第9話 跫音(きょうおん)が鳴る試練の洞窟へ 3
一見平和そうな弱小ギルドだったが、まさか冒険者が異類の者たちを、奴隷としていたとは驚きだった。
だからこそ将来役立ちそうな者だけを誘って、試練に来たわけなのだが……
「どうしてアクセリさまは、彼女たちの素性がお分かりになられたのですか? わたしはそれなりに長くあのギルドにいましたけど、奴隷だとかそんな風には見えなかったです」
「勘だ」
「ええええっ!?」
「もちろん冗談だ」
「そ、そうですよね……アクセリさまがそんなお茶目なこと……」
「お前は俺を何だと?」
「ひゃいっ! すみませんすみませんすみません!」
「賢者も冗談くらい言うぞ。そう頭を下げるな。パナセは何も悪いことは言っていないのだからな!」
「はぅ~……」
時間が経てばたつほど、面白くなってきている薬師だ。
それに比べて竜人娘ストレは口数以前の問題がある。普段は力の温存なのかは分からぬが、極力無駄な動きをしない生き方をしているように見える。
「あ、あの、部屋の奥に移動されますか?」
「いや、そろそろ来る。俺らは岩の陰に身を潜めてやり過ごす。言っている意味が分かるか?」
「な、何が来るのですか?」
「敵だ。それも、彼女たちのな!」
「え、敵……?」
「しっ! 跫音が鳴り始めたぞ……岩場に潜め」
「は、はい」
俺とパナセ、ストレは自分たちの姿を隠す手頃な大きさの岩に隠れ、近付く奴等に備えた。
「まさかよぉ、義賊が奴隷を連れて行くなんて予想出来なかったぜ? なぁ、エウダイの旦那」
「無駄口を叩くな! 奴隷を回収するのが目的だ。義賊か何かはどうでもいい。パディンのギルドに匿われていたとすれば、回収後はギルドを潰す必要がある」
「おぉ……ってことは、襲撃をするってやつですかい?」
「手勢の集めはお前に任す。ここは俺一人だけで十分だ。パディンの近くに集結させておけ!」
「旦那が一人で? しかしよぉ……奴隷はともかく、義賊は強いらしいですぜ?」
「……所詮、義賊だ。民衆を味方にしたところで、俺が負ける相手では無い。さっさと行け!」
「へ、へい」
二人程度で来たかと思えば、雑魚一人を引き返させて町を襲わせるようだ。
見たところ、黒騎士のようにも見えるが……奴隷狩り、いや、奴隷を使って冒険者気取りか。
「(ど、どどど、どうしましょう!? ア、アクセリさま……)」
「(何がだ?)」
「パ、パディンを襲うだなんて、そ、それは駄目です~)」
「(落ち着け。これから手勢を集めるということは、すぐに襲撃が出来るわけでは無い。まして、指示を与えているのがあの黒騎士だとすれば、雑魚だけで動くことは考えられない)」
「(で、でもでも……)」
やれやれ、パナセにとってのホームが襲われるとなれば、気が気でない状態となるか。
「(パナセ。お前が傍にいてくれなければ駄目なんだ。試練のこともあるが、俺とお前と、あの子らで黒幕を何とかするのが先だ。いてくれるか……?)」
「(はわわわわわ……! アクセリさまのお傍に! いますいます! そ、それなら、とっととやっつけちゃいましょう!)」
「(……まぁ、待て。強さの程を知るには、奥に隠れている彼女らがどこまでやれるかを見たい。動くのはそれからだ。恐らくだが、彼女らを使っていた奴隷主だとすれば……)」
「(わ、分かりましたです!)」
「(ストレも何もするなよ?)」
「(……ん)」
一人で奴隷を回収とは、随分と自信ありげのようだ。
それには俺も含まれてのことだろうが、今の実力では勝てないのは俺の方だが……
奴隷の彼女らの潜在能力と、パナセの反則的な合わせ技でどうにかしてみるとするか。
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