34話 私は学園祭を成功させたい2

 最初はポツリと雨は徐々に本降りになり、止む気配は見せなかった。


「折角準備したのに雨だな」


 ドラム担当ディジーちゃんがポツリと言った。


「そうね」


 シャルも空を見上げて呟いた。

 屋外ステージの壇上部には屋根があるので、歌や演奏には支障がない。

 けど、皆のテンションは著しく下がってしまった。


「折角 頑張ったんだからお客さんが居なくても歌おうよ」


 そんな時、アイリが皆を励ました。

 あぁアイリ、なんて立派な心構えなのかしら。

 大丈夫、観客0は無いから。

 最低でもシスコン兄様が聞きにくるわ。

 そして兄様がくるなら、聖女学園の生徒も来る。

 それにつられて騎士学校の男の子達もやってくるって寸法よ。


 雨を止ませるなんて、前世で雨降らしの聖女だった私にかかればお茶の子さいさいである。

 でも、雨も演出の一環と考えればタイミングは今じゃないわ。

 とは言え、土砂降りも困るから少し弱めましょうか。


「少し外すわね」


 私は皆に断って、一旦ステージから離れる。

 天候の操作となれば何時ものようにはいかない。

 いつもより強く祈る必要がある。

 

<学園の中だけでいいから、雨を弱めて。お願い>

 

 私が祈ると直ぐに効果が現れ、雨が弱まってきた。

 先ずはこれで様子見である。

 

 私は自分の体が光っていないか確認し、ステージに戻る。

 強い祈りを捧げると光ってしまうのだ。

 今生では天候操作までしていなかった。

 だから大丈夫だったけど、本番では気をつけないとね。

 アイリの初舞台を最後まで見れないかも。

 それは非情に残念だけど、アイリのデビューコンサートを大成功させる方がもっと大事。

 お姉ちゃん残念だけど、大丈夫よ。


「お姉様、雨が弱くなったよ」


「ええ、本当に。皆の努力を神様が見て下さったのね」


 嬉しそうなアイリ。

 お姉ちゃんは今思い切り抱きしめたいのを我慢しています。


 まだお客さんはいない。

 でも、そろそろ時間である。


 「みんな、お客さんを呼ぶために何か演奏だけしてみない?」


 私の提案をみんな賛成してくた。


 「じゃあ、景気よくいきますか。SFALDスファルド行くわよ!」


 シャルの呼びかけに皆、応と答える。

 アイリ達は自分たちの頭文字を取ってSFALDというバンド名にした。

 

 最初に選んだのは、豊穣祭で演奏する伝統の舞踊曲だ。

 軽快な曲は心地よくつい、踊りたくなってしまう。

 曲の演奏が始まって直ぐに、お客さんがチラホラと会場に来始めた。

 すると、兄様、トレーニ様が会場にやって来た。

 案の定多くの聖女学園生徒達を連れて。

 学園祭の終わり間際に開始するという作戦は功を奏したみたいね。

 発表を終えた生徒が兄様とトレーニ様の追っかけを始めたのだ。

 そして学園生徒につられて騎士学校の男子生徒達もやって来た。

 ここまで思った通りの展開になるとは。

 私は更に力を使い、お目当ての人物を探す。


<いたわ!第二王子様>


 今年、騎士学校に入学した第二王子様。

 王家の男子は必ず騎士学校で学ぶ習わし。

 人が集まる場所に来てくれるか心配だったが杞憂だったみたい。

 アイリに興味を持ってくれないかしら。

 私の力は恋愛には発揮しないから。

 いえ、でもアイリの魅惑ボイスにきっとメロメロになってくれるはずよ。

 

 いつの間にかお客さんは一杯になっていた。

 その様子を確認したシャルがメンバーにハンドサインを送った。

 いよいよ始まるようね。


「みなさん、今日は私達SFALDスファルドの歌を聞きに来て下さり感謝申し上げますわ」


 マイク片手にシャルが優雅にお辞儀をする。

 他のメンバー達もシャルの動きに合わせてお辞儀をする。


「それでは私達の歌『騎士に恋するお嬢様』、早速お聞きくださって」


 さすがシャル。

 王太子の許嫁だけあるわね。

 これだけの観衆を前にしても物怖じせず実に優雅に堂々としている。

 

 アイリ達の歌が始まった。

 その出だしはオルガンの単独奏で賛美歌を思わせる静かな曲。

 5人の目論見はきっと吉と出るわ。

 お姉ちゃん信じてるわね。

 

 オルガンの演奏が終わる。

 一拍あけてアイリとシャルが仕掛けた。

 

 ジャーーーーーン


 ギターによる高い音を鳴らす。

 その音に驚く観衆達。


 そして早く、景気の良い演奏が開始される。


<ふふふ。驚いているわね。若いお客さんばかりだからきっとノッてくれるはず>


 アイリ達が歌い出す。

 アップテンポで英雄騎士に恋する乙女の恋心を歌う。

 歌の途中で観衆の皆が曲にあわせてピョンピョン跳ねだした。

 まるでこの曲を初めて聞いた私のようね。

 皆初めて聞いた音楽スタイルに興奮しているわ。

 小雨なんて吹き飛ばず熱気となっている。


 そろそろ私の出番ね。

 私は舞台裏よりそっと離れ人目のつかない場所に。

 隣にいるエマは歌に魅入られているから気付かない。


 私は力を使い、先ずは音を聞こえない様にする。

 アイリの歌が聞こえたら、いい意味でお姉ちゃん集中できない。

 そして力を使い、本命の願いを強く祈る。


 私は祈りを終える。

 まだ歌は終わっていない。

 私の体はまだ光っていて直ぐには戻れない。

 歌が終わる頃には戻れないかも、と心配したが割と直ぐに収まり、一番のサビまでには戻ってこれた。ホッ。


 観客は歌と一体となり楽しんでいる。

 このコンサート大成功ね。

 あとは、最後の演出だけ。

 雨は私の力で学園内だけ止んでいる。


 そしてアイリ達の歌が終わった。

 その瞬間に雲に切れ目が出来、一筋の光がステージを照らす。

 切れ目は次々に増え、会場も照らし出す。

 仕掛けた私からみても神秘的に見える。

 観客から一斉に起こる「おお!」という感嘆の声。

 その後そして一気に大きな歓声と拍手が起こる。

 

 神秘的な光景も相まって、いつまでも歓声は止まなかった。

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