第21話 昼食
午前の授業を全て終えた俺は、売店でパンを買う。
「毎日昼食がこんなパンだってじいちゃんが知ったら説教くらうな。」
俺は、昔じいちゃんに叱られていた時のことを思い出し、苦笑する。
パンを買った俺は教室には戻らずこの校舎の最上階まで行った。
そして、その階の1つのもう使われていない教室のドアを開ける。そこには人影など1つもない。
ここは俺が毎日、昼食だけ食べるために使っている教室だ。
「はぁ、早く昼食を一緒に食べてくれるような友達を探さないとな。」
と言ってもそろそろ学校生活が始まって1ヶ月が経つ。ある程度グループが出来ている。
俺は、学級委員長の仕事をしていて忙しかったのでそういうグループ関係を築けていないのだ。なので必然的に俺は、孤立してしまった。
教室で食べるのもいいのだが1人だけ孤立してしまうと気を遣わせてしまうのが嫌だったので場所を変えたのだ。
「さて、ぼっち飯といきますか。」
「あなただって友達いないんじゃない。」
「え?」
俺は、買ったパンの袋を開けると同時に声を掛けられてしまった。
少し聞き慣れたその声は俺の想像通りの人物だった。
「黒羽さん、どうかしたの?」
「購買でパンを買ったのに教室に戻らずにどこかに行っていたから少し気になったのよ。それで付いてきてみたらあなたもひとりでご飯だったなんてね。」
「はは、一緒にご飯を食べる友達がいないもんでね。」
俺は、乾いた笑みを浮かべてそう言った。
「はぁ、だったら、声を掛けてよ。私だってひとりってこと知ってるでしょ?」
「え?一緒に食べていいの?」
「一応あなたは私の……その……友達だからね。」
「お、おお………」
「何よ……」
「いや、黒羽さんから友達って言って貰えて少し感動してる。」
「全く……バカじゃないの。」
照れた顔でバカと言われてもバカにされてる気はしない。むしろ可愛いと思うくらいだ。
「それじゃ、一緒に食べよ。」
「はいはい。」
黒羽さんは、机を迎え合わせにするようにくっ付けて机の上に弁当箱を置いた。
「黒羽さんは、弁当なんだね。」
「ええ、そっちの方が栄養もいいしお金も安く済むからね。宮村くんは、ずっと菓子パンなの?」
「俺、あんまり料理が得意じゃないからね。でも、黒羽さん、弁当ならなんで購買に来たの?」
「購買に行ったわけじゃないわよ。飲み物がなかったから自販機で買って帰る時にちょうどあなたを見つけたの。」
「あっ、そうなんだ。」
「それよりもあなた、それでちゃんと栄養取れてるの?まさかとは思うけど朝、昼、晩、3食まさかそんな物じゃないでしょうね?」
「いや、さすがに朝と夜はしっかり栄養のあるもの食べてるよ。まぁ、今日の朝は、時間が無くてパンとヨーグルトだけだったけど。」
「それじゃ、なおさらちゃんとしたものを食べなさい。ほら、私のおかず、少し分けてあげるから。」
「いや!さすがにそれは悪いよ!弁当箱、すっごい小さいから俺が食べたら足りなくなるでしょ?」
「私は、これで満足と言うよりも少し多いくらいなのよ。だから、食べてくれた方が私としても助かるわ。」
「そういうなら……ありがたく貰おうかな。」
俺がそう言うと黒羽さんは、弁当の包みを外して蓋を開ける。
弁当箱の中には綺麗におかずが盛り付けられている。それにおかずの色の配布もよくてさらに食欲をそそる。
「黒羽さんって料理が上手なんだね。」
「毎日3食作ってたら少しは上達するわよ。適当に摘んでいいからね。」
「ありがとう。まぁ、でも最初はこの買ったパンを食べることにするよ。」
俺は、そう言って買ったパンにかぶりつく。
黒羽さんも自分の弁当を食べ始める。
そして、5分ほどで俺のパンはなくなってしまった。
「ほら、遠慮しないで食べなさい。」
「あ、うん、それじゃ……って、そういえば俺、箸がなかった。」
「はい、割り箸があるからこれを使って。」
「黒羽さんって用意周到なんだね。ありがとう。」
「もし、箸を忘れたらいけないと思っていつも予備として持ってるのよ。」
「そうなんだ。それじゃ、貰うね。」
「はい。」
黒羽さんは、俺が取りやすいように少し弁当を前に出してくれた。
俺は、箸を伸ばしたもののどれを取ろうかと迷ってしまう。
どれも美味しそうなのだがもし、俺が取ったやつが黒羽さんの食べようと思っていたやつならどうしようかと思ってしまい箸が動かなくなってしまった。
「何やってるの?」
「い、いや、どれを取ったらいいんだろうって思って……」
「あなたって本当に心配性ね。なんでも取っていいから。」
「そ、それじゃ、この卵焼きを貰うね。」
「まだ数が残ってるやつを選んだわね?」
「ギクッ!」
「全く……まぁ、いいわ。」
「そ、それじゃ、食べるね。」
俺は、黒羽さんのジト目から目を逸らして卵焼きを一口で食べた。
その卵焼きの味つけは砂糖だったのだろう。結構甘い。
でも、甘過ぎって程ではなくほんのり甘いって感じで美味しい。
「うん、美味しい。」
「味付けは砂糖だったけど大丈夫だった?」
「うん、甘いのは好きってほどではないけどこれは美味しかったよ。」
「そう、それは良かった。まだ食べていいからね。」
「う、うん、ありがとう。」
俺は、そのあとも黒羽さんの弁当を食べさせてもらった。
黒羽さんもちょくちょくは食べていたがほぼ俺が食べたと言ってもいいって程に貰ってしまった。
「ご、ごめんね!なんか俺、いっぱい食べちゃって!」
「いいわよ。私が食べろって言ったんだから。」
「なにかお礼するよ!」
「別にいい……」
「絶対にする!」
俺は、黒羽さんの言葉を遮り強く念を押すようにそう言った。
「………うざっ」
「え!?」
黒羽さんの次に出た言葉は俺の想像していたもとは遥かに違っていた。
(あれ?これって普通、感謝されたりするんじゃないの?うざって、何?)
「あっ、ごめんね、宮村くん。私、うざいって思った人には素直にそう言うから。」
「あれ?それってフォローなの?それとも俺を貶してるの?」
「ん〜、どっちかで言うと貶してる。」
黒羽さんは、女子らしい可愛らしい笑顔を浮かべたまま、そう言い放った。
「今どきの女子高生ってこんなに毒舌なの?」
「そんなの人それぞれよ。私は、思ったことは素直に言うから。」
「それで俺は今、黒羽さんにとってうざい人なんだ。」
「まぁ、それもあるけど変な人とも思ってる。」
「あれ?それも貶してる?」
「いや、これは単純にそう感じただけ。貶してはいない………はず?」
「何故そこで疑問形なのか……はぁ、まぁ、いいや。たとえ俺がウザがられても絶対にお礼はするから。武道をやってる者として恩をそのまま放置するわけにはいかないからね。」
「本当にいいって。だって、私の方がこれを恩返しのつもりと思ってるからね。」
「え?」
「黒羽さんが俺に恩返しって俺、何かやったっけ?」
「私にバイト場所を紹介してくれたでしょ?そのお礼。」
「え!?いやいや!あれは偶然だから!たまたま黒羽さんがバイトを探してるって言ってるから誘っただけだよ。」
「それでも私はそれを恩と思った。だから、返しただけよ。だから、気にしなくてもいいの。」
「う〜ん、なんかまだ納得出来てないけど………分かった。」
俺は、まだ心の中にモヤモヤを感じつつも納得するしかなかった。ここで俺がまだ引きずってしまうと本当にウザがられて嫌われてしまいそうだからな。
その後、昼休みが終わるまで俺と黒羽さんは雑談をするのだった。
そして、昼休みが終わる間際。
「宮村くんは、明日からもここで昼食を食べるの?」
「うん、そのつもりだよ。」
「それじゃ、私も明日からここに来てもいい?」
「あ、うん、もちろん!」
そういったところで昼休みが終わったことを知らせるチャイムが鳴った。
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