第6話 偽物同士の洗礼


ここは異世界。

従来の価値観が当てはまらない世界。

距離にして20kmを走り続けたところで、疲労など出るわけがない。


少女とふぁっきゅーれいかは、走りを止めていた。


ふぁ「着いたわ・・・ここよ。」


ただの曲がり角だよ?

まさか、すり抜ける壁!?


ふぁっきゅーれいかが、床材を持ち上げる。

底の深い縦穴が姿を現した。


ふぁ「隠れ家はここよりもずっと地下なのよ。梯子をつたって付いてきて。」


馴れた手付きで降りていくふぁっきゅーれいかと、顔を赤らめながら降りる少女。

そのまま、二人は暗闇の中を下っていく。


・・・ようやく隠れ家についたぁ!

でも、だからといって安心するのは早い。

この世界が一筋縄じゃいかないのは、なんとなくわかってきた。

・・・何が来てもどんとこいだよっ!









「・・・すごいなの・。・見事な地下基地なのだ・。・!」


一見すると土まみれの世界。

だというのに、空気が澄んでいる。

人が・・・溢れている。

そこには、地上の無味な迷宮とは違う景色。

色で塗れた歓楽街が存在していた。


少女は、興奮気味に周りを見渡す。

灯りは松明、床にはカーペット、商店、住居、人、人、人。

建物はおそらく、迷路内の木材や家具を活用しているのだろう。


ふぁ「ここは入り口、中央広場ね。ここから居住区、闘技場、王の間と三つの階層に行けるわ。」


「いったいここは何なのだ!・。・?な、なんで地下にこんな・。・!」


これほどの規模。

少女は、もっと薄暗いジメジメした秘密基地を想定していた。

だが、実際にはどうだ。

相当の年月を掛けて作られたとしか思えない。


ふぁ「ふふっ。ここは私達が作り上げた、通称―――」


低い声「ふぁっきゅーじゃないか。西方面の調査、もう終わったのかい?」


近くにいた女性が、ふぁっきゅーれいかへと近寄ってきた。


ふぁ「ええ。大体は回れたわ。・・・西はかなりの戦場よ。しばらくは立ち入るのをやめたほうがいいかもね。」


低い声「そうか・・・。やはり敵は西方面に固まっているか。大方予想通りと行ったところだな。」


・・・うわぁ。

なんだろう。錬金術師の方かな・・・。


少女が引くのも無理はない。

現実で許される質素な服装が続いていただけに。

この世界観に似つかわしくない、良く言えばファンタジー、悪く言えば変人。


頭には、魔法使いが好みそうな白い帽子。

つばが広く、先っぽが尖っており、なおかつ巨大なサイズ。

白と赤をイメージしたマントに、黒いオシャレ眼鏡。

腰には、数え切れないほどの薬品ポーチがぶら下げられている。

片手に分厚い本、もう片手にこれまた巨大な杖。

明るい色の服装とは裏腹に、顔が暗い。

表情が暗すぎる。

見るもの全てを不安にさせる顔だ。


近寄りがたい雰囲気だよぅ・・・。


低い声「おや?・・・その子は誰かな。初めて見る顔だが。」


ふぁ「調査の途中で保護したのよ。これからリーダーに合わせるところ。」


低い声「・・・ふむ。なるほど・・・・・。」


錬金術師風の女性が、突然少女の前まで近づく。

何事かと混乱する少女を、まるで値踏みするかのような瞳で見つめる。

そして小さく、一言。


低い声「リーダーに会うのなら、。」


はっきりと。

警告を促してきたのだ。

少女も流石に面食らうが、すぐに思考を取り戻す。


覚悟?

覚悟なら・・・あのとき、戦った時にもう済ました。

現実世界に戻るためなら・・・何だってやるって決めたから。


「・・・舐めないでほしいなの・。・!」


少女の精一杯の威嚇。

無い胸を大きく張り、爪先立ちで相手を見据える。

隣から暖かい視線を感じるが、少女は気にしない。


低い声「・・・いい瞳だ。なるほど。外面は子供でも中身は獅子の子か。」


子供って言わないで!

結構気にしてるんだからっ!


ふぁ「・・・この子なら大丈夫よ。」


低い声「・・・そうか。いや、すまない。余計なことを言ったようだ。・・・君が連れてくと言ってるんだ。考えがあるのだろう?健闘を祈るよ。」


錬金術師風の女性は帽子のズレを直し、そのまま階段方面へ歩きだす。

ふぁっきゅーれいかは息をつくと、少女に向き直り口を開く。


ふぁ「まあ、邪魔が入ったけど・・・、そういうわけで、これからあなたには私達のリーダーと会ってもらうわ。この隠れ家に新入りを迎え入れる場合、必ずリーダーに報告する決まりなの。」


うーん。

なんだかそれだけじゃ済まなそうな嫌な予感・・・。


ふぁ「あ。それと、記憶喪失の件は隠さないように!素直に話してくれないと、こちらとしても情報交換が出来ないからね。」


「わかったのだ・。・v」








少女とふぁっきゅーれいかは、王の間へと続く通路を進む。

道端には複数の人間が、ひそひそと声を潜める。

少女は、痛いほどの視線に囲まれ、居心地悪そうに前かがみになって進んでいる。

時折、ふぁっきゅーれいかが視線の元に睨みを効かせ、人払いをしてくれていた。


ふぁ「この隠れ家はね、通称『れいかファミリー』と呼ばれているの。今の子たちはあなたのように、この世界に来たばかりの・。・達なのよ。大方、あなたの外見が珍しくて気になるのでしょう。あまり気を悪くしないでね。」


「・・・そんなに珍しい格好なの・。・?」


「あなた、ガラスの前でニヤニヤ笑ってたじゃない。・・・かなり希少よ。」


・・・ば、ばれてる。


「・・・というか、は全員、格好に特徴があるの。ねぇ、あなた本当に自分の名前を覚えていないの?」


「・・・思い出せないなの・。;そういえば以前にも『名前持ち』って単語が出てきたのだ・。・一体何のことなの・。・?」


ふぁ「この世界にはね、2つのパターンとして召喚されるの。端的に言ってしまうと主役とモブね。」


「あ・。・!もしかして、配信者とリスナーってことなの・。・?」


ふぁ「ふふっ。本当に賢い子ね。」


ふぁっきゅーれいかは、少女の頭を優しく撫でる。

少女はすっかり安心した様子で、話に耳を傾ける。


ふぁ「そう、。それこそ、レジェンド級の配信者から、過疎配信者まで例外なくね。」


「その配信者がふぁっきゅーちゃんやキリトさんのことを指してる『名前持ち』なのね・。・」


名前持ち。

すなわち、元配信者。

名前持ちは特別な力が使用可能。

この世界に召喚される際、現実世界とは異なる体型と服装を与えられる。

外見が特徴的で、尚且つ印象に残る。


ふぁっきゅーれいかは、簡潔に名前持ちの特徴を挙げていく。

少女は必死に、頭の中にインプットしていく。


「そして、それらの配信を見ていたリスナー・・・がもう一つのパターンね。中央広場にいた人だかりは、ほぼ全てリスナーよ。地上の無限迷路で路頭に迷っていたのを保護したの。」


リスナー。

元配信者の囲い。

名前持ちと比べ、特別な力は持っていない。

現実とは異なる体型と服装を与えられる。

この部分は名前持ちと同じだが、その格好は大雑把で特徴が無い。

数が多い。

フツメン。


「・・・そして、誰がなんのために、召喚しているかはわからないと言ってたのだ・。・」


少女は、これまでの記憶を元に、情報を整理していく。


「・・・最初から私をこの隠れ家に連れて行くつもりだったなのね・。・」


つまりはそういうことになる。


ふぁ「・・・ごめんなさい。私はあの時選択肢を与えたわ。私に付いてくるか否かを。・・・どちらを選ぼうとしても、私はあなたをここに連れて行くつもりだった。少し手荒な所もあったかもしれないわ。本当にごめんなさい。」


「い、いやいや・。・!私の方が感謝したいくらいなのだ・。・!もしもふぁっきゅーちゃんに出会ってなかったら、ずっと迷路の中で途方に暮れてたか、怖い男の人達に殺されてたかもしれないのだ・。・!それに、今じゃ付いてきて正解だったと思ってるなの・。・この世界はなんというか・・・簡単じゃないってわかったのだ・。・!」


ふぁ「・・・ありがとう。」


過度なくらいに、よしよしをするふぁっきゅーれいか。

傍から見れば、仲睦まじい姉妹のよう。


ふぁ「さっきも言った通り、あなたのその可愛らしい外見、戦闘センス、これは明らかにリスナーの枠に当てはまらないの。おそらく、あなたは最初から名前持ちだった。この世界に召喚された際、何らかの原因で記憶喪失になってしまった名前持ち、私にはそうしか考えられないのよ。」


・・・私にこんな変な力があるのは、現実世界では配信者だったから?

いきなりそう言われてもピンと来ないなぁ。

なんで記憶喪失なんだろ私・・・。


・・・。



ふぁ「まあ、その部分も諸々含めて、これから話し合っていきましょう。」


ふぁっきゅーれいかが話を打ち切りだす。

いつの間にか、二人の遠方に巨大な門がそびえ立っていた。

赤く巨大で、押せば開きそうな扉。

木造の質素な造りだが、少なからずの高級感を感じさせる。


「・・・リーダーってどんな人なの・。・?」


ふぁ「そう・・・ね・・・・・・・・・・。」


ふぁっきゅーれいかにしては珍しく長い

少女は、また失言したのかと焦る。

しばらくして、ふぁっきゅーれいかは小さな声で呟いた。


ふぁ「・・・嫌な奴よ。」










門を抜け、広々とした空間に出る。

そこには一面赤いカーペット。

奥に二本の大きな柱が建っている。

それに寄りかかっていた二人の人間が、ふぁっきゅーれいかに気づく。


野太い声「ふぁっきゅーれいかです。リーダー。」


活発そうな声「新入りだよ!リーダー!」


両脇は護衛の人なのかな・・・?

・・・真ん中で座っているあの人が、この隠れ家の一番偉い人、リーダー・・・?


柱に挟まれるように、豪華で派手な玉座が設置されている。

それに座っていた人物が、立ち上がり、来客の二人に近づく。


金髪細身で背が高く、二十代前半の爽やかイケメンといったところか。

動きやすそうな王様系ファッションに、腰にはサーベルが一本添えられている。


リーダー「やぁやぁよく来たね!私の名前はフリーれいかだよ!この隠れ家のリーダーをしているものさ!」









少女に理解不能の頭痛が襲いかかる。

視界は紫に飲まれ、痙攣は止まず、冷や汗が溢れ続け、過呼吸が止まらない。

尋常ならざる嫌悪感。

類稀な既視感。

・・・封じ込められた記憶の暴走。


うあっ?

なに・・・これ。


極度の立ちくらみで倒れそうになる少女を、ふぁっきゅーれいかは最小限の動きで支える。


ふぁ(ちょ、ちょっと!大丈夫なの!?)


フリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいかフリーれいか・・・。


偽物。

偽物。

あいつは偽物。

お前も偽物。


精神が蝕まれそうな闇に、少女は辛うじて意識を保つ。


何を言ってるのっ・・・??

偽物って何!?


を払い除け、少女はなんとか現実へと浮上する。


ふぁ「リーダー!この子、実は記憶喪失なのよ。この世界のこともほとんど知らないの!」


「・・・・そ、そうなのだ・。・この世界に来るまでは、家でゲームをしていた・・・ということしか覚えてないなの・。・名前も覚えて―――」


覚醒するなり、少女はふぁっきゅーれいかの言葉を代弁する。

少女が落ち着きを取り戻したのを見て、ふぁっきゅーれいかも安心した様子。

そのまま少女の言葉に耳を傾ける。


リーダーであるフリーれいかも、少女の声に耳を傾けて・・・いない?

この王の間で唯一人、不機嫌な態度を隠そうともしない男が唯一人。


フリー「は?」


少女の言葉が終わった瞬間、短く一言。

たったそれだけで、緊張が場を支配する。


フリー「いや、あの、は?記憶喪失ってお前・・・とどのつまりのと同じじゃんか。はぁ。久しぶりの戦力アップを期待したのに見事外れたなー。まったく・・・。またハズレ引いちまったってわけか?はぁ~~~。」


え。

いきなりキャラが豹変した!


嫌な奴。

ふぁっきゅーれいかの言葉を少女は思い出す。


フリー「まぁ、同じ・。・のよしみで?最低限の生活だけは保証してやるよ。」


ふぁ「待ってリーダー。決めつけるには早いわ。この子の戦闘力は私に近いの。」


フリー「・・・はぁ??・・・見たところ武器も持ってねぇが。あ!ひょっとしてふぁっきゅーと同じ格闘家か??」


「そ、そうなのだ・。・!」


フリー「格闘家は二人もいらなくね~~?・・・ジョブ被りって知ってるかおチビちゃん。ガチャのダブりほどイラつくことはねぇ。おチビちゃんは俺から見りゃレベル1の合成素材と変わんねぇんだよ。わかるか?今の俺の気持ち?理解できるか?あ?」


あまりにも失礼すぎる言葉の槍。

突然ともいえる豹変に、少女は理解が追いつかない。

少なくとも、これよりは良い待遇を期待していただけに。


フリー「じゃあスカイれいか。このチビに住居を案内しろ。ふぁっきゅー。西地区の報告を聞こうか。」


早々に話を打ち切りだすフリーれいか。

ふぁっきゅーれいかが慌てて口を開こうとした時、少女の大声が響き渡る。


「ちょっと待つなの!・。・!私の話を聞いてなの!・。・!」


フリー「・・・うるせーよチビ。」


一蹴である。

そのまま興味を無くしたかのように、ふぁっきゅーれいかの報告を待つフリーれいか。


・・・。

チビ・・・チビ・・・。

子供ならまだしもチビ・・・。

・・・そりゃ小さいけどさ。

・・・。

だ、だめだ涙出そうかも。


「ふぁっきゅーちゃん・。・」


真顔で少女は口を開く。

謎の頭痛とはまた別の形で、少女は純粋にキレていた。


。」


ふぁ「・・・。」


ふぁっきゅーれいかの般若のような顔に一瞬ビビるも、少女はその場から姿を消す。

次の瞬間。


フリーれいかの顔面に、少女の拳が捻り込まれていた。

コンクリートを粉砕するレベルの殴打をモロにくらったのだ。

フリーれいかは、そのまま玉座にぶつかる形で吹っ飛んだ。


とんでもない事態。

この隠れ家のリーダー、つまりは王を殴ったのだ。


だが、ここは異世界。

従来の価値観が当てはまらない世界。

現実だと即アウトだろうが、ここには法も何も無い。

全てはその場の成り行き次第である。


活発そうな子「え、ええええええええええ!!!??」


野太い声「き、貴様っ!!そこになおれ!成敗してくれるっ!!」


だがしかし、少なからずもここは隠れ家という一つの国。

リーダーの護衛である両名も驚きを隠せない。

ふぁっきゅーれいかはというと、腹を抱えて大爆笑中である。

少女はというと・・・。


・・・この人、私のパンチをくらった。


フリー「騒ぐな。」


護衛の両名も、ふぁっきゅーれいかも、一瞬で静止する。

玉座の肘掛けを掴み、立ち上がるフリーれいか。

口から血反吐を吐き出すも、その表情は晴れ晴れとしている。


フリー「・・・くっくっ。いいねいいね!問答無用で顔面狙ってくるそのイカれっぷり。すごくいいよ君ぃ。」


少女にとっては、全身全霊を懸けた一撃だった。

だがどうだ。

今では、悠々と立ち上がり、少女の前へと歩を進めていく。


フリー「お前もだ。田中みこ。俺は平気だ。それ以上動くな。」


聞き覚えのない名前に少女は一瞬固まる。

無意識のうちに気配察知を行い、ようやく気がついた。


「・・・くっ・。・!」


電光石火の如く、少女がその場から数メートル離れる。

そこには、一人の見知らぬ女性が太刀を構えていた。


・・・気配を感じなかったっ。


いつの間に後ろを取られていたのかと、少女は考えを巡らせる。


田中みこ「・・・。」


ピンクの髪にポニーテール。

片目は髪に覆われて見えない。

服装はこれまたわかりやすく、ピンク色の忍者風コスチュームといったところか。

一言で言えば可憐。

線が崩れてない綺麗な立ち姿。

田中みこと呼ばれたその女性は、太刀を構えたまま静止している。


フリー「ふぁっきゅー。田中みこを連れて離れていろ。」


ふぁっきゅー「・・・了解。行くわよみこちゃん。」


田中みこ「(・・・コクッ。)」


小さく頭を振って答える田中みこ。

太刀を鞘に収め、とぼとぼとふぁっきゅーれいかの後を歩く。

そのまま、玉座の近くへと移動する。

ふぁっきゅーれいかが離れていく様子を見て、一抹の不安を抱く少女。

しかしすぐに、気持ちを切り替える。

とんでもないことをしでかしたのは少女にとっても重々承知だ。

自分の意思で殴ったのも事実。

この事実は簡単に覆せない。


フリー「一応聞いておこうか。何故俺に手を出した?」


「・・・リーダーと聞いてたけど、正直落胆したのだ・。・」


はっきりと。

少女はフリーれいかの目を見て続ける。


「・・・人のことをジョブ被りだの期待ハズレだの・・・聞いてて腹が立ったのだ・。・」


あえてチビと言われた件を隠す。


「はっきり言ってリーダーの素質ゼロなのだ・。・!従うくらいなら、お前を倒して私がリーダーになってやるなの!・。・!」


この場にいる誰もが目を見開く。


ふぁ(・・・やっぱりこの子は、他の子と何か違う。手を出したのもそうだけど、ま、まさかの発言ね・・・。)


ふぁっきゅーれいかにとって、半分期待通り、半分予想外。

フォローするつもりが、気がつけばこの状況。


フリー「ふ、ふははっ!おいおい聞いたかお前らぁ!この俺を倒してトップに成り代わるって!あ、あはははははっ!!いいねいいね!面白い面白い!!ぎゃははははははっ!!」


フリーれいか、転げ回りながらひとりで大爆笑。

一見すれば和やかな場面。


冗談ではない。


護衛の両名は唾を飲み込む。

これは・・・本当に・・・洒落にならないっ・・・!


フリー「・・・・だがな?」


突然笑いを止め、少女に向き直るフリーれいか。

固唾を飲んで見守るふぁっきゅーれいか。


フリー「一発は一発だ。」


フリーれいかの両目が、を放ちだす。

その場にいる誰もが、主たる力の奔流を感じ取る。


活発そうな声「あ、あわわ・・・。エライことになったよっ!」


護衛の一人が玉座の後ろへと隠れる。

もう一人の護衛も、仕方ないといった様子であとに続く。

主を心配する瞳の田中みこ。

ふぁっきゅーれいかは震えだす。


ふぁ(・・・か、完全に失敗したああああああぁぁぁぁぁ!!!)


リーダーの元に連れてきた自分を恥じるふぁっきゅーれいか。

少女の好戦的な性格が、まさかの裏目。


――リーダーを本気にさせてしまった。


少女に対しての侮辱に、冷静な思考が取れなかったことも大きい。


今更加勢に入ろうにも、


見守ることしか出来ない状況に、ふぁっきゅーれいかは歯ぎしりをする。


「・・・・・受けて立つなの・。・v」


構えは凛々しさそのものだが、溢れ出る冷や汗は隠せていない。


フリー「おっ?歯向かうのか!いいねいいね!」


腰のサーベルを捨て、少女に合わせたボクシングスタイルを取る。

ブレブレな構え。

明らかな挑発。


フリー「だけどもう分かってんだろ?!俺には敵わないってことが!!」


心のなかで舌打ちをする少女。

あの一撃の時点で、勝敗は決まっていたものなのだ。

どれほどの力なのか知りたい。

それだけの理由で顔面にパンチを貰ったと、少女もすぐわかっていた。


あれは、のだ。


「・・・確かにやばそうなの・。・それでもこちらが最初に手を出したのだ・。・最後まで歯向かってやるなの・。・!」


フリー「・・・♪。じゃあお手並み拝見だ!おチビちゃんの力見せてみな!!」


その言葉が終わると同時に、少女の動きが音速を超える。


(((・・・疾い!!!)))


少女と共闘したふぁっきゅーれいかでさえも、驚いていた。


ふぁ(!?)


だが、この場で一番驚いていたのは・・・他ならぬフリーれいかであった。


事情を知らない少女は、さらに速く、疾く、烈風の如し。

放たれた拳撃は空気を歪に引き裂く。

成長は未だ、止まることを知らない。

最初の一撃を余裕で超えた速度で翻弄し、既に十を超える深手を与えている。


フリー「・・・くっ。はははっ!!おらどうした!?もっとこいよ!!」


喰らいながらも、なお笑い続けるフリーれいか。

明らかに人体が破壊されているであろう爆音が響き渡る。

だがどうしたことか、少女に対して反撃どころか何も手を出してこない。


こ、このM野郎が・・・!

・・・人を舐めるのも!

大概にしろッ!!!


おかまいなしにと、連撃、怒涛、滅多打ち。

直撃すればたとえ金剛石であろうと粉微塵に砕け散り、まるで紙屑の如く押し潰すほどの圧倒的連弾。

だがそれを、全弾食らうフリーれいか。

血まみれになりながらも、未だ倒れることなく笑っている。

いや、そんな笑えるような生易しい攻撃では無いはずなのだ。

そして瞬間、少女は確かに見た。

涙目で、明らかに耐えきれないといった表情をこぼすフリーれいかを。


・・・


戦闘時には強気な正確であれど、少女に微かに残っていた感情。

萎えたとか、そんな感情ではない。


同情と心配と、激しい後悔。


少女の目にも涙が溢れ出す。

一方的に無抵抗の者を殴るだけ。

もはやこれは決闘などではない。


フリー「・・・はっ。優しいんだな、チビ。」


動きを止めた少女を見て、フリーれいかは両手から後ろへと座り込む。


「・・・ご、ごめっ――」


フリー「謝るな。。この世界じゃこれが正解なんだ。」


その先は言わせまいと、フリーれいかは言葉を続ける。


フリー「。つまり、異能無しであれほどのレベルってわけだ。・・・おい泣くな。こっちだって委細承知で受けてたんだ。さっきの俺の暴言を倍返しに出来たとでも思っとけ・・・。」


・・・異能?


少女の身体から闘志が抜けていく。

もはや考える力も消え失せ、へたりと座り込む少女。


フリー「んじゃ、。チビ。」


フリーれいかの指から、少女目掛けて赤いビームが飛ぶ。


・・・え?


瀑布にも似た怒濤の大質量に飲み込まれる少女。

何が起こったかも分からず、少女の意識はそこで切れてしまった・・・。





玉座の後ろから顛末を見ていた護衛が出てくる。


活発そうな子「・・・一時はどうなることかと思ったよ!」


護衛たちが、一人では動けないフリーれいかを、玉座まで移動させて座らせる。


フリー「悪いな。よく俺を信じて手を出さずにいてくれた。感謝する。」


護衛の二人は、我先にとフリーれいかの治療を開始する。

田中みこはいつの間に消えたのだろうか、姿が見えない。


フリー「ふぁっきゅー。あのチビの介抱を頼む。」


ふぁ「言われなくともそうしてるわよっ!!」


既に少女の身体を担ぎ、王の間を出ていこうとするふぁっきゅーれいか。


フリー「ああそうだ。また明日、そのチビ連れてここに来い。。」


ふぁ「・・・説明してもらうからねっ!!」


フリーの顔を睨みつけ、走り去るふぁっきゅーれいかとその背中に少女。

それを見届けたフリーれいかは、もはやこれ以上隠すことなく痛みに悶えだす。


フリー「がぁああッ、ははっ痛ぇ・・・いるのは分かってんだよ。出てこい。」


キリト「・・・珍しく災難だな、フリーれいか。」


音もなく姿を現すキリト。

彼は、事の顛末を最初から見ていたのだ。


野太い声「ま、まさかあの伝説の・・・!?」


護衛の一人が驚きの声を上げる。


フリー「たまにはいいもんさ。・・・痛っ。・・・なかなか気持ちよかったぜ。」


キリト「・・・。」


フリー「。ああいうキャラは久々だ。わかるかキリト?俺はこれからが楽しみでしょうがねぇ。このクソつまんねぇ世界を楽しむためなら、俺は何だってする。死にかけになろうと、今の俺にとっては刺激的で最高の気分なのさ!ああいう力を持ってるやつはまさに大歓迎!見所あるぜぇ!!」


痛みなどお構いなしに、再び笑い出すフリーれいか。


キリト「・・・知ってるよ。殴られながら笑ってたもんな。あんたが心の底から笑うなんて、こりゃあ後々天変地異が起きるぜ。」


フリー「ちっ、慣れねぇことしたさほんと。まぁ、挨拶はこの辺にしといて、・・・。何があった、キリト?」


キリトは血まみれでそこにいた。

先の戦いで傷を受けて、服装もボロボロに破けている。

あの女兵士を思い出しながら、キリトは静かに口を開く。



キリト「と・・・についてだ。」


キリトは報告をしていく。






気づいた時には、既に手遅れ。


に。


彼はまだ、気づかない。



つづく。




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