第14話 014枚目 外見の幼さを呪う

 現れたのは赤髪の青年だった。

 持っている大剣や身体の作りからして、おそらく前衛職なのだろうと推測された。

 たぶん冒険者(ランカー)であろう。

 だが、味方である保証がない。

 むしろ敵かもしれない。

 強面(こわおもて)で明らかにファンタジーでいうところの悪役顔だ。

 世紀末ならば右側に心臓がありそうな……。

 その風貌や威圧感に圧倒される。

 はたして味方なのか……それとも。


「あら、レイ」

 だが琴花の心配は杞憂に終わった。

 エルが構えていた短剣を下ろす。

「はぁ〜やっと追いついたぜエルっち。走るの早すぎだってーの」

 それを見た強面の男はニカっと人の良さそうな笑みを見せた。

「ごめんなさいね。早く見つけなきゃと思ったら、自然と足が速くなって」

「まぁいいけどよ。んで、そこにいるお嬢ちゃんは誰なんでぇい?」

「この子はコイロちゃん。今ここで見つけたの」

 エルに紹介されて、どもと頭を下げる琴花。

「これで村の子供は確保したし、一つ目の緊急クエストは完了よ。それよりもサー……」

「いや待て待て、それは違うぜエルっちよ」

 のほほんと話を続けようとするエルにレイはストップをかけた。

「違う? 何がよ、それよりもサーシ……」

「あーだから話を最後まで聞けっての」

 レイはガシガシと後頭部をかき、胸元から一枚の紙を取り出した。

「たしかにそのお嬢ちゃんは子供だ。間違いねぇ、どう見ても子供だ。肌の張りもまぁ見たところ子供だ。それに俺っちのセンサーが全く反応しねぇってことは、あぁ間違いなく子供ってことだ」

 そんなに子供子供と連呼しなくても良いではないか。それにセンサーとは何だと琴花は思った。

『滅茶苦茶な言われ様じゃの〜琴花よ』

「……」

 見た目の幼さに関しては、言われなくても自分が一番よく分かっている。

 そのおかげでお酒を買うときに身分を証明できるものを出してくださいとよく言われるのだ。

 年齢確認のボタンだけで済ませて欲しい。

 財布から免許証をいちいち出すのは意外と面倒なのだ。

「あらあら、まぁまぁ」

「それに捜しているのは《男の子》だ。残念ながら《女の子》じゃねぇよ」

 折りたたまれた紙を広げて内容を確認し終えたエルとレイの視線は琴花に向けられていた。

「んで、お前さん……いや、コイロっちか。お前は何でここにいるんでぇい?」

 レイの鋭い視線が琴花を貫く。

 何でここにいるかと言われたら、気づいたらここにいましたと答えるしかない。

 だが、それで納得してくれるか自信はない。

「まぁまぁ、その問題は後にして。今は緊急クエストより重要なことがあるのよ」

「いや、こいつがどこの誰か判断するのが先だろうよエルっち」

 ズイっと一歩踏み出して、レイは琴花の顔を覗き込んだ。思わず一歩引いてしまう。

「ちょっとレイ。コイロちゃんが怯えてるから辞めなさい」

「るっせぇ〜って。別に脅かしてねぇよ。オクジェイト村の子供じゃねぇのは間違いねぇんだ」

 どう説明すべきか嫌な汗が流れる。

『子供だから分かんないで誤魔化せ』

 そんな無茶な事しか言わない女神様。

 本当にそんなので通用するのだろうか……。

 だが、今はそれしかなさそうだ。女神様の案に大人しく従うことにする。

「あたし、子供だからわかんな〜い」

 とりあえず見た目の幼さを利用してみるも

「おいおい、そんなんで済めばギルドも冒険者(ランカー)もいらねぇっての」

 強面(こわおもて)の冒険者(ランカー)様には通じなかった。

 ですよね〜。女神の馬鹿な助言に乗ってしまった自分が馬鹿だと琴花は思った。

「だが、顔は思ったよか可愛いじゃねぇか。こりゃ〜数年後が楽しみだぜぃ」

「レイ、子供がこんな危ない所にいるんだから事情は後回しにしてまずは保護すべきよ」

「まぁたしかにな。そんでエルっちよ、何か言いかけてなかったか?」

「実はサーシャちゃんの行方が分かったのよ」

 エルは持っている槍をレイに見せつけて、事情を説明書した。

 事情を聞いたレイは

「おいおい、なんでぇそいつを先に言わねぇんでぇい」と自分が話を聞かなかったことを棚に上げて文句を言い始めた。

「よりによってハクトウパンに襲われていたってか。そいつぁ災難だったな」

「そうよ、だから早くサーシャちゃんが走っていった方向へ追いかけないといけないわ」

「子供を守るために自らを犠牲するたぁ〜サーシャっち、俺っちはお前の評価を上方修正するぜぇい」

「本当はコイロちゃんを安全な場所まで連れて行きたいけど、サーシャちゃんは私達の仲間なの。一緒に来てちょうだい」

 エルの提案に頷く琴花。

 もちろん最初からそのつもりだ。

 サーシャを助けに行く。

 琴花はエルから槍を受け取る。

 もちろん槍なんか使ったことはない。

 だが、今は身を守るために所持しておくしかない。サーシャの想いや決意の力を少しでも感じるために……。

「これはコイロちゃんが使ってて。そしてちゃんとサーシャちゃんに返すのよ」

「うん、分かった」

 助けてもらった恩を返すときがやって来た。

 二人の冒険者(ランカー)と共に、サーシャを助けに行くのだ。

「イレギュラーな話だが。おっしゃーそれじゃあ行くぞぉぉー」

 レイの号令にエルと琴花は頷いた。

『やっと話が進んだか、ほれ行くぞ琴花よ』

 三人とウリエルの士気が高まる。

 だが、その前に訂正しておきたいことがあった。

「あ、あの〜」

 だから琴花はそーっと挙手をした。

 せっかく出発進行のいい雰囲気に水を差して申し訳ないが、これだけは言っておかなくてはならない。

「どうしたのコイロちゃん?」

「ん? なんでぇいトイレならそこの茂みで済ませて来いよ」

 一部下品な発言はあったが、二人が琴花に視線を向けたことを確認すると

「あたし、これでも……21才なんだ。だから子供じゃやなくて一応大人なんですけど……」

 恐る恐るそう切り出した。

 しばらく間が空いて







「はぁっ?」

 と、ものの見事に二人の声はハモった。

『おぉーハモったぞ』

「そんなハモらなくてもいいじゃんか〜」

 と外見の幼さを琴花は呪った。

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