8話 私の妹が大志を抱く
アイリは8才になった。
ということで、現在私は12才。
兄様が騎士養成学校に入ってからは邪魔者もなく、アイリに専念できた。
アイリの滑舌も良くなり、私は 「おねーちゃま」から「お姉さま」になった。
アイリの美声で呼ばれるのは心地が良い。
そしてアイリは日々すくすくと成長している。
(反抗期のになった時は私は日々枕を涙で濡らしたものだ)
私の妹日記はすでに5冊目に突入した。
中身はお見せする事が出来ない。
私だけの秘密であり宝物だから。
私はというと、10才で高等位の修了試験に合格し、それからはアイリの家庭教師になった。
ということで、今の生活は午前中は、アイリの勉強を教えている。
勉強の中には礼儀作法なども含まれる。
それこそ、手とり足とり教えている。
ふふふ。うふふふふ……
いけない、トリップするところだった、危ない危ない。
そして午後は自由時間にしている。
アイリにも自由時間が必要だろうし、私もアイリが中等位の学校に通うようになるまでにマスターしなければならないことがまだまだある。
今日も午前中のアイリとの濃厚な時間を満喫し、昼食を一緒に仲良く食べた後はお互い自由行動時間だ。
今日の予定は図書室で読書だ。
我が家には、父が作った兄様を含む私達の子供達の為の図書室がある。
この世界で本は決して安いものでは無い。
しかしこの図書室の蔵書は軽く10000冊は超えるのではないだろうか?
中には父様と母様向けと思われるものもあるが、絵本、童話から、教科書、図鑑や HOW TO本まである。
私は、お菓子のレシピ本を読み始めた。
アイリに美味しいお菓子を作ってあげたいなと常々思っているからである。
クッキーや、ケーキはもちろん、この世界の国々には その地方地方に伝わるご当地スイーツがある。
それらを余すこと無くアイリに振る舞ってあげたい。
そんなささやかな姉心だった。
私は想像する。
=注)以降リリーの妄想となります。ご注意下さい=
見たこともないようなスイーツをアイリのおやつに持っていく。
アイリは驚き、輝かせた目で私に言うのだ。
「お姉様、ありがとう!」
あぁ、アイリなんていい笑顔なの?
笑顔の妹コンテストがあったら間違いなく優勝よ!
つまり世界一の笑顔!!
お姉ちゃんうっとりよ。
私も笑顔で答える。
「アイリが喜んでくれて嬉しいわ。遠慮なく食べてね」
その言葉に優しい妹のアイリはきっと、こう答えるだろう。
「お姉様も一緒食べよ?」
貴女に誘われて断わる姉がこの世にいるだろうか?
いえ、いない。
いるはずがない。
いたとしたら、神が許しても私が許さないだろう。
「ありがとうアイリ。お言葉に甘えさせてもらうわ」
私はここぞとばかりにアイリの手を握る。(1分程)
この後、私は手を洗うのが辛くなるだろうが、その時は、その時だ。
そして一緒にスイーツを一緒に口に入れる。
また、驚き、満面の笑みになったアイリは私に言うのだ。
「お姉さま! すごく美味しい!!」
あぁアイリなんて可愛い笑顔なの?
お姉ちゃんにはアイリの笑顔がご馳走よ。
ぐふ! ぐふふふふ……
=どうやら妄想はここまでのようです=
は!?、私は我に返り、周囲を見回す。
よかった誰もいない。
こんな姿をアイリに見られたりしたら、私は恥ずかしさのあまり悶死するだろう。
妄想は自室だけと決めていたのに ついついしてしまった。
危ない危ない。
これもアイリが可愛すぎるからである。
罪づくりな妹を持つ姉は大変なのである。
私が本に載っているスイーツのレシピを片っ端から頭に詰め込んでいると、図書室にアイリが入ってきた。
「お姉様」
図書室では静かにするのがマナーである。
私はアイリを咎めること無く にっこり笑って、笑顔で挨拶を返す。
アイリがマナーがなってなくて恥ずかしい思いをすることがあってはならないが、アイリにはその事に自分で気づいてほしいのだ。
アイリが恥ずかしい思いをしないでマナーを学ぶ為に。
果たしてアイリは気付き口を手で抑える。
<なんて可愛い仕草なの!>
もし妹の可愛い仕草コンテスト(以下略)
私の挨拶だけで気付くとは、なんて聡い娘なのでしょう!!
お姉ちゃんは鼻が高いわ。
皆に自慢したいほどである。
むしろ私が図書室の中心で叫びたい!
まぁ、マナーについてはいいだろう。
「アイリ、私に用があるの?」
アイリはもじもじしている。
可愛すぎる!
「あのね、お姉さま。お願いがあって」
「ええ。喜んで」
「まだ何も言ってないよ?」
「可愛い妹のお願いを断る姉はこの世にはいないわ。出来る出来ないはあるけど、気持ちだけはいつでもOKよ」
「お姉さま。大好き!」
大好き! 大好き! 大好き!
その破壊力抜群の言葉に私の心は1億光年の彼方に行ってしまった。
一瞬で戻っきてきた私は感激のあまり泣きそうになるのをグッと堪える。
「姉として当然のこと。だから遠慮なく言ってね」
「うん。あのね、またあの話を聞かせてほしい!」
「ええ、喜んで。ここではなくて お茶でも飲みながらにしましょうか」
にっこり笑って私は答える。
<よっしゃ! 午後もアイリと一緒!>
私の部屋で一緒に紅茶を飲みながら、私はいつもの物語をアイリに聞かせる。
アイリお気に入りのその物語は、かつて実在したある聖女の物語。
町娘として生まれたが、願いを叶える不思議な力を持ち、
皆の願いを叶えるうちに噂が広まり、やがて王宮に聖女として招かれる。
王宮仕えの聖女になってからも国中を飛び回り人々の願いを叶え、悔いなく生涯を終えたある大聖女の物語だ。
「わたし、この物語の雨降らしの聖女様大好き!お姉様、私もこの聖女様のような、立派な聖女様になりたい!」
あぁ神様! 私は、私の前世は間違っていなかった。
私の前世はこの為、アイリに大志を抱かせる為の人生だったのだ!
私は感極まり、思わずアイリに近づき抱きしめてしまった。
ギューッと抱きしめる。
「お姉様 苦しい!」
アイリの言葉も耳に入らなかった。
「アイリなら立派な聖女になれるわ!」
「うん!」
<私が、お姉ちゃんが必ず貴女を大聖女にして見せます!>
この日、私の人生の目的がはっきりと定まった。
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