第10話 偽物少女E



 ガラス張りの部屋に見知った顔の少年が一人入れられた。彼は私の友人でもある少女の夫だったはずだから「はやくにげて」と知らせたのに、彼はクラウンに見つかり逃げることが出来なかった。その事を残念に思いながら彼を見つめていると、彼もまた私をじっと見つめ返してくる。どうやら私の記憶は正しかったようで、彼は友人の夫だった。


 しかし彼は何時も見ている優しいクラウンからは想像もつかないほど不気味な雰囲気に怯え、腰を抜かしてしまったらしい。そのことはクラウンの手によって下ろされた場所から一歩も動こうとしないのを見れば一目瞭然だ。それに私も一週間ほど前、此処にいたクラウンを見て同じ状況になってしまっていたから分かるのだ。動けなくなっている彼を見かねた私は自分の座っていた場所から立ち上がり、彼の傍らに腰を下ろす。


「クラウンはね、寂しいの。だから許してあげて」


 自身の持つ金色の髪をいじりながら宥めるようにそう言った私は、そっと彼の様子を窺う。


 なんでそんな事が言えるのか、そんな疑問を浮かべているだろう彼の心情は、おどけた性格で自身を隠すクラウンよりもずっと分かりやすい。


「夢の国での私の責務がカウンセラーだったから、多少の事は経験上分かるのよ」


 にこりと彼を落ち着けるようにして浮かべた笑みだけど、今の彼には逆効果で脅えた顔を見せられた。その表情を見た私は失敗したなと後悔しつつガラス張りの部屋を眺める。此処は無機質な場所で、殆ど物が無い状態だ。あったとしてもクラウンが気まぐれに持ってくるぬいぐるみや、玩具、元々設置されている大きなテレビぐらいである。


 そして暫くの時が経った後、この状況を理解した彼の口から「何かを知っているのか」と尋ねられた私は首を横に振って口を開く。


「いいえ。私はクラウンが寂しいという事だけしか知らない。それ以外クラウンが男なのか女なのか、どうしてこんなにも長い間生き続けているのか私は知らないわ」


 もしかしたら此処の中にいる誰かが知っているかもしれないけれど、みんなあまり会話をしないから聞き出せるか分らないけどね。と付け加えたあと、私は疲れたようにため息を吐いて、私はゴロリと地べたに寝転がる。隣に座る彼も同様にして寝転がれば、目に映るのは描かれた一面の青空。



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こどもの国 威剣朔也 @iturugi398

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