第18話 018枚目 あいつは突然やってくる。なにしろ突然やってくる。

 襲いかかる魔物をなぎ倒しながら琴花達は進んでいく。


 森の中だけあり、獣や虫または鳥タイプの魔物がちらほらと顔や姿を出していく。

 もちろん全部が全部襲いかかってくるわけでもないので、敵意剥き出しの魔物のみ討伐していく。


「ちぃこっちに向かってくるか。エルっち、左側頼むぜぇい」

「了解よ」

 各々の武器を構え、敵の攻撃に備えていく。もう何体蹴散らしたかは分からない。

 未だにサーシャとハクトウパンの行方は分からない。

 ただ時折聞こえてくる低い鳴き声だけがハクトウパンの生存を知らせる。

 ほかのハクトウパンではないかと思ったが、女神ウリエル曰く、子煩悩であるハクトウパンは我が子に何かしらの被害が生じたときに低い鳴き声をあげるらしい。

 我が子を虐めた罪は死を持って償えということであろうか。

 いやはや子を思う親の気持ちとは恐ろしい。


「そこの木陰とかよーく注意してくれよコイロっち」

「う、うん」

 視界が悪い森の中、どこから増援や伏兵が来てもおかしくない。

 神経を研ぎ澄ませ、魔物がいないか注意深く観察していく。槍を持つ手に力が入っていく。


『まぁ琴花は全然戦っておらんがな』

 正座しながらお茶をすすりながら呟くウリエル。

 その左側には、なぜかお茶請けのお団子までセットされている。


「それ、わざわざ言わなくてもいいから」

『そう説明しとかんと、戦ってないのに戦ってる風に取れるじゃろ。それズルじゃぞ』

「そんな呑気にお茶してる女神に言われたくないし」

『な、なんじゃこのみたらし団子はやらんぞ』

「あー、うん。それいらないから」

 欲しくても次元が違うのでどっちみち手に入らない。だが森の中を歩き回って小腹が空いている琴花には、そのみたらし団子はとても美味しそうに見えた。

 少し前、琴花は戦闘に参加した。

 参加はしたが、結局1匹も仕留めることができなかった。さらに弁慶の泣き所を責められて離脱。

 元々戦闘経験がない素人なのだ。

 それがいきなり覚醒して無双ができるわけがない。なのでそれ以降、琴花の役目は見張りである。見張りといってもただ見ているだけではない。

 戦っている二人の背後や琴花の近くに出現した時に魔物が現れたら叫んだりする立派な仕事である。

 ただし時給は発生しない。もちろん日給も。


『琴花よ。コインさえ使えばすぐに二軍から一軍登録できるぞ。打席に立てなくては活躍もへったくれもなかろう』

「そうはいっても回数に制限があるんだから、ここぞという時まで残しておかないと」

『だが死んでしまっては元も子もなかろうに』

「今は大丈夫だよ、冒険者(ランカー)が2人がいるもん。それに守ってもらってるし」

『はぁーお主の頭はお花畑かッ! ハクビー戦の時のことを思い出してみろ。たしかにあの2人は強い。だが、それでも素早い身のこなしで琴花に近づいてきたときどうするのじゃ。さっきは弁慶程度で済んだが、今度は死ぬかもしれんぞ』

「でもあと3回しか使えないんだよ。3回だよ3回。この3回は考えて使わないと」

『うーむ、もしかしてお主コインの枚数を気にしておるのか?』

 あまりにも回数を連呼する琴花を見てウリエルは眉をひそめた。


「うん」

『たしかに大事に使って欲しい。あと行方知れずの2枚も探して欲しい。だが明日になれば新しいコインが支給されるんじゃから、そうケチケチせんでもよかろう』

「え? でも大事に使えって……コインはこれだけしかないって意味じゃ……」

『違うわーこのシャイニング馬鹿たれめがッ! 最近のソシャゲーでもログインボーナスってのがあるのに女神がそれをしなくて誰がするんじゃ』

「そういう大事な事はちゃんと言ってよ」

『聞かれなかったからのぅー忘れておったわ』

 団子を笑顔で頬張るウリエル。

 そこは教えて欲しかったと琴花は大きくため息をついた。


 ★

 さらに歩き続けること数分。

 相変わらず白い靄(もや)のせいで視界が悪いことに変わりはない。

 ハクトウパンは一体どこにいるのだろうか……。そしてサーシャの行方は……。


「ストップだ」

 突然レイが立ち止まる。

 しばらく前方を観察し、

「奴だ、隠れろ」

 とレイは琴花に隠れるように促す。

「ハクトウパン、そこにいるの?」

「あぁ、あの図体は間違えようがねぇよ」

 琴花達は木陰に隠れて、その先を見つめる。

 大きな鷲の翼を持つパンダ。

 ハクトウパンだ。お久しぶりーふだ。


『ここで会ったが百年目じゃな。さーてどう調理してくれようか』


 なぜか闘魂と書かれた赤いハチマキを巻いて指を鳴らしているウリエル。神々しいイメージとは、もはやかけ離れている。


「どうやら子供も一緒にいるみたいね」

 ハクトウパンの側には小さな子ハクトウパンが二匹。そのうちの一匹の頭部をハクトウパンが舐めている。そいつが間違えてサーシャが蹴っ飛ばしたやつである。

「サーシャっちがいねぇってことは、うまく逃げたってことか」

 追いかけるのを辞めたのか、はたまたサーシャにトドメを刺したかは残念ながら不明だ。

「そう願いたいわね。たぶん彼女の固有スキル≪森の詩(しらべ)≫があるから大丈夫だと思うけど」

「えーと、そのスキルって何ですか?」

 いまいち言ってることが分からないので琴花はエルに聞く。

「森の詩(しらべ)は、森の中にいる時に能力が上昇するスキルよ」

『本来ならば森に住む魔物が所持しているスキルの一つじゃな』

「へぇー」

 ファイ◯ーエ◯ブレムのMAPで森の中で待機すると回避率上昇するみたいな感じかと琴花は勝手に納得する。


「時たまいるんだよ、そういうフィールドに応じて強くなるタイプが。例えばこの辺りならばグワッパという魔物がいてな。水辺にいる時や雨が降ると戦闘力が大幅に上がるスキルを持ってい……おっと、今は雑談してる場合じゃねぇな」

「とにかくサーシャちゃんがここにいない以上、ハクトウパンにわざわざ喧嘩を売る必要はないわ。早急に森を脱出して、ギルドに応援を要請すべきね」

「あぁ、とてもじゃないが2人は厳しい。魔術師や特殊な能力やスキルを持つ奴がいるならば話は別だがな」

「特殊な能力……」

 琴花はチラリとウリエルを見る。

『コインさえあればハクトウパンなんぞお茶の子さいさいじゃ。いくのじゃ琴花ッ! 初陣じゃ』

 ウリエルは満面の笑みで頷く。つまりコインがあれば勝てるということだ。

 だが、ここで小型の魔物ですらまともに倒せない琴花が、いきなり大型の魔物を撃破したらどうなるか。

 明らかに怪しまれる。

 森を出るまでは大人しくしていたほうがいいような気がする。

 コインの枚数についての問題点は解決しても、ここで特殊な力を発動させるのもどうかと思う。

 今は大人しく守られる側にいたほうが懸命なのではなかろうか。

 まぁ何はともあれ、レイとエルは戦う必要がないと言っているのだ。わざわざ戦う必要はない。

 レイとエルが歩いていく。


『おいおい戦わないのか? このコインいつ使うのじゃ今で……』

 眼鏡を装着してウリエルの声をシャットダウンすると、その後を追うように琴花も歩き始めた。

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コイン磨きの聖女様 カクヨム版 聖魔鶏カルテペンギン @karutepengin

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