第40話 戻りたい
「ただいま、ゆっちゃん。」
俺がそう言うと白神さん……ゆっちゃんがギュッと俺の胸に飛び付いてきた。
「おかえり!けーちゃん!」
「っ!」
飛び付いてきたゆっちゃんをしっかりと受け止めるもののその後どうすればいいのか分からない。
どうすればいいのか考えて、最後に思いついたのがこれだった。
両手をそっとゆっちゃんの背中にまわし抱きつくような体制をとる。
(え、えっと……これから………どうするんだ………)
俺は、俺の腕の中にゆっちゃんがいることで頭が回らなくなりもう何も考えられなくなった。
すると、ゆっちゃんが俺の方に顔を向ける。うるうるとした瞳がゆっくりと閉じられ唇を突き出すような動作をした。
(え!?こ、これって……キス!?え?え!?)
俺は、本当に頭が働かなくなりもうこのままキスしてしまおうかと思った。
だが、その瞬間だった。
俺のポケットに入れていたスマホが鳴り出した。
「ご、ごめんっ!」
俺は、そのおかげで正気に戻りゆっちゃんから距離を取り、通話ボタンを押す。
「………あと少しだったのに………」
ゆっちゃんのその言葉に俺は通話中だったから全く気づかなかった。
通話を終え俺は、ゆっちゃんの方に向き直る。
ちなみに今の通話の相手は東條さんで人数の最終確認をしていなかったからそれをするためだった。特に今日行けなくなったなどという連絡は受けてないのでそのままだと伝えてすぐに通話を終えた。
今さっきのことをがあったからかゆっちゃんを上手く見れないが俺は、何とか言葉を発しようとして口を開いた。
「………し、白神さ………」
「何?けーちゃん?」
俺が白神さんで名前を呼ぼうとするとゆっちゃんは、俺の言葉を遮るようにしてきた。
それにゆっちゃんから妙に威圧を感じてしまう。
「………ゆっちゃん……」
「うん、何?」
俺が前の呼び方をすると嬉しそうにえへへと笑った。
「それじゃ、改めて確認するけどゆっちゃんは、俺の事を覚えてるってことでいいのか?」
俺は、気を取り直しまず確認したかったことを聞いた。
すると、ゆっちゃんは、申し訳なさそうな表情になり頷いた。
「うん、ごめんね。ずっと隠してて。ううん、騙して。」
「いや、別に騙されたなんて思ってないから。ただ、なんで黙っていたのかなって思ってね。」
「……から……」
「え?」
ゆっちゃんの声が小さすぎてよく聞こえなかった。
「……怖かったから……」
「怖かった?」
今のもだいぶ小さな声だったがすぐそばにいたから何とか聞き取ることが出来た。
「……うん……」
「俺と話すのが?」
「えっと……なんて言うかけーちゃんと会えてものすごく嬉しくなってきて思わず今さっきみたいに抱きつきそうになったんだけどもし、私のことを忘れていたらって思ったら怖かったの。」
「………」
「でも、お母さんにけーちゃんが私のことを覚えているか聞いてくれたから……」
(確かに入学式の日に愛菜さんと色々話したな。)
「私のことを覚えてくれているって知った時はすごい嬉しかったよ。だから、すぐに会って話そうと思ったけど………1度逃げちゃったからね。すぐには踏ん切りが付かなかったの。そのせいでこんなに時間が掛かっちゃった。」
「………それは俺もだな。」
「え?」
「俺だってずっとゆっちゃんと話すことを……昔のことをゆっちゃんに伝えることから逃げていた。と言うよりも諦めていたな。だから、ゆっちゃんがこうやって昔のことを話してくれたのは本当に嬉しい……けど、申し訳ないって気持ちもあるよ。」
そこまで言うとゆっちゃんがひとつ頷いて笑顔でこう言った。
「………じゃあ、どっちもどっちってことだね!」
「………ああ、そうだな。」
ゆっちゃんがこんなことを言うのは今では珍しいが昔はよくある事だった。
今のゆっちゃんの姿に昔を重ねることが出来て思わずうるっときてしまった。
でも、こんなところで泣いてしまったら格好がつかないのでぐっと我慢した。
「……だからね、けーちゃん。もう1回、やり直せないかな?昔みたいに……」
「戻っても……いいんだよな?」
「うん、戻りたい。」
俺の問いにゆっちゃんは、即答する。
なら、俺が言える答えはこれだけだ。
「これから改めてよろしくね、ゆっちゃん。」
「うんっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます