第6話 【演習とAgreement】

 





「あー、あー。えーっと……生きてますかー? 」


 視界は一面煙の中。

 そんな状況に置かれた俺の耳にはどこからともなくユグドラシルの声が聞こえてくる。


 さっきまで俺は“富士山”と言う山から海の方面に向かって飛んでいた。

 それなりに進んだところで引き返そうと海に背を向けた所で、俺は強烈な風に背を押された。


 少々強すぎた追い風のせいで俺は、“青木ヶ原”と言う場所に錐揉み回転しながら墜落したらしい。


「あぁ……生身だったら確実に死んでたと思うけど何とか生きてる……よっと」


 こちらに向かって倒れていた木々や岩、大きめの結晶を動かし立ち上がる。

 体に異常が無い事を確認し、墜落した場所を見ると地面は数十cmほど削れていた。


 今や地球上のどこにでもあるこの結晶は、俺が地面に墜落した衝撃で削れていた。

 だが結晶は既に結晶が剥がれた地面を再び覆い始めていた。


「うわぁ……気持ち悪っ……」


 ユグドラシルが頑張って数を減らしているとは言っていたが……僅かな欠片も残せないのだから結晶根絶の難しさがよく分かる。


「いやぁ~……申し訳ない。ちょっと別のことに夢中でサポートが疎かになっていました……申し訳ありません。損傷度を確認するので一度月に帰って来て下さい」

「分かった」


 俺はそう返事をすると自身に搭載された転送装置を起動させ、月へと移動した。


 転送は特に派手な音やエフェクトは発生せず、とても静かな物だ。


 ちなみに転送先はユグドラシル内の転送室に固定されている。ユグドラシル内にいくつかある転送室だが、その内のどこに出るかはその時の利用率などによりランダムで割り当てられるらしい。


「無事到着……っと。ここから俺はどうすればいい? 」


 俺の体は床からほんの少し浮いて現れ、コツンと音を立てて床に足を付けた。


「はいはーい、そこで少々お待ち下さーい」


 ユグドラシルに言われたとおりに転送室で待っていた。すると転送室が再び稼働を始め、幸介をどこかに転送されてしまった。


 突然転送された幸介が周りをキョロキョロ見てみると、周りにはビルが所狭しと並んでいる。


 周りに結晶は見受けられない。


「兵器実験用TCSカスタマイズ完了……市街地ステージセット完了。これより演習を開始します」


 やはりここは地上ではなくTCSの中らしい。

 だけど……えん……しゅう?


「あのー……ユグドラシルさん? 演習って? 」

「仮想敵ロボットの数は20体、相手の装備は全て小口径のマシンガンです。実弾を使用するので最悪装備を損傷しますが……まぁ、その辺大丈夫でしょう」

「おーい? 聞こえてるー? 」

「はいはい、聞こえてますよ? 」

「なら良かった。で? 演習って……何? 」

「演習は演習です。さぁ、敵が来ますよ! 」


 ユグドラシルさんよ……それは答えになってないぞ……!!


 そう叫びたい所だが演習は既に始まっている。つまり敵に見つかってしまう。

 無駄に叫ぶのは止めておこう……そんなことを考えているとビルの影から2体の警備ロボットが現れた。


『『ターゲット確認、捕捉を開始します』』

「うぉっ!? 仮想敵ロボットってこいつかよ! 」


 そいつはブレイズのリーダーだった頃に嫌というほど戦ったタイプだったが、手に持つ武器は秋本さんが作った銃と同じ物を持っていた。


 2体の警備ロボットは両手に持ったサブマシンガンの銃口をこちらに向けて来た。

 近くに遮蔽物はなく、対抗する為の武器は無い。


「早速詰んだか……? 」


 視線は警備ロボットに向けつつも徐々に後ろに下がる。この状況をどうにか出来ないか辺りをチラッと見回すも、何も見つけられなかった。


「マスターの目標はその腰にある刀で銃弾を斬る事です」

「これか? 」


 ユグドラシルの言葉に従って腰に手をやると、確かに刀があった。


「けど……これでどう戦えと……? 」


 以前戦っていた頃は銃撃戦が主流だった。それに近接戦闘型ロボットはユグドラシルの中に居たケンゴウ刃引きしか居らず、刀の心得など持たない俺はあのまま戦ったら恐らく負けていただろう。


「最初の内は弾道の予測線が出るのでそこに刀を持っていってあげれば良いです。クリア条件は予測線が無くても弾を切り落とせる様になる事です。さぁ、頑張って下さいね! 」






 __________






 恐らく2日ほど経過したであろう頃。

 俺の眼前には20体全ての警備ロボットが整列して銃口をこちらに向けている。


 銃弾の軌道予測はとっくの昔に外され、自分の力しかない。


「それじゃ、行きますよ~」

「あぁ」


 ユグドラシルが警備ロボットに銃撃の指令を出した。いつ発射するのかは完全ランダムだ。


 刀を持つ手に力が入る。


 しばらくそうしてにらみ合っていると……



 バンッ!!



 という破裂音が鳴り出した。

 1体の銃撃を皮切りに、他の19体も射撃を始めた。強烈なマズルフラッシュと共に小指ほどの太さの鉛玉が放たれる。


「ふっ! はっ! 」


 少し前であれば俺に当たっていたえあろう銃弾は全て斬り落とせるようになった。

 そうしてしばらく刀を振るっていると警備ロボットはマガジン内の弾を全て撃ちきった様で、その手に持つ銃からは弾が出なくなっていた。


「ふぅ……」


 警備ロボットが弾を撃ちきった事を確認し、一息つくとユグドラシルが声をかけてきた。


「おめでとうございまーす! 及第点は合格ですよ! 」


 刀でひたすら弾を斬っている中でふと浮かんだ疑問を投げかける。


「なぁ……ユグドラシルは何故俺をロボットにしたんだ? 」

「それはマスターを生き長らえさせることと、“あること”をして貰う為です」


 こんな会話をしながらもユグドラシルはロボット達に指令を出し、戦場となったここの清掃を行っていく。


 弾痕のあったビルの壁は綺麗に修復され、割れた窓ガラスも全て元通りになっていた。


「“あること”……? 」

「僕と契約して、ウェポンクラッシャーになってよ! 」






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