26話 私達は本格的に始動する

 「お疲れ様」


 私は歌の練習を終えたアイリ達をねぎらった。

 タオルを皆に渡し、私はアイリの汗を拭う。


「お姉様恥ずかしいよ」


 と、いいつつも素直に拭かれているアイリは今日もやっぱりカワイイ!

 久々に言うならば、汗を拭かれる妹コンテストがあったなら以下略。

 といったところだ。


 最初4人で発足したアイドル計画は、メンバーが増えて7人になっている。

 私とエマを含んでの話だけど。

 私は臨時講師的な立場になってしまったので、最近では演奏でも参加することもしないようにしている。


 幼年位補習の方は順調で、皆、中等位の授業についていけるようになってきている。

 折角学園に入れたのだから少しでも才能を伸ばしていってほしいと思う。

 しかし私は皆から「リリー先生」と呼ばれる様になってしまい、些か気恥ずかしい毎日を過ごしている。

 学長からも「リリー先生」呼ばれた時には流石に顔が赤くなってしまった。

 誂われているのは判るけど、真顔で言われると本気になっちゃうじゃないの。

 とは言え、始めてしまった責任もあるから私が続ける事ができる範囲では続けたいと思う。

 

 さて、私は講義をしながら参加の生徒の鑑定を密かに行った。

 また授業の様子から作詞・作曲の才能の有る者、演奏の才能の有るもの目星はすぐについた。

 お姉ちゃん公私混同上等よ。

 そのお姉ちゃんのXファイルから、候補者をアイルとシャルに教えましたよ。

 ええ、教えましたとも。


 スカウトはアイリとシャルがやってくれた。

 アイリが必死にスカウトする姿をお姉ちゃんは力を使って見守り、応援してたからね。

 本当にアイリはよく頑張った。

 流石アイリ。とっても可愛かったわ。


 そんなこんなでメンバーとしての形は出来た。

 メインボーカルはシャルとアイリ。

 2人にはギターも担当してもらう。

 作詞、作曲兼オルガン担当1人

 ドラム 1名

 ベース 1名

 参加してくれた3人の紹介はまたの機会にすることとして、メンバーが集まり練習を重ねる中で、重大な方向変更をすることになった。


 歌って踊れるアイドルユニット計画で始まった活動だけど、まず振り付けの才能が有るものが学園の中に居なかった。

 それに加えてアイリもシャルも踊りながら歌うのはハード過ぎて上手くいかなかったのだった。

 折角の歌が息切れししまうのだ。

 皆で考えた振り付けも良くないのか、イマイチパッとしない。

 生徒の課外活動の為、直接力を使って能力付与は避けたかった。

 それをやったらアイリはきっと聖女に選ばれる事はない。

 そう思えた。


 ということで踊るのはカットし、まずはポップな歌メインで行く事に。

 運良く、作詞作曲の才能の有る子をスカウトできたし、この方向でもイケると思う。

 私が一番最初の人生で学生時代に流行っていたアイドルの歌のメロディーを参考に奏でると、この世界では斬新なメロディーに驚き、同時に創作意欲を沸かせてくれたのだった。


 ドラムは酒場で存在を確認していた。

 酒場ではジャズ調の曲も演奏されていた。

 そして最も驚いたのは、私より長く王都にいる兄様に楽器についての相談をした時、兄様が私に渡してくれたギターだった。


 なんとそれは魔道具でエレキギターと同じ音色がでたのだ。

 当然本来はこの世界には存在しないものだと思われた。

 ギターによく似た楽器は私が聖女をしていた150年前にもあった。

 しかし、こんな都合よく私が求める物が有るとは思わなかった。

 こんなご都合主義的でいいのかしら?

 と思ったがこれは兄様が開発した(させた)ものらしい。

 ベースも開発されていた。

 残念なことに騎士学校では兄様の趣味に付き合ってくれる友人が居なかった。

 トレーニ様は楽器演奏も歌も才能が無かったらしい。

 それで兄様はバンドを組むのを諦めたのだという。


 私はこの時確信した。

 兄様は私と同じく転生者だと。

 兄様は絶対音感の持ち主で、楽器の音程調整は完璧に出来ていた。

(私は力を使って音程を確認したので間違いない)

 惜しむらくは兄様は演奏は上手なものの、演奏しながら歌うことが出来なかった。

 なんでも完璧にこなしそうな兄様にも不器用な一面あったのだ。

 そう思うと少し可愛く思えるから不思議である。

 楽器の提供の代わりに、私は兄様にながーい妹分の補充を要求された。


 ふぅ、あれだけ嫌だった兄様の妹分補充も必死な兄様の様子が可愛らしいと思えて来るから不思議よね。

 変な噂が立つと困るけど、まあ、変な兄を持った妹の務めだと思えば許せるようになったから私も随分と大人になったものだと思う。(諦めかも知れない)


 私の1時間にも及ぶ献身の成果により、楽器が揃うと面白い様に必要なメンバーも集まった。

 こうして今の人数になりバンドが結成されたのだ。

 バンド名は今の所、未定。

 今は童謡などを練習し演奏技術向上と同時にオリジナルソングの作成に取り組んでいる。


 メンバーが揃ったので、私とエマはサポートに徹している。

 あくまで生徒の課外活動なので本来私とエマが参加する方がおかしいのである。

 兎も角折角活動を始めたならお披露目しなければ意味は無いし

張り合いもない。

 それについては私に考えがあった。

 なんといっても此処は聖女学園、つまり学校。

 学校と言えばやっぱり学祭が無いとね。

 この世界にそういった文化はないけど、そういう変わった事を

好きそうな人物を私は知っている。


 ただこの案は今のところ、私だけの秘密にしている。

 今の皆には重荷になってしまいそうだったし、今は、創意工夫や意見交換、試行錯誤を楽しんでバンド活動を好きになってもらおうと思うのだ。

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