第7話 束の間の平穏
■■「ねぇ・・・、どうして俺たちはJDじゃないんだろうね・・・。」
声がする。
これは記憶。
■■がいた頃の、終わった世界で起こした最後の日。
■■「俺・・・悔しいよ。」
??????「・・・僕だって。」
青年達は小さく呟く。
彼らは大都市の真ん中で、空中を仰ぎ見ていた。
周りには火の海。
崩壊寸前の一歩手前。
??????「分かってる・・・。狙いは・・・僕じゃない。」
今にも泣き出しそうな、苦しそうな青年の顔。
空には大きな、時空の裂け目が存在していた。
??????「分かってるよ・・・。」
その言葉を最後に、幻想は儚く掻き消えた。
少女は現実へと浮上する。
「・・・夢・。・?」
ふぁ「おはよう。起こしてしまったかしらね。」
少女は辺りを見渡す。
ベッドが二つ、タンスにテーブル、狭いながらも整った個室。
・・・思い出してきた。
あの金髪男と・・・私戦ってた・・・?
ふぁ「ここは王宮の二階、私の部屋よ。今の時刻は19時、あなたがリーダーと面会して4時間は経ってるわ。」
少女の頭が覚醒する。
「あ、あのとき、一体どうなったのだ・。・!?」
血まみれで座り込むフリーれいか。
それ以降の記憶が・・・無い。
突然、何かに飲み込まれたような感覚がしたのは覚えている。
この正体は先に知っておきたい。
ふぁ「情報交換どころじゃなくなってしまったわね。本当にごめんなさい。あなたは、リーダーの最後っ屁で倒れたの。あれはこの世界でのみ使える必殺技、私たちはそれを異能と呼んでいるわ。」
「・・・異能・。・」
名前持ちにのみ扱える特別な力って、ふぁっきゅーちゃんは言っていた。
だ、だめだ。
どうして気絶していたのか思い出せない!
ふぁ「異能は名前持ちにだけ発現するの。私達のリーダー、フリーれいかも名前持ちだから異能が使える。そして私たちも例外じゃないわ。」
確かに、以前そんなことを聞いた気がする。
私も例外じゃないってことは・・・?
「えーと・・・、私の異能は身体能力の向上・。・?とすると、ふぁっきゅーちゃんの異能も似たような自己強化みたいなものなの・。・?」
ふぁっきゅーれいかと共闘したときのことを思い出しながら、自論を語る少女。
ふぁ「あー、ちょっと順に分けて説明していくわね。あなたが目を覚ましたら真っ先に説明しようと、待っていたのよ。」
既に用意していたのか、文字と絵が描かれている紙を数枚並べていくふぁっきゅーれいか。
ふぁ「まず、あなたの烈風のような乱撃スタイル。あれは、訓練すれば誰にでも出来るレベルであって、異能では無いわ。」
・・・そうなの!?
あの速さが私の取り柄、私だけの特別な力・・・。
ふぁ「前に見せた私の回し蹴り、あれもテクニックであって異能では無い。異能というのはね、そんな簡単な枠組じゃないの。」
「ど、どうしてそんなことが断言できるなの・。・!ふぁっきゅーちゃんのことならまだしも、私のは――」
ふぁ「いいえ。分かるのよ。リーダーと戦っていた時に、あなた以外の全員が気づいた。リーダーと面会させたのにはそういう意味もあるの。・・・あの赫の瞳に見つめられると、全ての異能が発動不可能となる。」
目つきがとても悪い顔の絵が差し出される。
赫い瞳の部分に、指で穴を空けていくふぁっきゅーれいか。
少女はあの時の状況を思い出す。
戦闘前の不思議なオーラの奔流。
憎たらしい顔と、赫く光る瞳。
自信満々からの態度から、ボコ殴りにされたフリーれいか。
戦闘後の、「まさかそうだとは思わなかった」発言。
彼は少女の異能を完全に封じた気になっていた。
サーベルを捨てて素手での勝負を仕掛けてきたのも、今考えると、異能無しでの純粋な勝負をしたかったのかもしれない。
だが、そもそも少女のそれは異能ですらなかった。
生まれ持ったスピードと、爆発的な威力を誇る鉄拳。
思惑が外れるフリーれいか。
そのまま、なす術なく死の淵まで追い詰められて――。
少女はようやく自覚する。
あと少しで、人を殺していたという事実を。
「あの・・・金髪、今度会ったら謝りたいのだ・。・」
ふぁ「ほんと優しいわねあなた。あの不意打ちビームのおかげで、こっちも大変だったんだから。」
「・・・ビームが飛んできた瞬間はあまり覚えてないなの・。・そういえば、ふぁっきゅーちゃんが私を・。・?」
ふぁ「ええ。治療したわ。痛みはもう残ってないはずよ。」
「あんまり、怪我をしたっていう自覚がないのだ・。・;そのビームはそんなに強い攻撃だったなの・。・?」
ふぁ「あなたがくらったのは反射ビームなの。これは術者が受けたダメージをそのまま返すことができる異能よ。つまり、あなたがリーダーに与えた分のダメージをそっくり返されたの。」
「え・。・、そ、それって結構やばくないなの・。・;??」
ふぁ「やばいわね。あなたの身体、原型をとどめて無かったもの。」
あっかからんと答えるふぁっきゅーれいか。
ふぁ「だからこそ、私の異能で戻したのよ。元の健康体にね。」
少女の眼前に、リーダーの似顔絵が突きつけられる。
穴が空いていたはずの瞳部分は、シワひとつ無く綺麗に塞がっていた。
少女は開いた口が塞がらない。
ふぁ「これが・・・異能なのよ。このトンデモ現象が異能。身体能力の向上なんて比べ物にならない力なの。」
リーダーの似顔絵とはまた別の用紙を突きつけてくる。
文字だらけの筈だった用紙が、いつの間にか白紙へと変わっている。
――いや、戻っている。
ふぁ「私はあらゆる物や人を戻せる、ただそれだけよ。対象に触れながら戻したい時間分を、その場で待たなければいけない制約があるけどね。」
はじめに戻したい期間を決める。
三分でも一日でも特に限界範囲はない。
期間を定めたら、すぐさま対象に触れる。
身体の一部分でも触れていれば可能。
1,定めた期間分、対象に触れ続けなければいけない。
2,戻したいという強い意志を常に保ち続ける。
この二つの条件を満たさない限り、この異能は発動しない。
つまり、一日分戻したいなら、一日中触れてなければいけないということ。
対象が人である場合、戻す前の記憶は引き継げる。
少女の場合、フリーれいかとの戦闘で致命傷を負い、この部屋に運び出されるまで二十分弱といった僅かな時間。
ふぁっきゅーれいかは、余裕を見計らって三十分もの間、少女の手を握りしめていた。
だからこそ少女は、リーダーと面会する前の健康体に戻ることが出来たのだ。
「す、すごいのだ・。・」
今まで蓄積されたダメージを、相手に反射させるビーム。
赫の瞳とやらで、異能を無効化する異能。
対象を戻すことができる、ふぁっきゅーれいかの異能。
少女にとってはまさに、ファンタジーそのもの。
「わ、私にも異能が使えるなの・。・?確か異能は名前持ちにしか使えないって言ってたのだ・。・!だったら、名前持ち疑惑の私にも使えそうなのだ・。・!」
ふぁ「異能はね、発現するまでしばらく時間がかかるのよ。あなたこの世界に来てどのくらいかしら?おそらく、一日や二日程度よね?」
少女は始まりの部屋を思い出す。
ホコリだらけの薄暗い部屋。
あれを始点だと考えると、確かにそれほど時間は経っていない。
ふぁ「さっきも言ったけど、あなたも例外じゃないの。あなたにはこれから間違いなく、近いうちに異能が発現するわ。それがこの世界のルール。」
少女は息を呑む。
こうもはっきりと断言されてしまっては、疑う気持ちも失せてくる。
「・・・私、異能のことについてもっと知りたいなの・。・」
まだまだ知らないことが多すぎる。
今日一日は、情報集めに徹するべきだと少女は直感した。
ふぁ「・・・身体はもう大丈夫なの?」
「もう全然たいしたことないのだ・。・v」
ふぁ「だったら少し、この隠れ家を回ってみない?実はあなたに会わせたい人がいるの。異能のことについても詳しく聞けるはずよ。」
「それいいかもなのだ・。・!探検してみたいなの・。・!一体どんな人なのだ・。・?」
ふぁ「この隠れ家の生みの親よ。」
少女とふぁっきゅーれいかは、隠れ家内の中央広場、繁華街へと来ていた。
見渡す限りの店と、それらを取り囲む群衆。
ふぁ「彼はここで鍛冶屋を営んでいるの。あなたの拳に似合う装備も見繕っておいたのよ。」
「隠れ家の生みの親っていうから、もっと豪華な建物にでもいるのかと思ったなの・。・」
ふぁ「彼自身の希望なの。あんまり特別視はされたくないみたい。・・・ああ、着いたわ。この店よ。」
そこにはポツンと、木の小屋が一つ。
いや、そもそも小屋といっていいのか。
まるで大きめの柵だ。
薄暗いカーペットを被せているが、明らかに尺が足りておらず、陳腐な見栄えとなっている。
店の前には、三人の客が立往生している。
入り口の狭さもあってか、この三人が去らないと店の中にも入れない。
「・。・;両脇の店舗のほうが、華やかで広くて賑わってるのだ・。・こ、この店であってるなの・。・;?」
ふぁ「本人はカモフラージュと言ってるわね。」
・・・意味あるのそれ?
も、もしかして、また変人が出てくるパターン!?
低い声「おや、また会ったね。」
店から出て来た人物に、声をかけられる。
目立つ帽子に大きい杖。
「あ、あのときの警告の人なの・。・!ちゃお☆なのだ・。・v」
そこには、いつしかの錬金術師風の女性が店から出ていくところであった。
低い声「ひまれいかだ。リーダーに打ちのめされた傷はどうだい?・・・ああふぁっきゅーれいかか。ならもう安心だね。」
ひまれいかと名乗った女性は、相変わらずの無表情で暗い顔の話し方。
ふぁ「さすが、情報が早いわね。」
そういえば。
どうして、私と金髪が戦ったことを知ってるんだろう。
・・・まさかもう、至るところに知れ渡ってるの!?
ふぁ「ひまれいかはね、情報屋なの。あなたとリーダーが戦ったことを知ってるのは、王の間での関係者を除けば、おそらくひまれいか一人だけよ。彼女の異能は何というか、ストーカーじみているのよね。」
ひまれいか「正確に言えば『・。・限定の情報』だな。私には全て視えている。」
「ひまれいかさんも、名前持ちなの・。・?」
ふぁ「現実世界ではちょくちょく名を見る配信者だったわね。彼女は『・。・分類図』という、全・。・の情報をまとめたデータベースの編集者でもあったっけ。他の・。・の行動と行方を監視して記録していた変人よ。」
ひま「誤解を招く言い方はよしてくれ。私はただ知りたいだけさ。私以外の・。・配信を録画し保存すること。それのどこが悪い?私の知的好奇心は誰にも負けない自負がある。私の場合、この保存した動画を金に変えているのだから何も悪くない。物事を動かすにはとにかく金が必要だ。人・物・金・情報と、どんどん交換されていくものが変わっていく。今のPayPayとかを見ると、金の実物が電子化されて情報で取引されているのさ。日本の人口もこのまま減っていくだろうし、
老人は無駄に増えていくだけ。今はまだ、外国人から投資対象として見られるほど技術があるから良いのだが――」
少女は頭を抱える。
これもこれで、なかなか厄介。
聞いてもないことをペラペラと話し続けるタイプ。
ふぁ(PayPayって・・・ここは異世界でしょうが!)
ふぁっきゅーれいかも同じ思いだったようだ。
いつの間にか、店の前には誰もいなくなっている。
店の中に入るチャンスだ。
ふぁっきゅーれいかは少女の手を掴み、未だ喋り続けているひまれいかを置いて、そそくさと店の中に入ろうとする。
「あ、ちょっと最後に聞きたいなの・。・!ひまれいかさんの異能って何なのだ・。・?ストーカー紛いの異能ってちょっと気になるなの・。・!」
ひまれいかは喋りを止め、少女の方に向き直る。
ひまれいか「おや、私と語り合いたいのかね。大抵の者は、私と会うたびに姿を消しているというのに。」
ふぁ「・・・あなた嫌われてるって自覚は無いわけね。異能のせいもあるんでしょうけど、話長いのよあなた。」
ひまれいか「私は情報屋だ。ともすれば、調査系の能力になるのは必然。」
「そうなの・。・?私はこの、錬金術師風の見た目をしてるからてっきり――」
ひまれいか「そうなのだよ!私は現実世界で、アトリエシリーズをトロコンするまでやり込んできたのだ。それが原因かは知らないが、いや、間違いなくそれが原因だろう。異世界で目覚めた時のことは今でも覚えている。異能が発言しない頃はまだ期待していたんだ。これ見よがしの錬金術師コスチュームだったからな!この杖も繁華街で――」
ふぁ「ちょ、ちょっと。」
ふぁっきゅーれいかが少女の手を引いて、ひまれいかと距離を取らせる。
一体何をそんなに焦っているのか、少女はわからない。
ふぁっきゅーれいかは、深刻な顔のまま口を開く。
ふぁ「もう先に言っておくわ。ひまれいかの異能は、対象と親しくなればなるほど効力を発揮するの。」
「・。・?親しくなるといったいどうなるなの・。・?」
ふぁ「親しくなった対象の身体情報、言動、心中を、彼女は受信することができる。ひまれいかが寝ている間も、対象とどれだけ離れていても、常にひまれいかの脳内データベースへと送られる。つまりあいつと仲良くなればなるほど危険、プライバシーもへったくれもない異能よ。」
「・・・心中って、頭の中を覗けるってことなの・。・?言動全てって、まさかトイレとかも・・・なの・。・?」
ふぁ「そうよ。あなたが最初にひまれいかと出会った時、覚悟をしろとかそういう警告を受けたでしょ?あの時点で親密レベルは1。それ以降は無条件で無期限であなたの身体情報を監視できる。」
さすがの少女も、血の気が引いていくのを感じていた。
まさかそこまでだとは想定していなかった、という顔。
ふぁ「身体情報。つまり、怪我や自己強化の体部、心拍数、生死状態だってそう。彼女にとってはどこへ逃げようとも筒抜け同然。ひまれいかは、あなたがリーダーに打ちのめされたのを知っていたわね。あなたがビームをくらって倒れた事、つまり、あなたの身体情報の損傷を監視記録として受信した。あの損傷レベルを引き起こせるのは、王の間において、リーダーの反射ビームしかありえない。あなたがビームをくらって倒れたことを、ひまれいかは瞬時に認知していたでしょうね。」
ふぁっきゅーれいかが、遠く離れたひまれいかを見る。
ひまれいかは目の前が見えていないのか、誰も居ない場所に向かってずっと話しかけている。
ふぁ「あなた、あのまま彼女の自分語りに耳を傾けていたら、親密レベルが2になって言動監視が追加されるところだったのよ。」
言動監視。
すなわち、全ての言葉と行動の監視。
ふぁ「親密レベル3にまでいくと、その人の心までも受信できてしまう。隠し事なんて絶対できないわ。今何を考えているのかも丸わかりってわけ。あなたもそれは嫌でしょ?」
「う、それは確かに嫌かもなのだ・。・;」
ふぁ「ひまれいかはとにかく話が長いわ。酷いときは、十分や二十分だって語り続けるのよ。数分程度の会話ならオッケーだけど、今みたいなケースは絶対に駄目。これは隠れ家内でも暗黙の了解、覚えておいて。長話は絶対に厳禁。ひとりでに話し始めたら即退散。幸いにも、ああやって長話を始めたら周りが見えなくなるから、その間に逃げること。いい?」
「わ、わかったのだ・。・;」
有無を言わせないふぁっきゅーれいかの早口に、少女はうなずく他無かった。
そのまま、少女を連れて店の中に入っていくふぁっきゅーれいか。
少女はひまれいかをチラッと見る。
楽しそうに、自慢気に、語り続けるひまれいか。
それに目を合わせようとしない、すれ違っていく住民たち。
誰もが既に理解しているのだ。
ひまれいかは危険だと。
そんな場面を見て少しだけ。
・・・寂しそう。
少女はそう思った。
店の中に入ると同時に、男の怒声が襲いかかった。
どうやら、客同士が喧嘩しているようだ。
怖そうな男「なんなんだよこの店!女いねぇじゃねぇか?!俺は女と出会いたいたいんだよ!!」
儚そうな子「そ、そんなこと言われても・・・。異能のこと知りたいと仰ったのはいちごちゃんだし・・・。」
怖そうな男「ああ確かに言ったさ!そんでわざわざこの俺が足を運んでやったんじゃねぇか!なのに、なんだここ!?いるのは変な幽霊じゃねぇか!?」
そこにはシックなスーツを着こなしたメガネ男と、妖精チック?なフリフリ衣装を着た子供が、いがみあって騒いでいる。
いや、よく見ると騒いでいるのは男性の方だけ・・・?
ふぁ「ああ、姫れいかじゃない。あなたも新入りを案内中なのね。」
儚そうな子「!! ふぁ、ふぁっきゅーちゃん!あの、その、こんにちわです。」
姫れいかと呼ばれた女性は、おどおどしながら挨拶を交わす。
肌の露出が多く、背中には小さな羽がついている。
見た目からして、少女と歳はそう離れていないだろう。
新入りの案内。
つまりは少女とふぁっきゅーれいかの関係と同じ。
それにしては、この男性・・・。
怖そうな男「おっ。いつぞやの格闘娘!それとこっちは・・・ウヒョおおおおおお!!!!!いい女じゃねぇか!おいお前!女だよな!?こんな美少女が男なわけないよな!?」
唐突に絡まれ、言葉を失くす少女。
明らかなモブ顔、質素な服装。
そこらへんの量産型と変わらない。
そう、あまりにも普通。
名前持ちなのかすら判断しかねるほどのだ。
だが何故か、この男性からは正体不明の圧がとめどなく溢れている。
気力を振り絞り、口を開く少女。
「わ、私は記憶喪――」
ふぁ「ちょっといちご!ほんと変わらないわね!初対面の子にマウント取ろうとするのやめなさいよ!」
ふぁっきゅーれいかが、割って入るように躍り出る。
少女は内心ホッとする。
いちご「はっ!マウント取らなきゃやってらんねーよ!?俺は・。・じゃないんだからな!こんな待遇、反吐が出るぜ!俺は暇じゃねぇんだ!」
いちご・・・。
なんだか女の子の名前みたい。
でも口調は乱暴だ・・・。
姫れいか「あの、あの!もしかしてそちらもご案内中でしたか?それでしたら私達、もう帰りますのでっ!」
ふぁ「あなたも変わらないわね・・・。とりあえず、こちらも挨拶だけさせてもらえないかしら?」
「ちゃお☆隠れ家初心者なのだ・。・vよろしくなのだ・。・v」
姫れいか「は、はじめましてです。私は王の間特殊保護部隊に属している、姫れいかと申します。い、以後お見知りおきをっ!」
何度もペコペコとお辞儀する姫れいか。
背中の羽もひらひらと動いている。
いちご「おい!俺を置いて話を進めるな!女!まだ俺の質問に答えてねぇぞ?お前の本当の性別はどっちかって聞いてんだ!!」
姫れいか「いちごちゃん、おすわりっ!」
スタッ!
さっきまで野蛮な物言いで威嚇していた男が、何の前触れもなくひざまずく。
いちご「・・・がっ・・・ぐぅ・・・。」
姫れいか「いちごちゃん。こちらの方々に、挨拶をし、してくださいっ!」
いちご「お、俺はいちごって名前だ。・。・でもないのに、この世界に召喚された被害者さ。もう一度言う、俺は決して・。・じゃない。よろしく頼むぜ。」
・・・どういうこと?
あれほど攻撃的だったのに。
まるで人が変わったよう。
「よ、よろしくなのだ・。・v」
ふぁ「ふぅ。いちご。いい加減認めなさいよ。あなたは・。・よ。現実世界でのことを忘れたの?」
いちご「違うだろうが!俺はたかだか数回、・。・の顔文字を配信で使ってただけさ!それ以上もそれ以下でもねぇ!俺は断じて・。・じゃねぇっ!!」
元気を取り戻したのか、おすわりをやめて立ち上がるいちご。
前髪をいじりながら、眼鏡の位置を直している。
「いちごさんは・。・じゃないなの・。・?」
いちご「そうだぜ!俺は違う!なのに問答無用でこの隠れ家に連れてきやがって!!こいつの異能が無ければ今頃は!俺だけのハーレムを作って最高の異世界ライフを満喫できてたんだ!!」
姫れいか「いちごちゃん!お口チャック!」
唐突に場が静まり返る。
先程まで騒いでいた元凶が、喋りたそうに震えている。
ふぁ「いちごがここに来てから二日だっけ?あなたも大変ね。」
姫れいか「そ、そんなことないですっ!いちごちゃんは本当は根が優しい人ですっ!」
二日・・・。
私と同じくらいかな・・・?
いやそんなことよりも、この姫れいかって人。
「姫れいかさんの異能で、こんなことになってるなの・。・?」
未だお口チャック状態のいちごを見ながら、少女は口を開く。
その問いに、ふぁっきゅーれいかが代わりに答えた。
姫れいかは、他者に命令し行動を強制的に行わせる異能を持つ。
命令できる対象は、24時間に一人だけという制限付き。
同時に複数の人数を命令することはできない。
遂行可能な命令であれば、どんなことをしてでも命令に応じる。
極端な話、死ねと命じれば対象はその場で自殺を図る。
だが、姫れいかの性格からしてそれはありえない。
事実、姫れいかが『王の間特殊保護部隊』に配属されてから、ただの一度も、残酷かつ非道な命令は下していないのだ。
そのどれもが、優しい命令。
ふぁ「今までに何人もの狂犬を従えてきたのよ?もっと自身持っていいと思うけどね。」
姫れいか「そ、そんな!私なんかがそんな、恐れ多いですっ!」
少女はいちごの方を見る。
うわっ。
すごい睨んできてる!
これずっと、喋れない状態なのかな・・・?
「いちごさんのことだけど、この隠れ家に来て二日ってことはまだ異能は発現してないなの・。・?」
ふぁ「ええそうよ。あなたと同じ監視対象ね。このいちごってのはね、現実世界で色々やらかしてる人でね。特にこういう人の場合、凶暴な異能を発現するケースが多いの。だから今のうちに鎖で縛って監視しておこうってわけ。」
監視対象・・・。
少女は少しだけ、その言葉にひっかかりを覚えた。
ふぁ「いけない。すっかり話し込んじゃったわね!姫れいかちゃん、大変だろうけど頑張ってね。」
姫れいかが、帰り支度を始める。
姫れいか「い、いえいえっ!こちらこそっ!私なんかの若輩者にお声を掛けていただけて感謝感激ですっ!そ、それでは失礼しますっ!付いてきていちごちゃん!」
いちご「あっ!おいちょっと!まだあの美少女の名前聞いてねぇ!!おい止まれ!くそっ!おいそこのロリ!顔覚えたからな!次会ったら名前聞かせろ!そんで俺のハーレムに―――」
声が遠くなっていく。
それはとても奇妙な光景だ。
口では止まれと言いつつも、姫れいかの後を付いていくいちご。
嵐が過ぎ去ったような感覚。
ふぁ「あのいちごって男ね、最初はわたしが世話していたのよ。」
唐突に、ふぁっきゅーれいかが口を開く。
ふぁ「性格に難あり、ってことでね。矯正させるために姫れいかが担当に変わったの。あの手のは特殊保護部隊に預けたほうが早いからね。」
王の間特殊保護部隊。
つまりは、迷宮内でさまよっている異端児を確保し、後々、予想外の事態が発生しないように監視する部隊。
記憶喪失の割には、尋常ではない戦闘ステータスの少女。
自分を・。・ではないと豪語する・。・配信者のいちご。
どちらも、異端であることに変わりはないが、一つだけ違うところがある。
協力的でなかった場合だ。
その場合、姫れいかのような『特殊保護部隊』に囚われ、自由を奪われる。
「私も・・・非協力的だったらああなってたなの・。・?」
心のなかで引っかかっていた疑問を打ち明ける少女。
ふぁ「安心して。あなたを縛る気は全く無いわよ。リーダーに突撃したときも、あなたの意思を尊重してやらせたの。・・・これだけは言っておくわ。私は最後まであなたの味方よ。私はあなたを好きになっちゃったのだから。」
す、好き・・・!?
少女の顔が火照っていく。
ふぁ「あ、顔赤くなってる。可愛い・・・。」
店主「よっこいしょ~。やっとうるさい人たちが消えたみたいだね~。」
奥の扉から、誰かの声が聞こえる。
少女は思い出す。
最初からこの店の主に。
この隠れ家の創造主に会いに来たのが目的だったと。
店主「やあやあ。いらっしゃい~。」
少女はまたもや絶句する。
もう今日で何度目になるかわからない。
それほどまでに、この新たな人間は常軌を逸した姿をしていた。
いや、そもそも人型ですらない。
浮いている。
身体がグレーのローブに包まれている。
唯一見える顔部分は、まるでカボチャのランタンのよう。
真っ黒な顔に、黄色の目と口が乗っている。
幽霊だ・・・。
少女がそう感じるのも無理はなかった。
店主「ん~?ふぁっきゅーちゃんと~、うわぁ~。すごく小さくて可愛い子だねぇ~。」
ふぁ「こんにちわ、ゆうれいか。」
ゆうれいか!?
なんというか、ぴったりな名前だ!
「ちゃお☆記憶喪失系美少女なのだ・。・v」
ふぁ「あなた・・・どんどん自己紹介がグレードアップしていくわね。」
「ふぁっきゅーちゃんがいってた子だね~。はじめまして~。僕はゆうれいかっていうんだよ~。幽霊と
ゆうれいかの顔が、ニコニコした顔に変わる。
なんかアニメのキャラクターを見てるみたい。
どういう原理で動いてるんだろう・・・。
ふぁ「例のものはもう出来てる?」
ゆうれいか「もちろんだよ~。」
ゆうれいかが、グローブらしきものをふぁっきゅーれいかに手渡す。
どうやら木材で出来ているようだ。
ふぁ「ゆうれいかはね、現実世界ではマイクラ配信者の・。・だったのよ。」
マイ・・・クラ・・・?
「マイクラはやったことないなの・。・」
ふぁ「・・・。」
いやそんな、知らないの!?って顔されても・・・。
ゆうれいか「ん~。マイクラっていうのはね~。土掘って木倒して武器作って家建てて食料蓄えて動物飼ってモンスター狩って食事して採掘して冒険してドラゴン倒すゲームのことだよ~。」
「?・。・?土を掘るゲームなの・。・?」
ふぁ「・・・まあ、その認識でいいかもね。」
ゆうれいか「それでね~。僕はマイクラ内で可能な全ての作業を再現できる異能が使えるんだ~。」
「へ、へぇ~・。・」
ど、どうしよう。
マイクラを知らないから、いまいち凄さが伝わってこない!
ふぁ「見せたほうが早いわ。お願いできるかしら、ゆうれいか?」
ゆうれいか「もちろんだよ~。じゃあ少しだけやってみるね~。」
そう言うと、ゆうれいかは少女たちに背を向けた。
すると、突然。
何の前触れもなく、土の壁が現れた。
「・。・!!??」
驚く少女をよそに、ゆうれいかは次々と、土の壁を生成していく。
見上げるほどの高さまで、あっという間に巨大な壁が作られてしまった。
その壁が明るく照らされる。
ゆうれいかが松明を設置し始めたのだ。
あ、あの火の棒!
隠れ家のあちこちで見た気がする!
ゆうれいかが、壁の頂上から落ちてきた。
そしてまたもや、前触れもなく。
少女の目の前に、石のかまど、作業台が現れる。
ゆうれいか「このかまどを~。作った武器で壊すよ~。」
どこから取り出したのか。
いつの間にか、ゆうれいかの両脇につるはしが。
ドガシャーーン☆
木っ端微塵に砕け散ったかまど。
否、かまどが石ころサイズにまで変化した・・・?
ふぁ「ありがとうゆうれいか。もうそのあたりで十分よ。」
「あ~。そう~?これからがいいところだったのに~。」
そう言いながら、手にとった極小のかまどを身体に取り込むゆうれいか。
少女は空いた口が塞がらない。
さっきから驚いてばっかりだ私・・・。
異能って奥が深いというか、なんだかちょっと怖いかも。
少女は恐れをなしていた。
異世界と聞いてはいたが、ここまで滅茶苦茶な芸当を、すぐに受け入れるのは到底無理がある。
脳が追いつかないのではなく、脳が否定しているのだ。
ふぁ「・・・その恐怖の感覚、忘れないで。」
少女の手を握りしめるふぁっきゅーれいか。
少女の微かな身体の震えを、彼女は敏感に感じ取っていたのだ。
ふぁ「私がここに連れてきたのはね、異能の便利さと同時に恐ろしさを伝えるためでもあったの。・・・まあ、ここに来るまでに数名の異能使いと出逢っちゃったけど・・・。」
ふぁっきゅーれいかが、少女を連れてきた目的。
この隠れ家内における、レジスタンスの中でも伝説クラスの異能使い、ゆうれいかに会わせる。
全ては、少女に異能の恐ろしさを知ってもらうために。
ふぁ「異能はね、たった一つの異能でも世界を変えられるほどの力を持つの。あなたが異能を発現した時に向けて、これだけは覚えておいてほしかった。力に溺れてしまう前にね。」
少女も理解する。
確かにこんな、夢のような力が扱えたら自制できるかどうかも怪しい。
ゆうれいか「いやぁ~。毎度思うけど、僕の異能なんてまだまだだよ~。あの三人には遠く及ばないし~。この異能って、マイクラで言うサバイバルモードなんだよね~。無から有は生み出せないようになってるんだよ~。」
そう言いながら、シャベルを使って土の壁を崩していくゆうれいか。
「それでもいろんな事してたのだ・。・!十分凄くて、楽しそうな異能なの・。・!」
ゆうれいか「楽しそう・・・か~。僕も最初はそう思ったよ~。僕はね~、この異能の力で~、神になろうと大暴れしてた時期があったんだ~。」
突然のカミングアウトである。
ゆうれいか「でもすぐに気づいたんだよね~。そんなことしてもこの世界に希望は無いって~。みんなが気づかせてくれたんだ~。あの時は本当にごめんね~。」
ふぁ「もうその話はすんだことよ。いつまでも気にしてないわ。」
少女は話題に置いてけぼりになる。
いったい過去に何があったのか。
少なからず、壮大な背景があるのは間違いなかった。
ふぁ「楽しそう、と言ったわね。」
少女にいきなり話題を振られる。
「い、言ったのだ・。・」
ふぁ「今すぐその考えを捨てなさい。一日でも生きていたいなら、ね。どれだけ楽しい異能を持っていようと、如何に平和な暮らしができようと、この世界は地獄に変わりないのだから。」
少女は思い出す。
ここに来る前の、命がけな死闘の数々を。
もしも、あれらの敵が、異能を使えたのだとしたら?
これまでに見てきた数々の異能。
ダメージ反射、時間逆行、思考監視、強制命令。
あのような初見殺しでしかない異能にどう勝てと?
・・・勝てるはずもない。
大抵の場合、何も分からずに殺されるのがオチだろう。
少なくとも、少女に異能が発現するまでは。
そして、この隠れ家も、実のところ安全ではないのだ。
このような異能がはびこる世界では、隠蔽など小賢しい手でしかない。
つまり、未知の異能によって、いつバレてもおかしくはないのだ。
無論、いつ死んでもおかしくはない。
ここはそういう世界なのだ。
「わかったのだ・。・!その言葉、覚えとくなの・。・!」
ふぁ「いい返事ね。・・・まあ、あなたなら力に溺れる心配はなさそうだけど。あなたって優しいから、コロッと騙されそうに見えて心配なのよね。」
少女の中で、異能に対する意識が改められる。
そして、リーダーの異能を思い出す。
――異能の無効化。
確かにこれは、リーダーの座を有していても納得である。
民の反逆など速攻で鎮静できるだろう。
そうして考えてみると、この隠れ家の勢力は統制されている。
先の特殊保護部隊に、リーダーの存在。
これが、異能がはびこる異世界への鎮静剤になっている。
このゆうれいかという幽霊も、話を聞く限りでは、この世界で大暴れした罪人か。
それが今では、そんな面影を全く見せていない。
説得か、あるいは対決か。
子細は不明だが、止めることには成功している。
「よくできてるのだ・。・」
ゆうれいかの鍛冶屋からの帰り道、少女は口を開く。
「どこを見ても物資は万全・。・これだけの人数がいるのに、みんな何不自由ない顔してるなの・。・貧困してる様子は全くないのだ・。・ふぁっきゅーちゃん、いったいこの隠れ家はいつから存在しているのだ・。・?」
ふぁ「二ヶ月よ。」
「二ヶ月・。・!?結構長いのだ・。・!」
それに二ヶ月って・・・そんな前から召喚されてるの?
やっぱりこれって、現実世界だと大騒ぎになってるんじゃ・・・。
特定の配信者とリスナーだけが、忽然と姿を消した。
こんな感じにテレビで報道されてそう・・・。
ふぁ「ええ、簡単じゃなかったわ。ここまでに至るまで、沢山の死を見てきた。」
「・。・!それって、あの黒くずめの怖い人にやられたなの・。・?」
ふぁ「・・・。まあそんなところよ。覚えてるわよね?私が鍛冶屋で言った言葉。」
「この世界は地獄なの・。・忘れてないのだ・。・v」
ふぁ「・・・ふふっ。」
手をつなぎながら、仲睦まじい雰囲気で歩く二人。
そのはるか後方。
トンガリ帽子の女性が、その様子を眺めていた。
ひまれいか「それにしても、今日は要注意人物が多い。このまま行くと、大規模な改革が訪れるかもしれん。」
ひまれいか。
監視の異能を扱うストーカーである。
彼女は周りに対し、自らの異能を騙っていた。
親密レベルなんてものは存在しないことを。
レベル1なら身体情報だけ、レベル2なら言動まで、レベル3なら心中を監視。
これらは全て、ひまれいかが作った嘘であった。
ひまれいかには全て視えている。
ひまれいか「あの少女が記憶喪失だというのは真実・・・。嘘はついていなかった。だとするなら、捨て置いても大事なしか?」
ひまれいかは、監視対象が行った言動などをリアルタイムで受信する。
そして、受信した記録を、異空間のデータベースへと保管することが出来る。
人物ごとにフォルダが分けられており、いつでも瞬時に閲覧が可能。
このデータベースは、本人の頭脳とは関係なく、完全な別個として存在している。
永久に劣化することはない。
保存されたデータをド忘れする、なんてことはありえないということだ。
ひまれいか「36人目・・・。このデータベースも窮屈になってきたな。こちらも少しは改革させるか。」
データベースのスイッチを切り、少女たちと反対方向に歩きだすひまれいか。
ひまれいか「奴らは目の前の敵しか見えていない。私達・。・に襲いかかる謎の集団?馬鹿馬鹿しい。私にとってはどうでもいいことだ。そんなものは武闘派に任せておけばいい。大事なのは記録を残すこと。真に考えるべきなのは、この異世界がどうして作られたのか。ゆうれいか・・・隠れ家の創造主などちっぽけな存在ではない。この異世界を創造した神がいるはずだ。異能だってそうだ。突然、異能が使えなくなったらどうする気なのだ?私達は皆、神の手のひらの上で踊り狂う駒に過ぎない。神の気まぐれで、世界は一瞬で変わるのだ。安全など何も保証されていないということを、私達は自覚しなければならない。ああまるで見えちゃいない。奴らは視点が低すぎる。何かあってからでは遅いのだ。この世界に召喚された時点で、既に詰んでいる。決して脱出の糸口が見えないこの異世界。ならばこそ、私にだけできることを進めていくしかない。この異世界で何が起こっていたのか、私にはそれを記録していく義務がある。一番怖いのは、私達の記憶がごっそりと持ってかれるパターンだ。備えるべきことは全て備えていくしかない。たとえ嫌われていても、やり遂げるしかないだろう。いつか来る、世界の滅びに備えて。私にはこれしかないのだから・・・。」
ひまれいかは、ブツブツと本人しか聞き取れない声で呟く。
――遥かな先の先、大局を彼女は見据えていた。
「疲れたのだ~・。・」
王宮のふぁっきゅーれいかの部屋に帰るたび、ベッドへと埋まる少女。
備え付きの風呂を満喫し、簡単な食事を済ませ、あとは眠るだけ。
ふぁ「あなたの髪、ブラッシングしてあげるわ。」
少女を起き上がらせるふぁっきゅーれいか。
どうやら一緒の部屋で眠るようだ。
「色んなことがあって頭がパンクしそうなのだ・。;」
ふぁ「大変なのは寧ろ明日よ。あなた、リーダーをボコボコにしたこと忘れてない?」
・・・忘れてた。
「明日はいったいどうなるのだ・。・?」
ふぁ「リーダーに呼ばれているの。朝の五時に面会が決まっているわ。」
「朝五時・。・!?・・・起きれるか心配なの・。・」
ふぁ「あら、現実世界じゃお寝坊さんだったのかしら?・・・いえ、ごめんなさい。記憶喪失だったのよね。」
「気にしてないなの・。・v」
ブラッシングが終わり、別々のベッドに潜り込む二人。
「朝五時って、秘密結社みたいなノリなの・。・」
ふぁ「言い得て妙ね。実は毎朝あるのよ。この隠れ家では毎日朝五時、王の間で会議が行われているの。」
「会議・。・?もしかして、私もその会議に加わるなの・。・?」
ふぁ「そうなるかもね。といっても、私も詳細は聞かされてないんだけど。」
なんてことはない、就寝前の会話が続く。
そのままどちらともなく会話は止まり、あたりに静寂が訪れる。
少女はこれまでの物語を思い出していた。
あの部屋で目を覚まし、永遠とも言える迷宮を走り続け、ふぁっきゅーれいかと出会い、この隠れ家に案内され、リーダーと戦い、今ではふかふかのベッドで休息を取っている。
あまりにも、濃すぎる一日。
だが不思議と、恐怖はない。
少女にとって、ふぁっきゅーれいかの存在は大きかった。
こうして、側にいてくれるだけで気持ちが安らぐ。
ふぁっきゅーれいかに感謝の想いを抱きながら、少女は眠りへと落ちていった。
――隠れ家入口。
迷宮の通路に、一人の女性。
安眠「これって、つまり地下にいるってこと?」
キリトに取り付けられた発信機の反応を辿り、安眠ちゃんは隠れ家の入り口を発見していたのだ。
安眠「かなり深い・・・。これは準備しないときつそうかな?私一人じゃ骨が折れそうかも。・・・キリトくぅぅうん、もうちょっと待っててねぇぇぇええ??!!!?」
そう言うやいなや、爆速でキーボードを叩いていく安眠ちゃん。
彼女はメールを次々と送信していく。
少女は静かな寝息をたてている。
これまでにない死闘が、この先、待ち受けているとも知らずに。
つづく。
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