5話 大賢者である私は見抜いてしまった

 アラバスタル王国。

 かつて大賢者ロゼシアスタを魔女として処刑したティーバの国。

 今、目の前に立つ聖騎士の女はそのティーバの子孫ということになる。

 今更ティーバに思うところは無かったりもする。

 彼は私に代償を払ったからね。

 彼にしてみれば、さぞ無念の死であったと思う。

 彼が私に払った代償は命ではない。

 野心だ。

 そういえば、ここはあいつの国だったんだねぇ。

 孤児院にいる間は国家なんて意識もしなかった。

 まぁ、思い出に浸るのはこれくらいにしよう。


「おまたせしました」


「私達の事を聞いたみたいね。気にしなくてもいいからね」


「大丈夫。別に気にしてないから。今は冒険者ということなんでしょ?」


「そうね。だから対等よ」


「OK。で、んーそうねー。結論からいうと、あなた達のお話を聞くのはNO」


「何故かしら?」


「私はギルドに所属する冒険者で此処はそのギルド。といえば判る?」


「貴方の力を借りたければ、ギルドに依頼するのが筋ということね」


 頷く私。


「わかったわ。それで力を貸してくれるのね」


「それは、報酬次第じゃないかしら?と言いたいところだけど、私もそこまで鬼じゃない」


「どういう事?」


「ギルドを通すのは筋というのもあるけど、この騒ぎに対するギルドへの迷惑料だね。だから報酬はいくらでもいい。あの人達から逃げられるのが正規の報酬かな」


 女聖騎士リリエナスタは 男冒険者どもに視線を移した。


「なるほどね。気に入ったわ」


「それはどうも」


 初日っから目立ってしまった。

 やれやれである。


「手続き終わったよ」


 女魔道士が嬉しそうに声を上げた。

 

<早!>


 リリエナスタと話している内に手続きしてたのか?

 それにしても早い。

 私はセバっちゃんのところに行く。


「仕事が早いね」


「それが私の仕事ですので」


 相変わらず無表情のセバっちゃんが、私指名の依頼書を私に手渡してくる。


 依頼内容は、依頼者の仲間に回復魔法をかけること。

 報酬は100万G?びっくりの金額だ。

 王族だから?

 にしてもこれはそれだけじゃないな。


「口止め含むにしても高くない?まあ受けるけど」


「ありがとう!詳しくは道すがら話すわ。今は時間が惜しい」


「わかった」


 私は彼女たちとギルドを後にする。


「緊急みたいだから私は行くね。お誘いはまた今度。じゃっねー!」


 去り際にそう言って男どもに手を振るのも忘れないのだった。


 私は道すがら事情を聞いた。

 今より2週間程前リリエナスタ王女の弟、つまりこの国の王子様をお忍びで冒険に連れ出したらしい。

 そんなに長期間連れ出しても大丈夫なんだね。

 この国大丈夫か?

 この町は王都から一番近い町だからさして危険も無いはずだった。

 しかし、王子はこの町の近くにある洞窟の探索から戻ってきた後、高熱を出して倒れたのだ。

 それが3日前。

 現在、Aだランク冒険者チーム『青薔薇の戦乙女』のヒーラーと、この町の神官とで病滅の祈りを捧げているらしい。

 ちなみにこの町の神官といえば一人しかいない。

 私もよく知る人物だ。

 昨夜から孤児院に居なかったのは、そういう事か。

 

 二人は祈り続けた。

 けれども熱は下がらず、昨日からは時折、体の至るところから血が出る様になった。

 そんな時の事。


「この町にヒーラーがでたぞー!」


 と叫びながら走っている男の叫びを聞いたらしい。

 その叫びに応じて冒険者達がギルドに向かっているのを見て、彼女たちも癒し手の増員の為にギルドに来たという事だった。


<なるほど、王子様の治療と口止めとでのあの金額か>


 場合によっては、即時逃走をしなければならないかもしれない。

 うまく行かなければ全責任を押し付けられ、うまく行ったらいったらで口封じなんてこともあるかも知れない。


「貴方の安全は私が保証します。

 だから力を貸して下さい。」


 私の思考を読んだのだろうか?

 リリエナスタが王女として私にお願いしてきた。

 貴方の先祖を殺した私が、その子孫を救わねればならないとはね。


「私はFランクの駆け出し冒険者。お力になれるのは微々たるものですよ?」


「それでもお願い!」


 私は無言で頷いた。


 ーーーーーーーーーーーーーーー


 私はとある高級宿屋の一室の入り口にいる。

 フロアごと貸切られていた。

 王子の病気を隠すのと、病気が感染症なのを恐れてのことだろう。

 王女が扉を開ける。


「連れてきたわ」


 私も促されて中に入る。

 先程まで一緒だった他の2人は警戒の為か、部屋に入らないようだ。


 広い部屋である。

 立派な調度品、天蓋付きの豪華なベッド。

 床も高価そうなカーペット敷だ。

 ここ一泊いくらなのかしら?

 ベッドの前には私のよく知る人物と、もう一人若い女の子がいる。

『青薔薇の戦乙女』のヒーラーだろう。

 病滅の祈りを必死に捧げている。

 私の見た所、祈りは効果を発揮している。

 神聖な気がベッドの周囲に漂っていた。

 私は肝心の王子を見た。

 そして顔をしかめた。


 うん、これは祈っても効果無いね。


 私の目には無数の荊棘が巻き付き、締め上げられて苦しむ10歳くらいの男の子が写っている。


<王子って子供じゃない!>


 荊棘が蠢きながら王子を締め付ける。

 荊棘の棘が刺さると王子はその場所から血を流すようだ。

 いずれ王子の心臓に巻き付き出し、王子の命を奪うだろう。

 王子は病気じゃない。

 これは呪いだ。

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