28話 私の兄様は面倒くさい。

 王都のユニスリー邸を訪れた。

 兄様の執務室で私を待っていたのは大層不機嫌そうな兄様だった。

 超弩級シスコンの体現者である兄様のこの表情。

 それだけで何となく事情が飲み込めてしまう。


「お兄様どうなさったのです? 心配事ですか?」


 私に尋ねられ、自らが不機嫌そうな表情をしているのに気づいた兄様は眉間を揉みほぐした。


「済まない。今の表情は兄として失格だった。僕もまだまだ修行が足りないね」


 そう言いながら とびきり(らしい)笑顔を作った。

 えー、まだシスコンLVを上げるおつもりですか?

 既にカンストしてるんじゃ?

 ちょっぴりゲンナリした。


〝兄たる者、妹の前では常に笑顔でいるべし〟


 というのが兄様の美学らしい。

 どうでもいいけど。


「修行頑張って下さい」


 兄様は冷たい視線が好きらしいので、極めて冷たい口調と共に様に投げつけておいた。

 兄様は感動?の涙を流している。

 もう帰ってアイリの為にケーキを作ってあげたい。


 読書は頭が疲れる。

 だから読書を目一杯楽しめるよう糖分補給をしてあげたいのだ。

 しかし、アイリは最近体重が気になりだしている。

 はっきり言えば標準より細身なので、体重を気にするより体型を気にしてほしい。

 と私は思っている。

 ただアイリが太りたくないという、その思いは姉として尊重したい。

 だからアイリが気が付かないようにお姉ちゃんしっかりサポートするね。

 アイリはまだ成長中、要は基礎代謝が高ければいいのだ。

 おっと、アイリの事になると夢中になってしまうわね。


 アイリ>>>>>×100>>>兄様 


 なのは当然なので仕方ないけどね。

 幸いにも兄様は兄様でトリップ中なので問題は無かった。


「兄様そろそろ帰って来て下さい」


「あ、ああ、済まない」


「それで、どなたかお客様がいらっしゃるのですか?」


 兄様が不機嫌なのは、男性の来客が私に会いたがっているからだろう。

 そしてそれはトレーニ様と推察される。


「察しがいいね。流石はリリーだ。トレーニのヤツがどうしてもリリーに会いたいと言うものだから」


「それをどうして兄様に?」


 と聞くのも可笑しいかな。

 私は定期的にここに出入りしているし、学園は原則部外者の出入り禁止。

 それに寮のロビーで何度も会うのは避けたいので辞めてほしいとお願いしてあった。

 アイリの敵を作る行為は絶対に避けなければならない。

 兄様の妹分補給も秘中の秘なのだ。


「アイツめ! ここでなら会えるものだから呼んでくれと煩くてね。リリーが王都にいる理由は重々承知している。事情を話さなかったの済まなかった。しかし、一回だけトレーニの為に時間を作ってやってくれないか?」


 兄様としては苦渋の決断なのかもしれない。

 友人同士とは言え、爵位の上下関係がある。

 公爵家としての要請であれば、兄様も受けざるを得ないだろう。

 兄様の表情にそんな苦悩がほんの少しあった。

 兄様たる者が妹にそれを気取られるようでは まだまだ修行が足りないですね。


「兄様、気遣い有難うございます。私は大丈夫です。そう何度も、では困りますが私もユニスリー家の者。判っています。」


 そう言って微笑み、兄様を安心させる。

 最後の一言は言うべきか迷った。

 兄様の表情に出ていた事を悟られてしまう。

 だけど言わなかった場合はトレーニ様に気を許していると勘違いされて嫉妬するかもしれない。

 本当に面倒くさい兄様である。


「リリー……出来た妹で助かる。兄としては失格だな」


 やはり気づかれてしまった。

 そんな兄様のかすかにしょげた表情が少しだけ、そう、ほんの少しだけ、不覚にも可愛らしく思えてしまったのだ。


「正直を言えば、私はどこかに嫁ぎたいとか考えていません。今日だけは兄様の為に合わせます」


 ここで少し優しくしてしまうのが私のイケナイところだと思う。

 兄様をつけあがらせてしまう。


「リリー!有難う」


 結局兄様に抱きしめられてしまった。

 ふぅ、ついでに妹分補給もしておいて欲しい。



「兄様、そろそろトレーニ様がおいでになるのでは?」


 

 抱きしめられて30分。

 慣れたとは言え、長すぎはしないだろうか?


「リリー有難う、妹分の補充は十分できたよ」


 そうでしょうとも。

 出来た妹に感謝して下さい。


「それは良うございました。それで、お客様とは思わなかったので私はメイド服ですけど、いいのですか?」


「もう着替えている時間もないだろうね。そのままでいいんじゃないか?」


 あ、兄様ワザと伝えなかったんだ。

 私が本気で冷たい目を向けると兄様は目を反らした。

 

 ハイ!確信犯決定ね。


 兄様が超絶シスコンの変態だとしても、30分は長すぎると思った。

 兄様の策略にハマり、私はメイド服のままトレーニ様と会う事になってしまった。

 これでは私が失礼じゃないの。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「リリー、またお会いできて光栄です」


 トレーニ様は私の手の甲に口をつけるということもなく、深くお辞儀をする礼をした。

 兄様の手前なのだろう。

 大人気ない兄様をもつ妹として申し訳無く思ってしまう。


「このような姿で申し訳ありません。トレーニ様がいらっしゃると判ってましたらメイド服では来なかったのですが」


「お気になさらずに。却ってその方がいいかも知れません」


「と申されますと?」


「今日はデートにお誘いに上がりました」


 私はあまりにストレートな申し出に思わず


「あ、え、 はい」


 と言ってしまった。



===============



(裏方達の会話 ミニ)


「デートキター!!」


 リリー付きの天使達は、はしゃいでいた。


「リリーがOK出すとは思わなかった。ねぇ先輩」


「これはアレっすね。先程、特級慈愛属性が刺激されて、シスコンに甘くなってしまった影響っスね」


「最近その影響がかなり大きくなってない?」


「あのシスコンキモ兄をなんだかんだで受け入れつつありますよね」


「まあ、我々は見守るだけっスけどね」


「デート男の派手な玉砕希望ー」


「楽しみねー」


「そっスね」


 各自リリーの肩や頭の上で寝転がりながら楽しみを見つけたようだ。

 なんと言っても天使達は恋愛沙汰が大好きなのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る