第13話 013枚目 エルフの美少年現る。

「見つけたわ、もう探したわよ」

 いきなり腕を掴まれた琴花は、腕を掴んだ人間に視線を向けた。金髪の美少年だった。

「あの……」

「あら、ごめんなさい」

 人懐っこい笑みを浮かべて美少年は掴んだ腕を離す。

 さてさて、どうしたものか。

 女神様の次は女口調の美少年が現れた。

 見た目はイケメンなのに中身で損するタイプだなと、勝手なことを思ったりする琴花。

「まぁ〜無事で良かったわ」

 と美少年が勝手に会話を続けていく。

 だが、見知らぬ人間に見つけたわと言われても困る。

 まず捜された覚えがない。

 新たな勧誘の手口であろうか。

 そう思ったのは金髪の美少年の喋り方だ。

 琴花の中で警戒信号が発せられる。

 こいつは怪しい……と。


「え……えと、あのなんかすいません、どちら様ですか?」

 だが、初対面で敵対心剥き出しになるほど、琴花も子供ではない。21歳の乙女なのでそれなりに大人な対応はできるようになってはいる。

 たぶん……できている。

「私は冒険者(ランカー)のエル。村の子供であるあなたを捜しに来たの。よろしくね」

 エルが握手を求めてきたので琴花も条件反射のごとく握り返した。

 細腕なのに力強かった。

「なぜこんな危ない時期に森に入ったの? みんな心配してたわよ」

「いや、その入りたくて入ったわけじゃないというか……」

 どう説明したら良いのやら。森にいたのは自分のせいではなく、間違いなく女神のせいだ。

 好きでこんな危険場所に足を踏み入れるわけがない。

「あ、そういえばあなたのお名前教えてくれる?」

「あ、あたしは東海(しょう)……コイロ=ショージです」

「ふーんコイロちゃんか、珍しい名前ね」

「いえ、そんなことはないと思います、はい」

 美少年なのに口調が女性っぽいほうが、すごく珍しいだろうなと琴花は思った。

 日本ならオネェと間違いなく呼ばれる人種。

 この美少年はどういう人生を歩んできたのかは琴花には分からない。だが、初対面の人に口調についてとやかく言うのは失礼なので、そのままスルーする。

 口調などは、琴花が住んでいた世界と違うのかもしれないからだ。

「あ……」

 そこで琴花は、とある部分に気付く。

 髪に微妙に隠れていて分かりにくかったが……。

 そう耳である。

 とんがり耳といえば、あの種族だ。

 ファンタジーなら、かならず出てくる種族。

 かの自由騎士とセットでついてくる。

 とんがり耳がピクピクと動いている。

 エルフである。

 創作や映画の世界でしか見たことないが、やはり本物は美形だった。

「あ、そういえばコイロちゃんのほかに誰かいなかった?」

 エルが何かを思い出したかのように尋ねる。

「え?」

 ドキリとした。

 ウリエルと会話はしていた。

 だが、見えているのは琴花だけ。

 たぶんエルにウリエルは見えていない。

 琴花の眼鏡によるものでウリエルの姿と声は、現在認知されていないが、ウリエルが近くにいるのは間違いないのだ。

 もし、見えているのならばウリエルとも会話しているはずなので、やはり見えていないのだろう。

 姿や声を認知できるのは琴花だけと女神ウリエルが言っていたので、そう信じるしかない。

 だが見えていない人にとっては、琴花が一人漫才をしているようにしか見えない。

 それはとても馬鹿な光景だ。

 となると考えられるのは E級 冒険者(ランカー)の少女サーシャーであると考えられる。

 さっきまで一緒にいたという点なら一致している。

 未だ琴花の身代わりとなったままである。

 そろそろ、いい加減に助けに行かなくちゃならない。でも一人では正直厳しい。だが、目の前にいるのはサーシャと同じ冒険者(ランカー)。説明をすれば力になってくれるかもしれない。

「お願いします、助けてください」

琴花はエルの腕を掴んだ。

「え?」

いきなり腕を掴まれて焦るエル。

「これを」

 琴花は意を決して、持っていた槍をエルに見せた。

「これは槍……?」

「助けてください、あたしの身代わりになった冒険者(ランカー)のものです」

「あなたのじゃなかったの? ちょっと見せてもらえる?」

 エルは槍を受け取り、凝視する。

 刃や柄を眺めてエルは驚きの表情を見せた。

「これ……サーシャちゃんの? なんでコイロちゃんが?」

 同じ冒険者(ランカー)だからこそ分かったのだろうか。それともこのエルフはサーシャと知り合いなんだろうか。それならば都合が良い。仲間のためならば助けに行こうとするはずだ。

「はい、サーシャちゃんのです。なんでそれがサーシャちゃんのだと分かったの?」

 実はサーシャ専用の特別製(オーダーメイド)の槍で、仲間は瞬時にその持ち主であると判断できるようになっているのだろう。

 苦楽を共にしたからこそ分かち合えるモノがあるに違いない。



「え……だってここに名前が書いてあるから」

 エルが指差す部分を見ると、そこには読みにくい字でたしかに文字が書かれていた。

「苦楽を共にしたからこそ通じ合う何かがあったんじゃ……」

「いえ、サーシャちゃんとパーティーを組んだのは、このクエストが初めてよ」

「これじゃ小学生の文房具じゃんか」

 武器に名前を書くなんて聞いたこともない琴花は、ガクっと肩を落とした。

 そこは通じ合うとか、響き合うとか、異世界ファンタジーならではの解釈が欲しかった。

 まさか名前が書いてあるからという理由だとは思わなかった。落胆した。

 小学生の頃はノートや筆箱、消しゴムや鉛筆一本ずつに名前を書かされたものである。

「え……えとコイロちゃん、なんで落ち込んでるのか分からないけど、その〜お話を聞かせてもらえないかしら」

 落ち込む琴花を宥めつつ、エルが話をするように促す。

 それと同時にエルの背後からガサガサと音が聞こえた。その音はだんだん大きくなっていく。

 琴花が「誰?」と言う前にエルはサーシャの槍を構えて、音のした方向を警戒する。

 魔物なのか。

 もしかしたら、ハクトウパンかもしれない。

 だとするとサーシャはどうなったのか?

 生きているのか、それとも……。

 緊張感が琴花とエルを包む。

「念のために下がってて」

 琴花はエルの言われるまま下がる。

 下がるついでに琴花は眼鏡を外す。

 ずっと女神様を放置プレイ状態だったので、ちょいと様子観察だ。さぞ御立腹であろう。だから、怒っているのならばご機嫌伺いくらいはするべきであろう。

 幸いに姿を見せたウリエルは怒っているようには見えなかった。エルと同じ方向に顔を向けて警戒していた。

「ま、魔物なの?」

『…………いやこの気配は。安心せぇい、どうやら魔物ではない……人間のようじゃぞ』

 琴花の問いにウリエルが答える。

 それと同時に赤髪の青年が姿を現した。顔に残る傷跡がワイルドさを醸し出していた。

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