11話 裏方達の会話 その2

 リリエナスタ付きの大天使ミッチェルは、雲の上でのんびりしていた。

 天使は眠る必要がないのでダラダラしているだけであるが、久々の休暇をそれなりに楽しんでいた。


<新たに部下になったルコーとキャペンは優秀で助かるッス>


 以前、ミッチェルは神様に懇願し有能な部下をつけてもらった。

 中天使1位のルコーと2位のキャペンである。

 さすが1位と2位、大天使には及ばないものの、中々に高い神力を持っていた。

 おかげでミッチェル自身はかなり楽になった。

 普段は、リリーの頭の上に常駐し、リリーの願いを聞いたらルコーとキャペンに指示を出す。

 大抵はこれで済んでしまい、ミッチェル自身が力を使う必要はあまり無くなった。

 余裕が出てくると自分がもう16年近く無休であったことに気づいた。


<リリーもう16才、月日が経つのは早いっすねぇ>


 リリーが生まれてからずっと一緒にいたミッチェル。

 ちょっとした親心も芽生えている。

 今リリーは妹のアイリと共に王都に移動中である。

 護衛の騎士も付き従い危ういことも無いし、リリーも旅の間は突拍子もない事をしでかす事も無いだろう。

 ミッチェルの予知能力も何事も起きないと告げている。

 であれば、久しぶりに休暇を取ろう!

 神様もあっさり了承してくれたのでミッチェルは現在、久方ぶりの休暇中なのである。

 一応何かあれば、ルコーとキャペンから連絡が来ることになっている。


 今日くらいは、頭を空っぽにして過ごすのもいいだろう。

 他の国を見て回ってもいい。

 ともかくリリーから離れてみよう。

 なんと言っても休暇は一週間もあるのだ。


 一方、ルコーとキャペン。


「ねえ、ルコー」


「何? キャペン」


「暇ねえ」


「そうだねえ」


 ルコーはリリー右肩の上、キャペンは左肩の上で寝転がっている。


 ここは馬車の中、現在リリーとアイリは王都に移動中なのである。

 中天使2名の会話はリリーとアイリには聞こえていない。

 今馬車の中には2人と天使2名しかいない。

 が、馬車の外には結構の数の天使がいる。

 というのもリリーが、アイリが馬車に酔わないように揺れを最小限にという願いと、快適でいい香りの空気を願ったからだ。


 逆にそれ以外には願いはなく、ルコーが馬車の揺れを、キャペンが空調を担当し、部下の下級天使に指示を出したらあとは暇だった。


 下級天使たちは馬車の揺れを抑えたり、

 心地よい空気を窓より馬車の中に送り込んだりしている。

 下級天使は、あまりはっきりとした自我は持たない精霊に近い存在だ。

 こき使われても不平不満を持つことはない。

 ただし、力は疲弊しやすいので。

 シフトを引いて交代させる必要はあった。


 神様がリリーの為に与えた下級天使は実に1000名もおり、はっきり言って過剰だ。

 神様はリリー以上に過保護なのだろうか?


 リリーとアイリは静かにしていた。

 というか眠気を催したアイリはリリーにおねだりしてリリーの膝枕でお昼寝していた。

 リリーはその寝顔を楽しそうに眺めている。

 6人乗りの馬車を2人で乗っているので、シートも女性くらいなら横になれる位に広い。

 中は十分に広いのだが、皆、リリーにくっついている状況だ。


「この子の上に乗っていると心地よいのよねー」


「そうだなー」


「頭の上ならもっと心地よいのかしら?」


「そこはミッチェル先輩の指定席だからなー。勝手に乗ると怒られるよ?」


「ミッチェル様拗ねちゃうわねえ」


「違いないねー」


 とダラケきった会話を躱すルコーとキャペン。

 会話は続く。


「アイリちゃんもリリーのお膝がお気に入りねえ。心地良いものねえ」


「アイリも二人きりだとリリーに甘えっぱなしだね」


 そうなのである。

 12才になり、だいぶしっかりしたアイリだが、他人の目がないと姉にべったり甘えていた。


「いつもながらリリーはアイリちゃんにベタ甘だわねえ」


「こんなに甘い姉は珍しいよ。母親以上だねぇ」


「しかし、なんでリリーにくっついているとこんなに心地よいのかしら?」


「あー不思議だよねーそれ。最初、リリーの頭の上に常駐している先輩を見て呆れたけどさぁ。今はわかるよ。ずっとくっついていたい」


「あー私もそれ思った。今はわかるー」


「それは、リリーが特級慈愛属性の持ち主で強い慈愛波動が出てるからッスよ」


 窓からミッチェルが入ってきてリリーの頭の上に乗るとすぐに寝転がった。


「あれー先輩、休暇でしょ?」


「まだ休暇初日ですよ?」


「まぁ、あれッス。リリーの頭の上が心地よすぎて、離れると落ち着かないッス」


「あー先輩わかります」


「わかるー。ほんと落ち着くし、心地よすぎるわぁ」


こうして、ミッチェルも復帰し旅に加わったのだが、やはりリリーにくっついている。


「なんか すごい光景ッスねえ」


「リリーは磁石ぽいよね」


「引き寄せる力が半端ないッスか」


「そーいえばミッチェル様先程、特急慈愛属性とか言ってけどひょっとして」


「キャペンは鋭いっすね。でも言っちゃ駄目っすよ?まだ、候補というだけっスから」


「神様過保護すぎと思ったけどそういうことかぁ」


「ルコーも駄目ッスよ?」


「わかってますよー先輩」


「あーそうそう、ルコーとキャペンに聞きたい事があったッス」


「ひょっとしてアイリちゃんのことかしら?」


「あれでしょ先輩、アイリの視線」


「やはり感じてたッスか」


「たまに目が合った気がする時が」


「こちらの動きを追ってることがある、気がする、かな?」


「いまいち確信持てないけど、そんな気がするッスよねえ」


「全員感じてるとなると、偶然じゃないわねぇ」


「まあ、常時見えてるわけじゃ無いのかも」


「そうッスねえ。 それにしても、はぁ落ち着く」


 天使達もゆるダラな感じでべったりリリーに甘えている。

 春の陽気が心地よい午後のひと時。

 神様が羨ましがってるのを知らない天使達であった。

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