第10話 世界への無関心

さてと、今日は〇〇15の寝ない枠だ。

気合い入れてエナドリ二本買ってきたぞ。

よし!クリアまで寝ずに行けた!

いいゲームだったかは置いといて、リスナーも楽しんでくれたし、生放送最高w


最近あいつ頑張ってるよな。

以前は不定期クルーズばっかだったのに。


またあいつ寝ない枠取ったぞ!

今度も期待できそうな新作ゲームだってさ!

俺も寝ずに並走するぞ!


ふぅ。

たまにはリスナーと対戦するのも楽しいな。

この未来って傘使い。

使ってて楽しww

リスナーもたいしたことないなww


あれ?

コミュニティ消えてる・・・。


森が通報したのか?

ダンガ〇〇ンパを放送しただけで消された!?

そんな・・・。

今まで築き上げてきた一万人のコミュが・・・。

本家になんて言い訳すれば・・・。


あいつBANされて、コミュ消えたっぽいよ。

マジで?

草なんだけどww


まだだ。

すぐに新しいコミュを作ったぞ。

一万人なんてすぐ集まるさ・・・。


なぁ、あいつ新しく作ったコミュもBANされたらしいよ。

はっやwwwww

なんでBANされたか知ってる?w

知らない、てかもうぶっちゃけどうでもよくない?

れいかも終わりだな・・・。


これで三つ目のコミュ作成だ!

俺を舐めるなよ!

終わってたまるか!

これからは、れいかの名を捨てて改名だ!

一から城を築き上げてやる!


あいつ寝ない枠取ったってさ。

へぇ〜。

とりま枠だけ開いとこ。


おいあいつ、〇〇国の二作目寝ない枠逃げたぞ!

クリアせずに途中で投げ出しやがった!

あいつ鬱なんじゃねぇの?

今までこんな事無かったじゃん。

言えてるwww

寝ない枠から逃走中て拡散したったw


最近あいつ、女児アニメミラー枠しか取ってないよな。

仕方ないよ。

うつ病だもん。

うつ病だよね。

女児アニメが、抗うつ剤の替わりなんだよ。


なぁ、あいつもうやばいんじゃね?

訳わからないYouTuberの動画を、放送で延々と流すのはもう末期だろ。

鬱が治ってないのかな。

かもな。

噂では、日常生活でアメーンを連呼してるって。

そういや、唐突に南無阿弥陀仏動画をうpしてたな。

なちゅMADも何だったんだあれ?

映画ミラーとかもしてたよね。

あいつおかしいよ。

自分のしてること分かってないんだよ。

鬱ってネタじゃなかったんだ。

本家のコミュを潰してしまった罪悪感で押し潰されちゃった?

かわいそう・・・。


俺らがさ、手伝ってやろうぜ?

一緒にさ、あいつの中にいる鬱を払ってやるんだよ!

いいねそれ!

俺、いいコピペ作ったはw


鬱の霊よ!出て行け!


wwwww


鬱の霊よ!出て行け!

鬱の霊よ!出て行け!

鬱の霊よ!出て行け!


鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊鬱の霊よ!出て行け!よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!鬱の霊よ!出て行け!


ああぁああああああぁああっ!!!!

なんだこいつら!?

俺が鬱??

鬱な訳ねぇだろうが!?

どいつもこいつも面白がって・・・!

放送の雰囲気をぶち壊すのがそんなに楽しいのか!

だいたい、動画ミラー放送して何が悪いんだ!?

俺はこれでも頑張ってんだぞ!?

お前らがうつ病うつ病言うから・・・!

このままだと本当に・・・。


・・・。


俺は・・・うつ病なのか?

新コミュも三千人しか伸びないし・・・。

プレ垢一つ永banくらってるし・・・。

最近取ったアニメミラー枠も、コメントが50いかないし・・・。

過疎・・・俺が?

れいかの後を継いだ俺が?

嘘だ・・・嘘だ・・・。

何かの冗談に決まってる・・・。

これ・・・これが・・・。

今の俺は・・・鬱??

違う!

違う違う違う!




(*´ω`*)

・・・この顔文字、なんだか落ち着くな。


(*´ω`*)

(*´ω`*)


はは・・・。

おもしろ・・・。




おいあいつの枠見たか?

もう、れいかの面影は微塵もねぇ。

顔文字も・。・から(*´ω`*)を使い出したってよ!

会話も成り立たねぇらしい。

事あるごとに(*´ω`*)を使ってて、何を言いたいのか意味不明なんだ。

何それ?

あいつ遂に壊れたか?

まだうつ病治ってないのかよ。

鬱の霊よ!出て行け!


お前らリスナーのコメントなんて知るかよ・・・。

大して役に立たない一般風情が。

俺はこの顔文字打ってるだけで幸せなんだよ。

(*´ω`*)

お前らがどうなろうが・・・。

何て言われようと・・・もうどうだっていい・・・。

世界がどうなろうが・・・知ったこっちゃない。

(*´ω`*)

(*´ω`*)

(*´ω`*)

これが今の俺なんだ。

俺だけでいい。

この世界は俺だけの世界だ・・・。

俺以外の世界はどうでもいい・・・。

無意味無意味。

無関心。


最後に残ったのは・・・。


(*´ω`*)

はは・・・おもしれ・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・。




人は就寝中に、脳で記憶の整理を行い、その一部を夢として見るという説がある。

忘れていた過去の記憶を夢で見る。

あり得ることかもしれないが、私の記憶はどちらかというと、追体験といえるほど生々しいほどだった。


「くだらないなの・。・」


壁も天井もない不確かな世界。

その深淵の隅に、一際目立つ光が言葉を発する。


少女はずっと見ていた。

否、体験したとも言っていい。

少女は冷静に、不安がらずに、愚かな歴史を見届けていたのだ。


「・・・本当にくだらないなの・。・この程度の闇に、私は飲み込まれたなの・。・?もっと深い話を期待していただけにがっかりなのだ・。・」


この闇は『過去』か『未来』か、それとも『別次元』で起こった話なのか?

詳しい経緯はわからない。


ただ、これだけはわかる。


私が私である起源。

なぜわかるのかと言われると・・・わかるからとしかいいようがない。


「私の過去に何があったのか、未だに全ては思い出せないなの・。・だけど、これだけは言えるのだ・。・」


この心の闇は一部分。

周りの光景がそれを物語っている。


ということは、そういうことなのだろうか。

他にもまだ、私が忘れてしまった歴史が眠っている・・・?

まあそれは後で考えるとして。


今でも感じる。

外の私が・・・闇に飲まれていることを。

ふぁっきゅーちゃんと田中みこさんが、暴れている私と戦っていることを。


この闇が、元凶だということは想像がつく。

少女は、目の前の闇に向かって大声を張り上げる。


「確かに私は、愚かだったかもしれないなの・。・けど、客観的に見て分かったのだ・。・!なんでこんなことで・・・私は落ち込んでいたんだと・・・傍から見たらマジでくだらないのだ・。・!結局悪いのは私・。・現実を受け止めようとせず、逃げてただけの私・。・!だけど私は、それを他の何かの所為にして、自分は悪くないと思い込んで・・・かと思えば、周囲に喧嘩を売ってそれをまた他の何かの所為にする・・・二つ目のコミュ爆破は完全にそうだったなの・。・!自分を正当化して、無意味に争いの火種を作って、どんどん同じ失敗を繰り返す・。・!要は、だったなの・。・!最初のコミュ爆破で落ち込んだのは分かる・・・だけどそこで――」


??「やぁ。」


突然、聞き覚えのない声がした。

少女が振り返ると、そこには一人の青年がいた。


??「自らの闇を説得でもしようとしているのかな?必死に叫んでいるようだけど、その程度ではビクともしないだろうね。いや、あまりにも微笑ましくてさ。する必要が無いというのにね。何故なら、。」


年は二十歳に近いだろうか。

だがその青年の顔は、全くと言っていいほど見覚えが無い。


??「お久し振り・・・でもないのかな。私は人間の時間の感覚がよく分からなくてね。」


「は・。・?」


??「私のことは覚えているかい?いや、今思い出したのだろうね。」


「・。・??思い出したも何も・・・初対面なのだ・。・;」


??「ああそうか。君はなんだね。やはり人間の時間の概念は難しい。一方的に流れるだけではあるのだけど、感覚が掴みにくいよ。」


内容が一つも理解できない。

彼が一方的に話すばかりで、考えがまとまらない。


??「君が君の大事な記憶を忘れてしまっているように、この夢の中での出来事も、忘れてしまうという必然性があるからね。」


「ちょ、ちょっと待つなの・。・!聞きたいことは二つ、この闇は沈静化した・。・?ならこの世界から覚めるにはどうすればいいのだ・。・!それにあなたは・・・誰なのだ・。・!」


??「だね。でなければ今頃、君は完全に闇と一体化していただろうから。」


なんてこった。

色々と難解すぎてついていけない。


「それは・・・どういうことなの・。・?」


??「君はまだ、。」


その言葉が終わると同時に、少女の足元に光が集ってくる。


??「いずれにせよ、今の君では駄目なんだ。ところで、外では君のお友達が頑張って戦っている。君を取り戻すためにね。闇は解き放たれてしまったが、彼の絶対反射があればどうということはない。しかし君にとってはこれからだ。闇を鎮めなければいけないからね。全ては君次第だ。」


少女は流れを察する。

訳の分からぬまま、自分はこの夢から覚めてしまうのだと。

聞きたいことは無数にあった。

私は誰なのか?

この青年は誰なのか?

体験した私の過去の歴史、眠っている他の歴史。

そもそも闇とは何なのか。


??「ああそうだ。意味は無いだろうけど、これだけは聞いておかなくては。」


思い出したかのように、青年は口を開く。


??「?」


ふいに、青年は一つの問いを投げかける。

今度こそ、少女は困惑する。

会話の流れが一ミリも理解できない。


??「さてと、これで本当に最後だ。次に私と出会う時には、一つの残酷な真実を知ることになってるだろうね。二つ目の分岐点。君にとっても辛い事件となる。乗り越えてくれることを願っているよ。烈風のようにね。止まらない歯車になるんだろう?」


少女は白い光に飲み込まれる。






瞬間、ここに時系列は無視される。

出会いが何時で、今が何処で、順序がどうかは関係ない。


空には亀裂、周りは崩壊。


■■「ねぇ・・・、どうして俺たちはJDじゃないんだろうね・・・。」


いつか見た夢の光景。

いつか夢見た未来の光景。

いつか信じていた過去の私。


ああそうだ。

私は・・・いや、私たちは。


「俺・・・悔しいよ。」




!!










少女は跳ね起きる。


隠れ家、宮殿内王の間、臨時闘技場。


「・。・!?ごほっ、がはっ・。・」


咳き込む少女。

離れた場所に、田中みこを治療するふぁっきゅーれいか。

そして目の前には、咳き込みながら驚いた表情のフリーれいかがいた。


フリー「・・・お前な。コントロール出来るじゃねぇか。何事もなく立ち上がりやがって。気分はどうだおい。」


少女も気づく。

自分を中心に、黒い焔が燃え広がっている。

この焔はよくないものだ。

状況がわからなくても、それだけははっきりと理解できる。

何故なら私が――。


「助けなきゃなの・。・」


フリー「おい待て、覚えていないのか?」


・・・・。

夢を見たような気がするけど、今はそれどころではない。


ふぁ「!!、気がついたのね!!」


田中みこの治療を終えたふぁっきゅーれいかが、少女の起床に気づく。

そのままの勢いで、少女に抱き着こうとした。


「ふぁっきゅーちゃん・。・!無事だったなの・。・!・・・ちょ、ちょっと待つのだ・。・!」


少女は焦る。

身体に纏っているこの黒焔の正体が、まだよくわからないからだ。

ひょっとしたら、彼女に危害を与えるかもしれない。

だが、次の瞬間。

少女の意思を汲み取ったかのように、黒焔は消えていったのだ。


「あ、あれ・。・?本当に消せたのだ・。・」


フリー「はぁ?お前の異能じゃねぇのかよ。コントロール出来て当然だろうが。」


「私の・・・異能・。・」


ふぁ「そんなことはいいわ。あなたの怪我、治すわよ・・・って・・・あら。」


ふぁっきゅーれいかの手が止まる。

それもそのはず。

切り取られた少女の右耳が、何事も無かったかのように戻っていたからだ。


ふぁ「まさかその黒焔・・・治癒能力でもあるのかしら。」


少女も思い出す。

最終戦で戦っていた相手を。

暴走していた自分を止めてくれたもう一人の存在を。


「田中みこさんはどうなったなの・。・!?」


ふぁ「大丈夫よ。さっき完全に治したわ。」


ふぁっきゅれいかの背後から、田中みこが歩いてくる。

微笑みながらウィンク。

どうやら大丈夫なようだ。

少女は一番聞きたかったことを尋ねることにした。


「私は、田中みこさんと戦って・・・どうなったのだ・。・?」


ふぁ「戦いの途中で、あなたの異能の力が暴走したのよ。私と田中みこで、あなたを動きを止めようとした。。糸が切れたように、あなたは動かなくなったわ。周りの黒焔はそのままでね。不審に思ったリーダーが展望台から降りてきて、あなたと戦い始めた・・・。私はすぐさま田中みこの治療を・・・そこであなたは目を覚ましたのよ。」


フリー「戦ったわけじゃねぇけどな。このチビは完全に気絶していた。気絶しながらも黒焔を撒き散らしていたからな。赫の瞳で焔を抑えていただけだった。その時さ。お前の意識が戻ったのは。」


そう言いながら、一際大きく咳き込むフリーれいか。

火事で煙を吸って肺がうまく機能していないような、そんな声だった。


「ふぁっきゅーちゃん。この金髪を先に治してやってほしいのだ・。・!」


フリー「いやその前に、聞きたいことがある。力が暴走した、それは確かなのか?」


ふぁ「・・・こうして正気を取り戻したんだからいいじゃない。」


フリー「。無かったことにするつもりか?一時的だったが、田中みことタイマンはることが出来たこのチビを?はっきり言おう。チビの黒焔は危険すぎる。また暴走でもしたらどうするつもりだ?」


何が起こったのかは分からないが、言いたいことは伝わってくる。

フリーれいかは疑っているのだ。

はたして本当に、黒焔を抑えることが出来ているのかを。


「えっと、これってやっぱり私がやったなの・。・?」


少女は周りの戦闘跡を見渡す。

焼け焦げた匂いが充満している。

それに目覚めたばかりの所為か、頭がうまく働かない。


フリー「自覚できていないのが証拠だ。悪いが、しばらく監視対象として閉じ込めるしかない。・・・どうした田中みこ、その顔はなんだ?」


田中みこが、少女を庇うように立ち塞がる。

ほっぺを膨らませて威嚇している・・・ように見えなくもない。


ふぁ「私も反対よ。監視なら私がするわ。あなたに預けていられない。」


「・・・ふぁっきゅーちゃん・。・」


フリー「おいそんな無責任な事言って、もし仮にまた暴走したら――」




安眠「いや~。面白いもの見させてもらったね!」




王の間全体に響き渡るような、突然の声。


フリー「あ?誰だ・・・。」


ふぁ「聞いたことない声ね。どこからかしら・・・。」


瞬間。


キリト「侵入者だッ!!!」


キリトの怒声。

それと同時に―――





ドォオオオォオオォオオン!!!!





激しい爆発音。

宮殿全体が揺れるほどの衝撃。


脈絡なく、


「ロ、ロボット・。・!?」


フリー「伏せろっ!!!」


どこからともなく現れた機械兵が、一斉に動き出す。

辺りに響く銃撃音。

ロケットが飛び交い、光線が弾け飛ぶ。


キリト「させねぇよ。」


キリトは跳んできた銃弾と爆発物全てを、刀の一振りで薙ぎ払う。

それと同時に、辺りにいた機械兵は残らず一刀両断されていた。

そして、フリーれいか達と合流するキリト。

・・・これらの所業、わずか二秒で達成できる技量。

流石の伝説。


キリト「推定侵入者は軍服を着た女!例の敵対勢力だ!異能はおそらく兵器の具現化!閃光弾や催眠ガスも使ってくるかもしれない!地雷やワイヤートラップにも注意を怠らずに警戒だッ!!」


フリー「キリト!?てめぇまさか――」


キリト「俺の失態だ・・・!・・・安眠!!姿を見せろッ!!」


安眠「・・・んふふふっふふふふっふふっ!ふふふっふふっ!や~だよっ!!!」


再び、何もないところから機械兵が湧き出してくる。

その数およそ二百。

形も様々で、装備している兵器も違うようだ。


キリト「ここまでバリエーション豊かな・・・。」


ふぁ「侵入者!?隠れ家がバレたの!?」


フリー「っ!・・・おいお前ら!ここはいい!今すぐ宮殿を出て市民を守れっ!」


こうしている間にも、ふじれいか、スカイれいか、そしてキリトが機械兵を根こそぎ殲滅しているが、一向に数が減る様子はない。


何これ・・・。

何が起こってるの・・・?


フリー「これほどの兵力、外にも敵がいることは明白だ!」


ふぁ「・・・そうか!きっとここだけじゃないはずっ!市街に同じようなロボットが解き放たれてたとしたら!?」


「・。・!?」


事態が深刻であることを、少女はようやく理解し始める。


キリト「・・・なるほどな。ステルス迷彩か、もしくは録音音声か。下から滲み出る気配は隠せてねぇぜ安眠ッ!!」


王の間出入口付近の機械兵を斬り捨てながら、キリトは下の階へと走り去っていった。


フリー「はぁっ!!?おいキリト!!・・・くそっ流石ソロプレイヤーだな!まあいいお前らも続け!ここは俺と護衛達で十分だ!田中みこは隠れ家入り口を!!ふぁっきゅーとチビは宮殿内の制圧だ!」


敬礼する田中みこ。

唐突だったとはいえ、冷静さを失わずに命令を下す。

リーダーと呼ぶに相応しい姿であった。


「ちょっと待つなの・。・!行くなら・・・フリーれいかさんの喉を治してからなのだ・。・!」


フリー「そんな暇はねぇ!一刻を争うんだ!もたもたしてっと機械兵で埋め尽くされて、王の間から出れなくなるぞ!!」


入り口付近では、機械兵たちが隙間を埋めようと集ってきている。

それだけではない。

辺りから湧き出す機械兵も無視できる数ではなく、時間がたつほど不利になるのは自明の理であった。


フリー「・・・チビ、お前の黒焔・・・ッ!!」


その言葉を聞いて、少女は覚醒する。


このリーダーは私を信じてくれている。

一度暴走した私に、チャンスを与えてくれている。

・・・気のせいかもしれないけどね。


「・・・了解なのだ・。・」


少女の奥底で、闘志が燃え始める。

準備は整った。

蔓延る脅威から、この隠れ家を守るのだ。


ふぁ「行くわよ!」


少女、ふぁっきゅーれいか、田中みこの三人は王の間を脱出する。

まさしくそれは間一髪であった。

次の瞬間、崩れた瓦礫や機械兵の屍で、出入り口が塞き止められたからだ。


ふじれいか「行ったか・・・。頼むぞ。」


スカイれいか「このロボット達・・・倒しても倒しても湧いてくるよ!」


王の間に残された、否、閉じ込められた戦力はかなり大きい。


ひまれいか「どうやら非常事態らしいな。」


ゆうれいかと共に、展望台から降りてくるひまれいか。


フリー「お前らは下がってろ。とくにゆうれいか。もしものことがあったら・・・分かってるな?」


ゆうれいか「もちろんだよ~。からね~。」


そう言いながら、つるはしを体の中から取り出すゆうれいか。

近寄る機械兵を、そのつるはしで叩き飛ばす。

しかしその程度で、機械兵の氾濫は留まることを知らず。


この機械兵が、敵の異能による仕業なのはわかる。

だが所詮、機械は機械なのだ。

人間ではない。

フリーれいかの異能封じは、機械だけでは意味をなさない。


フリー「術者を封じなきゃいけねぇってのに・・・俺はこのザマだ。ゴホッゴホッ!他の連中に任せるしかねぇ・・・。」


終わりの見えない、機械兵の増殖。

彼らの命運は、少女たちに委ねられたのだった。







角娘「これもうキリがないよ!」


モビルスーツ「私たちだけではっ・・・このままではいけませんね。」


宮殿内一階、大広間。


そこでは二人の人物が、突如現れた機械兵と応戦していた。

器械の氾濫はここでも起こっていたのだ。

逃げ惑う一般人を守りながらの戦いは、二人にとって熾烈な戦闘を強いられていた。


そこに――。


キリト「いいところにいるなっ!!」


一人の老兵、伝説クラス。

キリトの参戦である。

彼は二人の周りにいた機械兵を速攻で鎮圧してしまう。


モビルスーツ「まさか・・・キリトさんですか!?」


キリト「久しぶりじゃねぇか4410シシトー!ここは俺が時間を稼ぐ!分かってるな?」


4410「・・・ええッ!!すぐさまスキャンを開始します!」


4410と呼ばれたモビルスーツは、その場で屈みながら動かなくなる。

それを邪魔させないように、角娘とキリトが応戦する。


「うわあああぁ!・。・!ガン〇ム!ガン〇ムがいるなの・。・!」


王の間から遅れてやってきた三人も、そこに合流する。


ふぁ「リオれいかに4410!?あなたたち、会議は休みだったはずでしょ!?今頃は自分の家で寝てるんじゃ・・・?!」


会議・・・?

もしかしてこの人たちが、本来集まるはずだった隠れ家内の勢力!?


リオれいか「私はたまたま同じ時間に起きちゃっただけ!宮殿で修行していた最中だったんだよ!ところでその子は誰!?」


リオれいかと呼ばれた角娘は、口から炎を吐きながらそう答える。

額に一本の立派な白い角が生えており、下半身からは細長い尻尾がついている。

その姿が、ドラゴンをイメージしたものであることは一目瞭然であった。

次々と機械兵を薙ぎ倒していくその姿は、彼女が強者であることを物語っている。


4410「俺も似たようなものかな。宮殿内でメンテナンスを行ってた。爆発を聞いて広間に出て、リオれいかと鉢合わせになって今に至る。」


その姿はまさしく、機械そのものであった。

身長は2mほどはあるだろうか。

質感はプラモデルのように見えるが、身に着けている重装備が全く可愛くない。


「この脚部のローラーって、ナイトメアフレームみたいな移動ができるなの・。・?」


4410「へぇ。誰だか知らないけど、俺のパーツを一つでも言い当てたのはあなたが初めてだ。もしかして君も・・・そっち方面に詳しいのか?」


キリト「後にしろ!!・・・リオれいか!外のやつらを呼んで来い。一気に戦力を終結させる!!」


言いながら、次々と機械兵を斬り倒すキリト。


リオれいか「了解!すぐ増援を呼んでくるよ!」


言うが早いか、リオれいかは宮殿の外へと跳んでいく。

どさくさに紛れて、田中みこもその後をついていく。

リーダーに言われた通り、隠れ家入り口に向かったのだろう。


キリト「4410!スキャンは終わったのか!?」


4410「ああぴったり終わった!宮殿全体に機械兵の反応複数、数はおよそ四千!」


キリト「不審な人影は!?」


4410「レーダーに映る不審な動きは・・・掴んだ!位置は二階、特殊保護客室に二名と、普通客室に二名!どちらかが、あるいはどちらも敵の可能性大!」


キリト「聞いたな?役割分担だ。ふぁっきゅーとあんた、4410の二チームで――」


これまで早口だったキリトの口が止まる。


残りの三人も、その人影に気づく。


4410「・・・・前方に・・・未確認人物が一名・・・!」


鼓動が高鳴る。

いつ現れたというのか。

何故そこにいるのか。


この場の誰も、キリトでさえも、現れた瞬間を見ることが出来なかった。

そんなことがありえるのか?


彼女はそこに立っていた。

敵地だというのに、堂々と立っていた。

キリトが言葉にした、軍服姿の女性。





安眠「どんも~。会いに来たよっ!キリト君!!」


安眠ちゃん――襲来。





キリト「散れッ!!!」


キリトの掛け声と同時に、ふぁっきゅーれいかと4410の姿が消える。

しかし、少女だけは違った。


ふぁ「・・・えっ!?」


安眠ちゃん目掛けて、攻撃を繰り出さんと突進していたのだ。


「お前は誰なのだ!・。・!」


少女の両拳に、黒焔が顕現する。

間違いなくそれは、あの時暴走した少女の異能。

それを今では、悠々と使いこなすかのように、拳の破壊力を増幅させていく。

そのまま、安眠ちゃんへと最強の一撃を叩き込んだ―――はずだった。


安眠「・・・邪魔しないでほしいかな。」


殺られる。

そう少女が覚悟したのも無理はない。

片手で防がれたどころか、その拳はがっちりと掴まれて動けないのだ。


キリト「っ!!」


即座にキリトも剣戟を繰り出す。

しかし、予想とは裏腹に、あっさりと少女を手放す安眠ちゃん。

刀身を避けた一瞬の隙を狙って、少女を連れ戻すキリト。


安眠「・・・馬鹿だなー。私が人質を取ると思ったぁ?そんなわけないじゃーん!私はキリト君と遊びたいだけなんだから!ふふふふっ!!」


覚悟できていたはずだった。

自惚れていた。

あの安眠という女性は、私の攻撃を見もせずに止めた。

気づいたら、キリトさんに助け出されていた・・・!


ふぁ「軍服・・・何者よあんた。」


4410「どうやらこの女性が、侵入者のようですね。」


少女を守るように、二人も安眠ちゃんに対峙する。


安眠「んー。何者って言われてもなー。言っていいんだっけ?私はU2部隊に所属してる『No.5 安眠』。君たちが地上で戦ってきた雑魚軍団の幹部ってところかな!ここに潜んでるゴミどもを、一匹残らず殺しにきたんだお~w」


安眠ちゃんから邪悪なオーラが溢れ出る。

場はまさに一瞬即発。


キリト「・・・ふざけやがって。」


そう、

隠れ家、しかも戦力が集う宮殿内への侵入。

そのまま隠れていればいいものを、わざわざ宣戦布告して襲撃。

そして今、安眠ちゃんは一人で複数の異能持ちと対峙している。

はっきり言って、正気の沙汰とは思えない。


・・・つまり、一人で勝てると思っているのだ。


ふぁ「U2部隊・・・それが、西地区の敵対勢力の名前というわけ?」


4410「いずれにせよ、彼女を止めれば我々の勝ち・・・?」


キリト「。」


し、キリトは一つの可能性に辿りつく。


キリト「お前の手の内は読めてるぜ、安眠。俺と戦いたいのは本当なんだろうが、こいつを殺さなかったことが裏目に出たな。大将一人で時間稼ぎとは恐れ入ったぜ。この機械兵も分かり易い。協力者がいるとバラしてるようなものだ。」


瞬間、少女とふぁっきゅーれいかは階段に向けて走り出す。

行き先はもちろん、不審な人影を感知した客室廊下――!


「どっちから行くなの・。・!?」


階段を駆け上がり、二階へと辿り着く二人。


ふぁ「特殊保護客室から行くわよ!ついてきなさい!!」


そしてすぐさま移動を開始する。

少女は走りながらも、落ち込まずにはいられなかった。


二手に別れて戦えるほどの力は、私にはまだ無いのだろうか。

最初にふぁっきゅーちゃんと共闘したあの時。

あの時よりは私も強くなった。

だけどそれでも、肩を並べて戦うには時期尚早。

黒焔という異能を発現したところで、私には場数が圧倒的に足りないっ!

さっきの突進がいい例だ!

自覚しろ!

私のスピードが通用しない相手は、これから嫌というほど出てくるだろう!

黒焔・・・これを活用した戦い方を編み出さなければ。

ああくそっ。

強くなれたと思ったのにな・・・。

・・・嘆いていても始まらない。


突然、摩訶不思議な異能が扱えたらどうする?

その一瞬だけは舞い上がって歓喜するだろう。

少女にとっては、その日がたまたま敵の襲撃と繋がっただけ。


いや、もう考えるのをやめよう。

私は私のままで。

あの無謀な突進も、私らしいといえば私らしい。

暗く考えるな。


保護客室に繋がる廊下に入る。

せめて足手まといにはならないと、少女は固く決意するのだった・・・。






『王の間』フリーれいか、ふじれいか、スカイれいか、ひまれいか、ゆうれいか

『宮殿二階』少女、ふぁっきゅーれいか、謎の二人組A、謎の二人組B

『宮殿一階』キリト、4410、安眠ちゃん

『外』リオれいか、田中みこ、他れいか多数、民間人多数






キリト「お前は残るのか、4410」


少女とふぁっきゅーれいかが消えた大広間。

そこにはキリトと4410が、笑みを浮かべる安眠ちゃんと対峙していた。


4410「かなりの手練れですよね。あなた一人ではキツそうだ。」


キリト「言ってろ。・・・そういや、共闘はいつぶりだろうな。いろいろと。」


キリトは何とも言えない表情を浮かべる。

そして安眠に向かって、笑みを浮かべながら口を開く。


キリト「卑怯とは言わせねぇぜ?安眠。」


安眠「・・・ま、私はいいんだけどね。スターバーストストリームだっけ?ここじゃあの大技も迂闊には打てないでしょ。そんなことしたら宮殿どころか、この地下世界が爆発して燃えちゃう!だから、私は責めないよ~!二対一だとしてもね!じゃないと私に勝てないキリト君、うふふっふふっふふふ!」


明らかな挑発。

安眠ちゃんの言う通り、宮殿内でスターバーストストリームを放てば、皆を巻き込んでしまう。


キリト「余裕ぶってろ。もうお前は逃がさない。、安眠。」


キリトの瞳から光が消える。

奇しくも、機械の身体である4410と同じ。

彼の心は、血も涙もない殺戮器械と化す。







宮殿内一階、東地区、特殊保護客室内——。


姫れいか「きゃあっ!」


甲高い悲鳴が走る。

客室内には、三体の機械兵。

戦う姫れいかをよそに、隅っこで怯えながら様子を見るいちご。


いちご「くそっ!くそっ!ここなら安全だと思ったのに!!」


いちごは自分の選択を恥じるしかなかった。

彼は、試合の最終戦が終わってすぐ、飽きたという理由だけで王の間を去っていたのだ。

それに気づいた姫れいかが後に続き、二人は一階大広間へと到着する。

その時に、謎の爆発と機械兵の出現。

焦ったいちごは、本能で危険が及ばなそうな場所、自分の自室に逃げてきたのだ。

しかし、それがよくなかった。


姫れいか「ここは・・・通さないですっ!」


姫れいかが応戦してはいるが、実のところ、彼女は戦闘要員ではない。

事実、姫れいかの攻撃に対して、機械兵は一向に倒れないのだ。


だがしかし。

姫れいかは勝てないと分かっていても、戦っているのだ。

姫れいかの異能『姫様命令』で、いちごを戦いに加えることも。

いちごを見捨てて、自分だけ逃げることも、彼女はできた筈なのにだ。


いちご「いやだ・・・いやだっ!!俺はこんなところで死にたくない!!いや、死ぬはずない!俺はもっといろんな女はべらせて、サイコーの異世界ライフを送るんだ!!」


当の本人は、こんな状況だというのに喚き散らし続けている。

応戦する姫れいかの姿も、周囲の機械兵も、いちごは見ようとすらしていない。

それは一種の現実逃避であった。


いちご「俺がこんなところで・・・んだあああぁぁ!!!」


ふぁ「はあっ!!」


その瞬間、二体の機械兵の頭がひび割れる。

ふぁっきゅーれいかの踵落としが炸裂したのだ。


「せいやなの・。・!」


もう一体を少女が、黒焔を纏った拳で粉砕する。

あれだけ姫れいかが手こずっていた機械兵を、少女たちは一瞬で沈黙させる。


ふぁ「不審な人物って・・・あなたたちなの!?」


激しいツッコミが入る。


姫れいか「あ、あああっ!ありがとうございますっ!・・・助かりましたっ!」


ぺこぺこと頭を振る姫れいか。

自分が助かったことに気づき、ため息をつくいちご。


ふぁ「助かった・・・?」


ふぁっきゅーれいかは、姫れいかに対して絶対の信頼を置いていた。

いつもの彼女なら、こんな逃げ場のない密室に来るはずが無い。

そのことに気づかないほど、ふぁっきゅーれいかは馬鹿ではない。


ふぁ「・・・いちご。どうしてこんなとこに逃げたのよ。そもそも逃げずに、他のれいかと固まってた方がよかったじゃない。わかる?あなた本当に死ぬところだったのよ?もうちょっと危機感を――」


いちご「あぁ?喧嘩売ってんのかふぁっきゅーさんよぉ?こうして助かったからよかったじゃねぇか。てかよ、説教のつもりなんだろうけど勘違いしてないか?俺はついこないだまで現実世界にいた一般人なんだぜ?」


姫れいか「い、いちごちゃん・・・。まずお礼を――」


いちご「いや、ここまで言われて黙っていられるかよ。」


前髪をいじりながら、ふぁっきゅーれいかにメンチを切るいちご。


いちご「お前らみたいな戦闘民族が大量にいる異世界。そこに混ぜられた一般人である俺の気持ちわかるか?当たり前みたいに外では殺し合いが起こってる。そんな世界に合わせろってのが無理な話だ!」


ふぁ「来ちゃったもんはしょうがないでしょ。やらなきゃやられるし――」


いちご「だッ!!!!」


尋常ではない大声。

いちごの前髪は垂れていた。

彼はずっと思っていた疑問を口にする。


いちご「お前らは何ともねぇのかよ・・・?家でネット見てた分際の俺らが、いきなり殺し合いって出来る訳ねぇだろうが!!むしろ出来るやつに聞きたいね!お前ら頭おかしいんじゃねぇのか!?実際に人が死ぬ世界!そのうち俺も、人を殺すかもしれないって考えるだけで反吐が出るっ!」


躊躇いもなく、戦いに身を投じる。

その姿を、いちごはおかしいと言ってきているのだ。


いちご「知ってるか!?日本は世界に無関心なんだぜ?!外の国では理不尽でいっぱいだ!!戦争!貧困!病気!数えればキリがないッ!安全で裕福な日本は、そんな世界の理不尽に対して鈍感なんだッ!!」


「世界に・・・無関心・。・」


なんだろう。

頭の奥で引っかかる。

同じフレーズをどこかで聞いたような。


続くいちごの怒声に、少女は思考を止めざるを得なくなる。






今の少女には知る由もなかった。




いちご「ついていけねぇんだよ!理解したくもねぇ!俺が正しくて、お前らが異常なだけだ!戦えと言われて急に戦えるかってんだ!争いに無縁の日本人だからなぁ!?思えば試合の時もそうだ!おいロリ!聞いたぜ?あん時お前は記憶喪失だった!!」


「え、あ、あの時・。・?」


いきなり振られる少女。

頭の中の考えを打ち消してしまい、少なからず動揺してしまう。


いちご「あのリーダーと、お前は戦ったんだろ!?何故だ!?異能の発現がまだのお前が、なんで戦おうと思った!?反抗できた!?」


少女の思考が落ち着いてくる。

どうやらあの時の戦いは、噂で広まっていたようだ。


「あれは・・・私が戦いたかったから戦っただけなの・。・」


いちご「・・・何言ってんだ?力比べをしたかった的なアレか?根っからの戦闘民族か?!ふざけんなッ!!俺が聞いてるのは――」


「いちごちゃん・。・もう分かったのだ・。・いちごちゃんとこうしてまともに話すのは初めてだけど、なのだ・。・」


口調は優しげだが、その姿は穏やかではない。


ふぁ「・・・?」


少女は怒っていた。

質問されたからとか、そんなことではない。


「いちごちゃん・。・あの時の異能のない私が戦えたように、どうしていちごちゃんは姫れいかさんと一緒に、機械兵を倒そうと思わなかったのだ・。・?」


いちご「・・・だからさぁ!俺はお前らとは違うんだっての!戦える余裕——」


「そういうことじゃないなの・。・どうしていちごちゃんは、をしてるなの・。・守ってもらって恥ずかしいとは思わないなの?・。・?」


いちご「んだよそれ!?俺は別に守ってほしいとか頼んでねぇよ!?この命令野郎が勝手についてきただけだからな!!」


姫れいか「・・・っ。」


ふぁ「・・・。」


いちご「それによ、最近はその手の創作が多いだろ!?女が男を守るやつとかさ!女からモテまくる冴えない男とかさ!アニメとかでよく見るだろ!?お前らも好きそうだよな!?つーか俺の保護官なわけだろ!?俺を守るのは当然の義務じゃねぇのか!?はい論破ぁ!!」


少女は、いちごの本性を理解する。


先ほどの日本の話もそう。

そこらへんのまとめサイトから、あるいは掲示板のコピペから。

気持ちのいい知識を継ぎ接ぎして、それらを得意げに話すだけ。

自らの言葉ではない。

ありきたりの正論を喚き散らしているだけだと、少女も気づいたのだ。


そして終いには、姫れいかに対して非道な発言。

助けてもらっていなければ死んでいたにも関わらずだ。

女性に守られて、それを恥とも思わず当然のことだと主張するいちご。

――これはもう、語るまでもなく屑である。

挙句の果てに、フィクションを持ち出して自分を正当化しようとすらしたのだ。

確かに一部は存在するかもしれない。

情けなく弱い男性に、恋心を抱く女性はいるかもしれない。


だがしかし、どうだろう。

彼女の方が優れているから。

才能があるから。

心が強いから。

そうする方が効率的だ。

差別をしない平等精神に溢れている。

そう言いながら。

何恥じることなく女性の影に隠れたうえで、綺麗だ女神だと仰がれても。



まるでペットだ。

男性どころか人間として見れるかどうかも怪しい。

フィクションのようになることはありえない。

誰が何と言おうと、強くなろうとする男性たちの雄々しさこそが、眩しいと感じるのだから。


「もういい加減黙っとけなの・。・私、お前みたいな言葉覚えたてのガキは嫌いなのだ・。・」


少女が怒っている理由は、いちごの言動に対してだけではなかった。


このいちごの姿は、



そこでは自分が、男か女かすら覚えていない。

あったような、なかったような記憶。


何かを思い出せそうで思い出せないジレンマ。

少女は苛立っていた。


いちご「黙っとけだぁ!?おいおいおい!!反論しないってことは俺が正論ってことでいいんだな!?はい論破ぁww」


ふぁ「やるわねあなた。二度しか会ってないのに、こいつの本質を掴めたのはすごいわよ?」


ふぁっきゅーれいかが、少女の頭を撫でる。

だがそれでも、少女は落ち着きを取り戻すことは無かった。


いちご「あ?何か言ったかふぁっきゅーさんよぉ~??お前にも聞いとくぜ。世界に無関心の、殺し合いに無縁の、日本人である俺様が!いきなりこの異世界にやってきて、なんか活躍できると思いますぅ~?俺がここで隠れて何が悪い!?お前には文句言えねぇだろが!!」


ふぁ「地球の裏側でテロが起きて何人死のうが、身内一人死ぬより悲しむことはないでしょ。」


一閃の風が、吹いた気がした。

あっけからんとしたふぁっきゅーれいかの口調に、場が静まり返る。


いちご「何言って――」


ふぁ「あなたって本当にめんどくさい性格よね。しないと理解出来ないようだから、少し付き合ってやるわよ。」


そう言いながら、姫れいかの怪我に手を触れ、治療を始めるふぁっきゅーれいか。


・・・姫れいかは泣いていた。

溢れ出る感情を抑えきれずに、泣いていたのだ。


それを見ていたふぁっきゅーれいかは・・・静かにキレていた。


いちご「てめぇ・・・。テロが起きて何人死のうがって言ったよな!?他の国で起きてる戦争や病気を蔑ろにして――」


ふぁ「だからさ、それでいいんじゃない?無関心でさ。人の器ってのはそこまで大きくないのよ?手の届くところまでが、それぞれの世界でいいじゃん。」


この言葉に、


ふぁ「でもさ、そばにいる仲間は違うよね。」


少女も息を飲む。

ここまでキレたふぁっきゅーれいかを見るのは初めてだったからだ。


ふぁ「ごめん。」


ふぁっきゅーれいかは少女の方に向き直る。

少女を怖がらせていた、そのことに対し謝罪していた。


「・・・分かってるのだ・。・もう一つの不審な反応なのね・。・」


本来なら、ここでこうして喋っている余裕はない。

客室付近に機械兵がいないことから錯覚しそうになる。

だが他の場所では、まさしくの最中なのだ。

ほんの些細なすれ違いで、戦況がひっくり返ってもおかしくはない。


ふぁ「私も二分で追いつくわ。場所は分かるわよね。私の部屋付近よ。絶対に無茶はやめてね!・・・任せたわよ!」


いちご「テメェら・・・俺を無視してんじゃねぇよ!!オラァ!!」


「任せるのだ・。・!」


少女は勢いよく、客室から飛び出した。

烈風の速度を維持しながら、複数の曲がり角を走っていく。


――任せたわよ。


少女は、つい先ほど登ってきた廊下を下りながら、心は歓喜していた。

高揚していた。

背中を預けられたようで、嬉しくて仕方が無かった。


だがそれと同時に、


まるでつっかえてた棒が・・・何かの闇が晴れたような。


・・・任された以上は、やるしかない。


いちごとの会話で溜まった鬱憤も、これまでにない程の闘志として上乗せされた。

拳を握りしめながら、少女は突き進む。








宮殿内一階、西地区、客室廊下内——。


「・・・いるっ・。・!」


少女の人並外れた気配察知。

多くの個室から、潜んでいた二人を見つけることは容易であった。


Kent「・・・なんかきたぜ?安眠は何やってんだよ。なぁ双葉?」


北上双葉「こんな少女もいるんだ。見てKentさん。こっち見てて可愛い。」


U2部隊 『No.9 北上双葉』

U2部隊 『No.11 Kent』


二人が少女に気づくと同時に、側面の壁からが出現する。


「・。・!・・・異能使い・。・!」


すかさず少女も、身体に黒焔を顕現させる。


Kent「うおっ。可愛い顔してお嬢ちゃんも闇属性かい。中々見ねぇんだぜ闇属性は。なんか親近感沸いてくらぁ。・・・まぁ見られたからには、悪く思うなよお嬢ちゃん?」


安眠の名前を口にした以上、この二人も同じ幹部とみて間違いないだろう。

何しろ、格好がまた奇抜なのだ。


Kentと呼ばれた男性は、全身真っ黒のボディペイントを塗っている不気味な姿。

だがそれよりも不気味なのは、双葉と呼ばれた女性の方であった。


二次元の世界に迷い込んだのか?

アニメのキャラクターが、テレビから這い出てきたのか?

そうとしか思えない光景。


彼女の姿はまさしく、だったのだ。


少女はいちごとの会話を思い出す。

まさかの存在、アニメ調の人物と会話できるとは。


北上双葉「流石にここで止められたら、計画が無駄になっちゃうからね。」


そうアニメ声で囁きながら、北上双葉。

かなり可愛い外見をしているが、目は狩人そのものであった。


Kent「その意気だ双葉。・・・殺るぜ」


殺す意思を明確に示す侵入者たち。

しかし、少女はその程度で怯みはしない。


あの時、死闘を体験した意味は、まさにこのための――


「計画・。・?聞き捨てならないのだ・。・!阻止させてもらうなの・。・!」


しっかりと拳を構えながら、戦闘態勢を取る少女。

大声を張り上げ、立ち向かう勇姿を見せる。






キリト&4410 vs 安眠


安眠「いつでもどうぞ~!」




少女 vs 北上双葉&Kent


「先手必勝なのだ!・。・!」





それぞれの戦いが今、始まろうとしていた。



つづく。

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