第39話 この街に来た理由
クラスの親睦会の確認を終えた後、俺と白神さんは、一緒に蕎麦屋で昼食を取り終えた。
今からは白神さんがこの街を案内してくれると言うのでまず白神さんのお気に入りの場所に向かっている。
「白神さんのお気に入りの場所ってとこなんだ?」
「えっと………内緒だよ。」
白神さんは、人差し指を口元に寄せてそう言った。
「っ…………」
俺は、白神さんのそういうところを見た事がないからドキッとさせられてしまった。
俺がずっと無言でいると白神さんがプルプルと震え出した。
「………え、えっと……そ、その……ごめんなさいぃ〜!!」
白神さんは、恥ずかしさのあまり真っ赤な顔を隠すように両手で顔を覆った。
「い、いやっ!べ、別に謝らなくていいから!えっと……その………可愛かったよ……」
「〜っ!もっ!もうっ!」
白神さんは、さらに恥ずかしくなったのか俺に背を向けてしまった。
俺は、そんな白神さんをなだめつつ目的の場所まで向かっているところだ。
(白神さんのお気に入りの場所ってどこだろう?俺の知らないところかな?)
もう既に俺の知っている道では無いのでここら辺の記憶は本当にあやふやだ。
と言うよりも街道を外れて少し山道になってきた。
「そろそろ着くよ。」
白神さんは、笑顔で教えてくれる。
どうやらだいぶ落ち着いたらしい。
俺は、内心ホッとしつつここはどこなんだろうと周りを見渡す。
すると少し先に開けた場所が見えてきた。
「ここだよ。」
「っ!………」
今まで来た道は、正直に言って全く身に覚えのない道だった。
でも、ここは………この景色は知っている。
多少俺の知っているものとは違いがあるがそれでもここから見る街の風景、風に吹かれる感じ、それを俺は覚えている。
「ふふっ、素敵な場所でしょ?」
「あ、ああ、そうだね。」
「………ここね、茜ちゃんも知らないんだよ。」
「えっ!?そうなの!?」
「………知ってるのは私……あともう1人いるの。」
「っ!へ、へぇ、そうなんだ。」
「………」
俺は、白神さんの言葉がすごい頭に残りチラッと白神さんの方を確認する。
すると、白神さんもちょうどこっちを見た。俺は、咄嗟に顔を逸らすが白神さんはずっと俺を見続けたまま。
(な、なんでそんなに見詰めるんだ?今の俺は、白神さんにとって一緒のクラスメイトで一緒の学級委員長ってだけだろ?なんでそんなに意味ありげな目で見詰めてくるんだよ。…………もしかして)
俺は、淡い期待を抱く。俺のことを思い出してくれたんじゃないのかって。
でも、それを確かめるための言葉が出ない。
期待と同時に俺は、恐怖の感情も抱いている。
もし、それを聞いて忘れられていたら………俺はきっともう立ち上がれない。昔の俺に戻ってしまう
「………」
「………」
俺は、白神さんから目を逸らしそして、白神さんは、俺をずっと見続ける。
でも、お互い何も喋ろうとはしない。
「……………私ね」
その沈黙を破ったのは白神さんだった。
「……ずっと………ずっと……好きな人がいるの。」
「っ!」
「………昔、よくその人と一緒にここに来てたんだ。」
心臓を打つ音がどんどん早くなっている。
白神さんの言葉一つ一つに反応するように大きくそして早く心臓が打たれる。
「…………ごめんね、宮村くん。急にこんな話をしちゃって。」
「………え?あ、いや……」
何となく、何となくだがここで白神さんに過去の俺のことを覚えているか聞いたら「はい」と答えてくれるような気がした。
だから、聞こう。そうだ、聞こう。
「………白神さ………」
「けーちゃん」
「っ!?」
俺が勇気を振り絞って言葉を出そうとした瞬間、白神さんはいつもと変わらぬ笑顔で俺の知りたかった答えを告げた。
「……なん………で………」
俺は、いつ思い出してくれたのか聞こうとしたが言葉が出ない。驚きすぎて口しか動いていない。
「………ちゃんと覚えてるよ。けーちゃんのこと。けーちゃんと久しぶりに会ったのは入学式の前の街中だったよね?」
「っ!……お、おぼえ………なん……」
「………大好きな人だもん。忘れるわけがないよ。」
白神さんは、一つ、また一つこちらへ歩み寄ってくる。
そして、今は白神さんの頭が俺の胸に触れそうなくらいの距離だ。白神さんは、上目遣いで俺を見上げている。
白神さんの瞳は堂々としていてなにか決意を固めているようだ。
その瞳を見ていると俺の決意もどんどん固まっていく。
(そうだ、ちゃんと伝えよう。)
何を悩んでいたんだろうか。俺がこの街に戻ってきた理由は白神さんがいるからだ。白神さんに会いたかったから。いや、違うな。ゆっちゃんがいたからだ。なら、答えは簡単だ。
「………ただいま、ゆっちゃん。」
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