第29話 みんなで昼食

 結局あの量が朝の残りの時間で終わるはずもなく昼休みに突入することになった。

 残りの量は元々あった分の半分くらいだ。

 今は、黒羽さんにその状況を教えて今日は昼食を一緒に出来ないと伝えていた。



「……ってことだから悪いけど今日は昼食、一緒に出来ないんだ。」

「………どうして?」



 黒羽さんはキョトンとした顔で俺にそう言ってきた。



「え?い、いや、どうしてって……」

「別に残りの作業が残ってるからって昼食を一緒に食べれない理由にならないでしょ?」

「え?そ、そうなの?」



 俺は、黒羽さんの言っていることが理解出来ず首を傾げてしまう。



「そうよ。ほら、早くその教室に行きましょ。」

「あ、う、うん?」



 俺は、結局理解出来ないまま朝、作業をしていた203の教室へと向かった。

 教室に入るとその中には白神さんと不知火さんがいた。

 不知火さんは、恐らく白神さんといつも一緒に昼食を食べているから来ているのだろう。



「あ、宮村くん………と、黒羽さん?」



 白神さんと不知火さんは、俺の横にいる黒羽さんを見て少し驚いた表情をした。



「ごめんね、白神さん。待たせた?」

「う、ううん、全然大丈夫だよ。それよりも………なんで黒羽さんが?」

「えっと………なんでだっけ?」



 俺も正直、なぜ黒羽さんがここに来たのかはまだ理解してないのだ。



「はぁ……いつも一緒に昼食を食べてるんだから別にいいでしょ。それに私だって前に同じことをしてたんだから少しは作業ペースが上がると思ったからよ。」

「もしかして、手伝いに来てくれたの?」

「そういうこと。それにあなたには聞きたいことがあったし。」

「聞きたいこと?」

「ええ。まぁ、それは昼食をとりながらね。」



 俺たちは、とりあず4人座れるように机をくっ付けて椅子に座る。

 まずは資料に手を出さず各自昼食を用意した。



「はい、宮村くん。今日の分。」

「「っ!?」」

「ありがとう。毎日、悪いね。」

「別にいいわよ、もう慣れたし。」



 俺が黒羽さんから弁当を受け取るとそれをまたも驚いた表情で見てくる白神さんと不知火さん。



「………もしかして、黒羽さんがいつも宮村くんの弁当を作ってきてるの?」



 先に平常心に戻った不知火さんが黒羽さんに尋ねる。



「ええ、そうね。まぁ、ちゃんとその分のお金は貰ってるわよ。別にいらないんだけど。」

「ちょ、ちょっと待って。黒羽さんって……宮村くんと付き合ってるの?」

「………はぁ」



 黒羽さんは、不知火さんの反応に少し呆れたようにため息を吐く。



「別に付き合ってるとかじゃないから。宮村くんが毎回売店で売ってる菓子パンとかしか食べないって言うから作ってきてあげてるの。それか何?彼女じゃないと弁当一つ作っちゃダメなの?」



 黒羽さんの口調から少しずつ苛立ちを感じる。

(これ以上酷くなる前に止めておこう。)



「まぁまぁ、そこら辺で。早く食べないと作業する時間がなくなっちゃうし。」

「………そうね。早く食べちゃいましょう。」



 その後、少しピリピリとした空気の中、昼食を食べていく。

 黒羽さんと不知火さんは、少し苛立ち気味、白神さんは、なぜか俺の方をチラチラと見てくる。



「………あっ、そういえば黒羽さん、俺に聞きたいことがあるって言ってたよね?」

「ん?あっ、そうだった。宮村くん、この前話してたバイトの件、どうなった?」

「そういえば話してなかったね。急で悪いんだけど今週の土曜日、だから、明後日だね。その日にバイトの面接があるから来て欲しいって。夕方くらいに来て欲しいって連絡もあった。」

「そう、なら、混んでなさそうな16時くらいに行こうかしら。」

「俺もその時間帯にしようと思ってたんだ。」

「そうなんだ、なら、16時にそのお店の前に集合しましょ。2人一緒に来た方がお店側としてもいいでしょうし。」

「そうだね。」

「くれぐれも遅刻しないように。」

「ははっ、分かってるよ。」



 俺と黒羽さんは、クスクスと笑い合う。



「………黒羽さんってよく喋るんだね。」



 その光景を見ていた白神さんからそんな言葉が出てくる。



「私、黒羽さんってもう少し無口……と言うよりも人と関わるのが苦手なのかなって思ってたんだ。」

「………まぁ、人と関わるのはそこまで好きではないわね。私の性格上、騒ぐことが苦手だから。」

「私もそこまで人付き合いは得意じゃないんだ。そのせいもあってまだ友達も多くないんだ。だからね、黒羽さん、私と友達になってくれたら……嬉しいな。」



 白神さんは、笑顔で黒羽さんにそう言った。

 黒羽さんは、少し笑って白神さんに向かって言った。



「あんまりうるさくしない、という条件でお願いね。」

「うんっ!」



 黒羽さんは、無口で人と関わるのが苦手な人だ。

 でも、決して黒羽さんは悪い人ではない。人の思いはちゃんと汲み取るし場の空気だって読んでくれる。困ってることがあると助けてくれる。こんな人が悪い人なわけが無い。

 それが不知火さんにも分かったのだろうか。お弁当箱に箸を置いて黒羽さんの方を見た。



「……黒羽さん、今さっきはごめんなさい。黒羽さんのことを考えずに咄嗟に思ったことを口にしちゃって……本当に悪いと思ってます。ごめんなさい。」



 不知火さんは、自分が黒羽さんにしてしまったことに対して素直に謝った。



「……私も悪かったと思ってる。あんなことを言われただけで少し腹を立て過ぎたわね。ごめんなさい。」



 黒羽さんも不知火さんに謝りお互いが頭を下げている状態だ。

 その後、2人で一緒に頭を上げる。そして、そのあと少しの沈黙。それから2人とも笑い合う。



「ふふっ、それじゃお互いに非があったってことで今回は水に流そっか。」

「ええ、そうね。」

「んでっ!由美と友達になったんだから私ともなってよね?」

「白神さんと一緒の条件を呑めるならね。」

「善処するわ。」



 2人は、何とか打ち解け合いその後、俺たちを置いて楽しそうな話をしている。



「……2人とも、元気取り戻せたみたいでよかったね。」



 白神さんは、俺に近づいて小さな声でそう言ってきた。

 それに応じ俺も小さな声で返答する。



「うん、そうだね。まぁ、でもあの2人だからそんなに心配してなかったけどね。」

「え〜、ホントかなぁ?」



 白神さんは、疑いの眼差しで俺を見てくる。



「ホントだって。というよりも白神さんも少しはフォローしてくれても良かったんじゃない?」

「ふふっ、私は信頼してたからね。」

「あっ、なんも出来なかったことを上手く利用した。」

「り、利用なんかしてないよ、もうぅ〜」

「ははっ」

「ふふっ」



(なんかこうしてると昔を思いだ……す……な?)

 俺と白神さんが笑い合っていると黒羽さんと不知火さんの視線がこっちに向いているのが分かった。



「ど、どうしたの?」

「………いやぁ、なんか2人とも、本当に仲がいいなぁ〜って思って。」

「「っ!?」」



 不知火さんの言葉の指摘にお互いの距離がものすごく近くなっていたことに気がつく。

 俺と白神さんは、慌てて戻り顔を真っ赤にする。



「宮村くんって白神さんと仲がいいのね。」



 黒羽さんは、少しニヤッとした表情で俺にそんなことを言ってきた。



「ま、まぁ、学級委員長同士だから、距離も近くなったっていうか……」

「でも、私よりも仕事的には少ないわよね?クラスの親睦会のこともほとんど終わっちゃったんだし。毎日、放課後残ってるわけじゃないのに。」

「ま、まぁ、馬があったんだろうな。」

「ふぅ〜ん、そっか。」



 話が終わっても黒羽さんのニヤニヤ顔は直っていなかった。

(自分がされた時にはあんなに怒ったのに……)



「っと、クラスの親睦会のことで思い出したことがあった。白神さん、急で悪いんだけど今日の放課後って残れる?」

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