8話 大賢者である私には王子の笑顔は眩しすぎる
お城の宝物庫にあったというティーバ時代の未解錠宝箱。
「中身は確認しなかったんだ」
「ええ、中身は私達も知らない方がリアリティがでると思って。音からすると短剣か何かだろうし」
音って……随分と扱いが雑だね。
「へえ、で何が入ってたの?」
「思った通り短剣だったよ」
答えたのはカリス。
「その短剣を最初に触ったのは?」
「フェル王子よ」
とクーン。
「短剣を他に触った人は?」
「フェルだけよ」
「その短剣は今どこに?」
「王子のベルトについていると思うわ」
ミルファが答える。
私は部屋を見渡すと、王子の冒険者グッズが床に無造作に置かれていた。
これだけの騒ぎだから仕方がない。
私は件の短剣を鞘ごとベルトから外した。
やはり、これだ。
この短剣を触った者は呪われる。
いま私に荊棘が巻きつこうとしている。
私は即座に解呪をかける。
呪われる前なら壊呪でなく、解呪も容易い。
それに先程、魔界の荊棘の呪いの構成を壊呪しながら思い出していた。
短剣を握る私の手の甲の5センチ程離れた空間に白く光る魔法陣が浮き出す。
これ解呪ではない。
それはもう済んだ。
今、私がしているのは頑張った王子へのご褒美の魔法である。
聖属性永久付与魔法『エターナルホーリーエンチャント』
まあこれは私のオリジナルの魔法ではないからなんの面白みも無い名称だ。
「それは!」
「呪いはこの短剣に込められていたけどもう大丈夫。呪いは消して代わりに聖属性を与えたし、これで呪いが復活することもないでしょ。王子が頑張ったご褒美に神様からの贈り物だよ」
どうだ!
これで私を魔道士と疑うことはないはず。
聖職者のミルファが短剣を調べる。
「凄い、強力な聖なる力が宿っている。神の奇跡だわ!」
クーンとカリスも驚いている。
そうでしょうとも、その魔法が掛かった以上、国宝レベルの短剣になったでしょうとも。
「やはり貴方様は…」
気を良くしていた私はリリーの呟きをまたもや気にも止めなかった。
「しかし、短剣に呪いがかかってたってことはさ」
カリスが呪いについて話し出す。
「そうね、ティーバ王の時代の宝箱で呪いと言えば」
クーンが続く。
「魔女、ロゼシアスタね!」
<ブフ! 私!?>
リリーが怒りを顕にしてかつての私の仕業と断定した。
「ええ、きっと魔王すら裏切った大魔女の呪いに違いありません」
ミルファも同意する。
この国ではそんな歴史になってるのね。
まあ、いいけどさあ、いい気はしないわ。
実際は、魔王の城から持って帰った戦利品の宝物に紛れこんだ魔族の罠だったのだろう。
そして呪われていたから宝箱に封印した。
いつか呪いを解けれれば、短剣自体は一級品だったから。
もったいないとでも考えたのではないか?
ティーバの顔を再び思い出す。
あいつらしい。
まあそれで、それが年月と共に宝箱の存在ごと忘れられたと。
そんなところでは無いだろうか。
ティーバとは嫌な別れとなったが、ヤツがいなければ魔王討伐は成らなかった。
それは事実であり、アイツの実力は本物だった。
性格は評価できないけどね。
「なんでもイイよ」
投げやりに言い放つ私。
その時、王子が目を開けた。
「う、うーん!」
王子が私達の会話で目を覚ましたようだ。
「フェル!」
リリー王女が駆け寄る。
王子は伸びをしながら、半身を起こした。
「お早う姉さんってうわ!」
リリーに抱きつかれ、驚く王子。
顔も赤い。
「フェル!どこも痛くない?」
「とりあえず離して姉さん。苦しいよ」
「あ! ゴメンなさい」
開放された王子はベッドから降りると、いろいろ体を動かし、体の状態を確認しだした。
「なんとも無いし、むしろ調子いいよ!」
「よかった、フェル、あなたは」
真実を告げようとしたリリーの言葉を私は遮る。
「王子様。王子様は聖剣の試練を受け、3日程寝込んでいたんだよ」
急に会話に割り込んだ私に戸惑う王子。
「えっと、君は?」
「私は冒険者のミリーシアタ。ミリーって呼んでね」
「ミリー、それで聖剣の試練って?」
私はミルファから短剣をひったくった。
その時に短剣にある細工をした。
そして王子に手渡す。
王子は短剣を受け取った。
「私は短剣の鑑定の為に此処に呼ばれたんだ。鑑定の結果だけど、その短剣は聖剣だよ。強い聖なる力が宿ってるね」
「聖剣!」
ゴクリとつばを飲む王子。
「試しに抜いてみてよ」
私の言葉に従い、王子は短剣を鞘から抜く。
するとどうだ、短剣の刀身は光輝いた。
「凄い!」
刀身から発する眩い光に驚く王子。
「今度は、他の人に短剣を渡してみて」
リリーが短剣を受け取る。
すると光輝いていた短剣の光が収まる。
「え!?」
驚く一同。
「王子、短剣をまた握ってみて」
「うん」
王子が短剣を握るとまた光輝き出す。
「王子様は聖剣の試練を受け、3日程寝込んだけど、聖剣に認められて聖剣の主になったんだよー」
「僕が、聖剣の…」
なんのことはない、聖属性エンチャントの術式に生体認識起動と光のエフェクトを加えただけであるが、聖剣と言っても差し支えない性能はあるよ。
私が保証しよう。
「公にするのはお偉い方々の判断も必要になるので今は秘密にしてね。私も秘密厳守ということで鑑定を依頼されたからさ」
「うん、わかったよ」
「そうそう、断定はできないけど、それだけの宝剣。拵えや宝箱の年代判定からしても、かの偉大なる英雄王ティーバ様ゆかりの物の可能性が高いよ」
「え!ティーバ王の!?」
「きっとそうだわ!!フェルおめでとう!」
泣きながらリリーが王子を祝福する。
どうやら私の芝居に乗ってくれたようだ。
他のメンバーも王子を称える。
満面の笑みを見せる王子。
私はその笑顔を見届けると認識阻害魔法を使い、今度こそそっと部屋を抜け出した。
薄汚れた私には、あの笑顔は眩しすぎたのだった。
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