第26話 間接キス

「…………でお願いします。」

「はい、かしこまりました。少々お待ちください。」



 佐藤先輩は、そう言って頭を下げると俺たちのテーブルから離れてキッチンの方へ向かった。

 俺たちは、クラスの親睦会の最初に出してもらうメニューを決めた後、少し雑談で時間を潰した。それからちょうどいい時間帯になると夜ご飯を決めて頼む。



「今日は本当にありがとうね。俺だけだったらたぶん当日不満を持つ人もいたかもしれないから本当に助かったよ。」

「ふふっ、何言ってるのよ。私は自分がついてきたいって言ったからお礼を言われるような事じゃないわよ。」

「私は、まだ仮だけど学級委員長だからね。来るのは当然だし………宮村くんのお手伝いをするのも当然……だよ。」

「っ………そ、そっか。あはは、そっか。」



 白神さんの恥ずかしそうにしている様子は、ものすごく可愛らしくドキッとしてしまった。

(はぁ、やっぱりダメだ。まだ白神さんを意識してる。)



「………今さっきからずっと思ってたんだけど由美と宮村くんって仲良いの?」

「「えっ!?」」



 急に不知火さんからそんなことを言われ俺と白神さんは、同時に驚きの声を上げる。



「な、なんで!?」

「そ、そうだよ!なんで急にそんなこと言うの!?」

「いや、だって今さっきから時々2人だけで仲良さそうに話したりする時もあれば目が合っただけで頬を赤らめる時もあるから私が思っているよりも仲がいいのかな〜って。」

「そ、それは………」

「………そう思ってくれたのなら恥ずかしいけど嬉しいよ。俺と白神さんが仲良くなれたってことだからね。」



 俺は、1度冷静になって変な事を言わないように気をつけながら不知火さんにそう言った。



「由美がこんなにすぐに仲良くなるのは本当に珍しいから驚いちゃったわ。しかも男子となんてね。橋村ともまだそんなに仲良く会話できないわよね?2人っきりで話してるところなんて見たことないし。」



 俺は、その言葉を聞いた瞬間、2人にバレないように膝の上でグッと拳を握りしめた。

(よしっ!勝った!)

 何に勝ったのかは俺も知らないがそんな気分になった。



「そ、それは………宮村くんだと何だか落ち着くっていうか………話しやすい……から……」



(あー、何?その可愛らしい上目遣いは。今すぐに昔のことを話してしまいたくなるじゃん!)



「あ〜もうっ!本当に可愛いんだから!由美は!」



 俺が拳を握りしめて自我を保っていると白神さんの隣に座っていた不知火さんが突然白神さんを抱きしめてそんなことを言った。



「きゃっ!も、もうっ!ここは他のお客さんや店員さんもいるし目の前に宮村くんだっているんだよ!」



 白神さんは、顔を真っ赤にして俺の方をチラチラと見ながらそう言って不知火さんを離していた。



「ちぇ〜、ケチー。」



 不知火さんは、頬を膨らませて白神さんから離れた。

 とそこで注文していた食事が運ばれた。

 俺はカレー、白神さんは海鮮パスタ、不知火さんはオムライスだ。



「それでは失礼します。」



 食事を運んできた佐藤先輩は、そう言って頭を下げると奥の方へと下がっていった。



「ふわぁ〜、美味しそう〜。」

「ん〜、いい匂い。ねぇ、由美、私のオムライス半分あげるから由美のパスタも少しちょうだい。」

「うん、いいよ。」



 女子たちは、楽しそうに食事を眺めていた。

 まぁ、食べ方は人それぞれだが、俺は冷めないうちに食べたいので早速いただくことにした。



「いただきます。」



 俺は、合掌をしてからスプーンでカレーを掬い食べる。

(うん、美味しい。)

 ピリッと口の中を刺激し、程よい辛さだ。



「…………宮村くん、そのカレー、美味しい?」

「ん?……んくっ……うん、美味しいよ。」

「1口、貰ってもいい?」

「うん、いいよ。はい。」



 俺は、カレーが入っている器を不知火さんの方に渡す。

 不知火さんは、俺にお礼を言ってからスプーンで掬い食べる。



「あ………」

「………ん〜、美味しい〜。って、どうかした、由美?」

「え、えっと………ううん、やっぱり何でもない。」

「あっ、もしかして由美もカレーが欲しくなった?」

「ち、ちがっ………や、やっぱり貰おうかな。」



 白神さんは、何故か俺の方をチラチラと見ながらそう言った。

(ん?なんだ?……って、そっか。)



「どうぞ、遠慮なく食べていいよ。」

「う、うん、じゃあ貰うね。」



 白神さんは、恐る恐るといった感じでカレーを食べる。

(うん、やっぱり俺からの許可がないから遠慮してたのか。でも、なんでこんなにオドオドしてるんだ?それにいつまで経っても口からスプーンを離さないし。)

 カレーを食べてる白神さんの頬は少しずつ赤くなっていく。



「し、白神さん、大丈夫!?辛かったかな?はい、水!」

「え?あ、え、えっと……う、うん、貰うね。」



 白神さんは、俺から水を受け取るとそれを一気に飲み干す。

(俺の飲みかけだったから足りなかったかな?)



「白神さん、大丈夫?水貰おっか?」

「う、ううんっ!大丈夫!あ、ありがとう、宮村くん。」

「分かった。というかこれ、そんなに辛かった?もしかして、白神さんって辛いの苦手?」

「う、う〜ん……好きではないかな。」

「そっか。今度からは気をつけるね。」

「わ、私の方こそごめんね。なんか変に気を配らせちゃって。」



 と、そこで今の光景を見ていた不知火さんが白神さんに向かって話しかけた。



「もしかして由美、間接キスを意識してるの?」

「っ!」

「っ!?」



 白神さんは、図星だったのか頬を今さっきよりもさらに赤くさせた。

 俺も間接キスという単語を聞き、顔を熱くした。

(そ、そっか。確かに俺の口をつけたスプーンで食べたから間接キスになる……のか。)



「そ、それは………え、えっと……」

「まぁ、安心しなさい。そのスプーンであんたの前に食べたのが私だから私と間接キスしたことになるから。」

「え?………あ、そ、そっか。………むぅ」



 不知火さんにそう説明されて何故か少しだけ不服そうにしている白神さんだった。



「あ、でも、そのコップの水は宮村くんのよね?私たちはお茶だから。」

「あ、う、うん、そうだね。お茶よりも水の方がいいかなって思ってそうしたんだけど………ごめんね、白神さん。不快な思いさせちゃって。」

「う、ううんっ!私は、全然出来にしてないから!」

「そ、そっか。」



(なんか気にしてないって言われるのも辛いな。男として見られていないような感じがする。)



「み、宮村くん、はい、返すね。」

「あ、うん、ありがとう。」



 カレーの皿とスプーンを受け取ったのはいいもののこれ、使っていいのかと思ってしまう。

 そんなことを思っていると不知火さんが小皿を店員さんに頼んで貰っていた。

 そして、その小皿に自分のオムライスを1口分くらい乗せて俺に渡してきた。



「はい、宮村くんも私のオムライスを食べていいわよ。カレーのお礼。」

「ありがとう、それじゃ貰うね。」



 俺は、お礼と言われてしまい遠慮なく貰った。

 すると白神さんがなんかオロオロとし始めた。



「わ、私もお礼しなきゃ。ねぇ、茜ちゃん、もう1枚小皿貰えない?」

「ごめんね、今ので最後って言われちゃったの。」

「あっ、そ、そうなんだ……それじゃ仕方ないね………なら、宮村くん、はい。」



 白神さんは、そう言って俺に海鮮パスタの乗った容器とフォークを俺に渡してきた。



「ありがとう、それじゃ貰うね。」



 俺は、遠慮してても仕方ないと思い最初にパスタを食べた。



「おおっ!このパスタも美味しいな。」

「なんか、宮村くんって本当に美味しそうに食べるわよね〜。ねぇ、由美、私も貰っていい?私のオムライスも少しあげるから。」

「ちょ、ちょっと待って。わ、私も食べたいから先に自分のを食べよ?まだ茜ちゃんも自分のオムライスに手をつけてないでしょ?」

「確かにそうだったわ。」



 白神さんに説得された不知火さんは、自分のオムライスを食べ始める。



「白神さん、ありがとね。パスタ、すっごい美味しかったよ。」

「う、うん、どういたしまして。私も早く食べよ。」



 俺が白神さんにパスタの乗った容器とフォークを返すと白神さんは、また恐る恐るといった感じでパスタを食べ始めた。

 でも、今度は食べてから顔が真っ赤になることはなかった。

(白神さんも俺の食べたフォークで食べてるんだから俺が気にしてたら申し訳ないよね。)

 俺は、少し躊躇いがちになってしまったがカレーを食べていった。

 その後、特に問題もなくみんなで楽しく話しながら夕食を済ませた。

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