第28話 1歩前進

 白神さんたちと『喫茶ブラン』で日曜に予定しているクラスの親睦会の最初に出す料理を選んだ翌日。

 俺は、いつものように星村さんと一緒に登校した。



「そういえば昨日はちゃんとメニュー決めれた?」



 登校途中、星村さんが俺にそう尋ねてきた。



「うん、白神さんと不知火さんのおかげで決めることが出来たよ。期待してくれ。」

「………私も誘ってくれなかったことに私は少しショックしています。」



 星村さんは、ショックしていることを表そうとしてか歩きながら指をつんつんと突っつきあっていた。



「悪かったって思ってるよ。でも、星村さんも家事とかあって大変だと思ったから。」

「むぅー、それでも1回だけでもいいから誘われたかった……」

「………今度お詫びするからそれで許して貰えないでしょうか?」

「………お詫びって?」

「星村さんがして欲しいことを俺が何でもひとつ聞くってこと……じゃ、やっぱりダメかな?」

「何でも………何でもか……じゃっ、それで。」

「いいの?」

「うんっ!」



 星村さんは、機嫌を直したのか指の突っつきあいを止めて普通に歩いていた。



「それで何をして欲しいんだ?」



 俺がそう言うと星村さんは、額に指を当て考えるポーズをとった。



「ん〜……色々として欲しいことがあって迷ってるけど……宮村くんって週末空いてる?」

「あ〜、今週の土曜はバイトの面接があるから潰れるな。日曜はクラスの親睦会があるまでは暇だけど……その後の週末はバイトをする予定だから……あんまり空いてる時間が無いかもな。」

「ん〜、日曜日は、クラスの親睦会までは空いてるんだよね?」

「ああ、そうだな。」

「じゃあ、日曜日に一緒に買い物について来て欲しいの!ちょっと遠くだから電車とか使うけど。」

「それならおやすい御用だよ。日曜日だね、分かった。」

「やったー!」



 星村さんは、学校に着くまでずっと機嫌よく鼻歌を歌っていた。

 そして、学校に着いた俺は自分の席にバックを置いて教科書とかを取り出す。

 だが、俺は隣の席の人から声を掛けられたことによってその手をすぐに止めた。



「ねぇ、ちょっといい?」

「ん?どうかした?」



 隣の男子生徒はほとんど話したことがない人だ。そんな人から急に声を掛けられて少し驚いたがすぐに冷静になり返事をした。

 その男子生徒の話の内容はまとめてるとさっき天海先生が学級委員長に手伝って欲しいことがあったらしくこの教室に来たけど俺はまだ登校していなかったのでもうすでに登校していた白神さんだけを連れて職員室へと向かった、ということらしい。



「そうなんだ、わざわざ教えてくれてありがとう。」

「別に構わないよ。クラスの親睦会、楽しみにしてるね。」

「ああ、期待しててくれ。」



 俺は、そう言って教室を出て職員室へと向かった。

 俺は、職員室に入り天海先生の机に行く。天海先生は、1人でパソコンの画面を見ていた。



「天海先生、もう仕事は終わりましたか?」

「ん?ああ、宮村くんでしたか。まだ仕事は終わってませんよ。」

「そうなんですか。白神さんだけを連れて来ているって話していましたが白神さんは?」

「203という教室で資料をまとめてもらってます。宮村くんにも手伝って貰えると嬉しいです。」

「分かってます。203の教室ですね。なら、そこへ行きますね。」

「あっ、ちょっと待ってください。資料はまだここにあるんです。今回はだいぶ多かったので白神さん1人で一気に持っていくのは大変かと思ったので何回かに分けてもらっているんです。」

「あっ、そうだったんですか。」

「っと、ちょうどよく白神さんもいまさっきの資料分の作業を終えたらしいですね。」



 天海先生のその声に職員室のドアの方に視線を向けると白神さんがちょうど入ってきたところだった。

 そして、俺たちのところへとやってくる。



「今さっきの分の資料はまとめ終わったので次の分をもらいに来ました。」

「うん、ありがとう。次からは宮村くんも手伝ってもらうからね。」

「ごめんね、白神さん。1人で仕事させちゃって。」

「う、ううん、どうせすることもなかったし大丈夫だよ。」

「それじゃ、2人とも頼んだよ。あっ、でも、ホームルームに遅れたらダメだからね。」

「分かってますよ。もし、終わりそうになかったら昼休みにします。」

「うん、そうしてくれると助かるよ。ありがとね。」



 天海先生からお礼を言われたあと、俺たちは残りの資料を全部持って白神さんが今さっきまで作業していた教室に向かった。

 その教室には既にまとめてある資料があったがものすごく綺麗にまとめてあり、白神さんが丁寧に仕事をしてくれたのが分かる。



「やっぱり白神さんってこういうのまとめるとものすごく丁寧にやるよね。」

「え?そ、そうかな?私は、普通にやってるつもりだよ?」

「これが普通にできるんだからそれは誇ってもいいと思うよ。」

「う、うぅ……な、何?急に……そんなに褒めてもなんにも出ないよ。」

「事実を言っただけなんだけどね。さてと、結構量があるな。」



 俺は、机の上に並べた資料を見る。1部、白神さんが終わらせてくれたとはいえ、まだまだたくさんある。



「この量はこの時間中には終わりそうにないな。」

「なら、昼休みもここに来ないとだね。」

「白神さんは、不知火さんたちとご飯食べるんだよね?別に無理して来なくていいよ。」

「……それって私がいたら……邪魔ってこと?」



 俺の言葉を変に受け取ってしまったのか、そんな誤解をしていて少し涙目になっていた。



「ち、違うって。俺は、白神さんが友達といる時間が少なくなるのは嫌かなって思って。」



 俺は、慌てて白神さんの誤解を解くため、身振り手振りを混ぜながらそう説明していく。



「そ、そっか。……なら、私が手伝いに来てもいいの?」

「う、うん、来てくれるとありがたいけど……いいの?」

「いいの。だって……別に友達と一緒にいる時間が減るわけじゃないよ?」

「ん?それってここに連れて来るってこと?」

「それもいいけど………私と宮村くんって……その………友達……なんでしょ?なら、友達と一緒にいる時間は変わらないよ。」

「っ!………そ、そっか。」



 俺は、白神さんからそう言われて心臓が大きく跳ねたのが分かった。

 俺は、嬉しいと素直に思ってる。

(まぁ、婚約宣言にはだいぶ遠いけど……俺と白神さんの関係も1歩前進かな。)



「それじゃ、さっそく残りの作業に入ろっか。」



 俺たちは、それから持ってきた資料をまとめる作業に入るのだった。

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