36話 私はおかしくなってしまったのかも知れない
私がアイリの世話係から外れて1ヶ月。
今日も私は窓辺から見える空を眺めていた。
兄様の勧めに従って私は王都の邸宅に留まった。
実家には兄様の方から連絡してくれた。
私に関しては兄様が責任持つ事になったと聞かれされた。
兄様は多数ある客間の1室を私の部屋として与えてくれた。
私は貰った自室から、ほぼ出ること無く過ごしていた。
何もやる気が出ず、自身でもどうにも出来ない。
力を使えば治るのかも知れないけど、その気にもなれない。
私がアイリに依存していたのだとハッキリ判ってしまった。
アイリにはきっと重荷だったよね。
だから今回の件は自業自得。
愚かなお姉ちゃんでごめんなさい、アイリ。
今回の件が無くても、いずれアイリは私の元から飛び立ってしまう。
それ以降の自分の生き方について、私はまったく考えていなかった。
なにか考えないと。
でも何も考えつかなかった。
本当に思いつかないのか、考えたく無いのかも判らない。
ただ考える気になれないでいるのは判った。
病は気からというけど、私は臥せりがちになった。
本当の病気なら力を使えば治るのは判っている、が、やはりその気になれない。
落ち込むあまり、病気と錯覚しているだけかも知れない。
そんなで私は臥せっているか、空を眺めているかのどちらかで一日を過ごしていた。
トレーニ様が何回かお見舞いに来てくれた。
でもどうしても会う気になれず、都度引き取って頂いた。
こんな姿を見せたくない。
今日も空を眺めていると、ノックされた。
きっと兄様だ。
私はお付き者をつけていないので応対してくれる者はいない。
私は返事もせず、急ぎ扉まで歩くととそのまま扉を開ける。
扉の向こうにいたのはやはり兄様だった。
今日は休暇の日のはずだから来るとは思っていた。
「リリー具合はどうだい?」
「今日は随分と調子がいいです。兄様どうぞ」
兄様を部屋に入れ、扉を閉める。
「今日も空を眺めていたのかい?」
窓辺に置かれた椅子を見た兄様が振り向きながら言った。
私は、自分でも判らないけど振り向いた兄様に抱きつき胸に顔を埋めていた。
振り向いた直後なのに、体勢を崩す事無く兄様は私を受け止めてくれた。
「兄様、妹分の補充でしょう?」
「今日は随分と積極的だね」
そういって私を抱きしめてくれた。
私は、アイリに依存出来なくなったから、兄様に依存しようとしているのかしら。
判らない。
判らないけど、兄様に抱きしめられている今、私は安らぎを感じている。
これでは、私が兄様分を貰っている感じになってしまっているわ。
そもそも、妹分とか兄様分がなんなのか判らないけど。
しばらくして兄様が私を離そうとした。
「兄様、もう少しだけお願い」
顔を赤くしながらそう懇願する私。
「ああ、いいとも」
私の方から延長してしまうとは。
ああ、やはり私はアイリの代わりに兄様に依存しようとしている。
でも、依存しすぎて兄様にも嫌われてしまったら。
私は私に好意を寄せてくれる人に依存し、次々に嫌われて……
やがて私は一人に……
<ヤダ…… 一人は怖い>
気がつけば私は震えていた。
「兄様、私は兄様にご迷惑を…兄様にまで嫌われたら私は……」
「リリー、大丈夫。大丈夫だよ。いくらでも甘えてくれていいんだ。僕がリリーを嫌うなんてありえ無いよ」
その言葉は優しく、力強く、安心を与えてくれる。
私は縋るように兄様の背に手を回し、必死に抱きしめ、いえ、しがみついていた。
そんな私を兄様は優しく抱きしめてくれていた。
「リリー、落ち着いたかい?」
「はい……兄様、ご迷惑をお掛けしました」
顔を真っ赤にしてるだろう私を見て兄様は苦笑していた。
なんで兄様はいつも余裕綽々なのだろうか?
「むしろ僕は嬉しいけどね。そうだ、元気になったらでいいけど仕事を手伝ってくれないか」
「どのようなお仕事です?」
「僕の秘書なんてどうだい、騎士団の仕事ではなくて領地経営の方だけどね」
「領地経営は父様のお仕事なのでは」
「実はこの屋敷の運営を含め領地の一部を任されていてね。来年には近衛を除隊し正式に跡を継ぐことになるから、リリーにも是非手伝ってほしい」
兄様が私に仕事を………
なぜだろう、その言葉私は喜んでいる。
「はい、是非お手伝いさせて下さい。何もせずここにいるのは申し訳なくて」
「気にしなくていいさ。でも、ここにいる大義名分はできるね。なに大丈夫。直ぐにアイリの方から戻ってきて、ってお願いにくるさ」
「兄様……本当にありがとう。でももしそうなっても私はもう戻れないわ」
「……アンリの事かい?」
相変わらず兄様は察しがいい。
「はい、アンリの気持ちを踏みにじりたくないの」
「うん。そうか、そうだね」
「兄様もう一回だけ強く抱きしめてくれませんか」
「いいとも。願ったり叶ったりだよ」
兄様は私の願い通り力強く抱きしめてくれた。
私は安心と喜びを感じながらも兄様に告げた。
「私はいずれどこかに嫁がなければならないけど、でも、それまでは兄様の為に尽くします」
私がこんなセリフを言う日が来るなんて思ってもみなかった。
でも、兄様にそう告げたら、元気とやる気が出てきたのを感じた。
私は単純な女だと思う。
兄様に仕事を頼まれただけで、あんなにしぼんでいた心が活き活きと弾みだしたのだから。
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