33話 私は学園祭を成功させたい1
その日はやって来た。
今日は学園祭の当日。
流石に1度目の人生で体験したような学祭とは違い、食べ物屋も無いし、お化け屋敷も無い。
飾り付けも無く、派手さは無いけど今回は時間も少なく、皆初めての事を手探りで開催にこぎつけた記念すべき第1回目。
皆良く頑張った。
徐々にいろいろな工夫もされて、もっと華やかになって行けば良いと思う。
それに私にとって学園祭の開催は、目的では無くアイリがアイドルになる為の手段。
アイドルになって王国中から注目を集める存在になれば、聖女に選ばれること間違いなし。
だから開催できるならそれでいいのよね。
アイリ達の発表にはまだ時間があるので、私達は校舎のあちらこちらで行われている生徒達の発表を見て回った。
生徒たちは皆、自分たちの課外活動を自分達なりの表現で発表している。
アガってしまい上手く発表できない娘もいれば、堂々とイキイキと発表する娘もいる。
見事な作品を展示している娘もいたし、よく判らない謎の物を発表している娘もいた。
騎士学校生徒達は、初めて入る聖域に興奮気味のようね。
今日の出会いがきっかけで、将来結ばれるなんて事も有るかも知れない。
それは多分、騎士学校の男の子達も、聖女学園の女の子達も意識しているに違いない。
恋バナ大好きのルーミラお姉さまが騎士学校の生徒が入場可能には是非したいと言ったのはコレを期待してよね、やっぱり。
私は今日もメイドの格好でいたのだけど、何度か騎士学校の生徒さんに声を掛けられしまった。
「お姉さまモテモテ」
「アイリの方がモテていたわよ」
アイリは可愛い。それは万人の共通認識という事を改めて実感できてお姉ちゃんは大変嬉しいわ。
「断るのって、大変ね」
他のメンバーの娘も男の子に声を掛けられるという貴重な体験をしている。
ふふふ。素敵な恋に発展できるといいわね。
「シャルは今頃お忍びデートかな」
アイリに言葉にメンバー皆がキャーと声を上げる。
そう、シャルだけは別行動を取っている。
今頃は王太子と二人で楽しんでいるはず。
「うふふ、みんなチラシ配りも忘れないでね」
私達はただ他の娘の発表を見学していた訳ではなく、これから行う歌の発表の場所と時間を知らせるチラシを配っていたのだ。
このチラシは皆が練習している間に私とエマで作ったもの。
私とエマも学園祭に参加させてもらった。
エマも陰ながら参加できる事を喜んでくれた。
チラシは敢えてみんなまとまってで配っている。
騎士学校の男の子達に免疫無いだろうし、一応安全を考えての事である。
アイリ達が発表に選んだ場所は、当然校舎内では無い。
講堂でも、パイプオルガンのある礼拝場でも無かった。
この学園には屋外ステージもある。
選んだ場所はそこだった。
理由はお客さんが入場できる広さが一番だったかららしい。
音響を考えたら講堂の方がいいだろうと思うけど、講堂は公演会を開く生徒が割と多く、準備等を考えると難しいという判断になったのだった。
一方屋外ステージの方はアイリ達の他には演劇をする生徒達の発表があるだけである。
その劇もそろそろ終わる筈、午後に入り次第準備を開始する予定になっている。
音響については、シャルの実家、ラーゼフォン公爵家の力技が炸裂した。
マイクなどの拡声魔道具など公爵家が用意してくれたのだ。
よく、このアイドル計画に協力してくれたものだと思う。
シャルが一生懸命説得したのかな。
アイリ達の戦略も素直に関心してしまった。
敢えて、学園祭の終わりに発表するというのだ。
聖女学園の生徒の皆にも聞いてもらえるし、最後のトリであれば印象に残りやすいはずよね。
そしてだからお客さんを集めるのと、発表までに帰らせない為にこうしてチラシを配っているのだった。
アイリの可愛さに釘付けになった男の子達はきっと最後まで残ってくれるはずだ。
私達がそろそろ戻って準備に入ろうかと言うところで、遠くから黄色い悲鳴が聞こえた。
そして悲鳴の発生源はどんどんこちらに近づいてくる。
あ、これは考えるまでもなくお兄様ね。
トレーニ様も一緒なのかしら。
間違いなく一直線にこちらを目指している。
お兄様は、兄様アイ、兄様ノーズ、兄様イヤーなど、あらゆる妹レーダーを総動員して私とアイリを探知したに違いない。
だって超シスコンだから。
「アイリじゃないか!」
私達の前に姿を表したのは、やはり兄様とトレーニ様コンビだった。
しかも、偶然を装っている。
兄様の発言にトレーニ様が苦笑したのを私は見逃さなかった。
一直線にこちらに向かって来たんですものね。
ただ、偶然を装ってくれた事、私を敢えて無視してくれた事は私のお願いを聞いてくれているからで、その点は嬉しく思う。
「お兄様!来てくださったんですね」
アイリは素直に喜んでくれている。
「僕たちも招待されてね。発表はこれからなのだろう?必ず聞くよ」
「はい、皆で頑張ります!」
「楽しみにしているよ。アイリのご学友も頑張って」
「「「はい!」」」
「邪魔しては申し訳ない。僕たちは行くよ」
周囲の目を気にしてか兄様はトレーニ様と去っていった。
私は無言で2人に頭を下げた。
兄様とトレーニ様は手を上げて応えてくれた。
本当はもう少し、ゆっくり話をしたかったのだろうけど、アイリの為に我慢させてしまったかしら。
何か御礼をした方がいいかも知れない。
「本当にアイリのお兄様は無敗の貴公子様なんだね」
「頑張って、だって!」
「常勝の騎士殿もカッコ良かった」
アイリ達は兄様達で盛り上がっている。
同時に周囲にいた騎士学校の生徒達もヒソヒソ話をしていた。
「あの可愛い娘のお兄さん。ダンベルさんだってよ。ハードル高いな」
「どうする?話かけるか?」
ふふふ。私のお姉ちゃんイヤーはアイリに関する事を聞き逃しはしないわ。
兄様はアイリに言い寄る後輩が出ないように釘を刺しておく目的もあったのかもね。
兄様の思惑通りなのかしら、アイリ達に話しかけるのを戸惑っているようね。
「本当にそろそろ準備しないとじゃないか?」
「あ、そうだね」
私達は屋外ステージに戻ることにした。
先に公開した劇は丁度終劇直後で観客からの拍手が起こっている最中だった。
流石は才能を認められて聖女学園に入っているだけの事はある娘達だと思う。
観客の数と拍手の大きさはかなりのものだ。
アイリ達はこれ以上の拍手と歓声をを受けるだろう。
ふふふ、お姉ちゃん楽しみ。
しかしそこでアクシデントに見舞われたのだった。
私達が準備を進めていると、どんどん雲行きが怪しくなり準備が終わった頃に降り出してしまったのだった。
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