第45話 不仲な2人

 時間が経つというのは案外早いもので親睦会が始まってから既に1時間が経過した。

 俺たちが考えた催し物もみんなの様子から見るに結構楽しんでもらえたみたいだった。

 ちなみに俺は、今回の催し物のペアで一緒になった西園寺さんと結構仲良くなることが出来た。

 催し物が終わって自由時間になった時でも一緒に話してもらえてる。

(うん、他にも最初の頃に見なかった組み合わせが話しているみたいだし親睦会の目的自信は結構達成出来てるかな。)



「………宮村くんってすごく鍛えてますね。」

「ん?まぁ、一応武道をやってたからある程度は鍛えてるよ。」

「細いのにがっしりしていてとても逞しいです。」

「そ、そう?」

「あ、あの、少し触ってもいいですか?」

「え?」

「ダメ……ですか?」



 西園寺さんは、上目遣いでそう尋ねてくる。

(うっ……俺、あんまり女性耐性ないんだよな。最近ようやく琴音以外の女子と話したりするようになったからな。)

 結論、断るのは無理。



「ま、まぁ、少しくらいなら……」

「あ、ありがとうございます。そ、それでは……」



 西園寺さんは、そーっと俺の胸を触る。



「……………前とは全然違います………」

「ん?前って?」

「あっ!い、いえ、なんでもありません。」



 西園寺さんは、取り乱してしまい俺の体を触るために少し前傾姿勢になっていたのが完璧に崩れてしまい俺の胸に倒れ込んでしまった。

 俺は、西園寺さんを受け止め無事かどうかを確認する。



「す、すみません!体勢が崩れてしまい……」

「俺の方は全然大丈夫だったよ。それよりも西園寺さんの方は?」

「わ、私は、宮村くんが支えてくださったのでだ、大丈夫です。」

「良かった。鍛えてた甲斐があったかな。」

「そ、そうですね………〜っ!」



 西園寺さんの顔は一瞬で真っ赤になりすぐに俺から距離をとった。



「す、すいません!私、少し席を外します!」



 西園寺さんは、そう言うと慌てて席を立ち上がりすぐにトイレの方に行った。

 その場に残された俺は先程西園寺さんが倒れてきた時の感触がまだ胸のところら辺に残っておりだんだん恥ずかしくなっていった。

 でも、そんな感情は後ろから聞こえた声であっという間に消え去った。



「ふふっ、けーちゃん。随分と嬉しそうですね。」

「っ!」



 じいちゃん以外だったら初めてかもしれない。ゾクッとさせられたのは。

 俺の事をけーちゃん呼びするのはただ1人。



「べ、別に嬉しそうにしてたつもりないんだけどな、ゆっちゃん……」



 俺は、そう言いながら振り返る。

 そこにいたのは思っていた通りの人だった。

 ゆっちゃんは、笑顔のまま俺を見つめていた。いや、目だけは少し怖い。



「けーちゃん、嘘をつく時の癖、治ってないね。」

「え!?く、癖!?」



(お、俺、そんなのあったのか!?)

 一応おじいちゃんが変な癖があるところ相手に次の行動がバレてしまう可能性があるかもしれないと言われていたので癖という癖は治したつもりなんだけど。



「ど、どんな癖?」

「………私にしか分からないことだよ。」

「教えてくれるつもりは……」

「………ふふっ」



(ないってことですか。)

 それよりもさっきからゆっちゃんの俺を見る目が全く変わってない。



「………ごめん。別に嘘をついたつもりは無いんだけど……きっとゆっちゃんがそう言うなら俺のどこかにそんな気持ちがあったってことなんだよな。だから、ごめんなさい。」

「……けーちゃんが人に好かれるのは仕方ないよ。でも……女の子とあんなにくっ付くのは嫌……」

「っ!………ご、ごめん。」



 これは反則だ。

 先程のあの怖い表情から一転して可愛らしくプクッと頬を膨らませて潤んだ瞳でこっちを見詰めてくる。



「そういうあなたもくっ付き過ぎてはありませんか?」

「っ!?」

「………」



 ゆっちゃんに意識していて視野が狭くなっていたらしくすぐ隣にいる西園寺さんに声を掛けられるまで気づかなかった。

 俺は、慌ててゆっちゃんとの距離をとる。

 ゆっちゃんもゆっくりと戻る。でも、ゆっちゃんには慌てた様子はない。



「お久しぶりですね、白神さん。」

「うん、そうだね。久しぶり、西園寺さん。」



(あれ?2人って仲良かったのかな?)

 と思って2人を見てみるとそういう訳ではなかった。

 ゆっちゃんは、先程俺にしていたあの怖い表情で西園寺さんを睨んでいる。

 西園寺さんも先程の穏やかな笑みではなくゆっちゃんのように目だけ笑っていない状態でゆっちゃんを睨んでいる。

 2人の視線はバチバチと火花を放っているようだ。



「……ふ、2人って知り合い?」



 俺は、まずは場の空気を変えようと思い恐る恐るそう聞いてみた。



「……昔にちょっと……ね。」

「ふふっ、懐かしいですね〜。」



(ああ、ダメだ。全く空気が変わる気がしない。)



「そ、そっか。それじゃ、俺は席を外……」

「ええ、そうですね。宮村くん、邪魔者が入ってきた事だし2人で違う所へ行きましょうか。」

「え?」

「何を勘違いしてるのかな?邪魔者はそっちだよね?」

「え!?」



 西園寺さんは、俺の左腕を自分の腕と絡める。

 ゆっちゃんは、俺の右腕を抱きしめてくる。

 これがまさに両手に花なんだろう。こんな状況でなければ。

(…………どうるんだ、この状況………)

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