23話 私は教師を目指す?
今日もシャル達を招いて紅茶を振る舞った。
勿論、課外活動についての話し合いの為だ。
「あんなに歌が上手なんて驚いたわ」
シャルが私の歌唱力を褒めてくれた。
私は酒場で聞いた歌を完コピして、アイリとシャルに聞かせたのだ。
エマはあの時の感動を思い出したのかハンカチで涙を拭っていた。
「お姉様も私とお歌のレッスンしてたんだよー」
アイリは得意げだ。
しかし酒場の歌姫の足元にも及ばないし、シャルやアイリに褒められるのは大変に恥ずかしい。
「しかし、この歌は使えないわ。どんなに上手に歌ったとしてもね。酒場で聞くからこその歌ね」
「私もそう思う。感動はしたけど、私達の方向性とは違うと思うの」
シャルの感想に私も同意した。
「振り出しに戻っちゃったね」
アイリの言葉で私は次の計画を話すことにした。
「この学園に何故か音楽関係の課外活動が無いでしょう?」
「そう言えばそうよね」
「ということは、先輩達に音楽関係の才能で入った方がいらっしゃらないということ。だから今年、作詞、作曲の才能ので入った子達がいるなら活動を決めかねていると思うの」
「そうだね。探すならこの学年になるね」
「それで、情報集めの為に控室で講師を始めたのですか?」
エマの発言に私は顔を赤くしてしまった。
「いえ、そういう訳では無いわ。あの子達が必死だったから応援したくなったの」
私は前世で私を教育してくれた大聖女様を思い出した。
出来の悪い町娘の私に丁寧に、根気強く、怒らず教えてくれたものだった。
私の教育スタイルは彼女を真似たもの。
今だから解る。
ある日ストンと落ちて判るようになるのだ。
あの方は特殊な能力は無かった。
しかし、自身の理念と努力で素晴らしい教育者となった。
そして王宮の聖女達を束ねる大聖女になったのだ。
彼女の理念は高かった。
全ての人々に教育の機会を、それが彼女の夢だった。
全ての人に教育の機会を与えるのは国としてはきっとNGだろう。
民を小賢しくしてはならないと考えているはずだ。
晩年の私が聖女学園を作ったのもきっと彼女の影響。
せめて、人々を慈しむ大聖女様の理念を多くの子女に知ってほしかったのだ。
子を育てる母親こそ子供にとって最大の教育者なのだから。
「お姉様に教えて貰ってるなんて、いいな!」
アイリが頬を膨らませて私にしがみついてくる。
<アイリ! カワユス!>
その表情メモリー完了!
あとで絵にしよう。
おっとイケナイ!
そういえばシャル達がいた。
「アイリ、貴女……散々リリーから教わったのでしょう?」
「そうだけど、私もお姉様から教わりたい。先生の講義退屈なんだもの」
「まぁ、それは言えてるわね」
「それなら、試験の前におさらいしましょうか?」
「うん! お姉様大好き!」
<大好き!大好き!大好き!(心の中でエコー)>
何度聞いても素晴らしい。
私は力を使い、今のセリフを永久保存した。
これで いつでも何回でも聞ける。
うへへ。
私の『アイリ肉声コレクション』がまた一つ増えた。
おっとイケナイ。
表情が崩れるところだった。
最近のアイリはこの2人の前でも甘えてくるようになって油断できない。
「ほんと仲がいいわね。羨ましい。私にも姉か妹が欲しくなったわ」
「ホントに、姉妹ってそんな感じなんですね」
二人には兄弟はいるはずだわね。
姉妹はいないらしい。
「うん、お姉さまはとっても優しいの」
「リリーは特殊だと思うけどね」
女性が集まると話が進まない。
前世でも散々経験したことだけど、それはここでも同じだった。
話は関係ない方向に進み、歌の話には戻らずお開きになったのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
夕食後の事。
アイリは読書中。
私達が兄様を訪ねた際に借りてきた本に夢中だ。
今流行っている恋愛の物語らしい。
兄様がアイリ好みの本を用意してくれていたのだ。
シスコンでなければ、妹想いの本当に良い兄様なのだけど。
アイリも恋愛に興味を持つ年頃になったのね。
お姉ちゃん感無量よ。
コンコン!
扉がノックされた。
珍しいわね。誰だろうか?
アイリも突然の来客に慌てて衣服の乱れを正した。
アイリの支度が終わったので、私は扉を開け来客の応対をする。
来客は今日、勉強を教えた子と、その子の主だった。
「夜分に申し訳ありません。お嬢様がどうしてもリリー様にお会いしたいと申しまして」
それは、お付きのメイドの子に勉強を教えてくれたことへのお礼から始まり、要するに自分にも教えて欲しいというお願いだった。
「私も参加したい!」
アイリの許可が出て急遽勉強会が始まった。
生徒はアイリとメイドの子を入れて3人だ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「今日は有難うございました。おかげで理解でしました」
「お役に立てたようで何よりです」
「また分からない所があったら教えて頂けないでしょうか?」
「何時でもとは言えないけれど、分からないことがあったら声をかけて下さいね」
大聖女様は決して拒絶はしなかった。
私も何度も夜に押しかけたが、いつも暖かく迎えられた。
あの方は私の教育の師。
その志を継いだ私も拒絶する訳にはいかない。
一度教えたのなら最後まで教えきるわ。
アイリの事も疎かにはしない。
アイリが寂しくなってしまったら、何の為にここにいるのか解らなくなってしまう。
私は両立してみせるわ!
アイリ、お姉ちゃん頑張るね!
こんな事があってから噂は広まり、私の元には教えてもらいたい子達が集まるようになった。
従って、私は大変に忙しくなった。
それでいてアイリのお世話を何事もなかったかの様に余裕綽々で行ってみせる。
実際は力を使って疲労を回復し、睡眠時間を削りやりくりしている。
肌に疲労を出すような失敗もしない。
ふと思う、この学園の先生たちの講義ってそんなに分かりにくいのかしら?
と思ってしまったが、それは違うと思いなおす。
ただ、講師達の講義は幼年位教育の理解の上に成り立っている。
その幼年位の基礎ができていないと、すぐに躓くだろう。
思い返せばそんな子達が多かった。
これは手を打った方がいいわね。
久々に私の教育者魂に火が着いたのだった。
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リリーが力を使いまくる。
それは天使達の努力の上に成り立っている。
ルコーが回復班、キャペンが美容班だ。
ミッチェルは予知を行い、リリーに先回りの予感を与えていた。
リリーは最近勘が冴えている程度に思っているが、この事前の予知が重要で、リリーの行動から無駄を省いて効率化を図っていた。
リリーの睡眠時間は最近は2時間だ。
その2時間の間でさえ天使たちは働き続ける。
「最近厳しいわー」
「歌と関係ないところで忙しいわね」
「やれやれ疲れたっスね」
しかし天使たちの活躍はこれからが本番だ。
「いずれリリーが生徒を大量に鑑定しだすッスから、事前調査終わらせるっすよ」
「先輩休ませてー!」
「後で楽する為っス。後回しにするとその時地獄になるっスよ。
キャペン、何かあったら知らせるっス」
「はーい、頑張ってね。ミッチェル様、ルコー」
「ほら行くっすよ、ルコー」
「分かってますよー」
天使たちの苦労はまだまだ続くようだ。
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