第23話 高嶺の花の手作り弁当

 火曜日の昼休み。

 俺は、いつものように購買でパンを買って最上階の空き教室の中に入った。

 でも、今日はいつもと違ってその教室の中には1人、見知った女子の姿があった。



「黒羽さん、待たせちゃったみたいでごめんね。」

「いいわよ、そんなに待ってないし。パン買えた?」

「一応買えたけどこれしかなかったんだ。」



 俺は、そう言って今日買えた一つだけのパンを黒羽さんに見えるように机の上に置いた。



「今日は、いつもよりも人が多かったからね。」

「そっ、なら良かった。」



 黒羽さんは、そう言って引き出しの中から黒羽さんの弁当よりも一回り大きい弁当を取り出した。



「はい、あなたの分。」

「…………え!?俺の分!?」

「そう。どうせ今日もパンだろうと思ったから作っておいたの。」

「え、ええっ!?そこまでしてもらうなんて悪いよ!」

「いいのよ、1つ作るのと2つ作るのは仕事量して変わらないし。それにもし、あなたが食べなかったらこれ、捨てることになるわよ。」

「うっ……それはもったいないな。」

「でしょ。だから、遠慮なく受け取って。」

「でも、やっぱり無償で貰うのは………」

「はぁ、分かった。なら、500円ちょうだい。それでいいわ。」

「500円でいいの?」

「いいわよ。そんなにお金かかってないし。食材費と手間賃で500円くらいでちょうどいいわよ。」

「わ、わかった。」



 俺は、それで納得して財布の中から500円玉を取り出し黒羽さんに渡す。



「今後も作ってこようと思うけどいい?」

「あ、うん、ちゃんと500円は払うね。」

「はいはい。それじゃ、早速食べましょ。」



 俺たちは、合掌をした後、弁当箱を開く。

 弁当の中身は黒羽さんと全く一緒。

 卵焼き、赤ウインナー、唐揚げ、ほうれん草の和え物。ご飯の上には梅干しが乗っている。

 昨日も思ったが、黒羽さんの弁当は彩りもよく食欲をそそる。



「おお、美味しそう。」

「口に合えばいいけどね。ちなみに宮村くんって嫌いな物ある?」

「ううん、ないよ。じいちゃんから、武道家たるもの好き嫌いをせずに食べろってしつけられてるからね。」

「そういえば宮村くんって武道も経験があるんだったわね。でも、武道って言っても色々あるわよね?何をやってるの?」

「一応全般やってるよ。じいちゃん流だけど。」

「へぇ、すごいわね。」

「全然だよ。まだじいちゃんに1度だって勝てたことないんだから。」

「私が言ったのは何かをやろうって思える気持ちに対してすごいって言ったの。何かをやるには大きな一歩を踏み出さなきゃいけないからね。」

「そうなんだ。でも、そんなにすごい事なのかな?」

「ええ………本当にすごい事よ。」



 黒羽さんは、少し意味ありげにそう言った。

 なにか事情があったんだろうけど……黒羽さんは、そういう事を聞かれるのは嫌そうなので何も聞かないでおく。



「ところでなんで宮村くんは、武道をしようと思ったの?」

「あ……えっと……それは……」

「あ、もしかして、これって聞いたらダメだった?」

「いや、ダメなことは無いけど………」

「なら、教えてよ。」



 黒羽さんは、すごく楽しそうな顔をして俺にそう言った。

(少し恥ずかしいけど……まぁ、黒羽さんとは友達になったんだしいいか。)



「えっと……す、好きな女の子のため……かな。」

「へぇ〜、好きな女の子のためか〜。かっこいい所でも見せようとしたの?」

「いや、俺がその子を好きになったのは小学校の低学年くらいでまだこの街にいた時なんだ。それで俺が引越しをする時に離れることになったんだけどその時に強くなって戻ってくるって約束したんだ。その時の俺は強くなるってことがただ単純に体を鍛えるってことしか分からなかったから武道をすることにしたんだ。」

「そうなんだ。それで、その女の子とは再会出来たの?」

「まぁ、会えたのは会えたかな。でも、相手が俺のことを覚えてないみたいなんだ。」

「あ〜、そういう感じなんだ。でも、会ったのは会ったんでしょ?いつ会ったの?」

「え、えっと………ま、毎日……かな。」

「毎日………ってことはクラスメイトってことね。」

「名推理!?」

「いや、これくらい少し考えたら分かる事よ。でも、本当にクラスメイトなんだ。それで誰なの?」



 黒羽さんは、少しニヤニヤとしながら俺にそう聞いてきた。



「それは言えないよ。さすがに恥ずかしいし。」

「ええ〜、いいじゃない。教えてくれたら私もなるべくサポートするわよ?」

「いや、そういうことをされるのが恥ずかしいからいい。」

「ケチ。」



(いや、ケチって。)



「あっ、それなら私と一緒にこうやって弁当を食べてるのは少しまずくない?」

「え?そうかな?」

「だって、その人、この学校にいるんだから私と宮村くんが2人で昼食を取ってるってなったら誤解されるでしょ?」

「う〜ん………まぁ、その時はその時でちゃんと説明すればいいよ。この時間も俺にとっては大切だからね。せっかく黒羽さんと話すことが出来るんだから。」

「…………そう。」



 黒羽さんは、照れたみたいだが、それを隠すように顔を逸らして頷いてくれた。



「まぁ、宮村くんがいいって言うなら次からも遠慮なくここに来るわね。」

「ありがとう。」

「なんであなたがお礼を言うのよ。やっぱり、変な人。ふふっ」



 黒羽さんは、いつも無表情という訳では無いが明るいとは言い難い表情だ。

(なんというか高嶺の花みたいで近寄り難い雰囲気を持っている。だから、みんなも近づきにくいんだろう。)

 でも、そんな黒羽さんだからこそなんだろう。時折見せる笑顔が本当に目を引くのだ。



「あんまりじっと見ないで。」

「あっ、ごめん。」



 その後、黒羽さんと楽しい会話をしながら昼休みを過ごしていったのだった。

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