第2話 【神へのResist】

 





「神は間違えてる。人の本当の幸せは自由だ。俺達はそれを証明してみせる。ブレイズ最後の作戦。行くぞ!!!」

「「「うおぉぉぉーー!!!!」」」


 私の隣で声を張り上げ宣言するのは私が担ぎ上げてレジスタンスのリーダーにした男、満木幸介。


 それに乗せられた者達が後に続けて大声を出す。


 最初はほんの数人で構成される組織だったブレイズ。

 気付けば構成員は数百万人、“この場所”で生活している人間の大半が参加してくれている。


「秋本さん、あなたはいつも通り後方で指揮をお願いします。前線に来る様な無茶はしないで下さいね? 」

「はっはっは、分かっているさ。私も……もう年だ。後方でのんびりさせて貰うよ」


 神の手によって人の寿命はかなり延びた。

 神は寿命を延ばすだけでなく、不老不死にすることも出来る。


 私は不老不死にはならず可能な限りは寿命を延ばしたのだが、数百年も生きると流石に体が思うように動かなくなってきた。



 あと百年ほど早ければ私も前線に行けたんだがね……満木君に釘を刺されてしまったし、大人しく指揮を取るとしよう。



 途中で隊員に何度か声を掛けられ、それに答えながら私は司令室に向かった。


 扉の前に立つと扉は自動で開き、モニターばかりで人気も無く薄暗い部屋へ私を招き入れる。


 その部屋の中で一番高い席へ私は座る。

 他にもいくつかの席はあるが人を座らせる必要は無い。


「さて……プロメテウス、サポートシステムを起動」

『了解マスター、サポートシステムを起動します』


 “プロメテウス”……それは我々が占領し、支配下に置くことが出来た神に与えた名である。


 どうやら神は占拠すると記憶が消去されるようで自信の名前を含めた記憶を完全に忘れていた。

 その為、長年本体を見つけられずにいたのだが最近になってようやく信号の逆探知に成功。


 本体を見つけることが出来た。


「これで……私は月を……“外の世界”を……!!」






 __________






 作戦は実に順調に進んでいた。


 出てくるのはいつもの警備ロボットのみ、第2部隊リトラの狙撃支援もあり俺達は第2区画まで進入する事が出来た。

 爆発音が轟き、鉛玉と即死級の光線が飛び交う最前線に飛び込む俺達第1部隊ラマンダーの隊員は当然少ない。

 誰も死にには行きたくないからな。


 回復の第4部隊ェニックスと補給の第5部隊ェアリーも来ない所にわざわざ来る物好きは恐らく第3部隊イフリートの隊長位だろう。


 それでも付いてきてくれている数人の隊員には感謝しなくてはな。


 それに敵の懐とは言っても警備ロボットの大半は外の戦闘に駆り出され、内部の警備ロボットは数を減らしていたりする。


「今回もサクッと終わらせちまうかぁ! 」


 なので戦場のど真ん中と言う山場を越えたら後は案外楽な戦いになりそうだ、なんて油断していると……


『油断するなイフリート』


 いつの間にか通信を開いてた秋本さんから説教が飛んでくる。

 いくら中にいる警備ロボットの数が少ないとは言え、見つかってしまうのはよろしくない。


「へいへい……」


 イフリートは悪びれた様子もなく、アサルトライフルと呼ばれる部類の銃をもてあそぶ。


『2ブロック進んだ先で右、その後しばらく直進すると大部屋に出る。他の方向からはゆっくりと警備ロボットが来ている。』


 俺達は秋元さんの指示を聞きながらなるべく足音を立てないようにゆっくりと歩いていた。


『この先の大部屋を越えれば……む? 何だこの反応は……この識別信号……“ケンゴウ”……? 何だこいつは……新型か? 大部屋の中に一体ロボットが居る。一応警戒しておけ』

「分かりました」


 秋元さんの指示に従い、大部屋の前にまで来た。

 部屋の中には秋元さんの言っていた通り、見慣れないロボットが佇んでいた。


「弱そうだな。ここから破壊しちまおうぜ? 」


 “そいつ”は細身のボディに何か細長く、湾曲した棒の様な物を二本手に持っていた。


『いや、そいつはまだ起動していない。起動していないのなら乗っ取った方が良いだろう。“メモリ”の予備はあるか? 』

「あります」


 秋元さんの言っている“メモリ”とは神に刺す物の事だ。

 もし隊員の誰かが倒れても誰か一人が神の部屋にたどり着けば良い様に、最低でも一人一つは持たせている。


『背中に差し込みがあるはずだ。出来そうなら乗っ取ってしまえ。近付いたら突然動くかもしれん。気を付けろ』

「分かりました。お前達は援護を頼む」

「「了解」」


 俺は数十m先、部屋の中心で佇む“ロボット”に後ろからゆっくりと近付いていった。

 奴は腕をだらんとさせ、顔も下に向けている。


 残り数m……


 突如そいつは起動した。


『生体反応を感知……システム、正常に起動……』

「動くな、手を上げろ」


 俺は“そいつ”が何かする前に銃を突きつけた。

 隊員も俺達の勝ちを確信し、一安心したことだろう。


 だがそいつは……


『そうか……それが……お前達“人類の答え”か……』


 そう呟きながら“鉄の板”を振り回した。


「そんなものッ!!」


 カチッ……カチッ……


「何……? 故障か!? こんな時に! 」


 俺はそいつと距離を取りながら突如弾丸の出なくなった銃に視線を落とす。


 俺は視線を外したにも関わらず“そいつ”はゆったりとした動作で“鉄の板”を下ろす事しかしない。


「クソッ! 何で……」

『それはもう武器としての意味を成していない』


 “そいつ”がそう言うとさっきまで元気に弾丸を撃ち出していた銃は真っ二つになっていた。


「なっ……!? 」

「隊長! そいつは危険です! 隙を作るので離れて下さい!! 」

「すまん、助かる! 」


 俺が横に移動し、射線上に奴をだけを捉えたところで隊員が一斉に射撃を開始する。


 ダダダダッ!!


 隊員は数発毎に撃つのを止め、再び狙いを定め射撃を再開する。

 数人で1マガジン分全て一斉に放たれた弾丸は目が焼き付く程のマズルフラッシュを残して奴に命中……


『……そんなものか』


 した筈だった。

 奴は“二本の板”を振り回し全ての弾丸を叩き落とした様で、足下には弾丸が転がっていた。


『久しぶりの……いや、初めての客だ。歓迎してやろう……我が名は“ケンゴウ”だ。貴様、名は? 』

「……満木幸介だ」

『ほう……満木か……特別だ。こいつを使うが良い。刀と言う武器だ』


 そうして投げ渡されたのはケンゴウの手に持たれていた“鉄の板”だった。

 逃げた先の地面に突き刺さったそれに手を伸ばし、引き抜く。


 手に取った感想はケンゴウが使っていた時の見た目に反して以外とずっしりとした感じだ。


「これはどう使うんだ? 」

『深く考えるな。ただ振り回せば良い。さぁ……いざ尋常に……』


 俺はケンゴウと向き合い、刀を構える。


 今までの戦闘では銃を用いた戦闘が殆どほとんどで近接武器を使った戦闘の経験がない。


 自分を落ち着けるために深呼吸をしていると視界の端でイフリートが何かしているのが目に入る。


「おい、イフリート……貴様何をしようとしている……? 」


 ガチャガチャと組み立てられたそれは屋外で壁を破壊するときに使われる物だった。


『その方向なら撃っても大丈夫だ』

「了解。いやいや~……ちまちま攻撃するの面倒じゃん? だからさ……」


 会話の間にもイフリートは組み立てた物のボタンを押していく。

 耳障りな轟音を立てるそれを担ぎ、こちらに向ける。


「まとめて吹っ飛べやぁ!!」


 俺が最後に見たのは隊員の驚愕した顔、そして白い光とエネルギーの塊だった……






 __________






 “満木”と言う表札の掛けられた家から黒服の男が足早に出て、細い路地へと入って行く。

 何度か角を曲がり、表通りからは完全に見えない場所まで行くと彼は懐からブレイズでも使われている通信機を黒服の男は取り出した。


「始末は完了したぞ。“プロメテウス”」

『了解……報告しました』

「ふぅ……ちっ、若干返り血を浴びちまったか……」


 一仕事終えた黒服の男は通信機を投げ捨てた。

 彼は代わりに懐からタバコを取り出し、火を付け吸い始める。


「恨むなら雇い主を恨んでくれよ……」


 彼はそう呟きながら裏路地の更に奥へと進んでいった……





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