35話 私は突然の事態に……
学園祭は大成功。
学園祭の意義も認められ、毎年開催する事が正式決定した。
そして季節はめぐり、今は春。
アイリも中等位の2学年に次席で進級した。
流石アイリである。
お姉ちゃん鼻が高いわよ。
主席は当然と言うか、シャルだった。
将来王妃になるべく教育を受けてきたシャル。
アイリは礼法で気品がシャルに及ばなかったみたい。
アイリが甘えん坊に育ったのが影響でたのかしら。
私、甘やかし過ぎちゃったかも。
でもあんなに可愛いのだから仕方がないわ。
学園祭以降、アイリ達SFALDは当然大人気になった。
シャルがメンバーを引っ張ってくれるので、アイリも人前で萎縮すること無く伸び伸びと歌えている。
シャルには感謝ね。
学園祭でアイリ達の歌を聞いたのは、騎士学校の男子生徒と招待された方々。
その招待された方々は、学園運営に多大なる貢献をされている貴族家が多い。
また、王太子様、第二王子様も聞いていた。
だからその縁で公演依頼が聖女学園に入り出したのよね。
毎週の日曜日を、アイリ達は公演に充てていて、休みの無い日々を送っている。
今ではオリジナルソングも5曲以上になって、今年の学園祭では学園祭向けの新曲を含め、10曲歌う予定みたい。
最近では、裕福な商人さんの依頼も入って、より広い階層の人たちに歌を届ける事が出来るようになったのよ。
そうそう、アイリは第二王子様に見初められて、公演の度に合っている。
お姉ちゃん、アイリがだんだん遠くなって行くようで寂しいわ。
アイリはとても忙しい日々を送っている。
そして、アイリも反抗期に入ったらしく、近頃は私と話たがらない。
「アイリ紅茶はいかが?」
「お姉様、今忙しいわ」
そんな感じで構ってくれるなオーラが出ているのよ。
気難しい年頃になってしまったわ。
そんな寂しい日々を送っていたある日曜日の事。
この日アイリは公演の為外出。
いつもなら一緒についていくのだけど、この日はアイリに断られてしまった。
仕方がなく掃除を始めたそんな時、寮に当家のメイド長アンリが訪ねて来た。
私は驚き、挨拶もそこそこに理由を訪ねてしまった。
「リリー様、ご無沙汰しております」
「アンリ、元気そうで安心したわ。何かあったのかしら?」
「聞いていらっしゃらないのですね」
「ええ、知らされてはいないわ」
何かは判らないけど言いづらい事のよう。
アンリに戸惑いの表情が有るように思えた。
彼女はが数泊の間をあけて口を開いた。
「私はリリー様に代わり、アイリ様のお世話をする為に参った次第です」
「どういうこと……かしら」
何故交代する必要があるの?
意味が判らなかった。
「アイリ様から旦那様へお願いがあったのです。世話係を変更して欲しいと」
「アイリが……」
「はい、手続きは済んでおります。リリー様の居場所はもうここにはございません」
「アンリが来てしまったら……」
「わたくしの事は気にかけずとも大丈夫でございます。後を任せる事が出来る者を育てておりましたから」
私はアンリの目を見て、アンリの気持ちも理解してしまった。
「………そう……判りました。アンリ、アイリの事よろしくお願いします」
そう、絞り出すのが精一杯だった。
そんな私にアンリは深々と一礼したのだった。
私はアンリに引き継ぎ事項を伝え、自分の荷物を纏めた。
メイド服を脱ぎ、ブラウスとスカートに着替えた。
私に知らされなかったのは、有無を言わせない為。
アイリにダメを突きつけられた私に待っているのは、きっとどこかの貴族との縁談。
私も今年18歳になる。
アイリのお付きを外されたとなれば、私には断る正当な理由が無くなってしまう。
ユニスリー家の為に遠からず嫁ぐ事になる。
私がアイリの為に出来ることは実はもう無い。
アイリのスキルは今もまだ成長しているし、順当にいけばアイリは聖女に選ばれると確信している。
アイリとまだ一緒に居たかったけど、アイリはもう私の元から巣立ってしまったのね。
私は部屋を出て待機している馬車に向かった。
アンリを乗せてきた馬車はそのまま私を乗せる手はずになっていた。
馬車に荷物を積み終えると、乗らずに学長室を訪ねた。
私が此処を去るにあたり、幼年位補修についてお願いするためだった。
学長様には講師として残らないかと誘って頂いたが、この話を私は固辞した。
アイリはもう私と接したくないのだろう。
だから私はアイリの為にここに残る選択をしてはいけない。
それがアイリの為にできる最後の事になるのだろう。
学園長様は惜しんでくれた。
そして、今年も幼年位補修をやってくれると約束してくれた。
講師は学園長様自らが行うと仰ってもくれ、私も安心して学園を去る事が出来た。
私は馬車に乗ると兄様に挨拶する為、王都の邸宅に向かった。
突然の訪問だったけど、兄様は暖かく迎えてくれた。
「リリーは今日も美しいね。突然どうしたんだい?」
ロビーで出迎えてくれた兄様の口ぶりから察するに、兄様も知らないようだった。
「兄様も相変わらずです。今日はご挨拶に伺いました」
「挨拶? 兎も角 事情はお茶でも飲みながら聞こう」
場所を応接室に移し、私は兄様に事情を説明した。
「ーですので、実家に戻る前に挨拶に伺いました」
兄様は黙って聞いていた。
「実家に帰れば……」
兄様がつぶやく。
「私も貴族の娘。むしろ今まで我儘を許して貰えただけでじゅうぶんです」
「本当にそれでいいのかい?」
「……はい。それで兄様、最後の妹分の補充を」
「最後だなんて、そういう訳にはいかない」
兄様は突然席を立ち叫んだ。
強い決意を感じる。
妹はいつか嫁いでしまうものなのに。
困った兄様ね。
私も席を立ち、兄様を宥めようとした。
「兄様。いずれはどなたかの元に嫁ぐ」
最後まで言い切る前に兄様に抱きしめられた。
「リリー、本心を言っていいんだ。帰らずにしばらくここに居たらいいさ」
その言葉を聞いた私は、心の奥底に閉じ込めていた様々な感情が涙となって溢れ出て、止まらなくなってしまった。
私は兄様の胸に顔を埋め、只々静かに涙を流していた。
そんな私を兄様は優しく抱きしめてくれた。
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