第9話 風災の翻弄、煌めく紫桜
フリー「二回戦は・・・スカイれいか!お前だ!行ってこい!」
王の間模擬闘技場。
第二試合が始まろうとしていた。
活発そうな声「・・・私?やったああああー!!」
少女の対戦相手に選ばれた女性は、ガッツポーズしながら喜びを表現している。
彼女はふじれいかと同じ役職。
リーダーの護衛、スカイれいかである。
自分が選ばれたと分かった途端、勢いよく展望台から飛び降りる。
「あの人は確か・・・もう一人の護衛の方なの・。・」
少女にとっては、顔だけは知っているという程度の認識。
ふじれいかがそうであったように、この女性もまた未知の異能使いに違いない。
注意深く相手を観察する少女だが、このときばかりは目を丸くするしかなかった。
浮いていた。
飛び降りて地面に着地するはずのスカイれいかは、その身に風を纏わせ浮遊していたのだ。
スカイれいか「よろしく!私の名前はスカイれいかだよ!よろしくね!」
「・・・・ちゃお☆はじめましてなのだ・。・v」
肌は褐色。
第一印象は踊り子。
胸と下半身、そして両腕に白の布地で出来た服装。
頭にはドラゴンの顔そっくりの白帽子。
露出は多いが、その分動きやすそうな印象だ。
いや、最早そんなレベルではない。
先程から、スカイれいかは空中で縦に横にと、回転浮遊しているのだ。
スカイれいか「これから嫌というほど見ることになるし、先に言っちゃうね!私の異能は『自由飛行』!なんの種も仕掛けもなく、その場で飛ぶことができるんだ!」
「・・・面白くなってきたなの・。・」
少女は静かに構えを取る。
勿論、スカイれいかの言葉を鵜呑みにしてはいない。
なんの種も仕掛けもない飛行能力だと断定するのは早すぎる。
現にこうして分かり易く浮いている・・・それは事実。
だが他に、未知の能力を隠し持っている可能性も否定できない。
ふじれいか「いてて・・・。もう何とも無い筈だが・・・未だに傷が疼く。」
展望台に座るふじれいか。
先の戦いでトラウマを負った彼は、戦場に立つ少女を不安そうに見つめる。
ふじれいか(次戦はスカイれいか・・・。すると必然的に最終戦は・・・。どうやらリーダーは徹底的に彼女を追いつめる気らしい。・・・心せよ記憶喪失の子よ。本当につらいのはここからだ。)
いちご「・・・今度は普通の人型っぽいな。もうさっきの巨人みたいなのは懲り懲りだぜ・・・。」
ゆうれいか「あれ~?いちごちゃんのことだから、『すげぇ!あいつ空飛べんのかよ!』みたいなテンションになるかと思ったのに~。」
いちご「ばーか。いちいち驚く間抜けに見えるのか俺が!舐めんじゃねぇ。」
悪態をつくいちご。
話しかけるなと言わんばかりに、試合場の方に向き直る。
いちごは今、一つの感情に支配されていた。
フリー「よし!ふぁっきゅーれいか!試合開始の宣言をしろ!」
空気が緊張に包まれる。
あの接戦を繰り広げた少女が、この試合ではどんな戦術を見せてくれるのか。
期待と興味の眼差しで、展望台は溢れかえっていた。
だが、分かっている者の数名は表情を尖らせる。
この先の試合展開が予想できてしまうからだ。
キリト「駄目だろうな・・・今のままでは。」
少女を見ながら、一人寂しく呟くキリト。
今のままでは駄目。
つまり、今のままでは決して勝てないという意味。
覆すには変化が必要だ。
新たな戦法、戦術、武具の追加や異能の発現。
何だっていい。
そのくらいの進化が無ければ、少女は勝てないと言っている。
キリト(ああそうか。やっとフリーれいかの狙いが分かった。)
この模擬試合は、そのために開催されている。
ふぁ「これより、模擬戦第二試合を始めるわ!双方構えっ!」
悠々と旋回するスカイれいか。
そのまま、少女との距離を七歩分空けて着地する。
・・・距離を取られた?
いや、関係ない。
私のスピードなら余裕で射程内だ。
少女の戦法は、昔と変わらず先手必勝。
空を飛ぶ異能の戦法として考えられる最悪のパターンは、拳の届かない位置に陣取られること。
だがそれは、両脇の土壁が無かった場合である。
壁を蹴り上げ、空中を舞いながら連撃を繰り出せることは、先の試合で証明済み。
相手が空中だろうと、何も問題は無い。
しかし、それを抜きにしても、敵に余裕を与えたくないというのが少女の本音だった。
何もさせずに倒す。
これが少女の、根源にして生まれながらのスタイル。
スカイれいか「正々堂々、行きましょうね!」
開始寸前だというのに。
構えを取りつつ、口を開くスカイれいか。
そして間髪入れず――。
ふぁ「戦闘開始ッ!!」
戦闘開始の宣言が下される。
狙いは単純明快。
スカイれいかの顔面に、神速の拳をお見舞いする。
――はずだった。
スカイれいか「ん~。残念♪」
少女は猛攻を止めるしか無かった。
繰り出した筈の腕が、ズタズタに引き裂かれていたからだ。
「・。・!?・・・かわいい顔して、よくもやってくれたなの・。・」
少女にとっては、初めての出血。
片腕は、見るも無残な血塊と化していた。
ふぁ「・・・っ。」
今すぐ試合を中断して治療したいという衝動を、必死に抑えるふぁっきゅーれいか。
まだ終わったわけではない。
少女に宿る闘志が消えない限り。
その時が来るまで耐えるしかない。
スカイれいか「・・・もしかして、まだ続けるつもり?おとなしく諦めて、腕治してもらったら?痛いでしょそれ。」
嫌味たらしく、口角を吊り上げるスカイれいか。
その周りを、円を描くように何かが漂っている。
風を切る音が聞こえるのだ。
「・・・風を纏ってるなのね・。・」
原因不明の正体。
スカイれいか「正解♪」
それは風を操るスカイれいかにしか出来ない芸当であった。
スカイれいか「諦めてないって顔だね。それじゃあ、こういうのはどうかな!」
言うが早いか、スカイれいかは天井目掛けて飛翔する。
しまった!
一番危惧していた展開だ。
追撃するなら今しかない。
今度は、さっきよりも疾く・・・。
はたして、それで風の壁を打ち破れるのか!?
いや、もうそれに賭けるしかないッ!!
ふじれいか「・・・焦っているな。両腕が死ぬぞ。」
少女の姿は神速と化し、完璧な助走を決めたまま壁を蹴り上げる。
対象の位置に合わせた、これまた完璧な角度で跳躍。
これまでを遥かに凌駕する最高峰の牙突。
しかし、それすらも。
信じられないくらいにあっさりと。
少女の拳は空を切る。
代償として、突き出した腕が傷だらけに。
そ、そんな・・・。
くそっ!
また防がれたっ。
少女の両腕は既に、ズタボロの雑巾のよう。
おそらく骨も折れている。
これでは使い物にならない。
スカイれいかはそのまま、天井高度まで到達してしまう。
スカイれいか「・・・あなたの武器は五体を使った武術のみ。だったら、その武が届かない位置まで避難すれば安全だよね♪」
普通ならば、これで決着。
少女の失血死を待つだけ。
少女も空が飛べれば話は別だが、生憎とそんな術は無い。
つまり、詰みである。
普通ならば。
頭がふらふらする。
出血が酷い。
でもまだ動ける。
後はどうにかして、天井に行く方法を・・・。
何だ?
あいつ、構えてる・・・。
お互いに攻撃できない距離だぞ?
・・・いや、まさか!
少女の予感は的中する。
脈絡なく、少女の全身が切り刻まれたからだ。
「・。・!?あああぁっ・。・!」
スカイれいか「秘技、
スカイれいかの手の動きに合わせて、風を切る音が騒音の如く奏でられる。
たったそれだけの動作で、少女の身体に致命傷が増えていく。
服を貫通し、皮膚がぱっくりと裂けて、血飛沫が飛び散りながら、少女は膝をついてしまう。
スカイれいかは、四つの風を操る異能を持つ。
両手両足の四部位から風を生み出し、それを意のままに操ることが出来る。
右手から生み出る風をAとする。
左手から生み出る風をBとしよう。
同じく、右足と左足の風をC、Dとする。
この四つの風は全くの別物であり、それぞれ世界に一つしか存在できない。
分かり易く一例を挙げるなら、Aの風を連続で生成することが出来ないということ。
四つの風『A~D』の同時展開数に制限はない。
つまり、一度に発生できる風は四つのみ。
この四つの風は、本人の意思関係なく、物や人にぶつかるまで消えることはない。
消えてしまった風は、また同じ部位から生成可能。
風を生み出す際、少量のスタミナを消費する。
仔細は伏せるが、この模擬試合において、スカイれいかは3つの技を披露した。
両足の風『CD』を、そのまま両足付近に固定することで可能な飛行能力。
両手の風『AB』で防護壁、同じく両手の風を使った鎌鼬。
鎌鼬の射程は、言わずもがな。
対象に当たるまで消えることは無い。
いずれの技も、現実世界でお馴染みのある四つの風から、二つずつ複合することで発動を可能にしている。
ひまれいか「つまりスカイれいかは、風を刃として自由自在にコントロールできるのさ。これがまた侮れない。風が故に、刃を視認することが出来ないからな。」
いちご「いやいや、刃は分かるんだけどよ、風バリアはどうなんだよ!?そんなんであいつの拳が止まるっていうのか?巨人と殴り合ってたあの力を!?」
姫れいか「あんまりひまれいかさんと口を聞かない方がいいと思いますよっ!」
ひまれいか「何も止めたとは言ってない。少しズラしてやればいい。逸らすんだよ。風の防護で、僅かだが拳の軌道を狂わせたのさ。」
そうこうしている間にも、少女は次々と切り刻まれていく。
展望台の高さから見ても分かりやすいほどに、少女の身体は血で染まっていた。
いちご「・・・卑怯じゃねぇか!安全圏から飛び道具連射なんて、俺ですらやらねぇと思うぞ!?」
ひまれいか「その通り。スカイれいかは元から卑怯だからな。モ〇ハンも隻〇もゴッド〇ーターも、同じようなプレイングだった。常に安定を取るのがスカイれいかなのさ。」
ゆうれいか「それってゲームの話~?よく覚えてないけど流石に詳しいね〜。」
ゲラゲラと笑うゆうれいか。
それをなだめる姫れいか。
いちごの心奥に溜まっていた感情が爆発する。
いちご「馬鹿じゃねぇのか?!そういうことを聞いてるんじゃねぇ!あいつさっきからうずくまって動いてねぇマジで死ぬ!これってもう勝負ついてるだろ!?誰か止めろよ見てられねぇ!!・・・思えば最初の試合もそうだった!いや試合じゃねぇ!こんなの公開殺戮ショーじゃねぇか!?本気で殺す気・・・分かってんのか!?人が死にかけてるんだぞ!なのにお前らどうして笑っていられるんだ?!」
いちごの叫びに、展望台が静まり返る。
ひまれいか「まあごもっともだな。いちご、お前は正しいよ。」
それだけを言い、黙ってしまうひまれいか。
ゆうれいかも、何も言わずに試合場の方に向き直る。
ただ、それだけ。
姫れいかでさえも、口を開くことはなかった。
いちご「おい、待てよ・・・。まさか最初から知ってたってのかお前ら!?」
いちごの顔が青ざめていく。
この試合が、模擬ではない何かということに気づきはじめる。
スカイれいか「大丈夫だよいちごちゃん。殺しはしないから。」
いちご「!?」
いちごの頭上から、声が響き渡る。
あろうことか、戦闘中にもかかわらず、スカイれいかは聞き耳を立てるどころか、会話に参加し始めたのだ。
少女にそっぽを向きながら、攻撃の手を緩めることなく。
スカイれいか「私だって、胸が締め付けられるくらい苦しい気持ちなんだよ?まだ子供の姿をしたあの子を切り刻むだけで!辛いよ!でも安心して?審判のふぁっきゅーちゃんがいれば、あの傷も元通りに治してくれるから!だからいちごちゃんは心配しなくていいよ!ぜーんぜん大丈夫だから!」
言葉だけ見れば、筋は通っている。
だがしかし、その顔は嗤っていた。
人を小馬鹿にしたような、そんな顔。
いちごは、スカイれいかの本性を垣間見る。
いちご「性根・・・腐ってるぜ・・・テメェっ・・・!」
治るからといって、ここまで躊躇なく人を傷つけることが出来るのか?
少女に見向きもしないまま刃を飛ばしておいて、『心配しなくていい』とどの口が言えるのか?
いちごは、憎しみの感情を隠すことなく露にする。
スカイれいかの所業を許すことが出来ない。
納得がいかない。
認めることが出来ない。
負けてしまえ。
それだけの一心で、いちごはスカイれいかを睨み続けた。
この時、いったい誰が予想しただろうか。
次の瞬間。
一人の敗北によって、試合はあっけなく終わりを迎えることになる。
時は少し遡る。
少女は、鎌鼬を受け続けていた。
目には見えない攻撃というのが、少女を苦しませる一番の要因となっていた。
自慢のスピードで撹乱を試みるも、何故か一つとして避けることが出来ていない。
まるでそれは必中のように。
壊れた両腕は穴だらけで、身体を守る盾にもなりはしない。
脚も最早、走ることすら叶わないほどに傷は深い。
攻撃の正体が掴めないことによる、精神的ストレスも大きい。
文字通り、絶体絶命。
・・・あれ?
これ・・・本当に・・・殺す気じゃん・・・。
激痛と寒さを味わいながら、少女は闘志が抜け落ちていくのを感じていた。
どうにかしなければ死んでしまう。
それは分かっているのだが、何も案が浮かばない。
嫌だ・・・。
まだ私は生きたい。
違う、生きなければいけないんだ。
死ぬわけにはいかない。
ここで死んだら・・・世界が終わってしまう。
諦めの悪い性格が、僕の取り柄だから・・・。
少女の記憶と、別次元の記憶が混同する。
足りていなかった気力が、足されていく。
無くなった筈の思考を取り戻していく。
闘志が、湧き上がる。
「はぁっ・。・、はぁっ・。・」
少女は息を整える。
さぁ。
ここまで追い詰められてなお、私に何ができる?
考えろ。
敵は上空。
両手両足はボロボロで、ゆっくり動くのがやっとだ。
動かすことが出来るということは、神経系は無事らしい。
両脇に土の壁。
登ることはもう不可能。
途中で切り刻まれて終わりだ。
そもそも登ってどうにかできる距離じゃない。
いや、土を掘って洞穴を作っていけばあるいは。
・・・駄目だ。
土だろうと、あの風は貫通してくるかもしれない。
そもそも、身体が満足に動かせないのだ。
一歩進むだけで、激痛が走る。
その場で出来ることを探すしかない。
他に利用できそうなものは、私の血と、さっきから飛んでくる風の攻撃くらいか?
どうやって?
あいつの風を、私の拳で弾き返すのか?
衝撃波とかで?
とてもじゃないが無理だ。
ぶっつけ本番で出来るとは思えない。
こんなボロボロの状態で、遠距離攻撃なんて―――
・・・。
あれ?
少女自身、突拍子もない閃きに困惑していた。
この状況を打開できる、ある一つの馬鹿げた考えが頭をよぎったからだ。
次第にそれは、半信半疑から確信に変わる。
決して不可能な戦法のはずなのに、実現可能な気がしてならない。
ありえないと思いつつも、本能が身体を動かしていく。
出来る筈がない。
出来る筈がない。
ありえない。
・・・。
おかしいな。
そうじゃない。
私は既に、知っている。
なんでだろう。
この技の使い方を知っている。
少女は、スカイれいかに向けて真っすぐと、両腕を突き出す。
スカイれいかは気づいていない。
少女に見向きもせず、刃を飛ばしてきている。
少女の頭の中のイメージ。
全身傷だらけのフリーれいかを思い出す。
瞬間、それは勢いよく放たれた。
王の間に、赫い光が迸る。
スカイれいか「・・・え?」
それは最早、見間違うことない。
フリーれいかの反射ビームそのものだった。
スカイれいかは勿論、その場にいた誰もが理解不能に陥る。
使用した少女すらも。
何故?
フリーれいかの異能を・・・少女が?
狙い通りとはいえ、それは余りにも予想外の結果。
少女の異能、その発現。
スカイれいか「があああぁああぁあぁああああぁあああぁああっ!!!」
防御が間に合わず、ビームの光に飲み込まれるスカイれいか。
鎌鼬と防護壁、二つの技は同じ風を使っているが故に、同時発動が出来ない。
全身が切り刻まれ、声にならない悲鳴をあげる。
ふぁ「そ、そこまでっ!!」
審判の合図が入る。
誰が見ても一目瞭然。
スカイれいかは、頭から天井に突っ込んで、上半身が埋まってしまっている。
気を失っているのか、その両足はぐったりと動く気配がない。
ひまれいか(・・・一瞬だけ心中を受信できなかった。一体何があった?)
ふぁ(あれはどう見ても、リーダーの反射ビーム!・・・他人の異能をコピーする異能?!)
キリト(一度見た技を使える?それとも一度くらった技を?もしくは奪った?)
いちご「・・・や、やった!なんか全然意味分かんねぇけど、あいつ勝ったんだな!俺の願いが通じたぜっ!」
ゆうれいか「あ~。スカイちゃん余所見してなければ避けれたね~。漫画みたいに頭だけめり込んでるよ~。面白いね~。」
各自、思い思いに考えを巡らせ、発言する。
結果だけ見れば、そう思うのも不思議ではない。
しかし、一人だけ。
尋常ではない反応を示した者が一人だけ。
フリー「・・・!!・・・・・・・・・っ。」
同じ異能を持つ、フリーれいか。
その身体は小刻みに震え、信じられない物を見るかのように目が血走っていた。
フリー「おかしいだろ・・・誰がやった?何故ここにいる?あいつら知ってるのか?再誕計画はどうなった・・・!聞いてないぞこんなことっ・・・。誰がヘマをした?何かイレギュラーが起きたのか・・・?」
うわ言を繰り返すその姿はあまりにも不気味。
ひまれいか(・・・気持ちは分からなくもないが、少し反応が過剰すぎないか?)
フリーれいかの様子がおかしいことに、近くにいたひまれいかだけが勘づく。
ここまで表情を強張らせたフリーれいかは、見たことが無い。
ひまれいか(何を言ってる?小声すぎて聞き取れない。もう少し近づいて・・・。)
密かに聞き耳を立てるひまれいか。
しかし、それを敏感に察知したフリーれいかは、ひまれいかに向き直り口を開く。
フリー「やってくれるよな!あのチビ、何をどうしたら俺のビームが使えたと思う?ひまれいか?」
赫の瞳。
異能封じの異能。
ひまれいか(ちっ。敏いな・・・。相変わらず思考を読ませてはくれない。まあ、いつもの調子に戻ったようだし、杞憂だったか・・・?)
ひまれいかの異能『思考透視』を発動させるには、条件が一つある。
『ひまれいかの問いかけに、対象が答えること。』
たったこれだけで、思考透視が可能というローリスクハイリターンな異能なのだ。
対処法は会話をしないこと。
あるいは、会話が成立しないような、荒唐無稽な言葉で質問の答えを発すること。
そしてまたあるいは、フリーれいかのように、異能そのものを封じること。
ひまれいかは今日に至るまで、一度もフリーれいかの思考透視に成功していない。
かわりにひまれいかは、傷だらけで佇んでいる少女の思考透視を行う。
ひまれいか「・・・なるほど。どうやら彼女は無意識のうちに、反射ビームを撃ったようです。本人自身も、酷く混乱している。」
フリー「無意識?ますます意味が分からんな。こうして赫の瞳が発動できる以上、俺の『絶対反射』が奪われたわけではない。だとすると、一時的に借りたのか?何にせよ実際に撃って見せたんだ。となると・・・これが少女の異能、その切れ端なのは間違いない。」
ひまれいか「まだ先があると?」
フリー「ああ。最終戦で更に煮詰める。・・・けど、どーすっかなー。もしもチビの異能がコピー能力だとするなら、対戦相手は限られるぜ。」
ひまれいか「・・・いたずらに、異能を与えたくないということですね。」
フリー「俺なら止められるが、いずれ脅威になるだろうな。」
少女の異能が、『一度体験した相手の異能を、いくらでも記憶して使用できる』とした場合。
既に、少女はいくつもの体験をしてしまっている。
ふじれいか、スカイれいか、フリーれいか。
それぞれの異能である、変革巨大神話、四つの風、絶対反射。
それだけではない。
ゆうれいか、姫れいか、ひまれいか。
はたまた未来の話。
これから少女が出会うであろう全ての人物。
それらの異能が使えたとしたら?
全てを扱えたとしたら?
頼もしい存在であると同時に、それはもはや脅威でしかない。
力関係が崩れる。
誰もが恐怖する。
ひまれいか(あんな少女に、それができるとは思わないがな。自分の怪我よりも、相手の怪我を心配しているのだからな。・・・!?)
天井に突き刺さっていたスカイれいかの姿が見えない。
下ではちょうど、治療が終わっていた所であった。
ふぁっきゅーれいかの『時間逆行』によって、少女の服装と身体は元に戻る。
「ふぁっきゅーちゃんありがとうなのだ・。・スカイれいかさんも、早く治してあげてほしいのだ・。・」
ふぁっきゅーれいかは息をつく。
治療を始める前から、少女はスカイれいかの心配もしていたからだ。
ふぁ(あれほど切り刻まれたのに、憎しみは一切なし。敵の心配までしてしまうなんて、相変わらず優しい・・・抱きしめたい。)
その邪な感情を速攻で振り払い、ふぁっきゅーれいかは口を開く。
ふぁ「高すぎて私たちじゃ無理よ。展望台の人たちに任せましょう。それより、さっきのビームはどういうこと?あなたの異能ってことでいいのよね?」
少女は首を傾げる。
「なんか・・・違う気がするなの・。・」
ふぁ「えぇ?」
相手の異能をコピーできる力。
もしもそんな力が私に芽生えたとしたら、それはもう素敵な能力。
でも違う。
確信を持って言える。
私の異能はコピー能力じゃない。
それが感覚でわかる。
まるで私が私じゃないような、不思議な感覚。
私、いったいどうしちゃったの。
そういえば・・・思い出した。
リーダーと初めて会ったとき、変な頭痛に襲われたことがあったっけ。
あれって結局・・・何だったの?
私がリーダーの異能を使えたことと何か関係が?
・・・わからない。
ふぁ「ちょっと待って・・・。スカイれいかはどこに行ったの?」
「え・。・?」
弾かれたように、天井を見上げる少女。
確かにどこにもいない。
突き刺さった跡である亀裂は確認できるが、スカイれいかの姿が消えているのだ。
瞬間。
少女の背後から、突然の気配。
「・。・!」
少女は勢いよく前に飛び出す。
飛び出したというより、緊急回避に近い。
ふぁ「・・・田中みこ。」
そこには、いつぞやのピンク装束を着た忍者、田中みこであった。
デジャヴだ・・・。
心臓に悪すぎだよ!
少女にとって、田中みこに背後を取られたのは二度目である。
一度目はリーダーとの戦闘時。
その時と同じく、いきなりその場に現れた田中みこ。
その両手には、傷だらけのスカイれいかを抱えている。
田中みこ「・・・。」
田中みこが、スカイれいかの身体を地面に降ろす。
ふぁ「分かってる。すぐに治療するわよ。」
ふぁっきゅーれいかが、スカイれいかの身体に触れる。
そしてすぐさま治療の開始。
「田中みこさん・・・身動きが取れないスカイれいかさんを運んできてくれたなのね・。・ありがとうなのだ・。・」
田中みこ「・・・。」
「あ、えっと、そういえば挨拶がまだだったなの・。・ちゃお☆なのだ・。・」
田中みこ「・・・(ペコリ)」
短くお辞儀する田中みこ。
・・・寡黙キャラ?
それにしても、顔立ちが凛々しいというか、凄い美人というか。
なんか緊張するかも・・・。
ふぁ「田中みこは喋れないのよ。まあ喋れないこともないんだけど。こちらの言葉は伝わってる。だけど、田中みこと会話した者は、まだ誰もいないわ。彼女とコミュニケーションを取りたいときは、すべて仕草で伝えなさい。」
「よ、よろしくなのだ・。・v」
少女が片手でピースする。
すると、田中みこも続けてピースしてきた。
ふぁ「それよりも、ここに田中みこが現れたことが問題よね。影の護衛がこんな表舞台に立つなんて。もしかしてだけど、最終戦はあなたなの?」
「・。・!」
少女は臨戦態勢を取る。
田中みこがゆっくりと、手に持っていた太刀を抜いていたからだ。
ふぁ「・・・冗談よね?あなたの実力は伝説クラスよ!?この子とは天と地ほどの差があるわ!勝負にすらならない!・・・リーダー!」
フリー「分かってるさ。こいつは田中みこの独断行動だ。」
展望台の上で、頭を抱えているフリーれいか。
田中みこに向けて大声を張り上げる。
フリー「田中みこ!・・・戦いたいのか?」
この言葉に誰もが凍り付く。
田中みこ「・・・(コクッ)」
しっかりと。
フリーれいかの顔を見ながら。
田中みこは頷いた。
フリー「よし、なら最終戦はお前だ田中みこ!だがそれを認める代わりに、少し手加減はすること、それがチビと戦うにあたっての絶対条件だ!こちらがおかしいと思ったときは速攻で止めさせてもらう!」
短くお辞儀する田中みこ。
親指を立て、グッドサインを出している。
ふじれいか「・・・馬鹿なっ!成立してしまった!なぜに田中みこなのだっ!?」
いちご「なぁ、田中みこ田中みこって、そんなにやばい奴なのか?」
ひまれいか「やばいなんて言葉で片付けばいいがな。私ですら、田中みこの全てを把握できていないのだから。」
田中みこ。
その正体は一切が謎に包まれている女忍者。
リーダーを守る側近であり、滅多に姿を現さないことから『影の護衛』と呼ばれている。
その能力は未知数であり、王の間上層部でも把握できている人数は少ない。
だがしかし、ふぁっきゅーれいかやふじれいかの怯えようから、只者ではないことは伝わってくる。
ひまれいか(田中みこにどういう心の変化があったかはわからない。あいつとは会話したこともないからな・・・。私の異能の発動条件は満たせていない。)
キリト「田中みこ・・・。俺と同じ伝説クラスの力。堪能させてもらうぜ。」
一人静かに、ほくそ笑むキリト。
彼は今か今かと、試合の開始を待ち望んでいた。
スカイれいか「・・・珍しいね・・・みこちゃん。」
意識を取り戻したスカイれいか。
その身体は元通りに戻っているが、意識はまだ朦朧としているようだ。
ふぁ「体の傷は治ったけど、精神的ダメージは消えたわけじゃないわ。どう?一人で飛べそう?」
スカイれいか「飛べるわよ・・・。ありがとうふぁっきゅーれいかさん。」
その場で浮いて見せ、健康体であることをアピールするスカイれいか。
そして、少女の方に向き直る。
スカイれいか「効いたわ。あなたのビーム。・・・私の風と、どっこいどっこいの威力だったわよ。」
ふぁ「そりゃ、あなたの風をそのまま反射させたビームだしね・・・。」
スカイれいか「・・・。あんな戦法取った私が言うのもなんだけど、勝ちなさいよ、最終戦。」
「・・・ありがとうなのだ・。・スカイれいかさんのおかげでまた一歩、強くなれたなの・。・v」
スカイれいか「・・・応援してやろうと思ったけどやーめた。・・・みこちゃん!私の仇取ってね!!」
そう言い残し、スカイれいかは展望台へと飛び去って行った。
その姿を、敬礼しながら見送る田中みこ。
ふぁ「素直じゃないのも相変わらずね。さて・・・。用意はいいかしら?」
ふぁっきゅーれいかの正面に立つ二人。
少女と田中みこ。
お互いに顔を見合わせ、距離を取る。
フリー「準備ができたようだな!ふぁっきゅーれいか!始めろ!」
ふぁ「これより、模擬戦最終試合を始めるわ!双方構えっ!」
場が静まり返る。
これが最後。
拳を構える少女と、太刀を構える田中みこ。
「二度も背後を取られた借り、返させてもらうなの・。・!」
田中みこ「・・・(キリッ)」
キリッ・・・?
よくわからないが、相手もやる気十分らしい。
忍者の装束。
帯刀している太刀。
これはこれで、わかりやすい。
想像できる異能は、うーんと。
クナイや手裏剣・・・。
・・・なんてこった、また飛び道具か!
いやいや待て考えろ。
私の忍者像はそれだけで終わりか?
発想を柔軟にするんだ。
忍者、忍者、忍者・・・。
ふぁ「戦闘開始ッ!!」
だめだ、戦いながら勝機を掴んでいくしかない。
狙いはいつも通り!
――!?
愚かにも、少女がとった行動は三度の突進。
しかし、田中みこを腹パンしたはずの拳は、煙に覆われて空を切った。
少女の眼前に、三人の田中みこが立っていた。
どれも太刀を持っており、背格好も同じで見分けがつかない。
影分身!?
・・・予想以上に忍者してるなぁ~!!
田中みこ「・・・。」
そのまま、少女の周りを取り囲むように高速移動する田中みこ。
その光景は、桜の花びらが舞い散る姿のような。
何百も、何千も、桜の花びらが舞っているような錯覚。
そう見えてしまう。
つまり、それほどの速さ。
「・・・・・すごい・・・なの・。・」
影分身に驚いていた感情は消え去っていた。
これが戦いであることを忘れてしまうような。
それほどまでに、美しく鮮やかな光景。
しかし、それはそれとして。
ここまでのスピードを見せつけられたら、少女も黙ってはいられない。
負けじと、少女は神速を超える。
三対一ではあるが、今の少女にはぎりぎり目で追えている。
驚きはしたが、翻弄されてはいない。
いちご「攻め合いだっ!すげぇぞあいつ!見えねぇけど速ええええぇぇっ!!!!田中みこってヤバいんだろ??そんなやつと互角に渡り合ってやがるっ!!いいぞ、そのまま押し切るんだっ!!」
姫れいか「また急に元気になったねいちごちゃん。」
ひまれいか「忘れていないか?田中みこは手加減していると。つまり、少女のレベルまで速さを合わせているんだ。渡り合えるのは当然だな。」
いちご「そっちこそ忘れてねぇかおらぁ!あのロリはいつでもビームが撃てるんだぜ!?それ打ちゃあジ・エンドってやつよ!そんなことも分かんねぇのか!!」
ひまれいか「反射ビームだということを忘れていないか?くらったダメージを反射するビームだよ。つまり、ある程度怪我をしなければ撃てない諸刃の剣だ。もっとも、やつは撃てないらしいがな。」
いちご「あぁ?!なんでそんなこと分かんだよレスバ野郎!!」
姫れいか「いちごちゃんお口チャックですっ!」
ビシィィィッ。
フリー「それは確かなのか、ひまれいか。」
密かに聞いてくるフリーれいか。
ひまれいか「ええ。もうビームは二度と撃てない・・・彼女はそう理解している。いや、これは・・・単に撃ち方を忘れてしまったのか。」
フリー「撃てないのか?」
ひまれいか「おそらく・・・。何か条件を満たせたからこそ、さっきは撃てたのだ。しかし、彼女はその条件をまず分かっていない。そして、もうビームは撃てないということを既に理解している・・・?」
ひまれいかは頭を抱える。
自分で言ってて訳が分からなくなったのだ。
出来ないということを理解している??
仮に、ゲームによくあるステータスに置き換えてみよう。
反射ビームのMP消費を100とする。
少女のMPは残り20しかない。
ゲームのプレイヤーはこう思うだろう。
MPが足りないから反射ビームは撃てない。
だが、少女のMPが分からなかった場合。
状態異常『嫌がらせ』で、MP数値の部分が隠れてしまって見えないとしたら?
これでは、ゲームをプレイする側も苦笑い。
反射ビームのコマンドを選んで、決定ボタンを押して確かめようとするだろう。
次の瞬間、二通りのパターンに分かれる。
ビームが出たら、少女のMPは100以上だと理解できる。
逆にMPが足りませんの表示が出ると、少女のMPは100以下だと理解できる。
つまり、決定ボタンを押すまで、どちらのパターンなのか分からないということ。
しかし、少女は違った。
決定ボタンを押すことなく、撃つことが出来ないと少女は確信しているのだ。
なぜ?
そもそも、反射ビームはフリーれいかの異能だ。
また何かの偶然が重なって、反射ビームが使えるかもしれないというのに。
それを、少女は決してありえないと断言しているのだ。
・・・少女の脳内で。
ひまれいか(原因不明な事象ほど薄気味悪いものは無い。解明してやるぞ。・・・だがしかし、昨日から透視を使いすぎた。・・・休めるときに休んだ方がいいな。)
ひまれいかは、少女との思考リンクを解除する。
その場で寝転がり、目を瞑った。
ゆうれいか「あれ~。寝ちゃうの~?」
ひまれいか「少し仮眠を取るだけだ。用事がないなら起こすな。」
ふじれいか「・・・ストーカーが試合を見もせずに寝るなんて・・・。結構な対戦カードだと思うんだが・・・。」
フリー「まあそういうことだろ?案外早く終わりそうだしな。」
突如、紫色の輝きが王の間を照らし出す。
光の発生源は、田中みこの太刀からであった。
彼女の姿は三人から一人へと戻っている。
いつの間にか、少女が分身を倒したようだった。
フリー「レベルを一つ上げたな田中みこ。・・・『紫電一閃』。いまのチビに受け止めることか出来るか、どちらに転ぼうと見物だな。」
ふじれいか「や、殺る気だ・・・。くっ・・・。」
光は衰えることなく広がっていく。
刀身だけではない。
田中みこの身体にまで、紫色の光を纏っていく。
キリト「・・・俺のソードスキルと似ているようで違うな。田中みこの体内から力が湧き上がっている。」
「・・・させるかなの・。・!」
光を止めようと、少女は神速を超えて零と化す。
少女の全霊をかけた剛の拳。
瞬間、驚くほどのしなやかさで田中みこはその一撃を回避した。
「—————!・。・?」
まさに奇跡の紙一重。
当たれば木っ端微塵の威力である拳を、敢えてすれすれで避けたのだ。
それを苦もなく成し遂げながら、さらにここでは終わらない。
先ほどの一撃に勝るとも劣らない素晴らしさで迫る刃の切っ先。
回避直後に放たれたこともあって不可避の速さだ。
避けきれない。
鮮血が舞う。
少女はバランスを崩しながらも、数メートル後退した。
今のは正直ヤバかった・・・!
・・・えげつないにもほどがあるっ!
一刀両断でもする気かっ!
ざっと分かるだけでも、あの紫色の光は電気・・・!
田中みこの身体は、電気で覆われている。
反射ビームは・・・駄目だ。
相変わらず撃てる気がしない。
・・・それにこっちはもう、出血が酷くて聞こえないんだ。
少し様子を見て、どうにか隙を見つけて・・・。
隙を・・・。
攻め入る隙なんて・・・・。
少女は切られた部分を手で押さえながら、田中みこを観察するが――。
見ただけで分かってしまう。
その佇まいは完成している。
一切の無駄が消失した桜木の如し。
これ以上欠けも割れもしない鍛え終えた存在が、少女を待っている。
そう、待っているのだ。
はやくかかってこいよと、少女の突進を待っている。
手加減をしている。
フリーれいかの言葉を、少女は思い出していた。
いや、分かってはいたのだがここまでとは。
一段階レベルを引き離されただけで、これほどまでの力の差を体感できる。
これが・・・ふぁっきゅーちゃんが言っていた・・・伝説クラスの実力!
フリー「だいたいは分かったな。あれが現段階の、少女の戦闘力だ。」
スカイれいか「・・・。」
周りの声も沈黙する。
少女の右耳が切り落とされていたのだ。
可愛らしい後ろ髪もまた、斜めに切られて歪な形となっている。
つまり、少女の反応が遅れていたら、首が切り落とされていたということ。
その事実を、ふぁっきゅーれいかが遅れて気づく。
ふぁ「—————!!そこま―――」
「待ってほしいのだふぁっきゅーちゃん・。・!もう少しだけ、もう少しで何かが掴めそうな気がするのだ・。・!」
そう言って、田中みこに向かって走り出す少女。
ふぁ「え!ちょっと!」
静止を振り切り、形振り構わず左右に走る少女。
今までの突進とは違う。
動きに巧妙なフェイントが混ざりだした。
キリト「そうだ。これから先、お前の走りは通用しない。勝つために捨てるんだ。今のスタイルを。」
伝説クラスとの対戦。
ある者は無謀な行動だと罵るだろう。
だが、少女にとってはまさに、願ったり叶ったりな展開なのだ。
これほどの実力者と戦えるという貴重な機会。
胸を借りるべきなのだ。
時にそれは、人を大きく成長させる。
異能の発現もまた同じ。
きっかけは様々だが、手っ取り早い方法が一つある。
大きな危機に瀕することで、それを呼び覚ますのだ。
この舞台は初めから、少女の異能を発現させるための――。
「・。・!?これは・。・?」
動き回っていた少女の身体が白く輝きだす。
少女の変化に、王の間がざわめく。
異能が発現したことは明らかであった。
フリー「何か来たな!はははっ!見せてみろ、おまえの正体を・・・。」
ふじれいか「白い光・・・?これがあの子の・・・。」
いちご「何が起こってんだぁああああ!」
ひまれいか「zzz。」
田中みこ「・・・(ニコッ)」
親指を立て、少女に向けてグッドポーズする田中みこ。
そして再び太刀を構える。
「これが・・・私の・。・」
少女は、流れ出る力の奔流を心地よく感じていた。
今ここに、少女は成る―――。
「痣患喪怠痛毒涜亡骸壊否罵咬骨廃罪淫廓墓憑嘲残壊戒瞞迷耗悶拙厄裂害疼閻殴困泣捨斬閣妄鵜狐乱蔑妬焔非蛮判瘴刃悲絞災暗尽塵蛆髑陰犯苛葬嘔惨埃咎潰朽獄剖死懲傷致恨猛辱詭禍嫂呪殺瞑終独鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱鬱」
それは、解き放ってはいけない力だった。
白い光は消え失せ、黒い輝きを突如として放ちだす。
異様なのはそれだけではない。
少女の両手には、禍々しい黒焔が燃え上っていたからだ。
フリー「・・・・・・・・・黒いな。キリトが好みそうな色だぜ。あれは炎か?」
ゆうれいか「あの可愛い少女には似つかわしくない色だね~。」
キリト「か、かっこいい・・・。」
展望台で見下ろしている人々は、距離のせいもあり気づいていない。
少女が既に、正気を失っていることに。
気付いているのは、同じ試合場に立つ二人だけ。
田中みこ「・・・!」
ふぁ「うそ・・・。これ・・・まさか・・・。」
黒い光は、意思を持っているような動きで、少女の足元を塗りつぶしていく。
醜悪な気配は微塵もないが、不吉なものであるのは間違いない。
「・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・。・vvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvvv」
壊れかけのラジオのように、戯言を繰り返す少女。
その眼は狂気に飲まれ、あらぬ方向を向いていた。
と思えばグルンと、眼球が回転する。
目の前の敵を認識したのだ。
田中みこ「・・・(ゴクリ)」
田中みこの額から汗が滴る。
少女に恐怖しているわけではない。
それはふぁっきゅーれいかも同じであった。
この黒焔を、二人は知っていたのだ。
少女が前屈姿勢を取る。
その狙いは明らか。
田中みこは、静かに太刀を構え直す。
ふぁ「・・・田中みこ・・・お願いしてもいいかしら?」
田中みこ「・・・(グッ👍)」
今ここに、少女の魂を取り戻すため。
秘密の共同作戦が始まろうとしていた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます