9話 大賢者である私はもうグダグダ
いやー!いい仕事したわー。
冒険者になった私の初仕事は王子に回復魔法をかけるといったものだった。
決して呪いを解くどころか破壊なんてしていませんよ。
だって私はどこにでもいる普通の極めて常識的なヒーラーだもの。
廊下に出てきた私は、リリーが出て来るのを待つ。
依頼達成を認めてもらわなければならないからね。
報酬の価格が100万Gだけに現金ということはないだろうし、それなりに時間もかかるだろう。
現在私は手持ちが大変少ないので、今からでも小銭を稼ぎたいのだ。
今ならまだ簡単な依頼を受けれるかも。
などと考えていると、王子の部屋の扉が開いた。
出てきたのは、魔道士ルメクーンだった。
「いつの間にか出てきたのね」
「邪魔しちゃ悪いからさ」
「ミリーはこれからどうするの?」
「ギルドに戻って次の依頼うけようかな。と思っていた所」
「ねえ、いっそ、私達のチームに入らない?」
「ヒーラーならミルファたんがいるし、Fランクの私が入ったらただの足手まといだよ」
「ミリーがFランクの器じゃないくらいは判るわよ。あなたが入れば私達はSランクいや、幻のSSSランクも可能な気がするのよ」
「そんな事言ってもきっちり報酬は頂くよ?」
私はなんとかこの流れを変えるべく、お金の話に論点をずらす作戦を敢行。
SとかSSSとかついていけません。
私はB止まりでいいのさー。
「(ニコリ)それは大丈夫。リーダーはお金持ちだから。だから考えてみてくれない?」
食い下がってくるのぅ。
「それは安心。でもリーダーにお伺いたてなくてもいいの?」
「事後承諾になるわね。でもリーダーはNOとは言わない。ミリーを気に入ったから」
「それは光栄ですこと。でも私は自分の足で歩きたいので辞退させて頂きます」
ペコリと頭を下げて見せる。
私の直感が告げている。
彼女たちはトラブルメーカーだ。
一緒につるもうものなら、毎日珍事件に巻き込まれてしまうに違いない。
ぶるぶる、クワバラクワバラ。
「そう、残念ね。今日のお礼に一つ教えてあげる」
「ん? 何を?」
なんだろう嫌な予感だ。
クーンは微笑んでいる。
不気味だ。
「普通のヒーラーは属性付与なんて出来ないわ。高位の魔道士の私だって無理」
「はい?」
「魔女の呪いがかかった短剣を一瞬で解呪して、その上に聖剣の奇跡を与えるなんて神に与えられた特別な力が無い限りは無理よ」
「え?」
オーーマイガー‼
やってもた!
若さゆえの過ち、認めたくないものだ、とか言っている場合じゃない!
壊呪の時は気をつけていたが、永久付与は普通に皆がいる前でやってもうた。
「え、ええっと!」
冷製パスタ、いえ冷静になれ。私!
カツオは、いえ活路は前にしか無い。(既に意味不明)
あれだ! 500年前は普通に魔道士もヒーラーも属性付与してたよね。
永久属性付与とか、スクロールでも売ってたありふれた魔法の筈。
ということは何か?
今の時代、Aランク冒険者でも属性付与出来ないと。
そんな世の中に誰がした!ってヤツ?
「あはは、なんか知らないけど 私はできちゃった。ふつーのヒーラーなのにねぇ」
「普通のヒーラーさんなのに不思議ね」
「不思議だねー」
駄目だ!全然納得してない。
ふふふ、こうなったら、眠って貰うか。
本気の私の魔法、レジストできると思うなよ!
「二人がいつの間にかいなくなってる思ったら、なんのお話?」
ヒーラーのミルファが部屋から出てきた。
ち! こうなったら二人まとめて…
「ちょっと勧誘してただけ」
とクーンさんがバラしやがった。
「それは、大賛成!」
大声を上げるミルファ。
ゴルァ! 仲間を呼ぶんじゃない!
「何騒いでんだ?」
カリスが現れた!
これはあれだ!全員出てくるパターンだ。
案の定、リリーもでてくる。
やれやれ、4人まとめて始末(眠らせる)するか!
100万Gは惜しい、しかし無かったものとしよう。
私は振り回されるのはゴメンだ。
私はいつだって振り回す側でいたい。
それが私、ミリーシアタの生き方。
<決まったな!カッコよす、私>
範囲誘眠魔法『眠気って伝播するよね』
さて、やるかと意識を4人に向けた瞬間、
「3人とも ちょっとこっちに。ミリーは少しだけ待ってね」
と、リリー王女がチームメンバー3人に話しかけ、王子の部屋とは別の部屋に引き連れていった。
むぅ、まさか魔法のタイミングを読まれた?
今の発言は王女としてではなく冒険者のリーダーとしてだった。
パーティー内会議はいいけど、さっきの私の魔法に関してだろうし、さて、どうしたものかのぅ。
暫く待つこともなくすぐに4人は出てきた。
「お待たせ、ミリー」
「大丈夫だよ。それで?」
「ミリー、今日は此処で一泊していかない?ギルドの方へは私達の方で達成の手続きをしてくるから」
「なんで?私は次の依頼を受けたいんだけど」
「ミリーにお礼もしたいし、フェルもお礼を言いたがってるわ」
「仕事でしただけだし、お礼なら報酬で十分だよ?」
「もちろん報酬は払うわ。ただ、一緒に食事しながらお話できたらって。どうかしら?」
「うーん、まぁいいけど。いんちょーと会わなくていいならね」
「わかったわ」
折角眠らせて、ここで会わなかった事にしようとしているのだ、起きた いんちょーに鉢合わせる訳にはいかない。
説明がメンドーだから。
ここで一つ、(心の)声を大にして言っておきたい。
私が敵地に留まる理由だ。
それは彼女たちに私が普通のヒーラーであると認識させる為であって、お腹が空いたし豪華な食事を堪能したいとか、ふかふかな高級ベッドで寝たいとかそういう事ではないからね。
それにいざとなったら転移魔法で逃げる事もできる。
この4人が百合で無い保証なんて無いのだ!
私をそこまでして留めたいなんて、男のみならず女も魅了してしまう私の美しさが恐ろしい。
ほんと美しさって罪よね。
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