第25話 憧れ
『喫茶ブラン』へとやってきた俺たちは、早速お店の中へと入る。
「いらっしゃいませ〜。」
お店の中に入るとすぐに明るい声で出迎えてくれる。そして、俺たちを案内するためにやってきたのは佐藤先輩だ。
「あっ、宮村くんだ。待ってたよ。」
「忙しい時にすいません。」
「ううん、あっ、一旦案内するね。」
俺たちは、窓際の席へと案内される。
「メモ帳とか持ってくるから最初のメニューは何にするか選んでね。」
「はい、分かりました。」
佐藤先輩は、そう言って奥の方へと向かっていった。
「さ〜って、何がいいかな〜。2人は何がいいと思う?」
「……………」
「……………」
(あれ?反応がない?)
俺は、無視されたことに少しだけショックを受け2人を見た。
でも、2人は意図的に俺を無視したわけでは無さそうだ。
2人は、心ここに在らずという感じで目を点にして俺を見ていた。
「ど、どうしたんだ、2人とも?」
「………あー……いやー………ってかなんで宮村くんが佐藤先輩と親しげに話してるの!?」
「うわっ!びっくりした。」
不知火さんが急に大声で話すから俺は驚いてしまった。
「な、なんでって……なんか普通に?」
「ふ、普通って……あんた、あの人がどんな人が知ってるの?」
「生徒会の役員ってことは知ってるよ。」
「生徒会長よ!生徒会長!あの容姿で生徒会長、しかも成績も優秀で定期考査じゃ毎回1位。模試なんかでも全国トップレベルって聞いたことがあるわよ。」
「へぇ、そうなんだ。」
「………なんか素っ気ない反応ね。」
「いや、まぁ、実際驚いてるよ。でも、すごい人なんだろうな〜ってことは薄々感じてたよ。」
「はぁ〜……というよりも入学式で挨拶してたでしょ?気づかなかったの?」
「あ、う、うん、入学式はちょっと緊張してて……」
(言えない。白神さんのことが気になってて入学式に全く集中出来なかったなんて。)
「そっか。まぁ、確かにああいう式は結構緊張するもんね。はぁ、いいな〜。あの佐藤先輩と仲がいいなんて。」
(よかった。何とか誤魔化せた。)
「まぁ、それは話していくうちに打ち解けていくから。それよりも先になんにするか決めよ。」
「おっと、そうだったわね。私が思うに最初はオーソドックスなものを頼んだ方がいいと思うの。いきなり奇をねらったものだと後々残って冷めちゃったものを食べることになるからね。」
「まぁ、そりゃそうだよな。白神さんはどう思う?」
「う〜ん………私はいきなり油っこいものを最初に食べると後に響くかも知れないから最初はあっさりとしたものがいいかも………って思ってるんだけどどうかな?」
「あ〜、確かにそうだね。女子ならなおさら。」
2人の意見は、ものすごく参考になる。もし、俺だけだったらきっと唐揚げとかパスタとかピザとか結構キツそうなものを頼んでいたと思う。
「それじゃ………最初はサラダメインかな?」
「それだときっと野菜が苦手な人が食べられないと思うからシーフード系も入れたら?」
「あとポテトとかならみんなで食べられるし胃もたれとかなさそうだからいいと思う。」
「なるほど。それじゃ………」
そのあとも色々と最初のメニューについて決めていった。
そして、区切りがいい所に佐藤先輩がやって来た。今さっきからこっちをチラチラと見ていたのでおそらく気を使って俺たちがメニューを決めるまで待ってくれていたのだろう。
「メニューはお決まりになりましたか?」
「は、はいっ!」
今さっきまで楽しそうにメニューを選んでいた不知火さんがガチガチに固まって返事をしていた。
佐藤先輩は、そんな不知火さんを見てクスクスと笑うと「それではお伺い致しますね。」と促した。
「あっ、えっと……え〜っと……」
不知火さんは、焦りすぎてどれを頼もうとしたのか忘れたらしい。
「あ、茜ちゃん、これだよ。」
白神さんは、今さっき決まったメニューをまとめたメモ帳を不知火さんに渡す。
だが、それでもまだ焦っているようで上手く口が回っていなかった。
(ははっ、どんだけ緊張してるんだよ。仕方ない、頑張ろうとしてる不知火さんには悪いけどこれ以上続くと佐藤先輩が困ってしまうので俺がやるとしよう。)
「すいません、この大盛りポテトを3つとシーフードサラダを2つ、若鶏の唐揚げを4つを最初のメニューで出して下さい。」
「……はい、かしこまりました。お飲み物は飲み放題とのことですが最初に頼んでおきますか?」
「飲み物ですか……それじゃ、オレンジジュースとりんごジュースを半分ずつ用意しておいてください。」
「はい、オレンジジュース17、りんごジュース17……ですね。かしこまりました。」
「あ、あと、ホットコーヒーを今、注文したいんですがいいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ホットコーヒーですね。他のお二人はなにか頼みますか?」
「あ、え、えっと……私も宮村くんと同じもので。」
「えっと………私は紅茶をください。」
「はい、かしこまりました。では、ご注意を繰り返しますね。」
佐藤先輩は、注文を繰り返した後、奥の方へと下がっていった。
佐藤先輩が下がっていったのを確認した不知火さんは、テーブルの上に突っ伏した。
「はぁ〜、緊張した〜。宮村くん、フォローありがとね。」
「別に気にしなくていいよ。逆に俺の方こそごめんね。せっかく佐藤先輩と話せる機会だったのに。」
「ううん、きっとあのままだったら先輩に迷惑を掛けてたかもしれないから本当に助かった。」
「まぁ、緊張するのも分かるけど程々にね。」
「うん、次からはもっと自然に話せるようにする。」
「白神さんは、あんまり緊張してなかったね。」
俺は、不知火さんの反応を面白そうにクスクスと笑っている白神さんに話し掛けた。
「あ、う、うん、私、緊張するのは慣れてるからね。」
「確かに由美は、よく緊張してるわよねぇ。特に高校に入ってからなんか毎日緊張してるって感じ。」
「え!?そ、そうかな?」
「う〜ん、なんか緊張してるのを隠してるってのも少し感じるかな。」
「へぇ、そうなんだ。やっぱりずっと一緒にいる不知火さんは、よく白神さんのことを把握してるんだね。」
「そりゃ当然よ。中学からの親友なんだから。小学生も一緒だったらもっと仲良くなれたのになぁ。」
「ははっ、羨ましいな。俺には親友って呼べる人なんてまだいないからね。ちょっと憧れる。」
「……………」
俺がそんなことを言うと白神さんが少し寂しそうな目でこちらを見つめてる気がするが……恐らく気のせいだろう。
俺は、正直白神さんが俺のことを覚えてくれてるという希望を持たないことにした。希望を持つだけ虚しくなるだけだから。
その後、頼んでおいたドリンクが運ばれてきてそれを飲みながら3人で雑談をした。
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