬢ちゃん?」


そう言いながら、壁の側面に黒い大穴を広げていくKent。

もちろんその行為を、少女は許すはずがない。


「先手必勝の黒焔なのだ!・。・!」


両手に黒焔を顕現させ、Kentの顔面めがけて突撃する少女。

少女の戦法は、当然の不意打ち特攻!


、完璧な威力と完璧な速度。

少女の全力を炸裂させた剛の拳は、文字通り桁が違った。


いきなりの不意打ちにKentは面食らうも、刹那の反射神経で拳を避ける。


・・・!?

今のを避けるのか!?

ならもう一発ッ!


Kent「うぉっ!近接タイプの自己強化型かよぉ!?一番やりづれぇ相手だぁ!」


Kentのに、黒い大穴が出現する。


「・。・!」


理屈抜きで瞬時に悟る。

あれに触れてはいけない。


少女の突き出した拳は、その大穴へと飲み込まれそうになるが、直前になんとか身を翻して避けることに成功する。

Kentの前方には、未だに黒い大穴が残存している。


危ない。

なんとか接触は回避できた。

あの穴は何だ?


北上双葉「おまたせ~。」


少女はハッとする。

いつの間にか、前方にいたはずの北上双葉を見失っていたからだ。


Kent「またでかいやつ連れてきたな・・・。」


北上双葉「えへへ。いいでしょ~。自信作なんだよこれ。」


壁の黒穴から出てきた北上双葉。

その後ろにいる何かが、物々しい起動音を立てて、少女の前に立ち塞がる。


「・・・機械兵・。・!」


そこには爬虫類を模した、およそ人型とは言えない大型の機械が佇んでいた。

ワニを想像させる巨大な口は、人間程度なら余裕で丸呑みしてしまうだろう。


北上双葉「この子の異能は?」


Kent「黒焔を拳に纏う自己強化だけだ。スピードと威力はなかなかだぜ。」


少女の戦法が、敵たちとの間で共有される。

これより先、少女の突進攻撃は要警戒され、近寄らせてもくれないだろう。


巨大機械体「ギャアアァァアアアァアオオオォォ!!!!!」


耳を劈く咆哮が轟く。


北上双葉「ほい。スナップモウちゃん!いけー!」


少女に考える暇を与えず、機械体は神速を超えて少女に噛みつこうとする。

だがその攻撃を、少女は真正面から殴り返す。

吹き飛ばされた機械体は、壁に叩きつけられた衝撃でバラバラと化す。


「・・・こんなの、ふじれいかさんの足元にも及ばないなの・。・」


一瞬の出来事。

王の間にいた機械兵よりは、かなり強い部類であったにもかかわらずだ。

黒焔を纏った拳を振りかぶりながら、笑みを浮かべる少女。


Kent「あーらら。これだから脳筋はおかしいんだよなぁ。」


Kentはやれやれといった様子で肩を竦めている。

そう言いながら、壁の黒穴を広げていく。


「・・・来ないならこっちから行くなの!・。・!」


あの黒穴の正体はまだ掴めない。

だがこのまま相手のペースにハマるのは癪だし、何より敵の余裕が気に食わない。


拳にこれまで以上の破壊力を望みながら、黒焔を纏わせていく少女。


「・・・もう一人はどこにいったのだ・。・」


姿


北上双葉「あ~!もうやられちゃってるじゃん。モウちゃん弱いね。」


当たり前のように、壁の黒穴から姿を現す北上双葉。

出てきた物が、それだけではないというのは、やはり予想通り。


機械体「コオオオオォォオォォオオォオオッ!!!!」


破滅的な龍の咆哮。

信じられない域の巨体である機械体が、空を飛ぶという珍事。


「・・・空からの攻撃も、私は慣れているのだ・。・!」


少女はすぐさま、身体に蓄積された黒焔を放出する。

黒焔は音速で飛んでいき、空を飛ぶ機械体を一瞬で燃やし尽くす。


・・・やった!

ぶっつけ本番だったけど、いけるよこれ!


少女は確かな手ごたえを実感する。

機械体は高度の熱によって、グズグズに溶け始めていた。


北上双葉「ちょっとぉ!広範囲攻撃持ってるじゃん!Kentさんの嘘つきー!」


Kent「俺だって今のが初見だよ!・・・しかし戦い慣れてるなお嬢ちゃん。応用の利きそうな異能じゃねぇか。」


機械兵がやられたにもかかわらず、二人は些かも怯みはしない。

むしろ面白がるように笑ってすらいる。


・・・これって、失敗したかも。


少女は焦る。

まんまと敵の思惑に乗ってしまったからだ。


今の黒焔を放つ攻撃を・・・のだ。

少女が使える技は、黒焔を拳に纏う、黒焔を放出の二パターンのみ。

後者はまさしく、正真正銘の奥の手。


少女は気づく。

異能持ちとの戦いは、情報戦なのだと。

未知の異能も、タネが分かってしまえば怖くない。

いかに手の内を削って戦っていくか、それが勝利への鍵なのだ。


敵には既に、少女の異能はバレている。

ならばと、少女の方も敵の異能について考察を行う。


Kentが穴を作って、北上双葉がその穴から機械体を連れてくる。

この手順に間違いはないだろう。

なら、連れ出せる機械体は何体まで――。


「・・・やっぱり、宮殿内で機械兵を出現させてたのはお前たちだったなのね・。・!」


当然、一つの答えに辿りつく。


つまりこの二人を倒せば、宮殿内の機械兵は沈黙する!


そう考えを巡らせる間にも、三体、四体と増えていく機械体。

あり得ない。

一体どういう仕組みなのか。


Kent「どうしたよお嬢ちゃん?もう終わりか?」


見え見えの挑発。

Kent自身は、これまで一度も攻めてきていない。

それは北上双葉も同じであった。

いつの間にか、さっきとは逆方向の壁から姿を現している。


・・・Kentの黒穴は不気味だ。

触れたら即死亡・・・それも有り得る。

なら次に狙うべきは――


少女の狙いは――北上双葉。


当然、彼女も異能使いだろうが、Kentよりは邪悪さが無い・・・弱そうだ。


北上双葉「えっ?私?」


少女は機械兵の銃撃や突進を避けつつ、必殺の拳で北上双葉を仕留めにかかる。


――これほど浅はかな戦術はない。


少女は今一度、なのだと。

思い知ることになる。


ポヨン☆


柔らかな感触。


北上双葉「・・・狙うなら頭だったねぇ。」


Kent「ま、頭を狙ってたとしても、俺の『黒腔ガルガンダ』がさせねぇけどな。」


「・・・そんな・。・!」


北上双葉の腹部を狙った拳は、謎の質感に受け止められ、その動きを止めていた。


「こ、これって・・・嘘だ・・・まさか・。・!」


北上双葉「、モンメンだよ~。この子のコットンガードは、ポケカでもお世話になりました~。」


またしてもそこには、アニメ調のキャラクターが存在していたのだ。

北上双葉を囲むように、綿のような壁が浮いている。


「ど、どうしてこんなところに・・・ポケモ〇がいるなの・。・!?」


記憶喪失であろうと、やりこんだゲームの内容を忘れていない辺りは、流石ゲームオタクといったところか。

まさしくそれは、日本で大人気の、とあるフィクションに出てくる架空の存在。

見間違うはずもない。


北上双葉「まだ喋れる余裕があるんだね。異能持ちとの戦いは慣れてるのに、こういうとこは鈍感なのかな~?」


「・・・こ、これは・。・」


ポケモ〇に夢中で気づけなかった少女。

周りの景色が暗転してから、そこでようやく気付く。



「な、これ私、どうやって立っているなの・。・!?」


底の見えない暗闇で部屋が覆われている。

自分の身体、周りの機械体、北上双葉とモンメンはギリギリ視認できる。

しかしKentは違った。

彼が擬態するのに、これほど適した環境はない。


Kent「どうよ?俺の黒腔も結構やるだろ?・・・お嬢ちゃんに勝ち目はないぜ。」


Kentの姿は、全く視認できない。

彼は気配すらも隠し通し、闇と一体化していた。


「・・・こんな暗闇で、勝った気になるのは早いのだ・。・!」


少女は精一杯の強がりを見せるが、状況は芳しくない。


さっきから敵のペースに嵌ってしまっている。

次から次へと起こる事象に、頭が追いつかない。

・・・圧倒的人数差。


暗闇の中で、二人+機械兵+モンメンを相手取る。

馬鹿でもわかる数の劣勢。

絶望的だがやるしかない。

ふぁっきゅーちゃんが来るまでなんとか持ち堪えて・・・。


Kent「てかほんと、お嬢ちゃんの黒焔は惜しいな。十分に魅力的な性能だ。・・・決めた。双葉。ここで殺すのはもったいねぇ。」


・・・!?



――あ。

やられた。


黒い大穴が、部屋中を埋め尽くすように広がっていた意味。

それを少女は、ようやく理解する。


少女は、唯一の出入り口であった扉を確認する。

悪い意味で、予感は当たっていた。

まさに時間切れだったのだ。


Kent「。もう誰の助けも来ねぇよ、お嬢ちゃん!」


Kentの勝利宣言。

たった今、逃げ場のない暗室が完成していたのだ。


Kentの異能『黒腔ガルガンダ

異次元空間へと繋がる穴を、自由自在に幾つでも設置できる異能。

ただ術者が念じるだけで、穴は設置可能。

故に、止める手段は皆無。

穴の設置条件と大きさに関しては、特に制限はない。

地面、壁、置物、人間、空中と好きな場所に設置できる。

穴の面積を広げていき、部屋の壁、床、天井を埋め尽くすことで、その部屋は世界から隔離され、異次元空間そのものとなる。

もちろん、黒腔の中へ入ることも可能。

黒腔の中に入るためには、術者の許可が必要である。

許可されていない者が入ろうとすると、見えない壁によって自動的に侵入を防ぐ。


黒腔の中の広さと、入れることが出来る容量も、これまた

無数に機械兵を入れようが、人間を多く収容しようが問題ないというわけだ。

入れることができるならば、当然出すことも可能。

まさしく、非常に使い勝手のいい倉庫。

それを、何時如何なる場合でも、開くことが出来る。


さらにこの黒腔、戦闘面としても非常に優れている。

異次元空間と繋がっているので、敵の攻撃を空間内に飛ばす壁としても機能する。

また、全身真っ黒姿によるカモフラージュを生かし、黒腔に紛れての奇襲が可能。


黒腔の発動条件が皆無なこともあって、並の術師ではまず突破不可能だろう。

防御面だけで言えば、トップクラスの異能である。


「・・・・もしかして、私を連れて行く気なの・。・?」


少女は、Kentの異能内容を推察しながら、姿が見えないKentに向かって口を開く。


北上双葉「いいのKentさん?安眠ちゃんからは皆殺しって、そう命令を受けてるのに・・・。」


Kent「いいぜ、俺が勝手にやるだけだ。このお嬢ちゃんの闇属性は興味深い。まだ覚えたてって感じで進化性ありだ。いいになってくれそうだぜ。」


触媒。

ろくでもない想像しか浮かばない単語だ。

ただ分かるのは、このままじっとしていたら奴らに拉致されてしまうということ!

もう誰も助けには来てくれない!

・・・どうする!?

私の想像通りなら、足元の大穴に着地しているだけで詰んでいるのに!?


「さ、させるかなのだあああああぁぁあああ!・。・!」


少女はありったけの黒焔を撒き散らす。

それこそ、部屋中を埋め尽くすほどの大火力で。

一分、二分と、駄目押しに五分。

漂う匂いから、周りの機械兵が溶けていくのがわかる。


「はぁ、はぁ・・・どうだなの・。・!?」


少女の最後の悪あがき。

黒焔は消え失せ、元の暗室が訪れる。


最高火力で、部屋中を灼熱地獄に送り込めたはず・・・。

これが通用しなければ――


「・・・気配がするなの・。・」


姿は暗闇で確認できないが、

すぐに二人の声が聞き取れた。


Kent「この威力、何かエネルギーを使っているな?・・・ナイスだ双葉!」


北上双葉「私じゃなくて、この子に感謝しようよ~。」


北上双葉の声がした方向に、小さな青白い炎が現れる。

その光に映されたモンスターを、少女もはっきりと確認することが出来た。

少女は驚愕の表情を浮かべながら、戦慄の声を上げる。


「キュ・・・キュ〇コン・。・!?・・・な、何なのだお前は・。・!?さっきから、現実に存在しない筈が無いのに―――」


少女の言葉は、突然のに遮られる。

威力は、先程の少女の黒焔、その三倍を余裕で超えていた。


北上双葉「特性もらい火だよ~?この子の前じゃ、火属性の攻撃は吸収出来ちゃうの。」


七本の尾を靡かせながら、優雅な佇まいでそこにいた。


Kent「この前見たのはアローラの方だっけか?こっちもしてたってわけか。何にしろ、防ぐ手間が省けてサンキューだぜ。」


・・・具現化!?

信じられない・・・まさかそんな異能が・・・!?


北上双葉「決着~。思ったより時間かかったね~。早く安眠ちゃんに言われたミッションの続きをやらないと~。」


北上双葉の異能『仮想旅路バーチャルドライブ

二次元のあらゆる万象を具現化する異能。

この二次元とは平面空間のことではなく、アニメやテレビゲームのことを指す。

具現化する際の条件として、それ相応の時間を必要とする。

例えば、機銃や閃光弾といった『物』であるなら、瞬時に具現化可能。

機械兵も、『機械の塊である物』扱いとして、瞬時に具現化可能なのだ。

逆に、キャラクターといった『生き物』を具現化する場合、一体につき360時間もの時間を必要とする。

キャラクターの概要が英雄的・高価値・希少であるほど、さらに必要時間が上乗せされる他、心身に多大な負荷をかけることになる。

一度具現化したキャラクターは、術者が死ぬまで消えることは無い。

具現化したキャラクターと術者は言語関係なく、しっかりとした意思疎通が可能。


つまり、


具現化したキャラクターは、術者である北上双葉に絶対服従であり、

具現化したキャラクターは、


展開できる数は無制限。

物でもキャラクターでも、世界に具現化可能。

一度具現化した二次元存在と、全く同じものを具現化することは不可能。

具現化する際のコストは時間のみなので、一度キャラクターの具現化に成功させてしまえば、簡単に味方を量産できるのだ。

しかも、Kentの黒腔を併用すれば、どれほどの数を具現化しても保存できる。


「私の黒焔が効かない・・・どうすればいいのだ・。・;」


まさしく絶望。

少女は認めるしかなかった。

あまりにも別次元。

U2部隊とはここまで強いのか。


北上双葉の周囲には、綿玉ポケモ〇であるモンメンと、狐ポケモ〇であるキュ〇コンが、主の命令を待ちながら佇んでいる。

これでは迂闊に近づけないどころか―――そもそも。

これまでと同じ人間相手ならまだわかる。

機械兵も、まだ常識の範囲内だ。


だが、

アニメの中の存在なのだ。

アニメが動いて、ここに"いる”のだ。

到底、理解の範疇を超えている。

人間ではない別の何か。

当然、襲い来る疑問も挙げていけばキリがない。


この世界に呼ばれた恐怖心は無いのか、そもそもそういった感情はあるのか、私たち人間と価値観や常識は異なるのか、私たちと同じで息をしているのか、傷をつけたら出血表現のアニメが流れるのか、


現実の背景と、アニメキャラクターとのわずかな違和感は、どうしても消せないのだ。


「・・・怖いなの・。・」


戦意が違和感で喪失していく。

こんなアニメの人気キャラクターたちに勝てるのか・・・?


「・・・・・・!・。・!」


しかしここで、少女の戦闘センスが勘を取り戻す。


諦めかけていた少女の瞳に、一筋の光明が差した。


北上双葉の後方、暗闇で覆われた壁の一部が、何故かのだ。


見間違えでなければ・・・あれは最初の突進の時。

あの時の黒焔が避けられて、その衝撃が壁に当たって?


あそこだけ黒い大穴の影響が少ない?

・・・なんで?


・・・!


――刹那の閃きを、少女は偶発的に導き出していく。


私の黒焔は、どんな原理で顕現しているのか。

それがずっとわからなかった。

だけどっ!

さっき重要なヒントを聞いた!

Kentのあの発言だ――!


「私の黒焔を司るための!・。・!」


思えば最初の暴走も、それがきっかけだった。

いちごとの会話で、フラストレーションが溜まっていたことも。

初撃の威力が、これまでとは桁外れの威力と化したことも。

――この機を逃せば、私に勝ち目はないッ!!


次に取った少女の戦法は、これまでの常識を遥かに覆すものであった。


「私の黒焔———あいつの力を使うのだ!・。・!」


少女は、のだ。

文字通り、黒焔の力をブーストさせるかの如く。

少女は両の拳を前に構えながら、力の奔流を受け止めていく。


床、壁、天井と、黒腔が次々剥がれ落ちる。

Kentと北上双葉も、目の前の光景に驚愕する他ない。


Kent「俺の黒腔・・・お嬢ちゃんの黒焔に吸収されている・・・のか!?おいおいアリか!強化型じゃねぇ、これじゃあの領域だぜぇ!?」


部屋内全ての黒腔が、少女の黒焔に返還される。

――少女の拳に纏っている黒焔は、禍々しさと狂気じみた力に溢れていた。


「やっぱり・・・私の黒焔は、そういうことだったのね・。・」


少女のそれは、確信に変わる。

黒焔の正体を、完全に熟知したからだ。


北上双葉「Kentさん下がって。・・・。」


「・。・!」


扉が脈絡なく吹き飛ぶ。

黒腔の異次元空間が解除された今、侵入を阻む壁はもうないのだ。

つまり誰でも出入り自由なわけで――。


部屋に入ってきたその人物は、少女の無事を確認すると、一筋の涙をこぼす。


ふぁ「・・・よかった。・・・本当によく頑張ったね・・っ・・・。」


「ふぁっきゅーちゃんなのだ!・。・!」


感動の再開だが、それを見逃してくれるほど敵たちも甘くない。

前方からキュ〇コンの火炎放射が襲い掛かる。

少女は真っ向から打ち消さんと、ありったけの黒焔を放出する。


北上双葉「・・・!?」


ありえない規模の威力。

北上双葉は、完全に対策を読み違えた。


――既にその黒焔は、焔ではない別の何かになっていたのだ。

例えるならそう、闇。

全てを滅する闇の暴力。


北上双葉「キュ〇コン!戻って!」


北上双葉が、ボール状の物体をキュ〇コンに向かって投げる。


北上双葉「いやああぁあっ!!」


それと同時に、北上双葉は闇の奔流に飲み込まれてしまう。

悲鳴は徐々に衰えていき、後に残るのは燃え続ける黒焔のみであった。


ふぁ「と、とんでもないわね。それがあなたの黒焔の全力ってわけ?」


「・・・敵の力を吸収したからなのだ・。・それよりもあの黒い奴なの・。・!あいつはワープゲートみたいな異能を持ってて、逃がすと厄介なのだ・。・!」


ふぁ「・・・了解。さっさと仕留めるわよ!」


Kent「・・・はっはー。・・・こいよお嬢さん、遊んでやるぜ。」


Kentは薄ら笑いを浮かべるが、手の震えは誤魔化せていない。

今この瞬間にも、彼は黒腔を発動させてはいるのだ。

だがしかし、それを少女が即座に無効化している。


「私があいつの黒穴を吸収するのだ・。・!だからふぁっきゅーちゃんは――」


ふぁ「把握したわっ!!」


今、少女たちは間違いなく、完全な優勢を獲得していた。


Kent「おっと。・・・へへっ。あのお嬢ちゃんの拳に比べりゃ可愛いもんだな!」


ふぁっきゅーれいかとKentの肉弾戦が始まる。

一見地味な駆け引きだが、その差はすぐに訪れた。


ふぁっきゅーれいかの動きに、が浸透する。

否、遅くなっているのはKentの方———?


ふぁっきゅーれいかの周囲の時間が、



ふぁ「————目押し時間ジャッジタイム


ふぁっきゅーれいかが編み出した二つの技のうち、一つ目の技が発動する。

Kentの身体に、ゆがみが発生し始めた。


Kent「ちぃぃっ!!」


に抗おうとするも無駄である。

一度嵌ってしまえば、超絶無比の大技。


ふぁ「・・・これやるとかなり消耗するから、ここぞという時にしか出せないのよねっ!」


追加の回し蹴りを、Kentの顎部に命中させるふぁっきゅーれいか。


・・・生物である以上、絶対に無視できない時間の法則。

つまり、この現象の正体とは――



Kentは迫りくる猛攻をガードしようとするが、身体が思い通りに動かせない。

当たり前だ、時が巻き戻っているのだから。

さらに、一旦発動したこの目押し時間ジャッジタイムにおいては、


過去に遡っているわけだから、負傷は片っ端から無かったことにされていき、同様の理由で疲れも知らない。


それに比べ、Kentの時間逆行は微々たるもの。

負傷治癒の恩恵は得られるほどではない。

攻守のタイミングを僅かにズラせればそれでいいのだ。


ふぁっきゅーれいかは、Kentより一歩先んじて過去へと進む。


その様を、客観的に見た印象は、


時を超越しているが故に、その攻撃は回避不可能。

有効な対策があるとしたら、同じく時を超越するしか手段はない。


Kent「・・・くそがぁああぁっ!!」


もちろん、Kentにはそんなこと、出来る筈もない。

出来るとしたらキリトぐらいだろうか。

Kentはそのまま、成す術なく打撃を受け続け、死の淵へと追い詰められていく。


「これが・・・ふぁっきゅーちゃんの本気・。・!」


黒腔の発生を警戒しながら、いつかの共闘を思い出す少女。

もしかしたらあの蹴りも、何かしらの時間逆行が行われていたのかもしれない。


「・・・溜まったのだ・。・!ふぁっきゅーちゃん・。・!またあの一発を打てるなの・。・!」


拳に宿る闇を確かめながら、少女は両拳を前に突き出す。


ふぁ「いいわよ!打ちなさいっ!」


すぐさま距離を取るふぁっきゅーれいか。


Kent「・・・お嬢ちゃん、そいつはちょっと、食らいたくねぇなぁ・・・!」


Kentが委縮するのも無理はない。

少女に纏わりつく闇のエネルギーは、最早今までとレベルが違う。

目視で確認できるほどの力の奔流が、周囲に次元屈折を引き起こしていた。


少女の異能『虚滅焔バニッシュメントオーバーフレイム

世界に滞在する、あらゆる負のエネルギーを操ることが出来る異能。

負のエネルギーの定義は、物理的な概念、感情エネルギーなども含む。

感情エネルギーとは主に、怒り、悲しみ、狂気、殺意といったもの。

敵の攻撃に、僅かでも殺意が含まれていたなら、その攻撃をすることが可能。

その他にも、暗闇や嫌な思い出といった、でも吸収可能だ。

さらに付け加えると、黒に類する万象は徹底して排斥するのである。


その吸収したエネルギーの活用方法として、

1、身体能力に変換

2、エネルギーを攻撃手段として放出

3、身体損傷の完全治癒

4、エネルギーを、他の者に分け与える

といった応用技が可能


1と2に関しては、まさしく黒焔のことである。

つまり、黒焔はエネルギーを身体能力に変換していた故の現象だったのだ。


癒し及び能力上昇効果はもちろんのこと、Kentの黒腔を封じ、同時に少女の力を一挙に増す両得。

もはやKentなど、少女の敵ではなかった。


「いっけぇぇぇええええぇええなのおおおおおぉぉぉ!・。・!」


まさしくその熱量は過去最大。

Kentめがけて命中するかに思われたが―――


パン!

パン!


ふぁ「銃声?!」


何者かの攻撃によって、最高火力の黒焔を弾き消されたのだ。


例えるならそう、黒焔自体を


北上双葉「———テリアサーガ・キキ・ウォーターガン。」


を構えている北上双葉。

水色の弾丸を拡散させていき、部屋中の黒焔は、たちまち浄化されていく。


「あっ・。・!」


ふぁ「あのアニメの子、まだ生きてたの!?」


北上双葉が立ち塞がる。

その姿に傷跡は確認できない。

それよりも注目するべきなのは、やはりあの二丁拳銃だろう。

おそらく何処かのフィクションから具現化したのだ。

少女の黒焔に対抗する術として。


Kent「・・・部屋外の黒腔は吸収出来なかったようだなぁ。お前らは北上双葉の動きに気づくことが出来なかった・・・へへっ。」


北上双葉「引きましょうKentさん。あの二人、あなたと相性最悪だし。大丈夫、から~。」


Kent「・・・同感だ。さすがに俺が死んだらやばい。」


どうやら、Kentはふぁっきゅーれいかと戦いながら、別の場所に黒腔を発生させ、北上双葉もそこで

部屋外で用件を済ませた北上双葉は、そのまま黒腔で帰還。

燃え広がる黒焔の影に隠れながら、反撃の機会を伺っていたのだ。


つまり北上双葉は、黒焔に飲み込まれたフリをして、別の部屋でなるものを熟していたのだ。


ふぁ「・・・あら。まさかここまでして逃げる気??私たちの最速のコンビネーション、試してみる気はない?」


北上双葉「遠慮しとくよ~。そもそも私たちは戦いに来たわけじゃないしねぇ。」


「Kentが出す黒い穴は、私がすべて吸収するなの・。・!あとはあなた一人を止めれば終わりなのだ!・。・!」


ふぁ「あのアニメ女子の異能は!?」


「アニメの世界に登場するものを具現———」


少女が口を開こうとしたその時!


Kent「♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬♬!!!!!!」


北上双葉「♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪!!!!!!」


大音量の――――


ふぁ「———っ―――――――!—————ゃ――――――」


「——————い―――――ぁ―――――!!—————」


音の攻撃は、準備もせずに防げるものではない。

少女とふぁっきゅーれいかは、脳が揺れる経験を初めて味わう。


Kentと北上双葉は、現実世界で声に自信を持っていた。

二人の声量は、そこらの一般人とは訳が違う。

その条件が可能にした・・・一度限りの撹乱技!


ふぁ「———っ!!・・・二人は!?」


「・・・あああっ・。;逃げられてしまったのだ!・。;!」


たった数秒のロス。

・・・Kentと北上双葉は姿を消していた。


ふぁ「あの黒い奴はワープゲートを作るのよね?だとしたら・・・。」


「え・。・?」


ふぁ「気を引き締めなさいっ!まだ終わっていないわ。むしろここで逃がしたのはかなりマズイっ!・・・急いでキリト達と合流するわよ!」


「・。・!了解なのだ・。・!」


北上双葉の『戦いに来たわけではない』、『ミッションは終わった』発言。

だとしたら次に向かう場所は?

・・・合流か脱出以外に考えられない。


つまり、キリトと4410が危ない————!







宮殿一階、大広間。


キリト「はぁ・・・はぁ・・・4410・・・まだいけるか?」


4410「無論です。メインセンサーは破壊されましたが、。」


キリト「はぁ・・・ありえねぇ・・・。二人掛かりで、ここまでやるのか・・・。ふざけすぎだぜ、安眠ッ!!」


もう一方の戦いは、既に終局を迎えようとしていた。

キリトと4410はまさに満身創痍。


安眠「んふふふっふふふっふふっ!やっぱりキリト君って強いよ!ここまで拮抗することなんて初めてだもん!ふふふふっ!」


キリト「拮抗だぁ!?マジでふざけんじゃねぇよ安眠っ!・・・お前は銃撃スタイルの戦法を得意としていた筈だっ!ッ!!」


安眠ちゃんの両手には、キリトの二刀とはまるで違う、別次元のオーラを纏った、此の世の物ではない剣を携えていた。


安眠「キリト君に合わせて私も二刀流にしてみたんだ~!!ふふっ!気に入ってくれたかな!」


キリト「・・・俺が言いたいのは、どうしてお前が剣の扱いに慣れているかだ。さっきの剣戟、の腕・・・明らかに謎なんだよ。」


4410「あの剣も全く正体が分かりませんね。先程から構成元素を分析しているのですが・・・何一つヒットしません。」


安眠「知りたい?知りたいぃぃいいぃ?・・・あ、ちょうど来たみたいだし、教えちゃおーかなぁ!!」


安眠ちゃんの左右に、突如として黒い大穴が出現する。


キリト「今度はなんだ!?」


その黒い大穴から、二人の人影。

Kentと北上双葉である。


4410「・・・新手!?」


北上双葉「安眠ちゃん~。こっちは終わらしてきたよ。」


Kent「詳しい話はあとだ。俺の黒腔を消す異能使いがいる。そいつに追いつかれる前に、急いで脱出するぜ。」


安眠「そうなんだ~二人とも潜入ご苦労さん!さて、そろそろ終わりの時間ってことかな!私も十二分に楽しめたし!・・・あっそうだ!Kent君に双葉ちゃん!物は試しなんだけど―――」


安眠がKentと北上双葉に耳打ちしている。


キリト「4410、聞き取れそうか?」


4410「・・・・・キリトさん、後ろっ!!!」


キリトの背後に、Kentが出現させた黒腔、その中から細長い機械の腕が――!


北上双葉「ほいキャッチ~!」


キリトの二刀が、北上双葉の手によって奪われてしまったのだ。

あの二刀が無ければ、キリトは異能が使えない・・・即ち――


キリト「————っつ!!」


彼はごくごく普通の一般人へと成り下がる。


4410「キリトさんの二刀を・・・返せっ!」


4410の全段射撃が、容赦なく展開されるが・・・。


Kent「黒腔ァ!!」


成す術なく、異次元空間の壁に阻まれる。


キリト「・・・そうか、そういうことか。あの時、最初に戦った時も、使!!」


最初の戦闘とは言うまでもない。


・・・ローブから様々な兵器を取り出せていた謎が、ようやく判明する。


Kent「!俺らは黒腔の中にいたから、顔合わせはこれが初めてだなキリト。・・・その説はどうもな!」


北上双葉「私たちは三位一体だからね~。」


安眠「それじゃ、最後の答え合わせだね!」


安眠ちゃんの手に、キリトの二刀が手渡される。

それを楽しそうに振り上げる安眠ちゃん。


キリト「・・・無駄だぜ。俺以外がそいつを持っても、ソードスキルは発動しない。既に検証済みだ。」


安眠「・・・んふふふっふふっ!!!んだなぁそれが!」


瞬間、それは碧く輝いた。

それはまさしく、スターバーストストリームの輝きと同じ!


キリト「・・・嘘・・・だろ!?・・・わ、わけがわからねぇ・・・!」


安眠「分からないならもういいよ!だからね!」


安眠ちゃんは、二刀を構えて屈みこむ。

それはまさしく・・・あの技の構え。


Kent「はっはー!なるほどこりゃあいいっ!安眠!脱出の準備は出来てるぜ!」


Kentは黒腔を、すぐ後ろに展開させる。


4410「・・・スターバーストストリームを解き放った衝撃で、自分たちは

ここからトンずらするというわけですか!」


安眠「あなたの異能、ソードスキルの媒体・・・私が大切に使わせてもらうから、キリト君はここでおねんねしましょうねぇぇえええぇえっ!!!!」


間に合わない。

それはキリトが一番よく分かっていた。

スターバーストストリームは文字通り、完全なる滅却の技だ!

防御など不可能!!

無理だ!!


キリトは目を閉じる。

隠れ家に住む全ての人たちに、謝罪の念を込めながら・・・。


そもそも安眠ちゃんを、隠れ家に連れてくることになった一番の原因はキリトなのだ。

初戦の終わり際、安眠ちゃんの死体確認を怠ったこと。

キリトの黒マントに取り付けられた発信機の見逃し。

無論、後者はキリト自身も気付いていなかった。

運命とは理不尽なものである。

たったこれだけで、隠れ家全ての人類が、危機に陥っているのだから・・・!


キリト「・・・すまねぇ・・・みんな・・・っ!!」











フリー「————らしくねぇなキリトぉ!!!!」



フリーれいか―――参戦。

空中から颯爽と登場した、この隠れ家のリーダー!


安眠「・・・!?」


安眠ちゃんが、二刀を持ち上げながら固まっている。

あとはその二刀に溜まった力の奔流を、解き放つだけでいいというのに。

何故か動きを止めているのだ。


Kent「なんだぁ?また随分強そうな奴が出てきやがった。へっ、目つきの悪い不良みたいだな。・・・!?」


Kentの動きも驚愕によって止まる。

出したいはずの物が・・・出せないのだ。


その間にも・・・宮殿入り口から、複数の影が登場する!


スカイれいか「暴風壁!!」


安眠ちゃん、Kent、北上双葉を取り囲むように、竜巻が発生する。

一切の隙間なく、完璧な退路封じ。


北上双葉「機械兵の動きが・・・まさかあれって、の持ち主・・・!?」


これまで余裕を保ってきた、北上双葉すらも焦っている。


ひまれいか「ご名答だよ。君たちはもう、何をすることも許されない。」


ぶかぶかの帽子を片手で支えながら、勝ち確ポーズを決めていくひまれいか。

まっすぐ腕を伸ばし、北上双葉に向かって指をさしている。


北上双葉「・・・離れの基地とはいえ、とんだジョーカーだね。腐っても基地を名乗るだけはあるかな~。」


ひまれいか「・・・・・。」









―――『思考盗撮』の条件達成。


ひまれいかは内心ほくそ笑んでいた。

これより北上双葉の動向と心象———全てがひまれいかに筒抜けとなる。


フリー「どうやらマジで危機一髪みたいだったなぁ。・・・お前らが侵入者か。分かっているとは思うが、ここは俺の国だ。礼儀は弁えてもらおうか・・・?」


フリーれいかの瞳が、さらに眩しく・・・赫く輝く。

異能封じの異能、赫の瞳!


安眠「Kent、黒腔は?」


Kent「無理だ。たぶんあいつの視界に入ったら、異能そのものが封じられるっ!」


北上双葉「周りには竜巻・・・ただの竜巻じゃないねこれ。触れたら一瞬でバラバラにされそうかも。唯一の逃げ場は地中だけど・・・誘ってるよね~。」


ゆうれいか「・・・それはどうかな~。」


北上双葉の想像通り、地中にも罠が展開されていた。

隠れ家の創造主である、ゆうれいかだからこその罠である。


キリト「お前ら・・・王の間から脱出したのか。」


フリー「崩れた天井からな。スカイれいかの飛行能力で外へ脱出し、宮殿入り口からご登場ってわけだ。・・・外にもありえねぇ数の機械兵が放たれていたが、ふじれいかと他のれいかに任せてきた。じきに鎮圧できるだろうぜ。」


ふぁ「みんなっ・・・無事ね!?」


「追いついたのだ!・。・!」


二階から、少女とふぁっきゅーれいかも合流する。


Kent「あいつらも来ちまったかっ!・・・どうするよ!?」


囲まれるU2部隊の三人。


フリー「運が悪かったんだよお前らは・・・。この俺の存在を・・・この隠れ家の戦力を見誤ったお前らの・・・自業自得だ・・・!」


反撃しようにも、異能が封じられては反撃しようもない。

フリーれいかがここに到着した時点で、詰んでいたのだ。


場はまさに――


キリト「チェックメイトってところだな・・・。」


安眠「・・・っつ!!・・・んふふっ・・・っ・・・キリトぉぉぉおおおッ!!」


終わりを迎えようとしていた。


「フリーれいかさん・・・流石なのだ・。・!」


ふぁ「どうやら片がついたようね。・・・この人たち、敵対勢力の幹部組員、U2部隊と名乗ってたみたいだけど・・・。」


階段付近で、ほっと息を撫でおろす少女とふぁっきゅーれいか。


キリト「フリーれいか、先に俺の二刀を取り返してもらいたい。あれが無いと、俺は一般人のキリトのままだ。」


フリー「わかってるさ。そもそも貴重な情報源を殺すと思うか?・・・まあ、こいつらにはきっちりと、隠れ家を滅茶苦茶にした落とし前、つけてもらうがな!」






4410「————!!?まさかそんな・・・不可能だッ!!!!」






いきなり声を荒げる4410


安眠「こ、この気配って・・・ふ、ふふっ!・・・ちっとも笑えないッ!」


声を荒げているのは4410だけではなかった。

安眠ちゃんも、何かに驚愕しているようで、様子がおかしい。


北上双葉「安眠ちゃん?ど、どうしたの?こんなに震えて・・・。」


フリー「なんだ4410?・・・待て、?」


場が緊張に包まれる。

全てが終着するというのに、ここにきて何が?

4410と安眠ちゃんの落ち着きのなさは、ただ事ではないことを示していた。


4410「外にいた田中みこさんと、リオれいかさん・・・ふじれいかさんに他のれいかさん達の反応が・・・確認できない・・・!」


ふぁ「・・・・・?」


キリト「・・・皆目見当がつかないぜ。」


ひまれいか(このアニメ調女子も、何が何やらと混乱中か。嫌な予感がするな。)


フリー「ふぁっきゅーれいか、少し外の様子を―――」




途端・・・それは来た。





謎の男「  演  舞  開  園えんぶかいえん  」



隠れ家入り口・・・外の明かりを遮るように、一人の長身が立っていた。


キリト「!?」


スカイれいか「誰?」


フリー「・・・なんだお前?どうやって隠れ家にやって来た?」


謎の男「そんな質問に意味があるとは思えないのですが。僕はしっかりと、地上の隠し扉から侵入して、この宮殿まで歩いてきただけですよ。」


ふぁ「・・・何言ってるの?あそこには田中みことリオれいかが・・・。」


ひまれいか「・・・・・にわかには信じがたいな。」


フリー「・・・・・4410、答えろ。外のやつらはどうなったんだ!?」


4410「・・・・・・・・・っ・・・。」


その沈黙が、答えだった。


キリト「・・・おいおい。冗談キツいぜ4410・・・。」


この突然現れた男が?

田中みこもいたんだぞ?


それがこんな、古めかしい服、安っぽい靴、ダサい眼鏡と、服の系統が統一されていないキモオタ同然のこの男が!?


違う。

違う!

違う違う、そこじゃないッ!


そんな些細なことに注目するなど、まるで無意味ッ!


・・・この男ならやりかねない。


いきなりこの場に現れても不思議じゃない!



この男は、

若そうな容姿なのだが、何故か年齢を感じさせる男の威厳がそこにいた。

視線を逸らしてしまいたくなる、不気味の化身がそこにいた。


隙の無い気配・・・それは凍結した鋼のよう。

顔立ちは全く整っておらず、非人間的なほど温かみというものを感じない。

酷薄で、冷厳で、威圧的な容姿ながら幽鬼のよう。

不確かな存在感を滲ませている。

ここにいて、ここにいないような。

固体のようで、気体のような。


―――これがこの男の特徴なのだ。




奇怪なアンバランスさを秘めた偉丈夫。

ただそこにいるだけで、周りの世界へ破滅を促す不協和音に満ちている。

まるで壊れたまま完成した存在だから、見る者に自分もそうあることが自然なのだと勘違いさせるような―――。





安眠「・・・No.3・・・!!・・・どうしてあんたがここにっ・・・!?」


安眠ちゃんの発言によって、茫然としていた皆の意識が覚醒する。

この突然現れた男は、U2部隊・・・そのNo.3!?


謎の男「それは分かっているでしょうNo.5。こうして僕が様子を見に来てみれば、とんだ恥さらしですね。無断でこの基地を襲撃し、挙句に失敗・・・?」


安眠「・・・っ!!まさか私たちを―――」


フリー「ゆうれいかぁ!!!奥の手だ!隠れ家の包囲網を展開させろぉお!!」


フリーれいかが、突然叫びだす。

釣られてゆうれいかも、地面に両手を密着させる。


ゆうれいか「・・・あれ~。」


だが・・・しばらく時間が経っても、何も起こりだす気配がない。


フリー「・・・何故だ!?ゆうれいか!」


ゆうれいか「・・・反応してくれない~。何かの力に邪魔されてるのかな~。」


謎の男「無駄ですよ。。」


No.3と呼ばれた男が、フリーれいか達に向けてゆっくりと歩きだす。

たったそれだけの動作だというのに、見る者全ての精神を蝕んでいく。


ひまれいか(おかしい・・・。あいつの思考を読み取れる気がしない。)


キリト「・・・フリーれいか。今すぐ位置を調整しろ。あの男と安眠達を一斉に見渡せる場所に移動して、赫の瞳を維持するんだ。スカイれいかも・・・その竜巻を維持しておけ。万が一、こいつらが逃げ出せば、事態の悪化にもなりかねん。」


スカイれいか「・・・わかった!」


フリー「・・・ああ、そうだな。すまねぇ、何故かボンヤリしちまった。」


いつものフリーれいかには・・・らしくないミス。

普通ならば即座に決行するであろう戦法を、このタイミングで実行する。


あの男の姿を見れば見るほど・・・。

まるで、思考能力そのものが欠け落ちるような・・・。


安眠「・・・キリト君、一旦休戦よ。」


突然の言葉。

キリトは驚く他なかった。


キリト「新しいタイプの命乞いだな。フリーれいかの赫の瞳があれば――」


安眠「だからっ!!!」


キリト「・・・!?」


もう見間違いようがない。

キリトもようやく気付く。


安眠ちゃんの周りに、


謎の男「何をそんなに・・・怯えているんです?」


歩を緩めることなく、前へ前へ進む男。


「あ、あの男は何なのだ・。・」


これほどの数の優勢。

否、こちらが優勢なはず・・・。

優勢なはずで・・・何も心配する必要が無いのに・・・。

フリーれいか、キリト、4410、スカイれいか、ふぁっきゅーれいか、そして私。

このメンツが揃って・・・優勢な筈なのに!!


・・・どうして身体はこんなに震えているの!?


ふぁ「・・・私の傍にいなさい。黒焔も出さないで。しばらく様子を見るわよ。」


ふぁっきゅーれいかが、少女の身体を優しく支える。


安眠「っ・・・ぐ・・・ぎゃあああぁああぁあああっぁああああっ!!?!!!」


安眠ちゃんの周りに顕在していたエフェクトが、禍々しく回りだす。

尋常ではない安眠ちゃんの咆哮に、その場の誰もが言葉を失う。


キリト「なんだよこれ・・・!おいお前ら!?これは何だ、何が起きてる!?」


Kentと北上双葉に言葉を投げかけるキリトだったが・・・。


北上双葉「まぁ、上に内密でやってたわけだしね。私もここまでかな・・・。」


Kent「や、やっぱり失敗だったな。、完全に裏目ったんじゃねぇかぁ!?・・・お終いだぜ俺ら・・・!」


二人も、安眠ちゃんと同じ怯えよう。

話にならない。


ひまれいか(くそっ!この双葉の思考、恐怖で埋め尽くされて・・・これでは思考盗撮の意味が・・・!)


安眠「ぐ・・・う・・・ぁ、ぁぁあああぁぁああああああっ!!!」


痛みを絶叫で紛らわせ、立ち上がる安眠ちゃん。


謎の男「!」


男の足が止まる。

長い顎を親指と人差し指で支え、目の前の健闘を称賛するかのように口を開く。


謎の男「流石、No.5といったところですね。使使。」


キリト「・・・数々の男を使いこなす・・・?」


現実世界での記憶を思い出しながら、キリトはに辿りつく。


キリト「使いこなす・・・安眠、お前の異能は―――」


ガシャン。


キリトの目の前に、二刀が転がってくる。

それは間違いなく・・・。


キリト「俺の・・・安眠、なんでっ!?」


安眠ちゃんが竜巻に向かって、二刀を放り投げたのだ。

それを見たスカイれいかは、上手く風を操り、二刀をキリトの元に運んでいた。


スカイれいか「どういうことなの?・・・あなた、何のつもりで?」


安眠「・・・剣は返すわ。ふふっ。じゃないと私たち、ここで仲良く死んじゃうからね。」


二刀を放り投げた意味。

その意思表示は紛れもない・・・共闘の提案。


キリト「お前・・・まさか本気で俺と共闘を・・・!?」


二刀を掴み取るキリト。

持ち主に呼応して、碧く輝きだす二刀。

異能の力を取り戻す―――即ち、速さを超越する術を取り戻したのだ。


安眠「私は・・・私が生き残る確率を上げただけよ。もちろん今でも、私は・。・が憎い・・・。ふふっ・・・私はね、。あいつが現れたのは完全に予想外、・・・この状況を生き残る為なら、私はなんでもする・・・それだけのことよ・・・!」


禍々しいエフェクトに纏わりつかれながらも、決死の力を振り絞って立ち上がる安眠ちゃん。


フリー「・・・くそっ。何だってんだ・・・!」


4410「あの男、また歩きはじめましたよ!」


謎の男「動けるとは本当に大したものですね、No.5安眠。少しあなたを過小評価していましたよ。No.5の称号を持つだけはある。」


そう言いながら、ゆらりと、腕を上げていく。


安眠「・・・んふふっ!本当に笑えないわよ・・・No.3!!」


ふぁ「っ!みんな、引き締めて!来るわッ!」


この数刻後・・・。


Kent「お・・・終わりだっ!!演舞が・・・始まるぞッ!!!」


場は更なる混乱を迎えることになる。






―――U2部隊 No.3『日常演舞』の手によって。






『宮殿一階』フリーれいか、キリト、スカイれいか、4410、ひまれいか、ゆうれいか、ふぁっきゅーれいか、少女、安眠ちゃん、Kent、日常演舞


『宮殿二階』いちご、姫れいか


『外』・・・消息不明(田中みこ、ふじれいか、リオれいか、他れいか多数)



つづく。



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