第44話 楽しませるなら

 俺は、篠崎くんを連れて一つのグループが出来ているところに声をかけた。



「ねぇ、ちょっと混ぜてもらってもいいかな?」

「ん?ああ、宮村か。もちろん構わないぜ。」



 俺のお願いに快く応えてくれたのはいつも明るく友達の多い東堂大志とうどうだいじという男子生徒だ。俺にも何度か声を掛けてくれたことがある。なので俺もあまり緊張することなく話しかけられた。



「ありがとう。それと篠崎くんもいるからな。」

「ん?篠崎?」



 俺は、俺の背後にいる篠崎くんを前に出すように押す。



「よ、よ、よよよよよよろしくお願いします!」

「お、おう。」



 篠崎くんは、緊張のせいで噛み噛みだった。だが、東堂くんは少し驚いたもののすぐに笑顔で迎え入れてくれた。

 5分程会話に入り、そのグループに少し馴染む。



「っと、次やることあるしそろそろ出るね。篠崎くん、みんなと仲良くなれるように頑張れ!」

「え!?も、もう行っちゃうの!?」

「まぁ、次にやる事の準備をしなくちゃいけないからね。大丈夫、もうだいぶこの場に馴染んできたから。それじゃ、頑張ってね。」



 少し心配だが、俺にもやらないといけないことがあるのだからずっと篠崎くんのそばについていることは出来ない。

 俺は、すぐに切りかえ隅に置いてある道具を漁る。

 すると、後ろからトントンと誰かが俺の肩を叩いてきた。

 後ろを見て誰か確認するとそこには不満そうな表情で頬をプクッと膨らませたゆっちゃんがいた。



「準備するなら私にも声をかけて欲しいな〜。」

「あ〜、いや、準備くらいなら俺一人でも問題ないと思ってね。」

「問題あるよ!私は、けーちゃんと一緒に色々出来るのすごい嬉しいんだから!」

「そ、そっか。それは悪かったな。それじゃ、一緒にやろうぜ。」

「うん!」



 ゆっちゃんは、嬉しそうに頷いたあと、俺の隣に来て一緒に最初の催し物に必要なものを取り出す。



「ゆっちゃん、この番号が書いてある紙をみんなに配ってくれる?」

「うん、任せて。適当に配っていいんだよね?」

「ああ、一人一つの番号の紙があればいいからね。」



 ゆっちゃんは、「分かった。」と言ったあと、みんなに番号の紙を配って行った。

 その間、俺は、高さ50センチ程ある箱にくじ引きのように手を通せる箇所があるのでそこに手を入れて1枚の紙を取り出す。



「うん、問題なく取れるな。ちゃんと番号も掠れてない。」



 俺は、特に支障がないことを確認するとみんなから離れてあるテーブルの上に置く。

 すると、すぐにゆっちゃんから声をかけられた。



「けーちゃん、紙、みんなに配り終わったけど2枚残ったよ?」

「ああ、それは俺とゆっちゃんの分。せっかくだから主催者の俺たちも楽しめた方がいいかなって思って追加したんだけど。」

「え!?そ、そうなの!?」

「まぁ、でも、俺は説明とかしなくちゃいけないし参加出来ないかな。ゆっちゃんは、不知火さんたちと楽しんで。」

「………私がそんなこと聞いてうん、わかった、って言うと思う?私も手伝うからけーちゃんも一緒にしよ!」

「う〜ん……まぁ、じいちゃんもよく人を楽しませるならまずは自分からって言ってたし……よし、それじゃ、やりますか。」



 俺は、ゆっちゃんから1枚の紙を受け取るとマイクのスイッチを入れる。



「あーあー、うん、ちゃんと聞こえるな。みんな、ちょっといいか?」



 俺がそう言うとみんな食事や話をやめてこちらを向いてくれた。



「え〜、今日は親睦会ということもあって、ただ食事をするだけじゃ発展が無いかもしれないと思ったので俺たちが催し物を考えました。いくつか用意してあるので楽しんで貰えたら嬉しいです。それでは1つ目に入ります。」



 俺は、そう言って1つ目の催し物について説明をする。

 まず最初にするのは俺とゆっちゃんが箱の中にある番号が書かれた紙を取りそれを読み上げペアを作る、というとても簡単なこと。

 ちなみに俺は、まだあまり話したことの無い女子とペアになり、ゆっちゃんは星村さんとペアになった。

 ペアを作ったあとは自己紹介から入る。



「もう何度か自己紹介したけど再度するね。学級委員長をやってる宮村賢治、よろしくね。」

「よ、よろしく……お願い致します……わ、私は、西園寺春野さいおんじはるのと申します。」



 俺とペアになった西園寺さんは、目をグルグルとさせて恥ずかしそうに自己紹介をしてくれた。



「べ、別にそんなに緊張しなくていいからね。あ、でも、俺とペアだからこれからする催し物に参考例が欲しい時は一緒にして貰いたいと思ってるけど……大丈夫?」

「は、はい!大丈夫です!」

「ありがとう、西園寺さん……っ」



 俺が西園寺さんの名前を言った直後、鋭い痛みが一瞬だけ感じた。



「あ、あの、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、ごめん。大丈夫だよ。………それじゃ、早速で悪いけどみんなに参考例として見てもらいたいからちょっと前に行くよ。」

「は、はいっ!」



 俺は、西園寺さんと一緒にみんなの前に出る。

(みんな、楽しんでくれるといいな。)

 そんなことを思いながら催し物の内容について説明を開始するのだった。

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