第32話 待ち合わせ場所にて
クラスの親睦会の前日、土曜日の朝。
今日は白神さんたちと一緒にショッピングモールに買い物へ行き、夕方から黒羽さんとバイトの面接だ。
「そういえばこうやって休日に遊びに行くのなんて何年ぶりになるんだろ。」
前の街ではじいちゃんと武道の稽古で遊ぶ時間なんてなかった。
昔、白神さん……ゆっちゃんと遊んだ以来かも。
そんなことを考えているとみんなと待ちあわせる1時間前になったので外行き用の服を着て荷物を持って出掛けた。
星村さんと一緒に行こうかとも思ったが女の子は色々と時間が掛かると思ったので俺一人で待ち合わせ場所の駅前に向かった。
駅前に着くと見覚えのある姿が目に入る。
「白神さん、こんにちは。」
白神さんの服装は白色のシャツワンピースである。清楚な白神さんにとてもハマっており、駅前を歩く人は必ず1度白神さんの方をちらっと見ている。
白神さんは、そんな周りの目を気にせず今来た俺の方に視線を向けた。
「あっ、み、宮村くん、こんにちは。宮村くん1人?」
「うん、そうだよ。」
「てっきり星村さんと一緒に来るのかなって思ってた。」
「最初はそうしようかと思ったんだけど女の子ってこういうの外出の時、時間掛かるでしょ?だから、先に行ってようかなって。」
「そうなんだ、優しいね。」
「白神さんも1人なんだね。」
「うん、こうやって遊ぶ時は待ち合わせ場所でちゃんと会おうって決めてるの。そっちの方が遊んでるって感じがするからって、茜ちゃんが言ってたんだ。」
「確かに不知火さんならそう言いそうだね。」
「あっ、そういえば宮村くん、今日バイトの面接なんだよね?」
「うん、そうだよ。この買い出しが終わった後に行くつもり。」
「頑張ってね。」
「うんっ!採用して貰えるように頑張るよ!」
「ふふっ、宮村くんなら心配なさそうだけどね。」
「いやいや、俺、結構緊張してるからね。」
「へぇ、そうなんだ。宮村くん、入学式初日からあんなふうに挨拶出来るから緊張しないタイプなのかなって思ってた。」
「あの時もすごい緊張したよ。でも、あそこでうじうじしてたらみんなイライラするかもって思ってやったんだよ。」
「すごいね、宮村くん。私があの場所に立ってたらきっとずっと慌ててたと思うよ。」
白神さんは、少し顔を伏せてそう言った。
「きっとそうだろうね。」
俺は、その光景が容易に想像出来て少し笑いながら頷いた。
「でも、別に落ち込む必要は無いと思うよ。」
「え?」
俺の言葉が想像していたものとは違ったのか白神さんが首を傾げてキョトンとする。
「白神さんの性格ならきっとそうなるだろうって親しい友人なら絶対に分かるよ。」
「や、やっぱり、そうだよね。」
「言っただろ?落ち込む必要は無いって。白神さんの個性って言えば分かるのかな?白神さんっていう人間を作っているのは白神さん自信。白神さんはそういう状況で何も言えないっていうのは短所なんだろうね。まぁ、俺もそこは短所だなって思う。」
「あぅ……」
「でも、短所だって自分自身を作る重要なもの。短所がない人間が完璧かどうかなんて言われても俺には分からない。と言うよりもそんな短所がない人間なんて見たことがない。もう一度言うよ。白神さん、自分に短所があるからって落ち込む必要は無いよ。」
俺、きっとめちゃくちゃ恥ずかしいことを言ってるんだろうなって思う。
でも、目の前で落ち込んでいる人がいるなら手を差し伸べてあげたい。それが大切に思う人ならなおさらに。
「白神さん、もし、自分がダメだって思った時があったら俺に言って。何度でも励ましたり助けたりするから。」
「っ!」
そこで俺は熱くなった頭が少し冷えて自分の言っていた言葉を思い出し少し恥ずかしくなり距離を置くために1歩、白神さんから離れる。
だが、白神さんはその1歩をすぐに埋めてきた。そして、少し赤くなった顔でこちらを見つめてきた。
「ありがとう、宮村くん。すごく嬉しい。」
「う、うん、どういたしまして。」
俺は、恥ずかしさのあまり白神さんから視線を逸らして返事をする。
でも、白神さんはそんなことなど気にせず言葉を続ける。
「宮村くんの言ってくれた言葉、すごい嬉しかった。その言葉、昔、ううん、今でも好きな人に言われたことのある言葉なの。」
「っ!」
俺は、白神さんの方を恐る恐る見てみると白神さんの瞳が俺の顔をずっと捉えていた。
そして、白神さんは何かを決心したのか1歩、さらに俺に近づいてきた。
「………宮村く………」
「お〜いっ!2人とも〜!お待たせぇー!」
「っ!」
少し遠くの方から不知火さんの声が聞こえた瞬間、白神さんはすぐに俺から距離をとった。
その後、待ち合わせの10分前に星村さんも来て目的のショッピングモールへと向かった。
(…………な、なんだったんだろ。も、もし、不知火さんが来てなかったら……白神さん、あの後なんて言ってたんだろ。)
俺は、ショッピングモールに着くまでずっとそのことから頭が離せなかった。
そして、ほんの少しだけ時間を遡って
白神side
「白神さん、もし、自分がダメだって思った時があったら俺に言って。何度でも励ましたり助けたりするから。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
私の目の前に昔の記憶が映ったのは。
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