第20話 意識

 俺は今、ものすごく緊張しているかもしれない。

 休日明けの月曜日。

 いつもよりも早い時間に起きてしまった。昨日の夜からずっとドキドキしているのだがいまだに治らない。

 その理由はちゃんと理解している。

 こっちに引っ越してきてからまだ1度も話したことのないゆっちゃんと今日、必ず話すことになるからだ。

 先生からはゆっちゃんも仮の学級委員長をやってくれると言ってくれたので学校を休むなどのことをしないと話すことを回避するのは無理だろう。

(ふぅ、まず一旦落ち着こう。そうだ!朝早く起きたんだからシャワーでも浴びてこよう。)

 俺は、そう思い浴室でシャワーを浴びる。

 少しは落ち着いたと思うのだがやはりまだドキドキしている。



「って、もうこんな時間か。」



 時計を見ると起きてから結構時間が経っていた。

 慣れていないことをしたからだろう。

 俺は、ちょっと急ぎめに朝ご飯の準備をした。準備とはいってもパンをトースターに入れて終わる作業だ。

 そして、パンが焼き終わる前に制服に着替える。

 着替え終わったと同時にトースターがパンを焼いたことを知らせる音が鳴った。

 俺は、そのパンを取りだしバターを塗って5分程で食べる。

(やっぱりこれだけじゃ体には悪いよな。)

 そう思った俺は、ヨーグルトを取り出してそれも食べた。

 いつもはもう少し時間があるので卵を焼いたり野菜を用意したりしてるので、これだけの食事は今日が初めてだ。

 というよりもこんな朝ご飯を毎日食べてたらじいちゃんに怒られてしまう。

 ヨーグルトを食べ終わった俺は、歯を磨いてトイレを済ませて家を出る。



「「行ってきます。」」



 声が重なった。

 俺が言った挨拶よりももっと張りのある元気の良い挨拶だ。正直声が重なったと言ってもほぼ俺の声など聞こえなかっただろう。

(そもそも伝える相手はいないし。)



「あっ、宮村くん!おはようございます!」

「星村さん、おはよう。今日も元気いっぱいだね。」

「はいっ!朝から気分が落ちてたら1日堕落した気分になるかもしれませんからね!」

「ああ、そうだな。」

「ん?でも、宮村くん、少し顔が赤いですけど大丈夫ですか?もしかして風邪ですか!?」

「い、いや!そ、それはないから!大丈夫だよ、俺も元気だから。」

「…………一応熱は測っていきましょう!無事だと言うならそれを証明してからです!」

「………分かった。」



 ここで言い争っては時間を無駄に消費してしまうだろう。それなら素直に熱を測って、無事だと証明した方が早い。

 俺は、星村さんに家の中に連れられて熱を測った。結果は平熱であって星村さんは安心してくれた。星村さんのお父さんもお母さんも心配してくれたが俺が熱がないと分かるとホッとしていた。

(こんな他人のことを心配してくれるなんて本当にいい人だ。)

 俺に熱がないってことが分かり、俺たちは、少し急ぎめに学校へ向かった。

 そして、ホームルーム後、先週、先々週と同じく俺とゆっちゃん………いや、白神さんが天海先生から廊下へ呼ばれた。



「それでは最後の仮の学級委員長、白神由美さんです。」

「…………ふぅ………俺は、宮村賢治。白神さん、まだ決まってないけど今週の1週間だけ、よろしくね。」



 俺は、少しゆっくり呼吸をしてから白神さんに挨拶した。



「う、うんっ!よろしくね!」



 白神さんは、やはり慣れていない男子だからか少し緊張気味に話していた。

 よく白神さんの近くにいる男子とは親しげに話しているのできっと男子と話すのは慣れていないのだろう。



「それでは宮村くん、仕事の説明お願いします。」

「はい。えっと、今の仕事は………前まではクラスの親睦会のことについてやっていたけどある程度その仕事も終わったから……特にこれといってやることはないな。天海先生、なにかして欲しい仕事とかありますか?」

「今は特にありませんよ。」

「ということなので前までみたいに放課後残ってもらう必要はないよ。」

「そ、そうなんだ………」



 白神さんは、俺の言葉に返事をしたが少し悲しそうな表情を浮かべたみたいだった。



「あとは時々先生に資料を運ぶのを手伝うくらいかな。あっ、それと白神さん、今週の水曜日の放課後、空いてる?」

「え?水曜日の放課後?」

「一つだけまだ残ってる仕事があるんだ。クラスの親睦会で使うお店にお礼を言うのと最初に出してもらうメニューの確認をしなくちゃいけない。もし、無理なら俺一人でもいいけど……どうする?」

「っ!行く!絶対に行く!」

「お、おお、そうか。」



 白神さんは、前のめりで俺に「行く」と主張してきた。

(か、顔が……近い……)

 俺は、自分の顔が熱くなることが分かった。

 次いで白神さんの顔もみるみるうちに赤くなった。自分がどれだけ俺に顔を寄せたのか理解したのだろう。



「〜っ!……ご、ごめんね!顔、近かったよね!」

「い、いや、大丈夫。そ、それじゃ、水曜日はそういうことで。」

「わ、分かった。」

「あっ、悪いけどやっぱり今日か明日も残ってくれない?クラスの親睦会で使う予算を再度確認したいから。」

「わ、分かった。それじゃ、今日で……いいかな?」

「うん、じゃあ、今日の放課後残っててくれ。」

「う、うん。」



 白神さんは、少し嬉しそうに頷いて教室へと戻った。

 そして、俺も教室へ戻ろうとした時、先生から袖を引っ張られた。



「なんですか?」

「宮村くんってもしかして、白神さんと喧嘩でもしたんですか?」

「え?な、何でですか?」

「いえ、2人とも、あんまり目を見て話さなかったので。白神さんは、きっと男性と話すのは得意そうでは無いと思うので理解出来るのですが宮村くんは、星村さんとも黒羽さんともちゃんと目を見て話してましたからね。」

「い、いえ、別に喧嘩はしていません。白神さんとは………昔、少しありまして意識しているのは確かです。でも、喧嘩なんかはしてませんので安心してください。」

「そうですか。なら、良かったです。それでは、白神さんとも仲良く学級委員長頑張って下さいね〜。」



 先生は、そう言って去っていった。

(…………やっぱりまだ意識してしまっていたんだな。)

 俺は、自分のこぶしをギュッと握りしめて教室へ戻った。

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