21話 私達を送り届けた後の騎士達の会話と、姉妹の会話
結局、ろくに話すことが出来なかった。
俺はこんなに臆病だったのか?
終始、ダンベルにフォローされ、とてもいい雰囲気になったとは言えない。
きっと、リリーに近寄り難いと思われてしまっただろう。
「今日は助かった」
「今日はどうしたんだい?」
俺らしくないか。
そうだ。
女性をエスコートなんて散々してきたのにリリーの前では緊張してしまった。
あまりに意表をついたリリー達の男装を見て、ドキドキしてしまった。
今までそんな事をしてくる女性などいなかったし、また、似合っていた。
ドレス以上に女性を意識させる。
「俺もまさかこんなに緊張するとは思わなかったさ」
「まさか、君……」
「ああ、そのまさかの様だ」
「……」
「ダンベル。正式にリリーを俺に紹介してくれないか?」
思い切ってダンベルに頼んでみた。
ダンベルは少しだけ驚いた表情をした後、目を閉じ、考え込んでしまった。
長い沈黙。
結論がでたのか、やがてダンベルは目を開いた。
「それは出来ない相談だね。リリーはアイリの為に自ら望んでメイドとして学園に来ているんだ。その邪魔は兄としてしたくない」
「邪魔はしないさ。俺としてはアイリ嬢が卒園するまで待つつもりだ」
「6年も? 君のご実家はそこまで待ってくれるのかな?」
「婚約さえさせてもらえれば実家はなんとか黙らせるさ」
「君の友として、リリーの兄として厳しいことを言うが、正式に紹介したとしてリリーとまともに話せるのかい? 妹に気遣われる男を兄として紹介したくはないよ」
「それは……」
「君も公爵家嫡男だろう。正式もなにも、既に紹介はしているんだ。僕の紹介ではなくて自ら婚約を申し込むべきだろう?」
「そうか、そうだな。俺としたことが弱気にすぎるな。そんな男ではリリーにふさわしくない」
「あと申し込んだら申し込んだでリリーの返事に依らず僕と決闘してもらうよ」
「おい! 本気か?」
「それはそうだろう。僕に勝てない男に可愛い妹の未来を任せる訳にはいかないよ」
「覚悟しておこう」
「それはそうと、僕の部屋で飲み直さないか?」
「そうだな、そっちでは負けんぞ」
「君は
「よく言う。ダンベルが酔い潰れたところを見たことがないぞ」
「まあね。今日は年代物のいいヤツを手に入れているから期待してくれ」
「ほほう、それは楽しみだ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ダンベルが言うだけあり、年代物のブランディーはまろやかで美味かった。
美味かったので飲みすぎた。
すでに3瓶空だ。
「リリーは、意中の人とかいるのだろうか?」
「ふぅ、君も相当重症だな。今はアイリの世話に夢中のようだね」
「まさか、同性が好みなんてことは?」
「あり得るんじゃないかな? 普通は、いくら優しくても妹の為にメイドになってまでして着いてこないんじゃないか?」
「そうか! やはり」
「トレーニ、恋は盲目というけど本気にしないでくれよ」
「あ、あぁ 済まん。冗談だったか」
「やれやれだね」
そういってダンベルはグラスを一気に開けた。
「なぁ、ダンベル」
「なにかな?」
「お前もまさかリリーにぞっこんなんてことは」
「何を言い出すかと思えば。ぞっこんに決まってるじゃないか。
あれだけ可愛い妹だぞ?まぁ兄としてだけどね」
「そ、そうか」
コイツはっきりと言い切ったぞ。
まずは、ダンベルが障害になりそうだな。
「トレーニにだから言ったけど、他には漏らさないでくれないか。リリーが言うには、外に広まるとアイリの敵が増えるそうだから」
<リリー公認のシスコンなのか!? なるほど、絶対に他に漏らす訳にはいかないようだ>
「無敗の貴公子様に憧れる学院性は多いだろうな。リリーの為に黙っているさ」
「言うね。まあいいけどね。遠慮は要らない。どんどんやってくれ」
そういって、ダンベルは酒を注いできた。
がぶ飲みするような酒では無いんだがな。
俺から見ても流石にもったい無い飲み方だ。
ダンベルの奴は俺を慰める為にこの様な飲み方をしているのかも知れない。
同時に自身を慰めている様にも見えた。
「明日は休みだ。とことん付きやってやる」
そう言って俺たちはまた酒を流し込み始めるのだった。
===============
「お姉さま。お帰りなさい」
「ただいま。アイリ」
私はアイリを抱きしめる。
お姉ちゃん無事アイリの元に帰ってきたよー。
「男の人に抱きしめられているみたい」
「有難う。でもお兄様方には男装しても女性と判ると言われてしまったわ」
「えー!、こんなに男性ぽく変装してるのに?」
「ええ、アイリに折角手伝ってもたったのに不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね」
「ううん、お姉さまは悪くない。お兄様達が最初からお姉さまと判っていたからだよ。きっと」
アイリはなんて姉思いな優しい子なの?
思わず強く抱きしめてしまう。
「あれ?お姉さま。今日は苦しくない!」
最近は強く抱きしめると、アイリは息ができなくなってしまう。
私も成長して胸が大きくなってしまったから。
アイリを強く抱きしめられなくなってしまって残念だっただけど、そうか、今日は男装の為に包帯で胸を巻いているんだった。
なるほど、こうすれば毎日アイリを強く抱きしめられる。
アイスアイディアである。
「今日は、包帯でぐるぐる巻だもの」
「息が苦しいけど、いつものお姉さまがいいな。柔らかく包まれて安心するの」
包帯案は廃案で可決となりました。
アイリがいつも通りがいいなら お姉ちゃん、いつもどおりで抱きしめるね。
私は着替えて、お兄様がお土産に持たせてくれた、ぶどうジュースをグラスに注ぐ。
今頃きっとエマもシャルの為に同じ事をしているだろうね。
お兄様はアイリとシャルの為にも ぶどうジュースを用意していた出来る男である。
兄様のくせに。
とは思うがアイリの為に用意してくれているのには、素直に感謝してもいいかも知れない。
「美味しい!」
「お兄様が用意した物だけどアイリにもって、持たせてくれたの」
「兄様はすごいね。それでコアトレーニン様とはどうだったの?」
アイリは歌よりも兄様よりもトレーニ様に興味津々の様。
アイリも乙女なのね。
お姉ちゃん。すこし寂しい。
「トレーニ様は、そうね。今日はあまり楽しく無かったみたい。無理なお願いをしてしまって、後で謝らないとかしら」
「えー、トレーニ様はお姉さまの事を好きなんじゃないかな?」
「ええ!? そんな様子は…特に無かったわ」
ジト目のアイリ。
アイリはジト目でも可愛い!
お姉ちゃんそんな表情されたらドキっとしちゃうじゃない!
気がつけば思い切り抱きしめていた。
私も妹分が不足しているに違いない。
「お姉さま〜。くるし〜」
「あ、ごめんなさい」
話が進まなくなるから自重しないとね。
お姉ちゃん気をつけるね。
「お姉さまはトレーニ様の事どう思うの?」
「私? うーん、別にどうも。別にお兄様のお友達ってだけよ。今日無理に付き合わせてしまったのは申し訳ないけど」
「そっかー。でもお姉さま。もしお姉さまに好きな人ができたら
私の事は気にしないでね。って、お姉さま泣かないで!」
「お姉ちゃん感動よ!アイリのような妹がいて本当に幸せ。大丈夫!お姉ちゃんはずっとアイリの側にいるわ!」
こうして結局この日、私達は酒場の歌についての話はしなかったのであった。
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