第33話 記憶と想い

 白神由美は、子どものころ、いや、今でもずっと好きな男の子がいる。

 その男の子とは昔、よく遊んでいた。

 私の両親とその男の子の両親もとても仲が良かったので何回も一緒にお泊まりだってしたことがある。

 その男の子と一緒にいた時はいつも楽しかった。

 それでも臆病で弱虫だった私は、よく一人で泣いていたことがあった。

 そんな時も助けてくれたのは男の子だった。



「もし、自分がダメだって思った時があったら俺に言って。何度でも励ましたり助けたりするから。」



 そんな言葉を何度となく掛けてもらった。

 それを聞くと心の底から暖かい何かが込み上げてきて安心するのだ。

 今だってそうだ。

 体や声がだいぶ変わっていたとしてもその声をかけて貰えるだけで本当に安心する。

 だから、感謝の言葉を言おう。そして、そのまま昔のことを話して伝えよう。



 私があなたの事を………好きだってことを……



「………宮村く………」

「お〜いっ!2人とも〜!お待たせぇー!」

「っ!」


 私が思いっきって声を掛けようとした瞬間、茜ちゃんが大きな声を出して私たちに近づいてきた。



「2人で楽しそうに話してたね〜。なんの話ししてたの……って、由美、どうしたの?」

「あっ、いや、その………うぅ……」



 さすがに茜ちゃんの目の前で今さっき言おうとしていたことなど言えるはずもなく私は押黙るしかなかった。



「あ〜……よく分かんないけど……ごめん?」

「だ、大丈夫だよ………」



 言えなかったことに関しては確かに悔しいけど……でも、ちゃんと言うって決めたから。



「…………だから、待っててねけーちゃん。」



 私は、ものすごく小さい声でそう言った。周りの人も十分多いので私の声が2人に届くことは無かった。

 その後、待ち合わせの10分前に星村さんも来て私たちは目的の場所、ショッピングモールへと向かった。

 その道中、なんだか宮村くんの様子が少しおかしかったような気がしなくもなかった。



 宮村side



 ショッピングモールに着くまで白神さんのことをすごい意識してしまったものの、着いたからにはちゃんとみんなに喜んで貰えるものを選ばないといけない。



「さて、早速選ぼうと思ってるんだけどどこから見る?」



 俺は、みんなにどこから見て回るのがいいか尋ねてみる。



「宮村くん、その景品って各催しごとに選ぶの?それともまとめて選んでみんなに好きなものを選んでもらうの?」



 不知火さんは、景品を渡す形式について聞いてきた。



「俺は、みんなに好きなものを選んでもらった方がいいんじゃないかなって思ってるけどみんなはどう思う?」

「私はそれでいいと思うわよ。」



 不知火さんに続いて白神さんと星村さんも賛成してくれる。



「それで何を選ぶか、なんだけど……男女それぞれ喜びそうなものがいいのか、それとも男女で喜びそうなものがいいのか。」

「う〜ん、まぁ、とりあえず男女で喜びそうなものがあったらそれが一番かな。もし、なかったら男女それぞれのものを買えばいいと思うけど、どう?」

「そうだね。それじゃ、まずは……どういうところに行けばいいんだろう?」



 俺は、何を買うべきなのかが分からず、みんなに意見を貰う。



「とりあえずは、雑貨屋なんかがいいんじゃない?」

「……俺、店選びとか苦手だから任せたいんだけど……いいかな?」



 ということで俺たちは、不知火さんを先頭にショッピングモールの中を歩いていった。

(もし、これ俺一人で来てたら大変だったかもな。)

 そして、雑貨屋に入って約30分ほどが過ぎた。

 女子目線は3人に任せて男子目線でどんなものがいいものか選んでいる最中だ。

 それで男子でも女子でも喜びそうなものを見つけれたらそれを買う。あんまり見つかりそうにないと思ったらとりあえず気になったものを買う。

 今、買おうとしているものは文房具セットやペンケースといった当たり障りのないものばかりだ。



「……今どきの高校生ってこれで喜ぶのかな?」



 俺が貰ったら普通に嬉しいけど、みんなどう思うのかは分からない。



「う〜ん、どうだろうね。私なら何貰っても嬉しいけど……」



 白神さんも俺とほぼ一緒の考えでみんなが喜ぶかどうかは不安らしい。



「まぁ、不安もあるでしょうけど別に買っても構わないでしょ。数が多い方がいいんだし。それに2人も貰ったら嬉しいって思ったんならその考えがクラスにもう1人くらい居てもおかしくないでしょ。」



 不知火さんは、不安げな俺たちにそう言ってくれた。

 それで俺たちも切り替えて次の景品選びをする。

 っと、そこで1つ目に入り気になったものがあった。



「………これって……」



 俺が手に取ったのは猫のぬいぐるみだ。

 サイズは手のひらに収まるほどで可愛らしくふわふわとしていて触り心地がすごくいいのだ。

 俺は、このぬいぐるみを知っている。

 これは昔、まだ俺がこの街に居た時、白神さんの家にあったものだ。

 俺と白神さんは遊ぶ時、よくこのぬいぐるみを外に持っていったりしていた。

 それが悪かったのだろう。

 俺が引越しをする1週間ほど前に無くしてしまったのだ。

(あの日は一日中探したんだよなぁ。)

 俺は、そんな過去を思い出しながらそのぬいぐるみをレジに持って行った。

 ちょうどその時、白神さんたちはレジとは反対側の方で景品を探していたので男の俺がこんな可愛らしいぬいぐるみを買う姿を見られずに済んだ。

 俺は、買ったぬいぐるみをバックの中に入れてまた景品探しを再開した。

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