第6話 偽物同士の洗礼
ここは異世界。
従来の価値観が当てはまらない世界。
距離にして20kmを走り続けたところで、疲労など出るわけがない。
少女とふぁっきゅーれいかは、走りを止めていた。
ふぁ「着いたわ・・・ここよ。」
?
ただの曲がり角だよ?
まさか、すり抜ける壁!?
ふぁっきゅーれいかが、床材を持ち上げる。
底の深い縦穴が姿を現した。
ふぁ「隠れ家はここよりもずっと地下なのよ。梯子をつたって付いてきて。」
馴れた手付きで降りていくふぁっきゅーれいかと、顔を赤らめながら降りる少女。
そのまま、二人は暗闇の中を下っていく。
・・・ようやく隠れ家についたぁ!
でも、だからといって安心するのは早い。
この世界が一筋縄じゃいかないのは、なんとなくわかってきた。
・・・何が来てもどんとこいだよっ!
「・・・すごいなの・。・見事な地下基地なのだ・。・!」
一見すると土まみれの世界。
だというのに、空気が澄んでいる。
人が・・・溢れている。
そこには、地上の無味な迷宮とは違う景色。
色で塗れた歓楽街が存在していた。
少女は、興奮気味に周りを見渡す。
灯りは松明、床にはカーペット、商店、住居、人、人、人。
建物はおそらく、迷路内の木材や家具を活用しているのだろう。
ふぁ「ここは入り口、中央広場ね。ここから居住区、闘技場、王の間と三つの階層に行けるわ。」
「いったいここは何なのだ!・。・?な、なんで地下にこんな・。・!」
これほどの規模。
少女は、もっと薄暗いジメジメした秘密基地を想定していた。
だが、実際にはどうだ。
相当の年月を掛けて作られたとしか思えない。
ふぁ「ふふっ。ここは私達が作り上げた、通称―――」
低い声「ふぁっきゅーじゃないか。西方面の調査、もう終わったのかい?」
近くにいた女性が、ふぁっきゅーれいかへと近寄ってきた。
ふぁ「ええ。大体は回れたわ。・・・西はかなりの戦場よ。しばらくは立ち入るのをやめたほうがいいかもね。」
低い声「そうか・・・。やはり敵は西方面に固まっているか。大方予想通りと行ったところだな。」
・・・うわぁ。
なんだろう。錬金術師の方かな・・・。
少女が引くのも無理はない。
現実で許される質素な服装が続いていただけに。
この世界観に似つかわしくない、良く言えばファンタジー、悪く言えば変人。
頭には、魔法使いが好みそうな白い帽子。
つばが広く、先っぽが尖っており、なおかつ巨大なサイズ。
白と赤をイメージしたマントに、黒いオシャレ眼鏡。
腰には、数え切れないほどの薬品ポーチがぶら下げられている。
片手に分厚い本、もう片手にこれまた巨大な杖。
明るい色の服装とは裏腹に、顔が暗い。
表情が暗すぎる。
見るもの全てを不安にさせる顔だ。
近寄りがたい雰囲気だよぅ・・・。
低い声「おや?・・・その子は誰かな。初めて見る顔だが。」
ふぁ「調査の途中で保護したのよ。これからリーダーに合わせるところ。」
低い声「・・・ふむ。なるほど・・・・・。」
錬金術師風の女性が、突然少女の前まで近づく。
何事かと混乱する少女を、まるで値踏みするかのような瞳で見つめる。
そして小さく、一言。
低い声「リーダーに会うのなら、それ相応の覚悟をしたほうがいい。」
はっきりと。
警告を促してきたのだ。
少女も流石に面食らうが、すぐに思考を取り戻す。
覚悟?
覚悟なら・・・あのとき、戦った時にもう済ました。
現実世界に戻るためなら・・・何だってやるって決めたから。
「・・・舐めないでほしいなの・。・!」
少女の精一杯の威嚇。
無い胸を大きく張り、爪先立ちで相手を見据える。
隣から暖かい視線を感じるが、少女は気にしない。
低い声「・・・いい瞳だ。なるほど。外面は子供でも中身は獅子の子か。」
子供って言わないで!
結構気にしてるんだからっ!
ふぁ「・・・この子なら大丈夫よ。」
低い声「・・・そうか。いや、すまない。余計なことを言ったようだ。・・・君が連れてくと言ってるんだ。考えがあるのだろう?健闘を祈るよ。」
錬金術師風の女性は帽子のズレを直し、そのまま階段方面へ歩きだす。
ふぁっきゅーれいかは息をつくと、少女に向き直り口を開く。
ふぁ「まあ、邪魔が入ったけど・・・、そういうわけで、これからあなたには私達のリーダーと会ってもらうわ。この隠れ家に新入りを迎え入れる場合、必ずリーダーに報告する決まりなの。」
うーん。
なんだかそれだけじゃ済まなそうな嫌な予感・・・。
ふぁ「あ。それと、記憶喪失の件は隠さないように!素直に話してくれないと、こちらとしても情報交換が出来ないからね。」
「わかったのだ・。・v」
少女とふぁっきゅーれいかは、王の間へと続く通路を進む。
道端には複数の人間が、ひそひそと声を潜める。
少女は、痛いほどの視線に囲まれ、居心地悪そうに前かがみになって進んでいる。
時折、ふぁっきゅーれいかが視線の元に睨みを効かせ、人払いをしてくれていた。
ふぁ「この隠れ家はね、通称『れいかファミリー』と呼ばれているの。今の子たちはあなたのように、この世界に来たばかりの・。・達なのよ。大方、あなたの外見が珍しくて気になるのでしょう。あまり気を悪くしないでね。」
「・・・そんなに珍しい格好なの・。・?」
「あなた、ガラスの前でニヤニヤ笑ってたじゃない。・・・かなり希少よ。」
・・・ば、ばれてる。
「・・・というか、名前持ちは全員、格好に特徴があるの。ねぇ、あなた本当に自分の名前を覚えていないの?」
「・・・思い出せないなの・。;そういえば以前にも『名前持ち』って単語が出てきたのだ・。・一体何のことなの・。・?」
ふぁ「この世界にはね、2つのパターンとして召喚されるの。端的に言ってしまうと主役とモブね。」
「あ・。・!もしかして、配信者とリスナーってことなの・。・?」
ふぁ「ふふっ。本当に賢い子ね。」
ふぁっきゅーれいかは、少女の頭を優しく撫でる。
少女はすっかり安心した様子で、話に耳を傾ける。
ふぁ「そう、この世界には様々な配信者が現実世界から召喚されているのよ。それこそ、レジェンド級の配信者から、過疎配信者まで例外なくね。」
「その配信者がふぁっきゅーちゃんやキリトさんのことを指してる『名前持ち』なのね・。・」
名前持ち。
すなわち、元配信者。
名前持ちは特別な力が使用可能。
この世界に召喚される際、現実世界とは異なる体型と服装を与えられる。
外見が特徴的で、尚且つ印象に残る。
ふぁっきゅーれいかは、簡潔に名前持ちの特徴を挙げていく。
少女は必死に、頭の中にインプットしていく。
「そして、それらの配信を見ていたリスナー・・・がもう一つのパターンね。中央広場にいた人だかりは、ほぼ全てリスナーよ。地上の無限迷路で路頭に迷っていたのを保護したの。」
リスナー。
元配信者の囲い。
名前持ちと比べ、特別な力は持っていない。
現実とは異なる体型と服装を与えられる。
この部分は名前持ちと同じだが、その格好は大雑把で特徴が無い。
数が多い。
フツメン。
「・・・そして、誰がなんのために、召喚しているかはわからないと言ってたのだ・。・」
少女は、これまでの記憶を元に、情報を整理していく。
「・・・最初から私をこの隠れ家に連れて行くつもりだったなのね・。・」
つまりはそういうことになる。
ふぁ「・・・ごめんなさい。私はあの時選択肢を与えたわ。私に付いてくるか否かを。・・・どちらを選ぼうとしても、私はあなたをここに連れて行くつもりだった。少し手荒な所もあったかもしれないわ。本当にごめんなさい。」
「い、いやいや・。・!私の方が感謝したいくらいなのだ・。・!もしもふぁっきゅーちゃんに出会ってなかったら、ずっと迷路の中で途方に暮れてたか、怖い男の人達に殺されてたかもしれないのだ・。・!それに、今じゃ付いてきて正解だったと思ってるなの・。・この世界はなんというか・・・簡単じゃないってわかったのだ・。・!」
ふぁ「・・・ありがとう。」
過度なくらいに、よしよしをするふぁっきゅーれいか。
傍から見れば、仲睦まじい姉妹のよう。
ふぁ「さっきも言った通り、あなたのその可愛らしい外見、戦闘センス、これは明らかにリスナーの枠に当てはまらないの。おそらく、あなたは最初から名前持ちだった。この世界に召喚された際、何らかの原因で記憶喪失になってしまった名前持ち、私にはそうしか考えられないのよ。」
・・・私にこんな変な力があるのは、現実世界では配信者だったから?
いきなりそう言われてもピンと来ないなぁ。
なんで記憶喪失なんだろ私・・・。
・・・。
これって、現実世界じゃちょっとした大騒ぎになってるんじゃない?
ふぁ「まあ、その部分も諸々含めて、これから話し合っていきましょう。」
ふぁっきゅーれいかが話を打ち切りだす。
いつの間にか、二人の遠方に巨大な門がそびえ立っていた。
赤く巨大で、押せば開きそうな扉。
木造の質素な造りだが、少なからずの高級感を感じさせる。
「・・・リーダーってどんな人なの・。・?」
ふぁ「そう・・・ね・・・・・・・・・・。」
ふぁっきゅーれいかにしては珍しく長いタメ。
少女は、また失言したのかと焦る。
しばらくして、ふぁっきゅーれいかは小さな声で呟いた。
ふぁ「・・・嫌な奴よ。」
門を抜け、広々とした空間に出る。
そこには一面赤いカーペット。
奥に二本の大きな柱が建っている。
それに寄りかかっていた二人の人間が、ふぁっきゅーれいかに気づく。
野太い声「ふぁっきゅーれいかです。リーダー。」
活発そうな声「新入りだよ!リーダー!」
両脇は護衛の人なのかな・・・?
・・・真ん中で座っているあの人が、この隠れ家の一番偉い人、リーダー・・・?
柱に挟まれるように、豪華で派手な玉座が設置されている。
それに座っていた人物が、立ち上がり、来客の二人に近づく。
金髪細身で背が高く、二十代前半の爽やかイケメンといったところか。
動きやすそうな王様系ファッションに、腰にはサーベルが一本添えられている。
リーダー「やぁやぁよく来たね!私の名前はフリーれいかだよ!この隠れ家のリーダーをしているものさ!」
少女の全てが止まる。
少女に理解不能の頭痛が襲いかかる。
視界は紫に飲まれ、痙攣は止まず、冷や汗が溢れ続け、過呼吸が止まらない。
尋常ならざる嫌悪感。
類稀な既視感。
・・・封じ込められた記憶の暴走。
うあっ?
なに・・・これ。
極度の立ちくらみで倒れそうになる少女を、ふぁっきゅーれいかは最小限の動きで支える。
ふぁ(ちょ、ちょっと!大丈夫なの!?)
フリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいか・・・。
偽物。
偽物。
あいつは偽物。
お前も偽物。
精神が蝕まれそうな闇に、少女は辛うじて意識を保つ。
何を言ってるのっ・・・??
偽物って何!?
過去から届く記憶の残滓を払い除け、少女はなんとか現実へと浮上する。
ふぁ「リーダー!この子、実は記憶喪失なのよ。この世界のこともほとんど知らないの!」
「・・・・そ、そうなのだ・。・この世界に来るまでは、家でゲームをしていた・・・ということしか覚えてないなの・。・名前も覚えて―――」
覚醒するなり、少女はふぁっきゅーれいかの言葉を代弁する。
少女が落ち着きを取り戻したのを見て、ふぁっきゅーれいかも安心した様子。
そのまま少女の言葉に耳を傾ける。
リーダーであるフリーれいかも、少女の声に耳を傾けて・・・いない?
この王の間で唯一人、不機嫌な態度を隠そうともしない男が唯一人。
フリー「は?」
少女の言葉が終わった瞬間、短く一言。
たったそれだけで、緊張が場を支配する。
フリー「いや、あの、は?記憶喪失ってお前・・・とどのつまり何もないのと同じじゃんか。はぁ。久しぶりの戦力アップを期待したのに見事外れたなー。まったく・・・。またハズレ引いちまったってわけか?はぁ~~~。」
え。
いきなりキャラが豹変した!
嫌な奴。
ふぁっきゅーれいかの言葉を少女は思い出す。
フリー「まぁ、同じ・。・のよしみで?最低限の生活だけは保証してやるよ。」
ふぁ「待ってリーダー。決めつけるには早いわ。この子の戦闘力は私に近いの。」
フリー「・・・はぁ??・・・見たところ武器も持ってねぇが。あ!ひょっとしてふぁっきゅーと同じ格闘家か??」
「そ、そうなのだ・。・!」
フリー「格闘家は二人もいらなくね~~?・・・ジョブ被りって知ってるかおチビちゃん。ガチャのダブりほどイラつくことはねぇ。おチビちゃんは俺から見りゃレベル1の合成素材と変わんねぇんだよ。わかるか?今の俺の気持ち?理解できるか?あ?」
あまりにも失礼すぎる言葉の槍。
突然ともいえる豹変に、少女は理解が追いつかない。
少なくとも、これよりは良い待遇を期待していただけに。
フリー「じゃあスカイれいか。このチビに住居を案内しろ。ふぁっきゅー。西地区の報告を聞こうか。」
早々に話を打ち切りだすフリーれいか。
ふぁっきゅーれいかが慌てて口を開こうとした時、少女の大声が響き渡る。
「ちょっと待つなの!・。・!私の話を聞いてなの!・。・!」
フリー「・・・うるせーよチビ。」
一蹴である。
そのまま興味を無くしたかのように、ふぁっきゅーれいかの報告を待つフリーれいか。
・・・。
チビ・・・チビ・・・。
子供ならまだしもチビ・・・。
・・・そりゃ小さいけどさ。
・・・。
だ、だめだ涙出そうかも。
「ふぁっきゅーちゃん・。・」
真顔で少女は口を開く。
謎の頭痛とはまた別の形で、少女は純粋にキレていた。
「私がこれからすること、許してなの。」
ふぁ「・・・それは相手がどう思うかでしょ?好きになさい。」
ふぁっきゅーれいかの般若のような顔に一瞬ビビるも、少女はその場から姿を消す。
次の瞬間。
フリーれいかの顔面に、少女の拳が捻り込まれていた。
コンクリートを粉砕するレベルの殴打をモロにくらったのだ。
フリーれいかは、そのまま玉座にぶつかる形で吹っ飛んだ。
とんでもない事態。
この隠れ家のリーダー、つまりは王を殴ったのだ。
だが、ここは異世界。
従来の価値観が当てはまらない世界。
現実だと即アウトだろうが、ここには法も何も無い。
全てはその場の成り行き次第である。
活発そうな子「え、ええええええええええ!!!??」
野太い声「き、貴様っ!!そこになおれ!成敗してくれるっ!!」
だがしかし、少なからずもここは隠れ家という一つの国。
リーダーの護衛である両名も驚きを隠せない。
ふぁっきゅーれいかはというと、腹を抱えて大爆笑中である。
少女はというと・・・。
・・・この人、わざと私のパンチをくらった。
フリー「騒ぐな。」
護衛の両名も、ふぁっきゅーれいかも、一瞬で静止する。
玉座の肘掛けを掴み、立ち上がるフリーれいか。
口から血反吐を吐き出すも、その表情は晴れ晴れとしている。
フリー「・・・くっくっ。いいねいいね!問答無用で顔面狙ってくるそのイカれっぷり。すごくいいよ君ぃ。」
少女にとっては、全身全霊を懸けた一撃だった。
だがどうだ。
今では、悠々と立ち上がり、少女の前へと歩を進めていく。
フリー「お前もだ。田中みこ。俺は平気だ。それ以上動くな。」
聞き覚えのない名前に少女は一瞬固まる。
無意識のうちに気配察知を行い、ようやく気がついた。
「・・・くっ・。・!」
電光石火の如く、少女がその場から数メートル離れる。
そこには、一人の見知らぬ女性が太刀を構えていた。
・・・気配を感じなかったっ。
いつの間に後ろを取られていたのかと、少女は考えを巡らせる。
田中みこ「・・・。」
ピンクの髪にポニーテール。
片目は髪に覆われて見えない。
服装はこれまたわかりやすく、ピンク色の忍者風コスチュームといったところか。
一言で言えば可憐。
線が崩れてない綺麗な立ち姿。
田中みこと呼ばれたその女性は、太刀を構えたまま静止している。
フリー「ふぁっきゅー。田中みこを連れて離れていろ。」
ふぁっきゅー「・・・了解。行くわよみこちゃん。」
田中みこ「(・・・コクッ。)」
小さく頭を振って答える田中みこ。
太刀を鞘に収め、とぼとぼとふぁっきゅーれいかの後を歩く。
そのまま、玉座の近くへと移動する。
ふぁっきゅーれいかが離れていく様子を見て、一抹の不安を抱く少女。
しかしすぐに、気持ちを切り替える。
とんでもないことをしでかしたのは少女にとっても重々承知だ。
自分の意思で殴ったのも事実。
この事実は簡単に覆せない。
フリー「一応聞いておこうか。何故俺に手を出した?」
「・・・リーダーと聞いてたけど、正直落胆したのだ・。・」
はっきりと。
少女はフリーれいかの目を見て続ける。
「・・・人のことをジョブ被りだの期待ハズレだの・・・聞いてて腹が立ったのだ・。・」
あえてチビと言われた件を隠す。
「はっきり言ってリーダーの素質ゼロなのだ・。・!従うくらいなら、お前を倒して私がリーダーになってやるなの!・。・!」
この場にいる誰もが目を見開く。
ふぁ(・・・やっぱりこの子は、他の子と何か違う。手を出したのもそうだけど、ま、まさかの発言ね・・・。)
ふぁっきゅーれいかにとって、半分期待通り、半分予想外。
フォローするつもりが、気がつけばこの状況。
フリー「ふ、ふははっ!おいおい聞いたかお前らぁ!この俺を倒してトップに成り代わるって!あ、あはははははっ!!いいねいいね!面白い面白い!!ぎゃははははははっ!!」
フリーれいか、転げ回りながらひとりで大爆笑。
一見すれば和やかな場面。
冗談ではない。
護衛の両名は唾を飲み込む。
これは・・・本当に・・・洒落にならないっ・・・!
フリー「・・・・だがな?」
突然笑いを止め、少女に向き直るフリーれいか。
固唾を飲んで見守るふぁっきゅーれいか。
フリー「一発は一発だ。」
フリーれいかの両目が、赫色の輝きを放ちだす。
その場にいる誰もが、主たる力の奔流を感じ取る。
活発そうな声「あ、あわわ・・・。エライことになったよっ!」
護衛の一人が玉座の後ろへと隠れる。
もう一人の護衛も、仕方ないといった様子であとに続く。
主を心配する瞳の田中みこ。
ふぁっきゅーれいかは震えだす。
ふぁ(・・・か、完全に失敗したああああああぁぁぁぁぁ!!!)
リーダーの元に連れてきた自分を恥じるふぁっきゅーれいか。
少女の好戦的な性格が、まさかの裏目。
――リーダーを本気にさせてしまった。
少女に対しての侮辱に、冷静な思考が取れなかったことも大きい。
今更加勢に入ろうにも、田中みこがいる。
見守ることしか出来ない状況に、ふぁっきゅーれいかは歯ぎしりをする。
「・・・・・受けて立つなの・。・v」
少女は戦闘態勢を取る。
構えは凛々しさそのものだが、溢れ出る冷や汗は隠せていない。
フリー「おっ?歯向かうのか!いいねいいね!」
腰のサーベルを捨て、少女に合わせたボクシングスタイルを取る。
ブレブレな構え。
明らかな挑発。
フリー「だけどもう分かってんだろ?!俺には敵わないってことが!!」
心のなかで舌打ちをする少女。
あの一撃の時点で、勝敗は決まっていたものなのだ。
どれほどの力なのか知りたい。
それだけの理由で顔面にパンチを貰ったと、少女もすぐわかっていた。
あれは、避けようと思えば簡単に避けれたのだ。
「・・・確かにやばそうなの・。・それでもこちらが最初に手を出したのだ・。・最後まで歯向かってやるなの・。・!」
フリー「・・・♪。じゃあお手並み拝見だ!おチビちゃんの力見せてみな!!」
その言葉が終わると同時に、少女の動きが音速を超える。
(((・・・疾い!!!)))
少女以外全員が、理解不能に陥る。
少女と共闘したふぁっきゅーれいかでさえも、驚いていた。
ふぁ(赫の瞳が効いていない!?)
だが、この場で一番驚いていたのは・・・他ならぬフリーれいかであった。
事情を知らない少女は、さらに速く、疾く、烈風の如し。
放たれた拳撃は空気を歪に引き裂く。
成長は未だ、止まることを知らない。
最初の一撃を余裕で超えた速度で翻弄し、既に十を超える深手を与えている。
フリー「・・・くっ。はははっ!!おらどうした!?もっとこいよ!!」
喰らいながらも、なお笑い続けるフリーれいか。
明らかに人体が破壊されているであろう爆音が響き渡る。
だがどうしたことか、少女に対して反撃どころか何も手を出してこない。
こ、このM野郎が・・・!
・・・人を舐めるのも!
大概にしろッ!!!
おかまいなしにと、連撃、怒涛、滅多打ち。
直撃すればたとえ金剛石であろうと粉微塵に砕け散り、まるで紙屑の如く押し潰すほどの圧倒的連弾。
だがそれを、全弾食らうフリーれいか。
血まみれになりながらも、未だ倒れることなく笑っている。
いや、そんな笑えるような生易しい攻撃では無いはずなのだ。
そして瞬間、少女は確かに見た。
涙目で、明らかに耐えきれないといった表情をこぼすフリーれいかを。
・・・いつしか少女の拳は、殴るのを止めていた。
戦闘時には強気な正確であれど、少女に微かに残っていた感情。
萎えたとか、そんな感情ではない。
同情と心配と、激しい後悔。
少女の目にも涙が溢れ出す。
一方的に無抵抗の者を殴るだけ。
もはやこれは決闘などではない。
フリー「・・・はっ。優しいんだな、チビ。」
動きを止めた少女を見て、フリーれいかは両手から後ろへと座り込む。
「・・・ご、ごめっ――」
フリー「謝るな。いいんだよこれで。この世界じゃこれが正解なんだ。」
その先は言わせまいと、フリーれいかは言葉を続ける。
フリー「まさかそうだとは思わなかった。つまり、異能無しであれほどのレベルってわけだ。・・・おい泣くな。こっちだって委細承知で受けてたんだ。さっきの俺の暴言を倍返しに出来たとでも思っとけ・・・。」
・・・異能?
少女の身体から闘志が抜けていく。
もはや考える力も消え失せ、へたりと座り込む少女。
フリー「んじゃ、お返しだ。チビ。」
フリーれいかの指から、少女目掛けて赤いビームが飛ぶ。
・・・え?
瀑布にも似た怒濤の大質量に飲み込まれる少女。
何が起こったかも分からず、少女の意識はそこで切れてしまった・・・。
玉座の後ろから顛末を見ていた護衛が出てくる。
活発そうな子「・・・一時はどうなることかと思ったよ!」
護衛たちが、一人では動けないフリーれいかを、玉座まで移動させて座らせる。
フリー「悪いな。よく俺を信じて手を出さずにいてくれた。感謝する。」
護衛の二人は、我先にとフリーれいかの治療を開始する。
田中みこはいつの間に消えたのだろうか、姿が見えない。
フリー「ふぁっきゅー。あのチビの介抱を頼む。」
ふぁ「言われなくともそうしてるわよっ!!」
既に少女の身体を担ぎ、王の間を出ていこうとするふぁっきゅーれいか。
フリー「ああそうだ。また明日、そのチビ連れてここに来い。待ってるぜ。」
ふぁ「・・・説明してもらうからねっ!!」
フリーの顔を睨みつけ、走り去るふぁっきゅーれいかとその背中に少女。
それを見届けたフリーれいかは、もはやこれ以上隠すことなく痛みに悶えだす。
フリー「がぁああッ、ははっ痛ぇ・・・いるのは分かってんだよ。出てこい。」
キリト「・・・珍しく災難だな、フリーれいか。」
音もなく姿を現すキリト。
彼は、事の顛末を最初から見ていたのだ。
野太い声「ま、まさかあの伝説の・・・!?」
護衛の一人が驚きの声を上げる。
フリー「たまにはいいもんさ。・・・痛っ。・・・なかなか気持ちよかったぜ。」
キリト「・・・。」
フリー「楽しかったんだ。ああいうキャラは久々だ。わかるかキリト?俺はこれからが楽しみでしょうがねぇ。このクソつまんねぇ世界を楽しむためなら、俺は何だってする。死にかけになろうと、今の俺にとっては刺激的で最高の気分なのさ!ああいう力を持ってるやつはまさに大歓迎!見所あるぜぇ!!」
痛みなどお構いなしに、再び笑い出すフリーれいか。
キリト「・・・知ってるよ。殴られながら笑ってたもんな。あんたが心の底から笑うなんて、こりゃあ後々天変地異が起きるぜ。」
フリー「ちっ、慣れねぇことしたさほんと。まぁ、挨拶はこの辺にしといて、お前ほどの男がここに現れる事態・・・。何があった、キリト?」
キリトは血まみれでそこにいた。
先の戦いで傷を受けて、服装もボロボロに破けている。
あの女兵士を思い出しながら、キリトは静かに口を開く。
キリト「前線基地からの言伝と・・・敵の正体についてだ。」
キリトは報告をしていく。
彼は最大のミスを犯していた。
気づいた時には、既に手遅れ。
マントの裏側に、発信機が取り付けられていたことに。
彼はまだ、気づかない。
つづく。
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