第2話 002枚目 ガラクシアース大陸の冒険者達

 ガラクシアースと呼ばれている広大な大陸。

 その大陸にオクジェイトと呼ばれる小さな村がある。その村で冒険者(ランカー)ギルドの夜間業務を終えて、眠りについていたギルド職員オルガン=アッシェは、窓から差し込む強烈な光に顔をしかめた。

 あまりの眩しさに夜が明けたのかと錯覚しそうになる。せっかくの安眠を妨害されて舌打ちをし、オルガンは窓の近くに寄る。

「なッ!!」

 オルガンは窓の外に広がる光景に絶句した。

 思わず窓を開け放ち、身を乗り出した。

 夕闇を切り裂くような一条の光が、夜空へと力強く伸びていく。

  その強烈な光に起こされた何十人かの村人達も窓やドアを開け放ち、異様な光景に目を奪われていく。

  時間にして、数十秒ほどか…….。

  光はスーッと細くなり、やがて夕闇が支配する空へと戻っていく。

  光が収まった途端、村人達は金縛りが解けたかのように各々騒ぎ始めた。飼われていた家畜達も同時に騒ぎ始める。 本来ならば寝静まった時間帯、それが昼間を思わせるぐらいに騒がしくなる。

 それと同時にギルドのドアが激しく叩かれた。先程の光を見た村人の誰かが、叩いているのだろう。

「今夜は寝かせてもらえそうにありませんね」

  オルガンはため息をつき、ドアまで歩いていった。


 ギルドオクジェイト支部より緊急クエストが発令された。内容は村の北に広がるオクジェイト大森林の探索である。突如現れた謎の光に興味を持った子供の一人が森に出かけていったまま帰ってこない。それを心配した村人達が、ギルドに依頼したものだ。

「森に入っていった子供の探索が緊急クエストの内容かよ」

 ギルド前の広場に集合したレイ=トレファスナーは、大きな欠伸をした。

 赤髪の青年で額に大きな傷跡と、背中に担いだ大剣が特徴だ。レイは今朝、緊急クエストが発令されたと聞いて、朝食を流し込んで慌てて駆けつけた。

 だが、内容を聞いてガックリしていた。

「まぁまぁお仕事あるだけでも感謝しなきゃ」

 そんなガックリした相棒の戦士を苦笑する金髪美少年のエル。レイと冒険者(ランカー)のパーティを組んでいる。細身の体躯にちょこんと目立つ耳。この美少年は人間ではなくエルフである。

「だがよ〜エルっち、俺っちは大型魔物の討伐かと思って気合入れてたもんだからよ〜拍子抜けだせぃ」

「探索も立派な仕事でしょ、それに同じ探索でも緊急クエストは通常よりたくさんもらえるからいいじゃない」

 クエストとは、素材の回収や、対象者の護衛、村や街での困り事、または魔物の討伐など内容は多種多様で、冒険者(ランカー)は、それらを請け負い生計を立てている。

 近年では、食物連鎖の枠外で際限なく魔物が増殖しているため奨金を出して、魔物狩りに力を入れている。ただし、生態系に影響を及ばさない程度に……。

 ちなみに魔物狩りの報奨金だけでは、冒険者(ランカー)の懐は潤うことはない。そこで冒険者(ランカー)は魔物から毛皮や牙、内臓など、有用な部位を採取する。これが意外とお金になる。

 特定の魔物には、とても高価な部位もあるから売ればそれなりに懐は潤う。

 有能な部位がなくても魔物の体内からは、魔物すべてに共通して採取できる物質がある。

 魔物の心臓付近に生成される核。

 通称、魔石と呼ばれる核。

 その魔石にはどの魔物だったのか記憶されている。

 だからこれを持っていけば討伐した証明となる。

 その時に倒した冒険者(ランカー)も記録されるのでもズルはできないし、売ればそれなりのお金は得られる。冒険者(ランカー)ギルドはそんなシステムで運営されている。

「あぁ気合入れて準備した俺っちの時間を返して欲しいじぇー」

「それに子供の探索だけじゃなく、謎の光が見えた方角の探索も含まれているわよ」

「あぁ〜それな。おかげで今日はすげぇー眠いんだよなぁ〜」

「そうね〜変な時間帯に起きちゃったから、お肌がちょっと心配かな」

「おいおい、お肌って……その女口調どうにかならねぇかエルっちよ。俺っちは慣れたけどよ、初対面の冒険者(ランカー)の顔見ろよ、引きつってるぜ」

 遠く離れた少女の 冒険者(ランカー)の表情は、たしかに引きつっていた。だがそんなのは御構い無しにエルは会話を続けていく。

「そんなこと言われても、今までそういう風に生活してきたんだもん。そんなにすぐ直せないわよ」

 エルは見た目はエルフの美少年だが、残念なことに女口調である。そのため寄ってきた女性 冒険者(ランカー)に何度もドン引きされている。

 だが、本人は全くそれを直すつもりはなかった。

「やれやれ、朝から騒々しいですね」

 黒いスーツと蝶ネクタイを装備した若者がエル達に声をかけてきた。

 ギルドオクジェイト支部所属のオルガン=アッシェである。数時間前まで夜間業務をしていたため顔色はあまりよろしくない。

「おはようございますオルガンさん」

「なんでぇーオルガっちよ。朝から不機嫌な顔(ツラ)しちまってよ〜お天道様が逃げちまうぜ」

「逃げても構いませんよ、それにこの顔は生まれつきです」

 眠気で若干不機嫌なオルガンは、背後にいる冒険者(ランカー)を手招きする。

 先程、レイがエルの口調に顔が引きつっていると言っていた冒険者(ランカー)の少女である。

「そちらの子は?」

 エルがオルガンの後ろに立っている冒険者(ランカー)に目を向けた。

「あー、紹介しておこうと思いましてね、ほら自己紹介だ」

「ぼくはサーシャ=クレスト。よろしく」

「んぁ? オルガっちよ、こいつは女でいいのか?」

「それを言うなら君の相棒は、私と言っているでしょう」

「あぁそういやそうだな」

「今回の緊急クエスト、君達のパーティーに入れてやってくれ」

 オルガンはサーシャの背中をバシンと叩き、前へ押し出す。サーシャはよろけながらも、前に一歩踏み出す。

「まぁ構わないぜ、よろしくなサーシャっち」

「よろしくね、サーシャちゃん」

「よろしくお願いします」

 レイとエルがサーシャに挨拶をしていく。

「ところでサーシャっちは、Rankはどれくらいなんでぇい?」

「ぼくは、まだEです」

 Eとはほぼ新米みたいな扱いである。

 冒険者(ランカー)は、ギルドから請け負ったクエストに応じて成功ポイントがもらえ、ある程度のポイントに達すると昇級試験を受ける権利を得られる。合格すれば晴れて上のRankへと進むことができる。

「こう見えて彼らは、先日ダムシェイド街道で大暴れしていた大型の魔物をたった二人で仕留めた凄腕だ。冒険者(ランカー)Rank Cだ」

ダムジェイト街道。

オクジェイト村から王都ダムサスへ続く道がそう呼ばれている。レイとエルは数日前に王都での用事を済ませてオクジェイト村に向かう途中に大型の魔物と遭遇。放置するわけにもいかず、その大型の魔物を撃破した。

 経験のない新米冒険者にとって、普通の魔物ですら強敵である。大型となればなおさらである。

「すごいんですね」

「そんなわけで先輩として、みっちり仕込んでやってくれ」

「わーったぜ、オルガっち」

 んじゃ、改めてよろしくなとレイはサーシャと握手を交わした。エルとも握手を交わしていく。

「それじゃ、さっそく行きましょう」

 こうして新米 冒険者(ランカー)サーシャ=クレストを仲間に加えたエル達は、緊急クエストのためにオクジェイト大森林に向けて出発した。

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