第10話 跫音(きょうおん)が鳴る試練の洞窟へ 4

 見るからに手練れな黒騎士は、黒衣のアーマーを装着して来ているようだ。


 果たして奴隷として従っていた双子エルフと、三白眼キツネ娘は、敵意を察知した上で手を出すかどうか。


「パナセ、この岩だらけの場所でも調合可能か?」

「手持ちの草だけでもどうにかなりそうですけど、作れないことは無いと思います。お任せください! わたし、アクセリさまの求めに応じることが出来る薬師なんですから!」

「そうだな、俺の為に役立ってくれ。俺は下手をすると、お前よりも戦う力が弱いのだからな」

「えええっ!? そ、そんな、そんなことなんてないですよ!」

「愉快な答えをありがたく頂くが、事実だ。俺は賢者としての能力のほとんどを失っている。使えるのは、盟約で従えている属性要素だけだ。それだけでは黒騎士にとどめはさせないだろう……」

「はーうー……アクセリさま、可哀想です~」


 今すぐパナセの頭を軽く小突きたい所だが、そろそろ黒騎士が奥の部屋にたどり着く。


 俺の索敵を頼れば、黒騎士がたどり着く部屋は双子エルフの部屋のようだ。


 それが分かった時点で、先にキツネ娘の部屋に向かって、合流しておきたい所ではある。


「で、出来ましたぁ~」

「何を合成した?」

「スニーククロッグです!」

「何の変哲も無さそうな足防具に見えるが……履いてもいいのか?」

「もちろんです! アクセリさまの分と、ストレの分も作りましたから! えっへん!」

「……調子に乗るな。どんな効果があるのか言え!」

「は、履いてくださればすぐに~」


 今から向かおうとしたのを先読みしたのかは定かでは無い。


 だが、跫音が鳴る洞窟で音消しなる防具を作るとは、この薬師はとんでもない潜在能力を秘めているのか?


「わ、わたし、こっそりと動くのが得意なんです……ですから、これで敵に見つかることなく奥に向かえればいいなと思ってですね……」

「よくやった! パナセ、この件が片付いたら、お前を思いきり甘えさせてやるぞ」

「ほわわわわわ!」


 こんな拾いモノ……いや、とんでもなく合成スキルが高い薬師を捨てたPTに感謝すべきか。


「ヌシさま、オク、進む……」

「ストレ? お前、分かるのか?」

「ン……分かる」

「ではお前が先に行け。その足防具ならば、黒騎士ごときでも気付かれはしないだろう」

「ストレのご主人様としてお認めになられたのですか?」

「俺は何もしていないが、呼びたければ呼んでいいだろう」


 むしろ、ここに至るまでに俺の弱々しい力が、人の為になったと思っていないのだが。


 ストレを含め、俺とパナセの足音は見事に打ち消され、跫音が鳴り響くことはなかった。


 単なる攻撃、妨害といった合成だけに留まらないとすれば、パナセはいずれ俺の片腕となるはずだ。


 薬師を筆頭にして、これから先に出会うであろう冒険者あぶれの者たちで、全てにおいて優勢なPTを作っていくのも悪くない。


『……人間、貴様か?』


 いくつか部屋が分かれていた奥へ足を踏み入れると、すぐに娘の声が聞こえて来た。


 思った以上に、キツネ娘の察知能力は高いようだ。


 しかもぱっと見で、岩が話しかけて来ている様に見えるくらいに、娘の姿が岩と同化している。


 恐らくこの娘の能力は、カムフラージュというやつだろう。


「あぁ、そうだ。敵意を出さないと言っていたが、よく分かったな? それに足音も消していたのにだ」

「ほ、本当ですね。スニーククロッグは、魔物はおろか、ちょっとやそっとなレベルの冒険者でも、気付かれないはずなんですよ? す、すごいです……シヤ」

「……た、大したことは無い。そこの人間の言う通り、音にではなく気配と敵意の有無で察知した。オレは大したことはしてない」


 大した能力でもあるが、それだけでは勝てそうにない。


 ハッタリとパナセの能力で幻覚でも見せるしか無さそうだが……


「シヤとやら、そのカムフラージュを解くことなく、エルフらがいる部屋へ行くぞ」

「い、嫌だ……あの人間、来ている……奴隷、嫌だ」

「それも気づいていたか。エルフらの力がどうか知らないが、見過ごせばどのみち捕まるぞ。それだけではなく、パディンも襲われる。それが嫌なら俺に従え」

「お、お前も、奴隷扱いするのか?」

「命令ではないが、シヤの能力も使わねば、黒騎士を翻弄出来ないと俺は見ている」


 無理やりに従わせたところで、それこそ能力が半減するだけだ。


 だが、みすみすエルフらを捕らえられるわけにはいかないが、どうするべきか。


「あ、あの、シヤ。アクセリさまは、言い方はこうだけど、とてもお優しい方なの。だ、だから、わたしの言葉を信じて、一緒に来てくれないかな?」

「……パナセが言うなら行く……人間でも、パナセは違うから」

「うんうん! あ、ありがと!」

「シヤはパナセに従うだけだ。人間、お前にじゃない」

「……それでいいぞ。俺の命令でパナセが動いているのだからな。同じことだ」

「……ふん」


 直接的に従わなくても、パナセであれストレでも間に入って、従うのであれば何も問題は無い。


 さて、エルフらの部屋で一戦交わることになるか。


 あまり前に出て戦いたくは無いが、先々の芽をここで潰させるわけにはいかないからな。

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