第37話 バイト面接
みんなと催し物の景品の買い物を終えた後、俺は少し急ぎめに『喫茶ブラン』に向かっていた。
普通に歩いても間に合うことは間に合うのだが、やっぱりこういう時は早い方がいいからな。
(おっ、見えてきた……ん?あれって?)
俺は、見覚えのある姿を発見するとちょっとスピードを上げる。
「ご、ごめん!待たせた!?」
もう既に喫茶店の前に立っていた黒羽さんにそう尋ねる。
「別にそこまで待ってないわよ。まだ10分も余裕あるでしょ?」
黒羽さんにそう言われて俺はスマホで時間を確認する。
確かに約束の4時にはまだ10分程余裕がある。
(黒羽さんは、約束の時間よりも結構早めに来るのか。覚えておこう。)
「それじゃ、もう入ろっか。」
「ええ、そうね。あっ、ところで何か必要な書類とかあるのかしら?」
「ん?あ〜、いや……佐藤先輩には何も言われなかったんだけど………」
(あれ?本当に何もいらなかったのかな?いや、確かに何も持っていて欲しいものとか聞いてないし……いや、でももしかしたら持ってくるのが常識なんじゃ?)
俺が色々と考えてしまい、オロオロしていると黒羽さんが一つため息を吐いた。
「まぁ、必要ならまた今度持ってきましょ。今はお店側に面接させてもらうことが必要よ。忙しいのにわざわざ私たちのために時間を作ってくれるんだから。」
「あ、う、うん、そうだね。ごめん、なんかオロオロしちゃって。」
「別に気にしてないわ。………慣れてるし。」
黒羽さんは、最後の方だけ小さな声で何か言っていたが周りの雑音などに紛れてよく聞こえなかった。
なんて言ったか聞こうと思ったが黒羽さんは、「待たせたら悪い」と言って喫茶店に入っていった。
(な、なんか、男の俺なんかより頼りになるな。)
俺も黒羽さんに続いて喫茶店に入る。
「いらっしゃ……あっ、宮村くんか。」
俺たちを出迎えてくれたのは俺をバイトに誘ってくれた佐藤先輩だった。
「ちょっと待っててね。今から店長を呼んでくるから。」
「はい、ありがとうございます。」
佐藤先輩は、トコトコと店の奥の方に行った。
俺たちはお店側の邪魔にならないように店内の隅っこに寄って待つ。
すると、1分も経たずに佐藤先輩と隣に綺麗な女性がやって来た。
「宮村くん……と、あともう一人の子だよね?」
「黒羽結衣と申します。」
「黒羽さんね。私は佐藤綺音、よろしくね。そしてこっちが……」
「私は、この『喫茶ブラン』で店長をしている
「「よろしくお願いします。」」
この喫茶店の店長と名乗った東條さんは、スーツをピシッと着ていてすらっとした体をさらに綺麗に見せている。
佐藤先輩をおっとり系の美少女と例えると東條さんは、しっかり者の美女だ。
「それじゃ、早速面接を始めたいと思うけどいい?」
「あっ、その前に俺……私たち、書類みたいなものを全く持ってきてないんですが大丈夫ですか?」
「あ〜、学生証は持ってる?」
「あっ、はい、それなら持ってます。黒羽さんは?」
「私も学生証ならいつも財布に入れているので持ってきてます。」
「それなら良かったわ。それじゃ、それを預からせてもらってもいいかしら?」
東條さんにそう言われ、俺たちは学生証を東條さんに渡した。
「それじゃ………あの席で面接を始めるけどいいかしら?」
東條さんは、店内の空いているテーブルを見つけるとそこを指さしてそう言った。
「はい、大丈夫です。」
「私も大丈夫です。」
「それじゃ、あそこで。佐藤さん、水を持ってきてもらえる?」
「はい、分かりました。」
佐藤先輩は、東條さんに指示され厨房の方に入っていった。
そして、俺たちは先程の席へ向かって東條さんと向かい合いになるように座る。
すると、すぐに佐藤先輩が水を3人分持ってきて俺たちの前に置き、仕事に戻る。
「それじゃ、面接……なんだけど別にそんな固く考えなくていいから。」
「は、はい、分かりました。」
東條さんは、微笑むように笑って俺たちの緊張をほぐそうとする。
でも、やはり少し緊張はする。
(まぁ、でも緊張感は持っていた方がいいよな。じいちゃんにも何事にも緊張感を持って挑めって言われたからな。)
「それじゃ、改めて自己紹介をしてもらおうかしら。まずは宮村くんの方からお願い。」
「はい、私の名前は宮村賢治です。城ヶ崎高校1年です。」
「ありがとう、それじゃ、黒羽さん、お願い。」
「はい、黒羽結衣と申します。学校は宮村くんと同じで城ヶ崎高校1年です。」
「ありがとう。それじゃ、次はバイト経験って……さすがにまだないわよね?」
「はい、今回が初めてです。」
「私も初めてです。」
「それじゃどこがやりたいとかもまだ分からないかな?」
(どこがやりたいとは、恐らく厨房をやるか、佐藤先輩みたいにウェイターとして働くかということだろうか。)
「う〜ん………2人とも、料理の経験は?」
「簡単なものなら色々作ったことがあります。」
「私も少しは料理はできます。」
「それじゃ、厨房はいけそうね。………私が勝手に決めてもいいかしら?」
「え、えっと、それって……」
「ん?ああ、2人ともちゃんと雇うわよ。そもそも人数が足りないんだから雇わないって選択肢ないんだから。」
「っ!あ、ありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
(やった!これで収入源は確保出来た。)
俺は、東條さんに見えないようにテーブルの下でギュッと拳を握った。
「それで勝手に決めてもいいかしら?」
「は、はい、私は大丈夫です。」
「私も大丈夫です。」
「それじゃ、宮村くんが厨房、黒羽さんがウェイターね。あっ、でも、時々厨房の人もウェイターをやってもらったりすることがあるから。いいかしら?」
「は、はい。」
東條さんは、今の一瞬で決めたのだろうか。ものすごい判断力だ。
「それじゃ、これを渡しておくわね。」
東條さんは、そう言うと紙を取り出して俺と黒羽さんの前に置いた。
「ウェイターと厨房としての基礎がそこに書いてあるから。それで分からないことがあったら誰でもいいから聞いてね。」
「はい、分かりました。」
「いつから入ればいいんですか?」
黒羽さんは、東條さんにそう尋ねる。
「う〜ん、そうね……明日は宮村くんたちの予約が入ってるから……明後日の2時くらいからお願いできる?宮村くんも。」
「「はい、分かりました。」」
俺たちは、揃って了承した。
「あとこの紙に次来た時に持ってきて欲しいものとかが書いてあるから。それとお店の制服は明後日渡すわね。」
東條さんは、俺たちの前にもう1枚の紙を差し出してそう言った。
「それじゃ、面接はここで終わりね。ちょっと早いけど家でご飯食べていく?」
「あ、え、えっと……」
東條さんが尋ねると黒羽さんは、少しオドオドしていた。
「ん?黒羽さん、どうかした?」
「す、すいません、私あまりお金を持ってきてなくて。」
「いいわよ、ここは私が奢るわよ。」
「「え!?」」
東條さんの言葉に俺たちは、驚きの声を上げる。
「で、でも………」
「新しく来たバイトなんだからちょっとしたお祝いよ。別に気にしなくていいから。と言うよりもこういう時は大人しく奢られてなさい。」
東條さんは、そう言って俺たちに有無を言わせず立ち上がった。
「美味しいもの作ってあげるから待ってなさい。」
そう言って厨房の方に入っていった。
(え?ま、まさか、東條さんが作るの?いや、まさか。)
そう思ってから15分後。
スーツの上からエプロンを付けた東條さんがとても美味しそうに盛り付けされたパスタを運んできた。
「はい、遠慮しないでね。」
作ってきてもらったら食べない方が申し訳ない。
俺たちは、そう思って目の前に置かれたパスタをフォークとスプーンを使って食べた。
「どうかしら?」
「お、美味しい、美味しいです。」
「とても美味しいです。」
俺たちが味の感想を言うと「良かった。」とニコッと笑って東條さんは奥の方に引っ込んで行った。
「なんか見た目的にキツそうな人かと思ったけど優しい人だったね。」
「そうね、まぁ、人は見かけによらないって言うからね。それにしても本当にこのパスタ、美味しいわね。」
黒羽さんは、美味しそうにパスタを食べ進め俺たちは20分程でそれを全て平らげた。
そして、帰り際に再び東條さんが来た。
「それじゃ、明後日からよろしくね。」
「はい、分かりました。」
俺たちは、最後にお礼を言って帰ろうとした瞬間、私服姿の佐藤先輩に声をかけられた。
「ちょっと待って、2人とも。」
「どうかしたんですか?」
「せっかくだしラインの交換しない?」
佐藤先輩は、そう言ってスマホを出してきた。
別に断る理由などないから俺たちは、快くラインの交換をしていく。
「ありがとう、2人とも。それじゃ、私もバイト終わったし3人で帰ろ。」
ということで俺たちは、その後3人で楽しく帰った。
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