第1話 【反逆のBlaze】

 





 この世界は神の手によって完璧に支配されている。


 我々人は、神の手によって生まれた瞬間から衣、食、住……そして一生の幸福が約束される。


 だがそれは全て神の手の中での事。


 だが俺達は外の世界を知らない。


 神は絶対に我々を外の世界に出そうとしない。


『そう、神は我々を支配して我々を弄んでいる。この状況を君達は……おかしいと思わないかね? 』


 そうして秋本和彦さんがスポンサーとなり作られたのが我々レジスタンス組織、“ブレイズ”だ。


 レーザー兵器等の高度な技術を用いられた兵器が主流となった現代において我々は火薬を使った兵器と何世代も前の電波と言う物を使う通信装置を装備として採用している。


 組織発足から数年、僅か数人程度から始まった組織は気が付けば数千と言う規模の組織になっていた。


 現代で使われている物と大きく違うそれらの装置を使いこなすには長時間の訓練が必要だったが秋本さんの指導で何とか物になり、既に幾つかの神を倒し、中には支配する事も出来た。

 これにより銃火器持ちを増やすこと、つまり戦力が大幅に上がった。


 だが戦闘に犠牲は付き物。

 途中で犠牲になった隊員の……彼らの事は一生忘れられないだろう。



 俺は神との戦いの中で俺は一人の女性……優花さんに気を牽かれ、やがて結婚した。


「いいか? 俺はこれからお前や母さん……そして皆を守る為に戦ってくる。その間は家を留守にするから家と母さんを頼んだぞ」


 ブレイズとして最後の作戦決行日。

 俺は5才になったばかりの息子、“幸介”の頭に手を置いてゆっくりと話した。


「うん、わかった! 」



 この時はこの言葉を最後に二度と会えない……そんなことになるとは思っていなかった……






 __________






 レジスタンス組織、ブレイズの根城は占拠した神の中にある。

 神の中には様々な生産プラントがあり、基本的にはどこの神も設備は変わらないらしい。


 だがこれから乗り込む場所だけは別。

 この世界にある全ての神を統括する司令塔の様な役割を持った場所。


 いくつもの神を倒す中でようやく本体を見つけた。

 警備が頑丈で激戦が予想される。

 ……もしかしたら、もう生きて帰れないかもしれない。


 秋本さん曰くここを占拠すれば全ての神は止まる。


 ここさえ占拠すれば我々は目標を完遂出来る。


 ようやく、真の自由を我々の手に……


「よーし、全員集まっているな」

「とっくの昔に集まってるぜ。お前は何やってたんだ」


 6つの椅子があり、既に5人が座っている会議室に入って来た俺に腕を組んで睨んでくるのは第3部隊の隊長、コードネームは“イフリート”だ。

 破壊工作を任務とする第3部隊にふさわしい、せっかちで破壊が大好きな奴だ。


「家族と別れの挨拶をしてたんだよ。何か文句あるか? 」

「けっ! 家族持ちは良いよなぁ! 」

「まぁまぁ、最後の作戦前に仲間割れをしなくてもいいじゃないか」


 そう俺達を……正確にはイフリートを宥めるのはブレイズのサブリーダーにして狙撃担当の第2部隊隊長、“ヴリトラ”だ。


「あー……もう良いかね? 」

「あぁ、すいません秋本さん。最後の作戦説明をお願いします」


 言い争っていた俺達を第4部隊の“フェニックス”と第5部隊の“フェアリー”と共に呆れた顔をしながら資料を軽く叩いている初老の男。


 彼がブレイズの指揮官兼スポンサーの秋本和彦さんだ。


「最後の作戦だが……ユグドラシル……いや、神の本体に裏口や搬入口と言った場所はない」

「生産プラントが無いから……でしたよね? 」


「あぁ。神の本体がするのは指揮だけで生産プラントは一切無い。だから今回の……いや、最後の作戦は正面突破だ。第1部隊ラマンダーの潜入隊を先頭に第3部隊フリートが爆弾等を用いた近~中距離支援。第2部隊リトラは第1部隊ラマンダーを狙撃援護しつつ回復の第4部隊ェニックスと補給の第5部隊ェアリーを守ってくれ。以上だが何か質問はあるか? 」


「警備は? 」

「偵察の情報ではいつもの警備ロボットだけと聞いているが強化されている可能性もある。警戒するに越したことはないだろう」


「数は? 」

「周囲の神からも増援が来るだろう。よって第1部隊ラマンダーが神にいつものメモリを刺すか、第3部隊フリートが電源装置……今回は送電ケーブルだったな。どちらかを達成できれば我々の勝利だ。他には? 」

「俺は特にない」


 いつものメモリ。

 それは神からロボットの操作権限を奪う唯一の方法だ。

 今回はロボットの操作権限だけでなく神への司令権限も貰うのだが。


「よし、作戦の最終確認は以上だ。開始時間は一時間後、各部隊装備の確認を怠るなよ! 」

「「「了解 」」」


 会議室から各部隊の隊長は隊員の待機している場所に移動した。


 ……俺もそろそろ行くか。


 そう思い立ち上がると窓の外を見ていた秋本さんがポツリと言葉を漏らした。


「やはり月の無いのに明るい夜は不気味で……寂しいな。だがこれももう少しで……」


 月とは何だろう?


 ここの空には何もない……いや。


 筈だが。


 まぁいいか。


  俺はそんな風に考えながら自分の部隊の控え室へと歩みを進めていった。


 この時の俺は最後の作戦の事ばかり頭にあり、秋本さんの言葉の“意味”を考える余裕なんて無かった。


 それに例えこのタイミングで気付けても恐らくもう遅いだろう。


 あの時、“ブレイズ”なんて作らなければ……


 あんな事には……






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