第46話 頼りにしてる
「…………」
「…………」
「…………」
ゆっちゃんと西園寺さんは、俺を挟んだままずっと無言でいる。
(さすがに気まづい。)
「な、なぁ、2人とも。せっかくの親睦会なんだからもう少し楽しんだらどうだ?」
「………私は楽しんでるよ。どっかのお邪魔虫がどこかへ行けばさらに楽しいんだけどね。」
「あらあら、自分のことをお邪魔虫と言っているのですね。可哀想な人ですね。」
「あっ、ごめんね〜。ちょっと言葉が足りなかったかな?私は、西園寺さんのことをお邪魔虫と言ったつもりなんだけど、虫だからかな。言葉の理解に乏しかったね。」
「あら?私は、正真正銘人間なんですが?あっ、もしかしてあなたからは違うように見えるんでしょうか?仕方ありませんね、虫ですからね。」
(2人とも、こえぇ〜。)
少しでも介入したら2人から食われてしまいそうだ。
俺は、2人の言い争う中、周りに視線をやる。
ほとんどの人は友達と話したりしてこっちには全く気づかない。
だが、そんな中1人の男子生徒と目が合った。
篠崎くんだ。
(助けてぇ〜。)
俺は、目でそう訴えた。
それが通じるかどうかは分からない。
でも、なにか伝えようとしたことは伝わったはずだ。
(………無理です。)
篠崎くんはそんなことを言うみたいに俺から顔を背けた。
(あっ!見捨てたな!?)
俺は、少し篠崎くんに睨みを効かせたが篠崎くんも頑固としてこっちを振り返らなかった。
「あはは!モテモテだね!宮村くん!」
「っ!星村さん!」
星村さんは、楽しそうに笑いながら俺たちに話しかけてくれた。
「なんかすごい盛り上がってるね。」
「全然盛り上がってないんだけど……」
(それどころか寒気がするくらいだよ。)
さすがにそんなことを口にはしなかったがつい口に出しそうなくらい今の俺はホッとしている。
「今日はまだ宮村くんとは話せてなかったし一緒に加わってもいいかな?」
「あ、ああ、もちろん構わないよ。」
「えへへ、ありがとう。」
俺は、2人の合意を得ていなかったが今、星村さんに離れてもらっては困る。
さすがに2人も星村さんの前では遠慮するのか俺の腕を離し少し距離を置いてくれた。
星村さんは、俺の向かい側に座る。
「宮村くん、ちゃんと今日、朝ごはん食べた?」
「え?う、うん、食べたよ。」
「そっか。よかった、よかった。昨日、朝ご飯はいらないって言ってたからもしかしたら食べてないかもってお母さんも心配してたんだよ。」
「そうなんだ。今日はちょっとやることがあったから朝ごはんの時間よりも少し早く出なくちゃいけなかったからね。」
「明日はいつも通り食べるってことでいいんだよね?」
「うん、迷惑じゃなかったらお願いします。」
「迷惑なんかじゃないよ。ってお母さんが作るんだけどね。でも、きっと、お母さんも迷惑なんかじゃないって言うと思うから大丈夫。」
星村さんは、そう言ってスマホを取りだし操作を始めた。恐らく星村さんのお母さんに今話したことを伝えているんだろう。
「宮村くんと星村さんは、すごい仲がいいのですね。」
西園寺さんが少し驚いたような口振りでそう言った。
「家が隣同士で結構仲良くしてもらってるんだ。正直、お世話になりっぱなしで悪いくらいだよ。」
「宮村くんは、気にしなくていいんだよ。私たちが宮村くんと一緒にいた方が楽しいって思ってるから誘うんだよ。」
「そう言って貰えるとすごい助かるよ。でも、貰ってばかりじゃさすがに悪いしいつかお返しをしなくちゃね。」
「あはは、宮村くんは、律儀だなぁ〜。」
「よく言われるよ。」
「でも、そういう人は素敵って思うよ。まぁ、融通が効かなすぎるのは困るけどね。」
星村さんは、自然に素敵とか言ってくるから俺だけ恥ずかしくなってきてしまった。
隣にいる2人は、何故か星村さんをライバル視するようなそんな目で見つめている。
と、その時だった。
俺のポケットにしまっておいたスマホが鳴り出した。
画面には『黒羽さん』と示されていた。
「ちょっとごめん。席外すね。」
俺は、そう言って席を立ち上がり店の中じゃ騒がしいので店の外に出てから電話に出た。
『待たせすぎ。』
最初の一言がキツすぎる。
まぁ、黒羽さんのことだからそこまで本気で言っているわけではないんだろう。
「ごめん、でも、助かったよ。」
『助かったって何が?』
「あ、いや、何でもないよ。」
俺は、ようやくあの場から離れることが出来てホッとしていたのかつい本音が出てしまった。
「それで何か用?」
『………まぁ、いいわ。』
黒羽さんは、少しの間の後、ため息を吐いて諦めた。
『そっちの様子が少し気になってのよ。ちゃんとやれてる?』
どうやら親睦会のことを気にして連絡してきてくれたらしい。
黒羽さんもこの親睦会を裏で計画してくれた1人なので気になるのだろう。
「うん、今のところ順調だよ。問題なく進んでる。」
『そう、それなら良かったわ。このままちゃんと気を抜かずに最後まで無事に終わらせるのよ。』
「ああ、分かってる。でも、何か問題が起こったら助けて貰ってもいいか?」
『………嫌よ。宮村くんでどうにかして。』
黒羽さんは、少し間を置いてそう言った。
でも、否定の言葉なのになぜか嬉しそうな声音だった。
『まぁ、でも、本当に1人じゃどうしようもない時は言いなさいね。』
「ああ、頼りにしてるよ。」
『ええ。それじゃ、そろそろ切るわね。明日、遅れるんじゃないわよ。』
「分かってるよ。バイト初日に遅れるなんて嫌だしな。」
『それじゃ、また明日。』
「うん、また明日。」
俺は、そこで通話を切った。
(さて、黒羽さんにも注意されたし、気合を入れて残りの時間も頑張るか。)
俺は、両手で少し強めに自分の頬を叩いた。
「ふぅ…………よし。」
俺は、気合いを入れ直し店内に戻るのだった。
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