6話 大賢者であるわたしは、イッチョやってみる
うーん、私は考え込む。
王子を苦しめている呪い。
これは『魔界の荊棘』という魔族が使う呪いだ。
話を聞く限り、この町の近くにある洞窟の探検で呪われたということになるけど、こんな王都に近い洞窟で魔族の呪い?
私が知る限り、魔族の大侵攻の時でさえここまで攻め込まれたことは無いはずだけど。
原因はともかく魔族の呪いで苦しんでいるのは事実だし、どうにかしなければならない。
それにしてもAランクの冒険者達と神官がそろって呪いに気づかないとはどういう事?
まさか…さすがにそんな事は無いよね。
ある考えが浮かび、即座に否定。
さて、どう説明したものかな。
王子に呪いがかけられているのを説明するのは容易い。
呪いを可視化してあげれば良い。
しかし、問題はその後だ。
呪いと判れば、いま祈っている病滅の祈りから解呪の祈りへと変えるだろう。
それがマズイ。
この呪いは解呪しようとすると抵抗し、解呪しようとするものに襲いかかる。
そして、呪いにかかった者の内部に絡まろうとするのだ。
難しい顔をしている私を見てか、王女リリエナスタが話しかけてくる。
「どうしたの?難しい顔をして」
とりあえず、説明するしかないかな。
「大事なことを言うので、しっかり聞いて。王子はこのままではひじょーに危険だよ」
「それはわかっているわ。だから」
「いーえ、わかってない。王子は病気じゃ無いよ」
私は王女の言葉を遮った。
時間がもったいない。
「え? それでは一体…」
「いいから。まずは祈りを止めさせて。続けても無駄だからね」
私の有無も言わせない口調に王女はムッとしつつも、2人に祈りを止めさせた。
そこで神官、いえ院長は私に気付く。
「ミリー! どうして此処に?」
「いんちょー後で話す」
「あの、どうして止めさせるのです?」
今度はヒーラーさんが話しかけてきた。
あーもう!
「見てほしいものがあるからかな。あと、見た後間違っても何の祈りも捧げないこと。いい?」
「え、ええ。わかったわ」
私の口調に気圧されたのか素直に頷いてくれた。
さて、と。
私は王子の側に行って手をかざす。
可視化魔法『あなたの知らない世界』を発動。
私の手から指向性の光が発せられ、スポットライトのように王子の体の一部を照らす。
すると照らされた場所は、巻き付く荊棘が見えるようになった。
「「「これは!」」」
驚く王女、ヒーラー、院長。
光をずらしていき王子の体を一通り照らす。
今、3人には王子の体に巻き付き、蠢く無数の荊棘が見えている。
「フェル!今助けるわ!」
荊棘に驚き、リリエナスタ王女が剣を抜く。
荊棘を斬ろうとしているのだろう。
「止めて!」
慌てて止めさせる。
「何故止めるの!?」
「王女、貴方は弟君をなんとしても助けたい。だから私を大枚叩いて雇った。違う?」
「そうよ!そしてあの荊棘が原因なら荊棘を取り除けば!」
「そう、でもどうやって?あれは可視化しているだけで実体はないよ?」
「それは…」
「皆聞いて、あれは解呪しようとすると、暴れるたちの悪い呪いよ。だから解呪の祈りはしないで」
「そんな!」
言葉を無くすリリエナスタ王女。
「ミリー、何故そんな事を知っているのだ?」
あー、この人に後で説明するのメンドーだな。
よし!
誘眠魔法『いつ寝るの?今でしょ!』を院長にぶつけた。
果たしてフニャフニャと院長はその間にヘタリ込み、そのまま寝てしまった。
「だいぶお疲れだったみたいね」
と、言ってフォローしてみる。
不自然極まりないが、皆、今はそれどころではない。
いんちょーゴメンネ。
説明するのがメンドイのよ。
私が現れてからことは夢だからねー。
この魔法は目覚めスッキリ爽やかで、疲れも抜けきるから勘弁してねー。
「貴女はこの呪いに詳しいみたいだけど、対処方法も知っているの?」
ヒーラーさんが話しかけてきた。
「もちのロンよ。ただし、お見せ出来ないから二人とも部屋から出ていてくれないかな?」
3人まとめて眠らせても良かったんだけど、そうすると報酬貰えなくなっちゃうよね。
「な!フェルに何をするつもり!」
王女は私に斬りかかる勢いだ。
「私を斬れば、もう王子を助けられる人はいないよ。呪いに気付きもしないAランク冒険者と神官。対処方法も知らない。あなた達の手におえると思うのなら、どうぞお好きに」
「ぐ!」
痛いところを突かれ先程の殺気は無くなったけど、納得はしていないみたいね。
数拍待ってみたが状況は変わらない。
「わかった。依頼は失敗ね。力になれなくてごめんなさい」
私は踵を返し、部屋の出口へと向かう。
「待って!お願い!」
呼び止めたのはヒーラーさんだ。
「私は部屋の外にいるから、それで勘弁してもらえないかしら?リリーに見届けさせて貰えない?でないとリリーは一生後悔します」
今から行う魔術は大凡ヒーラーの使う術じゃない。
私が魔道士とバレちゃうじゃない。
しかし、報酬は100万G……うーん。
「王女、私が行うことに邪魔をしない。あと、今から使う術の事を絶対に口外しない。約束できる?」
「ええ、約束します。先程は取り乱してごめんなさい」
「んー気にしてないから。あと、そこでお休み中の、いんちょーをベッドで寝かせてあげて。今から使う術は集中しないとなので、そのハゲ頭は気が散るのよ」
「わかったわ」
ヒーラーさんは、いんちょーを担ぐと部屋を出ていった。
見た目は華奢なのに力持ちだね。
さすがはAランク。
さて、部屋に残ったのは私と王女。
「始めるけど、さっきの約束破ったら神罰下るから気をつけてね」
一応ヒーラー設定を活かしてみる。
「絶対に口外しないわ」
「でわ、いざ!」
私は鼻歌交じりで右手を前に突き出す。
手の先には、光るフライパンくらいの大きさの魔法陣が出現する。
最初は一個。
そして次々に同様の魔法陣があちらに出現し、やがて王子を包む様に球状の魔法陣になっていく。
「イッツァ、ショーーーターーイム!」
私の声を合図に魔法陣から無数の光の弾が王子に向かって高速に打ち出される。
「な!」
「大丈夫!実体あるものは壊さないから」
打ち出された光の玉は荊棘を切り裂く。
無数かつ高速に打ち出される弾は、荊棘の反撃を許さない。
容赦なく荊棘を粉々にしていく。
王子の内部に巻き付く余裕もない。
全方位から打ち出される弾は王子の体は素通りして来る。
全方位から放たれる光のシャワーのようだ!
「ヒャッハー!」
私は超ごきげんになった。
古来、呪いを解く方法は2つとされていた。
解呪と消呪、似たようものだが過程が違う。
解呪は呪いの術式を読み解き、効果を無くす様に書き換えること。
消呪は呪いの術式を読み解くことはせず、魔力をや聖気をぶつけ、呪いのエネルギー切れを起こさせる、
まさに呪いを消す方法だ。
この2つでは今回の呪いは外せない。
どちらも時間がかかるからだ。
そこで、前世の私は3つ目の方法を編み出した。
それが壊呪である。
これは力技で 呪いの術式、呪いの反撃、呪いのエネルギーごと破壊してしまう方法。
これぞ私が生み出した大魔法なのだ。
壊呪魔法『激落ちくんプレミアム』
ひつこい呪いも綺麗サッパリ落ちる優れ物。
きゃー素敵!
「聖紋の聖女様・・・」
鼻歌交じりに気分よく呪いを粉砕していた私は、この光景を見ていた王女の呟きを気にもとめなかった。
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